幸帆と羽鳥の武偵高への転入から一段落した9月30日。
キンジ達もチーム登録最終日、23日の
レキはあのエクスプレスジャックの後から直前申請までの間、ずっと京都にいたらしく、その時間を療養に当てていたとか。
そんなレキと直前申請後に1度顔を合わせたが、以前と変わったような、そうでないような、つまりよくわからないレキだったが、ただオレに一言「ありがとうございました」と言ってきた時の表情は、少しだけ感情がこもっていた気がした。
しかし良いことばかり起きるはずもなく、新しく同居人となった羽鳥は、転入してから毎日のように小鳥を口説くし、夕飯までの時間に女子生徒を部屋に連れて来ることもあって、オレが部屋で落ち着かないことが増えた。
そんな日は夕飯までの時間を外で過ごすようにし始めたオレは、今まで以上に煌牙に小鳥のガードを強化するよう指示しておき、つい先日に情報科を履修することを決めた幸帆の住む第3女子寮を第2の拠点として入り浸り始めていた。
ここにはジャンヌと中空知が一緒の部屋で住んでいるから、チーム間での連携もそれなりに取れるため、結果的にプラスになってるのは喜ばしいことだが、オレの部屋と逆で男子が敬遠される場所。あまり長く入り浸るわけにもいかない。
そんなわけで今日も羽鳥のやつが部屋に救護科の女子を2人連れ込むということをジャンヌから聞いていたオレは、放課後まっすぐに幸帆の部屋へと向かって現在くつろぎ中。
女子寮は個室率が高いので、幸帆の部屋には同居人がいない。
それが少し寂しいらしいが、そこは週に2回ほどオレの部屋に泊まりに来ることでまぎらわせるらしい。
そうでなくてもクラスメートから人気もあるらしく、寮生同士でお泊まり会なども予定してるとか。まぁ仲良くやれているなら何よりだ。
「失礼する、幸帆」
それでリビングのソファーで幸帆とまったりくつろいでいると、突然チャイムもなしでジャンヌが来訪してきて、隣にいた幸帆が有り得ない挙動でソファーから飛び上がって対応。
「ジャ、ジャンヌ先輩! 入るならチャイムくらいは……」
「む、猿飛もいるからくつろいでいると読んでいたが、何か問題があったか? だとしたらすまない。次からは配慮しよう」
「べ、別に問題はないですけど……もう! お茶淹れてきます!」
何故か言葉を濁した幸帆は、少し怒りながらキッチンの方に引っ込んでしまい、その様子をはて? と思いつつもジャンヌがオレの近くのソファーに座って用件を述べる。って、オレに用かよ。
「猿飛、今夜0時に『
「……いや、今夜は別に問題ないからいいけどさ、宣戦会議ってなに?」
「ふむ、何と聞かれると、ここには幸帆もいるからな、滅多な言葉では言えないが、要は『開会式』だ」
開会式って……運動会でも始まるのか?
とは思ったが、ジャンヌが言葉を選ぶということは、おそらくイ・ウーやそれ関連の物騒な話なのだろう。
「あ! 忘れてました!」
ジャンヌの説明に難しい顔をしていたオレは、お茶を淹れてきた幸帆のそんな声に振り向くと、幸帆はジャンヌにお茶を渡してから、パタパタと自室へと入っていき、すぐに戻ってくると、オレに2つ折りされたメモと封のしてある白封筒を渡してきた。
「あの、姉上から京様に渡すように言われていたものです。なにぶん慌てて出てきたもので、今日まで忘れてましたけど、宣戦会議と聞いて9月中に渡すように言われたことを思い出して……すみません!」
そうやってペコペコ頭を下げてくる幸帆をとりあえず落ち着かせて、渡されたメモを開くとそこには「この手紙を宣戦会議で藍幇の大使に渡しておいて。わからなかったらジャンヌに聞くべし! よろしく!」と可愛らしいフォントで書かれていたが、内容が危険臭漂いまくっている。
そのメモをジャンヌに渡すと、ジャンヌはふむと1拍考えてから話をした。
「これで行かない理由もなくなったわけだ。しっかり任された仕事をこなせ。移動手段は私が準備する。待ち合わせ時間はあとでメールしておくから必ず来い。それから武装を忘れるなよ」
そうしてスラスラと事務的に述べたジャンヌは、それで幸帆が淹れたお茶をグビッと飲み干して部屋から出ていき、それだけのためにここに来たのかとオレも幸帆も顔を見合って目をパチクリさせたのだった。
幸姉に頼まれては仕方ない。
そう思い込むことでジャンヌとの約束通りの時間。
夜11時30分にレインボーブリッジ寄りの学園島の端。そこに行ってみると、そこにはいつかの地下倉庫での戦いで着ていたものより重装の西洋甲冑と聖剣デュランダルを装備したジャンヌが、海に小型のモーターボートを浮かべて待っていた。
「時間もない。早く乗れ。操縦もしてもらうぞ。行き先は空き地島の南端、曲がった風車の下だ」
「了解。それよりジャンヌ。そんな重装備だけど、まさか派手なドンパチが起こったりしないよな?」
「保証はない。もしそうなった場合は、迷わず逃げろ」
じゃあ今逃げます。とは言えないか。
オレの内心を知らないジャンヌは、言ったあとモーターボートの上に乗って早くしろと促してきたので、この場での逃走を諦めてボートに乗り込み、ジャンヌの指示通りにボートを動かしていった。
レインボーブリッジを潜って辿り着いた空き地島の4月のハイジャックでキンジが飛行機をぶつけて曲がった風車の下には、さっきまでなかった濃霧が立ち込めており、まるでこの辺一帯を覆い隠すように発生していることから、何か人工的なものを感じていた。
そしてジャンヌは辿り着いたその場でデュランダルをザンッ!
地面に突き刺して、その柄頭に両手を添えて立って見せた。
「京夜さん。あなたも来たのですか」
ジャンヌの様子に気を取られていると、不意に風車のプロペラの上から声がして、そこを向くとプロペラに腰掛けたレキの姿があった。
いや、レキだけじゃない。
今まで警戒レベルをだいぶ落としていたから気付かなかったが、気配を探ればこの場にいくつかの気配があった。
中には殺気のようなものを放つ気配もある。
「ふんふん。おお! 誰かと思えば真田の娘についとったガキか」
そうして警戒レベルを上げた矢先、足下からそんな声がしてそちらを見ると、そこには藍色の和服を着たアリアより小柄な女の子がいて、その切れ長の目と長いキツネ色の髪。そして頭には2本のキツネ耳が。
「玉藻……様?」
「如何にも。しかし猿飛の。お主はいい匂いがするのぅ。以前はそんなこともなかった気がするがの」
子供のような見た目のこの玉藻という子は、オレが9歳の時。幸姉が12歳の時に1度だけ会ったことがある、正真正銘の『化生』、天狐の妖怪である。
他に『伏見』という同類にも京都で会っているが、あの頃はオレもガキだったからな。話半分で『変な人』という括りで納得していた。
「いい匂いって、動物に好かれるような匂いですかね?」
「これ! 儂を動物と同類にするでない! しかしまぁ、動物に好かれるような匂いというのは的を射てるの」
2度目の顔合わせということもあり、どう接したものかと考えながら、とりあえず丁寧語にはしてみたが、端から見たら子供に対して頭が低い高校生の図だ。嫌だなぁ。
しかしそれで気を緩めるわけにもいかない。
周りにはひと癖もふた癖もありそうなやつらがいる。こうしてオレと普通に話す玉藻様の強心臓が羨ましい。
現に姿の見えるジャンヌもレキも一切の気の緩みを感じない。
「む、来たようじゃな」
そこで話をしていた玉藻様が何かを察して後ろを向くので、オレもそちらに目を向けると、そこから霧を抜けてキンジが姿を現した。
「なんだ、猿飛もジャンヌに呼び出されたのか?」
「個人的な用件もあるんだよ。半ば強制だったけど」
猿飛もときたか。
どうやらキンジもこの場に来ることを決められていた感がある。
オレと同じでこれから何が起こるのか知らない雰囲気も醸し出している。
「――まもなく0時です」
そんなキンジの様子を確認し終えた頃に、不意にレキが時報のように声を発した。
――パッ――
そしてその時刻が0時を告げた瞬間。
曲がり風車を大きく円形に囲むように、複数のライトが灯り、その光の中にいくつかの人影が霧の中に浮かんだ。
その影の姿形は、人影ばかりではない。明らかに巨大メカと思われる影や、魔女っぽいシルエット、何やらクネクネと体を動かすピエロのようなやつ。
様々な影があるが、そのどれもが危険だと本能が警鐘を鳴らす。
しかし臆せばこの場ではたちまち潰されてしまう。腹、括るしかないか。
「――先日は
オレが大きな息を飲んだあと、その影の1つが1歩前へ出てオレ達にお辞儀をしてきた。
そいつは眞弓さんみたいな細い目に張り付いたような笑顔と丸メガネをかけて、中国の民族衣装を着た男だった。
なるほど。あれが藍幇の大使か。
続いてそいつの近くの地面で、ゾゾゾ、と黒い影がうごめいているのが見え、その影はズズズ、と人の形を成して地面から起き上がった。
「お前達がリュパン4世と共に、お父様を斃した男か。信じがたいわね」
這い上がってきた影は、白と黒を基調としたゴシック&ロリータ衣装に身を包んだ金髪ツインテールの少女で、手には夜なのにフリル付きの日傘が持たれていて、その背にはコウモリのような形の大きな翼が生えていた。
他にもデカイ十字架のような大剣を背負った白い法衣を着たシスターもいて、1人1人がリアクションに困らない存在感を放っていた。
その傍らで、玉藻様が動揺するキンジに近寄ってなだめるが、次に現れたのは、きら、きら、と砂金を舞い上がらせて登場を演出してきた、
それで今まで黙っていたジャンヌが、役者は揃ったとでも言わんばかりに一同を見回して語り出した。
「では始めようか。各地の機関・結社・組織の大使達よ。宣戦会議――イ・ウー崩壊後、求めるものを巡り、戦い、奪い合う我々の世が――
そんなジャンヌの声にこの場にいる全員がピリッとした気配を発したので、先程よりも警戒を強める。
「まずはイ・ウー
…………ああ。これがシャーロックと幸姉の言っていた『これから』か。
おそらくここにいるやつらは、闇の組織や表舞台に立たない集まりの代表。
そしてこれから宣誓みたいなことをやるわけだ。案外律儀なんだな。
「――皆さん。あの戦乱の時代に戻らない道はないのですか」
オレがこの集まりの目的について気付き始めた時、先ほど確認できたシスターが1歩前へ出てオレ達に語りかけてきた。
霧から現れたシスターは、ふんわりした長いブロンドの髪と青い瞳に長いまつ毛、泣きボクロが印象的だった。
顔以外はほとんど金糸の刺繍を施した純白のローブに包まれているが、その体は結構グラマーだ。
「バチカンはイ・ウーを必要悪として許容しておりました。高い戦力を有するイ・ウーがどの組織と同盟するか最後まで沈黙を守り続けた事で、誰もが『イ・ウーの加勢を得た敵』を恐れてお互い手出しができず……結果として、長きに渡る休戦を実現できたのです。その尊い平和を、保ちたいとは思いませんか。私はバチカンが戦乱を望まぬことを伝えに、今夜、ここへ参ったのです。平和の体験に学び、皆さんの英知を以て和平を成し、無益な争いを避ける事は――」
「――できるワケねェだろ、メーヤ。この偽善者が」
メーヤと呼ばれたシスターのそんな言葉に割り込みをかけたのは、黒のローブにトンガリ帽子の右目に眼帯をしたおかっぱ頭の見るからに魔女な少女だった。
「おめェら、ちっとも休戦してなかったろーが。デュッセルドルフじゃアタシの使い魔を襲いやがったくせに。平和だァ? どの口がほざきやがる」
「黙りなさいカツェ=グラッセ。汚らわしい不快害虫。お前たち魔性の者共は別です。存在そのものが地上の害悪。殲滅し、絶滅させることに何の躊躇いもありません。生存させておく理由が
カツェ=グラッセと呼んだ魔女の反論に、急に人が変わったようになったメーヤは、物凄い剣幕で言い寄って、カツェのその首を絞めた。
シスター……なんだよな……
「ぎゃははは! おゥよ戦争だ! 待ちに待った
しかし首を絞められ吊り上げられてるカツェは、それをものともしない笑いで揚々と語り、今度は先程オレ達に話しかけてきたコウモリ女に話しかけた。
「そうねぇ。私も戦争、大好きよ。いい血が飲み放題になるし」
「ヒルダ……1度首を落としてやったのに、あなたもしぶとい女ですね」
ヒルダと呼ばれた女がカツェに対してそう返すと、またもメーヤがそんな物騒なことを言い出すので、オレもキンジも呆れてしまう。
「――首を落としたぐらいで
敵意むき出しのメーヤに対して、ほほほっ、と指を口にあてがい笑いながらに語るヒルダ。
そのヒルダを改めてよく見たオレは、腿までの丈のドレスと、その下に履くニーソックスの間の絶対領域から見える素肌に、白いイレズミのような模様を発見。それに見覚えがある。
あれはブラドの弱点に刻まれていた模様と同じものだ。
ということは、あの女も吸血鬼か。
しかもさっきの発言からして、ブラドの娘の可能性がある。吸血鬼って子孫を作れるんだな。
「和平、と仰いましたが――メーヤさん?」
ヒルダに続いて声を発したのは、藍幇の大使のメガネ男。
男はこの場の空気などものともしない笑顔で淡々と語り出す。
「それは、非現実的というものでしょう。元々我々には
そう話す藍幇の大使は、プロペラに腰掛けていたレキを見るが、レキは動かない。
「――私も、できれば戦いたくはない」
そんな思い思いの言葉を聞いたジャンヌが、また一同を見回しつつ話を進める。
「しかし、いつかこの時が来る事は前から分かっていた事だ。シャーロックの
ジャンヌの言葉により、皆がその運命を受け入れたような表情を浮かべると、話はいよいよ本題へ。
今までのは前戯。大使同士がじゃれ合ったに過ぎない。そういうことらしい。
「では、古の作法に則り、まずは3つの協定を復唱する。86年前の宣戦会議ではフランス語だったそうだが、今回は私が日本語に翻訳した事を容赦頂きたい。
第1項。いつ何時、誰が誰に挑戦することも許される。戦いは決闘に準ずるものとするが、不意打ち、闇討ち、密偵、奇術の使用、侮辱は許される。
第2項。際限無き殺戮を避けるため、決闘に値せぬ雑兵の戦用を禁ずる。これは第1項より優先される。
第3項。戦いは主に『
それぞれの組織がどちらの連盟に属するかはこの場での宣言によって定めるが、黙秘・無所属も許される。宣言後の鞍替えは禁じないが、誇り高き各位によりそれに応じた扱いをされる事を心得よ」
今のジャンヌの言葉を要約すればこうだ。
各組織が師団・眷属・無所属を宣言し、その組織の中心戦力をぶつけて戦う。
その際に数でものを言わせるような戦いは認めない。
師団から眷属へ。また眷属から師団への組織の移動も有り。
しかしそれ相応の対応はされる。無所属もまた然り。といった感じか。
「続けて連盟の宣言を募るが……まず、私達イ・ウー研鑽派残党は師団となる事を宣言させてもらう。バチカンの聖女・メーヤは師団。魔女連隊のカツェ・グラッセ、それと竜悴公姫・ヒルダは眷属。よもや鞍替えは無いな?」
ルール説明を終えたジャンヌは、続けて連盟の宣言に移り、先程のやり取りからメーヤやカツェ、ヒルダを勝手に分けて各々の表情を確認。
「ああ……神様。再び剣を取る私を、お赦し下さい――はい。バチカンは元よりこの汚らわしい眷属共を伐つ師団。
「ああ。アタシも当然眷属だ。メーヤと仲間になんてなれるもんかよ」
「聞くまでもないでしょうジャンヌ。私は生まれながらにして闇の眷属――眷属よ。玉藻、あなたもそうでしょう?」
メーヤ、カツェ、ヒルダと宣言に相違ないことを述べると、ヒルダは次にキンジの隣にいた玉藻様を名指しして尋ねる。
その玉藻様は1歩前へ出てヒルダへと向き答えた。
「すまんのぅヒルダ。儂は今回、師団じゃ。未だ
師団に属すると答えた玉藻様は、今度は近所のガキを呼ぶような気軽さでパトラに話しかけて師団に属するように言う。
「タマモ。かつて先祖が教わった諸々の事、妾は感謝しておるがのぅ。イ・ウー研鑽派の優等生どもには私怨もある。今回、イ・ウー主戦派は眷属ぢゃ。あー……お前はどうするのぢゃ。カナ」
「創世記41章11――『同じ夜に私達はそれぞれ夢を見たが、そのどちらにも意味が隠されていた』――私は個人でここに来たけれど、そうね。無所属とさせてもらうわ」
次々と連盟宣言が成されていく中、カナ。金一さんだけが初めて無所属を宣言。
それにはパトラが残念そうにしていた。
しかし金一さんは何でこの戦いに参加する意志を見せた?
まさかまた幸姉が絡んでやこないだろうな。勘弁してくれよ。
「ジャンヌ。リバティー・メイソンも無所属だ。しばらく様子を見させてもらう」
金一さんに便乗する形で口を開いたのは、リバティー・メイソンの大使であるトレンチコートを着た男。
霧が濃くて姿ははっきりしないが、あれも難敵であることに変わりはない。
「――LOO――」
次にそんなルウーという発声? をしたのは、3メートルはある巨大メカ。
その体には様々な重武装が施されていて、オレの知識では全てを把握はできないが、人間が生身で勝てるような兵器ではない。
そいつはそのあともルウー、ルウーと何かを喋っているようだったが、誰も理解できないので、ジャンヌが『黙秘』と判断し、それでルウーとひと声出したそいつはそれ以降黙った。
「――ハビ――眷属!」
そうして唐突に宣言したのは、10歳ぐらいに見えるトラジマ模様の毛皮を着た少女だったが、その少女は自分より大きな斧を軽々と片手で持ち上げてみせてから、それを地面に降ろすと、ずしんっ! と圧倒的な重量感を足に伝えてきた。
よく見ればバサバサの髪、跳ね上がった前髪の下に2本のツノが見えていた。これも人間じゃないのね。
「遠山。バスカービルはどっちに付くのだ」
「な、何だ。何で俺に振るんだよ、ジャンヌ」
この場にいる約半数が宣言を終えた辺りに、ジャンヌがここにいる理由が見えなかったキンジに宣言を促す。
バスカービルは組織ではないが。
「お前は、シャーロックを倒した張本人だろう」
「い、いや。あれはどっちかっつーと流れで……アリアを助けに行ったら、たまたまシャーロックがいたっていうか……」
「まだ分からないのか? この宣戦会議にはお前の一味、そのリーダーの連盟宣言が不可欠だ。お前はイ・ウーを壊滅させ、私達を再び戦わせる口火を切ったのだからな」
そこでキンジもあれやこれやとジャンヌに抗議をするが、ジャンヌは全く取り合わずにどちらにつくかを問う。
その様子に見かねたヒルダが割って入った。
「
そりゃどうも。
そんな意味も込めてオレがヒルダを睨むと、その視線をものともせずに話を続ける。
「聞くまでもないでしょう? 遠山キンジ。お前たちは師団。それしかありえないわ。お前は眷属の偉大なる古豪、
「――それでは、ウルスが師団に付く事を代理宣言させてもらいます」
ヒルダの言葉でキンジが師団に付いたとみなされた瞬間、レキが間髪入れずに師団に付く事を宣言。
レキ自身もバスカービルの一員だから当然の流れか。
「藍幇の大使、
レキの宣言を聞いて眷属入りを宣言したのは、諸葛静幻と名乗った藍幇の大使。
レキのみならず何故かオレも敵対されたし。
こっちは何もしてこなきゃ何もしないっつの。身勝手だな。
だがこれで宣言を終えていないのは、終始音楽プレーヤーで音楽を聴いていたピエロのような男。
そいつは今までつけていたイヤホンと音楽プレーヤーを足元に捨てて初めて口を開いた。
「チッ。美しくねェ。ケッ――バカバカしいぜ。強ぇヤツが集まるかと思って来てみりゃ、何だこりゃ。要は使いっ走りの集いってワケかよ。どいつもこいつも取るに足らねェ。ムダ足だったぜ」
「
「――関係ねぇなッ」
「……私達と同じ物を求め、奪い合う限り、いずれは戦う事になる。その際に師団か眷属に付いておけば、敵の数が減るのだ。私達は各々の組織の人数を明かしてはいないが、少なくともここの十余名のうち半数は敵に回さずに済む」
ジャンヌの丁寧な言葉も吐いて捨てたGⅢは、次は一番強いヤツを連れてきて、そいつを全殺しすると言ってから、文字通り、この場から消えた。
オレにもその原理はよくわからなかった。
しかしそれで全ての宣言が済んだことで、進行役のジャンヌが締めの言葉を紡いだ。
「最後に、この闘争は……宣戦会議の地域名を元に名付ける慣習に従い、『
と、解散ムードに変わると思って一瞬気を緩めた瞬間、怪しい笑みを浮かべたヒルダが最後まで聞かずに口を開いた。
「じゃあ、いいのね?」