緋弾のアリア~影の武偵~   作:ダブルマジック

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VSヒルダと文化祭編
Bullet56


 

 依頼から帰ってきて早々、電源を入れた携帯にあった理子のメールや着信でこの上なく嫌な予感がしたオレは、通話にもメールにも返事がないことでさらに不安を増大させながら、確信はないがまずは全力で家へと戻ってみる。

 戻った男子寮の部屋は当然ながら暗く誰もいない。

 しかし1度小鳥が出入りした痕跡があり、フローリングやテーブルなどは簡単に掃除していったようで埃がない。

 それはいいとして、次は普段は全くやることはないが部屋の匂いを意識して嗅ぐ。

 するとわずかだが、理子が使ってる香水の匂いが漂っていて、少なくとも1日以内にはこの部屋に来ている。

 ならばと思い寝室に入ってみれば、こちらでも理子の匂いがする。

 この部屋に入るとすればここのキンジの部屋とを繋ぐ上下扉くらいだしな。

 だが何故かオレの普段寝てるベッドの布団から理子の匂いが一番するのには疑問しかないが、オレのベッドで寝たのかあいつ。

 何はともあれ理子がいたことは確かなので、申し訳なさはあるがここに来るまでに明かりで確認もしている無人のキンジの部屋の寝室へと侵入。こちらではアリアの香水やら色々な匂いがするが、理子がいたことはわかる。

 匂いが希薄なのは人の出入りがあったからか。

 一応部屋の中は全部調べてみたが収穫はなし。

 手がかりになりそうなものも出てこなかったので1度上に戻ってからソファーに腰を下ろす。

 焦ったところで頭は回らない。次は理子と接触しただろう人物を当たる。

 それで携帯を取り出してキンジに電話を掛けるが、出ない。

 次にアリア。出ない。キンジの部屋にあった匂いはその2人くらいだったが、どっちも出ないとか結構な確率だよな。

 どうしたものか。そう考えながら携帯をいじっていたら、理子の他にもメールを送っている人物がいることに気付きそれを見れば、ジャンヌだ。

 内容は帰ってきたことを知らせるのと、変装食堂の衣装云々という簡潔なものだったが、頼れる、か?

 半信半疑だがとりあえず部屋を出て電話を掛けてみる。数秒の呼び出し音から通話に応じる声が聞こえてきたが、それはジャンヌではなかった。

 

『猿飛か?』

 

「……何でお前が出るんだ、キンジ」

 

『少し携帯を借りててな。今は一緒にいないし、別にデートしてたとかじゃないぜ』

 

 この感じ。HSSでも発動してるのか。

 しかもなんか知らんが向こうの音が騒がしい。外。しかもキンジ自身も外気に晒された状態で移動中。

 息もちょっと荒いな。エンジン音はしないし、自転車か?

 

「まぁデートでも何でもいいんだが、丁度いい。お前、理子が今どこにいるかわかるか?」

 

『理子? 今朝までは俺のベッド……寝室にいたとは思うが、そこからはわからん。それよりこっちもいま立て込んでる。ジャンヌに用なら直接会うか改めて連絡しろ』

 

 それで一方的に通話を切ってしまったキンジ。それだけ向こうの状況も切羽詰まってるってことなのか。

 キンジの状況というのも気にはなるが、まずは理子の安否の確認が最優先。

 ジャンヌが帰ってきてるなら、相部屋の中空知にでも繋がれば連絡は取れるか。

 そう思って早速1度も掛けたことのない中空知へ電話を掛けてみると、

 

『猿飛さん、どうなさいましたか?』

 

 非常に聞き取りやすいアナウンサーのような落ち着いた声が返ってくるので、ジャンヌがいたら替わってほしいと言うと、ものの数秒で久しぶりのジャンヌさんの声が聞こえてくる。

 

『何か用なのか? いや、何故お前が中空知経由で私に連絡してくるのかという疑問から解決するべきか』

 

「そんなことはどうでもいいんだ。悪いんだが理子が今どこで何してるかわからないか? あいつと連絡がつかない」

 

『理子? ノン。私も帰ってきたのは今朝方だからな。今日は顔も見ていない。だが、理子に何かあったとすれば、それは十中八九ヒルダが関わっているはず』

 

「それはわかってる。だから……」

 

 と、ジャンヌの言葉に返そうとした時に寮の外へ出たら、出入り口に1台のオープンカーが停まっていて、その車体に腰かける日本人形のような黒髪の女がキセルをくわえながらオレを見ていたので、言葉を区切る。夾竹桃だ。

 

「悪いなジャンヌ。新しい情報源ができた。そっちでも探してくれるとありがたい」

 

 このタイミングで普段全く接点のない夾竹桃が明確にオレに用がありそうな雰囲気。

 理子と関係があるかは確信がないが、重要な案件なのはわかる。

 ジャンヌの返事も聞かないで通話を切ったが、オレが何か言わなくても勝手に動いてくれるはず。

 それで呑気にキセルを吹かす夾竹桃に近付く。

 

「どんなご用件で?」

 

「ずいぶんと落ち着いてるのね。理子が見つからなくて内心穏やかじゃないでしょうに」

 

「察してくれてるなら情報をくれ。見合うだけの報酬は払う」

 

「そうね。私としてもこのままアシが減るのをただ指をくわえてるっていうのは嫌。とりあえず乗りなさい」

 

 そう言って夾竹桃は腰かけていたドアの内側へ足を入れて運転席に収まると、キセルを置いてハンドルを握るので、時間が惜しいのだと判断したオレは何も言わずに隣の助手席に飛び乗ると、シートベルトをするのも待たずに車は発進。

 目的地は不明だが、学園島からは出るようだ。

 

「昨日の朝だったわ。理子が私のところに来て何かを言おうとして、結局なにも言わないで漫画のアシをやって帰ったの。それで気になって動いてみたら、ヒルダがこっちに来てるのよね。あれが理子にとってブラドと同じくらいトラウマなのは話で聞いてる」

 

「それで何で夾竹桃を頼ろうとしたんだ?」

 

「私が『何の専門か』を考えればわかって当然でしょ。それよりもあなたよ。あなたがいればこうなる前にどうにでもなったかもしれないのに、使えない男。理子の男ならちゃんと見てやりなさい」

 

「別に彼女じゃないが、迂闊だったことは認める。それでどこに向かってる?」

 

「気付かれてないのか、気付いてて放置してるのかは知らないけど、私のところに来た時に発信器を忍ばせておいたのよ。そういうのに抜かりがないあの子だから、きっと気付いてて放置かしら。つまり誰かに気付いてほしいのね。今の自分の状況に。でも面立って助けを求められない。大方トラウマのせいでヒルダに抗う意志が持てないのでしょう。『囚われのお姫様』とでも言えば、あなたは燃える質?」

 

 この状況で淡々と話しながら運転する夾竹桃にもうちょっと急げと言いたかったが、気持ちが前に出ると判断力が落ちるため、それを腹に落として今の理子の状況を理解。

 そんな時にオレは何もしてやれなかったとわかると、自分自身に腹が立つ。

 夾竹桃の運転する車は台場を出て墨田区へと突入。

 途中からオレが発信器の示す場所を見ていたのだが、それが示す場所は一向に動こうとしていないところを見るに、理子はそこから移動していない。

 しかも示す場所はこの墨田区で、いや、いずれは世界で一番高くなる電波塔を指している。

 そうして辿り着いた東京スカイツリーの真下で車を降りたオレは、首が痛くなるくらいに高くそびえるスカイツリーの天辺を見ながら、これでまだ7割の完成度とは思えなかった。

 

「待ちなさい」

 

 それでここに理子と、おそらくはヒルダもいるとわかっているため、いつかのブラドと対峙した時を思い出して覚悟を決めて歩き出そうとしたところで、夾竹桃がオレを呼び止めて急に何かを投げ渡してくるのでそれを受け取るが、プラスチック性の小型の試験管みたいなケースで、中には粉末状の何か。

 

「これは?」

 

「野暮なものよ。必要かどうかはあなたの出来次第だけど、使うタイミングと方法くらいは教えましょう。ただしそれを使ったら、あなたのこれからの日々は私のアシで埋まることになるわ」

 

 アシって漫画のアシスタントだよな……

 お金とかを要求されるよりはマシと考えていいのかはわからないが、それに了承してから話を聞いて改めて東京スカイツリー。その建設現場へと足を踏み入れる。

 一応は不法侵入なので、監視網には引っ掛からないように進むが、500メートル近い建物を足で登るのはしんどすぎるので、先にあった作業用エレベーターを使って上を目指す。

 辿り着いたエレベーターは、夜は作業などしていないはずなのに動力が入って動いていて、しかも上から降りてきたので、確実に誰かが使っている。

 それが確認できたオレは、エレベーターに乗り込んで上へと登り、1度では登りきれないエレベーターをいくつか乗り継いでいくが、その途中でいきなりエレベーターが停止。

 何事かと下を見れば、周囲の街の明かりが消えていて、携帯を取り出すと電波障害のなんたらと出て、停電したことを理解する。

 何もこんな時に停電しなくてもいいだろとは思うが、この周辺の街だけが停電してるのには少し疑問がある。断線というには1ヶ所では収まらない規模だし。

 しかしどうすることも出来ないので待つこと数分。無事に復活したエレベーターは再び上昇を始めて、地上350メートルの高さに位置する第1展望台へと到達。

 工事中のためまだ床をコンクリートで固めた程度で吹き抜け状態。間違って落ちでもしたら確実に死ぬだろうな。

 ここからオレも警戒して周囲をうかがうが、人の気配はない。

 それならばさらに上の第2展望台に確実に誰かいる。少なくとも理子はほぼいるだろう。

 それで上への道を探して、エレベーターと階段を使って気配を殺しながら地上450メートルに位置する第2展望台の目前まで到達。

 しかしそこでオレは1度立ち止まり姿を隠す。人の気配がするのだ。しかも複数。

 音を聞けばチェーンソーの駆動音がするのは嫌な感じだが、耳を澄ませば話し声も聞こえてくる。

 女、おそらくはヒルダの声と、聞き間違えるはずがない、理子の声。

 

「――アリアは緋弾の希少な適応者だ。殺したら『緋色の研究』が上位に進めなくなるぞ」

 

 その声に状況は理解すべきと考えて第2展望台を覗き込めば、北側の方に固まって4人いるのが確認できた。

 駆動するチェーンソーを持つヒルダ。そのヒルダを止めるような形でチェーンソーに手を持っていっている理子。その足下に上着をめくり上げられて下着姿を披露する動けないアリアに、同じく動けずにうつ伏せで倒れるキンジ。

 ようキンジ。どうやら行く先は同じだったみたいだな。

 見ただけだと状況こそさっぱりだが、理子の言葉からなんとなくあのチェーンソーでアリアが何をされそうだったかは理解できる。理子が自由に動けてるところを見ると、ヒルダとは協力関係にでもなっているのか。

 

「この――無礼者ッ!」

 

 バチンッ!

 しかしその理子はヒルダが放ったのだろう金色の電光によって倒れてしまい、その背をピンヒールで刺すように踏みつけられる。

 そして持っていたチェーンソーを投げ捨ててしまったヒルダは、ヒステリーでも起こしたのか、理子に対して激昂。

 

「理子! お前……見ていて分からなかったの? 私は今、一番いいところだったのよ! せっかく……せっかく、もう少しで上り詰めようとしていた所なのに――お前のせいで、台無しだわ!」

 

「ア……アリアには、まだ利用価値がある! 殺すな……!」

 

「『アリアを殺すな』……ですって……? お前、私に忠誠を誓ったのではなかったの? そう。そうなの。また裏切るつもりなのね?」

 

 抵抗を見せない理子を踏みつける力を強くして言い放つヒルダは、忠誠などという言葉を使っていたが、オレから見ればあんなの言葉だけ繕っている支配だ。

 ブラドと同じで理子を下等生物として見て従わせてるだけに過ぎない。

 

「理子。私は今夜、お前を試すつもりでいたのよ。アリアとトオヤマを見殺しにできるかどうか……でも、お前はそれに失敗した。ということは、またバスカービルに戻るつもりなのかしら? んん? ええッ?」

 

 ぐりッぐりッ。

 何度もピンヒールを抉るように動かして話すヒルダに沸々と怒りが込み上げてくるが、ここまでされて何もしない理子が痛々しい。

 それほどまでにヒルダは理子にとって抗えない存在なのだろう。

 

「理子。やはりお前は私の下僕に相応しくないわ。ペットに格下げよ。一生、私の部屋で玩具(おもちゃ)にしてあげるわ。首輪をつけて愛玩してあげる。こうやって……こうやって、ねッ! もし次、私に逆らったら――そのイヤリングを弾いて、殺してやるからッ!」

 

 そんな無抵抗の理子を何度も踏みつけながら、ようやく足をどけたヒルダだが、話に出たイヤリングが先ほど夾竹桃が言っていたことと繋がるものだと確信。

 遠くて現物を確認できないが、それがさらに理子を抵抗できなくしている原因なのは間違いない。

 

「――理子。私に謝罪なさい。ううん、今のは謝るだけではダメ。この靴に口づけして、永遠の忠誠を誓うのよ。お前はもう、私のものとして生きる道しかないのだからね」

 

 言いながら理子の顔に自らのピンヒールを近付けるヒルダに、理子はほぼ無抵抗でゆっくりとその靴に触れると、言われた通りに口づけするために唇を近付けるが、その目にはいつかのブラドに捕まった時と同じ涙がこぼれ落ちていた。

 ――助けて――

 そんな言葉が、実際に聞こえたわけではなかった。

 だがオレは、そんな理子を見た瞬間、状況とか何もかもを頭の外へと追いやってその場から駆け出していた。

 今、頭の中にあるのはただ1つ。

 ――理子を、助ける!――

 込み上げてきた怒りの感情とは裏腹に、音もなく第2展望台に突入したオレは、ヒルダ達の近くにあった柩のようなものにクナイを投げてぶつけて意識を一瞬そちらへ向け、全員がそちらを向いた時にはもう、ヒルダの真後ろにまで接近に成功。

 そこから気付かれるより早く人間に放ったこともないほどの威力の回し蹴りでヒルダを吹き飛ばし、その時に腕の骨が折れたような感触があったが、相手は吸血鬼だ。どうせすぐに再生する。

 そしてヒルダと入れ替わる形で理子の正面に立ったオレを理子が涙を溜めた顔で見上げてきたので、短い息を吐いてから口を開いた。

 

「会いたいって言うから会いに来たんだが、迷惑だったか?」

 

「…………ばか……」

 

 返ってきた言葉は意外だったが、その時に浮かべたわずかな安堵の顔はオレに来てよかったのだと教えてくれる。

 そんな理子の前で屈み、頭を優しく撫でながら目に溜まる涙を拭ってやり、その時に右耳につけられていた不気味なコウモリを模したイヤリングも確認。

 そこまでで吹き飛ばしたヒルダが動く気配を感じたのでそちらに意識を向ける。

 

「サルトビ……何故お前がここに来れる?」

 

 折れた腕を庇うような形で立つヒルダは、オレがこの場に来たことに相当な疑問があるようで、睨み付けるような目でオレを見るが、オレはそれに答えない。

 

「……お前は呑気に金稼ぎしていたと聞いていたけど……そう。あなたが呼んだのね理子。酷い女。目の前で最愛の男が殺されるのを見たいだなんて。サルトビもそんな女を助けるなんて愚かとしか言いようがないわ」

 

 オレのシカトにムッとしたヒルダだが、オレの事情は情報として持っていたようで、その情報を持ってきただろう理子をすぐに疑って汚い言葉をぶつけてくる。

 そして完全に治った腕を庇うのをやめてコウモリのような翼を広げて跳躍し、近くにあったキンジの名前が彫られた悪趣味な棺桶の上に降り立つ。

 

「理子はアリアの命乞いをして、私を裏切った。つい先日にはイヤリングを付けられて、私に忠誠を誓ったにも拘わらずにね。その前はバスカービルの一員、その前はイ・ウー、その前はお父様の飼い犬――そいつは昼と夜を行ったり来たり。本当に無様で、見苦しい女だわ」

 

「ああ……もう喋るな」

 

 どこか楽しそうにベラベラと口を開くヒルダに、オレはトーンを落とした声でそう言い放ちゆっくりと立ち上がる。

 今オレは、ヒルダの声が聞こえるだけでかなりヤバイ。

 理子から笑顔を奪ったこいつを、許せそうにない。

 込み上げてくるのは純粋な怒りだが、それが面へ出るような爆発はしない。

 幸姉には絶対にやるなと泣きながらに言われたが、その怒りを腹の下へと押し戻し、あれを生物として扱わないように感情を殺し、沈める……深く……

 その時、最後に見た理子の顔がどうしようもなく切ない表情を浮かべた気がしたが、それももう気にならない。

 

「下等生物の分際で私に指図するなんて、どうしようもなく無礼な男……いったいどうやってなぶり殺してや……」

 

 そこから先の言葉は、オレが投げたクナイが開けた口の喉奥を突き刺したことで途切れる。

 続けて眼球にもクナイを打ち込んで視界と思考を奪い悶絶させ、その間に距離を詰めて顎下へ掌底を打ち込みクナイを噛ませることで歯を砕き、後ろへ倒れる体に逆らわずに足を刈ってくるんッ!

 宙で反転して顔が床を向いたところで後頭部の髪を掴んでそのまま叩きつけ刺さったままのクナイをさらに打ち込む。

 声にならない声でヒルダが喘ぐが、そんなのはオレの心に何の変化ももたらさず、掴んでいた髪を引っ張って持ち上げると、グチャグチャの血まみれの顔が視界に入るが、そこから刺さっていた3本のクナイを片手で抜いて素早く髪から喉元へ持つ場所を変え、目一杯の握力で首を絞めながら床へと叩きつけて馬乗り。

 漆黒のゴスロリ服の下から見える両の太ももの魔臟の位置を示す印の中心に持っていた2本のクナイを刺して、残りの1本を喉元へと突きつける。

 

「理子のイヤリングを外せ。爆発させることなく、無傷でな」

 

「……サ……ル……ト……ビぃ……」

 

 抑揚のない声でオレがそう言えば、すでに顔の再生が始まったヒルダは憎々しげにオレの名前を呼びながらも、その口角を釣り上げたのでためらいなく突きつけていたクナイを一閃。喉を切り裂く。

 しかしそこでヒルダの雰囲気が変化したのを感じて、持っていたクナイを額に突き刺してから飛び上がるようなバック転で離れて、その際にちょっと細工を施しておくが、離れたのとほぼ同時に倒れるヒルダの周りにパチパチと断続的な目に見える電気が発生。

 

「サルトビ……お前はもう、五体を1つずつちぎり取って、塵も残さないで焼き尽くしてやる……地を這うことしか出来ない弱者が、圧倒的強者に牙を向いたこと、いたぶられて良い声で鳴きながら後悔なさい」

 

 その電気もヒルダが立ち上がった時には収まって、不気味な煙をあげながら再生した顔をオレに向けて額のクナイを抜き取り、両の太もものクナイも抜いて投げてしまう。

 続けて背中の翼を広げて大きく跳躍したのだが、その高さは3メートルを越える。

 しかし滞空することは出来ないのか、跳躍が最高点に至るとそこからは降下が始まるが、そんな着地を悠長に待ってやるほど優しくないんだよ。

 優雅な跳躍をしたヒルダだが、オレは離れる直前に足首に巻き付けておいた2本のワイヤーを手で思いっきり引っ張りヒルダの体勢を崩し、すかさずクナイを翼のなるべく根元へと投げてその機能を奪う。

 おそらくオレへの怒りと蜘蛛の巣状のタイツの上から巻き付けたことで気付かなかったヒルダは、突然自分を襲った力に思わず翼に意識を持っていき、その翼を傷つけられたことで一直線に床へと落下。

 その落下地点で右足の蹴りを腹へとお見舞いし、吹き飛ぶのをワイヤーで強引に止めて引き戻しその髪を掴んで顔を合わせる。

 

「もう1度言う。理子につけたイヤリングを外せ」

 

「ふふっ……ふふふっ……」

 

 そんなオレの命令に対して、何がおかしいのか突然笑い始めたヒルダは、その赤い瞳でオレをまっすぐに見て口を開いた。

 

「あなたは私と『同類』よ」


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