天翔ける龍の伝記   作:瀧龍騎

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ドラキュラZERO見ました〜。数万匹の蝙蝠を操って敵の大軍を蹴散らすシーンが超カッコよかった!

更新もだいぶ遅れましたね。
その分、今回は量が多いので見応えがあると思います。


第八十五話 柴田勝家

「手っ取り早く勝家本人を押さえる」

 

 

作戦会議の冒頭にて、良晴が言う。

 

 

「伊勢での一益の蜂起、越中の成政の蜂起、美濃での勘十郎の蜂起。いずれも無視できない問題ではあるが、その本元は越前の勝家の蜂起がきっかけだ。つまり、勝家さえ倒せば三勢力は勢いを無くすはずだ」

 

「シム。しかし、それも難しい。柴田勝家を相手にするにあたって、一番の問題は佐久間盛政だよ。柴田勝家に勝るとも劣らない武勇を誇り、中川清秀、高山右近を討ち取って、シメオンら黒田軍にも大きな打撃を与えた巨漢さ。あんな男が柴田に付いたなんてね」

 

「半兵衛、何か策略はあるか?」

 

「そうですね.....」

 

「ちょっと待ちたまえ!」

 

「どうした官兵衛?」

 

「何で迷いもなく半兵衛に聞くのさ!

シメオンに聞きたまえよ!半兵衛と違って前線で戦って、実際に戦況を見てきたんだぞ!?」

 

「くすんくすん。別に私は遊んでいたわけでは.....」

 

「何か策略あるのか?」

 

「ふふ〜ん。ちゃんと考えてあるよ!

まずは良晴、君は美濃を攻めるんだ!」

 

「話を聞いてたのか?」

 

「聞いてるよ!!そうじゃなくて『豊臣秀吉が賤ヶ岳を離れて美濃攻めに行ったという状況』を作り出すんだ。

佐久間盛政は柴田勝家と同じく脳筋で猪突猛進であると聞く。だからこそ、君がいなくなった賤ヶ岳を落とすなら今だと考えてまんまと進行してくるだろう。そんな油断してる佐久間盛政を一気に大軍で追い詰めるんだよ!

どうだい、シメオンの策略は!」

 

 

自信満々の官兵衛に対し、苦い表情の2人。

 

 

「官兵衛さん。それは大変素晴らしい策略であると思うのですが、果たしてそう上手くいきますでしょうか?」

 

「どういう事だい半兵衛?」

 

「佐久間盛政さんは豊臣軍12万が真正面からぶつかっても、真逆に押し返す実力の持ち主です。相手に地の利があったとはいえです。そんな相手をただの奇襲で倒し切れますか?」

 

「うぅ.....」

 

「それにです。敵が勝家さん単体ならまだしも、あちらには戦上手の藤堂高虎さんが軍師を務めているんです。奇襲作戦も読まれていると考えた方がいいでしょう」

 

「じゃあどうすればいいんだい!」

 

「逆ギレはいかんよ官兵衛ちゃん。

もっとリラ〜クスしないと」

 

「五月蝿いよ良晴!そういう所は太閤とそっくりだ!」

 

 

いけない。これ以上いじめると泣くな。

 

 

「ですが賤ヶ岳に敵を誘い込む戦法は使えます。それをもっと応用すればいけますよ」

 

「やれるか半兵衛」

 

「はい殿」

 

「うぅぅ!!!」

 

「そうむくれるな官兵衛。活躍できる機会なんていつでも見つけられるだろう」

 

「大体!君が急に賢くなったのが悪いんだ!君と半兵衛が何でも決めちゃうからシメオンの活躍所が全然無くなったんじゃないか!」

 

「そんな事言われても.....」

 

「君は変わり過ぎだよ!5年位前の馬鹿だった君の方が、あれこれ誤魔化せて、そのまま相良家を乗っ取るという手段も取れそうだったのに!」

 

 

なんか下剋上の意思を暴露された。

 

 

「君と信奈様をどうにかして結婚させた後、それを傀儡にシメオンが天下人になる計画だってあったのに.....」

 

 

なんか恐しい野望まで暴露された!

 

 

「なんだよなんだよ有能になっちゃってさ!冷静に戦況を判断して、冷酷に決断して、戦闘時には残酷に敵を追い立て、魔王のように勝利を飾るようになっちゃってさ!知らない間に化物になっちゃって.....」

 

「官兵衛さん!!」

 

 

半兵衛が尖い眼光で睨みつける。

 

 

「うぅぅ.....言い過ぎたよ。謝る」

 

「気にしてないよ官兵衛」

 

 

普段官兵衛は半兵衛に対し対抗意識を燃やし、よく強気に出ているが、半兵衛が逆に怒った場合、たまらず弱くなってしまう。

 

 

 

『ふむゅ。官兵衛は小さい人間なのにゅ』

 

 

 

「「「?」」」

 

『どうしたにゅ?』

 

「誰だお前?」「誰だい君」「どなたですか?」

 

『"すねこすり"だにゅ!!!』

 

「あぁ〜こんなネズミいたなぁ!」

 

「くすくす。すっかり忘れました」

 

「シム。本当にド忘れしていたよ」

 

『官兵衛!!すねこすりは官兵衛と利休に作られたんだにゅ!?』

 

「そだっけ?」

 

『良晴!女難の相の君に取り付いて、君に女の子を近付けさせないようにしていた事を覚えていないのかにゅ!?』

 

「いや〜、今女に困ってないし」

 

『下衆だにゅ!?』

 

「うるさいですよドブネズミ。空気が穢れます」

 

『何故か半兵衛に暴言吐かれたにゅ!!?』

 

「まぁ、ぶっちゃけ今のこの物語にお前が出てきても、使い道ないしなぁ」

 

『メタ発言にゅ!?』

 

「すねこすりだっけ?なんか変身とかってできるか?

ドラキュラに匹敵するような化け鼠とかに」

 

『なれないにゅ!!それにドラキュラって何にゅ!』

 

「ふぇっ!?ドラキュラ知らないの?天龍は?」

 

『誰にゅそれ!』

 

「.....お前、5年間くらい異次元に飛ばされてたんじゃないのか?いつから消えてたんだ?」

 

「シム。松永久秀の蜂起以降見てないね」

 

「ううむ。これは何か偉大な存在に消されていたと考えるしかないな。お前、神様に嫌われてたのか?」

 

『なんでにゅ!』

 

「いや、そんな大事じゃない気がするよ。単純に作者に存在を忘れられてたんじゃないかな?連載1年半目になって突然思い出したとか。というか、今回がこの作品に初登場だよね君は」

 

『またメタ発言にゅ!?』

 

「くすくすっ、もう今回きりで、二度と出ないんじゃないですかぁ?あはははははははは!!!」

 

『うにゅっ!?メタ世界の半兵衛が黒いにゅ!』

 

「文字数勿体無いからバイバイな」

 

『文字数って何にゅ!?』

 

 

 

 

 

メタ終了。

 

 

 

 

 

「それでだ。どう攻めるんだ半兵衛?」

 

「はい。まずは.....」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

柴田軍、本陣。

 

 

「.....で.....で、以上の事を実行してくだされば、この戦力差を埋める事ができましょう」

 

「承知した。ありがたい」

 

 

紅の瞳の勝家が律儀に例を言う。天龍の"再教育"の影響で操り人形のようになってしまっている。

 

 

「ウラド様は何を考えておいでなのか」

 

 

ウラド様が言うには、柴田勝家に施した洗脳はあくまで催眠術的なものであって、いつでも解く事ができるとか。

なら何故柴田勝家を使った?

此度の改革制度によって多くの大名の支持を失った。しかしそれでも、未だ彼に付く強者は多い。何故その者らを使わずに敵を洗脳してまで.....柴田勝家は猛者であれど、猪武者であり、脳が筋肉でできてるような姫武将だ。もっとマシな武将もいただろう。上杉謙信でも洗脳すれば、関白殿下など容易に蹴散らせたろう。

という意思を本人に伝えた所、

「この真意に気づけぬのならまだまだ」

と鼻で笑われてしまった。

 

 

「ううむ」

 

 

あまり深く考えない方がいいかもしれない。あの方は我ら凡人には到底考えつかない思考の持ち主だ。悪く言えば、破綻している。逆にあの人の中身を見ようと探っていては、こちらまで参ってしまう。あの人の口癖の通り、「人が人を完全に理解するなんて不可能」なのだ。

 

 

「私の役目は以上です。ウラド様のお申し付けの通り、私はここで去る事にしますが、柴田様それでよろしいですね?」

 

「相分かった」

 

「では.....」

 

 

高虎は霧のような状態に変じ、消える。

 

 

勝家は感情の亡くした表情で、戦地の方向をじっと見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

佐久間盛政軍。

 

 

「ふんっ!天下の豊臣軍など、太閤殿下無しでは烏合の衆に等しい!全て蹴散らしてくれる!!」

 

 

巨馬に跨り、佐久間盛政率いる軍団が一度退いた良晴軍に再度圧力をかける。柴田軍の多くは織田時代から騎馬隊が中心。鉄砲も装備しているが、勝家が鉄砲をあまり好まず、使い熟せなかった為、あまり積極的に器用したりはしなかったのだ。信奈への建前として、申し分程度に鉄砲の訓練をしていた程度である。その分、騎馬隊を主に訓練していた。

しかしだ。当時は織田の痩せ馬で弱小だった柴田騎馬隊だが、武田信玄が倒れ、彼女が多く所持していた強靭な武田馬が織田に流れたのだ。勝家は歓喜して武田馬を騎馬隊に導入し、自軍の強化に務めた。その結果柴田騎馬隊は、当時の明智鉄砲隊や天竜騎馬鉄砲隊に匹敵する軍隊となっていたのだ。

 

この賤ヶ岳の戦い。兵力こそ良晴側に非常に有利ではあったが、地や兵の強さは柴田側に利があった。極めつけは藤堂高虎の指揮。更には猛将の佐久間盛政が味方についた。

この戦争。柴田の勝ちか.....?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「殿!前軍が体制を崩しつつあります!撤退すべきかと!」

 

「何っ!?」

 

 

盛政に入った悲報である。

 

 

「何を言う!秀吉は恐れをなして賤ヶ岳から逃げ出したのだ!今こそが賤ヶ岳を占領する絶好の機会であろうに!何故に今更になって我が軍の体制が崩れる!?」

 

「てっ、敵が!地面に爆薬を仕掛けていたようで!その爆薬を踏んだ馬の足元から次々に爆発し、その爆音に驚いた他の馬も暴走を始めています!」

 

「何だと!?」

 

 

 

 

 

 

半兵衛の策略。それは何と『地雷作戦』だった。

忍者が使う埋火(うずめび)と呼ばれる爆薬の入った木箱を地面に仕込み、そこを踏めば爆発する地雷に近いものを応用。火薬の量を増やし、本物の地雷に近い威力のものとなっていた。

しかしそれは、人を殺す為の道具ではない。

それに応じて殺傷能力もそこまで高くない。

 

 

 

 

 

 

「ひえ〜!エグい光景だね」

 

 

半兵衛と官兵衛は高台から眺めていた。

 

 

「目的は命を取ることではありません。相手に怪我を負わせることが目的なのです。怪我をすれば、それを治療する人間が必要になる。それだけの手間が必要となる。馬だって、足を怪我しただけで使い物にならなくなる。

それにです。突破力を売りとする騎馬隊には、そんな爆発物が埋まっているような地面は危なくて走れませんし、仮に全ての埋火をを除去した所で、穴ボコだらけの地面はどちらにせよ走れない。

今この場において柴田騎馬隊こそが烏合の衆」

 

「君にしては手段を選ばないやり方だね。昔の君はこんな無差別虐殺的な事は避けていただろう?」

 

 

官兵衛が含みある言い方をする。

 

 

「俺が許可したんだ」

 

「良晴?」

 

「俺は今まで、敵も味方も皆が皆幸せになれる戦争を解決方法を探っていた。だが、そんなものはない。長引く戦争から生まれるものはない。本当に幸せを得たいのであれば、勝てばいい。勝って戦争を早々に終わらせればいい。最早手段は選んでいられないんだ。俺はそれを最も憎むべき敵から教わった。

例え外道に墜ちようと、例え下衆と罵られようとも、俺は勝ち進んでやる。俺が次の天下人だ」

 

 

良晴から黒いオーラのようなものが見えた気がした。

 

 

「殿、私は殿に一生涯の忠誠を誓いました。ですから、殿が何処へ向かおうとも付いていきますし、破滅に向かおうとしているのなら必死で食い止め、正しい方向へ導きます」

 

「全く。主君がここまでしっかりしているのなら、軍師の張り切り場所だってないじゃないか。君が無能でなければ、下剋上の機会だって回ってこないよ」

 

「お嫌いかい?」

 

「いいや?」

 

 

官兵衛は微笑し、軍配を握る。

 

 

「放てぇ!!」

 

 

投石機によって 焙烙玉を次々に投げ込む。

その惨状は時刻絵図だった。

 

 

「悪に墜ちた君も大好きだよ!

鉄砲と弓を雨あられの如く放つんだ!!」

 

「まぁ」

 

「ふっ」

 

 

その時、蜂須賀五右衛門が参上する。

 

 

「良晴氏。柴田軍が越じぇんのきゅたのしょうへじょうへてっちゃいしちゃようじぇごじゃる!」

 

「分かった。越前の北ノ庄城に撤退したんだな」

 

 

人外の力でオンドゥル語を正確に和訳する。

 

 

「行ってください殿!ここは私達に任せて!」

 

「行くんだ良晴!君には全てを変える天運がある!」

 

「半兵衛、官兵衛.....分かった!行くぞ小六!」

 

「御意!」

 

 

良晴は単独で前線に駆け出した。

 

 

敵兵とぶつかるのを避ける為、良晴は森に飛び込む。ろくに道も整理されていない状態だ。

 

 

「変身!」

 

 

良晴は四足歩行モードの人狼に変幻し、獣道を駆ける。

 

 

『小六乗れ!もっとスピードを出す!』

 

「わっ、分かったでごじゃる!」

 

 

小六が良晴に乗りかかる。

 

 

『痛くねぇから!毛を掴んでもいいからもっとしっかりしがみつけ!振動で振り落とされるぞ!』

 

「ぎょっ、御意!!」

 

『おらっ、飛ぶぞ!!』

 

「ひゃっ!!?」

 

 

良晴は崖から飛び降りる。通常の動物なら落ちたら即死レベルの高さだ。しかし、良晴は難なく崖を下り、ひたすら越前の北ノ庄城を目指す。

 

 

『あれは!?』

 

 

金ケ崎にてとある洞窟を見つける。金ケ崎の退き口にて良晴が死にかけ、十兵衛に介抱された洞窟だ。

 

 

『懐かしいな。あれから4年半か』

 

「良晴氏!」

 

『あぁ、済まない』

 

 

良晴は再び駆け出す。感傷に浸っている場合ではない。一刻も早く勝家と会い、倒さなければ。そして彼女にかけられた洗脳を解き、救出しなければならない。

 

 

『アオオオオォォォォォォォォォォン!!!』

 

「ちゃっ、よちひゃるうじ!もっとゆっきゅり!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

越前、北ノ庄城。

一足早く撤退した柴田勝家は城の守りを固める事に躍起になっていた。洗脳の影響で感情がないにもかかわらず、その顔には焦りが見えた。

まず第一に、前田利家が寝返った。しかも犬千代がそのまま振り返って攻撃してきたのだ。その後佐久間軍が壊滅し、盛政が捕らえられたのだ。それだけでない。頼りだった伊勢の一益は、海路から突如現れた丹羽長秀が率いる島津軍が、伊勢に猛攻をかけているのだ。美濃の勘十郎には徳川軍が対処。

さらに驚くべき事は、織田信奈だ。

今まで鳴りを潜めていた彼女が突如動いたのだ。その影響で一益も勘十郎も勢いを衰えさせ、越中の成政ですら動揺した。動揺したのは彼女らだけでない。勝家もだ。

洗脳されていても、彼女の内心では心から信奈を慕っている。だからこそ、信奈が敵になった事で勝家はかつてない程恐怖した。それによって味方の盛政を見捨ててでもこの越前まで逃げ出したのだ。

 

北ノ庄城に戻った勝家は天守閣に逃げ込み、そのまま引き篭もってしまった。そしてブツブツと呟き続ける。

 

 

「あたしは悪くない.....あたしは悪くない.....

あたしは悪くない.....あたしは悪くない.....」

 

 

爪をガジガジと噛む。感情がわずかだが浮き彫りになっているのかもしれない。

 

 

『勝家えええええぇぇぇ!!!!』

 

 

城の外から人間離れした声がしたかと思うと、窓を突き破って巨大な狼が飛び込んで来たのだ。

 

 

「!!!?」

 

『よう、会いたかったぜ勝家』

 

「よし.....はる.....?」

 

『降伏しろ勝家。お前を殺したくない』

 

「誰が.....」

 

 

その時、城内で爆発音がする。

 

 

「なっ.....!?」

 

『小六があちこちに焙烙玉を投げてんだ。時間次第でこの城は火達磨になるぜ?』

 

「何っ!?」

 

『安心しろ。川並衆に城内の人間の救助をさせてる。まぁ、それでも抵抗する奴、自害する奴はいるから、そいつらの命までは保証しないがな』

 

 

以前の良晴からは考えられない台詞だ。

 

 

「お前はあたしが殺す。豊臣良晴秀吉」

 

 

そう言い、愛槍のハルバートを構える勝家。

 

 

『好きだったよ.....六』

 

 

人狼の状態で構える良晴。

 

 

『ガアアアアアアアアァァァァ!!!!』

 

 

先に動いたのは良晴。目にも止まらぬスピードで勝家に飛び込む。ところが!

 

 

「ふふっ」

 

『何っ!?』

 

 

微笑をしながら勝家が捌いた。回るように、流れるように良晴の後方へ移動し、ガラ空きになった良晴の背中にハルバートを振るう。

 

 

『こなくそっ!!』

 

 

地面を蹴り、空に逃げる良晴。

 

 

「逃さない!」

 

 

勝家もまた飛び上がり、回転しながら良晴に追い討ちをかける。

 

 

『かぐあぁっ!!?』

 

 

良晴の横腹をハルバートが抉り斬った。

その勢いで彼を壁に叩きつける。

 

 

『げふっ!!.....銀製か!?』

 

 

吐血をする。横腹が焼けるように熱い。人狼は吸血鬼以上に銀に敏感だ。場所が悪ければ即死する程に。案の定、良晴の怪我もそこから肉繊維が腐り始めている。

 

 

『ちっ.....敵になった途端にこれか。味方であった時がいかにいい女だったか、今になって理解するぜ』

 

 

良晴は瞬時に体制を立て直し、再び勝家に突撃する。今度は彼方此方に高速移動を繰り返し、まるで瞬間移動をしているかのように見える。それを勝家は。

 

 

「噴っ!!!」

 

 

床を踏みつけた。

その衝撃波は凄まじいものとなり、木っ端微塵となった床の木材が周囲に散乱する。その木材が周囲を高速移動する良晴を傷付けた。

 

 

『くっ.....!?』

 

「見つけた」

 

 

ハルバートが振るわれた。良晴はなんとかそれを避ける。そして、ハルバートの次なる攻撃を避ける為、勝家の懐に飛び込む。しかし。

 

 

「甘い」

 

『がぁっっぅぃぅ!!!!?』

 

 

真正面から蹴られた。良晴の肋骨の過半数が折れる。骨が内蔵に突き刺さり、大ダメージを受ける。吸血鬼の蹴りはショットガン並の威力だ。

そして再び吹き飛ばされる。

 

 

『がふっ..........全く、本当にいい女だ』

 

 

吸血鬼でも人狼でも、人間から人外になった奴の力の差は、人外になってからの戦闘の経験の量から生まれる。しかしもう一つ。"生前"の力の差が大きく出るという。

良晴が人狼になったのはここ数ヶ月。しかしそれでも数々の戦闘行為を繰り返し、その経験値を高めていった。しかし、勝家は吸血鬼になってから数日のペーパーヴァンパイアだ。そんな奴の能力などたかが知れている。

しかしだ。勝家の能力は良晴のそれを上回っている。良晴が半人狼であるとはいえ、この力の差は異常だ。つまり。

"生前"の能力だけで良晴の能力を上回ったのだ。

 

つまり、時間次第で勝家は最強の吸血鬼にも成り得るという事。パワーだけなら天龍のそれを超える。

 

 

「もう終わりか?」

 

『まさか!』

 

 

良晴は立ち上がり、あろう事か変身を解く。

 

 

「むっ?」

 

「俺としちゃ、こっちの方が慣れてるんでね」

 

 

全裸の良晴。しかし、彼は背中の方から替えの服が出現し、それに着替える。

 

 

「何っ!?」

 

「不思議だろ?変身の度に裸になるのは何かと面倒だからすぐに身に着けたかったってのもあるけれど、一番はあいつへの対抗だがな」

 

 

良晴が右腕に力を込める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「召喚」

 

 

 

 

 

 

 

 

良晴の右手に日本刀が出現した。

 

 

「召喚術!?」

 

「苦労したんだぜ?教えてもらう前にあいつと仲違いしちまったからな。自力で修得すんのに苦労したんだぜ?お陰で奴の召喚術とは違う原理のものになっちまってる」

 

「くっ.....!」

 

 

良晴が刀を構える。

 

 

「人外戦には慣れちゃいないが、刀ならここ3年間修行しまくってるからな。とはいえ、10年以上修行してるお前らからすれば笑いもんかもしれんがな。

それでも.....負けるつもりはない」

 

「そこまで言うなら、やってみろ!」

 

「もうやってるよ」

 

 

勝家の脇から声が聞こえた。直後、良晴が峰打ちで刀を振るってくる。

 

 

「うぐっ!?」

 

 

何とかそれを避け、槍を返す。しかし、斬ったと思われた良晴はそのままで、代わりに真後ろに良晴が出現する。

 

 

「幻術.....いや、残像か!?」

 

 

人狼の力の制御。吸血鬼でも人狼でも、確かにフルパワーになれば無敵の力を得られる。だが、このような繊細な戦闘では、一時的に力を引き出す方が使い勝手がいいのだという。

瞬時に足腰を人狼化する事で、敵の攻撃を避ける。

瞬時に上半身を人狼化する事で.....

 

 

「敵を討ち倒す怪力を得る!」

 

「ちっ.....!?」

 

 

再び峰打ちを打ってくる。勝家はそれをとっさに槍で受け、鍔迫り合いになる。

 

 

「なめてるのか?」

 

「なめてねぇよ。俺がしたいのは"殺し"じゃなくて"倒し"だしな。それはそうと、ちょっと感情戻ってねぇか?」

 

「なっ!?」

 

「はい。隙見っけ」

 

 

再び瞬時に背後へ移動し、峰を打ちつける。

 

 

「貴様っ!!」

 

「それ幻影ね」

 

 

鳩尾。

 

 

「がぁっ!!!?..........このハゲザルッ!!!」

 

「げぐっ!!?」

 

 

顔面を殴られる。歯も顎骨も粉々に碎かれ、又もや壁に叩き付けられた。

 

 

「はぁはぁはぁはぁ...........。!!?」

 

「ふっ.....」

 

 

砂埃が晴れたそこには拳銃を握り、銃口をこちらに向ける良晴の姿があった。

 

 

「ちっ!!」

 

 

良晴はそのまま発砲。彼の持つ『コルト・パイソン』の弾丸6発を全て勝家に撃ち込む。だが、勝家はハルバートを器用に振り回し、弾丸を弾いた。

だが、それは想定済み。

拳銃をその場に捨て、勝家が怯んだ隙を見て前に出る。刀を居合の体制に持ち、唱える。

 

 

「朧月光流.....奥義!」

 

「っ.....!?」

 

 

 

 

 

「如月!!」

 

 

 

 

 

いわゆる、バトル漫画でもよくある「双方が走り出し、中央でぶつかり、すれ違っていく。そして、どちらかが負けて倒れる」展開になった。そして.....

 

 

良晴の背中が割れ、血飛沫が散布する。

 

 

「獲った」

 

「いや、獲られたんだ」

 

 

ハルバートにヒビが入る。

 

 

「何っ!?」

 

 

そのままハルバートが木っ端微塵に砕けた。

朧月光流奥義「如月」

かつて信貴山城にて森水青蘭が丹羽長秀に放った事がある技。敵の持つ獲物を還付無きまでに破壊する。そして.....

 

 

「がぁっ!!?」

 

 

勝家の右腕の肉が分断される。

斬るのは武器だけではない。武器を持つ腕すら斬る。それがこの技の本来の効果。命を奪わず相手を無力化できる。だからこそ良晴はこの技を選んだ。

 

 

「おのれっ!!!」

 

 

だが勝家は左手で小太刀を抜き、扨し掛かってくる。

良晴はその手を捌き、勝家の腹に峰打ちを当てた。

 

 

「かはっ!!?」

 

「ごめん」

 

 

決着はついた。彼女は完全に戦闘不能になったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

〘そこまでだ六〙

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「!?」」

 

 

そこにいたのは蝙蝠。白い蝙蝠。

 

 

〘充分に時間は稼げた。お前の戦争はここまでだ〙

 

 

声は天龍だった。

 

 

「天龍の.....式神!?」

 

 

本物の天龍は関東の江戸城にいた。

 

 

〘お前の力では良晴には勝てん。そこから逃げ出すだけの力はあろう。さっさと戦線離脱しろ〙

 

「天龍!!貴様!!」

 

「断る!!!」

 

「!?」〘!?〙

 

 

叫んだのは勝家だった。

 

 

「あっ、あたしは.....武士としての真剣勝負に敗れた.....そっ、その責務を.....果たさねばならない!!」

 

〘..........。何馬鹿な事を言っているんだ?

これは命令だ。さっさとそこから.....〙

 

 

 

「黙れ!!!!!!!!!」

 

 

 

〘なっ!?〙

 

 

 

地響きが鳴るかのような怒号。天龍の洗脳を執念で跳ね飛ばしているだ。

 

 

「あたしは!!!この柴田勝家はぁぁ!!

貴様如きに操られるような雑兵ではない!!」

 

〘ちっ!〙

 

 

白き蝙蝠が突如変質し、天龍の身体に実体化する。

 

 

〘聞き分けの悪い小娘だ!〙

 

「がぐっ!?............。効くかそんな妖術!!!」

 

〘くっ!〙

 

 

洗脳を強くするが、それでも跳ね飛ばす。

 

 

「あたしは!!おのが生き方を他人に左右されるつもりはない!あたしは!あたしとしての誇りを持って!その責務を全うする!!」

 

 

勝家は左手で小太刀を逆手に持つ。

 

 

〘いかん!〙

 

「.....勝家?」

 

〘良晴!六を止めろ!!このままでは.....〙

 

「なっ!?誰が手前ぇの指図なんか!!」

 

〘馬鹿が!!!六を殺したいのか!!?〙

 

「何だと!?」

 

 

逆手小太刀。これの意味するものとは.....

 

 

「くっ!」

 

「豊臣天龍!!もうあたしは貴様になんかに操られない!もう貴様になんかの玩具にはならない!!貴様のようなのクズに.....」

 

〘六.....〙

 

「ふっ.....」

 

〘!?〙

 

 

終始険しい表情を見せていた勝家であったが、最期に彼に見せた表情はこの上ない程に優しい顔だった。

 

 

「これが柴田勝家の生き様ぞ!!!」

 

〘良晴!!!〙

 

「くそぉ!!」

 

「噴っ!!!」

 

 

再度床を踏み潰した。その衝撃波により、止めに入った良晴は吹き飛ばされてしまった。

 

 

「ぐあっ!!?」

 

〘やめろ六!!!〙

 

「ふっ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

勝家は小太刀を腹に突き刺した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「六!!六!!!」

 

〘六!!!〙

 

 

腹を一文字に斬り裂き、倒れた勝家を2人が囲む。

 

 

「げふっ!!がはっ!!!」

 

「しっかりしろ六!!」

 

〘これは.....〙

 

 

天龍は勝家の小太刀を拾い上げる。それは銀刀だった。

 

 

〘これでは.....もう〙

 

「おい!しっかりしろよ六!!」

 

「へっ、へへ......切腹って、痛いんだな。ヘマする度に.....馬鹿みたいに切腹、切腹なんて叫んでた...........自分が恨めしいな」

 

 

勝家の腹部は腐蝕が始まり、身体全体に崩壊現象が起きていた。

 

 

「良晴..........天龍..........」

 

「!?」〘!?〙

 

「この国に.....平和を.....争いの無い世界を.....あたしみたいな馬鹿が.....無駄に命を散らす事のない世を............生んでくれ..........二人で..........二人なら.....」

 

「天龍.....と?」

 

〘..........〙

 

「頼む。痛くて.....痛くて.....おかしくなりそうだ..........介錯を.....」

 

「っ.....!?」

 

 

するとだ。勝家の崩壊現象が突如治まり、代わりに勝家の腹の傷から触手のようなものが生え始める。

 

 

「これは.....」

 

〘.....覚醒だ〙

 

「覚醒?」

 

〘死の間際でも執念の強過ぎる吸血鬼に、極稀に起こる現象だ。その対象の死後、寄生虫のようにその遺骸を蝕み、別の生命として覚醒する。六の身体を持った.....化物に。『もののけ姫の祟り神』。あれと似たようなものだよ〙

 

「.....そんな」

 

〘小太刀を持て良晴。小太刀で六を刺せ〙

 

「何っ!?」

 

〘六を化物にする気か?理性も持たず、只々、人を喰い殺すだけの、愛をも持たぬ化物に!〙

 

「ぐぐぐ.....」

 

「良晴.....お願いだ」

 

〘良晴!!〙

 

「くそぉ!!」

 

 

良晴は銀の小太刀を掴む。

 

 

「うあああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ.....」

 

 

胸に小太刀を刺され、勝家の祟りも止まった。やがて、勝家の身体が灰の結晶のように崩れていくのが分かる。

 

 

「良晴...........泣くなよ」

 

「うっく.....ぐっ.....うぐっ.....ぐっ.....」

 

「天龍..........後は頼んだよ。人間の未来も、吸血鬼の未来も.....全部お前の手腕に掛かっている」

 

〘分かった。ゆっくりと休め柴田勝家〙

 

「ふっ.....」

 

 

 

【犬猿の 夢路はかなき 龍の名を 

天上にあげよ ほととぎす】

 

 

 

勝家の辞世の句。これだけでは意味は全く伝わらない。だが、良晴を表す"犬猿"と天龍を表す"龍"が入っている事から、彼らに対する想いが込められているのだろう。

 

 

「良き.....人生だった...........有り難うな.....信奈様.....良晴.....天龍.....」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう言い残し、勝家は灰となって死んだ。

享年23歳。短い生涯であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〘げふっ!!!?〙

 

 

勝家が消滅したと同時に、天龍が苦しみだした。そして、天龍は先程の白い蝙蝠に戻ってしまい、更に式札にも戻ってしまった。

 

 

「一体.....何が!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

関東、江戸城。

 

 

「げはぁっ!!!!」

 

 

天龍が胸を抑え、吐血をしながら転げ回っていた。

 

 

「天龍様!!?」

 

 

側近の石田三成は突然の状況にオロオロする。

 

 

「しっ、心配すんな佐吉.....

只のしっぺ返しが来ただけだ」

 

「しっぺ返し!?」

 

「吸血鬼が眷属を作る際、自身の魂を切り離し、分け与える事で眷属とするんだ。だが、眷属が死ねば魂は返還される。それも傷付いた状態でな。それがしっぺ返し。眷属が味わった死の苦しみが倍の強度が返ってくる。嫌なものだよ全く」

 

 

だがすぐに立て直し、身なりを整える。

 

 

「眷属は言わば、俺の分霊箱だ。眷属がいる限り俺は不死身で、眷属の死は俺の死に繋がる」

 

「..........」

 

「開戦の準備は整ったぞ佐吉」

 

「はっ、はい!」

 

「六.....お前の作った時間は無駄でなかった。

お前の存在した歴史は、俺が証明してみせよう」

 

 

 

 

魔王出る。

 

 

 

 

「勝負だ良晴」

 

 




最近暗い話が多かったので、たまにはギャグも入れてみました。その後すぐシリアスに戻りましたがね。
勝家を生かすか殺すか最後の最後まで悩みました。サブヒロインの1人でもありましたしね。ちょっと寂しい気もします。
さて賤ヶ岳戦が終わり、次は良晴と天龍の本格戦が始まります。
王の采配
〜戦争に卑怯もラッキョウもあるか〜

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