問題児たちが異世界から来るそうですよ?~月の姫君~ 作:水無瀬久遠
またまた連載ですが……どうか、気長に見てやってください(涙)
序章 奪われた世界
この世界はいつだって、不条理と不合理が牙を向き、全てを奪い去っていく…
燃え盛る劫火の中、少女はへたり込む様に座っていた。
元は上等な生地であっただろう小袖は、劫火に炙られたせいで煤け、見事な刺繍が見る影もない。
そして、彼女が纏う袴は赤黒く濡れ、元の色が全く分からなくなってしまっていた。
まるで地獄の様な景色の中、少女は無気力な瞳で自身の膝元を撫でる。
そこには、既に息絶えている少年の屍があった。
つい先ほどまで……笑い合い、励まし合いながら、戦っていた大切な家族。
だが、彼はもう見る影もなく、その大半を劫火によって焼失してしまっている。
むせ返る様に感じる血と肉が燃える悪臭。
その中でも生きている彼女は『異常』の一言しか浮かばない。
世界が闇に包まれている中、少女は天を仰ぎ、小さく微笑んだ。
「誰でもいい
私を………死なせてください……」
その一言を残し、少女の世界は崩壊した。
☆★☆★
箱庭二一○五三八○外門居住区画、第三六○工房。
「……うまく呼び出せた?黒ウサギ」
「みたいですねぇ、ジン坊ちゃん」
黒ウサギと呼ばれた十五、六歳に見えるウサ耳少女は、肩を竦ませておどける。
その隣で小さな体躯に似合わないダボダボなローブを着た幼い少年が溜息を吐いた。
黒ウサギは扇情的なミニスカートとガーターソックスで包んだ美麗な足を組み直し、人差し指を愛らしく唇に当てて付け加える。
「まぁ、後は運任せノリ任せって奴でございますね。あまり悲観的になると良くないですよ?表面上は素敵な場所だと取り繕わないと。初対面で『実は私達のコミュニティ、全壊末期の崖っぷちなんです!』と伝えてしまうのは簡単ですが、それではメンバーに加わるのも警戒されてしまうと黒ウサギは思います」
握り拳を作ったりおどけたりと、コロコロ表情を変えながら力説された少年も、それに同意する様に頷いた。
「何から何まで任せて悪いけど……彼らの迎え、お願いできる?」
「任されました」
ピョン、と椅子から黒ウサギが跳ねる。
そのまま『工房』から出ようと扉に手を掛けた時、小さな影が扉へ体当たりするかの様な勢いで、工房内へと入ってきた。
突然の来訪に、二人は目を丸くする。
「り、リリ!!?一体どうしたの!?」
息を切らし、来訪してきた少女……リリに、慌てて二人は近寄る。
リリはゆっくりと息を整えると、感極まる様な表情で叫ぶ様に告げた。
「か、カグヤ様が……カグヤ様が目を覚まされました!!」
その一言で、ジンと黒ウサギの表情に喜びの笑みが灯った。
☆★☆★
最初に見えたのは、薄い硝子の幕と見慣れない天井だった。
眠る様に横たえられた自分の身体は、長い先月を過ごしたかの様に固く、少し動かすだけでも激痛が走る。
呻くかの様に顔を顰めていると、バタン、と大きな音が響く。
普通の扉が開く音の筈なのに、酷く鼓膜が痛む。
筋肉が軋む音を立てている様な錯覚に陥りながら、少女は腕を動かし、耳を押さえた。
「本当に……本当に目を覚まして下さったんですね、カグヤ様!!」
脳を直接揺さぶる様な大きな声。
ゆっくりと身体を起こし、硝子の蓋へと手をかけ――――――
少女、カグヤは二度目の生を受けた様な、そんな悲惨な気分で声の主を見詰めた。
・