天翔ける龍の伝記   作:瀧龍騎

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ここん所の忙しいのが済んで春休みに入ったので、更新を再開します。変に見栄を張らずに不定期更新という事にしますね。




第八十八話 姫武将の叫び

「俺の側につかないか?」

 

 

家臣山中鹿之助を失った直後、良晴が鹿之助の仇でもある真田幸村に向けて発した言葉だった。

 

 

「.....は?.....もう一度仰ってもらえませぬか?」

 

「俺の側に付け。天龍を裏切って、俺の家臣にならないかと言っているんだ」

 

「なっ...........何を!?」

 

 

たった今、大事な家臣を失って号泣していた男の言葉とはとても思えない。

 

 

「たった今、俺は兵を1人失ってしまった。それも将棋の駒で言うなら飛車クラスの強駒がな。つまりは人員不足なのだ。早急に穴を埋めなくてはならない。それもまた飛車クラスの猛将を。そこに来てお前だ、真田幸村よ。お前は我が軍の山中鹿之助を討ち破る程の猛将。紛れも無い強駒だ。是が非でも我が軍に加えたい」

 

「............」

 

 

幸村は言葉が出なかった。こいつは何を言っている?この関白豊臣良晴秀吉という人間は、この私を、山中鹿之助を、彼の家臣全員を、将棋の駒として扱っているというのか?

 

 

「悪くない相談だと思うぞ?」

 

「ふっ、巫山戯るな!!何が将棋の駒だ!

確かに私はこの手で山中鹿之助を討った!

しかしそれは余りにも非情ではないか!?

我々だって生きているんだ!

そんな我々を駒扱いするなんて!」

 

「戦争で何人も人間を殺し、それを嬉々として楽しんでいるような奴に、人権を求められるとはな。愉快な話だ。そうは思わねぇか?」

 

「なっ!?」

 

「殺しを楽しんでしまった時点でそいつはもう人間じゃない。ただの化物、害虫さ。そんな物に人権など必要あるか?」

 

「もっ、物.....」

 

「だから俺が有効活用してやると言ってんだ。山中鹿之助の代用の駒として、お前を使ってやると言ってるんだ」

 

「ふぐぐっ!!」

 

 

幸村が憤怒の表情で十文字槍を構える。

 

 

「貴様をあの御方の義弟とは思わん!貴様は天龍様なんかよりもずっとずっと外道だ!貴様なんかがこの国を治めた所で、平和な世など実現できるはずがない!この悪のケダモノめ!」

 

「何を言う。貴様の主君だって言ってるじゃないか」

 

「何だとっ?」

 

「勝てば官軍、負ければ賊軍。勝った方が正義。負けた方が悪。勝てばいいのさ、勝てば。この台詞って、十兵衛ちゃんも使ってたっけ?」

 

「ほざけぇぇぇぇぇ!!」

 

 

幸村が十文字槍を振り、良晴の即答部を刺す。

 

 

「天龍様は疎か、姐様まで貶す愚者は死ね!」

 

「死ねねぇんだよ」

 

「!!?」

 

「これくらいじゃ俺は死ねねぇんだよ」

 

 

側頭部を確実に突き刺し、鹿之助同様に脳が垂れているにもかかわらず、良晴に致命的な一撃を与えられたとは到底思えなかった。吸血鬼や人狼にとって脳髄は一臓器と同等に過ぎず、弱点足りえない。全身が考える筋肉のような連中には、その攻撃は無意味なのだ。

 

 

「お仕置きが必要だな」

 

「っ.....!?」

 

 

良晴が突き刺さった槍を片手で外す。幸村はそれを慌てて引き抜こうとする。しかし、強靭な筋力にて刃を握られ、槍を引き戻す事が出来なくなっている。

 

 

「くっ!!.....離せ化物!我が十文字に触れるな!」

 

「ほう」

 

 

良晴はそのまま十文字槍の刃を握り潰す。ずっと引き抜こうしていた幸村は反動で後ろに引かれ、その場で尻餅をつく。

 

 

「きゃふっ.....!?」

 

「きゃふっだって!可愛いねぇ〜。

どうしたよ真田幸村。ちったぁ"頑張れ"よ」

 

「ふぐぐ.....おのれ!...........そんなに楽しいか!」

 

「何がだ?」

 

「貴様の家臣、山中鹿之助を討った私を弄ぶ事がそんなに楽しいか!!」

 

「.....何か勘違いしているな」

 

「何っ!?」

 

 

彼は微笑する。先程までとは大違いの雰囲気。

 

 

「ずっと言っているだろう?俺は勧誘しているのさ。鹿之助が死んで空いた穴をお前を入れる事によって埋める必要がある。単なる駒の補充さ。にもかかわらずお前が頑なに拒んでいるのだろう?」

 

「先程から駒、駒と耳障りだな貴様!!

私は人間だ!仕える主人は己で決める!」

 

「痩せ我慢か。滑稽だな」

 

「ぐぐぐぅ.....!!!」

 

 

顔を真っ赤にして憤怒する幸村。ここまで侮辱されたのも初めてなのだろう。

 

 

「お兄ちゃん言い過ぎなのよ!確かにゆっきーはアレだけど、そこまで言うのは酷なのよさ!...........それに、それじゃあ市松達だって駒って事に.....」

 

「市松に同意。兄者、暴言撤回、要求!」

 

 

それを見ていた正則清正両名も、たまらず幸村擁護に回る。しかし。

 

 

「駒を駒といって何が悪い?」

 

「「!!?」」

 

 

そう吐き捨てた。

 

 

「やはり貴様は間違っている!貴様が存在するだけで世が乱れてしまうだろう。だからこそ!ここで討つ!」

 

 

幸村は破損した十文字槍を捨て、腰から刀を抜く。『無銘正宗』。天龍より与えられた至高の品だ。日本刀の中でも高度の斬れ味を誇る名刀。無銘なれど、その性能は他の刀と比べ物にならない。

 

 

「滅びよ豊臣秀吉!!」

 

 

ただ向かってくるだけで刀から出づる風圧、剣圧が直に伝わる。一度斬られれば、木綿豆腐のように斬り刻まれてしまうだろう。手持ちの刀でも防ぎきれるか微妙な所。だからこそ良晴は。

 

 

 

 

 

 

「妖力波!!!」

 

 

 

 

 

 

かつて後鬼こと人狼オルトロスが松山主水に対して放った技。自身の持つ魔力や妖力を波動として撃ち出す必殺技。例えるならば破壊光線。全てを焼き尽くす炎の剣。

 

 

「がふっ!!!?」

 

 

波動は広範囲に広がり、主水を一撃で風化させたものと同等とは思えなかった。波動があちこちにまだらに飛び散り、幸村自身に与えたダメージは微量なものだっただろう。にもかかわらず、幸村の身に着ける防具を軽々と削りとるだけの能力はあった。だがそこまで。幸村を気絶させるだけに留まり、あまり高い効果は見受けられなかった。

 

 

「パッと見外傷はなし。脳へのダメージもなさそうだな。真田幸村捕獲完了」

 

「「..........」」

 

 

正則清正は複雑な心境でそれを見ていた。

 

 

「お前らはどうする?真田幸村を連れて行かれないよう、抵抗でもするか?」

 

「遠慮しておきます。私とて吸血鬼ですが、あくまで眷属。天龍様と匹敵すると思われる貴方様の敵になりますまい。それはこの直竜とて同じ事。まだ調整段階である彼女をここで"壊す"わけにはいきますまい」

 

 

順慶が言う。

 

 

「賢明な判断だ」

 

「ですが覚えておいて下さいませ。天龍様はあれで人情にお熱き御方。仲間の仇討ちは全力を以って行う事でしょう。それも幸村殿を捕虜とされたとなれば、血気となった魔獣の軍団が貴方の大坂に攻め込み、町ごと飲み込む事となるでしょう。それでも宜しいのであればどうぞ」

 

「その前に返り討ちにしてやるさ」

 

「ふふっ.....」

 

 

順慶が直竜を連れて撤退する。

 

 

「お兄ちゃん.....」

 

「兄者.....」

 

「どうしたお前ら?.....おっ、正宗は無傷みてぇだな。流石は名刀!」

 

 

気絶した真田幸村を看ている。

 

 

「お兄ちゃんがさっき言ってた、市松達を駒として見てるって本当なの!?」

 

「兄者、外道!」

 

「あのなぁ.....」

 

 

良晴は溜息をついて答える。

 

 

「嘘じゃなきゃ、あんな事言わねぇよ」

 

「「ふぇっ!?」」

 

「"一部の人間"を除いて、人間ってのは感情が高まりまくってる時が一番隙が出て弱くなるんだ。確かに真田幸村は自称するだけあって、人外の化物にも引けを取らない才能を持っていた。戦いのセンスは一流だ。だからこそ挑発した。怒りに任せて猪突猛進に突っ込んで来たところに確実に相手を鎮圧できる技を放ってやったってわけ」

 

「.........................さすがお兄ちゃん!」

 

「さすがお兄様!」

 

「調子いいなお前ら.....」

 

「てっきり騙されちゃったのよさ!」

 

「真顔の、大嘘付ける兄者、素敵!」

 

「へいへい」

 

 

 

 

 

 

まっ、表向きはそういう風にしておくか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『それこそ貴様がついさっき覚悟に決めた決意であろう!ただの本音ではないのか?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スピーカーを通したような、大きな音声。良晴軍側からその声は聞こえた。

 

 

「何だアレは!!!?」

 

 

天龍は大型の車両に乗っていた。

大型作業車に高速回転する鉤爪が装備。

鉤爪で砕いたものを噴出する管。これは.....

 

 

「除雪車!?」

 

 

いや違う。北海道とかの大雪注意報等でニュースに出ていたような除雪車とは明らかに違う。全体的に通常より大型の車体であり、鉤爪もより強度であり、"雪や氷なんかよりもずっと硬いものを砕く為"に強靭な刃とモーターが使われている。あれは.....

 

 

「.....除肉.....車」

 

「ひえぇああああぁぁぁ!!!」

 

「助けてくんろ!助けてくんろ!

あああああああああああぁぁぁぁぁ!!!」

 

「魔王じゃ!魔王に楯突いた罰があたったんじゃ!」

 

 

次々に良晴軍の兵を巻き込み、ロータリーにて粉砕し、その血肉を噴出口から兵達に噴きかける。しかもその徐肉車は1台に留まらずにあちこちで出動し、殺戮行為を行っている。良晴軍は大パニックだ。

 

 

「なんて奴だ.....なんて酷い事を.....」

 

 

ワナワナと震える良晴は右手に力を加える。

 

 

「召喚!!」

 

 

良晴が召喚したものは擲弾銃。通称、グレネードランチャー。タイプは『グレネードランチャーM79』。良晴は擲弾を装填し、有無を言わずに天龍の乗る徐肉車に向けて発砲した。

その名の通り擲弾、つまりは手榴弾等を発射する小型のバズーカのようなもの。発射された擲弾は真っ直ぐ徐肉車に向かっていき、直撃。直後に爆発した。衝撃でエンジンが故障し、ロータリーの駆動が止まる。

 

 

『ありっ?』

 

 

スピーカーで天龍が混乱しているのが分かる。良晴は無言で次段を装填する。中折式の単発銃なのだ。

 

 

『ちょっ!?タンマタンマ!!』

 

 

良晴は無言で発砲する。

 

 

『やばいよやばいよ〜!』

 

 

良晴は無言で(以下略)

 

 

『やっべ!中まで引火し始めた!』

 

 

良晴は無言(以下略)

 

 

『熱っつ!?皮膚が燃える皮膚燃える!!』

 

 

良晴は(以下略)

 

 

『やべーよ。心臓こそ術で守れてるけど、今はもう焦げた皮と骨だけだわ』

 

 

(以下略)

 

 

『ウザいし、もう出るか』

 

 

爆破炎上する徐肉車の中から、動く焼死体が飛び出てくる。外に脱出した途端、焼け焦げた皮膚やら内臓が超速再生し、天龍の姿になる。だが、服までは再生されなかった為、全裸。しかも女性体だった。

 

 

「むっ?」

 

「そういや、俺のこれはまだ見せてなかったな。天竜と朧が融合した事で生まれたのがこの"私"、天龍。肉体のベースは朧だからね。女の子とヤる時以外は女性体なの。体格的には男物の服着るだけで男性体として見せる事ができるのよ」

 

 

会話の途中で天龍の口調が女性のものになる。その最中に愛用の白軍服を召喚し、それを着用する。

 

 

「ふん、俺には知ったこっちゃない」

 

「えっ?」

 

「ん?」

 

「あー、そっか。あの時は化粧してたし分かんないか。」

 

「はぁ!?一体、何言ってんだよ!」

 

「いや、この事は私自身あんまり思い出したくないし、君の尊厳を傷付ける可能性もあるから、内緒にしておくよ」

 

「??」

 

「まぁ、いいさ。とりあえずさっさとやろうぜ。俺らの目的は元々1つだろ?」

 

 

奴の口調がまた男のものになる。

 

 

「あぁそうだな。互いがいくら戦力を増やそうとも、俺かお前が大将をぶっ殺せば、それで戦争は終わる」

 

「どうかな?」

 

「何っ!?」

 

「よちはるうじぃ〜!!」

 

 

蜂須賀小六が来る。

 

 

「どうした小六!?」

 

「四国が.....ちょうしょきゃべがみゅほん!!」

 

「長宗我部...........もっ元親が謀反!?」

 

 

何でだ!?何だって今になって!?戦況は今こそこちらに傾いている。天龍に復讐したいという共通意志によって同盟を組んでいたはずなのに。

 

 

「四国のうち、没収した三国を返却したんだ。そうしたらすぐに寝返ってくれたぜ?」

 

「つっ.....!?」

 

 

しまった!良晴はそう思う。良晴は元親と同盟を組むにあたって、四国の没収された残り三国の返還を彼女に約束していたのだ。しかしそれは、あくまで天龍軍を一掃した後のご褒美のようなもの。確実性はない。

ところが、それを予想してか天龍は先に四国を返還してしまった。天龍から取り返す予定だった四国を天龍本人から還されたのだ。

つまり、元親には天龍と争う理由が消失してしまったのだ。しかし元親は天龍に個人的な恨みを持っていたはず。弟を殺された事だ。天龍こそ弟の仇討ちなんだ!

 

 

「.....................違う!」

 

 

何馬鹿なことを言っているんだ豊臣良晴!

彼女の弟屠ったのは島津家久。天龍はあくまで彼が討たれるキッカケとなった戦争を引き起こしたに関わらず、元親が恨むべき相手は元々は島津家だったはずだ。しかし家久は天龍に討たれた。正確には義妹の秀秋にだが.....そもそもあの子が何故そんな大役を?ともかく、弟の仇討ちは天龍によって果たされたのだ。その後の義久や義弘達に対する嫌がらせだってその一環だろう。その際に天龍は元親と何らかの話し合いをしたのだろう。何を話したかは知らないが、その際にすでに決着を付けたのだろう。

何だよ.....元親は最初からあっち側だったてぇ話じゃないか。そもそも元親は天龍の側室なんだぜ?俺側に付いてた事こそ不思議な話だったんだ。俺だって勢いだけで元親を丸め込んだに過ぎない。今まで妹みたいな存在として扱ってきたからきっと協力してくれると信じて.....でもあいつは迷っててたんだ。だから兵を出すのも渋々だった。ところが今回の四国返還で踏ん切りが付いたんだ。だから天龍を選んだ。天龍こそが己を受け入れてくれる存在であると確信したんだ。

 

 

「ちっ!」

 

 

慌てて電話をかける。敵前でこの行動は異常かもしれないが、緊急事態だ。天龍もまた余裕な表情でニヤニヤとはにかんでいる。

 

 

 

 

「はぁっ!?それはどういう事だ隆景!?」

 

 

四国の対処で小早川隆景に電話をかけた直後だ。

 

 

『言った通りよ。毛利家はこの戦から一切手を引くわ』

 

「馬鹿が!それがどういう状況か分かって言ってんのか!?あとちょっとだ!あとちょっとで天龍を倒せるんだ!そんな所で毛利に抜けられたら戦況が完全にひっくり返っちまう!戦争に負けちまうんだよ!真田軍が動揺してる隙をついて俺達全軍と、前々から話していた東北の伊達とで天龍軍を関東まで一気に追い詰められるんだよ!」

 

『..........』

 

「手前ぇ巫山戯んなよ!!!誰があれだけ多額の援助金を毛利家に支払ったと思ってるんだ!!天龍との関係が切られて困ってる所を俺が拾ってやったんじゃねぇか!それを仇で返すってぇのかよ!!おい聞いてんのか!?この戦争に負けたら手前ぇのせいだぞ!?おい隆景!!返事しやがれよ糞ったれがぁ!!!」

 

 

 

 

ブツッという音と共に、通話が途切れる。

 

 

 

 

「糞ったれ!!」

 

「ノンノン。駄目じゃあないか女の子にそんな暴言吐いちゃあ。電話切られるのだって当たり前当たり前。特に隆景なんてデリケートなんだから、男側が気遣ってやんないとぉ〜。だからモテないんだよ。見た目や中身じゃなくて権力でしか釣れないんだよぉ」

 

「腐れ外道め!お前にだけは言われたくない!!」

 

「ふくくくくくくくく.....」

 

 

とはいえ、毛利の裏切りは仕方無いものがあった。元より毛利家は天龍側の立場であったのだ。しかし近畿を良晴が、四国を長宗我部が、南九州を島津が抑えた事により、毛利包囲網が完成してしまったのだ。頼りの天龍は関東に移動。毛利に逃げ道はなかった。だからこそ良晴側に付いたまで。毛利家はあくまでお家大事の為、あくまで仕方無くであるが.....

だが、今回の長宗我部謀反に基づいてその包囲網が崩れた。毛利家が寝返る好機を与えてしまったのだ。長宗我部、毛利が相次いで天龍に付いた。北九州の大友も加えれば、逆に包囲されてるのは島津の方だ!

 

 

「当然、琉球にも手を回してんだろ?」

 

「あぁ、琉球海軍が東シナ海一体を包囲してる。明海軍もいるだろうから迂闊には動けんだろうな。制海権は我らにある」

 

「そんな..........いや、まだある!俺等にはまだ好機が!」

 

「上杉か?」

 

「なっ!?」

 

「上杉と手を組み、我が軍を関白軍で惹きつけ、上杉や伊達が関東を追い詰め、我らの本拠地を奪う。本当の前衛は上杉の方。いい策略だな。俺だって同じ立場であるならば似た策略を思いついたであろう。だが良案であればある程、読みやすいものはないよ」

 

「なんだとっ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

上杉軍。

 

 

「何故だ。今関東を守っているのは茶人大名の古田織部のはず。いくら戦力やら屈強な城やらで守ろうとも、優れた指揮官なしに、ここまで強固な守備戦ができるなど.....」

 

「ひっ、姫ぇぇぇぇぇ!!!」

 

 

前線に出ていた直江兼続が本陣に戻ってくる。

 

 

「どうであった。敵の戦況は?」

 

「そっ、それが!.....関東軍の大将は、古田織部ではありません!」

 

「何っ?では一体誰なのだ?」

 

 

兼続は一度息を整え、発言する。

 

 

 

 

「ほっ、北条..........北条氏康です!」

 

 

 

 

「...........何だと!?」

 

 

一瞬思考が遅れる。一番想像していなかった人物が出てきたからだ。

 

 

「奴は3年前の小田原征伐にて記憶を失い、以降は再建された小田原城にてずっと引き篭もっていたはずだ!そんな奴がどうして今になって!?」

 

「分かりませぬ。ですが、北条氏康の報せはずっとあの豊臣秀長から発せられていたもの。そもそも、記憶を喪失していたという事実そのものが偽りだったのでは!?」

 

「まっ、また奴か!この上杉を幾度となく謀りおって.....あの下郎め!」

 

「おいどうする謙信の姐さん。伊達が反撃を喰らってやばそうだぜ?」

 

 

上杉の客将、前田慶次が言う。

 

 

「残念ながら私に北条を討つ事はできぬ。討った過去を持つ豊臣秀長の息の掛かった北条など尚更だ!

だから待つしかない、関白殿下が.....

良晴殿が好機を作るその時まで!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうするよ良晴ぅ?長宗我部と毛利から見放され、上杉と伊達は当てに出来ない。徳川も大忙し。犬千代は越中攻めに手を拱いている。他に打つ手はあるかぁ?」

 

「うっ.....打つ手はあるさ。ここでお前を.....」

 

「大将の俺を討てば一見落着か?」

 

「うぅ.....」

 

「学習しない奴だ。それが最も困難である事を一番理解しているくせに。実力で倒せないから集団戦に出た。実力で倒せないから戦争という手段を取った。これは最初から逃げを目的としていたんだ。お前の心の弱さが具現化した戦いだったんだ。お前が負けるのは必然だったんだよ」

 

「黙れ黙れ黙れえええぇぇえええ!!!」

 

「その程度か貴様の憤怒の咆哮は!!

その程度の力で俺を殺すとは笑止千万!!」

 

「黙れっつてんだろ!!!!」

 

 

良晴が刀を抜いて突進してくる。

 

 

「くひひひ.....」

 

 

天龍は悠然とそれを迎え撃つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

甲斐。

 

 

「ついにぶつかったか.....あの2人が」

 

「はい」

 

「昌幸に連絡を取れ。彼女なら分かってくれる」

 

「はっ!」

 

 

命令された武将、山県昌景が応える。

 

 

「止めさせなければならない。彼等はまだ争うべきではないのだ。この日の本の為にも、彼等の為にもな」

 

「はい.....」

 

「私の寿命は残り少ないだろう。だからこそ、その限られた寿命の中で私は最後の責務を全うしたい。誰も彼等を止めないのなら、蚊帳の外にいる私が2人を止めなければならないのだ。それがきっと、私の最後の指名なのだ」

 

「姫.....」

 

「ふっ.....因果なものよう。相良良晴という男に目を掛けるも振られ、信奈に持っていかれ、続いて目を掛けた羽柴天竜には裏切られ、彼の家臣にまで墜とされた。その後不治の病になり、死に行くのを待つばかり。

そんな私があの2人を救う為に尽力しようとはね。アッハッハッハッハッハ!!いやはや、面白い面白い!!」

 

「姫様、身体に障ります.....」

 

「そう言うな。これが最期なのだ。

私はただでは死なぬ。

黄泉に逝くには未練が多過ぎる。

これが最期だ。これを最期に散るとしよう!」

 

 

 

 

元、最強の大名が立ち上がった。

 

 

 

 

「見せてやろう!

この武田信玄の最期の散り様を!!」

 

 

 




とうとう2人の主人公の一騎打ちが始まりました。かと思えば、武田信玄が介入どうなるこの物語!?
次回予告
刀対刀
〜奇跡は起こるのではなく起こすもの〜

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