プレイして気付いたのですが、天龍と朧というキャラがいて驚きました。2人の名前は戦艦から取ったわけではないので新鮮でしたね。今の所お気に入りは「扶桑」です。
そういえば改正版ですが、面倒臭いので没のしました。
本編を地道に治す事にします。
分かり易いように(改)マークでもつけときます
第八十六話 王の采配
ここで、賤ヶ岳の合戦の後日談を執筆しよう。
まずは佐久間盛政軍。竹中半兵衛の地雷作戦により、柴田騎馬隊の大部分を壊滅させられた彼は、続く黒田官兵衛による焙烙玉の投石により、それ以上の戦闘行為が不可能だと悟り、関白軍に対し全面降伏。武装解除をし、戦線を離脱する事となる。盛政は切腹を申し出た。
しかし、賤ヶ岳における武勇を知る者らは彼の命を惜しみ、敵に関わらず、彼の存命を願い出る者が多く出た。しかし、盛政は切腹以外の処分を断固拒否した。
最終決定権は良晴にある。彼が下した命令は.....
『監禁』だった。
「なん.....だと?」
「佐久間盛政は監禁とする。自害できるような道具類は一切与えず、我が兵として精進するように改心するまで、牢屋に入れておけ。食事を拒否する場合は、薬漬けにしてでも飯を詰め込む。絶対に死なす事は許さない」
武士の魂なども完全に無視した処断である。
「きっ、貴様ぁぁぁ!!!!」
良晴に飛び掛かろうとする盛政だったが、周りの兵に数人掛かりで取り押さえられてしまう。
「貴様に!貴様にもののふの魂は無いのかぁ!!」
「生憎、俺は武家の生まれじゃないんでね」
「下衆め!!」
盛政は良晴に唾を吐きかけるが、良晴はなんとその唾を持っていた布で弾き返し、盛政にぶつける。使った布はその場に捨ててしまった。
「豊臣秀吉〜!!貴様、勝家様を斬ったらしいなぁ!!」
真実では勝家は切腹で果てたのだが、このような噂が流れてしまっている。良晴が北ノ庄城に乗り込み、そのまま城を全焼させてしまた事が原因であろう。
「あれ程姫武将を擁護していた男が!!元は仲間で深い関係にもあった姫武将に手をかけるとは何事かぁ!!!」
これは苦し紛れの暴言だった。普通なら聞き流すだろう。もしくは反対意見を述べるべき。だが、あろう事か良晴は。
「それが何だ?」
そう吐き捨てた。
「柴田勝家は主君でもあるこの関白に楯突いた。それだけで死罪に値しよう。昔の関係など意味はない。邪魔だから斬ったそれだけだ」
「貴様.....貴様に人の心は無いのかぁ!!」
「生憎、人間はとうに辞めている。立ちはだかる敵の"駒"を獲った。ただそれだけだ」
「こっ、駒.....だとう?」
この発言については、周りにいた良晴直属の家臣まで肝を冷やした。元は穏健派だった彼は、怒りと復讐心、怨念に喰われ、その様はまるで.....
「魔王め!」
盛政が言った。
「魔王め!醜悪な魔王め!下劣な魔王め!!
世に混乱を齎し、人類に不幸を齎す害虫め!!」
この戦国時代における『魔王』という名称。それは最強の人物に与えられる愛称ではない。どのような人物にもどのような生き物よりも醜悪であり、下劣であり、外道。誰からも嫌われ、疎まれ、恐れ慄かれ、存在すらも恨まれる、完全な悪役に対して与えられる蔑称。
「俺が.....魔王だと?」
良晴がその言葉にワナワナと震え始めた。周りは彼が怒っているのかと思っていた。だが、違った。良晴は怒っているのではなかった。彼は.....
「ぷっくくくくくくくくくく.....」
笑っていた。
「これ俺が魔王か!太閤天龍を魔王と断定し、それを討たんと正義を掲げて出陣したこの俺が!魔王か!!なんて素晴らしい!!素晴らしいまでに虫唾が走る!
ふっくくくくくく.....はっはっはっははははははははははははは!!!!!!!」
高笑いをあげる良晴。その太閤を彷彿させる異様な雰囲気に、誰もが息を呑んだ。
「せっ、戦国の世が生んだ化物め!!」
「ふんっ」
良晴が盛政の顔面を蹴り飛ばす。
「がぐっ!!?」
「牢にブチ込んでおけ!」
連れて行かれる盛政。周りの家臣は良晴の存在にただ、嫌な汗をかく。
伊勢にて。長島城に立て籠っていた滝川一益であったが、織田信奈軍が長島城を包囲した事で滝川軍の士気は急激に低下。更に、柴田勝家が北ノ庄で討たれたという情報が入り、兵は戦意すら消滅し、一益が降伏を決断するだけとなっていた。
「ふむぅ.....」
「ひっ、姫!織田信奈が!この城に!!」
「なんじゃと!!?」
九鬼嘉隆より情報を受けた一益は急ぎ足にて元主君、信奈のもとへ向かった。
「来たわね、左近」
信奈は堂々とそこに座していた。
「の.....信奈ちゃん」
「あら?まだその呼び方をされるなんて思ってなかったわ。ふふっ、『第六天魔王織田信奈』の名前がまだ残っていたお陰で、たった五千の兵なのに、貴方や勘十郎を抑える事ができた。織田信奈もそろそろ年貢の納め時かしらね」
「ふぐぅ」
「安心して。私は貴方を責めに来たんじゃないの。私も貴方も予測できない現状に右往左往してる立場だしね」
「信奈ちゃん.....」
「ここ最近の動きは特におかしい。まるで、予め決められていたかの様に、世界が良晴派か天龍派に別れている。貴方やレオンのように天龍に付いた者もいれば、上杉や島津、長宗我部のように良晴に付いた者もいる。まるでこの日の本の真の支配者を決める最後の大戦であるかのように.....
それに織田家が入れなかった事には歯痒く思うけどね」
「むぅ」
「それとね左近。あんた天龍に騙されてるわよ?」
「えっ?」
「前の楢柴肩衝事件の事よ。私もあれには責任を感じて、利休が持ってきた楢柴肩衝についてちゃんと調べたの」
すると信奈は懐から何かを取り出す。
「それは?」
「楢柴肩衝の破片よ」
「えっ!?」
「利休がいつの間にか処分していたのよ。なのに、利休は今も楢柴肩衝を所有している。これがどういう意味か分かる?」
「てんてんが姫に渡した楢柴は.....偽物?」
「えぇ。偽物を貴方に渡し、利休が貴方からそれを強奪する。それを私に渡す事で、私から左近を引き離そうとしたのね。本当に小賢しい!」
「そんな.....てんてんが.....」
「左近。貴方には本当に酷い事をしたと思ってる。いくら裏に天龍の陰謀が隠されていたとはいえ、その罪は軽いものではないわ。でもね、でもね左近。されでも私は貴方を心の底から想ってる。家臣としてじゃなく、妹として、家族として。...........お願い。戻ってきてちょうだい」
信奈が涙を流しながら頭を下げた。一益は慌てて彼女を起こす。
「もういいのじゃ信奈ちゃん。姫は元より誰も恨んではおらぬ。誰にも怒ってはおらぬ。てんてんだって、姫に嘘を付いていたとはいえ、あやつとの友情が丸きり偽りであるとも思えぬ。当然信奈ちゃんともじゃ」
「左近.....」
「信奈ちゃん.....実は言っておく事がある」
「何?」
「姫は姫巫女。いや、天皇陛下と姉妹なのじゃ」
「えっ!?」
「双子の妹なのじゃ。3年程前に陛下に直接会って、本人から直接聞いたのじゃ。思えば、姫の生まれつき持つ不思議な力も皇族だけが持つ遺伝的な能力なのかもしれぬ」
「ちょっと待って!その事を他に知ってるのは!?」
「えぇと、よっしーとてんてんとくっきーとあけっちーとくっきーの子分達と、せんちゃんと死んだまろとかじゃったか?」
「か、かなりいるわね.....渾名じゃ分からないからちゃんと名前で教えて」
「良晴、天龍、嘉隆、光秀、嘉隆の子分、利休、近衛。後何人かいた気がするけど覚えてないのじゃ。何しろ、"ご先祖様"が大勢の前で暴露してしまって.....」
「ご先祖様って!?」
「天照大御神様」
「..........はぁぁぁぁぁ!!!?」
信奈が驚くのも無理はない。そのような類いに彼女はほとんど関わっていないのだ。天龍がドラキュラであるという話も、何となくにしか理解していない。吸血鬼も妖怪の一種だと思っている。
「あんた神様に会ったの!?天龍みたく、自称神様とかじゃなくて!?」
「本物なのじゃ!瀬戸内海近辺でうろちょろしてたくっきーの船を一気に明まで飛ばしてくれたのじゃ!」
「そういえば、前将軍を明まで向かいに行ったとか言ってたけど、そんな凄い事になってたのね.....」
「そんでもって、明の軍船に追っかけられてた姫達を助ける為に、巨大な化け蛸を召喚して、明の軍船を壊滅させてたのじゃ!」
「何それ.....」
正確には、一益達を使って明軍に喧嘩を売って遊んでいたアマテラスだったが、敵の砲弾が直撃して大怪我を負った腹いせに皆殺しにしたというのが真実だ。
「でも、てんてんとご先祖様が仲が悪くなってしまったらしいのじゃ。この間聞いたのじゃが、てんてんがもう一人のてんてんと合体して、超てんてんになって、ご先祖様をバラバラにしたらしいのじゃ」
「全然分からない.....つまり天龍が神様を殺しちゃったの?」
「違うのじゃ。ご先祖様はどこにでもいて、どこにもいない不確かな存在だから、そもそも神様達に死という概念が存在しないらしいのじゃ。だから今も何処かに存在しているらしいのう」
「そういう神道系の話ってややこし過ぎて理解し難いのよね」
「姫も半分も理解してないのじゃ。全部てんてんの受け売りだしのう。とりあえず、それだけ凄い神様の子孫が姫なのじゃと理解しておる♪」
「神様のカの字すら神々しい所がないじゃない」
「むぅ!」
「ぷっ」
「くすくすくす」
2人は笑いだしてしまった。まるでかつての2人のように、本当の姉妹のように。
「ところで左近。勘十郎がどうなってるか分かる?」
「すみすみか.....実を言うと姫にも分からぬ。同じくてんてんに協力していたとはいえ、別々に動いていたからのう。そもそも、彼がてんてんに付いたにのも最近になって初めて知ったのじゃ」
「そうなの?」
「すみすみが信奈ちゃんを裏切った理由.....やはりあ奴の子供達かのう?」
信澄には3人の子供がいる。長女は前から知られている茶々。下の2人は天龍の天下統一後に産まれた双子の初と江だ。因みに、初が女子、江が男子だ。
更に長女の茶々は天龍の息子、豊臣拾秀頼の許嫁。
それを反対していた信奈であったが、天龍が天下人になった事で彼に逆らえなくなり、許嫁どころか婚約関係となってしまったのだ。
「だからって!勘十郎がそんな事で裏切るはずがないわ!あの市だって付いてるのよ?何かあったに違いないわ!」
「その通り、あの男がまたやりました」
「「!?」」
そこに丹羽長秀が入室した。
「たった今戻りました姫。信澄殿率いる美濃勢は島津と徳川軍の猛攻により、一族共々信濃方面へと逃れました。とりあえずは80点です」
「万千代、あの男って天龍でしょ?またあいつが何かやらかしたの!?」
「えぇ、信澄殿の子息3人全員を養子に迎えたのです」
「えっ!?」
「さらに彼の娘、豊臣闇秀勝を信澄殿の長男である江殿の婚約者にしてしまったのです。つまり、信澄殿はあの男に子供全員を人質に取られてしまったのです。恐らく、人質解放の条件こそこの蜂起だったのではないでじょうか?」
「なっ、なんて奴.....」
「政略家としてなら90点各です」
「0点よ!0点!相手ならともかく、自分の子供まで!まだ何も分からない年端の行かぬ幼児をおのが野望の道具にするなんて!」
「信奈ちゃん。この戦国の世では普通ではないのかのう?」
「違う!あいつの場合はそれが異なる!そもそもあいつはこの時代の人間じゃない!人間ですらない!全ての行為に愛を持ってない!その行為に間違って入るとかいう意図を持てない!それが当たり前であるかのように只々邪悪な道を進んでいく。そんな男よあいつは!」
「よく理解しておるな」
「あいつにはいつも煮え湯を飲まされてるからね。でもそれは昔の話。今は.....」
「今の相手はよっしーか」
「そう。天龍の眼中には良晴しか写っていない。この織田信奈はあいつとってはもういない存在。もう敵とすら見られていないわ!」
「信奈ちゃん.....」
「姫.....」
「だからこそそこ隙がある!」
「「!?」」
信奈は立ち上がり、宣言する。
「織田信奈はまだ終わらない!天龍が良晴にしか興味を示せていないこの絶好の機会を突く!油断しているあいつの横腹にキツい一撃を加えてやる!魔王の名は返してもらうわ!」
「姫、では出陣されるのですね!?」
「えぇ、万千代。今の私は何点?」
「70点です」
「..........良くも悪くもない点ねそれ」
「..........むぅ」
「どうしたのよ左近?」
「信奈ちゃん.....信奈ちゃんはいつから『魔王』なんて呼ばれ方をしなくなったのじゃ?」
「えっ?」
「信奈ちゃんは魔王と呼ばれなくなってからよっしーと結婚できたんじゃないのかのう?てんてんが魔王の名称を代替わりしてから.....」
「それってどういう.....」
「もしかしたらてんてんは信奈ちゃんから魔王の名前を奪ったのではなく、その責務を信奈ちゃんの代わりに引き受けたのでは.....」
その時、兵が部屋に飛び込む。
「報告!太閤軍、江戸より出陣!その数11万!」
「なんですって!?」
その驚くべき情報に一益の話は中断させられてしまった。
「左近、話は後よ!まずは目先の化物をどうにかしないといけないわ!」
「うっ、うむ」
「例の政策の件で彼の味方は少なくなっていると聞いていましたが11万は予想外でした。30点です」
「どうせまたそこらの大名を洗脳したんでしょ?六みたいにね!」
信奈は怒りを露わにする。勝家が天龍を洗脳した事も、良晴が勝家を討ったという噂が流れているのにも、彼がそれを認めてしまっているのにも.....
「天龍.....あんただけは私の全身全霊を賭けて殺す!!」
「..........」
誰もが天龍に対して憎しみを抱く中、一益だけがその光景を哀しげに見つめていた。
「哀しいのう......てんてん」
信濃。天龍軍、本陣。
「準備は滞りないか佐吉?」
「えぇ、何時でも"決壊"可能です」
「ふっくく.....今回も水の策略だ。お前にはいいリベンジマッチになるんじゃないのか?」
「りっ、りべ?」
「まぁ、名誉挽回って感じだ」
「ふふっ、そうですね」
石田三成が微笑する。
「はてさて、良晴くんはどう出るかねぇ」
「ふふふ。何もできませんわ。この策略の前には」
同じく信濃。良晴軍。
槍ヶ岳近辺を進行中の良晴である。
「ちっ!六の事があったばかりだってぇのに、何でまたあいつは戦争を起こすんだ!」
天龍は勝家と約束した。戦争のない平和な世界を作ると。にも関わらず、彼は再び蜂起した。
「シム。特に不思議がる事はないんじゃないかな?彼にとっては、戦争に勝つ事こそが平和へ続く道であると捉えているんだろ?なればこそ、柴田勝家との約束の影響も相余ってこの蜂起を早めたんじゃないかな?」
「くすんくすん。あの方らしいと言えばあの方らしいですが」
「くそっ!」
「本当にそうでしょうか?」
この軍には場違いな、中年の西洋人が言う。
「どういう事だ?....."ザビエル"?」
フランシスコ・デ・ザビエル。天龍の宿敵だ。
「Ms,シバタの死も彼によって作られたものだったとすれば?そうなれば、彼の蜂起の意味合いも変わってきます」
「どういう意味だ?」
「貴方はMs,シバタが死の直前に腹の傷から触手を生やし、『覚醒』という名称にて変化しようとしていた。そう語りましたね。だからやむを得ずトドメを刺したと」
「あ.....あぁ」
「吸血鬼にそんな特性はありませんよ?」
「は?」
「執念の強い吸血鬼が死の直前に覚醒するなんて、そんな都合の良い話があるわけ無いじゃないですか?いかに執念が強かろうとも吸血鬼も生物の端くれ。死ぬ時は普通に死にます。肉体を灰に変じてね?」
「ばっ、馬鹿な!?実際に六は本当に覚醒しようとして.....」
「私はドラキュラが誕生する前の、古代から生息する吸血鬼の文献も詳しく存じ上げますが、吸血鬼が死の直前に別種に変身するなど、聞いた事がありません。それはきっとドラキュラの嘘ですね」
「う.....そ?」
「敵であるはずの奴の虚言を信じるとは、貴方も随分と人がいいですねぇ?今まで何度彼に騙された?今まで何度陥れられた?いい加減他人を過剰に信じるのはやめなさい。よもや、彼のようなペテン師を信じるなど自殺行為だ」
「そん.....な!?」
「恐らくきっとMs,シバタの体内にドラキュラの肉片を植え付けていたのでしょう。奴にはそのような特技がある。
触手、ですかぁ...........例えば髪の毛とか?
それをドラキュラが操作し、さも触手が生えているかのように見せた。シナリオはこうです。
『Ms,シバタから触手が生えてきた。これは祟りと言って、このままだと彼女は化物に覚醒してしまう。そうなれば人間の心も残らない化物に。だからこそ人間の心が残ってる間に殺してあげなさい。結果、彼女は秀吉様の手によって殺害される事となった』
かくしてドラキュラの計画は成功した。計画通り"貴方にMs,シバタを殺させる事に成功させた"のです」
「!!?」
「いっ、いくら何でもそれは!」
「太閤殿下が良晴さんに柴田殿をわざと殺させたって言うんですか!?それこそ憶測です!」
官兵衛半兵衛が激しくザビエルを否定する。
だが、とうの良晴はと言うと.....
「天龍に騙された........また騙された.........俺が.....六を殺した..........天龍に殺させられた..........あいつが殺した」
完全にそれを信じ切っていた。
「ザビエル様!いくら何でも酷すぎる!
良晴を何処まで壊す気だ!!」
流石の官兵衛もブチ切れた。宣教師を崇拝する彼女であったが、彼女の中では、フランシスコザビエルは10年以上前に死亡しており、このザビエルは名前を騙ったパチモノの扱いなのだ。しかもザビエルは少し前からずっと良晴に付き纏い、あれこれ進言しては、良晴を凶暴化させようと策謀しているのだ。
「君は黙っていろシメオン。今秀吉様を"治療"しているんだ」
「なっ、なんだって!?」
「本来は滅ぼされるべき人狼、それを魔を討つ神の剣として整形しているんだ。これは神命。それを邪魔する事は神に対する冒涜。ドラキュラと同等の扱いをする事になるよ?」
「っ.....!?」
「それに、そろそろだしね」
「そろそろって.....」
その時だ。各所で爆音が鳴り響き、それに乗じて尋常ならない地響きが辺りから強く伝わる。地響きは引くかと思われたが、むしろ次第に大きくなるばかり。
その時、使番が飛び込む。
「報告します!!突如、土砂崩れが発生!!」
「「土砂崩れ!!?」」
両兵衛が口を揃えて叫ぶ。
「土砂は水分を多く含んでおり、濁流となって我が軍に壊滅的打撃を与えつつあります!!」
「水だって!?こんな山だらけ岩だらけの土地の何処に水があるんだい!?」
「恐らくこれは人為的に起こされたもの.....ですが、どうやってこの様な大規模に............はっ!?」
半兵衛が何かに気づく。
「まさか.....官兵衛!今何月だ!?」
「えっ!?3月ぐらいだけど.....」
「太陰暦じゃない!太陽暦の方だ!!」
「へ!?」
「4月末ですよ。秀吉様」
ザビエルが答えた。
「そうか.....やっぱりそうだ!」
「ちょっと待ってよ!何が分かったんだい!?」
「官兵衛さん.....天龍さんはまた、自然の摂理を利用したんです。今は春。冬にあったものが無くなり、下流に流れてくる季節です」
「はっ!?」
官兵衛も気付いた。
「なんて事だい。それはつまり.....」
「はい。勝家さんは本当に時間稼ぎの囮だったようですね」
「畜生ぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」
「ふくく.....」
良晴が激昂し、ザビエルは微笑しながらそのまま姿を消した。
天龍が使ったのは『雪解け水』。
それを冬の間に堤防を作る事によって堰き止め、多量の水を溜め込んでいたのだ。更に、水の通り道を作るために山岳を地道に削り、土砂が流れやすいように土を耕してまで.....
後はそこに良晴軍が通りかかるのを予測して堤防を決壊。自然の流れによって土砂崩れが発生し、良晴軍を飲み込む。渓谷でもあった為に、逃げる事も叶わずに次々に生き埋めにされる。
だがこの作戦には問題がある。
1つは成功率が低い事。なんとなく造ったのではまず成功しない。数年に渡って何度も統計を繰り返し、何度かの実験を行って初めて成功する高等技術だ。
もう1つは、そもそも良晴軍がこの場所を通る確率が低過ぎる事。良晴軍がここを通る事が100%実証できない限り、この罠は無用の長物となってしまうのだ。
にもかかわらず、天龍は成功させた。
第一にだ。時間的に考えて、この罠を作り始めたのは少なく見積もっても数ヶ月前。つまり.....
天龍と良晴が対立する前。九州征伐以前にはもう、この計画は持ち上がっていた事になる。
「オン・キリクシュチリビキリ・タダノウウン・サラバシャトロダシャヤ・サタンバヤサタンバヤ・ソハタソハタソワカ!!」
半兵衛が巨大な結界を作り出し、土砂を堰き止める。
「わっ、私が時間を稼ぎます!!ふぐっ!.....殿は一早く渓谷を脱出して下さい!!」
「半兵衛.....そんな!」
「安心して下さい.....私はこんな所で死ぬ気なんかサラサラありませんよ?」
半兵衛が無理にでも笑顔を作り、良晴を安心させようとする。
「分かった!行くぞ官兵衛!!」
「しっ、シム!!」
良晴は早馬にて渓谷を駆け出した。
今回は繋ぎの回でしたね。
激戦を繰り広げる天龍と良晴。
立ち上がる織田信奈。
次回はなんとあの人が!?
次回予告
信濃戦争
〜あれらを止められるのはきっと〜