緋弾のアリア~影の武偵~   作:ダブルマジック

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Bullet61

 あれから何日かが経過して、10月30日。

 とうとう2日間に渡って行われる文化祭が始まった。

 あのあと貴希と会うことがないまま今日を迎えてしまったが、避けられてるというよりは本当に予定が詰まっててずっと外に出払ってたようで、妙な間が空いてしまったせいでどんな顔をして会えばいいかわからなくなる。

 しかしそれはそれで午前中のうちにはどうにかしたい。

 なにせ午後からはオレが生涯忘れることができないだろう地獄のシフト。変装食堂での仕事が待っている。

 準備の手間を考えると昼前には始めないと間に合わないから、文化祭開始からの2時間程度が今日のオレの自由時間。

 その間にまずは貴希の件を片付けようと車輌科の出店へと向かってみると、その途中で運悪く理子と遭遇。

 早速両手にアメリカンドッグとホットドッグを持って食べ歩きをしていたようだが、すっかり元気になったその姿を見るとなんとなく安心する。

 だがどっちもウィンナーな時点で別個で食べる必要性を感じない。

 

「ラッキーラッキー! ここでキョーやんに会えたのって絶対に運命だよね」

 

「そう思いたいならそれでいいが、何故ついてくる」

 

「いいじゃんいいじゃん。どうせシフトまでブラブラするつもりだったんだし、1人より2人の方が楽しいよぉ。ブラブララブラブしようよぉ」

 

 それでも一応挨拶程度で別れようとしたのだが、ひょこひょこ隣を食べながらついてくる。

 予想はしていたからそれ以上は何も言わずにいると食べかけのホットドッグをプレゼントと称して押しつけてきたので仕方なく食べてやり、それに「間接キッスー!」とはしゃぐのをチョップで沈黙させたところで、車輌科の駐車場にあった『クィーンタコ焼き』なる店が見えて、バイクの車輪がタコ焼きになってるのれんを潜ると、そこには椅子に座って車のカタログを見ながら店番する貴希の姿があり、オレと理子が現れたことで椅子から転げ落ちて慌てて身なりを整えた。

 

「もー! 京夜先輩は普段から気配消しすぎですよ! ビックリするじゃないですか!」

 

「ん、そんなこともないんだが。こいつもいるしな」

 

 意外にも普通に接してきた貴希にオレも普通に返して理子の頭をベシベシと上から叩く。

 そんな返しに気を抜いていただけの貴希は何も言えなくなったようで「轢いちゃうぞ」と小さく呟き気を取り直した。

 

「お2人とも初日からデートですか? 女連れなら気前良く買ってくださいよ?」

 

「そうだぞキョーやん。さっき奢ってあげたんだから、ここで返すのがいいと思います!」

 

「食べかけのホットドッグ食べただけだろアホが……んじゃこいつが食いしん坊だから20個くらいで頼む」

 

「まいど! 京夜先輩にはサービスで焼きたてをあげますから、食べ歩いて宣伝してきてくださいね」

 

 抜かりないなこいつは。

 言いつつすでに出来上がっていた分を容器に詰めずにタコ焼き器で新しいのを焼き始めた貴希は、鼻歌混じりに上機嫌。オレが心配しすぎだったかな。

 タコ焼きができるまで少しかかるため、じっとしてるのが嫌いな理子は近くの出店にちょっかいを出しに行ってしまい、貴希と2人になるが、そうなると何を話せばいいかわからず沈黙してしまう。戻ってこい理子。

 

「……気にしなくていいですよ」

 

 と、オレがどうすべきか考えていたら、唐突に口を開いた貴希にちょっとビックリ。

 

「こんな早い時間に来てくれたのって、私を心配してくれたんですよね。京夜先輩優しいからすぐにわかりました。でも私ならもう大丈夫です。きっぱりと言われて私も吹っ切れました。だからこれからも後輩として普通に接してくれたら嬉しいです」

 

「……その言葉に嘘はなさそうだな。あー、どんな顔して会おうか悩んでた自分がアホらしい」

 

「真顔で来たら笑ってやりましたけどね」

 

 言いながら笑う貴希にオレも釣られて少し笑ってしまう。これなら今まで通りに貴希と話せそうだ。

 そんなオレ達の様子を見ていたのか、気になって戻ってきた理子が何かあったのかと割り込んでくるが、オレも貴希も何でもないと誤魔化してはぐらかし、焼き上がったタコ焼きをキリでパパッと容器に入れて手渡される。

 

「あ、変装食堂の方にはしっかり顔出しますから、優待お願いしまーす」

 

 最後にそんないらんことを言ってきた貴希に来るなと一応返してから立ち去ったオレと理子は、一般人への開放から賑わってきた周りにちょっと楽しくなりながら近くにあったベンチで熱々のタコ焼きにありつき始め、アホの子の理子は何も考えずに1つ口に放り込んで、はふはふ言いながら口の中でタコ焼きを転がして、そんな理子を見ながらオレも1つ手に取って理子のようにならないように食べる。

 

「味にはこだわってたから、美味いだろ?」

 

「ほーはへ……んく。理子的にはソースとマヨのタッグでも良かったけど、タコ焼き本来の味ってのもいいよね。キョーやんは本場関西出身として自分で焼いた方が美味しくできるとか思ってたり?」

 

「貴希も関西出身だ。それに焼き方ってのは地域で色々違うし、これはこれで十分に美味しい。ほら、ちょっと有名なのでは焼いた後に表面を揚げるようにして仕上げるのもあるだろ」

 

「あれは取る時崩れなくて食べるの楽だよねぇ」

 

 そこから何故かタコ焼き雑談が数分間続き、それが終わる頃には15個も食べやがった理子の申し訳程度に残した4個を食べてから、理子に半ば連れ回される形で新たな食べ物を求めて学園島を歩いていった。

 小鳥と風魔が仕切って売っていた焼きそばは当然のごとく美味く、インターンが肩身の狭い思いで懸命にやっていたクレープも好評のようで、桜ちゃんもテキパキ働いていた。

 ついでに麒麟も売り子として愛想を振り撒いていたが、元戦姉の理子には笑顔全開の優待だったのに、オレには唸り声混じりで接待された。もう接待とも言わないか。

 基本的にこき使われる1年以下が主導で切り盛りする店が多く、昼前にも関わらずだいぶ食べた理子もようやく胃を休める気になったのか、スルーしてきた食べ物以外の出し物を見て回って残りの時間を使っていった。

 そして悪夢の時間がやってくる。

 

「では京様、頑張ってきてください」

 

「……今からでも遅くない。誠夜を……影武者の誠夜を呼べ……」

 

「大丈夫ですよ。それらしくしていれば一般の方にはバレませんから!」

 

 シフトの時間が迫って、その準備のために学生食堂の方へと移動して、そこで待っていた幸帆に手伝ってもらって変装を終えたオレは、ここにきてもやはり現実逃避したくて弟の誠夜を呼ぼうと携帯を取り出すが、やはりズレたことを言う幸帆に肩の力を抜かれて逆に決心が着いてしまった。

 嫌々ではあるが、着込んだ着物の上からエプロンを着けて、西部劇のガンマンとなった理子と一緒に最後の蘭豹の変装チェックへと向かうと、大笑いされて「売上に貢献してこいや!」と太鼓判を押されてフロアへと送り出され、そこではすでにたくさんの客でごった返す戦場となっていた。

 

「皆の衆! 我らが切り札の登場だぞー!」

 

 その忙しそうな空気の中で、突然そんなことを言って注目を集めた理子は、次にオレを指してパタパタと手を振りやがって、食堂の視線がほとんどオレへと注がれてしまうが、オレの姿を見た2年連中はそこでワッ! と盛り上がって「京奈がきたぞー!」と何故か持ち上げられる。

 やめろお前ら。オレを目立たせるなよ……

 そうは思いつつも客のいる手前、あからさまな殺気はマズイので、武偵高生にしかわからない『怒気を込めた笑顔』で周囲へと威嚇して沈静化してから、理子の頬を両側から引っ張ってお仕置きしてから分かれて仕事へと取りかかった。

 いざ始めればオレもすんなりスイッチを切り替えられて、間近で接客してもオレが男であることはバレなく、男女問わずに綺麗だなんだと言われては謙遜で返して乗りきっていった。

 そんな中で注文の料理を待つ少しの間でおばちゃん達に大人気のパイロットの制服を着た不知火が同じように料理待ちのタイミングで話しかけてきて、不思議と周りから注目されてしまうが、それを気にすることなく顔を近づけて小声で話してくる不知火。

 

「猿飛君、大好評みたいだね。僕にも『あの子綺麗ですね』って言われてで凄いよ」

 

「別に嬉しくもなんともないわアホ。それよりあれを何とかした方がいい気がするんだが……」

 

 と、いらん報告をしてきた不知火を躱しつつ、躱しついでに現在フロアで見ていて非常に危なっかしい動きをするレースクィーン姿の中空知を指す。

 中空知はよく見るとかなりむっちりとした体型で胸も大きくなかなか格好も似合っているのだが、言ってるそばから机にぶつかってふらつき壁に当たりとこの仕事向いてない感がひしひしと伝わってくる。

 いつもは眼鏡をしているが、今日はコンタクトにしてて慣れないせいではないかと思う。

 

「んー、猿飛君チームメイトだしフォローしてあげなよ」

 

「オレは中空知に近付くなと釘を刺されてるから無理。ちなみに顔を合わせて話したことすらないぞ」

 

「じゃあ親睦を深めるチャンス……ってこともなかったかな」

 

 どうにも気を利かせてるのか知らないが、躱し方も上手い不知火はオレにフォローを勧めてきたが、オレもジャンヌに釘を刺されてる身として渋っていると、その間に厨房にいたはずの警官姿のキンジが中空知と一緒にフロアから出ていくのが見えてひと安心。

 変装食堂は連帯責任で内申に影響するから、そういうのを少しでも上げたいキンジならどうにかするだろ。

 それから互いに料理が出てきたのでそれを運ぶために会話もそれくらいで分かれてまた仕事へと戻っていく。

 働き始めてから2時間ほど。

 一般客からは単なるコスプレ喫茶のような変装食堂は、客が途切れることなく出入りし、オレ達も休む暇がないくらいに忙しい中、生徒会の仕事で遅れてきた教師姿の白雪の加入で幾分効率が良くなって、ようやく1人2人が休憩に回っても余裕が出てくるようになった頃。

 ちょうど家族連れの客を見送ってフロアの外に出ていたところで、不意に後ろからトントンと肩をつつかれたので振り向けば、そこにはオレが予想もしなかった人物達が立っていた。

 

「なかなか似合うとりますな。これは見に来た甲斐がありました」

 

「なんや眞弓ぃ。京の様子見に来る言うんはこういう意味かいな。珍しいこと言うもんやからなんやあるとは思っとったけど」

 

「こればっかりは私の情報網でも掴めんかったなぁ。ねっちんとほっちんにも網張っとけば良かったわぁ」

 

 ――もう……死にたい……

 振り向いたオレを見てのそれぞれの言葉を聞いてオレは、心からそう思ってうなだれる。

 おかしい……何がどうしてどうやって、あろうことか眞弓さん達がここにいるのか。

 うなだれるオレに対してワイワイと楽しそうな眞弓さん、雅さん、早紀さんの3人。

 3人がいるならまさか残りの2人も……とすぐに考えて眞弓さんを見るが、オレの内心を悟ったように「あの2人は来てまへんえ」と不幸中の幸いなことを言ってくる。

 しかし今の口ぶりから、眞弓さんはオレの女装を知ってて来ているのだが、どこから漏れたんだ?

 

「あの、眞弓さんはどこでオ……私のことを?」

 

「心当たりありまへんか? なんや珍しくお父様が『土産話』持って東京から帰ってきたさかいなぁ」

 

 …………抜かった。

 そういえばあの一件で燐歌にすぐ噛みつかれたから、眞弓さんのお父さんに口止めするのを忘れてた……

 どんな風に言ったかは定かじゃないが、もうやだ死のう……

 そう思ってうなだれてる状態から床に座り込む形に移行して失意のどん底へと落ち込むオレに、眞弓さん達は全く気にせずにニヤニヤしながら写メを撮りまくる。もう好きにしてくれ……

 そんな出入り口付近でワイワイやってれば当然人目に触れるので、とりあえず客の流れを悪くするわけにはいかないと持ち直して、立ち寄っていくらしい3人を中へと通す。

 すると気付く武偵はすぐに気付く。なにせ天下の月華美迅のうち、3人が来客したのだ。

 彼女達に憧れてる武偵は少なくないため、一般客の知らぬところでどよめきが起こり、ウェイトレスをしていたやつらも思わず手を止める。

 

「なんやえらい注目されとりますな」

 

「人目気にしてもしゃーないて。それよりはよ席に案内してや京」

 

「さっちん、今はその呼び方したらあかんて。ちゃんと京奈ちゃん言わな」

 

「お気遣い感謝します……それでは3名様テラス席にご案内します」

 

 テラス席に落ち着いて注文を取り、それで一旦3人から離れてバックヤードに戻ると、ソワソワする一同が握手してくるかとか話をしてくるかとか言っているのを耳にする。

 それでちょっとフロアに顔を出して眞弓さん達を見れば、仕事の合間にちょこちょこ話しかけるやつらまでいて、眞弓さん達の知名度を改めて確認。

 ここに愛菜さんと千雨さんもいたら軽い騒動に発展していたかもしれないな。

 それで注文の料理を運んでいき、その時に後を絶たない生徒の応対で若干落ち着かない感じでピリッとしていた眞弓さん達の空気を察して、ちょっとだけ会話をしておく。

 戻ったらあいつらにこれ以上構うなって言っておかないと。眞弓さん怒らせるのは怖すぎる。

 

「愛菜さんと千雨さんは居残り組ってところですか?」

 

「そやで。全員来てもうたらあれやったから、じゃんけんで3人決めてん」

 

「あん時のアイのマジオーラがドン引きレベルやったな……よっぽど京に会いたかったんやろね」

 

「そういうやる気出す人は大抵負けるんどす。2人はいま何してはるんやろか」

 

「京くん、眞弓はああ言っとるけど、しっかりまっちゃんとちっちが負けるよう仕込んどったんやで。ホンマにエエ性格しとる思うわ」

 

 オレの質問に対してそれぞれがそれぞれの言葉で返してくることでピリッとした空気は払拭できたが、どうやら愛菜さんと千雨さんは始めから居残り組が決定していたようで苦笑。

 それを仕組んだ眞弓さんは素知らぬ顔で注文したコーヒーを啜っていた。

 でも愛菜さんにこの姿を見られなくて良かった。

 見られたらたぶん、接客どころではなくなっていた。

 

「あの、これはお願いなんですけど、お2人にはこの件は黙っておいてくれませんか?」

 

「初めからそのつもりどす。2人には帰っても『楽しかった』しか言うつもりありまへんし、土産も一切買いまへん」

 

「それはそれで酷いですね……」

 

「あの2人の悔しそうな顔は、ウチにとって美味しい料理のそれと同じどすからなぁ」

 

 それで一応3人に釘を刺しておくと、あれな笑顔を見せた眞弓さんがそんなことを言うので、ちょっとだけ感謝しつつも愛菜さんと千雨さんに同情する。

 まぁ、昔は仲が悪い上で意地悪してたのに比べれば、可愛いものかもな。

 その後は一言二言で話を終わらせて全員に眞弓さん達をもてはやすなと釘を刺しておき、別の客のところへと接客に行くが、その忠告も聞かずに京都へ行った時に仲良くなった理子――眞弓さんとは初対面のはずだが――が何やら楽しそうに眞弓さん達と話してるのを見かけたが、本人達が険悪な雰囲気を出していなかったからセーフ。

 次には白衣姿の研究員レキさんが直接お呼ばれして会話していたが、あのレキさんと何の話をしたのか非常に気になった。

 それからも白雪やキンジ、まさかのランドセル背負った小学生アリアまでお呼ばれして話をしていたが、アリアは同じSランク武偵として眞弓さんが噂でも聞いていたのだろう。握手しているのも見えたし。

 だが羽鳥。お前はダメだ。

 アリアが離れたタイミングで入れ替わるように眞弓さん達に近付こうとしていた女子に大人気のホスト羽鳥を、後ろ襟を掴んで止めようとしたらヒラリと躱され接近を許してしまう。

 こいつ、いつもは接近に気付かないとか言ってるくせに、どうでもいいところで気配を察知しやがって。

 

「薬師寺眞弓さん、お初にお目にかかります。羽鳥・フローレンスと申します。あなたのお噂は常々聞き及んでおりました。先日はお父上にもご助力をいただきましたこと、感謝しております」

 

「あんたが『闇の住人』どすな? そっちの噂も遠く英国の地から聞こえてきてますよって。個人的には非常に興味深い人や思とりました。不躾どすが、何で『そないな星の下で生まれた』のに武偵であるのか、ウチは気になりますな」

 

「……ご挨拶ついでに人脈を広げるつもりでしたが、これはなかなかどうして踏み込めませんね。日本には『触らぬ神に祟りなし』という諺もありますし、挨拶だけとさせていただきます。お時間を取らせたこと、お許しください」

 

 最初こそいつも通りにキザっぽく振る舞って言葉を連ねた羽鳥だったが、いざ眞弓さんが口を開けば、どうやらたったそれだけの言葉で話の主導権は眞弓さんが握ったらしく、これ以上は自分が何かを引き出されると思ったのかあっさりと引き下がった羽鳥は、丁寧な一礼でその身を翻してオレと擦れ違うと、そこで一言「敵わないね」と漏らしてまた待っていた女性客の接客を始めてしまった。

 星の下ってことは、あいつの生まれに何かあるってこと、だよな。それが羽鳥を黙らせるほどの威力を秘めているのか。

 そんな考えを頭で巡らせていると、眞弓さん達が席を立って会計に行ったので、オレもそれについていき、フロアの外でまた少しだけ話をする。

 

「京夜はん、なんやウチらと一緒にいた頃より自分が出せてるみたいで楽しそうでした。やっぱり幸音はんが足枷やったんとちゃいます?」

 

「そんなことはないですよ。オレにとって幸姉は世界の中心にいる人だっただけで、足枷なんて思ったことありません。それに眞弓さん達と過ごした時間は、たくさんの経験と思い出ができた大切な時間でした」

 

「京くんや。年末年始くらいは帰ってきてもエエんやで? 私らとねっちんで歓迎したるさかいな」

 

「そん時はホォも一緒に連れて帰ってきや」

 

「前向きに考えておきます」

 

 オレの女装を見る目的だと開口一番に言っていた眞弓さん達だったが、こうして改めて話すとオレの様子を見に来てくれたことがなんとなくわかって恥ずかしくなる。

 オレはいつまでもこの人達にとっての弟分なんだな。

 そんな3人と京都に居残っている愛菜さんと千雨さんに感謝しつつ、次は幸帆のところへ顔を出してくるみたいなことを言いながら歩き始めた雅さんと早紀さんを見送りつつ、最後に何か言いたげだった眞弓さんが、オレの耳元へ顔を近付けてささやいてきた。

 

「フローレンス言う子、悪い子やないと思いますが、気をつけなはれ」

 

「ッ! それはどういう……」

 

 というオレの言及に眞弓さんは口元へ人差し指を持っていって止めると、いつもの表情の読めない笑顔だけ見せて、先に行ってしまった雅さんと早紀さんを追っていってしまった。

 あいつが何か抱えて隠しているのはなんとなくわかってるが、そこに踏み込むなって警告なのか。その時のオレには眞弓さんの言葉の意味の全てを理解することはできなかった。


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