緋弾のアリア~影の武偵~   作:ダブルマジック

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Bullet69

 かなめが仲間と合流した翌日の土曜日。

 登校して早々にジャンヌに捕まったオレは、昨夜送ったメールの内容について決定事項だけを伝えられる。

 そういうのはオレも交えて決めてほしいんだが。

 

「かなめの目的が拠点設営と遠山を連れていくことなら、まずはそれを阻止する。作戦が失敗すれば上……つまりはジーサードが自ら動いてくる可能性があるからな。その間はかなめをどうにか大人しくさせ、ジーサードの介入に備える。仲間の情報についても調査を進める」

 

「……具体的にどうやって作戦を阻止するとかは?」

 

「お前がレキに頼んだというかなめの仲間の似顔絵は貰い次第ワトソンへ渡せ。リバティー・メイソンの情報力なら、軍人関係であれば調べられるかもしれん。話は以上……にゃ!?」

 

 ホームルームも近いからか、質問にも答えないような事務的な一方通行の用件に、人任せな部分がこの上なく気に食わなかったオレは話の最後にジャンヌの両頬を引っ張ってやると、何をするんだという顔をしたかと思えば、次にはオレの手を凍らせようとしたのですぐに手を放してやる。危ないなこいつ……

 

「……とにかく、かなめの目的は阻止だ。その過程にあるであろう女子達の洗脳も早急に何とかしてくれ。最悪の場合は先日のフローレンスの作戦を実行に移す」

 

「自分で無茶言ってるのがわかっててか。それこそキンジがどうにかしてくれるのを待つ方がまだ可能性あると思うぞ。阻止しろって言われてもオレには……」

 

 たぶん無理だ。

 そう言おうとしたらチャイムが鳴ってしまい、それによって好機と見たのかそそくさと教室へと逃げたジャンヌに頭を掻くしかなかった。

 仕方ないのでとりあえずは昨夜レキに頼んでいたかなめの仲間の似顔絵を貰いに行き、超上手いそれと交換で好んで食べてる携帯食とハイマキ用の魚肉ソーセージを大量に渡してからそのままワトソンにパスし、かなめの洗脳の件で何か参考になりそうなことを知ってるかもしれない先輩とコンタクトを取ることにして、最近なにかのご教授を受けたというアリア経由でその人と会えることに。

 人嫌いなその人と会うため指定された時間にSSR校舎の屋上へと赴くと、先に来ていたその人、時任ジュリア先輩は屋上の柵に手を添えたままオレのいる後ろを向いてまっすぐにオレを見てきた。

 

「少年、普段の私ならこんな面倒なことで人に会おうとしないのはわかるな? 少年には厚意を無下にした過去があるから、それを取り払う意味で今回に限って用件に応じる。以後は頼ろうとはしないでちょうだい」

 

「はい。ですので取り急いで用件だけ済ませる次第です。わがままなお願いを聞いてくださりありがとうございます」

 

 そういった前置きをした上で近くに招いた時任先輩に従ってそばまで寄り、しかし決して触れられない距離を保ったまま早速用件を伝え始める。

 

「答えらしい答えが出てこないならそれでも良いのですが、俗に言う催眠術や洗脳といったものを受けた人間を正常な状態に戻す場合、術者本人以外が干渉して戻すことは可能なんでしょうか」

 

「……なるほど。私の能力に通ずる部分があると踏んで訪ねてきたわけか。まず理解してもらいたいのは、催眠や洗脳といったものは相手の脳に干渉し情報を騙したり上書きしたりしている状態だということ。その深度と種類によるが、基本的にかかっている本人は自分が正常な状態だと信じて疑わない。たとえ疑惑が生じても、先に上書きされた情報がそれを払拭してしまうことがほとんどで、外部からの干渉はあまり効果的ではないわ」

 

 不躾な質問をしたにも関わらず丁寧に、おそらくそれ系に知識があまりないオレでもわかる言葉を用いて説明してくれた時任先輩。

 そこから察するとやはりオレがかなめの洗脳下にある女子をどうにかすることは無理っぽい。難儀だ……

 

「でも、そんな質問をするということは、現在進行形でそういった問題が起きていると察してよさそうね。それなら具体的にどういった感じかを述べなさい。その状態によってはもう少し踏み込んだ話が可能かもしれないから」

 

「そうですね……見ていた感じでは、術者を大事に思って守ろうとする傾向が強かったかと。過保護というのが近いかもしれませんね」

 

「術者本人の状態は? 過保護ならおそらく術者は女で、か弱いと思われてる前提かしらね。そこにプラスで可愛いとかのオプション付きがあるとかかる人も多そう」

 

 面倒臭いなと考えようとしたところで、現状を見透かしたような時任先輩の言葉に素直に従って答え、そこからかなめの状態までを予測。

 見てもいないのにほとんど合ってるので、正直に頷いて肯定を示すと、少しだけ沈黙した時任先輩は考えをまとめてから話を続ける。

 

「それなら外部からの干渉でもどうにかなるかもしれないけど、期待はしない方がいいわ。アクションとしては徹底した疑問の投げかけ。例えば『どうしてその人を守りたいのか』で始めたら、おそらくはか弱いからとかそんな感じの返しが来るのは予測して然り。そこからさらに『どうして自分が守ろうと思ったのか』を問うと、ちょっとしたループに入ると思うの。だいたいにして洗脳の類いは理屈を抜いて上書きするから、どこかに同じ答えへと導かれる現象が起こるのだけど、そういった同じ答えになる疑問を畳み掛けることで本人の中でループした答えに疑問を抱くようになって、一旦思考が停止する。ここで解けるか質問者を突き放すかで深度は判断できると思うけど、解けないなら諦めなさい。諦めて術者本人がそれを解くか解かせるかが最善。強引に干渉しすぎると脳へのダメージとなってしまうわ」

 

 割と一気に言われてやや戸惑うかと思ったが、時任先輩の言葉は不思議とすんなり頭に入っていき理解ができた。

 が、かなめの洗脳を受けた女子の数から考えても、そんなことを1人1人にやるのは効率が悪いし、たとえ解けたとしてもまたかからないという保証もないから、結局はかなめの意志で解かせるのが最善。

 それが確認できただけでも収穫と思おう。

 

「詳しく教えていただきありがとうございました。用件はこれで終わりですので、これで失礼させてもらいます」

 

「この程度で少年への無礼を詫びれたなら、安いものよ。どんな問題に首を突っ込んでいるかは詮索しないけど、少年なら……いえ、確証もないことを言うほど私も直感思考ではないからやめておきましょう。頑張りなさい」

 

 これ以上は何を聞けばいいかわからなかったのと、時任先輩に時間を取らせるのも悪いとあって、それで感謝を述べて頭を下げてから屋上をあとにしようとすると、頑張れという意外な言葉にちょっと戸惑ってしまったが、そう言ってくれた時任先輩がほんの少しだけ笑みを浮かべてくれたような気がして、その言葉と笑顔に背中を押されたオレは、この件を前向きに取り組んでいく気になれた。

 ――やっぱりオレって年上に弱いな……

 自らの昔から変わらない弱点を再確認してからの放課後。

 昨夜の件もあったので、近日中にでもかなめに動きがあることを予測していつもよりも少し警戒して監視をしていたオレは、しかしいつもと変わりないかなめに集中を若干削がれる。

 キンジも何故か今日は授業に出てこずに姿を見せなかったので、一緒に帰るという線も薄いな。

 それでも仲良さそうに教室で取り巻きと話をするかなめが動くのをじっと待っていたら、読唇術からだが「お手洗いに行く」と言って教室から出ていくのを確認。

 ついていくと言う取り巻きを押さえてそそくさと教室を出ていったかなめだったが、その足取りは教室から出た時点で一番近いトイレへは向かっていなくて――教室後ろの扉の方からが近いのに、前から出ていった――若干の不自然さを持っていた。

 それを見逃さなかったオレはすぐにかなめの足跡を追って、校舎の裏へと回り込む。

 すると3階廊下の窓を開けて下を見下ろしているかなめを廊下の角から発見しその様子を少し見ていると、どうやら誰かと話をしているようだったが、それが誰かはかなめの操る白い布の兵器に絡め取られて運ばれてきた昴で判明。小鳥が何で……

 話し声はちょっと聞き取れなかったが、昴が捕縛されていることと、かなめの素が出ていることから良くない状況なのはすぐにわかり、どうにかあれを止めないとと判断したオレはその場を離れて1年の教室がある廊下近くまで移動してちょっとわざとらしく「遠山かなめが3階廊下で口喧嘩してるって!?」と誰かしらの耳に入るように姿を見せないで言って、教室にいるであろうかなめの取り巻き達の耳に情報が行くようにしてから、今度は外から校舎裏へと回っていく。

 この間約2分程度だが、辿り着いた校舎の角には先客がいて、小鳥がいるはずの通りをなんとも危なっかしい覗き方をしていたので後ろから口を押さえて引っ込めさせる。

 急にそんなことをされてちょっと抵抗されはしたが、オレだとわかるとすぐに落ち着いてくれた先客、幸帆が何故ここにいるかはだいたい察しがついた。

 このタイミングでここにいるなら、小鳥と一緒に何かかなめに絡むことをしていたのだろう。

 言い訳くさいがここ最近は割と余裕もなかったからこいつらの動きに気を配れなかったのが災いした。

 間宮達の様子を聞いたのが原因かもしれないし、オレに責任の一端はありそうだ。

 それはそれとして今は小鳥だ。

 そう切り替えて幸帆に代わって通りの向こうを覗き見てみると、今まさに小鳥が自分の銃をこめかみに当てて自殺でもしようかというバッドタイミング。

 マズイな……早く来い……来てくれ……

 そんなオレの祈りが通じたのか、ついさっき動かそうとしたかなめの取り巻き達がどうやらかなめを発見したようで、窓から顔を出していたかなめがちょっと慌てた様子で一旦引っ込み、その時に白い布の兵器のコントロールを緩めたのか、昴が脱出。

 それと同時に下でも動きがあり、手に持つ拳銃をわずかに下げたところで1階廊下の窓から羽鳥がバッと外へと出てきて小鳥を引っ張り投げ入れるようにして1階廊下へと放り場所を瞬時に入れ替わる。

 それが完了したのと同時に3階窓からかなめの取り巻き達が顔を出して下を覗き見てきたところで、あたかもそこにずっといたような振る舞いをした羽鳥。

 

「ふふっ、どうやら耳の早いお友達が到着してしまったようだね。だが安心してくれ。別にかなめちゃんと喧嘩していたわけではないよ。ただ米国の英語は我が祖国の母国語であるから、そちらがいま世界一の国であろうとそれは揺るがないということを話していただけさ。漢字にしても分かりやすく『英国』と書くのだからね」

 

 そこから突然してもいない喧嘩の話を取り巻き達に説明した羽鳥に、かなめもその場は口裏を合わせることしかできずそのまま退散。

 白い布もどこかへと行ってしまって、完全に安全だと判断したらしい羽鳥が小鳥を校舎から引っ張り出したところで、オレと幸帆もそこに合流。

 

「かなめのお友達を呼んだのは君か。ずいぶん早い対応だったようだが?」

 

「一刻を争うと思ったからな。オレが出ていくよりも、お友達の前では良い顔をしなきゃいけないかなめなら止まるだろうと踏んでやったんだ。お前はいつからあそこにいた?」

 

「君とあまり変わらないタイミングだと思うよ。かなめが誰かと話す姿を確認してからまっすぐ向かったから、隠れ潜んでからどうするかちょっと考えていたんだけど、珍しくファインプレーをしてくれた」

 

 合流して早々、そんな会話を最初にして、別に示し合わせたわけじゃないにしても結果として小鳥救出に成功したことをとりあえずは良しとし、次に小鳥と幸帆を並んで正座させて腰に手を当て正面に立ったオレは、しゅんとした2人に対して言葉をかける。

 

「……何をしていたかは聞かない。お前らもお前らで考えて動いていたんだろうし、戦妹と妹みたいな子の動きに気付けなかったオレにも責任はある。だが、相手との力量も計れないお前らが取った行動は少々どころじゃないくらい軽率だった。実際にいま死にかけてたんだからな。今回はオレと羽鳥がたまたまいたから難を逃れたが、次にまたこんなことがあっても助けてやれないかもしれない」

 

「…………すみません、でした……」

 

「申し訳ありませんでした、京様……」

 

 小鳥と幸帆が自分で考えて動いたことに対して、オレは怒りはしなかった。

 何故なら後輩とはいえこの2人も立派な武偵の卵なのだから、それができなきゃ武偵としてはポンコツになりかねない。

 だが、自分の実力でどうこうできるかを判断できなかったことにはちゃんと怒っておくと、実際に死んでいたかもしれない現実を突きつけられた2人は素直にオレに謝罪。

 今にも泣きそうな2人にこれ以上の言葉は必要ないと判断したオレは、そこで1つ息を吐いてからしゃがんで2人と視線を合わせると、そっと頭を抱き寄せて口を開く。

 

「2人が無事で良かった。助けられて本当に良かった」

 

「京夜、先輩……ごめんなさい……ごめんなさい……」

 

「京様……うっ……うぇっ……」

 

 それからしばらく泣き続けた2人を、なだめるようにして頭を優しく撫で続けたオレは、かなめの追撃を警戒して今夜は幸帆を部屋に泊めて監視を続けた。

 小鳥と幸帆が眠ったと羽鳥からの報告を受けた夜の10時頃。

 寮の屋上でいつもよりも少しだけ長くかなめの動向を監視していたオレは、今夜は何もなさそうだと思って撤収しようとしたのだが、そこにタイミングでも合わせたように夾竹桃から電話が来て、まだ契約期間が切れてないこともありすぐにそれに応じる。

 

「火野と麒麟の件は解決したか?」

 

『そっちはもう大丈夫よ。たぶんだけど、佐々木志乃と乾桜の方もね』

 

 開口一番でオレが気になっていたことを尋ねると、抑揚のない声で報告するように返答した夾竹桃。

 オレも協力した身としては解決したなら良かったし、桜ちゃんの方も解決したというのはさらに良い報告だ。

 

「んで、用件は?」

 

『遠山かなめが動いたわ。間宮あかり宛てに果たし状が届いたみたいね。直接手を下すことをしてこなかったのに、急に実力行使になったのが気になるけど、あの子達では遠山かなめには敵わないわ。だから私が先行して遠山かなめにぶつかってみるけど、敗北した時はあなたがなんとかして』

 

 それでこんな夜中に来た用件を尋ねてみれば、どうやらかなめがキンジとの約束を破って間宮達に実力行使をしてきたらしく、実力では敵わない間宮達より先にぶつかるから、どうにかできなかったら後はよろしくってことで連絡してきたようだ。

 情報には感謝するが、オレ1人にどうこうできるならこんなコソコソやってないわけで……

 と無茶振りに対して抗議しようとしたら、時間と場所だけ告げた夾竹桃はそのまま通話を切ってしまい、再度繋ごうとしてももう電源を落としたのか繋がらなかった。

 ったく、これなら漫画のアシスタントをやらされる方が万倍は楽だぞ……

 夾竹桃の無茶振りはともかくとしても、かなめの行動に変化があったということは、放課後の小鳥に仕掛けてきた後から先ほどまでに何かが起きた可能性は高い。

 その間に寮から出てはいないから、キンジとの間で何かあったと考えるべきか。

 得られた情報から予測するなら、キンジを連れていくことに失敗したとかその辺が濃いな。

 そんな予測をしつつ1度部屋へと戻ったオレは、告げられた決闘の場所が羽田空港の滑走路ということもあって、移動する足が欲しかったので仕方なく羽鳥に車を出してもらおうとすると、意外にもグダクダと文句も言わずに了承した羽鳥はさっさと仕度を整えて出発。

 

「…………何か企んでるのか?」

 

 妙に大人しい羽鳥が気持ち悪かったので、羽田へ向かう途中でそんな質問をぶつけてみる。

 それに対して特にリアクションを示すこともなく運転し続けた羽鳥は、赤信号で止まってからそれに答える。

 

「別に、何も企んではいないさ。かなめの問題は私達師団が優先すべき案件。それに協力しない理由を考える方が面倒だと思うけど」

 

「違う。今回はかなめをどうこうできる状況じゃないのはわかってるだろ。問題解決という点ではオレ達が行ったところで何も進展しない可能性の方が高い。それなのに同行してきた理由は何だって聞いてる」

 

「ふーん。君もなかなかに注意深くなってきたのかな。私に対する疑念がヒシヒシと伝わってきて非常に不快だよ。だが考え方を変えると、私のことを理解してきているということにもなる。その点では少し……いや、やっぱり不快だ」

 

 ははっ、と真剣なオレに対して状況を楽しんでる風な羽鳥にムカッとくるが、青信号で車を発進させてからは見せた笑顔を消して真面目な顔をして口を開く。

 

「HSS。遠山の血にはそんな特異体質が備わってるというのは知ってるかな。その遠山の妹と名乗ったかなめが、もしも『本当に遠山キンジの妹』だったとしたら、そのHSSを持っていても不思議ではない、とは考えられないかい?」

 

 そこから急にキンジの特異体質について話したかと思えば、次にそれならかなめもそうなのではという可能性の話をしてきた羽鳥の話にちょっと驚く。

 

「『双極兄妹(アルカナム・デュオ)』。サードが口にしていたんだが、それが可能なら、かなめと遠山キンジは最強の兄妹になり得るらしいが、私はその肝心のHSSがどんな体質なのかを知らない。知っているのは発現すれば超人的な能力にまであらゆる面で向上することだけ」

 

 アルカナム・デュオ。

 HSSは性的な興奮をトリガーにして発現することは幸姉からも聞いたし何度も見てわかっている。

 だがそこにこそ目的があったことにいま気付いた。

 つまりジーサードのキンジを連れていくというミッションは、『キンジとかなめで互いにHSSになって強くなる』ことがその最大の目的だったわけだ。

 仮に本当にかなめがキンジの妹なら、性的興奮がトリガーな時点で倫理的な問題があるが、アメリカは目的優先思考の一面もあるからあちらにとっては大したことではないのだろう。

 それならかなめがあんなにもキンジに好意的なのも納得がいくし、他の女。アリア達を必要以上に遠ざけたのも自分だけを見ろという意思表示だったと思えてくる。

 

「しかしだ。放課後の時点で変わりなかったかなめが、ここにきて自棄になったような行動を取ったことで、私の中である結論に至ったわけだ。前提はあるものの、遠山かなめは遠山キンジと『双極兄妹にはなれなかった』。つまりはミッション失敗。アメリカはその辺で厳しいから、強くなれなかった役立たずと判断されて必要とされなくなる。だから遠山キンジとの約束もどうでも良くなったんじゃないかってね」

 

 その上で今回のかなめの行動に予測をつけた羽鳥は、そこまでに何かあるかいと続けたが、気持ち悪いくらい筋の通った話にちょっと引いてやると、珍しく眉をヒクつかせてイラッとした雰囲気を出してきた。

 

「だからこそ、今なら遠山かなめをこちらに引き込めるかもしれないと思ったんだよ。闘争による解決ではなく、話し合いによる解決でね。君には無理だろうけど、私にはそれができると確信がある」

 

「ほう。つまりオレは部屋で情報をやった瞬間にもうお役御免だったって言いたいわけだな。大かた羽田に着いたら睡眠薬か何かで眠らせてるうちに終わらせる算段だったんだろ。沈黙してたのは余計な探りを入れられる可能性を下げてだな?」

 

「はっはっはっ。推測通り、君にはこの車でバカみたいに寝息を立ててもらうはずだったのに、気付くのが早かったよ。というわけで無能な君は出張る必要がないから大人しくしててくれ」

 

「世の中お前の思い通りにばかり事が進むと思うなよ。気付いた以上は死んでも黙ってやるかボケ」

 

 こいつの推測には少々驚かされたが、結局いつもの調子のこいつが心底気に食わなかったので、絶対寝てやるもんかと心に誓って、緊張感のなくなった車内で算段のない自分がどうするかを考え始めたのだった。

 どうすっかな……


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