駿河国、徳川軍。
「流石は真田軍ね。武田から移り変わってから勢いこそなくなったものの、安定の強さは相変わらずだわ」
「はい。しかし大将の真田幸村は麒麟児とはいえまだまだ未熟。しかも、信濃の前線に出されていて、軍に統制力がない。代理を務める昌幸は太閤に妖怪変えられたせいで、むしろその圧倒的な存在感が消えましたからね。耐えに耐え抜き、新編成させた超徳川軍に死角はありません!
ふっくっくっくっく.....」
徳川軍と合流した信奈との会話である。
「姫、真田昌幸が戦線を離れたとのこと」
突如現れた服部半蔵がそう伝える。
「ふっくっくっくっく!ついに我が超徳川軍に恐れをなしましたか!来ました来ました!あの武田信玄に習って山のように耐えた甲斐がありました!」
「竹千代、あんたは興奮するとむしろ失敗しやすくなるから、冷静に対処した方がいいんじゃない?三方ヶ原でもそれで武田信玄に還付無きまでに叩きのまされて、脱糞したんでしょ?」
「しっ、しししししししてませんよ!!?
ってか、どこから情報が漏れてる.....
じゃない!誰がデマを!!?」
「天龍」
「予想通り過ぎて安心しました!」
その時だ。敵軍に大きな動きがあった。
「お伝えします。真田軍撤退!真田軍撤退!」
「来た来た来たぁ!!!今こそが絶好の好機!ついに真田を!武田の連中を葬る時が来ましたぁ!!」
その時、1人の忍が服部半蔵に耳打ちする。
「むっ!?.....それは真か!?」
「はっ!」
「くっ.....」
「どうしましたか半蔵?」
「それが.....姫.....」
「早く言いなさい。何があったのです?」
「はっ、関白殿下と太閤秀長に大きな動きがあったとのこと」
「良晴が?」
良晴とは別離に動いている信奈には新鮮な情報だった。
「殿下がどうされたので?」
以前はサル晴さんなどという言い方で馬鹿にしていたが、関白になった以上それもやっていられなくなり、今は敬称にて呼んでいる。
「関白殿下と太閤秀長が停戦を結んだとのこと」
「は?」
この戦争で大きな手柄を得ようとしていた家康には衝撃の事実である。
「良晴が天龍と.....服部半蔵、それは事実なの?」
「はっ、甲斐の武田信玄が仲介に入ったと」
「武田信玄!?.....武田信玄って、あの武田信玄よね!?重い病で表舞台から離れていた彼女がなんで今になって出てきたのよ!?」
「武田...........信玄.....あいつが?」
家康がボソリと呟く。
「それが.....関白殿下と太閤秀長の双方が武田信玄を政略結婚にて嫁に迎え、改めて義兄弟なることで停戦に結びつけるのだとか」
「はぁ!?何よソレ!?良晴からは何も聞いてないわよ!!?」
「申し訳ないが、これ以上の詳細はまだ.....」
「絶対に天龍が絡んでるに違いないわ!今や武田信玄もあいつの家来。信玄を利用して良晴を騙そうとしているに違いないわ!あいつ.....信澄だけに飽き足らず、良晴まで唆す気!?」
「いえ、まだそこまでは.....」
「武田信玄.....奴がまたしゃしゃり出てきた.....三方ヶ原だけでなく、ここでもまた私の邪魔をする?またも我が野望の障害となる?」
ブチッ!!
「ひっ、姫!?」
半蔵が動揺する。家康が爪を噛み始めたからだ。家康はまだ松平元康と名乗っていた頃からこの癖があり、爪を噛んでいる時こそ、彼女が最高にキレている状態なのだ。三方ヶ原の合戦でも、これが原因で敗戦しているのである。
「病にかかってようやくくたばると思っていたのに.....あの死に損ないめ。何故、こうも鬱陶しい。何故、早く死なない?さっさと死ねばいいのに。死ねばいいのに。死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね.....」
ブチッ!
また爪が噛み千切られる。
「竹千代!!」
「っ!...........どうしましたかお姉様?」
「.....あんた大丈夫!?」
「何がですか?」
「だってあんた、また情緒不安定になってたから.....」
「何を言ってるのですか。この停戦が成功し、そのまま講和が結ばれでもすれば念願の平和が訪れるのですよ?これ程喜ばしいものはありません」
「えっ!?」
あれ程までにこの戦を楽しんでいた者の言葉とは思えなかった。
「さぁ!私達もすぐさま兵を納め、殿下の元へ向かいましょう。この大業を成し遂げた信玄殿にもお会いしたいですしね!」
「え、えぇ.....」
「ふくくくく.....英雄武田信玄にね.....」
「...........」
何が彼女を変えてしまったのか。そこにはもう、純真無垢だった竹千代、松平元康の姿は無かった。今の彼女はドス黒いオーラを醸し出す魔王の風格が出ていたからだ。まるで昔の自分を見ているよう。ひょっとすれば時々自分もあぁなってるのかもしれない。
天龍良晴という魔王に加え、ここにまた魔王の卵が誕生しつつある事は、信奈には気掛かりでしかなかった。元魔王であったからこそ分かる事である。
「どうなってるのよ..........良晴」
今ほど夫である彼を求めたいと思ったことはないだろう。自分が悩んだ時にいつも側にいてくれた彼は、今もう手も届かないくらい遠くにいる気がしてならない。
「会いたいよ............良晴」
関東、江戸城。
「ほう。随分と奇妙な城を作ったものだな」
「うるへ」
信玄を自動車を運転して運んできた天龍。8人乗りのワゴン車で、助手席には気絶した真田幸村。後部座席には真田昌幸、山県昌景、武田信玄。そのさらに後ろに不貞腐れた表情の加藤清正、福島正則、豊臣良晴が乗っていた。
「天龍〜。取り敢えず周りは安全だよ!」
「OK。見回りサンキューな」
「"ゆあうえるかむ"だよ」
車の上に乗っていた阿斗が上から頭を出し、状況報告する。この上には更に吽斗、凪、万見仙千代が乗っていて護衛しているらしい。心強くはあるが、あまりの神出鬼没ぶりに身震いする良晴。
「さぁ、着いたぞ。ようこそ我が城へ」
天龍が居城、江戸城に到着する。居城が大坂城であった頃は支城という扱いであったが、今では立派な本城である。
「うわっ、城主の正確な滲み出たような趣味の悪い城だな」
「文句言うなら入れねぇぞ」
江戸城は木造建築が主の日本式ではなく、石を多く使用した西洋式であったのだ。しかも大坂城並の大きさを誇り、日当たりが悪いのか巨大な影を作っている。白色の城にもかかわらず、暗い印象を与えてしまっている。
「これが本当のドラキュラ城だな」
「寒いこと言ってねぇでさっさと入城しろ。停戦協定は俺達個人が勝手に定めたものだからな。それを認めない連中が勝千代を狙うかもしれない。だからこそ、危険な甲斐ではなく、安全な江戸まで来たんだ」
「手前ぇに言われるまでもなく分かってる.....だが、俺だってまだ認めてねぇからな!」
「そうか、それは良かったな」
良晴を適当にあしらうと、天龍は助手席側にまわる。
「源次郎は.....まだオネムか。しゃあない」
天龍は気絶した幸村をおんぶする。
「主様、そんなことは私めがしますのに」
「いいよ昌幸。ただ好意でやってるだけだし。それよりも、この状態で目が覚めて、慌てふためくこいつの顔を見るのが楽しみでもある」
数分後、案の定目覚めた幸村は天龍の予想通りに慌てふためき、顔を真っ赤にしたのだった。
江戸城、天龍室。
「さて、会談の場を作ってやった。ちゃっちゃと済ませよう」
「なんで天守閣じゃないんだよ?」
「天守閣に布団を敷くのか?」
この天龍室には信玄用に布団が敷かれ、その周りを囲むような形で会談が行われてる。
「それに命を狙われる可能性もある。だから、誰もが場所を知る天守ではなく、俺の部屋にした。俺の部屋は暗殺者対策の為に毎日入れ替えてるからな。家臣も側近ぐらいしかこの場所を知らん」
「独裁者そのものだな」
「誰かさんが怪しい連中と手を組んだものでね」
「ちっ.....」
皮肉を言い合う2人に楽しげな様子は欠片も無かった。それを信玄は悲しげに見つめる。
「ハッキリ言おう俺は勝千代の提案には反対だ」
「良晴.....」
「俺はもうこいつと馴れ合うつもりはないんでね。全力を持ってこいつを追い詰め、殺す。負ければそれまでだったってところだよ」
「ボロ負けしてた奴がよく格好つけられるな」
「なんだとっ!?」
「俺は賛成だ。勝千代との政略結婚にな」
「天龍.....」
「そりゃ手前ぇはそうだろうさ。戦争さえ終わっちまえば主導権は立場が上の手前ぇらだ。俺らはすぐに叩き潰される!」
「ふっくくくく.....だろうなぁ。貴様らのようなゴミ共をいつまでも残しておく程、俺もお人好しじゃあない」
「手前ぇ.....」
「2人共落ち着け」
だが信玄の声は届かない。
「どうだろうなぁ!馬鹿な思想を掲げる愚者共を串刺し刑にする様は!さぞ、甘美であろう!!」
「手前ぇらは一族も家臣団も害虫同然だ!全員まとめて駆除してやる!!」
「喝っ!!!!」
「「っ.....!!?」」
「餓鬼か貴様らは!貴様らの都合でどれだけ多くの民が傷ついたのかよく考えよ!.....良晴、貴様に言っているのだぞ!?」
「かっ.....勝千代」
「貴様もだ天龍!そもそもこの合戦は貴様が無用な挑発を良晴に何度も仕掛けたのが原因だ!先に戦を始めた良晴にも問題はあるが、1番の戦犯は貴様であるぞ!!」
「..........」
「今はどちらが天下を取るかではない!どうすればこの国の平和を守れるかを考えるべきであろう!!なのに貴様らは!..........ゲホッゲホッ!!!」
「姫!!」
昌幸が信玄に駆け寄る。
「.....私も同じだったからこそ分かる。戦場を離れて見て初めて気づいたのだ.....良晴よ、権力とは恐ろしいな。上位に立って全てを見通せるかのように思えて、何も見えなくなってしまうのだ.....」
「勝千代.....俺は.....」
「思い出せ。貴様はそんな男だったか?苦しむ民も見えず、只々己の欲望を満たす下劣な男が本当の貴様か?死の命運にあった私を、敵であった私を救ったあの男は今、どこにいる?それは貴様ではなかったのか?」
「俺は.....」
「それと.....天龍」
「ん.....」
「貴様のその野望はそうも大事か?そうまでして良晴と戦いたかったのか?良晴を挑発することでこいつの甘さを消そうとしたのか?ここまでする必要は本当にあったのか?.....もういいだろう。国を任せる相手を1人に絞ることに拘るのは.....これからは良晴と天龍、2人が協力すれば.....」
「勝千代っ!!」
天龍が突然叫んだ。それも血相を変えて.....
「なんだよ.....国を任せるって.....甘さを消すって.....一体何の話をしてんだよ!?」
良晴も混乱しだす。
「すまないが良晴、今少し席を外してはくれまいか?」
信玄が言う。
「ちょっと待て、まだ話が.....!!」
「源次郎」
「はっ!」
天龍に命令された幸村が良晴を無理矢理部屋から連れ出した。
「離せ幸村!!」
部屋を出された良晴は幸村の手を振り解く。
「一体何なんだよ!?」
「今は取り敢えず落ち着き下さいませ」
「黙れ!!あいつを放置すれば騙されて不幸になる人がどんどん増える!今のうちに殺さないと.....」
「お願いです!!」
「うっ!?」
幸村が俯きながら良晴の服の裾を掴み、叫ぶ。
「お願いですから!...........今は抑えてくださいませ...........その為なら、この幸村.....なんでも致しますから.....」
今にも泣き出しそうな表情で言う。山中鹿之助を殺し、つい先程まで自分と死闘を繰り広げていた彼女が今、こんな顔で自分にしがみついている。そう思うと、何か特殊な感情が湧き出てしまう良晴。
「真田.....幸村」
「お願いで御座います、関白殿下」
「お兄ちゃ〜ん!!」「兄者〜!!」
別室で待機していた正則、清正が駆け寄ってくる。それに驚き、慌てて離れる幸村。
「鬼ババがやって来てうるさいのよさ!お兄ちゃんなんとかしちクリ!」
「鬼ババって.....もしかして信奈か?お前らどんだけ信奈のこと嫌いなんだよ」
「便所虫以下なのよさ!」
「乞食よりも劣悪」
「そりゃ相当だな」
幼女には好かれやすい信奈も、この2人だけにはかなり毛嫌いされている。大好きな兄を取る泥棒のように思っているのだろう。
「しゃあない。行くか」
外に出ると、門前払いをされている信奈と家康がいた。
「あっ、サル!あんたこんな所で何やってんのよ!!」
「その呼び方は相変わらずなのな」
「どうでもいいわよ!それよりも天龍と停戦したって本当なの!?」
「一時的なものだ。信玄達との交渉が失敗すればまた戦争状態に逆戻りだろうな」
「ならさっさと蹴って再戦しなさいよ!何を油売ってるわけ!?」
「いや、そうも言ってられなくなった」
「えっ?」
「四国の元親があちらに寝返り、それに乗じて中国の毛利も寝返った。島津は遠く離れた薩摩を守る為に撤退し、上杉は復活した北条氏康に苦戦。共闘を誓った伊達も今は様子見だ。しかも、さっきとんでもない話が出てきたんだ」
「とんでもない話!?」
「北海道の松前軍が地元民の反乱を抑えて、こっちの戦争に参加する表明を出した」
「なんですって!?」
「北海道には一揆鎮圧の為に大勢の遠征軍が出されていた。そいつらが敵の援軍として一気に帰ってくるんだ。勝てんよ.....これはもう」
「なに弱気になってんのよ!そんなのにビビってどうすんのよ!今こそ力を合わせて.....」
「気合でどうにかなる戦争なんざ、とうに終わってんだよ!!」
「っ.....!!?」
「もう時代じゃねぇんだ。奴が持ち込んだ情報伝達技術の向上によって、今勝つのは、力の強い軍でも、気合の入った軍でもない。頭のいい奴が勝つ時代なんだよ。お前だってそうだっただろ織田信奈!」
「うぅ.....」
「だが俺は奴との頭脳戦に負けた。それどころか一騎打ちにまで負けた。実力の差ってやつをむざむざと見せつけられた。そして俺は..........鹿之助を失った」
「良晴.....」
「俺はもう織田家中にいた頃のような只の兵士じゃない。何万という大軍の命を背負った大将だ。俺の行動一つで多くの命が動き、そして失われるだろう。だからこそ俺は決断をしなければならないんだ。選択肢は困ったことにもたった二つ。講和か戦争だ」
「講和か戦争.....」
「今の状況を考えれば講和が妥当だろう。だが講和でいい状態にいくにはそこそこの有利な戦況でなければならないんだ。ところが今は劣勢。講和したところで主導権は天龍側。もしかしたら俺の兵たちに不憫な判決が下されるかもしれない。それだけはあってはならない。
だとしたところで、戦争か?すでに一方的な虐殺のような戦況になりつつあるのにだよ。ここで講和を跳ね除けたところでいい状況になるなんて保証は何処にもない」
怒りだけではない。このような状況をよく考えた上で、良晴は苦悩していたのだ。
「良晴、あんた変わったわ。尾張で初めて会った頃とは大違いよ。甘さはほとんど残ってないし、頭は良くなったし、逞しくなった。それと、恐ろしい程に"もののふ"の心を染み付いたわ」
「そうか.....」
「でも肝心なところは何も変わってない。貴方は私利私欲で動いたことなんてない。いつも誰かのために戦ってるわ」
「それは耳が痛い」
「戦の話よ!あんたの日常生活が色欲に塗れてるのなんて最初から知ってるし。.....そうじゃなくて。あんたは弱者の.....いえ、全ての者の気持ちを知っているのよ。上も下も経験したからこそね。全ての人を平等に見れる。だからこそ、誰もが貴方に惹かれるのよ」
「信奈.....」
「私は最近、そういう者こそが天下人の器ってのを持っているんだと思うようになってきたわ。誰からも恐れられるから天下人になれるんじゃない。誰からも愛されるから天下人になれるのよ。あんたはその素質があるわ。私にも天龍にも無かった、真の天下人の素質がね。きっとそれはあいつだって気付いてるはず.....
だからこそ、私も踏ん切りがついたわ」
「信奈?」
「あたしね、姫武将やめる」
「っ.....!!?」
「お姉様!?」
これには家康も驚愕した。
「右大臣職も返上するし、織田の家督も貴方に譲るわ。もう、戦場には出ない」
「信奈.....お前、何を言って.....」
「だって天下人になるのを夢見て姫武将になったのよ?なのにこうも大きな天下人の器を持った人が目の前にいるんだもん。勝てるわけないわ。そもそも勝つ気だって無い。だってその人は、私が生涯で最も愛した男性なんだから」
「信奈.....」
「だからこそ私は貴方の下に付きます。これからは只の姫、信奈を好きにお使い下さいませ。.....この私がこうも下手に出てあげてるのよ?感謝しなさいよね」
「.....あぁ」
良晴は黙って信奈を抱き寄せた。
「講和が"逃げ"だと思ってるかもしれないけど、全然そんなことはないわよ?それは貴方がそう認識してるだけ。負けるなら負けるでいいじゃない。ただし格好悪い負け方は駄目よ?負けるなら格好良く負けなさい!」
「あぁ.....ありがとう」
信奈を身体から離す。
「俺、勝千代の提案受けるよ。でも、負ける気はねぇ。あいつに勝った上で勝千代も平和もまとめて頂いてやる!今こそ、俺の本気の見せ所だぜ!」
満面の笑みで応える。
「そう、じゃあ」
信奈が良晴の首根っこを掴んだ。
「堂々と浮気宣言をした落とし前を払ってもらおうかしら?(怒)」
「えぇ〜!?」
笑顔で言われるとなお怖いです。
「島津との結婚は九州征伐を終わらせる為に仕方がなかったんだと腹を切る思いで妥協したけど、今度という今度は許さないわ!他にもいっぱい浮気してたのはちゃんと知ってんだからね!!死んだ六や鹿之助も含め、犬千代、官兵衛、上杉謙信、フロイス、雑賀孫市に半兵衛に半兵衛に半兵衛に半兵衛に半兵衛に半兵衛!!!」
「えぇ〜!!?」
「全部聞いたわよ、蘭丸からね!!」
森蘭丸、本名森水青蘭。天龍の姉。
今は信奈の小姓だ。
「なんであの人が知ってんの!!?」
「関係ないわ!一回でいいからあんた斬られなさい!どうせ妖怪なんだからバラバラになったって死なないんでしょ?一回くらい安いじゃない!ほら、首差し出せ!!」
「首斬られたら流石にやばいわ!!」
「問答無用よ!!!」
「えぇ〜!!!?」
だがこれらには殺意や憎しみも無かった。ただのじゃれ合い。お互いに笑顔で受け取り合っているのが、傍目からはよくわかった。
「...........」
だがそれを、憎悪だけで見つめる女狸が一匹。
天龍室に戻った良晴。傍らには信奈も付いていた。
「政略結婚の件、受けてやるよ」
「ほう。お前の決断にも驚いたが、おっかないカミさん連れてきてまで言うとはね」
「受けてくれるか良晴!」
「だがしかしだ!.....条件がある」
「ほう、お前如きの立場の者が条件とな?」
「天龍」
「っ.....分かったよ!黙って聞くよ」
少し部屋から離れている間に信玄と天龍の立場が逆転していた。
「天龍。お前、もう一度俺と一騎打ちをしろ」
「はぁ!?お前、ついさっき負けたばかりだろ!なのになんで.....」
「いいんだ。ちゃんと考えを持って言ってるんだ」
「ほう?」
「だから!俺が勝った時にはこの講和、双方が平等な立場になるようにしてもらいたい!」
「良晴、そんなことをせずとも講和は平等にする予定で.....」
「いいぜ。受けてやるよ」
天龍が答えた。
「天龍」
「止めてやるな勝千代。豊臣良晴という漢が覚悟を決めて出してきた提案だ。それを受けないほど俺も卑怯じゃない。だがよ、良晴。それでも負けた時は.....」
「あぁ、それも覚悟してる」
「決まりだな。屋上に行こう。いい決闘場がある」
「屋上なんてあるのか?つくづく城の作りを無視してるな。そこに日本風の拘りはないのかよ?」
「うるへ。さっさと行くぞ」
「ふふっ.....あぁ!」
「良晴.....天龍.....」
「見守りましょうよ武田信玄」
「織田信奈」
「男達の戦いを見守るのも女の義務ってもんよ?」
「そう、だな.....」
「屋上まで連れてってあげるわ。私達も義理の姉妹になるわけだしね(怒)」
「なんか怖いのだが.....」
最後の決闘、始まる。
さて、次回決戦。結末はどうなるのか!
次回予告
決闘の行く末
〜争いの結果生まれたもの〜