天翔ける龍の伝記   作:瀧龍騎

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いきなり安土城ジャック事件というオリ展開から始まります。処女作ですが、楽しんで拝読して頂ければ幸いです。


第一部 一章 勘解由小路天竜
第一話 魔王白夜叉(改)


近江国、安土城前。

 

 

「信奈様!信奈様~!」

 

信奈の小姓が早馬にて織田本陣にかけ戻る。

 

「戻ったわね梅千代。戦況は?」

 

「どうやら謀反ではなさそうです。ただ、留守役の大工人、料理人、小姓、足軽らがまるごと人質になってるようです」

 

「そう.....敵の数は?」

 

「それはまだ.....ただ城の出入りなどが全くない所から、敵方は少数と見られてます」

 

「デアルカ.....万千代はどう思う?」

 

 

長秀もまた信奈と共に安土城を離れ、行動を共にしていた。

 

 

「留守役を手薄にしたのが原因ですね。十点です」

 

「むぅ.....五日で占領される天下の巨城なんてまだまだね。これをさっさと片付けて問題を改正しなくちゃ、十兵衛に馬鹿にされるわ」

 

「今回のような事にならぬよう、建築時に対策を練ったはずだったのですが.....」

 

「その結果がこれよ!全く.....首謀者とっ捕まえて八つ裂きにしてやるんだから!」

 

「姫さまなら本当のしそうで怖いですね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同刻、前線を務めていたのは越前から駆けつけた柴田勝家と前田犬千代だった。

 

 

「くそ~!流石は姫さまの安土城!どう攻めればいいんだ?」

 

「勝家は脳筋だから攻め込む事しか考えてない」

 

「サッ.....サル語を使うなぁ!」

 

「ここは無理に攻めたら駄目。敵の思うつぼ.....だと思う」

 

「おい!何でそこで自信をなくす?」

 

 

2人が前線で漫才をやっていた矢先、安土城の門が開かれ、中から兵が出てくる。

 

 

「おっ?向こうから出てきてくれたぞ?」

 

「運が良かった」

 

「さぁて!何人でかかってこようがこの勝家が全部吹っ飛ばして..........あれ?」

 

「?」

 

 

確かに門から敵兵は出てきた。それも屈強そうな馬に跨り、高価そうな具足を身につけ、巨大な薙刀を持った騎馬武者であった。ところが、その一人が出た途端門は再び閉じられたのである。

 

 

「えっ?一人だけ?」

 

「もしかしたら使いの者かも」

 

「使いの者なら薙刀なんて持ってこないだろ?とにかく、あれと戦えばいいんだな!」

 

「まだ敵かどうかは.....」

 

「ようし!行ってくる!」

 

「やっぱり脳筋.....」

 

「うっ.....うるさいっ!」

 

 

 

 

勝家は馬をかけ、その騎馬武者の前まで移動する。その者は待っていたかのように勝家を迎えた。

 

 

「やい!お前は何者だ!ここは織田家当主織田信奈様が居城と知っての狼藉か!」

 

「このまままっすぐ進めば織田の本陣があるのか?」

 

「はぁ?.....そうだけどそれが?」

 

 

声を聞く限りではこの武者は男のようだ。この男、顔の半分が隠れる形の兜を深々と被っているので、始め男か女か分からなかった。

それだけではない。この男が装備している具足は通常と比べて変わっていた。普通は赤や黒、珍しくても緑や青の具足が一般的だというのに、

彼の具足は白かったのだ。

銀色という訳ではなく、完全な白色。傷や汚れも全くなく、この砂埃の多い戦場では一際美しく見えた。風流などに疎い勝家も一瞬見惚れてしまっていたが、次の一言が勝家を現実に引き戻した。

 

 

「そっか。このまま突っ切って本陣まで駆け込めばいいのだな。ふむふむ」

 

「!?」

 

「いい情報をありがとな」

 

「どういたしまして.....じゃない!何だって?」

 

「お前、名を何と申す?」

 

「しっ.....柴田勝家だ!」

 

「ほう、権六(ごんろく)か?」

 

「なっ.....何でそれを!」

 

 

権六という名は勝家が可愛いくないという理由で六(りく)という名に改名した元の名である。

六という名を敵が知っていてもおかしくはないが、権六を知っているのは織田家臣団や柴田家の者ぐらいなのだ。

 

 

「道を開けてもらうよ権六。私にはやる事があるのだ」

 

「その名で呼ぶな~!私の名は六だ!」

 

「なら六。通行の邪魔にならぬようさっさとどけろ!」

 

「つっ!?」

 

 

その男は突然馬を走らせ、勝家の方の向かってきた。

 

 

「このあたしに正面から突っ込んでくるなんて〜!

馬鹿な奴だ!」

 

 

勝家は槍を構え、その男をいつでも打ち倒せるよう準備した。

 

 

「忠告したはずだ!怪我してもしらぬぞ!」

 

「えっ!?」

 

 

勝家には未だかつてない事が起きた。普段なら、例え敵から突っ込んできても簡単押し返せていた。しかし今回は、勝家はこの男との力比べに負け、そのまま馬から振り落とされたのである。

 

 

「ぐわぁっ!」

 

「お大事にな!」

 

 

男はその言葉と共に颯爽とかけて行った。

 

 

 

 

 

 

 

「勝家が負けた」

 

 

遠くから眺めていた犬千代がぼそりと呟く。一騎討ちなら負けなしと言われた勝家を打ち倒した敵兵。その男が今まさに己の方へとかけてきている。

 

 

「ここは通さない.....。うっ!?」

 

 

そう意気込んだ直後その騎馬武者は犬千代の真横を通り過ぎて行ったのである。その男が早過ぎたのではない。犬千代が動けなかったのだ。

今では完全にファッションと化している頭に被っている虎と戦った時も、虎は身震いする程の気迫を示してきた。

それでも相対できない程ではなかった。あの男の気迫は虎以上であった。勝家を打ち倒した調子で向かってきた化け物に喰われるのかと思った程だったのだ。

しかしあの男は自分に構おうとはしなかった。最初から敵とは見ていないように。道端の石ころのように犬千代を無視したのである。

 

 

「馬鹿にされた。くやしい」

 

 

そう言い、手に持っていた朱槍を強く握り締めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわぁ~!来たみゃ~!」

 

「槍が効かないみゃ!どうしたらいいみゃ!」

 

「矢で射殺せみゃ!」

 

「全部弾かれたみゃ!あいつは化け物みゃ!」

 

「鬼みゃ!白い鬼みゃ!」

 

「「「白夜叉みゃ!」」」

 

 

勝家、犬千代の後に構えていた足軽達が応戦するも全く歯が立たず、全五段ある部隊のうち三段まで突破されてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何で私の軍が押されてるのよ!」

 

「こちらの軍は一万です。よほどの猛将か軍師がついているのでしょう七十点です」

 

 

荒ぶる信奈を長秀が抑える。

 

 

「敵に対してに随分な高得点ね万千代」

 

「敵の正体も分からずに攻めたてたのが問題でした。私としたことが.....」

 

「今更くよくよしたってしょうがないでしょ!梅千代、敵の情報はまだ?」

 

「使い番がもうすぐ戻ってくるはずですが.....」

 

 

その時、一度本陣を離れていた使番が帰還する。

 

 

「報告致します!敵は間もなく第4精鋭部隊に到着するようです!現在鉄砲隊が敵を迎え撃つ準備をしております」

 

「デアルカ。して、敵の数は?」

 

「そっ、その..........一騎です」

 

「は?」

 

「敵は騎馬武者一人だけで他にはいません!」

 

 

その報告は本陣にいる話しを聞いた者全員に恐怖を与えた。

 

 

「じょっ.....冗談でしょ?たった一人のためにわたしの軍がズタボロにされてるなんて.....」

 

「姫さま、一度兵を整えなければ姉川の二の舞です!」

 

「だっ.....だって、あの時だって別に長政が単体で攻めてきたわけじゃないじゃない!」

 

「前線の兵は『白夜叉だ』などと騒いでおります」

 

「白夜叉?」

 

 

そこで梅千代が口を挟む。

 

 

「夜叉.....白き鬼のことですね」

 

「まさか、本能寺の時の鬼が?」

 

「いえ、人間の鎧武者です」

 

 

使いの者が答える。

 

 

「本物の『戦場の鬼』ですか。やはり勝家殿が倒されたという情報が兵達に恐怖を与えているようですね」

 

「むぅ.....でも鉄砲なら倒せるわ!人間ならそれで死ぬはずだもの!」

 

「本陣近くに鉄砲隊が配置されている事は敵も気づいているでしょう。どうやって抜けるつもりなのか.....」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第4精鋭部隊にて。約百人が横一列に並び、敵を待ち構えていた。

 

 

「敵は間もなく到着する!視界に捉えた敵を蜂の巣にしてやれい!」

 

 

指揮官が叫び、百人はそれぞれまっすぐの方に銃口を向けていた。今にも発砲されるのではないかといったその時、

 

 

「むっ.....これは.....」

 

 

あたりに急に霧が現れたのである。それも短時間で

「一寸先は闇」ならぬ「一寸先は白」の状態に気候が変化したのだ。

 

 

「あれは何だみゃ?」

 

 

見えなくなった前方から謎の球体が飛んできたのである。最初は鞠か何かだと思った鉄砲隊の者達はそれの正体に気づいた途端恐怖がまたもや襲う。

 

 

「首だみゃ!人間の生首だみゃ!」

 

 

前線で戦っていた兵の生首だった。普段、戦慣れしている兵達にとって、死体や生首などは見慣れた物であるが、今のような摩訶不思議な事が起こっている時には効果抜群なのだ。それも一個だけではなく、二個三個と次々に投げ込まれたのだ。

 

 

「ひゃ~!これは人のする事でねぇ!」

 

「鬼だ!鬼だのする事だみゃ!」

 

「神様仏様姫巫女様!オラ達を助けてくれみゃ~!」

 

「ええい、騒ぐな!これでは敵の思う壷だぞ!」

 

 

だがすでに兵達には指揮官の声も届かず、終いには指示を無視して勝手に発砲する者まで現れる始末である。

 

 

「隊を整えろ!こんなところを狙われば.....がふっ!?」

 

 

次の瞬間、霧の奥から飛んできた薙刀によって指揮官は喉を切り裂かれたのだ。

 

 

「「「にっ.....逃げろ~!」」」

 

 

それがとどめとなって兵達は鉄砲すら放って一目散に逃げ出し、鉄砲隊は壊滅してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鉄砲隊の居なくなった陣を白き夜叉が悠々と通る。

 

 

「戦争は戦力じゃない。大事なのは戦略と兵の気持ちさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

話は織田軍に戻る。

 

 

「ぜっ.....全滅?第四部隊が?」

 

「はい.....多くの鉄砲隊は逃亡を謀ったようです」

 

 

使番からの知らせを聞いた信奈はぐったりと椅子に座り込んでしまう。

 

 

「誰よ.....私はいったい誰と戦をしてるのよ!」

 

「迂闊でした。ただの狼藉者の退治程度と思って兵を制限したのが最大の敗因。三点です」

 

 

このままではこの本陣も危うい。ここは一度大将だけでも退いて、戦力を整えなければならない。

 

 

「姫さま、私が殿(しんがり)を務めます。姫さまは梅千代と共にとりあえず岐阜城のほうへ」

 

「だめよ!そんな事して万千代、あなたが討死したりしたら.....それにたった一人の敵のために織田軍が壊滅、大将が逃亡なんてしたら世間での織田の評判だってガタ落ちよ!」

 

「ですがこのままでは.....」

 

 

その時またもや使番が報告をしに来た。

 

 

「お伝えします。敵兵は降伏を言い果たし、即座に停戦を求めております!」

 

「えっ?」

 

 

それは、脳の片隅にも想像していなかった事であった。敵軍の本陣まで追い詰めて降伏など、前例が全くなかったのである。

 

 

「どっ.....どうして?」

 

「それは私からお話しましょう」

 

 

 

 

 

 

返事をしたのは使番ではなかった。通称『白夜叉』。

謎の騎馬武者が謎の行動と共に信奈の前に現れたのだ。だがこの男の具足、すでに白具足ではなくなっていた。

多くの者の返り血を浴び、完全に赤具足になっていたのだ。この変化も兵達に恐怖を与えたのだろう。

 

 

 

 

 

 

「何が目的よ。地位?土地?金?」

 

「そんなものはいりません。ただ、私は織田に仕官したいと考えております」

 

「はぁ?」

 

「無礼な!安土城を占拠しただけではなく、我が軍がをズタボロにしたにもかかわらず仕官などと.....馬鹿にしているにも程があります!」

 

「万千代抑えて。貴方.....名は?」

 

 

そう言われると男は、深く被っていた兜を外し、ここで初めて男の素顔が明らかになる。兜のおかげで顔はあまり血で汚れておらず、整った綺麗な面を見て、信奈は思わず男装をしていた頃の長政を思い出した。

 

 

 

 

「天竜.....勘解由小路天竜(かでのこうじてんりゅう)と申します」

 

 

 

 

勘解由小路という名を聞いて、

長秀がピクリと反応する。

 

 

「勘解由小路.....まさかあなたは陰陽家の?ですが、その一族は.....」

 

「はい。勘解由小路家は土御門家との争いに負け、断絶しました。私はその生き残りです」

 

「陰陽師.....なるほど安土城を占拠できたカラクリが何となく分かった気がするわ。ところで仕官したいのは分かるけどなんでこんな狼藉じみたことを?」

 

 

そこで天竜という男はそこで厳しい顔つきになる。

 

 

「私はすでに滅びた一族の者。恐らく私を率先して雇う大名などそうはいないでしょう。そこで織田に目をつけました。

実力さえあればどの様な生い立ちでも雇ってもらえるその姿 勢に心を打たれ、仕官を決心いたしました。ところがです」

 

 

そこにいた者は唾を飲んで天竜という男の話に耳を傾ける。

 

 

「今の織田は腑抜けているように思えます。京一角を支配し、四方を武田上杉毛利といった強敵に囲まれているにもかかわらず、織田の拠点ともいえる安土を空にしたり.....武田上杉毛利以外の勢力は雑魚のように見ている節がある。今回がいい教訓になったでしょう。先ばかり見ていては序盤で足を掬われるということを」

 

「なんと身の程知らずな.....何様のつもりですか!」

 

「今は戦国乱世、下剋上など当たり前の世。そのような時に何様も殿様もありますか?」

 

 

この男は"うつけ"だ。周りにいた者は皆そう思った。ただ一人を覗いて。

 

 

「あんたは織田で何がしたいの?」

 

「何があろうと、日の本の天下は織田が掴むでしょう。そしてその先も.....私はそれを支えてゆき、作りたいのです。私の理想完璧な織田信奈を!」

 

 

そこで信奈はクスリと微笑む。

 

 

「完璧なんてつまらないわ。一番になっちゃったらそれ以上の目標がなくなちゃうじゃない」

 

「..........その通りです」

 

「私はまだまだ登るわよ!日の本だけでなく、世界すらもね!世界も制覇したなら月でもお日様で も手に入れてみせるわ!」

 

 

他の者はポカンと口を開けて話を聞いている中、天竜という男もまたクスリと微笑む。

 

 

「安土城を占拠した戒がありました。おかげで貴方の真意を聞き出せる事が出来ました。私にも見せて下さい.....いや、共に見ようではありませんか。この世の頂きというものを!」

 

「デアルカ!」

 

 

ここで初めて天竜という男は信奈に頭を下げた。周りの者はその光景を見ているだけで精一杯だったという。

 

 

「あんた他に仲間は?まさか単独じゃあないでしょ?」

 

「安土城に6人程残しております。直ちに開城するよう命じましょう」

 

「よろしくね.....かっ.....かでのこうじ?.....言い難いわね。愛称を付けようにも、"てん"も"りゅう"もちょっと違うし.....」

 

「なら「シロ」とお呼び下さいませ。先ほど足軽達に何度か「白夜叉」と呼ばれていましたので」

 

「デアルカ。ならシロ!私に着いてきなさい!」

 

「はい。何処までも」

 

 

シロと呼ばれるようになった男が仲間になったという事実を理解出来なかった者はいなかった。信奈が認めた以上、それに従わざるを得なかったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、その男が影で不気味な笑みを浮かべているという事実に気づけた者は信奈を含め誰もいなかった。

 

 




次回より天竜と良晴との絡みも出てきます。何と二人には意外な接点が!
拝読ありがとうございました!
次回予告
勘解由小路天竜の仕官!
~良晴!何故ここにいる?~

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