天翔ける龍の伝記   作:瀧龍騎

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急遽題名を変更しました。予定していた題名は次回です。


第八十九話 刀対刀

関東、小田原城。

 

 

「ふあぁぁ〜〜あぁ!」

 

 

大きな欠伸をする北条氏康。

 

 

「退屈ね。上杉も伊達も思ってた以上に弱くなっちゃったわね。たった3年の天下はこうも人を弱体化させるのかしら?」

 

「ですね〜」

 

「記憶が吹っ飛んでた期間にこの国もおかしくなったわね。よもや、あの天竜が天下を取って、それに反発した相良良晴が戦を起こして、天下が真っ二つになるなんてね」

 

「ですね〜」

 

「でも天竜も頭がいいわ。この関東を本拠地にするなんてね。この私が守備に回った以上、彼が負けるわけがないわ。一応私も側室になったしね。一度奴に負けた以上、私も全力で協力させて貰うわ」

 

「ですね〜」

 

「.....あんたさ〜」

 

「はい〜?なんすか"千代ちゃん"?」

 

「だれが千代ちゃんじゃ!」

 

 

それは忍城城主、成田長親。彼女もまた天龍の側室。氏康には義姉のような存在だ。

 

 

「あんたさー、私の事ナメてるでしょ」

 

「そう?」

 

「天龍の側室になってちょっと地位が高くなったからってさ、あんたと私の立場の上下は昔からそのままなのよ?」

 

「分かってる分かってるってば」

 

「むぅ.....ところで氏長は?」

 

「今は農作業中だよ?」

 

「はぁ!?」

 

「地位も名誉もふんだくって一百姓になってもらったんだ。そうすれば彼女も命の大切さを理解できるからね」

 

「.....あんたって意外と腹黒いのね」

 

「それはそうと、古田さんはどこ行ったの?」

 

「あの茶人大名?知らないわよ。戦が始まってすぐにどっか行っちゃったわ」

 

「なんか嫌な予感がするです」

 

「ん?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

信濃。未だ化物2匹の戦いは続いていた。

 

 

「いい加減にクタバレこらぁ!!!」

 

「貴様がクタバレこらぁ!!!」

 

 

目にも止まらぬ速さの殺陣が繰り広げられていた。

 

 

「刀が軽いぞ!素人かよバーカ!!」

 

「闇雲に振り回すだけかよ!お遊戯かよ!」

 

「んだとっ、こらぁ!!!」

 

「やれるもんならやってみろ犬ザル!!!」

 

「えぇと.....クタバレよこらぁ!!」

 

「それはさっき聞いたよ〜ん!語彙が貧困じゃあありませぬかお主??」

 

「死ねよモスキート野郎!!!」

 

 

 

殺陣よりも罵声怒声が目立つ対決。いや、これは対決というよりは、ただの喧嘩だった。

 

 

 

「朧月光流、奥義!!」

 

 

良晴が出る。憎き敵の技にて。

 

 

「文月!!」

 

「睦月!!」

 

 

突きによる一閃である文月を回転技である睦月にて天龍が返した。

 

 

「あぁ〜くそっ!!朧月光流奥義!神無月!」

 

「霜月!」

 

「うえぇっ!!?」

 

 

摩擦力を利用し、敵の得物を奪う技、霜月。それが良晴の放った神無月すら打ち消し、彼の刀を遠くに投げ飛ばした。

 

 

「くっ.....!!」

 

「いいよん待っても。拾ってこいよ」

 

「いいよ。そんなん.....召喚!」

 

 

良晴は新たな刀を用意する。

 

 

「おいおい、立派な日本刀を使い捨てか?割り箸じゃねぇんだぜ?」

 

「へっ、うるせ。所詮は贋作だよ。それよりもだ!お前さ前に、『技を出すなら奥義名をキッチリ全部唱えてから』って言ってたじゃんかよ!」

 

「そだっけ?」

 

「ちっくしょ〜!!次からは省略する!」

 

「お好きにどんぞ〜」

 

 

その直後、良晴が前に出る。

 

 

「甘いな。皐月!!」

 

「へっ、皐月にはこいつだぜ。弥生!!」

 

 

次の瞬間、良晴の刀が粉砕した。

 

 

「へっ?..........ふぐっ!!?」

 

 

同時に両腕の筋が分断される。

 

 

「きっ、如月!?」

 

「くひひひひひ.....」

 

「手前ぇ、嘘付いたな!!」

 

「世界一のペテン師が嘘付いちゃ悪いのかよ?」

 

「糞ったれ!!」

 

「はてさて。その両腕を治すのに何秒かかる?」

 

「は?」

 

「待ってやるよ?待っててやるから、さっさと再生したまえ。強者には弱者にハンデをやるという義務があるからなぁ」

 

「じゃ.....弱者だと」

 

「人狼の力はその程度か。えっ?負け犬君」

 

「ガアアアアアアァァァァァァ!!!」

 

 

腕の再生もままならぬ状態で良晴が突っ込んだ。

 

 

「おや?」

 

「手前ぇなんて脚だけで充分だ!!」

 

 

瞬速のハイキックが繰り出される。

 

 

「フッ」

 

「何っ!?」

 

 

天龍は避けなかった。避けもせずに即答部で良晴のハイキックを受け、そのまま鼻から上が吹き飛ばされる。だが.....

 

 

「ぬかったな犬ザル!!!」

 

「しまっ.....!?」

 

 

相手が吸血鬼である事を念頭に入れるべきだったであろう。

 

 

 

 

 

 

「葉月!!」

 

 

 

 

 

 

「えっ.....!?」

 

 

気付けば、良晴は宙を舞っていた。肩に刀を刺されたまでは覚えていた。だが、次の瞬間には宙に放り投げられていたのだ。徐々に下降する肉体。それを地上で待ち受ける天龍。

 

 

「ちょっ.....待っ!?」

 

「朧月光流奥義、葉月!! 」

 

 

刀は振られ、両足が切断された。

 

 

「ふぐっ.....!?」

 

「手足がなくなったお前はただの芋虫だ!!」

 

 

天龍は四肢を失い、地面に落下した良晴の背中を踏みつける。

 

 

「くそっ!馬鹿にしやがって!」

 

 

良晴は瞬時に両腕を再生させ、腕を付いて立ち上がろうとする。

 

 

「何っ!?」

 

 

だが立ち上がれない。何か巨大なものが背中に乗っていて、押さえ付けられているようだ。天龍は良晴を踏んでいるが、そこまでの怪力を使っているようには見えない。なら何故だ!?

 

 

「身柱」

 

「なんだとっ!?」

 

「二つの肩甲骨の中心。ここを足で踏んでやれば腹這いの相手は起き上がれないんだぜ?」

 

「はらばい?.....うつ伏せじゃなくて?」

 

「意識があるかないかの違いだ。うつ伏せは寝てる状態。腹這いは起きてる状態だ」

 

「へぇ.....じゃねぇ!早く起き上がらねぇと!!」

 

「無駄だ無駄だ。俺の拘束を解こうなんざ四世紀早い」

 

「ちっきしょ〜!!!」

 

「じゃあここでオシオキタイムだ」

 

「っ.....!?」

 

 

天龍の召喚したものは蝋燭。瞬時に火を点ける。

 

 

「おっ...........おい.....」

 

「こいつは洋蝋燭。溶けた時の温度は約70度ってとこだな。こいつを今からお前の首にかける」

 

「なんだとっ!?ふざけんな!!!」

 

「いくら人狼でも熱いものは熱い。高速再生するだけでダメージそのものは他の生物と変わらん。だがお前はどこまで耐えられるかねぇ?ふくくくくくくく.....」

 

「くそっ!くそっ!くそっ!くそぉ!!」

 

「くふひひひひひひひひひひ.....」

 

 

天龍はその蝋燭で懐から取り出した葉巻に火を点ける。

 

 

「ふぅ.....やはり葉巻はいいな。煙管も嫌いじゃなかったが、葉巻に比べればな。ふくくくくくくく.....やはり葉巻はハバナ産に限るよ」

 

 

天龍が一服している間にも良晴は必死に抜け出そうと試みる。だがその拘束は彼を中々抜け出させてくれない。

 

 

「んじゃ、やるか」

 

「くそぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

「そんじゃ、ばいび」

 

「くっ!!!!!」

 

 

蝋がかけられる。良晴は歯がその食い縛りによって割れるのではないかという位に縛る。そして.....

 

 

 

 

「あり?」

 

「ぷっくくくくくくく.....くひゅひゅふふふふふふ.....」

 

「えっ?えっ?えぇっ!?」

 

 

蝋は熱くなかった。熱いといってもちょっとだけ温度の高いお湯をかけられた程度。

 

 

「低音蝋燭だよバーーカ!!

くひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!!」

 

「てめぇ!!!」

 

 

低音蝋燭の温度は精々45度だ。

 

 

「ふざけんなよ糞ったれ!!!」

 

「そうだよなぁ。根性焼きならこっちの方がいいな」

 

 

すると、有無も言わずに吸っていた葉巻の火を良晴の首に押し付けた。煙草の火の温度は600度だ。

 

 

「あがああぁぁぁぁっ!!!?」

 

「ふくくくくくくく.....」

 

 

更に、押し付けながらその葉巻を吸う。吸った時の煙草の温度は800度だ。

 

 

「はぐぅあああああがああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

 

涙を流しながら良晴藻掻き苦しむ。だが、その拘束は外れない。

 

 

「あ〜あ〜気が済んだ。もういいや」

 

 

根性焼きが終了した。

 

 

「はぁ!!.....はぁ!.....はぁ.....」

 

 

動悸が徐々に治まる。やっと終った地獄の時間に安堵する。ところがだ。

 

 

 

 

「ちゃっちゃとおっちね。犬ザル」

 

 

 

 

天龍が銃を向けていた。ウィンチェスターだ。

 

 

「ちょっ、待っ!!」

 

「バーン!」

 

 

良晴の頭部に向けて発泡される。その一発で良晴の右側頭部が噴き飛ぶ。

 

 

「ひぎっ!!?」

 

「〜〜♫」

 

 

鼻唄を歌いながら、スピンローディングにて次弾を装填し、再度発砲する。次は左側頭部だ。

 

 

「アディオス!」

 

 

後頭部を撃った。その衝撃にて首が千切れ、良晴の頭と思わしき物体が前方に飛ぶ。

 

 

「さっさと治せ。死んでないことは分かっている」

 

「ちっ」

 

 

すると彼方此方から彼の肉片が不規則な動作をしながら元の肉体に戻ろうと移動を始めたのだ。天龍が離れる頃には良晴の身体は完全再生されていた。

 

 

「はぁ!はぁ!はぁ!!」

 

 

再生でダメージは回復しても、体力は大幅に削ったらしい。

 

 

「果てさて。お前は何回死んだ?化物の力が無かったとすれば、お前は何人必要だ?何回殺せばお前は果てる?」

 

「黙.....れよ.....」

 

 

気迫の抜けたフラフラの状態で立ち上がる。この時点で勝敗は明らかに思えた。

 

 

「何っ.....?」

 

「へへ.....」

 

 

良晴が懐から怪しげな瓶を取り出す。その中身は明らかであった。血だ.....

 

 

「お前.....そこまで」

 

 

良晴は人狼。生きていくには人間の血より得られる魔力が必要だ。だが彼はそれを嫌い、あくまで性行為によって得られる精気のみに頼っていた。だが天龍はそれをむしろそれを尊敬していた。人狼という化物になった後も、人間としての尊厳を失おうとはせずに、人間にとっては異常行動である吸血を避けてきた彼を。人間として尊敬していた。その良晴がだ。自分との決着をつける為に、嫌いな血を飲もうとしている。人間としての尊厳を捨ててまで、俺に勝とうとしている。

 

 

「いいだろう。これからはもうおふざけもなしだ。俺もこれからは全力でいく。全力でお前の想いを受け止めてやる。そして、全力で殺す」

 

「有り難いね」

 

 

良晴は瓶の血を一口で飲み干し、それを叩き割った。そして、新たに用意した刀を持ち、構える。

 

 

「如月!!」

 

 

良晴から駆け出す。

 

 

「葉月!!」

 

 

先程と同じように斬り上げ技である葉月を繰り出す天龍。相性は最悪だ。

 

 

「待ってたぜそれを!!」

 

「むっ!?」

 

 

良晴は自ら拳を突き出し、天龍の刀にワザと突き刺したのだ。その勢いのまま良晴は空に斬り上げられる。斬り上げられた良晴は空を蹴って逆に地面に急降下してきた。

 

 

「なるほど」

 

 

刀を一直線に目標へ向ける。これぞ一閃。まるで流星の如き光の線は天龍を抉らんと突撃してくる。これが『文月』

 

 

「馬鹿め!そのまま地面に突っ込むがいい!」

 

 

天龍は地面を蹴り、急速にてその場から離脱する。

 

 

「逃がすか!!」

 

 

良晴は地面に激突する直前に『睦月』を放つ。回転技によって地面を抉り、無理矢理軌道を変えたのだ。今度は横向きの一閃。逃げた天龍を再び。

 

 

「何っ!!?」

 

 

こうなっては急な動作によってバランスを取れずにいた天龍が不利になった。バランスを取る為にはもう一動作必要だ。だが、そんな猶予はもう残されていなかった。一動作している間にも彼の文月は自らに届く。敵の心臓部に照準を合わせ、そこへ一閃を届ける文月。最早、敗北は必至に思えた。

 

 

「くひゃっ!!」

 

「なっ!?」

 

 

奴は.....天龍は、軸足の定まっていなかった。だからこそ、バランスの崩れた奴を追い詰められる絶好の好機と思えた。ところがだ。何故か奴の軸足が突然復活した。斜めの状態で立つ彼に、地面に垂直にそびえ立つ軸足が。

 

 

「は.....羽!?」

 

 

『ウィング・ザ・リッパー(切り裂き羽)』

これは彼の眷属である大友宗麟の技。大友宗麟は彼に翼を移植される形で吸血鬼になった。元は彼の翼である。当然、彼もそれが使える。天龍は自らの翼を変質させ、地面に突き刺し、もう一本の足にしたのだ。これで軸足は取れた。後はもう.....

 

 

「三日月!!!」

 

 

刀が横一文字に振られる。それによって生じた"かまいたち"が形ある斬撃となって、向かってくる良晴を襲った。

 

 

「くそっ!!」

 

 

斬撃と一閃は相殺した。だが、その衝撃波が辺りに迸り、砂埃が舞う。

 

 

「くひゃっは!!」

 

 

邪悪に笑う天龍は上空へ飛ぶ。

 

 

「惜しかったな!だが、まだまだだ!!」

 

「どうかな?」

 

 

砂埃の中で彼はそれを構える。

 

 

「やべ」

 

 

良晴は撃った。先程も持っていたそれ、グレネードランチャーを。発砲された榴弾は一直線に天龍の右肩に直撃する。そして爆発した。

 

 

「がぁぐっ!!?」

 

 

右半身が抉られ、地上へ落下する。しかし、受身を取って瞬時に立ち上がる。

 

 

「やはり慢心は毒だな。すぐに命取りになる」

 

「教えろ。さっきの『三日月』とはなんだ!?"『師走』を除いた"11の技が朧月光流なんじゃないのか!?それとも別の.....」

 

「いや、これも朧月光流さ。しかし出来立てホヤホヤの新技だがな」

 

「なんだとっ!?」

 

 

右半身を回復させ、彼は語る。

 

 

「朧月光流を編み出したのは俺の父親だ。とはいえ、扱えなかった。あくまで俺に使わせる為にな。当時は明確な技名も型もなかった。原型としてあった剣技を、俺と青蘭が完成させた。睦月、如月、弥生、卯月、皐月、水無月、文月、長月、葉月、神無月、霜月、計11の剣技。つまり朧月光流は俺の技だ。俺が作り上げたんだ。

だからこそ、新技を編み出す事も可能なのだ」

 

「新技!?」

 

「十三番目の奥義、三日月。吸血鬼の鋭い筋力だからこそ編み出せる斬撃。人間には発動不可能。吸血鬼になったからこそ使えるようになった。当然、お前にも使えるよ」

 

「.....十三番目と言ったな。じゃああるのか?十二番目の奥義.....『師走』が」

 

「あるにはある。やり方も知っている」

 

「じゃあ何故使わない!?」

 

「理由は主に2つ。1つは扱いが難し過ぎるのだ。下手をすれば、自身にしっぺ返しが来る。リスクを避ける為にも、この技は禁技としたよ。もう一つは.....」

 

「.....?」

 

「この技が正常に作動すれば、相手は確実に死ぬからだ」

 

「なにっ.....!?」

 

「人間に限らない。相手が吸血鬼だろうと人狼だろうと悪魔だろうと。命があるのならば神だって死ぬ。そう確信している。一度も相手に使った試しはないが、絶対に殺せるよ」

 

「おもしれぇ。じゃあ俺に使ってみろよ!」

 

「いいのか?使えばお前は死ぬ。絶対に。そうなってしまえば.....」

 

「うるせぇ!さっさとやれってんだ!!手前ぇに気遣われることなんざねぇ!俺は手前ぇを殺す!ただそれだけさ!」

 

「...........そうか。分かった」

 

 

そして、構える。

 

 

「朧月光流最終奥義.....」

 

「くっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「師走」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この期に及んで手加減しやがったな?」

 

「すまない」

 

 

四肢を再び失い、胸から下を全て無くしている良晴がそこに横たわっていた。だが、驚くべき現象が起きていた。良晴に傷という傷はなかった。というより、斬られていなかった。まるで生まれつき無かったかのように、忽然と消滅したのだ。奪われた四肢や腹部も全て消滅した。今あるのは、頭と胸だけの達磨。いざとなれば、身体全体を全て消し去れただろう。だが、そうはされなかった。情けをかけられたのだ。この、天龍に。

 

 

「殺せ」

 

「あぁ.....」

 

 

心臓部に刀を突き付けられる。

 

 

「さらばだ」

 

 

心臓を刺されれば良晴は死ぬだろう。両親の仇討ちも叶わず、愛する者等も残し、この国、この世界の安否をこの天龍に任せる事になる。それは良晴には絶望でしかなかった。だが、それしかない。今の自分に、この天龍を超える力など持ち合わせてはいないのだから。

 

 

「完全なお前になれば、俺にも勝てたかもな」

 

「...........なに?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お待ちください!!!」

 

「「!!?」」

 

 

二人の間に槍が投げ込まれた。それは朱き十文字槍。

 

 

「我が主よ。お待ちくださいませ!」

 

「.....昌幸!?」

 

 

それは真田昌幸。幸村の母親だ。

 

 

「昌幸、お前は徳川攻めに出していたはずだ。何故こんな所にいる?持ち場に戻れ」

 

「いいえ。戻りませぬ」

 

「!?.....命令に従え!」

 

「拒否いたしますわ」

 

「何っ.....!?」

 

 

眷属の呪縛が効いていない。まさか。

 

 

「私が解きましたよ?我が主様」

 

「玄朔!?.....貴様!!」

 

 

曲名瀬ベンジョールの娘、曲名瀬玄朔。天龍の眷属だったが、科学の力でそれを克服。今はフリーの吸血鬼だ。

 

 

「今はそんなことをやってる場合じゃないわ。今すぐ停戦して下さいませ」

 

「我が主君の望みにございます!」

 

「ふざけるな!何が停戦だ!ここまでやってきて今更...........待て、お前の主君だと?...........まさか!」

 

 

 

 

 

「わたしだ」

 

 

 

 

 

 

「勝千代!?」

 

 

良晴が叫ぶ。山県昌景に車椅子にて運ばれた彼女が、この戦場のど真ん中まで来ていたのだ。

 

 

「武田.....信玄.....」

 

「貴様の"じどうしゃ"なるものを借りたぞ。馬もいないのにあんな鉄の箱が自力で走り回るとはな。しかも馬車よりも早いときた。いやはや、凄かった凄かった」

 

「茶化すな!!何の様だ!病で現役を離れたお前が今更戦場に出てくるなんて!!そんな事をすれば身体に障る!今すぐ療養するん.....」

 

「戯け!!」

 

「!?」

 

「貴様、以前言ったな?貴様が私を裏切った際、いつでも自分を裏切り返し、自身の地位を取り戻してもいいと。今がそれだ」

 

「なんでそんな昔のことを.....」

 

「私は武田信玄。落ちぶれたとはいえ、戦国最強と唱われた姫武将だ。その誇りを持って、貴様らの下らん戦をぶち壊してやる!」

 

「なんだとっ.....」

 

「勝千代.....」

 

 

それは天龍、良晴双方に指されていた。

 

 

「武田家元当主、武田勝千代信玄が宣言する!」

 

 

戦国最強が言う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「豊臣天龍秀長、良晴秀吉はこの武田信玄を嫁に迎えよ!そして、この馬鹿げた戦をさっさと終わらせるのだ!!」

 

 

 

「「.......................はぁ?」」

 

 

 

信濃の戦場が凍り付いた一瞬だった。

 

 

 




正則と清正は今回登場してませんが、良晴と天龍が戦っているのを見学しているというような感じです。出し忘れました。
次回予告
政略結婚
〜平和への架け橋〜

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