問題児たちが異世界から来るそうですよ?~月の姫君~   作:水無瀬久遠

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十章 穏やかな夜空

 

カグヤが目を覚ました時、酷い頭痛に襲われた。

 

それもそうだろう。

元とはいえ、自分よりも優れたプレイヤーであり、元魔王の肩書を持つレティシアが、メイド服姿で甲斐甲斐しく自分の世話をしていたのだ。

 

丁度様子を見に来てくれた黒ウサギから事情を聴くと、あのゲームは無事に勝利を治め、レティシアの所有権は“ノーネーム”に移ったらしい。

 

そこまでは良かった。

問題は、この後だった。

彼女が“ノーネーム”へ帰ってきた途端問題児三人は声を揃えて

 

 

「「「じゃあこれから宜しく、メイドさん」」」

 

 

もう、その一言でカグヤは再度卒倒した。

確かに、今回の功績は十六夜、飛鳥、耀の三人にあるだろう。

自分や帝が力を貸したとはいえ、最終的にはこの三人がいたからこその勝利だと、カグヤは思っている。

だが、それとこれとは別だ。

 

 

《み、帝は!?帝は止めなかったのですか!!?》

 

「うぅ~~~、はいな。帝様は面白がるだけでした」

 

 

グスン、と黒ウサギ。

彼女としても、尊敬するレティシアが使用人として働く、という事実に打ちのめされてしまっている様だ。

当のレティシアはと言えば

 

 

「カグヤは先輩になるだな。これから、宜しくご指導もらいたい」

 

 

ウキウキと箒を片手にやる気十分。

本当に、彼らが来てから騒がしくなったものだ。

 

カグヤは現実逃避の為に、再度眠りにつくしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

☆★☆★☆

 

 

――――――“ペルセウス”との決闘から三日後の夜。

 

子供達を含めた“ノーネーム”一同は、水樹の貯水池付近に集まっていた。

その数、一二七人+二匹。

数だけ見れば、中堅以上のコミュニティとも呼べるだろう。

 

 

「えーそれでは!新たな同士を迎えた“ノーネーム”の歓迎会を始めます!」

 

 

ワッと子供達が歓声を上げる。

周囲には運んできた長机の上に、ささやかながら料理が並んでいる。

本当に子供だらけの歓迎会だったが、それでも三人は悪い気はしなかった。

 

 

「だけど、どうして屋外の歓迎会なのかしら?」

 

「うん。私も思った」

 

「黒ウサギなりに、精一杯のサプライズってところじゃねえか?」

 

「それに近いが……それだけって訳じゃねぇよ」

 

 

ほれ、と頭に皿を乗せて器用に運んでくる帝。

彼から皿を受け取りつつ、三人が首を傾げる。

 

 

「……近いけど、違うの?」

 

「ちょっとだけな。ま、今は腹いっぱい食えよ。今日は普段よりもご馳走だぞ?」

 

 

ニシシと笑う帝。

確かに、彼が言う通り囁かとはいえ、普段よりも沢山の料理がある。

だが、この“ノーネーム”は財政的には想像以上に苦しいギリ貧コミュニティだ。

三人が本格的に活動し始めても、これだけの子供達を養う事は、かなり厳しいと思っていいだろう。

まして、魔王との戦いや仲間達の救出もせねばならないのだ。

 

 

淡く苦笑を漏らす三人へ、帝は自分が食べていた肉から口を離す。

 

 

「そう気張るな。資金関係は、俺とカグヤでなんとでもする。お前らは力を蓄えて、魔王との戦いに備えろ。このコミュニティを破壊しつくした魔王は、“ペルセウス”の奴等なんてゴミと同意義程度にしか考えない程の強者だぞ」

 

「そりゃ、楽しみだ」

 

「十六夜なら、そう言うと思った。だがな。今のままじゃ、魔王には勝てないと思え。日々の精進は大事だぞ?」

 

「……うん。そういえば、カグヤは?」

 

 

キョロキョロと辺りを見渡す。

普段なら、帝と行動を共にしている筈だろう。

飛鳥も一緒になって探すが、彼女の姿はどこにもない。

そんな時、黒ウサギが大きな声を上げて、注目を促す。

 

 

「それでは本日の二大イベントの一つが始まります!皆さん、箱庭の天幕に注目して下さい!」

 

 

十六夜達を含めたコミュニティの全員が、箱庭の天幕に注目する。

その夜も満天の星空だった。

空に輝く星々は、今日も燦然と輝きを放っている。

異変が起きたのは、注目を促してから数秒後の事だった。

 

 

「……あっ」

 

 

星を見上げているコミュニティの誰かが、声を上げた。

それからは、怒涛の如き流れ星のラッシュだった。

その光景が流星群だと気が付いた時には、口々に歓声が上がった。

帝が声を張り上げる。

 

 

「この流星群は、新たな同士達が勝ち取った戦果だ!同士が倒した“ペルセウス”のコミュニティは、敗北したが故に、“サウザンドアイズ”を追放され、あの星々から旗を降ろす事となった!!」

 

「なっ」

 

 

十六夜達三人が、驚いた様に帝を見る。

それに続く様に、黒ウサギが嬉しそうに言う。

 

 

「今夜の流星群は“サウザンドアイズ”から“ノーネーム”への、コミュニティ再出発に対する祝福も兼ねております。星に願いをかけるもよし、皆で観賞するもよし、今日は一杯騒ぎましょう♪」

 

 

嬉々として杯を掲げる黒ウサギと子供達。

だが、三人はそれどころではない。

 

 

「星座の存在さえ、思うがままにするなんて……ではあの星々の彼方まで、その全てが、箱庭を盛り上げる為の舞台装置という事なの?」

 

「そういうこと……かな?」

 

「おう。そういう事だな」

 

 

呆然とする二人に、帝はムグムグと肉を食べつつ答える。

 

 

「ここは、二人がいた『外』とは違う。この天幕から星座が無くなろうとも、二人がいた世界から星座が無くなる訳じゃない。そんな事が出来るのは魔王位なもんだ」

 

「そ、そうなの…?」

 

「ん~……そうだな。ほれ、あそこの星座は確か三桁のコミュニティの旗が飾ってあるんだ。お前らの世界にはない星座だと思うぞ」

 

 

帝が鼻で示した先には、確かに二人の世界では見られない奇妙な形の星座がある。

あまりにも絶大な光景に、只々驚くしかない。

だが、十六夜だけは、感慨深そうに溜息を吐いた。

 

 

「………成程な。アルゴルの星が食変光星じゃないところまでは分かったんだがな。まさか、この星空の全てが、箱庭の為だけに作られているとは思わなかったぜ……」

 

「くく……少しは楽しめるだろ?」

 

 

感動した様に目を細める十六夜へ、帝が悪戯に成功した子供の様に笑う。

箱庭生まれである彼にとって、これは普通の光景なのだが、外からきたばかりの彼らにとって、これは驚く事なのだ。

 

昔、同じ様に星を眺めて驚いていた同胞を思い出し、帝も懐かしさを思う。

本当に、生きてみるものだ。

 

 

「ふっふーん。驚きました?」

 

 

黒ウサギが嬉しそうに、ピョンと跳んで十六夜の元に来る。

十六夜は両手を広げて頷いた。

 

 

「やられた、とは思ってる。世界の果てといい、水平に廻る太陽といい……色々と馬鹿げたモノを見たつもりだったが、まだこれだけのショーが残ってたなんてな。おかげ様、いい個人的な目標も出来た」

 

「おや?なんでございます?」

 

()()()に、俺達の旗を飾る。………どうだ?面白そうだろ?」

 

 

 

消えたペルセウス座の位置を指差し、十六夜が笑う。

その言葉に、黒ウサギは暫し絶句し、しかし直ぐに弾けるような笑顔で告げた。

 

 

「それは……とてもロマンが御座います」

 

「だろ?」

 

「はい♪」

 

 

旗を飾る……

それは決して楽な事ではない。

帝が覚えている限り、あそこへ旗を飾れるコミュニティ等、本当に数える程度しかないのだ。

だが、これは何となくだが………帝はそれが実現しそうな気がした。

 

自分が意識する以上に、十六夜を、飛鳥を、耀を気に入ってしまっているからなのだろう。

 

そう思うと、帝は苦笑する。

それ程、長い付き合いではない相手をこれ程までに自分が信用している。

不思議な感情の芽生えは、思った以上にくすぐったくて………同時に、気持ちを引き締める。

彼らは、未だ原石。

これから、どんな困難が待ち受けるとも分からない。

 

だから、出来るだけ………そう、自分が出来る限りの事をして、育てるべきなのだろう。

嘗て、自分をコミュニティに迎えてくれた先代達が、そうしてくれた様に………

 

 

「帝」

 

 

ふと、名を呼ばれ、振り返る。

そこにいたのは、すっかりメイド服が板に付いたレティシアの姿があった。

 

 

「どうした?」

 

「カグヤの支度が整ったぞ。後は帝に任せる、と」

 

 

彼女の伝言に、了解、と短く答えると、丁度舞台になりそうな場所へと移動すると、パタン、と一回尻尾を振る。

 

 

「全員注目!!」

 

 

澄み渡った声を響かせる帝へ、全員の視線が集まる。

 

 

「これより、もう一つの大イベントを始める!!レティシア、準備はいいか?」

 

「いつでも」

 

 

少し離れた場所で、何かを弄っているレティシアへ声をかければ、彼女はコクリと頷く。

その返事を確認し、帝は素早くその場から飛び退くと、足早に三人の元へと戻った。

不思議そうに、三人が首を傾げる。

 

 

「おいおい、まだ何かあるのかよ」

 

「黙って見てろって」

 

 

それだけ言うと、言葉は不要とでも言いたげに、忙しく彼の尻尾が揺れる。

と――――――

 

 

 

 

 

シャン......♪

 

 

 

 

「………え?」

 

「…あれって………」

 

 

飛鳥と耀が驚きの声を上げる。

ゆっくりと、先程帝がいた舞台へ移動してきたのは、絶世の美女。

まるで遊女を思わせる衣装と、煌びやかな簪に飾られ、淡い化粧で彩られた彼女は、同性である筈の彼女達でも、ほぅ、と感嘆の溜息が零れる。

 

シャラン、と服に付けられた鈴が啼く。

 

 

 

《これより、演舞を御披露致します。どうぞ、心行くまでお楽しみ下さいませ》

 

 

上品そうに微笑む彼女は、まごう事なきカグヤだ。

その言葉を合図に、レティシアが弄っていたモノから曲が流れ出す。

 

 

「………わぁ…………」

 

「……綺麗」

 

 

どこからともなく、感嘆混じりの賛美が飛ぶ。

それ程までに、彼女の舞は洗礼された美しさがある。

舞うカグヤから視線を外さずに、飛鳥が感嘆の声を呟く。

 

 

「凄いわ……これ、日本舞踊かしら?」

 

「いや、それに近いらしいんだが、違うんだ。あれは、俺達の一族が代々受け継ぐ舞の一種でな。今、カグヤが舞っているのは、歓迎を意味するモノだ」

 

「他にもあるの?」

 

「ああ。古くから儀式を重んじる、ちょっと変わった独自文化を持つ一族でな。他にも豊穣祈願や雨乞い……そうだな、古代的な日本文化、と思ってもらって構わない。だが、それにカグヤなりのアレンジを加えているのは確かだ」

 

「だろうな。俺もそういったのには、それ程詳しくないが………もっと退屈そうな気がしたぜ」

 

「確かに。ゆったりとした曲で踊る、ってのは眠くなる。でも、彼奴の舞はゆっくりだろうが、アップテンポだろうが………全ての種族を魅了するだけの力がある」

 

 

少しだけ自慢げに説明する帝。

それほどまでに、彼は妹を誇っているのだろう。

流星群を背に舞う彼女を観賞し、その日の夜は更けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

☆オマケ~扉を直しました!~☆

 

 

トン、カン、と屋敷の廊下に金槌の音が響く。

現在、黒ウサギの部屋の扉を破壊した十六夜と帝は、カグヤの指導の下、その扉を修理していた。

 

修理、とは言うが、ほぼ大事な部分が粉々になってしまった為、再度作成中という方が正しいのかもしれない。

 

 

「あ~……やりづらい」

 

 

帝は銜えていた釘を一つ取り、トントンと壁へ打ち付ける。

お座りの状態から、前足を器用に使い、扉の修理に勤しんでいる。

 

………どうみても、着ぐるみを来た悪ふざけをしてるおっさんにしか見えない事は、この際黙っておくべきだろう。

 

 

「おい、わんこ。カグヤはどうしたんだよ」

 

「なんだよ、霊長類。彼奴なら、今日の夕飯の仕込みにいってるぞ」

 

 

先程まで、彼らの後ろで監視していた彼女は、使用人としての仕事の為、現在席を外している。

部屋の主である黒ウサギは、別部屋に一時移り、飛鳥、耀と共にお茶会の真っ最中の筈だ。

 

しめた、と十六夜がニヤリと笑う。

 

 

「よし、ちょっとトイレに」

 

「ちょっと待て、霊長類。お前、逃げようって参段じゃねぇよな?」

 

 

ジトリ、と帝が睨む。

とはいえ、扉の制作作業はほど終了したとみていい状態までにはなった。

後は、蝶番をきちんとつければ、終わりだろう。

 

ヤハハと十六夜が笑う。

 

 

「後は、わんこだけでも平気だろ。俺はちょっくら散歩にでも行ってくる」

 

「ふざけんなよ、霊長類。寧ろ、こういった仕事はお前がすべきだろ?俺、狼なんだし」

 

「そんな器用な狼、見た事ねえよ」

 

「うるせぇ。俺だって、好きで狼やってんじゃねぇよ!!」

 

 

ガルルと唸る帝と、ニヤリと笑う十六夜。

このまま喧嘩という名のじゃれ合いになるか―――――――と思った刹那

 

 

ズバンッ、と二人の間に、何かが飛んできた。

 

暫しの沈黙。

 

その後、恐る恐るといった様子で視線を向ければ……見事に刺さった竹串が一つ。

どう考えても、第三宇宙速度に匹敵する速度で飛んできたそれは、弾丸の様にも見えた。

 

ギギッ……と油が切れたブリキ人形の如く、発射位置へと視線を向ける。

 

 

《……何をなさっているのですか?帝兄さん、十六夜様?》

 

 

そこには、般若が降臨していた。

普段と同じ愛らしい笑みは、絶対零度を思わせる冷笑へと変わっている。

その手に握られているのは、達筆で『覇裏戦(ハリセン)』と書かれた、白い武具。

さぁ……と血の気が引いた。

 

 

「あ~~……カグヤ。俺達は決してサボっていた訳じゃないぞ?ほら、こうして扉ももう少しで元通りに」

 

《ふふふ……本当に、十六夜様も帝兄さんも、騒がしい事がお好きなのですねぇ?》

 

 

 

どうやら、弁解の余地はないらしい。

カグヤは黒ウサギより借り受けた対問題児専用武具、『覇裏戦(ハリセン)』を振り上げ

 

 

《少しは真面目にして下さい!!!この問題児様と馬鹿兄さん!!!!》

 

 

スパァァァァン、と小気味良い音が屋敷に響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




え~………最初に、全十六夜ファンの皆様へ土下座しようと思います。
申し訳ございませんでした!!!!!!(ジャンピング土下座)


最後のオマケに関しては、ご希望がありましたので載せさせていただいたのですが……十六夜って、こんなふざけた子じゃないですよね???
うん、本当に申し訳ないです。ギャグって、本当に難しい……


さて、今回出てきたハリセン……じゃない!覇裏戦ですが……これは、カグヤのみの使用となっております。
制作者は言わずと知れた黒ウサギ。
彼女が所持しているハリセンの姉妹作です←

当社比としまして、破壊力にはやや難があるものの、音に関しては0.5倍増しとなっております←←
専ら、帝撃退用でもありますが、対問題児兵器としての使用も可能です!!←←←



ここからは、真面目なお話。
これにて、一巻部分は終了となります。
丁度十話というキリの良い数字で終われたのは、正直水無瀬も驚く具合です。
でも、一巻部分はやりきった……な感覚で見ております。

次の二巻ですが……遂に、遂に!!あの引っ張っていた青年の正体が明らかに!!
魔王の襲来と共に、カグヤが新たなギフトに目覚める!!……かも。

問題児達と黒ウサギ、カグヤが大喧嘩!?死にもの狂いで鬼ごっこ!!


な三本仕立てでお送りいたします(まさかのサ○゙エさ○風)


因みに、これは予定ですので、本編とは全く関係ない内容を含んでおります。
あまり、鵜呑みにせずに待て!!次回!!


と、悪ふざけが過ぎた所でおしまいです。


次は二巻のお話です


では、また

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