問題児たちが異世界から来るそうですよ?~月の姫君~   作:水無瀬久遠

17 / 17
()()()()()()


十七章 太陽と月

 

――――境界壁・部隊区画。大祭運営本陣営、隔離部屋個室。

 

閑散とした空気が立ち籠める部屋で、春日部耀は目を覚ました。

発熱でぼんやりとした頭のまま、視線だけを巡らせる。

〝ノーネーム〟としては破格過ぎる待遇のこの部屋は、元々別の人間の為に割り当てられた病室。

その人物は未だ………耀の隣で、苦しそうな息で昏睡したまま。

少しだけ寝汗でべたついた気持ち悪さを、寝返りで誤魔化す。

 

――――と

 

 

「………十六夜?」

 

「お、起きたか。容体はどうだ?」

 

 

十六夜が首だけ振り返る。

どうやら、彼は自分達が眠るベッドの脇で本を読んでいたらしい。

彼が何を読んでいるのかは、寝たままの耀には分からなかったが、きっと今回のゲームに役立たせる為のものだろう。

 

あの交渉から、既に六日が経過した。

現在、〝ノーネーム〟内で黒死病を発症したのは、耀と帝の二人のみ。

本当ならば、もっと手伝いたかった耀だが、周りへの感染拡大を防ぐ目的と――― 一人、病人達を救おうと奮闘する彼女の迷惑とならない為に、こうして隔離部屋での養生を余儀なくされた。

 

それだというのに、全く気にする様子もなく部屋に侵入し、呑気に本を広げている十六夜の姿を、耀は呆れた様子で見つめる。

 

 

「ゲームクリアの、目処はたった?」

 

「んー……大まかには分かってるんだが、核心には至ってないってとこだな」

 

パラリ、と本を捲って肩を諌める十六夜。

ゲームが再開されるまでの時間は、残り僅か。

―――明日の夕方には、強制的に開始されてしまう。

しかし、一週間という期限が終わろうとしても、参加者側の意見は一向に纏まる気配を見せずにいた。

次々と倒れる同胞と全く理解されない謎解きにより、参加者達の士気は上がる事なく、明日は我が身かと怯えている。

この状態で、本当に魔王打倒が果されるのだろうか。

そんな不安を抱えて、全員が明日のゲームに消極的なのだ。

 

 

「大体の考察は終わってる。だけど、其処からの解釈に意見が分かれている感じだ」

 

 

「………具体的には?」

 

 

体を起こしつつ尋ねる耀へ、ほい、と十六夜は紙を見せる。

彼が考察したメモ用紙の様だ。

 

 

ラッテン=ドイツ語でネズミの意。ネズミと人心を操る悪魔の具現。

 

ヴェーザー=地災や河の氾濫、地盤の陥没などから生まれた悪魔の具現。

 

シュトロム=ドイツ語で嵐の意。暴風雨などによる悪魔の具現。

 

ペスト=斑模様の道化が黒死病の伝染元であったネズミを操った事から推測。黒死病による悪魔の具現。

 

・偽りの伝承・真実の伝承が指すものとは、一二八四年六月二十六日のハーメルンで起きた事実を右記の悪魔から選択するものと考察される。

 

 

 

「…………?此処まで分かってるのに?」

 

「ああ。此処まで分かってるんだが………」

 

 

十六夜の言葉の切れが悪くなる。

どう説明すべきか、と思考を巡らせ、出来るだけ分かり易い言葉を選んでポツポツと話し出す。

 

 

「春日部は以前、黒ウサギが俺達を召喚した時に言っていた、『立体交差平行世界論』って奴を覚えているか?」

 

「うん、知ってる」

 

「あれは箱庭に呼ぶ召喚式の一種で、多岐結集型って奴のパターンらしい。要約すると―――『異なる自称が時間平行線で起きているにも拘わらず、結果が集約するクロスポイント』と言えば分るか?」

 

「うん。時間平行線の交差点(クロスポイント)である数式α(130人の死)を求める数式Ω(殺害法)が複数個あるってことだよね?」

 

 

お?と一瞬首を傾げる十六夜。

 

 

「まあ……要点的にはそういうことだが。なんだ、春日部の説明の方が黒ウサギの説明より分かり易いな。お嬢様に説明するときはそれでいこう」

 

「そう。それで?」

 

「つまり―――」

 

「……数式Ω(殺害法)数式w(ヴェーザー)数式x(ラッテン)数式y(シュトロム)数式z(ペスト)絶対数α(130人の死)であり、この連結式が彼奴らの霊格を実力よりも底上げしている。そして、今回の勝利条件はその中で=が繋がらない考察が偽りか真実って事になる」

 

 

突然入ってきた声に、二人は目を丸くして声の主へ視線を向ける。

声を発したのは―――さっきまで昏睡していた帝だ。

彼は腫れぼったい瞼を無理に押し上げ、ゆっくりを汗で額に付く髪をかき上げた。

 

 

「帝!?大丈夫?」

 

「大丈夫、とは言い難いな。自分でも、よく意識が回復したもんだと思うよ」

 

 

しかも、このタイミングで。

そう告げて、彼は苦笑した。

 

 

「随分と勿体ぶった登場じゃねぇか」

 

「真打は遅れて登場ってな。十六夜が悩んでいるのは、〝ハーメルンの笛吹き〟の伝承に特定した真実が存在しない事から、真実だと証明する手段って感じか?」

 

 

帝は体を起こす事なく、首だけを十六夜へ向ける。

確かに、大昔の事を現代に生きる十六夜が突き止める術はない。

ケホッ、と耀が咳き込んだ。

 

 

「真実は置いといて、十六夜は、どれが偽物だと思ってる?」

 

数式z(ペスト)だ」

 

 

即答だった。

それだけは自信を持って断言できると、表情が物語っている。

 

 

「神隠し、暴風、地災。どれもが刹那的な死因であるにも拘わらず、黒死病だけが長期的死因として描かれている。〝ハーメルンの笛吹き〟は一二八四年六月二十六日という()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

――― 一二八四年 ヨハネとパウロの日 六月二六日

   あらゆる色で着飾った笛吹き男に一三○人のハーメルン生まれの子供らが誘い出され、丘の近くの処刑場で姿を消した―――

 

 

その回答に、帝はゆっくりと頷く。

 

 

「黒死病の潜伏から発症までの期間は、二日から五日。俺みたいに体が極端に弱い130人がいたとしても、一日で発症、その日以内に死亡するなんて事はあり得ない」

 

「……?〝黒死病の魔王(ブラック・パーチャー)〟が偽物のハーメルンなら、彼女を倒せばいいんじゃ……?」

 

「それも考えた。だけどそれじゃ、第一の勝利条件と被るんだ」

 

 

あの契約書類(ギアスロール)に書かれていた勝利条件は二つ。

ハーメルンの魔王の打倒と、例の謎かけだ。

確かに、あの一文が盛大なブラフだと割り切ってしまうのは簡単だが、それは余りにもリスクが有り過ぎる。

 

 

「それで?お前から見て、その一文はどこまで解読出来てんだ?」

 

「部分的に、だな。『偽りの伝承を砕き、真実の伝承を掲げよ』…この伝承とは一対の同形状であり、〝砕き〟〝掲げる〟事が出来る物と推測される。なら、考えられるのはハーメルンの碑文と共に飾られた、ハーメルンの()()()()()()()()

 

 

その回答に、耀は大きく目を見開き、帝は感心した様に薄く笑う。

 

 

「ステンドグラス………なら、もしかして、彼らが祭りに潜入した方法って、」

 

「そうだ。今回のゲームには参加者でも主催者でもないにも拘らず、祭りに参加できる別枠が存在していたのさ」

 

 

―――〝主催者権限を持つ者は、参加者となる際に身分を明かさねばならない〟

―――〝参加者h主催者権限を使用する事が出来ない〟

―――〝参加者でない者は祭典区域に侵入出来ない〟

 

これらのルールに抵触せず、尚且つ独立した意思を持つ参加枠とはつまり、

 

 

「――()()()()()()()()、だろ?魔道書(グリモア)が本限定とは言われてない。今回のハーメルンはステンドグラス状の魔道書であり、それを美術工芸として出展してきたってか………随分と回りくどい事しやがる」

 

 

ハッ、と帝が毒づく。

今回の場合、ジャックがいい例だろう。

彼は出展されたギフトの一つでありながら、独立した意思を持って火龍誕生祭に参加してる。

十六夜がサンドラに確認したところ、十六夜達とは別枠の〝ノーネーム〟名義で出展されたステンドグラスが、一○○枚以上も登録されていた事が判明した。

 

その事実に、一瞬だけ帝の表情が曇る。

 

 

「100枚も、か?」

 

「あぁ。100枚も、だ」

 

 

帝の問いに、十六夜も思うところがあるのだろう。

含みを持った言葉で、帝の問いに答える。

それにしても、と耀は感心半分、呆れ半分で二人を見つめる。

 

 

「十六夜は……一体どんな頭の仕組みをしてるの?帝も、だけど」

 

「ん?見たいか?」

 

「見たい見たい」

 

「見せるかよ!」

 

「いや、頭の仕組みって……見せるにしても、どうやるんだよ」

 

「えっと………かち割る?」

 

「グロッキー!?可愛く小首傾げても、言ってる事犯罪だからな!?」

 

 

コテンと首を傾げる耀に、帝がうわっとでも言いたげに顔を顰める。

ヤハハハ!と笑う十六夜。

 

 

「………でも此処までが限界だな。いや、正直参った。多分、展示された偽りのステンドグラスを砕いて、本物を掲げろって事なんだろうが……真偽の目処があやふやで、ペスト以外のどのステンドグラスを砕いて掲げればいいのか分からん。なんせ、100枚以上もある。もう最後は天に運を任せて、明日のゲームで魔王を倒すしかねぇのかな」

 

 

天を仰ぎ、苦笑を洩らす。

現在の時刻から見て、ゲーム再開までの時間は24時間を切っている。

コミュニティへの伝達、纏め上げる為にはもう方針を伝えねばならない。

これ以上遅くなれば、サンドラが幾ら頑張ろうとも団結させる事は困難だ。

 

 

「〝真の芸術は己が宇宙に在り〟か。いやいや、中々言い得てるぜ。このハーメルンの碑文もその側面がある。様々な考察と推測を擦り合わせる事で想像力を刺激し、グリム童話の様な物語が創造されてきたんだろうが………今必要なのは真実だぜ、白夜叉」

 

 

その会話は、きっと帝達がいない時に行われたモノなのだろう。

自棄を起こしているかの様な十六夜に、耀はふっと口元に笑みを浮かべる。

 

 

「…………おい春日部。参ってる本人の前で笑うのはどうよ?」

 

「ごめん。だけど十六夜がそんな風に拗ねるのは珍しいなと思って。何時も自信満々で傲岸で自己中で周りの迷惑を全く気にしない唯我独尊な十六夜のそんな姿を見て、正直スッキリ」

 

「本音出しまくりか。いい根性してるぜ。………フン、重病人の横で闘病は寂しい思いをしてんじゃねぇかと思った俺が馬鹿だったってことか」

 

 

え?と十六夜を見る。

彼の言い分に、帝は苦笑した。

 

 

「悪かったな。好きで重病人してんじゃねぇぞ?」

 

「だろうが……病は気からってな。身体が病むと心も病むもんだ。それに、カグヤの様子から、もう一生目を覚まさないかもしれないみたいな悲惨さを感じりゃ、顔出さない訳にはいかねぇしな。それだってのに、酷い言われ様だぜホント」

 

 

やれやれ、と十六夜は肩を竦め、手元の本を広げ直す。

耀はバツが悪そうに頭を掻いて、

 

 

「………本当にごめん。君は私が思うより優しい人だ」

 

「おう。俺の優しさに全米が涙してもいいんだぜ?」

 

「前言撤回」

 

 

ばっさりと斬り捨てた耀に、ヤハハ!と笑って返す十六夜。

くくっと帝が苦笑した。

 

 

「そう、だな………十六夜、視点を変えた事あるか?」

 

「視点を変える?」

 

「そうだ。白夜叉と俺が封印された原因については、もう考えはまとまってるのか?」

 

 

ゆっくりとした口調で問う帝に、十六夜は暫し考えた後に、首を横に振る。

未だ、白夜叉の封印は持続しており、接触も禁止されている。

結局のところ、どうして二人が封印され、また帝だけが封印を破ったのかについては謎なのだ。

ゲホッ、と帝が苦しげに咳き込む。

 

 

「ゲームの勝利条件は二つ。魔王打倒と例の一文だ。どう考えても、魔王打倒は白夜叉の封印条件にはならない。そもそも、魔王を倒す事で解除される条件なら、俺が封印から抜け出せる筈はないからだ。なら、封印のトリックは後者である一文だろうな」

 

「でも、帝。ハーメルンの碑文に、夜叉を封印する様な一文があるの?」

 

「耀、まずその考えが間違ってる。いいか、()()()()()()()()()()()。ホスト側が指定した白夜叉だけでなく、な」

 

「つまり………お前はこう言いたいんだろ?()()()()()()()()()()()()()ってな」

 

 

 

十六夜の問いに、帝は静かに首肯した。

魔王側は、白夜叉以外のプレイヤーが封印された事に酷く驚いている所があった。

元より、このルールは白夜叉個人に発動されたものなのだろう。

なら、何故帝は囚われたのか。

全く考えていなかった切り口に、十六夜はその答えを脳内で探す。

そして、ふと気になる事を思い出した。

 

 

「なぁ、帝。()()()()()()()?」

 

 

全く意味の分からない問い。

一体何を言っているのかと、耀が顔を顰める中、帝だけは少しだけ嬉しそうに笑う。

 

 

「お見事。そこに、俺が封印を解いた鍵が眠ってる筈だ」

 

「え?どういう事?」

 

「耀、俺がお前とのゲームで姿をさらした時、こう言ったのを覚えているか?〝月影一族より『帝』の名を襲名せし存在〟って」

 

 

そういえば、そんな風に言っていた気がする。

だが、それがどんな意味があるのだろう。

全く容量を得ない会話に、耀が痺れを切らすよりも早く、十六夜が目を見開いた。

 

 

「そうか!『帝』ってのは、ギフトの意味だったのか!」

 

「え?どういう事?」

 

「つまり、俺が名乗っていた『帝』には、ギフトとしての役割もあったんだ。竹取物語において、『カグヤ』は月の使者であり、食物と穀物を司るトヨウケビメをモデルとしていると言われている為、彼奴には食物や穀物に関するギフトの他に、月の運行を司る使命がある。月の運行に関していうなら、『カグヤ』が権威だろうな。そして、『帝』にも同じ意味が付与される。『帝』とは()()()()()()()()()()()だ。つまり、帝には太陽の神であるという事になるな」

 

「白夜叉は太陽の主権を持っているって話だ。なら、帝と白夜叉の共通点は」

 

「『太陽』って事だ。十六夜、ハーメルンを抜きにして、考えてみろ。()()()()()()か?」

 

 

確信を突く様な問い。

帝が示す違和感の正体。

十六夜は反射的に手にある本を速読し始め、黒死病に関する知識をありったけ脳内で反復する。

 

―――〝黒死病〟とは、十四世紀から始まる寒冷期に大流行した人類史上最悪の疫病である。

この病は敗血症を引き起こし、全身に黒い斑点が浮かんで死亡する。

グリム童話の〝ハーメルンの笛吹き〟に現れる道化が斑模様であった事。

そして、黒死病の流行元であるネズミを操る道化であったこと。

この二点から、〝一三○人の子供達は黒死病で亡くなった〟という考察が存在する―――

 

 

………本当にそうか?

帝は、言った。

〝ハーメルンを抜きにして考えろ〟と……

 

 

(……………………………。()()()()()()()()?)

 

十六夜の頭に浮かんだのは、病状や潜伏期間ではなく―――黒死病が流行した年代記だ。

ハーメルンの碑文が一二八四年。

黒死病の大流行が始まったとされるのが、一三五○年以後の数百年。

つまり、黒死病の最盛期とハーメルンの碑文は――――()()()()()()()()()()()()()

 

(まさか……ペストは碑文のハーメルンと無関係の時代から来た悪魔なのか………!?)

 

 

何故気が付かなかったのか。

ペストは最初から、自分はハーメルンの魔王ではないと名乗っていた。

つまり、彼女が持つ黒死病の属性は、ハーメルンとは無関係だったのだ。

 

何かに気付いたらしい十六夜の様子に、くくっと帝が喉の奥で笑った。

 

 

「黒死病が大流行した原因は、()()()()()()()()()()が故に起こった寒冷期。相手は、純度百%太陽に恨みを持ってるだろうな」

 

 

帝の言葉を受けて、十六夜は獰猛な笑みを浮かべる。

これで、全ての謎が一つの線となって十六夜の中に現れた筈だ。

 

太陽の運行を司る白夜叉、そして太陽そのものの意味を持つ帝が封印されたのは、太陽が氷河期――――即ち、太陽の力が弱まっていたとされる年代記をなぞったゲームルールが組み込まれていた為だろう。

それ故に、帝は何らかの手段で『帝』を失い、それ故に封印する理由がなくなったのだ。

 

十六夜は黒死病の本を強く握り締め、〝偽りの伝承〟の意図を理解する。

 

 

「なら、連中は一二八四年のハーメルンじゃなく………ああクソッ!帝に言われるまで、どうして気付かなかった!?完全に騙されていたぜ、〝黒死斑の魔王(ブラック・パーチャー)〟!!つまり、お前達はグリム童話上の〝ハーメルンの笛吹き〟ではあっても、()()()()()()()()()()()()()()()()()()ってことか……!!!」

 

 

興奮した様に立ち上がり、すぐさま部屋を飛び出していく。

その際、十六夜は一度だけ二人に振り返った。

 

 

「悪かったな、帝!おかげで、謎が解けた!後は任せて、二人揃って仲良く枕を高くして寝てな!」

 

「そうさせてもらう。後は頼んだ」

 

「うん。頑張ってね」

 

 

コホッ、と咳き込みながら十六夜を見送る耀と、怠そうに寝たまま軽く片手を上げる帝。

耀には、一連の会話がよく分かってはいなかったが、それでも十六夜が何か糸口を見つけた事だけはわかった。

後の事は彼らに任せ、耀はベッドの中に潜り込む。

 

 

「ぐふっ…!!」

 

 

十六夜がいなくなったのを感じたのだろう。

帝が体をくの字にし、苦しげに咳き込む。

その際、押さえている手には赤い液体が付着する。

否、その色は赤と言うよりも黒に近いものとなっていたが。

 

 

「帝、大丈夫?」

 

 

息する事さえも出来ずに苦しむ彼に、耀はゆっくりとその背を擦る。

元より、彼は発病してから一週間という長い時間を必死に戦い続けている。

カグヤから三日も持たないと言われた時、ジンや十六夜、黒ウサギが動揺したのと同じ位、耀も動揺した。

医者に言わせれば、ここまで生きている事は奇跡に近い確率なのだろう。

 

 

「…………悪い」

 

「ううん。苦しい時は、お互い様」

 

 

ある程度息が落ち着いたのか、小さく謝罪する帝に、耀は気にするなという様にその背をポンポンッと二回叩く。

その仕草に、帝は淡く苦笑すると、ベッドサイドに置かれたタオルへと手を伸ばし、血で汚れた手と口元を丁寧に拭うと、クルリと反転して耀の方へと向き直る。

 

 

「耀は落ち着いてるな」

 

「私、ずっと病院で暮らしてたから」

 

「……そっか」

 

 

それ以上、何も言う事はなく、帝は耀の髪へと手を伸ばす。

優しく撫でる手は、普段見ている狼としてのものではなく、ちゃんとした人間の――男の子の手。

それが、少しおかしくて耀はくすり、と笑った。

 

 

「なんか…変な感じ」

 

「だろうな。お前らは俺が人間だった時の事を一切知らない。狼の方がしっくりくるだろ?」

 

「うん。帝は、シスコン狼の方がとっても似合う」

 

「………それは喧嘩を売ってんのか?なら、高く買うぞ」

 

 

スッと目を細め、口を曲げる帝。

その様子は、狼だった時と大差がなく、それもおかしくて、耀は笑みが抑えられなくなる。

 

 

「今は遠慮する。ちゃんと治ってから、ね?」

 

「だな。………ほんと、嫌になるよなぁ。肝心な時に、相手の効力(エフェクト)に嵌るなんて」

 

「そうだね………帝は、体が弱いの?」

 

「ん?………まぁ、アルビノ種だからな」

 

「アルビノって、あの?」

 

 

アルビノとは、動物学におけるメラニン生合成に関わる遺伝子欠損から引き起こされる遺伝子疾患。

主に体毛や皮膚が白くなったり、瞳に色素が不足する為に赤眼になる等と言った症状がある。

つまり、彼の銀髪はそこからくる部類なのだろう。

 

 

「昔から、俺は体が弱くてさ。仲間達が色々と体を治す方法を探してくれたが、全く意味を持たなかった。本来プレイヤーじゃないカグヤまで必死に探してくれたんだけどな」

 

「カグヤも?」

 

「〝創造神の悪戯(リメイク・ギフト)〟も〝大天使(ラファエル)の祝福〟も、元々は俺の身体を治す為に、カグヤが必死にゲームで勝ってきてくれたものだ」

 

 

自分や仲間に黙っていなくなる時は、大概ギフトゲームに挑む時だった。

どちらも高位のギフトであるが故に、そのリスクは普通のギフトゲームよりも危険で、高いものだった事は容易に想像がついた。

それでも、カグヤは必死にゲームで勝利をおさめ、帝の元に帰ってきては彼の身体を治そうとギフトを使う。

 

その姿に、何度帝は苦悩しただろう。

自分のせいで、最後の肉親が危険な橋を渡ろうとしている。

その事実が………どうしようもなく辛かった。

 

 

「好意は素直に嬉しいと思った。でもさ、自分のせいで誰かが……大事な家族が危険な事をしてるって、想像以上に堪えるんだよ。今回は成功したからいい。でも次は?もし、万が一にも負けたら……殺される事だってありえる」

 

「……そうだね」

 

 

自分も病人だったから分かる。

もし、自分の大事な人が自分の為に危ない事をしていたとしたら、耀も同じ気持ちだっただろう。

だが、自分がカグヤの立場なら…………きっと、同じ行動をした。

それは、帝とて同じだったのではないか。

そう思うと、やりきれない思いが胸にふつふつとわいてくる。

 

それにしても、

 

 

「なんでだろ、今日の帝はよく話すね」

 

「…………病人だから、かもな」

 

「病気になると、饒舌になる?」

 

「寂しいからに決まってるだろ?」

 

 

当たり前だ、と言わんばかりにキョトンと耀の問いに返答する帝。

その姿が、普段のものとは全く違うせいで、耀は吹き出してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――そして、二十時間後。

火龍誕生祭・運営本陣営に、活動出来る全てのコミュニティが集結する。

〝黒死斑の魔王〟との、ラストゲームが始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

☆★☆★☆

 

―――境界壁・舞台区画。大祭運営本陣営、大広間。

黄昏時の夕陽に染まる舞台区画の歩廊は、今や人一人いない。

それもそうだろうな、とカグヤは外を眺める。

魔王が襲来したのだ。

そんな呑気な真似が出来るのは、きっと帝位なものだろう。

 

その彼も、今は床に臥せてしまっているが……

 

 

現在、宮殿の大広間に集まった人員の数は、僅か五○○程。

一週間前に屈服を強制された者や、ジャック等の『出展物枠』には参戦資格がない事が判明し、病魔に冒されていないメンバーを集めたのだが、それでも全体の一割未満という心許無さ。

それでも、死者が一人も出ていないのは、偏にカグヤが所持するギフトの恩恵だと言っても過言ではないのだろう。

その証拠に、三日と持たないとまで言われた帝は、現在も苦しいながらも生きている。

 

 

カグヤは日が沈むのを視線で捉えながら、クルリと方向転換し、歩き出す。

今頃、ジンやサンドラ達が参加者達へ方針を伝え、纏め上げている事だろう。

非戦闘員にも違いカグヤも、本来であればその中に紛れている筈だった。

 

だが、彼女はそれを是としなかった。

 

 

カツン、と下駄が鳴く。

 

 

「あ……カグヤ様」

 

 

宮殿の上、丁度屋上として開放されている辺りに、黒ウサギはいた。

彼女も、今回は審判役としてではなく、一プレイヤーとしての参加が認められている。

だが、カグヤは名を奪われる前から現在まで、黒ウサギが戦う姿を見た事がない。

案の定、とでも言うべきか、胸に組んだ両手は微かに震え、ピンと立ったウサ耳は若干弱弱しく見える。

 

どう声をかけるべきなのか。

カグヤが考えあぐねていると、

 

 

「どうした黒ウサギ?」

 

 

ひゃっ!と不意の声に、ウサ耳と尻尾を跳ねさせて驚く。

そして、自身の胸元を見て、二度驚く。

気が付けば十六夜の手が背後から、腋の下を通って胸に伸びていたのだ。

 

 

「な、何をやっているのですか、このお馬鹿様ッ!」

 

「胸を揉もうとしてるんだぜ、黒ウ」

 

 

サギ、と続く前に、ズバンッという音が十六夜の頬すれすれに響く。

その発信源は、第三宇宙速度も真っ青な速さで竹串を放つ、カグヤの姿。

ニコニコと微笑んでいるが、怒っている事は明白だ。

 

十六夜はすぐさま、軽薄な笑みを浮かべて両手を上にあげた。

 

 

「たく、北に来て以降、カグヤの沸点が低くなってる気がするのは、俺の勘違いか?」

 

《いえ、確実に低くなってますね。私も、自分が思った以上に感情的になり易い事に今、初めて気づかせて頂きました》

 

「そうかいそうかい、そりゃ感謝しろよ?」

 

 

ヤハハ!と悪びれる事なく笑う十六夜に、黒ウサギはどっと疲れを感じ、肩を落とす。

カグヤも頭が痛くなったのだろう、溜息を一つ零すとこめかみの辺りを擦った。

 

 

「………それで?何を思いつめた様な顔をしてたんだ?」

 

 

へ?と質問に一転、黒ウサギの言葉が詰まる。

その姿はカグヤも見ていた為、彼女も気遣わしげに黒ウサギへ視線を向ける。

まさか見られていたとは思わなかったのだろう、黒ウサギはウサ耳をほんのり紅くしてそっぽを向く。

 

 

「べ、別に何でもありませんっ!ゲーム開始を前に、武者震いしていただけでございます」

 

「ふぅん?俺はてっきり、人生初の大舞台に緊張で震えていたんだと思ったが?」

 

 

ニヤニヤと笑いながら十六夜が指摘すると、ぐぬぬと黙り込む黒ウサギ。

十六夜も、彼女達〝箱庭の貴族〟が〝審判権限(ジャッジマスター)〟を持っている為に、ギフトゲームへの参戦は少ないと感じているのだろう。

だが、黒ウサギの気鬱な理由はそこではなかった。

 

 

「た、確かに緊張していないと言えば、嘘になります。しかし我々〝月の兎〟は帝釈天の眷属。いざ戦いになれば、後はこの身に流れる血脈が自然と戦いに順応するでしょう」

 

「ほう?じゃあ手が震えていたのは別の事だと?」

 

 

茶化す十六夜だが、黒ウサギの表情は固いまま。

その様子に、カグヤは心当たりがあった。

 

 

《負けた後の事を……考えていたのですか?》

 

「………はいな」

 

 

カグヤの言葉に、黒ウサギは瞳とウサ耳を伏せ、ゆっくりと頷いた。

 

箱庭において、珍しい話ではない。

魔王によって滅ぼされたコミュニティが、再度復興しようとした矢先に、別の魔王によって滅ぼされる。

自分達の場合、ここにいる全員がプレイヤーであり、残るのは小さな子供達のみ。

そうなれば、事実上〝ノーネーム〟は壊滅したと言ってもいいだろう。

そうなった者の末路など……考える必要すらカグヤには感じなかった。

 

 

「カグヤ様……黒ウサギは飛鳥さんと耀さんにも、申し訳なく思っているのです」

 

 

ふと、黒ウサギの瞳が遠くを映す。

 

 

「十六夜さんは、白夜叉様の忠告を覚えていますか?」

 

「忠告?」

 

「飛鳥さんと耀さんに向けられた言葉です。『魔王のゲームの前に、力を付けろ。お前達では―――魔王のゲームを生き残れない』、と」

 

 

その言葉は、カグヤの知らないもの。

つまり、コミュニティに所属し、ギフトを鑑定してもらった時にでも投げかけられた言葉だったのかもしれない。

 

そういえば、とカグヤは思う。

 

帝も同じような事を言っていた気がする。

彼は思いの外、飛鳥と耀に気を配る様子があった。

それは偏に、二人が一番危うい立場にいる事を分かっていたからこそのモノだったのだろう。

カグヤはその言葉の真意を、全く分かってはいなかった。

それは黒ウサギも同じであり、彼らが来てからの一ヶ月。

現在の状況に陥るまで、その言葉を軽んじ、コミュニティの生活の為だけにギフトゲームを紹介してきた。

 

カグヤ自身、経験を積ませたいと言った兄の言葉を実現させる為に路銀を稼いでいたが、もっと身近の難易度が高いギフトゲームの存在を一切考えた事はなかった。

如何に最高の才能を持っていたとしても、それに似合うだけの経験も知識も持たせる事が出来なかったのだ。

 

 

その油断が、二人の少女に牙を向いた。

 

 

「黒ウサギは今日までその忠告を軽んじ、皆さんの溢れる可能性に目が眩んでいたのです。………この一ヶ月で皆さんが〝ノーネーム〟にもたらしてくれた恩恵(ギフト)の数々は、劇的に生活を変えてくれました。もう水不足で困る事はありません。食事のやりくりに悩む事も少なくなりました。『お腹がすいた』と訴えるあの子たちを見て、心苦しい思いをする事は皆無です」

 

 

全てを奪われ、苦しむ日々が続いた。

あのゲーム以降、ずっと眠っていたカグヤには分からない黒ウサギの苦労があった筈だ。

それを、カグヤも苦しく思っていたし、何も力になれない己の無力さを恨んだ日もあった。

 

幼き仲間が為に身を獣に堕とした兄。

 

きっと、十六夜達がこなければ、自分達で持ち直す事など出来なかったであろう現状。

 

 

奪われた仲間が帰ってきた。

〝打倒魔王〟を掲げ、コミュニティの為に尽力してくれた彼らの存在。

 

そんな彼らの優しさに………黒ウサギもカグヤも甘えていたのだろう。

 

その結果がどうだろう。

今、〝ノーネーム〟で戦えるのは四人。

その内、リーダーでもあるジンはほぼ戦う力のない子供。

元魔王であるレティシアも、以前の様な力は持っていない。

万全の状態で戦えるのは、多分ここにいる三人だけだ。

 

 

キッと黒ウサギが顔を上げる。

 

 

「………十六夜さん。一つ、お願いがございます。聞いてもらえますか?」

 

「聞くだけなら自由だな。………なんだ?」

 

「魔王の相手は、この黒ウサギに任せてはいただけないでしょうか?」

 

 

真摯さに、静かな怒りを込めて黒ウサギは十六夜に頭を下げる。

 

 

「十六夜さんが魔王とのゲームを心待ちにしていた事は承知しております。しかし、どうしても………黒ウサギは、魔王に一矢報いてやらねば気が済みません」

 

 

ザワッと黒ウサギの髪が闘志で戦慄く。

黒い髪が一瞬にして淡い緋色のの光に包まれ、軍神の眷属に相応しいオーラが見て取れた。

 

その様子に、クッと十六夜が喉の奥で笑う。

 

 

「勝算は?」

 

「あります。いえ、むしろ最高の愛称とも言えるギフトを黒ウサギは所持しております。例え相討ち事になろうとも、必ずや魔王の首を―――」

 

「なら却下だ」

 

《ダメです》

 

「ふにゃっ!!?」

 

 

即決を出す十六夜と、芭蕉扇で黒ウサギの頭を叩いたカグヤ。

鉄で出来ているそれは、確実に黒ウサギの脳天をつき、脳を揺らす程の激痛を与えた。

あまりの激痛に、頭を押さえプルプルと震えだす。

 

 

「か、カグヤ様まで、いじめっ子様と一緒の行動をとるなんて……!」

 

《頭を冷やすのに、丁度いいかと思いまして》

 

 

涙目で睨む黒ウサギに、カグヤは平然とそう答える。

 

 

「ま、悲観するなって事だろ黒ウサギ。お前が考えている程状況は悪くない。連中の狙いを忘れたか?『優秀な人材を出来るだけ多く手に入れたい』。それが奴らの狙い。なら必然的に、奴らの行動はタイムオーバー狙いの消極的な時間稼ぎになる………そして、()()()()()()()()()()

 

 

ハッ、と黒ウサギも気が付いた様に息を呑む。

 

 

《十六夜様の推測が正しいのであれば、相手はステンドグラスを守りつつ、自身の身を守らねばならない筈です。そうなると、数の多い此方がバラけてしまえば、自然とあちらもバラけます》

 

「そこを狙う……カグヤも分かってきたじゃねぇか」

 

《プレイヤーとしての経験は浅いですが、ゲームを見てきた数は黒ウサギにも負けないつもりです。それに………私も魔王には一泡吹かせてやりたいので》

 

 

 

グッと胸元に下げた月のループタイを握る。

今はまだ容体は安定しているが、いつ悪化するとも分からない。

出来る事なら短期決着が望ましいだろう。

カグヤが一歩前へ出る。

 

 

《十六夜様、魔王を抑える役目を私にさせてはいただけないでしょうか?》

 

「おいおい、お前まで黒ウサギと同じ事言うんじゃないだろうな?」

 

 

微かに表情を歪めた十六夜に、カグヤは微笑んで首を横に振る。

 

 

《いいえ。今回の場合、各個撃破が前提です。私には、ヴェーザーとラッテンのどちらも倒す事は困難です。十六夜様は、私をジンの補佐につけようとお考えでは?》

 

「ああ。まず、サンドラと黒ウサギで〝黒死斑の魔王(ブラック・パーチャー)〟を確実に抑える。その間に俺とレティシアがヴェーザーとラッテンを倒す。主力が集結したと同時に、黒ウサギの切り札でトドメを刺す。―――――必勝策としてはこれが最良だろうな」

 

 

確かに、それが正しい選択だろう。

その中で、回復系ギフトを所持するカグヤが怪我人が出る確率があり、尚且つ主力の傷を癒す為に安全を確保する事を考えれば、ジンやマンドラが指揮をするステンドグラス破壊部隊に組み入れた方がいい。

だが、カグヤはそれを嫌がる。

 

 

《最終局面を考えれば、私の回復系ギフトは最後の手段だと思います。ですが、相手は魔王です。幾ら回復系ギフトの中では上位とも言える恩恵だろうとも、『与える側』のギフトには対抗できません》

 

 

だからこそ、耀や帝は床に臥せている。

もっと優秀な――それでいて神格のあるギフトならば、彼らの病を打ち消す事が出来たのだろう。

それが、口惜しい。

 

 

《一つだけ、奥の手が御座います。ただし、それは私一人ではとても出来ません。サンドラ様や黒ウサギ、十六夜様にレティシア……皆様がいて、初めて意味のある力となるものです。ですから、私に魔王を抑える側に入れては頂けませんか?》

 

 

真摯に訴えるカグヤに、十六夜は暫し瞑想し―――――楽しげに笑った。

 

 

「ハハッ、楽しくなってきたなおい」

 

「い、十六夜さんは……それでいいのですか?」

 

 

誰よりも魔王とのゲームを楽しみにしていたのは、十六夜だ。

それ故に、戸惑いを感じた黒ウサギが慌てて十六夜に問う。

 

 

「別に構わねぇよ。魔王と戦う機会はまた別に来る。今回は特別に譲ってやる。帝釈天の眷属の力って奴を、今回は楽しませてもらうさ。勿論、カグヤの秘策ってのもな」

 

 

ニヤリと笑う十六夜に、カグヤはフワリと微笑み、黒ウサギは力強く返す。

 

 

「了解です。帝釈天様によって月に導かれた〝月の兎〟の力。とくとご覧くださいまし」

 

《月宮の名に恥じぬゲームメイクをお見せいたします》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

☆★☆★☆

 

ゲーム開始時刻になり、主催者側は再開前の確認を行っていた。

布の少ない白装束を揺らし、ラッテンは配下のネズミに情報を収集させていた。

 

 

「マスターマスター。どうやら連中、私達の謎を解いちゃったそうですよー?」

 

 

軍服のヴェーザーは、黒い短髪を掻きながら愚痴る。

 

 

「チッ。ギリギリまで最後の謎は解かれないだろうと踏んでたんだがな」

 

 

どうやら、相手は予想に反して優秀なプレイヤーが存在していたらしい。

斑模様のワンピースを揺らしてペストは立ち上がり、後ろで両手を組む。

 

 

「……構わないわ。最悪の場合は皆殺しにすればいいだけよ」

 

 

悠々としたその姿勢のまま、ヴェーザーとラッテンに振り返り、

 

 

「―――ハーメルンの魔書を起動するわ。謎が解かれた以上、温存する理由はないもの」

 

 

ペストの言葉に、二人は凶悪な笑みを浮かべて立ち上がる。

 

 

「ふふ~ん。いよいよもって盛り上がってきましたねーマスター♪」

 

「おい、油断するなよラッテン。参加者側には〝箱庭の貴族〟もいる。それに、〝魔王殺し〟は封じても、月宮は健在だ」

 

 

厳しい声音のヴェーザーに、片眉を歪ませて振り向くラッテン。

 

 

「………やっぱり凄いの?〝月の兎〟って」

 

「ああ。一度戦っている所を見たが、並の神仏じゃ歯が立たん。アレは正真正銘、最強の眷属だ。授けられているギフトの数が違う。それに、月宮といやぁ〝竹取物語〟のリーダー格だった一族の姓だ。使用人とか言ってたが、あの女も厄介だぞ。俺とお前じゃ、とても抑えられんだろうな」

 

 

苦い顔で呟くヴェーザーとラッテン。

ペストはそんな二人に、微かに笑いかけた。

 

 

「そっ。なら魔書の他に、もう一つ策を設けるわ」

 

「策?」

 

 

ペストは悠然と歩み寄り、綺麗な指先を伸ばしてヴェーザーの額に押し付ける。

 

 

「ヴェーザー。貴方に神格を与えるわ。開幕と同時に、魔王の恐怖を教えてあげなさい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




お久ぶりです、水無瀬でございます。


長い長い闘病生活をへて、戻ってまいりましたよぉぉぉぉ!!!!←


え~~、まずは謝辞を。
約一年という間を空けてしまい、本当に申し訳ありません。
そして、その間に沢山の方から感想と言う名の励ましをいただきました。

更新を楽しみにしています、という一言が水無瀬には涙が出るほど嬉しかったです。
本当に、ありがとうございました!!



さて、久々過ぎる更新です。
取り敢えず、帝の出番はここで終了。
後は、カグヤに必死に頑張ってもらうという流れでございます。
勿論、黒ウサギや十六夜にも活躍してもらいますよ?

予定としては………あと、2~3話程度で終わればいいなぁと思ってます。
その後は、前々から告知していた間章を挟む予定です。
いっそ、短編集から少し出してしまうのもありかなぁと思ってます。
最新刊は、短編集でしたからね。



さてさて、そんなこんなで次回は魔王戦!
魔王相手に繰り出すカグヤの秘策とは!?
そして、全く出番のない飛鳥が復帰!!?
黒ウサギが白ウサギに……なりません!!!←



では、次回に。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。