天翔ける龍の伝記   作:瀧龍騎

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中二要素が減少する原作に対し、
増大しまくる今作品。今日この頃です。


第八十一話 幼女皇帝

自称ムガル帝国皇帝サリームに対し、自称大日本帝国宰相の天龍はムガル帝国に対し、同盟を申し出た。しかし、これはお願い口調ではなく、命令口調でされたものであった。

 

 

「きっ、聞こえなかったなぁ〜。

もう一度言ってもらおうか?」

 

 

サリームは頬を引く付かせながら問う。

 

 

「我が大日本帝国と同盟を組め。

その上で支那を討つ手助けをせよ」

 

「ほっ、ほう?シナを討てとな?一体何故であるか?」

 

「実はつい最近、琉球を落としてな」

 

「リューキュー?..........あぁ!琉球ね!」

 

「.....その際に誤って明船まで攻撃してしまってな。お陰で予定よりも早く明に宣戦布告する事になってしまった。だが、今の日本に明を滅ぼせるだけの戦力はまだない。だからこそ、其方の国に援助を頼むのだ」

 

「ほっ.....ほう?何故我が国に?」

 

「ムガル帝国とて元はモンゴル帝国ティムール朝の民族。兄弟国でもあった元国を滅ぼした明国には恨みもあろう」

 

「えっ?そうなの!?

..........じゃない!存じておる存じておる」

 

「なぁ、サリーム」

 

「ほえ?」

 

「お前って馬鹿なの?」

 

「なっ!?」

 

「琉球って言われてパッと出てこないし、己の国の歴史も知らないし、もしかして血筋だけで成り上がったただの幼女なの?」

 

「幼女言うな!!地理と歴史は苦手なんだ!」

 

「得意科目は?」

 

「朕は絵が得意だ!」

 

「美術の才能だけで皇帝になった奴なんて聞いた事ねぇよ」

 

「うるさいうるさい!!」

 

「まぁいい。それでだ。皇帝陛下の返答を貰いたい」

 

「同盟は却下だ!さっさとジャパンに帰れ!」

 

「おやおや。理由をお聞きしたい」

 

「第一に貴様は朕に対して礼儀がなさすぎる!朕は皇帝だぞ!!世界で1番偉いんだぞ!!?」

 

「頭を下げる相手は選ぶ主義なので」

 

「だにぃ!?」

 

「俺が謙る相手はただ御一人。

大日本帝国皇帝こと、正親町天皇陛下のみ」

 

「ふぐぐぐ....!!小国のサルの分際でぇ!!」

 

「そのあだ名の者は他にいるよ。もっとも、今はイヌザルと呼ぶのが相応しいけどね」

 

「うるさいうるさい!!

お前生意気だぞ!朕は!.....朕は!」

 

「ウラド!言い過ぎよ!あんなんでも皇帝なんだから!」

 

「あんなん!(;´Д`)」

 

 

氏郷の一言がサリームに追い打ちをかける。

 

 

「まぁ黙って見てろレオ.....」

 

「!?」

 

「同盟をすれば当然、そちらにも利益はある」

 

「!?」

 

「まだ終了していないインド大陸の統一。手伝っても構わない。それとだ。現在対立しているアクバルとの関係にも終止符を打ってやろう。アクバルの皇位を廃し、君が真の皇帝になる手助けをしてやる!」

 

「しかし.....朕はもう皇帝で.....」

 

「アクバルがそれに反対すれば?

まだ多くの者がアクバルを皇帝と支持していよう。さすれば君はすぐにでも反逆者にされてしまうだろう。だからアクバルを倒すのだ!」

 

「父上を倒す.....」

 

「そうだ!君こそが真の皇帝に相応しい!

俺と組めば、その道も遠くはないぞ〜?」

 

「朕が.....真の皇帝に.....」

 

「ふっくくく.....」

 

「..........」

 

 

氏郷は改めて思った。本当に彼は恐ろしいと。

彼の人たらしは常人の粋を逸脱している。特に女性は彼に弱い。それは顔が良いだとか、口説きが上手だとかではない。彼より滲み出るオーラのようなものに、皆感化されてしまうのだ。これが吸血鬼のチャーム、魅惑の術なのだろうか?

自分もまた彼に魅入られた者の一人。

そして思った。あのまま彼の敵で有り続けていればどうなっただろうか?跡形もなくバラバラにされたガスパール・コエリオの隣りで同じくバラバラにされていたのは自分だったかもしれない。そう思うと、彼の味方になって、心の底から良かった。

 

 

「どう思うアブル?」

 

 

サリームが隣にいた男に問う。髭面の中年男だ。

 

 

「陛下のお好きなようになされませ。私はどこまでも陛下の味方ですから」

 

「そうか!」

 

「.....アブル.....ファズルか?」

 

 

天龍が呟く。

 

 

「よし!明日に改めて宮殿に来い!返答をくれてやる。それまでは町の宿屋に泊まるがよい!一番いい店を用意してやる!」

 

「分かり申した」

 

 

上機嫌のサリーム。この分だといい結果になりそうだ。

 

 

「.....むぅ」

 

 

しかし、天龍には一筋の不安があった。何か見落としがあるのではないかと.....

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃の日本。

 

 

「話に乗る気になったか?」

 

 

良晴はとある地を訪れていた。

 

 

「わらわはもう将軍でもない。兵も持たぬただの1人姫武将じゃ。それでもよいのか?」

 

「構わない。今は一人でも多く仲間が欲しい」

 

「..........分かったぞ!あの魔太閤に一泡吹かせられるのならこの足利義昭!関白殿下に協力しようぞ!」

 

「よろしくな義昭」

 

 

そう言い、良晴は彼女の頭を撫でてやる。

 

 

「えへへ.....」

 

 

あの件依頼、一緒に暮らすものの距離を空け続けている義輝からちっとも撫でてもらえない義昭にはいいご褒美になったようだ。

 

 

「..........」

 

 

だが、その良晴の目は虚ろで死んでいた。

 

 

「兵を1万与える。尽力してくれ」

 

「御意!」

 

 

義昭は敬礼のポーズを取った。

 

 

 

 

 

「足利義昭.....調略完了」

 

 

 

 

 

帰りの道中。巻物に書かれた名前を消す良晴。その行動は織田家中にいた頃の天竜そのものであった。

 

 

「次は.....上杉謙信」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ?言ってた宿屋ってここじゃないの?」

 

「俺は他人から勧められた宿屋には泊まらない主義なんだ。昔それで酷い目にあってね」

 

 

それは村上武吉との和睦交渉中の出来事。泊まった宿屋に武吉からの刺客が現れ、更には宿屋ごと焼き殺されかかった。まぁ、それをきっかけに大谷吉継と出会ったのだが。

 

 

「今日は飛行船で寝よう。あそこなら刺客も入ってこれまい。その前に腹ごしらえだ。あそこの店でなんか食おう」

 

「Dinner(夕食)ですか?我々は Vampire( 吸血鬼)ですから食事は Unnecessary(不必要) では?」

 

「そう言うな。伝説とは違い、俺達は美味しく料理を食える。飢えは人間を食す事でしか満たせないが、食事を楽しむ事ぐらいはできよう」

 

「そうね」

 

「Yes!」

 

 

入った店はカリー屋だった。

 

 

「なにこの物体.....もしかしてウン.....」

 

「こらっ!女の子がそんな事言うんじゃない!

しかもこれから食べるものにウンコだなんて!」

 

「貴方も言ってるじゃない」

 

「あの.....ウラド様?Spoon(匙)のようなものはないのですか?」

 

「あぁ、この"ナン"を付けて食うんだ」

 

「これパオン?」

 

「まぁパンだな」

 

 

彼女らが天龍の言う通りにナンにカリールーを漬ける。

 

 

「これは元は英国の料理なんだ。ちょっと時期的に伝わってくるのが早い気もするが、英国人が持ち込んだものだろう。先程聞いたが、東インド会社の設立が着々と進んでいるようだしな」

 

「へぇ〜...........あがぁっ!!!?」

 

「Hot(辛い)!!!?」

 

 

初めてのカリーに悶える美少女二人。

.....を見てニヤニヤする天龍。

 

 

「かっかっか!やっぱそうなったか。本場の奴は粉じゃなくて香辛料だけを使ってるらしいから相当辛いだろうさ。まぁ俺程グルメになれば、このような珍味も美味しく食べられるのだよ。ぱくっ.......................辛あぁぁっぁぁ!!!?」

 

「貴方も同じじゃない!!!」

 

「おかしい..........カリー屋『田島ハール』で本場の辛いカリーには慣れていたはずなのに.....

この時期のカリーとは違うのか!?

それとも吸血鬼の弱点はカリー!?」

 

「なんなのよこの"カレー"ってのは!

毒でも入ってんじゃないの!!?」

 

「カレーじゃない!カリーだ!!」

 

「どうでもいいわよ!!」

 

「 Help me the water(水で私を助けて)!」

 

 

宗麟がおかしな英語を使う。

 

インドでの初のディナーは散々なものになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日。

 

 

「どうじゃった?昨夜はよく眠れたか?」

 

「く.....口が痛くて眠れませんでした」

 

「?」

 

 

天龍の主義の一つで、出された料理は完食するのが礼儀というものがあり、一口ですら辛いカリーを全て食したのだ。家臣の二人もそれに殉ずる破目になった。

翌日に動けたのは天龍だけであり、現在、美少女二人は口を真っ赤に腫らしながら飛行船内で寝込んでいる。

 

 

「まぁ良い。ぬしの言った同盟、受けるぞ!」

 

「今日はまた突然ですね」

 

「うむ、朕も昨夜よくよく考えた。このムガル帝国の為、朕の為にはどの選択が正しいのか、その結果ぬしと手を組むのが最も合理的と思ったのじゃ」

 

「有り難き幸せ」

 

 

天龍は軽く頭を下げる。

 

 

「では早速じゃ。アクバルを討つ手助けをせい!」

 

「はっ!」

 

 

頭を下げながら、天龍は邪悪な表情にて微笑む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「話は聞かせてもらったぞサリーム!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちっ...........ちちちちちち.....父上!!!?」

 

「まだ貴様にその呼ばれ方をされるとは光栄だなサリーム!!この逆賊めが!!」

 

「ひっ.....ひいぃぃぃ!!!?」

 

「皇帝.....アクバルだと!?」

 

 

まずい。このままでは計画が.....

 

 

「誰ぞ。この逆賊を捉えよ。皇帝陛下を弑逆し、帝国の転覆を謀らんと企む重罪人ぞ!」

 

「えっ!?」

 

 

サリームが拘束される。

 

 

「アッ、アブル!!?

うっ.....裏切ったなアブル・ファズル!!」

 

「わしは初めからアクバル皇帝が宰相。

陛下の命にて貴君を監視していたのじゃ。

その結果、貴君に反逆の意思があると分かったからこそ、前々より陛下にそれを伝え、今朝方到着なさるように連絡をつけたのじゃ」

 

「ふぐぐぐ.....」

 

「サリームよ」

 

「つっ.....!?」

 

 

アクバルがサリームの真正面に顔を近づける。

 

 

「貴様を極刑に処する」

 

「なっ!!?」

 

「期日は明朝。それまで牢で今までの愚行を恥じるがよい!」

 

「そん.....な.....」

 

 

サリームは手の平を返した元自分の兵に連行されていった。

 

 

「そのジャパンの不届き者も捕えよ!」

 

 

アブルが言う。

 

 

「ちっ.....!」

 

 

天龍が腰の刀に手をかけた。その時。

 

 

「その者とは話がある。別室に通せ」

 

「はっ...........はっ!!」

 

「!?」

 

 

アクバルの命名により、天龍はとある部屋に連れられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アクバルが口を開く。

 

 

「初めて見た。貴様がオスマン帝国を恐れさせ、ジャパンを完全に統一したというドラキュラ伯爵か。予想以上に若いな。まるでオナゴのようだ」

 

「なっ!?」

 

「これでも他国の状勢を調べるのが趣味でな。

特にドラキュラ伯爵は朕のお気に入りだ」

 

「は、はぁ.....」

 

「気を悪くせんでくれ。世間で言われているものとは違い、朕はそれなりに貴様を評価している。その行動も人間性もな」

 

 

アクバルは語る。

 

 

「のうドラキュラ。真の平和とはなんじゃ?」

 

「なんだ。いきなり」

 

「国民は戦争を嫌う。だがそれは、戦況が劣勢にある場合、双方に被害が大きい場合だけだ。圧倒的な力で弱小国を討ち倒せば、国民は活気に満ちた表情で喜ぶ。

この矛盾をどう思う?」

 

「そんなもの、矛盾でも何でもない。

人間とは常々、自身の利益のみを優先させる。利益になれば、それを良いものであると錯覚し、不利益ならばそれは悪いものであると錯覚する。

人間の本質は何千年経とうとも全く変わらない。

だから犯罪やら戦争が終わらない」

 

「ほう。では、どうすれば戦争は終わる?」

 

「簡単だ。勝てばいい。全ての対抗勢力を勝って潰し、征服し、対抗意欲を完全に奪ってしまってばいいのだ」

 

「それが本当に正しいやり方か?」

 

「戦争に正しいも間違ってるもあるのかい?

それにこれはあくまで戦勝の方法の1つだ。手段を選ばなければ、勝つ方法なんぞいくらでも存在する。戦争というものは一種の外交手段なのだから」

 

「だが、ぬしは別に外交目的で戦争をしているわけではあるまい。自身の欲の為ではなく、全人類の平和の為に.....」

 

「馴れ馴れしいな。お前に何が分かる?」

 

「王の地位に就いて初めて気付くものもある。

朕が思うに、目先の欲の為だけに争いを起こすのはもう古い。欧州各国がアフリカ大陸やアジア諸国を植民地にしている現在。誰かが止めなければ、世界中で大きな戦争が起こるだろう。誰かがこの世界を破壊し、新たな世を創造しなければ.....それを成しうる可能性を持つ者は、朕とぬしぐらいであろう」

 

「...........」

 

「朕と組まぬかドラキュラ?」

 

「俺はお前の娘とお前の暗殺を企てていたのだぞ?」

 

「それはサリームを傀儡とし、新たな国家を創造しようとしていたのだろう。朕がぬしの立場なら同じ事をする。朕はそのような事で恨んだりはせぬ。王と暗殺は日常茶飯事であるからな」

 

「変わってるな。お前」

 

「朕の後はぬしに継がせたいとまで思っておる」

 

「まじか」

 

「サリームのような己の利益しか考えられないような者に国を任せれば確実にムガル帝国は滅んでしまうだろう。だからこそぬしに頼みたい」

 

「サリームはどうする?」

 

「生かしていても、災いを呼ぶだけだ。朕は王として娘を犠牲にしてでも、数多くの国民を救済しなければならない」

 

「.....そうか」

 

 

天龍はやや微笑し、そして言う。

 

 

「いいだろう。.....共に平和を」

 

 

手を差し出す。

 

 

「共に平和を」

 

 

アクバルもまた手を差し出し、固い握手を交わした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くひゃっ.....!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌朝ラホール城の外の広場にて、拘束されたサリームが処刑場に連れ出される。彼女に付けられた首輪の紐を悠々を引くのは、アブル・ファズル。

 

 

「陛下!罪人サリームを連れ出しました!」

 

「うむ」

 

 

玉座に座るアクバルの前にサリームは座らされる。そこに天龍の姿はない。

 

 

「ムガルを一大国家に育て上げ、ありとあらゆる大業を成し遂げてきた朕であるが、唯一の失敗があるとすれば.....貴様だよサリーム」

 

「ふぐぐぐ.....」

 

「これから生まれる新しい平和な世に、貴様のような強欲な愚者は不要だ。今の今まで、実の娘だからという理由だけでその横暴何度も何度もを見逃してきたが、今度いう今度はもう無理だ。貴様を滅して、すべてに蹴りをつける」

 

「..........」

 

「やれ!」

 

 

処刑方は刀による斬首。処刑人は3人。2人がサリームを押さえつける係で、もう1人が斬る係だ。

 

 

「ふんっ!!」

 

 

処刑人が刀を振り上げ、サリームの細首めがけて勢い良く振り下ろされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『串刺城塞(ガズィクル・ベイ)!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっ!?」

 

 

突然であった。処刑人の3人が地面から突き出た長槍に串刺しにされたのである。それに乗じ、サリームが拘束を解いて動いた。荒縄で緊縛されていたはずなのに、まるで初めから緩く結ばれていたように。

サリームは、誰も串刺さずまるで彼女の為に用意されたかの様に突き出た槍を掴み、そのままアクバルのもとへと突っ込む。

 

 

「小癪なっ!!」

 

 

アクバルは懐から短筒を取り出し、サリーム向ける。ところがだ。突如として何処からか発砲された弾丸がアクバルの右手首を貫き、彼の右手を短筒ごと吹き飛ばした。

 

 

「がぐぁっ!!!?」

 

 

だがそれ以上に驚いたのは、その自分を撃った人物が、己の右腕とも呼べたムガル帝国宰相のアブル・ファズルだったのだ。

 

 

 

 

ブスリッ!

 

 

 

 

槍は一直線にアクバルの胸に突き刺さった。周りの兵達も反応できない程の一瞬の出来事である。

 

 

「何故.......................。!!!?」

 

 

掠れる目でアクバルは見た。アブルの顔がグニャリと歪み、粘土のように変質し、それがあのドラキュラ伯爵の顔に変わったのだから。アクバルは目を疑ったが、それは現実の出来事だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻。ラホール城の屋根に惨殺された本物のアブルがボロ雑巾のように捨てられ、その横に宗麟と氏郷が佇んでいた。

 

 

「Master.....」

 

「ムガル帝国の終わりね.....」

 

 

処刑場の方に視線を向け、哀しく眺める2人。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐふっ.....!!!」

 

 

吐血をしながら、アクバルはその場に倒れ込む。

 

 

『よう!アクバル!』

 

 

アクバルの脳内に天龍の声が聞こえる。

 

 

『ドラキュラ...........裏切ったな』

 

『裏切りは俺の専売特許だからな』

 

『何故だ.....我々の目指すものは同じはず。なのに何故なんだ.....朕の何が気に入らなかった.....』

 

『お前はいい奴だよ』

 

『!?』

 

『誰よりも強く、誰よりも優しく、誰よりも王として相応しく、誰よりも国民を想い、誰よりも平和を求める。俗に言う完璧人間さ』

 

『なら.....何故?」

 

 

 

『それでも完璧ではなかった。

お前は父親として失格だったのさ』

 

 

 

『!!!?』

 

『俺も4人の.....いや、"7人"の子供の親だから。子を持つ者の気持ちは理解できる。だからこそ、貴様を許すことができない。どんな生物だろうと、子を蔑ろにする親など存在しない。それをする生物は人間くらいだ。それでも、人間の親だって子を大切にする事は当たり前とされている。

お前は人間どころか、生物としても失格だ。

しかもサリームは年端のいかぬ幼女。

俺の中では、世界平和より美少女を優先しちまう質でな。世界を敵に回してでも、1人の美少女を取るぐらいだ。まぁ、そのせいで世界征服に時間がかかってるんだがな。俺の前でサリームの処刑宣言をした時点で、お前を殺す決断はついていたよ』

 

『そんな............馬鹿な』

 

『それに今回の俺の目的はあくまでムガル帝国の調略。言い方を変えれば征服だ。お前の言う通り、サリームは傀儡にするには丁度いいからな』

 

『なっ.....!?』

 

『対してお前は俺の予想以上に強く、そして若かった。すぐに死ぬような老いぼれなら良かったが、あと数十年も待つぐらいなら、操りやすいサリームを使うさ』

 

『まさか............朕は.....このゲームのプレイヤーだとばかり思っていたというのに...........実際はドラキュラが操る駒の1つに過ぎなかったというのか?

虎の威を借る狐だったというのか?』

 

 

アクバルの目の前には、狂喜の表情で槍を構え、とどめを刺そうとしてくる実の娘、サリームの姿。その後ろで死神のように憑き、邪悪な笑みにてこちらを眺める天龍の姿が見えた。

 

 

「魔王...........ドラキュラ.....」

 

 

その最期の言葉の後、アクバルはサリームによって胸を再度突かれ、絶命したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「皇帝サリーム及び.....ムガル帝国調略完了」

 

 

 

 

 

 

 




たった2話でインド攻略(笑)。
一方で暗躍する黒良晴。
次回あたりから2人の抗争が本格化!
次回予告
日ノ本の国と大日本帝国
〜魔王vs魔王〜

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