問題児たちが異世界から来るそうですよ?~月の姫君~   作:水無瀬久遠

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四章 時間の止まった街

日が暮れた頃に噴水広場で合流し、話を聞いた黒ウザきは案の定ウサ耳を逆立てて怒っていた。

突然の展開に嵐の様な説教と質問が飛び交う。

 

 

「な、なんであの短時間に“フォレス・ガロ”のリーダーと接触して、しかも喧嘩を売る状況になったのですか!?」「しかもゲームの日取りは明日!?」「それも敵のテリトリー内で戦うなんて!」「準備している時間もお金もありません!」「カグヤ様と帝様がついていながら、どうしてこんな事に!?」「一体どういう心算があっての事です!」「聞いているのですか、五人とも!!」

 

 

「「「「ムシャクシャしてやった。今は反省しています」」」」

 

 

「黙らっしゃい!!!」

 

《あ、ははは……》

 

 

誰が言い出したのか、まるで口裏を合わせていたかのような言い訳に、激怒する黒ウサギ。

それを見て失笑するカグヤ。

 

その状況に、ニヤニヤと笑って見ていた十六夜が止めに入る。

 

 

「別にいいじゃねぇか。見境なく選んで喧嘩売った訳じゃないんだから、許してやれよ」

 

「い、十六夜さんは面白ければいいと思っているかもしれませんけど、このゲームで得られるものは自己満足だけなんですよ?この“契約書類(ギアスロール)”を見て下さい」

 

 

黒ウサギの見せた“契約書類”は“主催者権限(ホストマスター)”を持たない者達が“主催者”となってゲームを開催する為に必要なギフトである。

そこにはゲームの内容・ルール・チップ・賞品が書かれており、“主催者”のコミュニティのリーダーが署名する事で成立する。黒ウサギが指す賞品の内容はこうだ。

 

 

「“参加者(プレイヤー)が勝利した場合、主催者(ホスト)は参加者の言及する全ての罪を認め、箱庭の法の下で正しい裁きを受けた後、コミュニティを解散する”―――まあ、確かに自己満足だ。時間をかければ立証できるものを、態々取り逃がすリスクを背負ってまで、短縮させるんだからな」

 

 

因みに、飛鳥達のチップは“罪を黙認する”というものだ。

それは今回に限った事ではなく、これ以降もずっと口を閉ざし続けるという意味である。

 

 

「でも時間さえかければ、彼らの罪は必ず暴かれます。だって肝心の子供達は……その、」

 

 

黒ウサギが言い淀む。

彼女も“フォレス・ガロ”の悪評は聞いていたが、そこまで酷い状態になっているとは思っていなかったのだろう。

 

 

「そう。人質は既にこの世にはいないわ。その点を責め立てれば、必ず証拠は出るでしょう。だけど、それには少々時間がかかるのも事実。あの外道を裁くのに、そんな時間をかけたくないの」

 

「それに、彼奴には後ろ盾がいる。そこに逃げ込まれれば、将来的にはぶっ殺せても、今の段階では裁く事は愚か、取り逃がす事になっていただろうな」

 

 

箱庭の法は、あくまで箱庭都市内でのみ有効なモノ。

そこから出てしまえば、様々な種族によってルールも異なってしまう。

だからこそ、逃げられる前に“契約書類”によって、逃亡を防止する事も大事な事だったのだ。

 

 

「それにね、黒ウサギ。私は道徳云々よりも、あの外道が私の活動範囲内で野放しにされる事も許せないの。ここで逃がせば、いつかまた狙ってくるに決まってるもの」

 

「ま、まあ………逃がせば厄介かもしれませんけど」

 

「僕もガルドを逃がしたくないと思っている。彼の様な悪人を野放しにしちゃいけない」

 

「それに、丁度いい肩慣らしになるだろ。飛鳥と耀の実力を測る意味でも、カグヤのギフトがどれだけ通用するかを確認する意味でも」

 

 

ジンが同調する姿勢を見せ、帝が軽い調子で言葉を重ねる。

彼らの言葉に、黒ウサギは諦めた様に頷いた。

 

 

「はぁ~……。仕方がない人達です。まあいいデス。腹立たしいのは黒ウサギも同じですし。“フォレス・ガロ”程度なら十六夜さんが一人いれば、楽勝でしょう」

 

 

それは黒ウサギの正当な評価のつもりだった。

しかし、十六夜と飛鳥、そして帝が怪訝そうな顔をする。

 

 

「何言ってんだよ。俺は参加しねぇよ?」

 

「当たり前よ。貴方なんて参加させないわ」

 

「十六夜の参加は無理だろ。参加者は、あの場で喧嘩を売った俺達なんだからな」

 

 

フンッ、と鼻を鳴らす二人と、少し呆れた調子で告げる一匹。

黒ウサギが慌てて三人に食って掛かる。

 

 

「だ、駄目ですよ!御二人はコミュニティの仲間なんですから、ちゃんと協力しないと………って、なんですとぉ!!?」

 

 

帝の指摘により、再度食い入るように“契約書類”を見詰め、

 

 

「……うぅ」

 

 

確かにそう書いてある事により、黒ウサギはその場でガックリと膝を折る。

シクシクと泣声すら聞こえてきた為、カグヤが慰める様に彼女の背を撫でている。

 

 

「そうじゃなくても、この喧嘩はコイツらが()()()。そして、奴等が()()()。なのに、俺が手を出すのは無粋ってもんだろ?」

 

「あら、分かっているじゃない」

 

「………。ああもう、好きにして下さい」

 

 

丸一日振り回され続け、疲弊した黒ウサギはもう言い返す気力すら残ってはいない。

どうせ失う物は無いゲーム、もうどうにでもなればいいと呟いて、肩を落とすのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

☆★☆★☆

 

椅子から腰を上げた黒ウサギは、横に置いてあった水樹の苗を大事そうに抱き上げる。

コホンと咳払いをした黒ウサギは、気を取り直して全員に切り出した。

 

 

「そろそろ行きましょうか。本当は皆さんを歓迎する為に、素敵なお店を予約して色々とセッティングしていたのですけれども……不慮の事故続きで、今日はお流れとなってしまいました。また後日、きちんと歓迎を」

 

「いいわよ、無理しなくて。私達のコミュニティってそれはもう崖っぷちなんでしょう?」

 

 

驚いた黒ウサギは、すかさずジンを見る。

かれの申し訳なさそうな顔を見て、自分達の事情を知られたのだと悟る。

カグヤと帝が淡く苦笑した。

 

 

「客人が気にするな。確かに、現状としてはそれ程裕福とは言い難いけどな」

 

《私と帝の私物を売れば、歓迎会の資金位容易に御仕度できますから》

 

「い、いけないのですよ!カグヤ様!帝様!!御二人がそんな身を切る様な真似を…」

 

《いいんです、黒ウサギ。元より、三年も眠り続けていた私達の私物を、貴女もジンも手付かずで残してくださった。私達はそれだけでも、十分なんです》

 

「それに、元々彼奴らに押し付けられた品が多いしな。正直、俺の趣味と違うし、部屋も広くなって一石二鳥だな」

 

 

やんわりと微笑むカグヤと、楽しげにカラカラと笑う帝に、ウサ耳まで赤くした黒ウサギは恥ずかしそうに頭を下げた。

 

 

「も、申し訳ございません……御二人も……騙すのは気が引けたのですが……黒ウサギ達も必死だったのです」

 

「もういいわ。私は組織の水準なんて、どうでもよかったもの。二人も、自分の物を売ってまで資金にしなくて結構よ。春日部さんはどう?」

 

 

黒ウサギが恐る恐る耀の顔を窺う。

耀は無関心なままに首を振った。

 

 

「私も怒ってない。そもそもコミュニティがどうの、というのは別にどうでも……あ、けど」

 

 

思い出した様に迷いながら呟く耀。

ジンはテーブルに身を乗り出して問う。

 

 

「どうぞ、気兼ねなく聞いて下さい。僕らに出来る事なら最低限の用意はさせてもらいます」

 

「そ、そんな大それた物じゃないよ。ただ私は……毎日三食お風呂付きの寝床があればいいな、と思っただけだから」

 

 

ピシッと音が聞こえそうな程に、ジンの表情が固まった。

その様子に、帝がケラケラと笑う。

 

 

「そうだよな。三人揃って、水には困った事のない国から呼ばれていりゃ、風呂は絶対条件だよな」

 

《帝、そんなに笑うのは失礼ですよ》

 

「いや、だってよ。自分で『気兼ねなく聞いて下さい』って言っときながら、固まってたら訳ねぇだろ」

 

 

ククッと喉の奥で意地悪に笑う彼に、ムッとカグヤが顔を顰める。

この箱庭で水を得るには買うか、もしくは数㎞も離れた大河から汲まねばならない。

水の確保が大変な土地でお風呂というのは、一種の贅沢品なのだ。

 

その苦労を察した耀が慌てて取り消そうとしたが、必要ないと帝が首を振る。

 

 

「了解。風呂位準備させてもらう」

 

「で、ですけど、帝様」

 

「俺のギフトを使えば、水の確保は何とかなるだろ。後は火を起こせれば……」

 

 

ふむ、と唸る帝へ、黒ウサギが嬉々とした顔で水樹を持ち上げる。

 

 

「大丈夫です、帝様!十六夜さんが、こんな大きな水樹の苗を手に入れてくれましたから!これで水を買う必要もなくなりますし、水路を復活させる事も出来ます♪」

 

 

彼女の言葉に、ジンの表情も一転して明るいモノへと変わる。

これには、飛鳥も安心した様な顔を浮かべた。

 

 

「今日は理不尽に湖へ投げ出されたから、お風呂には絶対入りたかった所よ」

 

《み、湖ですか!?》

 

「それには同意だぜ。あんな手荒い招待は二度と御免だ」

 

「……そりゃ酷いな」

 

「あう……そ、それは黒ウサギの責任外の事ですよ……どうか、カグヤ様も帝様も黒ウサギを睨まないで下さいまし」

 

 

召喚された三人の責める様な視線と、二人の叱る様な視線に怖気づく黒ウサギ。

ジンも隣で苦笑する。

 

 

「あはは………それじゃあ、今日はコミュニティへ帰る?」

 

「いや、三人は先にギフトを鑑定してもらうべきだろ」

 

「はい。黒ウサギもそう思います。なので、ジン坊ちゃん達は先にお帰り下さい。“サウザンドアイズ”に皆さんのギフト鑑定をお願いしてきます。この水樹の事もありますし」

 

 

十六夜達三人は、首を傾げて聞き直す。

 

 

「“サウザンドアイズ”?コミュニティの名前か?」

 

「YES。“サウザンドアイズ”は特殊な“瞳”のギフトを持つ者達の群体コミュニティ。箱庭の東西南北・上層下層の全てに精通する超巨大商業コミュニティです。幸いこの近くに支店がありますし」

 

《白夜王なら、私達を邪険にはしないでしょう》

 

「ま、大概の商業コミュニティってのは、“名無し”を信用しねぇからな。今の段階で、多分話を聞いてくれる物好きは、白夜叉くらいだろうな」

 

 

朗らかに笑うカグヤと、淡く苦笑する帝。

それ程に、“ノーネーム”は社会的立場も危ういのだ。

 

 

「ギフトの鑑定というのは?」

 

「勿論、ギフトの秘めた力や起源等を鑑定する事デス。自分の力の正しい形を把握していた方が、引き出せる力はより大きくなります。皆さんも自分の力の出所は気になるでしょう?」

 

 

同意を求める黒ウサギに、三人は複雑な表情で返す。

思う事は其々あるのだろう。

 

 

《大丈夫です。知ったからといって、どうこうなるモノではありませんよ》

 

「ま、血液検査程度な感じで構えてればいい。俺達は一足先にコミュニティに戻って、ご馳走でも作らせてもらうぜ」

 

「お、そいつは楽しみだな」

 

「おう!!気合いをいれて、野兎の姿焼きを―――」

 

「なんですか!!?その黒ウサギに対してのダイレクトな嫌がらせは!!帝様は、黒ウサギに同族を喰えと仰るのデスカ!!?」

 

《帝、それは流石に……》

 

「そうか?じゃあ、野兎の唐揚げとか、野兎の生姜焼きにでも―――」

 

「何故にウサギから離れないのですか!!?帝様は黒ウサギを苛めて、楽しんでいるのですか!!!?」

 

「うん。ちょーたのしー」

 

「うなぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

素直な感想に、黒ウサギは頭を抱えて泣き出す。

カグヤは小さく溜息を零し、帝の頭部をポカリと殴った。

 

 

《帝…》

 

「へいへい。もう苛めないって」

 

 

責める様なカグヤに、帝は愉しげに笑い、黒ウサギへと謝罪する。

その様子に、ちょこんっと彼女の傍へと移動した耀が聞く。

 

 

「こうなの?」

 

《はい。どうにも、帝は黒ウサギの反応が面白いらしく、彼女がコミュニティに所属して以降、こうしてからかうんです》

 

 

彼女の質問に、カグヤは苦笑する。

昔から、彼の態度は変わらない。

あれさえなければ、よい兄貴分だとは思うのだが……そこは言わないでおこう。

 

 

「うぅ……では、行きましょうか。御三人様」

 

「あ、そうそう。黒ウサギ」

 

「………今度はなんでしょうか?」

 

 

先程のからかいが尾を引いているのだろう、帝の呼びかけに恨めしそうな顔で黒ウサギが振り返る。

問題児三人に加え、いじめっ子の相手までしているせいか、普段よりも精神的疲労感が半端ではない。

 

 

「白夜叉に伝言を頼む。月が傾く時に、とだけ」

 

「………?はい、そうお伝えすればいいんですね?」

 

「おう、頼んだ」

 

 

黒ウサギの先導で、街へと消えていく四人を見送り、ジン・帝・カグヤの三人はコミュニティへの帰路へとついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

☆★☆★☆

 

“ノーネーム”住居区画、水門前。

四人の帰りを待つために、ジンとコミュニティの子供達、そしてカグヤと帝が清掃道具を手に、水路を掃除していた。

 

 

「帝様ぁ~~、これでいい?」

 

「ん、上出来。ほら、次に行くぞ」

 

 

獣の姿では、出来る掃除も限られる。

その為、子供達では手の届かない場所へ、子供達を背に乗せて手伝っていた。

ふわふわと手触りのいい彼の背に、子供達はキャッキャッと楽しげな声を上げた。

その様子を眺め、カグヤも手に持つモップで砂や苔を落とす。

と、

 

 

「あ、みなさん!水路と貯水池の準備は調っています!」

 

「お帰り。どうだったんだ?」

 

《お帰りなさいませ》

 

「ご苦労様です、ジン坊ちゃん♪帝様とカグヤ様も。皆も掃除を手伝っていましたか?」

 

 

帰ってきた彼らへ、労いの言葉を投げる。

すると、ワイワイと騒ぐ子供達が黒ウサギの元へ群がる。

 

 

「黒ウサのねーちゃんお帰り!」

 

「眠たいけど、お掃除手伝ったよー」

 

「ねぇねぇ、新しい人達って誰!?」

 

「強いの!?カッコいい!?」

 

「ほら、お前ら!新しい仲間の前で見っとも無い態度を見せるな!整列!!」

 

 

帝の一括で、子供達は一糸乱れぬ動きで横一列に並ぶ。

数は大体二○位だろう。

中には、猫耳や狐耳といった動物の耳を所有している少年少女もいた。

 

 

(マジで餓鬼ばっかだな。半分は人間以外の餓鬼か?)

 

(じ、実際に目の当たりにすると、想像以上に多いわ。これで六分の一ですって?)

 

(……。私、子供嫌いなのに大丈夫かなぁ)

 

《心配は御座いませんよ。彼らは年長組です。皆様を支える責務を負う、きちんとした躾はされていますので》

 

 

三者三様の感想を胸の内に呟いていると、カグヤが察したのかやんわりと口添えする。

今後とも、彼らと生活していくのなら、不和を生まない様にする事は必須と言ってもいい。

コホン、と仰々しく咳き込んだ黒ウサギは、三人を紹介する。

 

 

「右から逆廻十六夜さん、久遠飛鳥さん、春日部耀さんです。皆も知っている通り、コミュニティを支えるのは力のあるギフトプレイヤーです。ギフトゲームに参加出来ない者達はギフトプレイヤーの私生活を支え、励まし、時に彼らの為に身を粉にして尽くさねばなりません」

 

「あら、別にそんなのは必要ないわよ?もっとフランクにしてくれても」

 

《いえ、これは大事な事なのです》

 

 

飛鳥の申し出を、カグヤが一蹴する。

その瞳は、厳しい色に染まる。

 

 

《コミュニティはプレイヤーの方々で成り立っている、と言っても過言ではありません。この箱庭で生きていく以上、ギフトゲームへ参加し、恩恵を齎す事を第一とするプレイヤーに甘える事は、コミュニティの堕落を意味します。この箱庭で生きていたいのであれば、参加できない者達はプレイヤーの為に働く事が必須。子供だからと甘やかす事は、この子達の将来を台無しにする行為なのですよ》

 

「………そう」

 

 

カグヤの気迫に押され、飛鳥が黙る。

それは今日まで、この箱庭で生きてきた彼女達の考え方なのだろう。

だが、同時に思ってしまった。

自分達に課せられた責任は、飛鳥が思っているモノよりも遥かに重いと言う事も……。

 

 

 

「カグヤも言ったが、此処にいるのはコミュニティの中では年長組だ。ゲームには出られないんだが、見ての通り獣のギフトを持っている子もいる。何か用事がある時や、簡単な質問程度ならこの子らを使ってくれ。お前らも、それでいいな?」

 

 

「「「「宜しくお願いします!」」」」

 

 

キーン、と耳鳴りがする程の大声で、二○人前後の子供達が叫ぶ。

三人は、金づちで殴られたかの様な状況。

近くにいた帝に至っては、想像以上のダメージだったのか、顔を顰めている。

 

 

「ハハ、元気がいいじゃねぇか」

 

「そ、そうね」

 

(………。本当にやっていけるかな、私)

 

 

ヤハハと笑うのは十六夜だけで、他の二人は何とも言えない複雑な顔をしていた。

ここでの生活に、早くも挫折しそうな予感がした。

 

話をそこそこに、十六夜より水樹を受け取り、台座へと置く。

そして、根を覆っていた布を外すと、そこから大波の様な水が溢れ返り、激流となって貯水池を埋めていった。

 

最初は腕で抱えられるくらいだった水樹は、その根で台座を覆い、大きな樹へと成長し、絶やす事無く水を放出し続ける。

 

 

「はは、こりゃいいな」

 

《そうですね》

 

 

みるみる貯水池を埋めていく水に、子供達が歓声を上げる。

これで当面の水不足は解消される事だろう。

ほぅ、と胸を撫で下ろし、二人は貯水池に広がる波紋を眺めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

☆★☆★☆

 

本拠地となる屋敷に着いた頃には、既に宵闇が辺りを包み込んでいた。

月明かりによって浮き彫りになるそこは、まるでホテルの様な巨大さ。

 

耀は本拠となる屋敷を見上げ、感嘆した様に呟く。

 

 

「遠目から見てもかなり大きいけど……近づくと一層大きいね。何処に泊まればいい?」

 

「コミュニティの伝統では、ギフトゲームに参加できるモノには序列を与え、上位から最上階に住む事になっております」

 

《とはいえ、現在この屋敷に住むのは私と帝、黒ウサギにジンのみです。皆様には、それぞれ私達に近い部屋を準備させて頂きました。何かあった際に、すぐ近くに私達がいた方が何かと便利だと判断しまして》

 

「そうね。ところで、そこにある別館は?」

 

 

飛鳥は屋敷の脇に建つ建物を指す。

 

 

「ああ、あれは子供達の館ですよ。本来は別の用途があるのですが、警備の問題で皆此処に住んでます。飛鳥さんは、一二○人の子供と一緒の館の方がよかったですか?」

 

「遠慮するわ」

 

 

飛鳥は即答した。

苦手ではないにせよ、そんな大人数を相手にするのは御免被りたい。

クスッとカグヤが楽しげに笑う。

 

 

《大浴場の準備は出来てます。お湯ももう少しすればいい温度になるでしょうから……えっと、どうしましょうか?》

 

 

カグヤが困った様に笑う。

それは、女性と男性のどちらが先に入るか、という事だろう。

 

 

「俺は二番風呂が好きな男だから、特に構わねぇよ」

 

《……では、女性から先にどうぞ》

 

「ありがと。先に入らせてもらうわよ、十六夜君」

 

 

カグヤの先導の元、女性三人は真っ直ぐに大浴場へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




と、取り敢えず一区切り(汗)

まだまだ長くなりそうですね、これ。
多分、後六話くらい書かなくてはならなそうで、水無瀬は泣きそうです。
でも、頑張る!!……駄文で申し訳ないのですけど


次はお風呂シーンと、私が書く内容としては初お目見えの白夜叉様ご降臨でございます!!
うん………酷くなりそうで怖いのですが、頑張らせて頂きます。


………誰も期待してない、とか言わない




それでは

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