問題児たちが異世界から来るそうですよ?~月の姫君~   作:水無瀬久遠

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五章 湯煙と月光

大浴場へ着いた女性陣は、すぐさま脱衣所で服を脱ぎ、湯何処へと入る。

初めは辞退すると言っていたカグヤではあったが、飛鳥と耀、そして黒ウサギによる説得に折れ、彼女も彼ら同様に湯何処へと来ていた。

 

身体を洗い流し、湯に浸かって、漸く人心地がついた様に寛ぐ。

天井を見上げれば、箱庭の天幕と同じなのか、天井が透けて夜空には満点の星が見える。

 

黒ウサギは上を向き、長い一日を振り返る様に両腕を上げて背伸びしていた。

 

 

「本当に長い一日でした。まさか新しい同士を呼ぶのが、こんなに大変とは想像もしておりませんでしたから」

 

《……黒ウサギ、それをこの場で言うのはどうかと思いますよ?》

 

「あら、黒ウサギ。それは私達に対する当て付けかしら?」

 

「め、滅相もございません!」

 

 

バシャバシャと湯に波を立て、黒ウサギは慌てて否定する。

その様子に、カグヤは苦笑。

耀は隣でふやけた様に、ウットリした顔で湯に浸かっている。

 

 

「このお湯……森林の中の匂いがして、凄く落ち着く。三毛猫も入ればいいのに」

 

「そうですねー。水樹から溢れた水をそのまま使っていますから、三毛猫さんも気に入ると思います。浄水ですから、このまま飲んでも問題ありませんし」

 

「うん。………そういえば、黒ウサギも三毛猫の言葉が分かるの?」

 

「YES♪“審判権限(ジャッジマスター)”の特性上、余程特異な種でない限り、黒ウサギはコミュニケーション可能なのですよ」

 

「そっか………カグヤと帝も、似た様なものなの?」

 

《そう、ですね。私と帝のギフトは言葉を媒介とするギフトがありますので……その影響もあり、ある程度はコミュニケーションが取れます》

 

 

耀の質問に、カグヤは言葉を濁す。

どうやら、それにはあまり触ってほしくないらしい。

飛鳥は長く艶のある髪を纏め直し、夢心地で呟く。

 

 

「ちょっとした温泉気分ね。好きよ、こういうお風呂」

 

 

肌を擦れば、それだけで綺麗になる錯覚があった。

 

 

「水を生む樹……これも“ギフト”と呼ばれるものなの?」

 

「はいな。“ギフト”は様々な形に変幻させる事が出来、生命に宿らせる事でその力を発揮します。この水樹は“霊格の高い霊樹”と“水神の恩恵”を受けて生まれたギフトでございます。もしも恩恵を生き物に宿らせれば、水を操る事の出来るギフトとして顕現していた筈デス」

 

「水を操る?水を生むのではなく?」

 

《ギフトとはいえ、無から有を作れないのですよ、飛鳥様。一応は出来なくもないのでしょうけど、霊樹の様に浄水する事は難しいでしょう。あの水樹も、大気中の水分を葉から吸収し、増量させて水を生みだしているのです。もし、無から有を生むのであるならば、白夜王や龍位でなければ、とても……》

 

 

そう、と空返事する飛鳥。

満点の星空を見上げながら、ふ、と思いついた様に呟く。

 

 

「龍、ね……それもギフトゲームで手に入れたの?龍のゲームはどんなゲーム?」

 

「そ、それは流石に黒ウサギは分からないのです。黒ウサギがコミュニティに入った頃には既に台座に飾られていましたから。カグヤ様は?」

 

《私は参加してませんが……帝は同席していたと思います。確か、力に関係したゲームだったと思いますが》

 

「そうなの?明日のギフトゲームの参考になるかしら?」

 

 

小首を傾げる飛鳥へ、黒ウサギは杞憂だと笑う。

 

 

「まさか!“フォレス・ガロ”がそんな大層なゲームを用意する事等不可能でございますよ。相手のコミュニティの存続がかかったゲームですから、得意分野の“力”を競うモノになると思いますが、飛鳥さん達なら問題ないでしょう。余程運に頼ったゲームでない限りは、心配ご無用です。それに、帝様も参加されるんですし」

 

《……いえ、帝は参加しないと思いますよ?》

 

 

 

ピタッ、と動きを止める黒ウサギ。

 

 

「み、帝様が参加なされない!?そ、それはどういう了見なのですか!!?まさか、また黒ウサギへの嫌がらせが………っ!?」

 

《く、黒ウサギ!落ち着きなさい》

 

 

うがぁぁ、と打ちひしがれる黒ウサギ、を慌てて宥める。

どうやら、彼の嫌がらせはそういった類にまで及んでいたらしい。

カグヤが苦笑する。

 

 

《そうじゃなく、ですね。多分、帝は試したいんだと思います》

 

「……?試す?」

 

《飛鳥様と耀様の実力を、そして私が戦えるのか、をです》

 

「あら、彼は私達を信用していないのかしら?」

 

 

不機嫌そうに顔を顰める飛鳥。

湯船でふやけていた耀も、少しだけ怒った様に顔を顰めている。

カグヤは小さく頷く。

 

 

《帝が信じているのは、現実のみです。例え、どれだけ優れたギフトを持とうとも、戦果がなければ唯の持ち腐れ。それが彼の理解ですので》

 

「……それなら、帝君はどれだけの戦果を上げたのかしら?」

 

 

飛鳥の言葉に、黒ウサギはウサ耳を萎らせる。

 

 

「帝様の戦果は、多数あります。ここの宝物庫に鎮座されている強い力を持ったギフトは、帝様が勝ち取ったモノだと聞いております」

 

《それに……帝は魔王とのギフトゲームを単独で勝ち上がった経験もあります》

 

 

静かに告げるカグヤの言葉に、二人が目を丸くする。

問い質す様な視線を黒ウサギへ向けると、彼女も黙って肯首する。

 

 

「……そう。彼はそれだけの実力者って事ね」

 

「狼ってそんなに強いの?」

 

「い、いえ!帝様があのような姿になられたのは……三年前でございます」

 

「三年前?それって……」

 

《このコミュニティを壊滅させた魔王とのギフトゲームです。帝は、子供達や黒ウサギからもギフトを奪おうとした彼らへ交渉を持ちかけ……ある“恩恵(ギフト)”を受けました》

 

「ギフト?それは一体……」

 

《“呪われし狼(ウルヴス・サーガ)”。帝は……人である事を捨て、その身を獣に落としてまで守ろうとしたんです》

 

 

呪われし狼(ウルヴス・サーガ)”は、その身を狼へと変化させるギフト。

ある一定条件をクリアすれば、限られた時間でのみ人に戻れる。

だが、このギフトが発動している間は他のギフトは殆ど使えない状態となる恐ろしい“呪い(ギフト)”。

 

 

「……あれ?でも待って。それなら」

 

「どうして、帝様が人語を話せるか、でございますね?」

 

 

黒ウサギの言葉に、耀は静かに頷く。

彼は確かに『そういったギフトを使っている』と言った。

それならば、彼は“呪われし狼(ウルヴス・サーガ)”以外のギフトを使っているという事になる。

つまり、カグヤの説明とは矛盾するのだ。

 

 

「帝様が他のギフトを使える理由は、カグヤ様なのです」

 

「……カグヤさん?」

 

「YES。カグヤ様が所持していたギフトの一つ、“創造神の悪戯(リメイク・ギフト)”の力によって、帝様はその呪い(ギフト)が発動中でも、人だった頃に使っていたギフトを霊格を落とした威力で使えるのです」

 

 

 

創造神の悪戯(リメイク・ギフト)”は、相手に触れる事によって発動するギフト。

一定の時間、そのギフトの効力を改ざんする事が出来るという特殊な恩恵(ギフト)なのだ。

 

 

《上層部との“運気”を試すギフトゲームで頂きました》

 

「ふぅん……それは、どういったギフトゲームなのかしら?」

 

《サイコロを転がして、相手より大きな目を出した方が勝ち、といったゲームです》

 

「そ、そう」

 

 

カグヤの返答に、飛鳥は複雑そうに顔を顰める。

それだけの高位ギフトを手に入れる方法が、ただサイコロを転がすだけ、とは少々華がなさ過ぎる気もする。

だが、それ程のギフトをサイコロ程度でホイホイ渡してしまう、相手が想像できない。

 

 

《……ですが、このギフトでは帝が他のギフトを使える様になるには、やはり役不足でした。ですので、私はこのギフトを使って“創造神の悪戯(リメイク・ギフト)”事態を()()()()()()にしたんです》

 

 

そのギフトの力で、効力事態を改ざんするという、規格外な事に挑み、結果として帝が受けた“呪い(ギフト)”の改ざんには成功した。

だが、その代償として三年もの昏睡状態へ陥ったのだ。

 

 

「……そのギフトって、今でも使えるの?」

 

《殆ど劣化してしまい、“改ざんする”ギフトから“一定時間追加する”ギフトになってしまいましたが、一応は機能致します。ですが……リスクが付く様になってしまったので、それ程使い勝手のいいモノではありませんね》

 

 

純粋な好奇心から来る耀の質問に、カグヤは暫し考えてそう告げる。

それ程いい話題ではない、と判断したのだろう。

黒ウサギが、パタパタと腕を振る。

 

 

「折角の裸の付き合いです!よかったら、黒ウサギもお二人様の事を聞いてもいいですか?ご趣味や故郷の事などナド。カグヤ様も聞いて見たいですよね!?」

 

《そう、ですね……良く考えてみましたら、私は生まれてからずっと、箱庭以外の世界を知りません。よろしければ、お聞かせください》

 

 

「あら、そんなものが聞きたいの?」

 

「それはもう、黒ウサギの好奇心でございますヨ!ずっとずっと待ち望んでいた女の子同士の裸の付き合い、黒ウサギはお二人様に興味津々でございます♪」

 

《……失礼ながら、私もです》

 

 

嬉々とした笑顔で詰め寄る黒ウサギと、恥ずかしそうにおずおずと手を上げるカグヤ。

それは裏も他意も無い言葉だったが、二人は気が乗らない様な顔をする。

それというのも、手紙にはこう書かれていたからだ。

 

 

『家族を、友人を、財産を、世界の全てを捨てて箱庭に来い』と。

 

その捨ててきたものを、今さら顧みる様な真似は、なるべくしたくない。

 

 

「けど、そうね。これから一緒に生活する仲だもの。障りない程度なら構わないわよ」

 

「私はあまり話したくない。けど、質問はしたい。黒ウサギとカグヤには興味ある。髪の色が桜色になるなんて、ちょっとカッコイイし、カグヤと帝の事も聞きたい。」

 

「あやや、黒ウサギってばカッコイイですか?」

 

「それなら、私も気になっていたところよ。なら、お互いに情報交換、という事でいいかしら」

 

《はい。答えられる範囲でしたら》

 

 

ほんわかと笑うカグヤに、全員が楽しげに笑う。

 

 

「そういえば、カグヤさん。あの時なのだけれど……ほら、貴女が帝君を止めに入った時」

 

《はい。覚えております》

 

「その時、貴女はこう言ったわよね?『兄さんが』って」

 

《はい。実は、私と帝は双子の兄妹なんです》

 

「双子?じゃあ、帝が人間になったらカグヤそっくりなの?」

 

《あ、いえ……どうでしょう?昔の仲間達からは賛否両論でした。似ている、と言う方もいましたし、似てないと言われた方もいます。黒ウサギはどう思います?》

 

「むむ……黒ウサギは似てないに一票です。カグヤ様はこんなにお綺麗でお優しいのに、帝様は傍若無人で黒ウサギをよく苛める、いじめっ子様です」

 

 

むぅ、と唇を尖らせる黒ウサギに、カグヤは苦笑する。

 

………そういえば、本拠へ戻ってくる際に帝の姿が見受けられなかった。

耀はぼんやりとそう思い、空に見える十六夜の月を眺めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

☆★☆★☆

 

“サウザンドアイズ”二一○五三八○外門支店。

既に閉店したその店で、白夜叉は自室にいた。

空には煌々と聳える十六夜の月。

その明かりを楽しみつつ、御猪口に次いだ酒を煽る。

と、そこに一人の影が伸びる。

 

 

「……ふふ、久しいの“箱庭の御子”」

 

「そんな古臭い名で呼ぶのは、お前位だろうな白夜叉」

 

 

邪魔する、と部屋へ入ってきたのは青年だった。

月光の様な白い髪を後ろは短く切り揃え、モミアゲはそれと対照的に胸近くまで長く伸ばし、左側には淡蒼いメッシュを入れている。

身に纏うのは、ブーツとダメージ加工したジーンズ、そしてYシャツと黒のベスト、赤い紐と月のブローチで出来たループタイという、これまたアンバランスな出で立ち。

 

彼は、空色と菫色のオッドアイを楽しげに細めて笑う。

 

 

「言葉を交わすのは、三年ぶりだったか?」

 

「で、あろうな。姫君は息災か?」

 

「ああ。“フォレス・ガロ”とのギフトゲームに参加させる予定だから、楽しみにみていればいい」

 

 

青年の言葉に、ほぅ、と白夜叉が珍しそうに笑う。

 

 

「よもや、姫君命だったおんしが、進んでその姫にゲームをせよと申すか」

 

「事情が事情だ。それに……俺も正直、彼奴を守ってやれる自信がない」

 

 

白夜叉の向かい側に座り、月を眺める。

その目は、不安と後悔がさざ波の様に揺れ、白夜叉はそれ程までに彼が自分を追い込んでいる事を悲しく思った。

 

この青年は、こんな悲しい瞳をするような子供ではなかった。

いつでも強い意志を宿し、血の滲む努力の末に大事な姫君を守る“騎士”だった。

だが……三年前の悲劇が彼から自信や安息を奪ってしまった。

それが、何よりも白夜叉の胸を締め付ける。

 

 

「……して、おんしが来たのはこれじゃな?」

 

 

飲んでいた猪口を置き、自身の袂を探る。

そして出てきたのは、二枚のカード。

一つはムーンシルバー、そしてもう一枚はブラッディダーク。

相反する色合いのそれを目に、青年の顔つきが真剣なモノへと変わる。

 

 

「三年もの間、我々のギフトをお守り頂いた事、感謝致します、白夜の王よ」

 

「よいよい。それも先代より頼まれた事。おんしが頭を下げる事ではあるまいに」

 

 

渡されたギフトカードには、昔の様な旗印はない。

それを沈痛な面持ちで眺めると、青年はカードをしまう。

 

もう帰ろう。

そう思い、立ち上がった時、すぅ……と白夜叉がもう一対の猪口を彼へと差し出す。

 

 

「月見酒に一杯付き合うくらい、よかろう?私も一人では、少々味気なくてな」

 

「………了解した。これも、恩義だからな」

 

 

ニシシと悪戯っ子の様な笑みを浮かべる白夜叉から猪口を受け取り、彼女の酌を受ける。

並々と次がれたそれを眺めると、青年は一気に煽る。

 

酒を飲むのは、いつ振りだろう。

少しだけ喉の奥がカッと熱くなる感覚に、淡く苦笑が漏れる。

 

 

「かなり上質な酒だな」

 

「ふふ。ちょっとした秘蔵の酒だ。おんしの故郷の味に近いのではないか?」

 

「……あそこの酒は、泥水同様の味しかしなかったよ」

 

 

青年は苦々しげに顔を顰めると、彼女へと酌を進める。

互いに酌をしつつ、ゆっくりと傾いていく月を眺め、暫しの歓談となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




少しだけ、彼らのギフトが出てきたお話でした。
とはいえ、ここで出てきたギフトは今後出てこない気がします

うん、だって呪いに劣化したギフトなんだもん←


やっと出てきた白夜叉様は………難敵でした
彼女、年老いた感じの話し方っぽいだけで、結構大変なんですね。
うん、書き辛い←←


さて、次は“フォレス・ガロ”とのギフトゲーム!!
どれだけ、状況がグシャグシャになるかは、見てのお楽しみ!!


では、また

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