問題児たちが異世界から来るそうですよ?~月の姫君~   作:水無瀬久遠

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九章 星を討て

―――――二六七四五外門・“ペルセウス”本拠。

白亜の宮殿の門を叩いた“ノーネーム”一同を迎え、謁見の間で両者は向かい合う。

 

交渉の席に着いたルイオスは終始にやけた顔で、黒ウサギやカグヤへ熱い視線を送っていたが、それを無視して黒ウサギは切り出す。

 

 

「我々“ノーネーム”は、“ペルセウス”に決闘を申し込みます」

 

「……オッケーオッケー。それで?チップは“月の兎”と“歌姫”のどっちになったんだ?」

 

「いいえ、私でもカグヤ様でも御座いません」

 

 

にこやかに微笑み、黒ウサギが持っていた大風呂敷を開いて見せる。

そこにあったのは、“ゴーゴンの首”の印がある紅と蒼の二つの宝玉が光り輝いている。

それを見て、傍に控えていた“ペルセウス”の側近達は眼をひん剥いて叫び声を上げる。

 

 

「こ、これは!!?」

 

「“ペルセウス”への挑戦権を示すギフト……!?まさか名無し風情が、海魔(クラーケン)とグライアイを打倒したというのか!?」

 

 

困惑する“ペルセウス”一同。

本来なら、挑戦権を得たコミュニティが出た場合、本拠に通達が行くのだが、気が付いていなかったらしい。

それもそうだろう。

ルイオスは、ここ数日の業務を全てサボっていたのだ。

その為、彼の部屋には書類が山積みになっている。

 

 

「ああ、あの大ダコとババアか。そこそこ面白くはあったけど、あれじゃヘビの方がマシだ」

 

「おいおい、十六夜。あれはタコじゃなくて、イカだぜ?クラーケンって言うくらいだからな。でも、準備運動程度にしかならなかったのは、違いないな」

 

 

首を竦ませる十六夜と、ククッと馬鹿にした様に笑う帝。

この宝玉は、ペルセウスの伝説に出てくる怪物達をギフトゲームで打倒する事によって得られるギフトだ。

このゲームは、力のない最下層のコミュニティにのみ常時開放されている試練で、ペルセウスの武具のレプリカを与えるというもの。

様式も整った、立派なギフトゲームである。

 

“ペルセウス”への挑戦権を与えているのは、ペルセウスの伝説を描きつつ、下層のコミュニティの向上心を育てる為のモノだったが、ルイオスはそんな立派な志は残っていない。

ルイオスは宝玉を見詰めて、盛大に舌打ちした。

 

 

(ちっ。下層のコミュニティ相手なら、楽に戦えると思って放置していたってのに……!)

 

 

二代目以降から設置されたこの制度。

無くそうと思っていた矢先にこの事態だ。

ルイオスの不快感は絶頂に達していた。

 

 

「ハッ………いいさ、相手してやるよ。元々このゲームは思い上がったコミュニティに、身の程を知らせてやる為のモノ。二度と逆らう気が無くなるぐらい徹底的に………()()()()()()()()()

 

 

華美な外套を翻して憤るルイオス。

それを睨み、黒ウサギは宣戦布告する。

 

 

「我々のコミュニティを踏みにじった数々の無礼。最早言葉は不要でしょう。“ノーネーム”と“ペルセウス”。ギフトゲームにて決着を付けさせていただきます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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『ギフトゲーム名 “FAIRYTALE in PERSEUS”

 

 

・プレイヤー一覧 逆廻 十六夜

       久遠 飛鳥

       春日部 耀

       月宮 カグヤ

       月影 帝

 

・“ノーネーム”ゲームマスター  ジン=ラッセル

・“ペルセウス”ゲームマスター ルイオス=ペルセウス

 

 

・クリア条件 ホスト側のゲームマスターを打倒

 

・敗北条件 プレイヤー側のゲームマスターによる降伏。

      プレイヤー側のゲームマスターの失格。

      プレイヤー側が上記の勝利条件を満たせなくなった場合。

 

 

・舞台詳細・ルール

 *ホスト側のゲームマスターは本拠・白亜の宮殿の最奥から出てはならない。

 *ホスト側の参加者は最奥に入ってはいけない。

 *プレイヤー達はホスト側の(ゲームマスターを除く)人間に姿()()()()()()()()()()()

 *姿を見られたプレイヤー達は失格となり、ゲームマスターへの挑戦資格を失う。

 *失格となったプレイヤーは挑戦資格を失うだけでゲームを続行する事は出来る。

 

 

 

宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗の下、“ノーネーム”はギフトゲームに参加します。

             “ペルセウス”印』

 

 

 

 

契約書類(ギアスロール)”に承諾した直後、七人の視界は間を置かずに光へと呑まれた。

次元の歪みは七人を門前へと追いやり、ギフトゲームの入口へと誘う。

門前に立った十六夜達は、辺りを見渡す。

白亜の宮殿の周辺は、箱庭から切り離され、道の空域を浮かぶ宮殿に変貌していた。

 

 

「姿を見られれば失格、ねぇ……つまり、あのボンボンを暗殺しろって意味か」

 

 

白亜の宮殿を見上げ、帝が不敵に笑う。

今にも突っ込んでいきそうな彼に、カグヤは小さく息を吐く。

 

 

《それなら、あのルイオスという人は、伝説に乗っ取って睡眠中って事になりますが……そんな筈はないと思いますよ?》

 

「YES。そのルイオスは最奥で待ち構えている筈デス。それに、先ずは宮殿の攻略が先でございます。伝説のペルセウスと違い、黒ウサギ達はハデスのギフトを持っておりません。不可視のギフトを持たない黒ウサギ達には綿密な作戦が必要です」

 

 

黒ウサギが人差し指を立てて説明する。

今回のギフトゲームは、ギリシャ神話に出てくる、ペルセウスの伝説を一部倣ったものだ。

宮殿内の最奥まで“主催者(ホスト)”側に気づかれず到達せねば、戦うまでもなく失格となる。

 

 

《つまり、私達はルイオスを打倒する為の戦力とジンを、いかに上手く見つからせずに運ぶか、という事でしょうか?》

 

「そうね。なら、大きく分けて、三つの役割分担が必要になるわ」

 

 

 

飛鳥の隣で、耀が頷く。

本来ならこのギフトゲームは百人、少なくとも十人単位でゲームに挑み、その一握りだけがゲームマスターに辿り着けるというもの。

そんなゲームを、彼らは六人で挑まなければならない。

役割分担は必須だった。

 

 

「うん。まず、ジン君と一緒にゲームマスターを倒す役割。次に索敵、見えない敵を感知して撃退する役割。最後に、失格覚悟で囮と露払いをする役割」

 

「春日部は鼻が利く。耳も眼もいい。不可視の敵は任せるぜ。それから、カグヤ。お前はジンと一緒にいろ。回復役は戦力の生命線だからな」

 

 

十六夜の提案に黒ウサギが続く。

 

 

「黒ウサギは審判としてしかゲームに参加する事が出来ません。ですから、ゲームマスターを倒す役割は十六夜さんと帝様にお願いします」

 

「いや、あの程度の相手なら十六夜一人で十分だろ。と、いうか俺はコイツとの勝負に負けたんで、ゲームマスターに挑む権利がない」

 

 

不機嫌そうに呟く帝に続いて、飛鳥もムッとした。

 

 

「あら、じゃあ私は囮と露払い役なのかしら?」

 

「らしいぜ。ま、俺と一緒に派手に一階部分の破壊と参りましょうかね」

 

 

不満そうな飛鳥へ、帝がケタケタと楽しげに笑う。

とはいえ、この中で一番脆いのは飛鳥だ。

彼女のギフトでは、相手を倒す事は出来ないし、何より不特定多数を相手にする方が、誰よりもその効力をフルに使う事が出来るだろう。

それを、飛鳥自身も理解している。

だが、理解していてもやはり不満がない訳ではないのだ。

拗ねたままの二人へ、十六夜がからかう。

 

 

「悪いなお嬢様、帝。俺も譲ってやりたいのは山々だけど、勝負は勝たなきゃ意味がない。あの野郎の相手はどう考えても俺が適してる」

 

「うるせぇ。かけっこで勝った位で偉そうに」

 

《もう、帝ってば》

 

「分かってる、分かってる。今の俺じゃ、ルイオスの首根っこを噛み千切る事は困難だからな。きっちり仕留めて来いよ?」

 

「……私もいいわ。今回は譲ってあげる。ただし、負けたら承知しないから」

 

 

飄々と肩を竦める十六夜。

普段と変わりない彼らの姿に、カグヤは淡く苦笑した。

そんな中、黒ウサギはやや神妙な顔で不安を口にする。

 

 

「残念ですが、必ず勝てるとは限りません。油断しているうちに倒さねば、非常に厳しい戦いになると思います」

 

 

全員の目が一斉に黒ウサギに集中する。

飛鳥がやや緊張した面持ちで問う。

 

 

「………あの外道、それ程までに強いの?」

 

「いや、あのボンボンは大したことない。多分、耀でも肉弾戦に持っていければ、楽に勝てる程度ってとこだろ。だが、彼奴を相手取るのに最も警戒すべきはギフトだ。黒ウサギが言いたいのは――」

 

「隷属させた元魔王様のギフト、だろ?」

 

 

十六夜の補足に、全員が目を丸くする。

しかし、素知らぬ顔で十六夜は構わず続ける。

 

 

「もしペルセウスの神話通りなら、ゴーゴンの生首がこの世界にある筈がない。あれは戦神に献上されている筈だからな。それにも拘わらず、奴は石化のギフトを使っている。―――星座として招かれたのが、箱庭の“ペルセウス”。ならさしずめ、奴の首にぶら下がっているのは、アルゴルの悪魔ってところか?」

 

「……へえ。ただ力を振り回す事に酔ってるだけかと思えば、意外に頭の回転が速いみたいだな」

 

 

分からずに首を傾げる飛鳥達とは違い、帝は愉しげに笑う。

どうにも、この男は見どころがあり過ぎる。

 

 

 

《帝、アルゴルの悪魔とは?》

 

「ん?……あぁ。ペルセウス座にある恒星、アルゴル。丁度、ペルセウスがメドゥーサの首を持っている構図の辺りにある星だ。この星はアラビアでは悪魔と言われていてな。これは推測だが、あの星はメドゥーサの首にあるが故に、メドゥーサと同等のギフトがある、と考えられる。だろ?」

 

「まあな。この前星を見上げた時に推測して、ルイオスを見た時にほぼ確信した。とはいえ、機材は白夜叉が貸してくれたし、難なく調べる事が出来たぜ」

 

 

フフンと自慢げに笑う。

黒ウサギは驚愕したまま、固まっていた。

彼は、この短時間でそれだけの考えに至ったのだ。

元より、予備知識のある帝とは違い、である。

黒ウサギは含み笑いを滲ませ、十六夜の顔を覗き込んだ。

 

 

「もしかして十六夜さんってば、意外に知能派でございます?」

 

「おいおい、さっき帝が言っただろ?俺は生粋の知能派だぞ。黒ウサギの部屋の扉だって、両手を使わずに開けられただろうが」

 

「………」

 

 

得意げな彼に、黒ウサギは嫌な情景が脳裏に浮かぶ。

彼が行った事といえば……

 

 

「……………。参考までに、方法をお聞きしても?」

 

 

 

やや冷ややかな目で黒ウサギが見詰める。

十六夜はそれに応えるかの様に、ヤハハと笑って、門の前に立ち、

 

 

「そんなもん―――――()()()()()()()()()()()()()()()()ッ!」

 

 

轟音と共に、白亜の宮殿の門を蹴り破るのだった。

 

 

《それは、開けたに入りません!!!》

 

 

カグヤが悲痛な声で、そう注意した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

☆★☆★☆

 

正面の階段前広間は、飛鳥と帝の奮戦による大混戦となっていた。

真正面から挑んだ十六夜達を捕えに来た騎士達は、飛鳥が持ち出したギフト―――水樹によって阻まれているのだ。

 

 

「臆するな!!相手はたかが小娘と犬だ!!」

 

「不可視のギフトを持つ者は残りのメンバーを探しに行け!此処は我々が押さえるぞ!!」

 

 

発見された時点で、飛鳥と帝はゲームマスターへの挑戦権を放棄している。

彼女達の役割はあくまで囮。

だが逃げ回る事など、二人の性分ではない。

ここへ移動する際に、帝と飛鳥の持つギフトで同士討ちさせる事も話し合ったが、二人ともそれを是とは思わなかった。

折角のゲームにそんな華のない事は邪道。

 

それならいっそ――――白亜の宮殿を破壊する方がいい、と。

 

 

「左右から来るわ!まとめて吹き飛ばしなさい!!」

 

 

一喝、水流が騎士達を襲う。

同時に、宮殿の華美な装飾は水樹の放つ水流に荒らされ、哀れにも水没していた。

 

本来のギフトゲームならば本拠の資材は全て宝物庫に保管されるのだが、今回は急なゲームだったが目に準備が整っていない。

本拠を保護する恩恵(ギフト)さえ、準備不足だ。

 

飛鳥と帝はその隙を突き、徹底して本拠を荒らし回っている。

これだけの破壊活動をされては、幾ら不必要な戦闘だと分かっていても、見逃すわけにはいかない。

 

 

「ふふ………ねえ、帝君。不可視の人間を除けば、粗方集まったのかしら?」

 

「だろうな」

 

 

帝は手近にいた騎士の鎧を噛み砕き、辺りを見渡す。

地上しか移動出来ない騎士達は、飛鳥が操る水樹の水圧に押され、既にヘロヘロだ。

空駆ける靴を履いた騎士に関しては、その圧倒的な水量に押され、どう攻めるか考えあぐねているのだ。

だが、戦闘経験の浅い飛鳥には隙がある。

彼女の死角へ回り込んだ騎士に関しては、帝がその牙と爪も持って撃退していた。

鎧を噛み砕かれた騎士達を、驚愕の表情が彩る。

 

 

「ば、馬鹿な!!これは強い防御のギフトが付属された鎧だぞ!?そう易々と砕ける筈が……」

 

神を喰らう大狼(フェンリル・ラグナロク)。ちょいと昔に北欧神話へ喧嘩を売った時があってな。その戦利品として、フェンリルの牙を一本貰ってきたんだよ」

 

 

ニタリと笑い、自慢げに首を逸らせば、そこには紐で吊り下げられた肉食獣の牙がぶら下がっている。

これが、その恩恵(ギフト)の正体。

 

 

 

「このギフトは創作系でな。昔、仲間にそういったのが得意な奴がいて、こうして加工してもらったんだ。効力は()()()()()()()()()()()使()()()()()()()()

 

「な、なん、だと………!?」

 

 

元より、北欧神話でいうフェンリルとは大きいな狼を象ったバケモノ。

その牙は神々を滅ぼす力を宿し、『神殺しの狼』と言わしめる程なのだ。

その牙を貰い受けた帝は、そのギフトをずっとしまいこんでいた。

理由は、()()()()使()()()()からだ。

 

 

「帝君、そのギフトがあればあの外道に、遅れをとる事はないんじゃないかしら?」

 

「いや、これには欠点があってな。一つは恩恵の発動条件が()()()()()()()()。もう一つは、与える系統のギフトは無効化できないって事だ」

 

 

群がる騎士達を薙ぎ倒しつつ、帝は懇切丁寧に飛鳥の疑問へ答える。

このギフトの使い勝手の悪さは、牙が相手のギフトに届かなければならないという点。

逆に言えば、物にギフトが付与された物は無効化できるが、本人の魂に癒着しているギフトは無効化が困難という事になる。

 

人が持つギフトとは、魂の一部。

そこへ牙を届かせようとすれば、文字通り心臓を食い破る他ない。

正直、帝はそこまで獣にはなれなかった。

 

 

 

「それに、この恩恵は神々のモノ。使用制限があって、ゲーム内でしか使えない。襲撃を撃退するだけのギフトにはなれないって事だ」

 

 

その為、今砕いたギフト達はゲーム終了と共に、元通りになる。

そういう意味では、一番ゲームらしいギフトなのかもしれない。

 

 

 

「飛鳥、手がお休みだぜ?」

 

「あら……右上方、薙ぎ払いなさい!」

 

 

飛鳥の言葉に支配された水樹は刃物の様に高圧縮された水を高速発射し、翼の騎士達を撃墜する。

さながら、ウォーターカッターの様な刃を掻い潜った騎士を、帝の牙が襲いかかり、簡単に地に伏せられる。

 

帝は、水樹を操る飛鳥を横目に、彼女のギフトを思考する。

 

(支配するギフト、ねぇ……)

 

彼女の生い立ちや、使ってきた経緯を聞いて、黒ウサギが考えたギフト。

長年の経験により、飛鳥のギフトは『支配』という一点に凝り固まってしまった、と考えてのことであり、人を支配する事を恐れた飛鳥を見かねて、黒ウサギが『ギフトを支配するギフト』を提案した、とカグヤより報告を受けている。

 

だが、帝にはそれが納得できなかった。

確証は全くないが、黒ウサギの見解には些か突っかかりを感じたのだ。

簡単に言ってしまえば、喉の奥に小骨が刺さった様な、嫌な違和感。

 

それは……本当に支配するだけのギフトなのだろうか、という疑問。

正直、今の奮闘を見る限りは確かに支配していると見てもいいだろう。

 

(その割には、水樹が元気過ぎないか?)

 

 

勿論、水樹は飛鳥の指示を受けて、水を使っている。

だが、それにしても水量が尋常ではない。

幾ら、元気のいい水樹だとしてもこれ以上水を出し切れば、水樹事態が痛む危険性がある。

だというのに、帝の目から見て、水樹が弱る傾向は一切見られない。

これではまるで………

 

 

「帝君!!」

 

 

飛鳥の鋭い声に、すぐさま回避行動へと移る。

案の定、帝がいた場所に敵騎士の槍が突き刺さる。

帝は一旦思考を全て捨て、騎士達の撃退へと意識を切り替える。

 

今は、自分の役割を精一杯務めるべきだ。

ニッと唇に笑みを浮かべ、帝は地を疾走した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

☆★☆★☆

 

飛鳥達と二手に分かれた十六夜達は、彼女らとは対照的に息を殺して状況を窺っていた。

時折、宮殿が揺れる様な振動を起こしている為、どうやらあの二人はこれでもかと言うほどに暴れているのだろう。

 

 

《…………》

 

 

少し荒れる息を整え、ギュッと手を握り合う。

ゲームはこれで二度目となるが、それでも怖い事に変わりはない。

自分がすべき事は、見つからない事と彼らの怪我を治療する事。

それだけだと言うのに、カグヤの胸には不安が仄暗い影を落としてしまう。

 

 

「……カグヤ様?」

 

 

震える彼女に気づいたのだろう、ジンが気遣わしげに声をかける。

これ以上心配をかけまいと、カグヤは精一杯の笑顔で彼に応える。

 

 

《大丈夫です。私も、“ノーネーム”のプレイヤーですから》

 

 

大丈夫……

その言葉を必死に噛み締めていると、ふと手を引かれて慌てて顔を上げる。

そこには、普段と変わらぬ笑みを浮かべたままの十六夜がいた。

 

 

「ふぅん……箱庭出身だっていうのに、こういった場にはなれてねえのか?」

 

《……申し訳ありません》

 

「ハッ……別に。帝から聞いてはいたからな。所持しているギフトも、芭蕉扇以外は戦闘で役に立たないって事も」

 

《……………》

 

 

そうなのだ。

カグヤが所持するギフトの中で、唯一戦闘向きなのは風を操る芭蕉扇のみ。

他のギフトはサポートには向いていても、一人で戦える様なモノは一切ない。

対照的に、帝は戦闘に属するギフトを多量に所持しているが、彼のギフトをカグヤは借りようとは思えなかった。

 

自分が、誰よりも戦闘に対して恐怖している事を知っているからだ。

 

申し訳なくなり、何も言えずに俯いていると、ポン、と頭部に重みを感じる。

それが、十六夜の手だと気付いた時、彼は変わらぬ楽しげな笑みで言う。

 

 

「問題ない。回復系ギフトってのは、貴重な恩恵なんだろ?そんなレアなギフト所持者がコミュニティにいるってのは、それだけで前線で戦うプレイヤーには大助かりだ」

 

《十六夜、さま…?》

 

「戦闘は俺達に任せて、お前は御チビと後ろを守れ。戦えなくても、守る事は出来るんだろ?」

 

 

守る為の力……

その言葉に、カグヤは瞳を丸くする。

今まで、考えた事はなかった。

いつだって、『戦う事』しか考えていなかったカグヤにとって、『守る事』は頭にすらなかったのだ。

 

(私が……守る……)

 

それは戦う事と同じかもしれない。

それでも、今のカグヤを奮い立たせるには十分すぎる道の示し方だった。

カグヤはその言葉を胸にしっかりと刻むと、真剣な表情で頷いて見せる。

 

 

《はい。私が皆さんを守って見せます》

 

「そうだ、それでいい。頼んだぜ?カグヤ」

 

《お任せください》

 

 

躊躇いはない。

瞳に闘志を漲らせ、カグヤはゆったりと微笑む。

と、耳を澄ませて周囲の気配を探っていた耀がピクリ、と反応した。

 

 

「人が来る。皆は隠れて」

 

 

緊張した声で警告。

如何に姿が見えないと言っても、物音や匂いまで消せるものではない。

耀の高性能な五感は、不可視のギフトに対抗する唯一の手段なのだ。

獣の様に腰を落とした耀は、見えない敵に奇襲を仕掛ける。

 

 

「な、なんだ!?」

 

 

驚愕の声。

耀はすかさず後頭部を激しく強打する。

その一撃で、訳の分からないままに失神した騎士。

倒れた彼から兜が落ちると、その姿が白日の下にされされた。

その様子を見て、耀が察する。

 

 

「この兜が不可視のギフトで間違いなさそう」

 

《多分、ハーデスの兜のレプリカだと思います》

 

 

耀が掲げる兜を隠れながら見て、カグヤが言う。

つまり、その兜を被れば“不可視”になれるという事だろう。

十六夜がジンへ投げる様指示しようとした時、カグヤが首を横に振る。

 

 

《それよりも、十六夜様がお使い下さい》

 

「……だが、御チビが見つかれば俺達の負けは確定するぞ?」

 

 

ルール上、“ノーネーム”側のゲームマスターであるジンが見つかれば、その場で敗北は決定。

それを避ける為には、彼の安全を確保する事が最優先事項だ。

だが、カグヤは首を縦には振らない。

 

 

《不可視のギフトがゲーム攻略の鍵だとは思います。ですが、体格を考えれば子供のジンよりも、十六夜様の方が見つかる危険性が高いです。それに、ルイオスへ挑む為には十六夜様の存在は必須。もし、見つかるべきなのであれば、このカグヤがすべき事でございます》

 

 

確かに、現在まだ見つかっていないのは十六夜、ジン、カグヤの三名。

その内、ルイオスに勝てる可能性があるのは十六夜だけだろう。

 

 

「……でも、見つかる可能性は排除できないよ?どうするの?」

 

 

不安そうに聞く耀へ、カグヤは暫し思考し、ジンの手を握る。

 

 

「カグヤ様…?」

 

 

ジンの声に取り合わず、カグヤは思考する。

姿を消す不可視、それは透過ではなく、唯見えなくなるだけのギフト。

 

ゆっくりとカグヤが手を離した瞬間、みるみる内にジンの姿が消えた。

その様子に、耀と十六夜が息を呑む。

 

 

 

「……ジン君、見えなくなってる?」

 

「……何をしたんだ?カグヤ」

 

創造神の悪戯(リメイク・ギフト)を使用しました。一時的に、ですがジンのギフトに“不可視”の能力を追加したんです》

 

 

そういうカグヤの顔は、みるみる青褪めていく。

その様子に、耀が慌てて彼女の下へと駆け寄った。

 

 

「だいじょ―――」

 

 

次の言葉が紡げなかった。

近寄った耀が見たのは、白魚の様に美しかった彼女の左手が―――まるで焼け爛れたかの様に真っ赤に腫れていたのだ。

流石に、これには言葉を失った。

 

 

《……これが、リスクです。私はこのギフトを使う代償として、()()()()()()ランダムに負傷するんです》

 

 

淡く笑んではいるが、その顔には脂汗が浮かんでいる。

痛々しいその手を見つつ、耀が僅かに顔を顰める。

 

 

「………春日部、作戦変更だ」

 

 

十六夜もカグヤの手を見詰め、小さく呟く。

 

 

「俺が不可視のギフトを使って、御チビと共にルイオスをぶっ倒してくる。春日部はカグヤと共にここで雑兵を足止めしてくれ」

 

 

本当であれば、後一つ不可視のギフトがあった方が安全だっただろうが、今はそうしている事自体を惜しく感じる。

十六夜は、その場で痛みに耐えるカグヤを抱え、物陰へと移動させる。

この怪我では、彼女が戦う事はほぼ無理だろう。

 

それ以上に、早く治療させる事が第一やもしれない。

そうなれば、一刻も早くゲームに勝つ事が先決だ。

耀より渡された兜を被り、十六夜の姿が消える。

 

 

「悪いな、いいとこ取りみたいで。これでも、お嬢様や春日部、帝とカグヤにもそれなりに感謝しているぞ。今回のゲームなんかは、ソロプレイで攻略出来そうにないし」

 

「気にしなくていい。埋め合わせは必ずしてもらうから」

 

 

耀は平淡な声音で、取り立てを断言する。

カグヤは嬉しげに笑んで、小さく頷いただけ。

 

思わず哄笑を上げそうになった十六夜だが、今はそんな場合ではない。

 

 

「御チビ、行くぞ」

 

「はい」

 

 

どこからか声がした。

ジンが近くにいる事を気配で確認し、十六夜はルイオスがいる最奥へと走り出す。

それを見送った時、前触れもなく耀が吹っ飛んで、壁に叩き付けられる。

 

 

「わっ……!!?」

 

《耀様!!》

 

 

倒れた耀へ悲鳴にも似た声を上げ、カグヤはふらふらと立ち上がる。

だが、次の瞬間、カグヤ自身も強い衝撃により、壁に叩き付けられてしまった。

ギシッと肋骨が軋む音と共に、肺から空気が失われた様な息苦しさを感じる。

ゲホッとカグヤの口から辛そうに咳き込む音が漏れる。

 

 

《ま、さか………本物のハーデスの兜…?》

 

 

幾ら油断していた節があるとはいえ、耀の五感を誤魔化せる筈がない。

つまり、この場に相手がいるのだ。

本物のハーデスの兜を持つ者が……

 

 

「カグヤ、大丈夫…?」

 

 

ケホッと咳き込む耀が、倒れ伏したままのカグヤを見る。

かなり重量のある鈍器で殴られて、お互いよく意識を失わないものだ。

とはいえ、カグヤは痛みのせいで簡単に意識が戻る為、ただ痛む場所が増えた程度の認識だ。

 

 

《耀様も、大丈夫ですか?》

 

「平気……と言いたいけど、結構辛い」

 

 

耀は辺りを警戒しつつ、苦しげに表情を歪める。

カグヤは満身創痍、耀とてダメージが色濃く残る状態。

何より、こちらは感知できずに、相手はこちらを視認しているという最悪の状況。

どうすれば、と思考をフル回転させる。

 

と………カグヤは自分が至った結論に、思わず目を見開き、苦笑した。

どうやら、十六夜や帝の性格が自分にも移ってしまった様だ。

 

 

《耀様……柱にお摑まり下さい》

 

 

その一言で十分だった。

耀は何かを思ったのか、すぐさま柱へと手を伸ばし、必死に力を込める。

彼女が自分の言葉を信じてくれた事に内心で感謝し、カグヤは立ち上がる。

この状況で、一番弱っているのは自分だ。

なら、相手は先に自分を再起不能にしようとするだろう。

 

カグヤは右手に鉄扇を握る。

 

 

《手加減無用………()()()()()()()()()()芭蕉扇!!!!》

 

 

一喝と共に、力の限り鉄扇を横薙ぎに振るう。

その瞬間、その空間全てを縦横無尽に放たれた風の暴力が襲い狂う。

その光景に、耀は風圧に逆らいながらも驚く。

前回のゲームで、カグヤが使用した風量の数十倍はあるのだ。

その暴力は、まるでダンプに突っ込まれたかの様な衝撃だ。

 

 

「ぐ、ぬぅ……!」

 

 

苦悶の声と共に、何かが宙を舞う。

カラン、と兜が飛ばされる音と共に現れたのは、ルイオスの傍に控えていた側近の男だ。

彼は成すすべなく風の餌食となり、虚空で風の暴力を受けている。

だが、問題はこれからだ。

 

現在、カグヤは()()()()()()()()()()()の風量を解き放ったのだ。

普段は、自分が制御できるレベルよりやや下程度で使用していた為、この状況はある意味で厄介な状態。

 

つまり、この風は耀も……カグヤですら襲われている状態と言っても過言ではないのだ。

カグヤは全神経を研ぎ澄ませ、目を伏せる。

 

(大丈夫……だって、このギフトは譲って頂いて以来、ずっと私が使用してきたモノだもの)

 

戦う事が出来なくても、自分の身位は守れる様になりたい。

そう思い、ずっと隠れて精進し続けてきた。

す……とカグヤが手を伸ばす。

 

 

(風の流れを読んで……体を任せる……)

 

肌で感じる風を頼りに、ゆっくりとその身を安全圏へと移動させる。

それは、まるで舞うかの様な美しい動き。

滑らかに風の隙間へと移動し、芭蕉扇を振る。

それによって生まれたそよ風が、荒れ狂う風を宥めていく。

 

暫くすれば、あれ程圧倒的だった風圧は嘘の様に薙いだ。

 

はぁ……とカグヤの唇から熱い息が漏れた。

 

 

「カグヤ、大丈夫?」

 

 

すかさず、耀が彼女の傍へと向かう。

カグヤはそれに淡い苦笑だけを浮かべると、耀の肌に手を這わせた。

 

 

《敵が来る前に治癒します。申し訳ありませんが、私はこれで限界ですので後の事は……》

 

「うん。任せて」

 

 

力強く頷く耀に頼もしさを感じながら、カグヤは彼女の怪我を治癒する。

自分と同じくかなりの重量を持つ鈍器で殴られた傷は、簡単に痛みを取り払われ、彼女が手を離した時には、完全に元通りとなっていた。

耀は体の調子を見つつ、笑う。

 

 

「うん、絶好調。ありがとう、カグヤ」

 

《いいえ》

 

 

淡く苦笑し、近くにあった柱へと寄りかかる様にして座る。

これが、自分の限界の様だ。

張り切って雑兵を蹴散らしていく耀を見つつ、カグヤは囮役をやってくれている飛鳥と帝を思う。

彼らは怪我をしていないだろうか……。

特に、飛鳥はこの中では自分の次に脆い普通の少女。

そのギフトこそ強力な部類だが、肉弾戦には一番向かないのだ。

 

ぼんやりとそんな事を思っていた、次の瞬間

 

 

「ra………Ra、GEEEEEEYAAAAAaaaaaaaaa!!!」

 

 

空気を切り裂くような、強烈な不協和音。

不吉を告げるその叫びを最後に、カグヤの意識はプッツリと途切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

☆★☆★☆

 

同時刻

 

 

「ra………Ra、GEEEEEEYAAAAAAaaaaaaaaaa!!!」

 

「な、なんなの!?」

 

 

一階で破壊活動に勤しんでいた飛鳥と帝の下にも、同じ不協和音が響いていた。

瞬間、帝は目を見開く。

 

 

「アルゴルの悪魔……マズイ!!飛鳥!!水樹をしまえ!!!」

 

 

怒号にも似た声で、帝が吼える。

飛鳥は慌てて彼の言葉に従い、水樹をギフトカードの中へとしまう。

 

(くそっ……)

 

あのいけ好かないボンボンが考えそうな事を頭に浮かべ、帝が飛鳥の下へと走る。

多分、彼の考えた正しいのであれば、時間がない。

 

 

「飛鳥!!」

 

 

帝は飛び掛かる様な勢いで彼女へと迫った瞬間、禍々しい赤い閃光が辺りに溢れ、飛鳥の意識が途切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

飛鳥が見た風景は、一転していた。

辺りには、石になってしまった騎士達が溢れ、華美な装飾品は色褪せて見える。

 

―――彼女がいる空間は全て石へと変り果ててしまっていた。

 

何故こうなったのか分からず、辺りを見回していると、ふと自分の後ろに人の気配を感じた。

慌てて振り返り……飛鳥は息を呑んだ。

 

 

そこに立っていたのは、青年だった。

月光の様な白い髪を後ろは短く切り揃え、モミアゲはそれと対照的に胸近くまで長く伸ばし、左側には淡蒼いメッシュを入れている。

身に纏うのは、ブーツとダメージ加工したジーンズ、そしてYシャツと黒のベスト、赤い紐と月のブローチで出来たループタイという、これまたアンバランスな出で立ち。

だが、その姿はこの世の芸術品と見紛う程に美しい。

 

 

「……貴方…………」

 

 

呟く様に呟かれた飛鳥の言葉に、一瞥くれる程度の反応を示すと、青年はどこかへと走り去ってしまった。

その背へ、あ……と飛鳥が無意識に手を伸ばす。

だが、彼は振り返る事なくそのまま行方を晦ませた。

 

残ったのは、現状に戸惑う飛鳥のみ。

 

 

「……そ、そうよ!帝君!!帝君はどこ!?」

 

 

あの時、彼は自分の傍へと来ていた筈だ。

だが、その彼は何処にも見当たらない。

もしや、自分の代わりに石に……

そんな不吉な考えすら浮かんでくる。

 

どうすればいいか、頭が追いつかない中、飛鳥は冷静になろうと、自分が覚えている事を思い出していく。

 

あの不吉な声を聴いて、帝は慌てていた。

多分、あの声が彼が警戒すべきだと言った、元・魔王なのだろう。

帝の指示に従い、水樹をギフトカードへ戻した後、帝は自分へ飛び掛かってきた。

その後……

 

(…………え?)

 

 

赤い閃光が空間を満たす前、確かに何かを感じた。

ゆっくりと思い出していく内に、飛鳥の顔がみるみると赤くなる。

あの時、確かに感じたのだ。

 

――――――飛鳥の唇に、何かが触れる感触を。

 

 

「え?ま、まさか……え!?」

 

 

いや、でも、だからって……

グルグルと認めたくない情景が思い浮かんでは消えていく。

つまり、だから……いや、そうじゃなくて……

 

 

「――――飛鳥?」

 

「きゃっ」

 

 

突然の声に、飛鳥の口から可愛らしい悲鳴が漏れる。

声をかけた主は、驚いた様に目を丸くした。

そこにいたのは、十六夜達と共に宮殿の奥へと向かった耀。

飛鳥は慌てて取り繕う。

 

 

「か、春日部さん?どうしてここに?」

 

「……えっと、帝に助けてもらったの」

 

 

帝のギフトは与える恩恵を無効化できない。

だが、与えられた事により恩恵が発動中なら、それを『モノ』に捉えて無効化できる様だ。

耀の後ろには、気を失っているカグヤを背負う銀狼がいた。

 

 

「おいおい、どうしたんだよ?石化して、意識でも持っていかれたのか?」

 

 

こちらは至って普通の反応。

これでは、一人悩んでいた自分が道化みたいだ。

ムッと顔を顰め、飛鳥は顔を逸らす。

 

 

「帝君こそ、レディを一人放置するなんて、酷過ぎるんじゃなくて?」

 

「ん?悪い悪い。飛鳥の石化が解けたのを確認して、すぐに耀の下に走ってたんだ。丁度カグヤも一緒だったから、そのままここに連れてきたって事。どうせ、こんな状態じゃ敵はあのボンボンだけだと思うしな」

 

 

パタンパタンと忙しなく動く尻尾。

どうやら、彼は飛鳥が意識を取り戻す前に二人を助けに走っていた様だ。

その時、ふと飛鳥は何かを思い出した様に二人を見た。

 

 

「ねえ、ここに来るまでに男の子を見なかったかしら?」

 

「……?男の子?」

 

「ええ。私が起きた時に、傍にいたのだけど……真っ白な髪で、こう左だけが蒼かったと思うわ。目も空色と菫色で左右違ってたかしら。凄く綺麗な人だったのだけど」

 

「それって、左側だけメッシュが入ってて、オッドアイだったって事かな?……ううん。ここに来るまでに会ってないよ。帝は?」

 

「いや……俺も会ってない」

 

 

暫し考える様に間を開け、帝が応える。

その様子に、そう、と飛鳥が頷いた。

と、ズンッと嫌な音を立てて宮殿が揺れる。

違和感を感じた帝は上空を見上げ、小さく舌打ちした。

 

 

「あの馬鹿、絶対こっちの事なんて構わず暴れてやがるな。飛鳥!!耀!!直ぐにここから離脱するぞ!!!」

 

 

背に乗ったままのカグヤを背負い直し、帝は飛鳥の傍まで近寄ると、足を折る。

 

 

「お前の足じゃ、俺と耀について来れないだろ?俺の背に乗って、カグヤを支えてくれ」

 

 

今は文句を言っている場合ではない。

飛鳥は素早く頷くと、彼の背に跨り、カグヤを抱く様にして支える。

飛鳥が乗った事を確認すると、一度だけ耀へと視線を向け、帝が走り出す。

不安定な足場を諸共せずに疾走する二人の様子は、やはり獣じみている。

 

そして、丁度全員が宮殿から離脱した時、彼らの背後で白亜の宮殿は崩壊を始めた。

ガラガラと大きな音を立てて沈む建物を茫然と見つめ、帝は溜息を零した。

 

 

「………無茶苦茶過ぎるだろ」

 

 

その呟きに、全くだ、と飛鳥と耀は内心で呟くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




これにて、ペルセウスとのギフトゲームは終了です。
帝とカグヤをどうやって活躍させるか、と結構悩んだのですがこうなりました。
耀の出番が少ない!!とは思いましたが、彼女は二巻目で単独ギフトゲームのお話がありますので、そこで活躍させてあげたいな、と思ってます。


さて、ここまで『これでもか!!』という程引っ張る、謎の青年。
今回は、飛鳥との絡みが僅かでしたがありました。
彼女が感じた唇への違和感の正体は!!?後半に――――――続きません←
でも、その秘密も二巻で明かされる予定です。

そして、この青年の正体も!!

……え?もう知ってる?
そんな事言わないで、見て下さいよ~~~。
あ、いや、ちょ……石を投げるのはやめて下さい(汗)

げっ!!石になった“ペルセウス”騎士を投げるのはもっと反則なのですよぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!





………げふん!げふん!!

では、次はエピローグとなります。

そして、お話は二巻へ。



では、また。

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