問題児たちが異世界から来るそうですよ?~月の姫君~   作:水無瀬久遠

8 / 17
()()()()()()


八章 雨模様なお茶会

 

 

あれから、三日が立った。

黒ウサギはジンに謹慎処分を受けていた。

飛鳥から話を聞いた彼が、黒ウサギが単身で“ペルセウス”と交渉しない為に、だ。

自室の窓に滴る雫を指でなぞりながら、雨の降る箱庭の都市を見る。

 

 

(ああ、定期降雨の時期でしたっけ。南側と違って東側は天幕の開放がないですものね)

 

 

人工降雨は一定のスパンで行われる。

その時だけ箱庭の天幕は可視状態となり、光学屈折で作り出した雨雲を視覚に錯覚させる。

つまり、有りもしない雨雲を“ある”と錯覚させた上で雨を降らせているのだ。

 

………ぶっちゃけた話、かなり無駄な高等技術である。

だが、どうやら神仏というのは、俗物らしく、こういった細やかな無駄さが好きなようだ。

 

 

(そういえば、レティシア様は雨が苦手でしたっけ。血の臭いが湿気と共に立ち籠めるのは宜しくない、とか何とか)

 

 

吸血鬼のくせに、何を言っているのやら。

思い出して、黒ウサギは苦笑した。

と、コンコンと控えめなノックが響く。

 

 

「はーい。鍵もかかってますし、中に誰もいませんよー」

 

《それを言ってしまった時点で、中に人がいますよね?黒ウサギ》

 

「か、カグヤ様ですか!?」

 

 

扉越しに聞こえた声は、確かに彼女のモノ。

慌てて扉へと近寄り、鍵を開ける。

開かれた扉の向こうにいたのは、カグヤ……だけではなかった。

その後ろに、耀と飛鳥の姿もある。

 

 

「やや……飛鳥さんと耀さんも。黒ウサギに何か御用ですか?」

 

「その……カグヤに誘われたのよ」

 

「私も」

 

《はい。今日は雨ですので、室内でお茶会でもと思いまして》

 

 

持ってきました、と見せる盆にはクッキーなどの洋菓子の他にも、大福などの和菓子も乗っていた。

どうやら、それをネタに話をしようという参段らしい。

黒ウサギは淡く苦笑すると、三人を室内へと招く。

 

自前の湯沸かし器でお茶を入れようとすると、やんわりとカグヤに制された。

 

 

《そういうのは、私のお仕事です。黒ウサギは座ってて下さいな》

 

「で、ですが、カグヤ様…」

 

《黒ウサギ。使用人がする仕事を、貴女がしてしまっては、私の立つ瀬がないではないですか》

 

 

だから、待ってなさいと言う彼女に、黒ウサギは苦笑して、席に座る。

楽しげな様子でお茶の支度をする彼女は、本当にそういった仕事が好きなのだろう。

暫くすると、美しい桜柄の磁器に琥珀色のお茶が注がれた。

 

 

《ジョルジです。御砂糖を入れなくても甘味のある紅茶ですので、お茶会にはぴったりかと思います》

 

 

どうぞ、と差し出されたそれは、ギリ貧で生活しているコミュニティにしては上等なモノ。

それを眺め、黒ウサギが問う。

 

 

「カグヤ様、これは……」

 

《いらないモノを処分しましたら、思った以上に良い金額になりまして……少しだけ奮発してしまいました》

 

 

ふふ、と楽しげに笑うカグヤへ、黒ウサギは蒼白になる。

どうやら、彼女は自分の私物を売ったらしい。

黒ウサギが何か言う前に、カグヤは首を横に振った。

 

 

《売ったのは、私自身が必要でないと思ったモノだけです。思い出の品や着物は一切売っていませんよ。それは、きっと帝も同じだと思います》

 

「……カグヤ様」

 

《子供達が心配していましたよ。『黒ウサギのお姉ちゃんと、飛鳥様方は喧嘩したのですか?』と》

 

 

カグヤの言葉に、三人は何とも言えない複雑な表情に顔を歪ませる。

“サウザンドアイズ”での事を話した結果、案の定と言うべきかジンも耀も反対した。

ジンはコミュニティのリーダーとして、耀は新たな友人として引き止めたのだ。

誰に悪意があった訳ではない。

ただ、お互いにカッとなって、言い過ぎてしまったのだ。

そこに飛鳥も参戦して大事になり、結局カグヤの仲介もあって、全員が頭を冷やすべきだという結論にいたり、全員揃って自室謹慎を言い渡された。

 

こうなる原因を作った帝と、あの時傍観者を決め込んでいた十六夜は、二人揃ってあの日以来帰ってこない。

もしかしたら“ノーネーム”に愛想をつかしたのかも、と誰もが思った。

そんな剣呑な空気を、子供達は察したのだろう。

だが、どうすればいいのか分からず、一番冷静だったカグヤへと相談を持ちかけたのだ。

 

 

《クッキーは子供達から、三人へとの事です。仲良くしてほしい、と必死に考えて泣きそうな顔で作っていたんですよ?》

 

 

少しだけ責める様な響きの声に、三人は互いに俯きあう。

 

 

「…そんなの、卑怯だわ。あの子達を悲しませるつもりなんて、私達にはないんだもの」

 

「でも、きっかけをくれたんだね。それなら、ちゃんと仲直りしないと」

 

 

フン、と顔を背ける飛鳥と、決意を新たにする耀。

それを見た黒ウサギも、困った様に笑った。

 

 

 

「そうですね……黒ウサギ達がしっかりしないと、コミュニティの皆が困りますよね」

 

《黒ウサギ、貴女がコミュニティから抜けるなんて、許されないんですよ?このコミュニティの中心は、一人で必死に支えてくれていた貴女なんですよ?》

 

「……はい、カグヤ様」

 

 

それはジンにも言われた事だ。

今、黒ウサギが脱退する様な真似をすれば、このコミュニティの存続に関わるだろう。

勿論、彼女に頼り切りではいけない、とジンや年長組が頑張り出してはいる。

それでも、このコミュニティの士気を保っている原因は、いつだって明るい黒ウサギの存在あってのモノ。

それに、十六夜達を招いたのは黒ウサギなのだ。

 

 

「……飛鳥から聞いた話だけど。黒ウサギの言う“月の兎”ってあの逸話の?」

 

「YES。箱庭の世界のウサギ達は総じて同一の起源をもちます。それが“月の兎”でございます」

 

 

―――“月の兎”。

傷ついた老人を救う為、炎の中に飛び込んで自らを食べる様に捧げた、仏話の一つ。

仏門における自殺は本来、大罪の一つに上げられるが、その兎の高位は自己犠牲の上に成り立つ慈悲の行為として認められ、帝釈天に召され“月の兎”と成る。

箱庭の兎はその“月の兎”から派生した末裔なのだ。

 

 

「我々“月の兎”は箱庭の中枢から力を引き出している為、力を行使した際に髪やウサ耳が影響を受けて色が変わるのですよ。個体差がありますけれどね」

 

「そうなんだ。黒ウサギも戦えたりするの?」

 

「はいな。一部のウサギは創始者の眷属の名の下に、インドラの武具の使用権限が御座います。そんじょそこらの相手には負けませんとも!」

 

 

 

えっへん、と胸を張ってウサ耳を伸ばす。

 

 

「けど、ギフトゲームの出場制限がある、と」

 

「………はいな」

 

 

一転して萎れるウサ耳。

喜怒哀楽が激しいウサ耳だと、耀達は感心した。

その時、ふと飛鳥の頭に疑問が浮かぶ。

 

 

「ねえ。それなら、カグヤさんも黒ウサギみたいに、そういった逸話があるのかしら?」

 

《はい。私と帝は“竹取物語”に精通する一族の出です》

 

 

ふわりと微笑み、カグヤが肯定する。

 

“竹取物語”といえば、かなり有名な日本話の一つだ。

その起原は、日本史上でもっとも古い物語とされ、その起原や執筆者については数々の憶測が飛び交っている。

その物語に精通する、という事は彼女達の名前からもよく分かった。

 

 

「だから、“カグヤ”で“帝”なの?」

 

《そう、だと聞いています。一族の次期当主……分かりやすく言いますと、コミュニティの次期リーダーは、全員“カグヤ”と“帝”の名を継承するんだそうです》

 

「……?貴女の一族、なのよね?どうして、そんなに曖昧なのかしら?」

 

《…………》

 

「え~~………あの、ですね?飛鳥さん。カグヤ様には記憶がないので御座います」

 

 

飛鳥の質問に、言葉を探すカグヤに変わり、黒ウサギが説明する。

カグヤはこのコミュニティに拾われる前の記憶が一切ない事。

彼女達の一族はカグヤと帝を残して、暫く前に魔王によって滅ぼされた事。

 

 

《……帝の話では、私はその情景を見て精神的に病み、記憶と色を失ったんだそうです》

 

「……色?」

 

「はいな。帝様からの受け売りですが、カグヤ様は幼い頃より美しい黒髪だったんだそうです。ですが、あまりのショックに色褪せてしまったんだとか……」

 

 

申し訳なさそうに呟く黒ウサギに、カグヤはやんわりと苦笑する。

流石に、こんな話に発展するとは思ってもみなかったのだろう。

飛鳥と耀が慌ててフォローする。

 

 

「ご、ごめん。そんな事だとは思わなくて……」

 

「私もよ。辛い事を言わせて、ごめんなさいね」

 

《いいえ。私はそれを受け入れていますし、帝が傍にいてくれますから》

 

 

記憶がない自分に、いつだって連れ添ってくれたのは兄だった。

それを心強くも思い、同時に申し訳なくも思っている。

と、飛鳥が不機嫌そうに顔を顰めた。

 

 

「私、今回の件で帝君には幻滅したわ。まさか、黒ウサギやカグヤさんを出しに使うなんて……」

 

《……違いますよ、飛鳥様》

 

 

怒った様に眉を吊り上げる彼女に、カグヤが笑う。

 

 

《帝は、絶対に私や黒ウサギをゲームの賞品にはしません》

 

「でも……」

 

《飛鳥様の話を聞く限りでは、レティシアの出荷まで時間がなかったと思います。兄は相手の気を引く事が得策だと思い、私と黒ウサギの名を出した。“月の兎”の話をしたのは、相手がより食いつきやすくする為、だと思います》

 

「……そうかしら?」

 

《飛鳥様。これだけは、断言できます。帝は……兄は()()()()()()()()()()()()()()()()()()様な戯言で、気を引いたりしません。そして、引き留める理由があったんだと思います。レティシアは、相手コミュニティから逃走したそうですね。それなら、相手は早めに売買を成立させ、出荷させる様にすると思います。だから、私や黒ウサギを使ってギリギリまで出荷を遅らせようと思ったのではないでしょうか?》

 

 

口も悪ければ、態度も悪い兄ではあるが、カグヤにとって唯一無二の肉親であり、誰よりも頼りにしている存在。

そして、彼は仲間を犠牲にする事を誰よりも嫌うのだ。

その帝が、自分達の名を出したという事は、それだけレティシアの身が危ないと思ったのだろう。

 

飛鳥の話を聞く限り、ルイオスは好色家。

交渉のテーブルを準備するには、まず女で気を引く事が得策だと思ったのだろう。

 

 

《とはいえ、多分話が終わった後の帝は、口から反吐が出そうな勢いで、文句を永遠と言ってそうですが》

 

 

実際、本人も反吐が出ると散々呟いていたのだから、双子とは不思議なモノだ。

とはいえ、これで帝がレティシアを諦めていない事が露見した。

それによって、カグヤが楽しげに微笑む。

 

 

《だから、私達は考えましょう?私や黒ウサギが賞品とならずに、レティシアを取り戻す方法を》

 

 

それが大事ではありませんか?と首を傾げて問う彼女に、三人は驚いた様に顔を見合わせると、笑って頷く。

 

 

「そうだよね。やっぱり、ギフトゲームに沢山出て、手当たり次第にギフトを手に入れていくしかないと思うな」

 

「ダメよ。時間は残り少ないのだもの。連中が是が非でも欲しい物を用意する為に、まずは探りを入れるべきだわ。黒ウサギは何か心当たりはない?」

 

「そ、そうですね……」

 

 

相手はどうしようもない好色家。

女性以外を賭けの対象とする物で、相手がどうしても欲しいと思う物。

黒ウサギは顎に手を当てて思考する。

宝物庫には数々の貴重なギフトが眠っている。

宝剣、聖槍、魔弓など、名立たる武具が揃ってはいるが、どれも使い手を選ぶものばかり。

ギリシャ神話に縁のあるものもあるが、ルイオスが嘗ての同士の為に収集活動をする人間には思えない。

 

ルイオスと話してみた感じでも、望んで交渉に当たるとは思えなかった。

 

 

 

「……ううん、難しいですね。“ペルセウス”は組織内の力が極端にリーダーに偏ったコミュニティです。“ペルセウス”を動かすというのはルイオスさんを動かすという事に他なりません。彼は道楽者だと白夜叉様が言っていましたし、彼の趣向が分からない事にはどうにも」

 

《……そういえば》

 

「どうかしたの?カグヤ」

 

 

難しい顔で考えていたカグヤが、何かを思い出した様に呟く。

耀が首を傾げて聞いた。

 

 

《黒ウサギ、あのギフトゲームは未だに健在でしたか?》

 

「あの、ギフトゲーム、でございますか?それは……む?」

 

 

カグヤの問いに、何か思い当ったのか、ピクッとウサ耳が揺れる。

 

 

「もしかして、伝説を再現したギフトゲームの事ですか?」

 

「それって?」

 

《ペルセウスのゴーゴン退治を御存じでしょうか?力のあるコミュニティは自分達の伝説を誇示する為に、伝説を再現したギフトゲームを用意する事があるんです。彼らは特定の条件を満たしたプレイヤーにのみ、そのギフトゲームへの挑戦を許すのです。自らの持つ伝説と―――旗印を賭けて》

 

 

 

飛鳥は合点がいった様に息を呑んだ。

 

 

「旗印……!そうだわ、それを奪えば交渉材料になるかも知れない!」

 

 

「はい。ですが、伝説に挑むのですから相応の資格が問われます。提示された二つのギフトゲームを乗り越え、その証を示さねばなりません。いずれも厳しい試練です。クリアにどれだけの年月がかかるか………残念ではございますが、黒ウサギ達にそれだけの時間は―――」

 

「よし!俺が一番乗りだったな!」

 

「くっそ……まさか、俺が霊長類に負けるとは」

 

「イヌ科の動物になったからといっても、俺にかけっこで勝てると思ってる方が、俺としてはワクワクしたけどな」

 

 

何やら、外が騒がしい。

飛鳥、耀、黒ウサギ、そしてカグヤは話を中断し、互いに顔を見合わせる。

声は扉の向こう側から聞こえてきた。

開けるべきか、と黒ウサギが席を立つ。

その瞬間、

 

 

「「邪魔するぞ」」

 

 

ドガァン!と派手な音を立てて、ドアが見事に粉々となった。

黒ウサギは驚いて声を上げる。

 

 

「い、十六夜さん!帝様も!今まで何処に、って破壊せずに入れないので御座いますか、貴方達は!?」

 

 

最早諦めるべきだとは思っていたが、それでも人様の部屋の扉を木端微塵に破壊する来訪者等、考えた事もない。

いや、寧ろ考えたくもない。

しかし、十六夜も帝も悪びれる事もなく肩を竦ませた。

 

 

「だって、鍵かかってたし」

 

「あ、なるほど!って、そんな訳ないでしょうが、このお馬鹿様!!」

 

「手で開けられなかったんだ。俺、狼だし」

 

「そ、そうでしたね!なら、普段からカグヤ様のお部屋へ入る際に、ノックして器用に前足でドアノブ回しているでしょ、この苛めっ子様!!!」

 

 

力一杯所持していたハリセンで、二人を叩く。

十六夜はヤハハと笑いながら、脇に抱えていた大風呂敷を机へドガッと置く。

それに従い、帝も口に銜えていた大風呂敷を置く。

 

 

「その大風呂敷、何が入ってるの?」

 

「ゲームの戦利品。見るか?」

 

 

ニッと十六夜が笑うと、二つの風呂敷を開ける。

すると、四人の表情がみるみる内に変わっていく。

あの、大人しく表情の変化の乏しい耀ですら、今は目を見開いて瞳を丸くしている。

 

 

「――――……これ、どうしたの?」

 

「だから、戦利品だって言ってるだろ」

 

「無駄に遠いから、ゲーム以上に移動時間がかかったよな」

 

「ああ、違いない」

 

 

ヤハハと笑う十六夜と、ハハハと笑う帝。

あまりの手際に、飛鳥が小さく噴き出す。

笑いを堪える様に口元を押さえ、半笑いのまま二人に話しかける。

 

 

「もしかして……貴方達、二人でこれを取りに行っていたの?」

 

「ああ。時間ギリギリまで集めてた」

 

「ま、二人で半々だから、時間は結構短縮できたんだが……場所が遠い事遠い事」

 

「ふふ、成程」

 

 

本当に、この二人は予想外の事を平然とやってくれる。

飛鳥はクスクスと笑いながら、カグヤの方を見た。

 

 

「確かに……貴女の言う通りだったわね、カグヤさん?」

 

《粗暴な人ですが、私の大事な兄ですので》

 

 

カグヤが少しだけ照れた様に、だが誇らしげな笑顔で告げた。

その兄はと言えば、十六夜と共に新たな玩具を見つけた子供の様に、輝いている。

ただ一人、全く反応を示さないのは黒ウサギ。

どうやら、この光景が信じられない様だ。

ポカン、とした彼女へ、十六夜と帝が自信満々に笑う。

 

 

「これで、手札は全部揃ってるだろ?」

 

「こんだけあれば、オマエが“ペルセウス”とのゲームで賞品にされる心配はない。勿論、カグヤもだ。後はオマエ次第だ、黒ウサギ」

 

「まさか………あの短時間で、本当に?」

 

「ああ。ま、半分は帝の戦果だな。つぅか、狼の分際で勝てるなんて、俺もビックリしたぜ」

 

「ふふん!舐めるなよ、小僧。お前とは、このコミュニティを支えるプレイヤーだった頃の年期が違うんだよ。分かったら、敬え」

 

「あー、あー、はいはい。御見それしてやってもいいぜ、狼」

 

 

和気藹々と話す二人。

流石に、男の子同士という事もあり、溶け込みも早い様だ。

だが、このゲームは口にする程楽なゲームではない。

黒ウサギは、大風呂敷の中身を大事そうに撫でると、瞳を潤ませながら笑う。

 

 

「ありがとう………ございます。これで、胸を張って“ペルセウス”に戦いを挑めます」

 

「礼を言われる事じゃねえさ。寧ろ、面白いのはここからだからな。……所で、帝」

 

「あ~、ハイハイ。分かってるっての。今回はお前の勝ちだって。約束はきちんと守るっての」

 

 

ニヤリと笑う十六夜へ、帝が拗ねた様に尻尾をブンブン振る。

ふざけ合ってはいるが、これを誰の為でもないと言って笑う。

だが、誰に言われるまでもなく、コミュニティの為に戦ってくれた事に変わりない。

それだけで、黒ウサギの胸がいっぱいになる。

 

 

(コミュニティに来てくれたのが皆さんで……黒ウサギは本当によかったと思ってます。帝様……カグヤ様。お二人がまだこのコミュニティに居てくれる事にも、黒ウサギは感謝を忘れた事がありません)

 

 

溢れそうになる涙。

それを黒ウサギは一生懸命拭く。

だが、視界の歪みは全く取れない。

泣き出した黒ウサギへカグヤはハンカチを差出、優しくその背を撫でる。

そして、

 

 

《………さて、帝と十六夜様?》

 

 

般若が降臨した。

 

 

《この壊した扉……一体どうするおつもりなのですか?》

 

 

ふわふわと笑ってはいるが、その目は絶対零度。

一瞬にして、部屋の体感温度がマイナスへと突入する。

流石に、羽目を外し過ぎたと帝は後悔した。

 

 

「あ~……カグヤ?そのぉ……戦利品に免じて、今日は許してほしいなぁ、なんて」

 

《兄さん?》

 

「俺が悪かった。扉はきっちり直すから許してくれ」

 

 

兄、陥落。

狼が土下座するなんて、滅多に見れない光景を見つつ、飛鳥と耀は思った。

カグヤだけは、怒らせるべきではない、と。

 

 

その後、十六夜と帝は正座のまま、六時間にも及ぶカグヤのお説教を滔々と聞かされた事は言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






今回は、少しだけ短いお話となりました。
昔から、無茶苦茶な兄を説教する事が仕事?と言っても過言ではなかったカグヤは、更に十六夜のお説教まで担当しています。
基本的には、黒ウサギの心労を肩代わりしようとしている……様に見えて、二人揃ってそろそろ胃薬のお世話になりそうな勢いだったり(笑)

この後、帝と十六夜はカグヤ監視の元、黒ウサギの部屋の扉を修理するとかも面白そうだと思ったのですが………これ以上は収拾がつかなくなる恐れがあった為、敢え無く断念。
でも、狼姿の帝が人間風にトンカチ片手に、日曜大工とか………想像しただけで笑えると思うんですが、如何なものでしょう?←


次は、ペルセウスとのギフトゲーム。
帝とカグヤはメインを邪魔しない程度に活躍致しますよ~~~。

……いや、もうちょっと活躍させたい、かも…………


では、また

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。