緋弾のアリア~影の武偵~   作:ダブルマジック

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過去編~京の都の勇士達~
Reload1


 凶悪化する犯罪に対抗して新設された国家資格『武装探偵』、通称『武偵』を育成するための総合教育機関。

 その武偵を育成するための学校が日本全国に分布し、ここ関西の古都、京都にもずいぶん前に武偵高が建設された。

 しかし京都は歴史的に貴重な物が多いため、中心市内に建設するわけにもいかず、京都市北部の二軒茶屋の東側にある小高い山を土地として建設された。

 世間ではまだまだ武偵の扱いというものが良くない。

 それは警察とは違い金で雇えば武偵法の許す限りで何でもする『便利屋』としての側面を持つから。

 と、ここまで電車に揺られながら京都武偵高の入学パンフレットを読んでいたオレ、猿飛京夜、12歳。

 今年で13歳になる、本来ならば中学1年生のガキは現在、その京都武偵高に入学するため、3つ年上の姉のような人と一緒に初登校をしていた。

 

「ふふーん、ふふーん、ふっふふーん」

 

 その3つ年上の姉のような人、真田幸音は、ピッカピカの武偵高セーラー服を着て窓に映る自分の姿に上機嫌。

 電車内が比較的空いていることを良いことに、長い黒髪を揺らしてターン。何故か可愛くポーズまで決める。恥ずかしい。

 

「どう京夜。似合ってる?」

 

「家を出る前にも言ったはずですけど。よくお似合いですよって」

 

「こーらぁ! お父様のいないところでは敬語禁止令を発令したはずだけど」

 

「当主様がいようといまいと主従の関係は崩れません。オレも幸音様もいつまでも仲良しだけではいられませ……」

 

 ぶっすぅ!

 オレの家系は代々、真田信繁を先祖に持つ真田の人間を守るためにその身を捧げてきた。

 この間、オレが小学校を卒業するまでは何の気兼ねもなく普通に会話をしていたが、この進学を境にきっちりするように親から言われていた。

 だから幸姉に対して敬語を使ったのに、その幸姉は敬語で話す度に頬を膨らませていき、終いにはフグみたいになってしまう。メッチャ怒ってる。

 

「いいですよーだ! 京夜がそんな態度なら私もそれ相応の対応するんだから! 今から京夜が敬語を使う度にデコピンが容赦なく飛びます。おでこが真っ赤っかになる前にいつも通りになることをオススメしよう」

 

「それは勝手ですよ幸音さばっ!」

 

 怒った幸姉はいきなり敬語禁止ルールを発令して、それに対して抗議したら、早速デコピンが飛んできて言葉を切られる。

 くっそぅ、割と痛いぞこれ。

 こうなると幸姉は頑固だ。それに『今日の幸姉』はこの状況を半分くらい楽しむのもわかる。

 現にデコピンしたあとの幸姉は楽しそうに笑ってオレを見る。

 ……仕方ない。

 

「じゃあ家の外にいる間だけ。それが妥協案」

 

「バカもん。家でもお父様がいなきゃオッケーよ。私は京夜とは対等でありたいの」

 

「対等って……なんか最近それを妙に強調するよな。武偵高への編入だってホントに受験ギリギリのタイミングだったし」

 

「別に強調はしてないわよ」

 

 それなら別に言及することもないんだが。

 とまぁ、いつものように幸姉の強引な物運びにしてやられて、結局昔と変わらない話し方にされてしまって、やっと落ち着いた幸姉が隣に腰を下ろして話をしてくる。

 

「でも良かったよね。武偵高が実力主義の学校で。じゃなきゃ中坊の京夜じゃ一緒には通えなかったし」

 

「京都には中等部ないしな。インターン制度で引っ掛かれなきゃ今頃は別の電車に揺られてるよ」

 

「その辺は心配してなかったよ。だって京夜は強いもんね。そこらの同年代とは格が違うわよ」

 

「それでも世の中凄いやつで溢れてるだろ。それに幸姉の尺度は一般人との差だろ。基準からしておかしい」

 

「まぁまぁ、そんな謙遜しない。インターンで私と同じ学年にいられるってだけで実力は認められてるわけだし、暫定ランクも諜報科でAもらってるじゃん」

 

「幸姉だって期待値足してSSRでAだろ。1年でAランクは数えるくらいだって話だし、十分凄いだろ」

 

 などと互いに褒め合うオレ達。端から見たら変な感じだろうなきっと。

 いま話したように、京都武偵高には中等部がない。

 というのも、京都市に武偵高を建てるだけで色々と問題があったのと、生徒の大部分が関西最大の大阪武偵高に流れるため、中等部もそちらで生徒を集められてしまい、たとえ京都市内に中等部が建てられても、生徒が集まらないことが見えているのが実状らしい。

 だからなのか、京都武偵高の生徒数は1学年で100人程度。

 おそらく通学の利便性で中等部からこちらに流れる生徒と高校からの編入組でなんとか存在しているのが、今の京都武偵高。

 名古屋武偵女子高(ナゴジョ)のように生徒の8割が強襲科といった学科に偏りはないが、それでも狙撃科・尋問科・鑑識科・通信科・救護科・CVRの6学科は履修項目に存在しない。

 これだけで切羽詰まってる感はうかがえてしまう。

 武偵高にはインターン制度というものもあり、実力を認められれば中等部の学年であっても高等部で学んだりすることができる。

 オレは今回、入学試験。その実技試験において、同年齢の受験者と模擬戦をして完封。

 それならと現武偵高生徒と模擬戦をさせられてそれもほぼ完封。

 それを受けて教務科から太鼓判を押されて幸姉と同じ高校1年生からスタートとされていた。

 そうこう話していたら電車は二軒茶屋駅に停まり、オレも幸姉もそこで電車を降りて、そこから徒歩で武偵高へと向かい、この辺りになると他の生徒の姿もちらほらと見えてくる。

 地味に高い場所に建てられた京都武偵高の校舎は、登校時はちょっとしんどい。

 どうにも作為的なものを感じ、武偵ならこの程度問題ないだろと言われてるみたいで嫌だ。しんどいものはしんどい。

 その地味にしんどい坂を登って辿り着いた校舎は、一般の高校とさほど違いはなく、通う生徒さえ普通なら一般校で通せそうなものだ。

 その校舎の前、校門の辺りに朝早くにも関わらず護送車が停まっていて、どうやら朝の臨時ニュースで報道されていた強盗犯が捕まってきたらしい。

 ちょうど護送車からその犯人が出てきた辺りでオレと幸姉がそれを避けるように校門を潜ろうとした時、その犯人は何を思ったのか突然逃走を図り、護送していた武偵を振り払ってあろうことかこっちへ走り出した。

 なに考えてるんだか。

 

「京夜、お願いね」

 

 そんな逃走犯にチラッとしか目を向けなかった幸姉は、しかしオレにしっかりと命令してきて、そうくるだろうことは読めていたオレも言われるより早く懐から両端に分銅をつけたTNKワイヤーを取り出して投げ、逃走犯の両足を巻き付け転倒させた。その間2秒。

 端から見てオレがやったことは分かりにくいようにほとんど幸姉と同じく目だけそちらに向けてわずかな動作で行ったのだが、再び取り押さえられる犯人を挟んだ校門の端に、取り押さえられる犯人ではなく、明らかにこちらを見る視線があることに気付いたが、すぐにその視線も消えてしまい、それが誰のものかまでは特定できなかった。

 

「上出来上出来。さすが私の京夜ね」

 

「そりゃどうも。でも少しくらい危機感持ってくれた方が守る側としてはやりがいがあるんだけど」

 

「にゃるほど。あそこで『きゃー! こわーい! たすけてー!』って言っとけば、京夜に『大丈夫さ幸姉。オレがついてる!』とかって展開にできたわけね。惜しいことしたか……」

 

 この人ホントにアホなんだよなぁ。

 今日の幸姉に限ったことでもないけど、残念な考えしかできないっぽい。

 

「キャラじゃないことされてもシラけるよ。特に今日の幸姉は『フレンドリー』だからそういうの似合わない」

 

「だよねぇ。京夜的には『乙女』な私が一番好きなんだもんねぇ」

 

 ぬぐっ……否定しにくいところを。

 からかうようにニヤニヤする幸姉は、オレの反応を見て心底楽しんでいて、それをわかっていながらオレは期待通りの反応をしてしまっている。

 というかどんな反応をしてもこの人は楽しむから諦めているが正しいか。

 そんな感じで漫才みたいなことをしていたら校舎へと辿り着き、自分達の一般教科でのクラスを確認――同じA組だった――して教室へと足を進め、各々自分の席に着くが、真田と猿飛なので前後で席が隣り合ったため、早速幸姉が後ろを向いてホームルームまでの時間を潰しにかかってきた。

 この人は黙ってることができないのか。ああ、できない人だったなそういえば。

 この真田幸音という人物は、お世辞にも普通とは言えない性格をしている。

 『七変化』という日毎に性格がガラリと変わる特異体質……いや、体質というのは少しおかしいので、特異性質を持っている。

 これは幸姉が元々持ち得た性格を大雑把に7種類に分けて、それが日毎に顔を変えるようにされたもの。

 ちょうど幸姉が中学に上がる直前に、自称化生の玉藻と伏見という2人にかけられた強力な『呪い』の一種らしい。

 もちろん人間憎さにそんなものを幸姉にかけたわけではないことは聞いているが、そのおかげで幸姉は中学時代にずいぶん大変な思いをしたのを知っている。

 小中高一貫の学校にいなかったら、オレがそばにいてあげられなかったら、きっともっと大変な目に遭っていた。

 この呪いは術者の技量を上回る術で『祓う』ことが唯一の解呪方法なのだと言うが、本人曰く、解呪にはあと10年くらいかかりそうとのこと。

 そして今日の幸姉はオレ名義で『フレンドリー』。

 とにかく周りと仲良くするのに長けた性格で、若干アホっぽいのが特徴。それを演じているのか素なのかは不明。

 

「んお? なんやえらいちっさいのがおるな」

 

 そんなフレンドリーな幸姉と話をしていたら、教室の前のドアから入ってきた黒髪ショートカットの女子生徒が、鞄を右肩に担いだスタイルでオレを見て興味津々といった感じに目を丸くする。

 そしてその腰には武士のように大刀と小刀のふた振りを携えていた。

 

「見てみぃや愛菜。あれ絶対あたしらより年下やで」

 

 その女子生徒はケラケラと笑いながら今度は教室のドア付近にいるだろう生徒を手招きしてオレを指差す。

 そうして手招きされて教室に入ってきたのは、緩いウェーブのかかった金髪をした綺麗な女子生徒で、招いた女子生徒の指差す方向をすぐに向いてオレと目が合う。

 するとその女子生徒はみるみるその表情を明るくして、何やら最高潮に達したらしいテンションでオレに駆け寄っていきなり抱き締めてきた。

 く、苦しい……というかこの人胸おおき……

 

「ああーん! なんやこの子!? メッチャかわエエ! なんやの!? なんやの!?」

 

 こ、こっちがなんやのなんですけど!

 突然の事態に話をしていたあの幸姉でさえフリーズ。

 オレに至っては強力な抱擁……というかホールドによって胸に顔を押し付けられ、意識が飛ぶ5秒前。し、死ぬ……

 

「ちょ、ちょっとあなた! 京夜が窒息死するわよ!」

 

 その前にフリーズが解けた幸姉が注意してくれて、言われた女子生徒も我に返って顔色の悪いオレを見て慌てて解放。た、助かった。

 

「ご、ごめんな。君があんまりかわエエから自分を抑えられんで。許してや」

 

「い、いえ、大丈夫です……」

 

 すかさず謝罪してきた女子生徒なのだが、何故かオレの頭を撫でながらに謝ってくる。

 それはとりあえず無視して言葉を返すと、先程の黒髪女子生徒が近寄ってきてその女子生徒をポカッと殴る。

 

「いきなり何しとんねん。アンタがショタコンやったなんて初めて知ったわ」

 

「ちゃうって! 私はショタコンやない! なんやひと目見て『弟みたい』って思たらテンション上がってもうただけや!」

 

「なんやそれ? アンタに弟なんかおらへんやないか」

 

「だから『みたい』って言うとるやん! 千雨はアホやな」

 

 おいてけぼりとはこのことか。

 オレと幸姉は2人の言い合いをただ黙って聞くことしかできなく、呆然とそれが終わるのを待っていると、視線に気付いた2人がピタッと言い合いをやめてオレ達に向き直った。

 

「いやぁごめんな。これとは中等部の頃からの腐れ縁で、いっつもこんな感じやねん」

 

「これとはなんや千雨! じゃあアンタはそれやで!」

 

「これとそれってどこの漫才師やねん……もう終いや終い。それより自己紹介せなな。あたしは沖田千雨言うねん。強襲科やさかい、よろしゅう」

 

「仕切らんといてや千雨。私は愛菜・マッケンジー。アメリカ人とのハーフで強襲科やから、よろしゅうな」

 

「猿飛京夜。インターンの中1です。専門は諜報科。よろしく、です」

 

「真田幸音よ。専門はSSR。よろしくね」

 

 各々が自己紹介を終えて、1度場が落ち着くかと思ったら、実際はそうならず、2人はオレと幸姉の隣の席を借りて座り込んでしまい、そのまま会話が続く。

 

「なんや、SSRってオカルトな学科におんのやな。火とかポッと出せたりするんか?」

 

「出せない出せない。それにまだ自分自身で上手く制御できないのよ。それでここに編入してきた感じ」

 

「京夜やから京ちゃんやね。京ちゃん中1やのに私らと同じ学年って凄いやん! 2人とも中等部におらんかったなら、まだ誰が誰やようわからんやろ。私らは編入組以外なら顔見知りやさかい、困ったことあったら頼ってな」

 

「はい、ありがとうございます」

 

「なぁ愛菜。今年の編入組って1年やと何人やったっけ?」

 

「10人おらんかった思うで。このクラスも知ってる顔ばっかやしな」

 

 へぇ、編入組ってそんなに少ないのか。てっきり半分くらいはオレ達と同じなんだと思ってた。

 それを聞いて教室をよく見てみれば、確かに大抵の人達は親しそうに話していて、初対面のよそよそしさというものを感じない。

 彼らからしたらオレと幸姉はずいぶん新鮮に映っていたのだろうか。

 そのあとも話しっぱなしの愛菜さんと千雨さん。

 それに合わせるように幸姉まで口数がどんどん増えていき、気付けばオレは蚊帳の外……となる前にホームルームを告げるチャイムが鳴り、教室にいた他の生徒も続々と席に着いていく中、愛菜さんと千雨さんは「ここ私の席にするから」とほぼ同時に本来の席の生徒に言って、強引に席を交換。

 チャイムに構わず話し続け、他の生徒もそれを聞いて勝手に席替えを始めて、気付けば最初の席に座っているのはオレと幸姉くらいになってしまった。いいのだろうか。

 そして、いきなりの席替えのせいでガヤガヤとうるさい教室に入ってきたのは、なんだかダルそうな足取りで寝癖もピョンピョン跳ねてふらつく茶髪のセミロングをした赤ジャージ姿の女性教師。

 見るからにやる気も何もない。おまけに目も虚ろ。大丈夫か?

 

「はーい……今日からこのクラスの担任ってことらしい古館遊姫(ふるだてゆうき)でーす。担当は国語と探偵科。よろしくぅ……」

 

 ――ダメだこいつ。何とかしないと――

 いま教室内で意志が1つになったのを感じ取った瞬間だった。

 もはや半分寝てる古館先生は、自己紹介のあと教壇で出席簿を開いているが、首がカクンカクンいってる。

 そんな時、教室の後ろのドアを開け放って姿を見せたOL風のビシッとした黒髪メガネ女性が、教壇に立つ古館先生に向けていきなり発砲。

 ガス式のエアーガンだったようだが、見事額に命中。古館先生はそのまま教壇の後ろへ倒れてしまった。

 

「あれは低血圧で朝はいつもあんなんだから、テキトーに刺激与えて起こすのが吉。頑張れ少年少女よ」

 

 エアーガンを撃った女教師は、オレ達にそれだけ言うとドアを閉めて引っ込み、おそらく隣のB組の教室へと戻っていった。なんだあの人……

 

「今のは京都武偵高で一番有名な先生や。名前は夏目美郷(なつめみさと)。専門は情報科。一時期は武偵庁のセキュリティー部門におったっちゅうホンマもんのエリートやさかい、実力は折り紙つきやから怒らせんようにせなあかんよ」

 

 武偵庁か……

 オレの隣の愛菜さんが耳打ちするようにオレと幸姉にそんな話をしてきて、オレも幸姉も思わず生唾を飲む。

 武偵庁とは、プロの武偵の中から優秀とされ引き抜かれた人材で構成される武偵のエリート集団で、警察庁の公安などとも並ぶ実力者達が働いている組織。

 その実力は武偵高生徒など取るに足らないレベルだ。

 そんな人がどうして京都武偵高にいるのかは知らないが、教えてもらえて良かった。ありがとう愛菜さん。

 

「いったーい……ミッちゃん容赦無さすぎぃ」

 

 それから教壇の後ろに倒れていた古館先生が額を押さえながら起き上がってきて、もう見えない夏目先生をミッちゃんなどと呼び愚痴を漏らす。

 しかし先程までのダルそうな様子はなく、どうやら頭に血が回ってきたらしい。

 

「ほいじゃまぁ、入学式とかめんどいしフケようか。どうせ校長の長ったらしい話があるくらいのイベントだし、みんなのプラスにはならん。それより自己紹介やるよー! はい最初の子……って、名前男子なんだけど座ってるの女子だね。席替えしたのかな? いいよいいよぉ。積極的に席なんて変えていきなさいな。というか好きなとこ座れ。んじゃ端から名前と学科と好きなやつの名前言ってけ。なははっ!」

 

 おそらくこれが本調子らしい古館先生は、こっちの顔色など一切うかがわずにペラペラと話し出し、こっちのターンとでも言うように口が止まって教壇で早く早くというように目で訴えてきた。

 まず入学式をフケるとか教師の言うことじゃない。

 席替えされているのも気に止めてないし、自己紹介で何で好きな人を言わなきゃならん。

 そのあと廊下側の席から順に自己紹介が始まり、名前と学科は普通に言うのだが、やはり好きな人を言う人はいなく、その度に先生からだけブーイングが飛ぶ。

 それで千雨さんにまで順番が回ってくると、何故か周りがワッと少し沸き立つ。

 

「沖田千雨言います。学科は強襲科。得物はこれで中等部時代は『やんちゃ』やっとりましたが、まぁよろしゅう。好きな人はあたしより強い男! 証明したきゃサシで勝負しよーや!」

 

「いいねー! さすがは『ダブラ・デュオ』の一角。1年の中じゃ期待高いから頑張んなさい」

 

「おおきに」

 

 へぇ、千雨さんってそれなりに有名なんだな。だから周りも沸いたのか。

 思いながら席に座る千雨さんを見てると、目が合った千雨さんはニコッと笑顔を向けてきたので、オレも軽く手を挙げて応えた。

 

「はいはーい! 愛菜・マッケンジー言います! 学科は強襲科。得物はこれで、ここにおる千雨と同じく中等部時代に『やんちゃ』しとりました」

 

 次に後ろの愛菜さんが元気良く立ち上がって自己紹介を始め、そのスカートに隠れた両腿に収めてある拳銃2丁をチラッと見せてから、前の席の千雨さんの肩をバシッと叩いて舌をペロッと出して笑う。

 するとその可愛さになのか、男子生徒がうおー! と大興奮。うるさい。

 

「そんで好きな人は……京ちゃんやね!」

 

「うえっ!?」

 

 と、オレが周りの声に煩わしさを感じていた時に、愛菜さんはそう言って座ってるオレの腕を引っ張って立ち上がらせると、ギュッと両腕で抱き締めてきた。ええ!?

 それには周りの男子が唖然。

 次にはオレに対して物凄い殺気を放ち始めた。

 

「あ、好き言うてもあれやで。弟みたいなって感じの好きやから、彼氏は募集中。ちなみに好みは強引に引っ張ってくれる人がエエかな。そんな感じや。よろしゅう」

 

「ダブラ・デュオはどっちもノリが良いねー! 他のやつらも見習いなよ! はい次!」

 

 今の愛菜さんの自己紹介でオレはこのクラスの男子のほとんどを敵に回したっぽい。

 とばっちりもいいところだが、まだオレ自身の自己紹介が終わってない。

 そこでちゃんと挽回しよう。オレの好感度というか、そんなやつを!

 そんなことを考えて自分の番を待っていたのだが、この時オレはその前にまた厄介な人が控えていることを見逃していた。

 

「真田幸音。編入組で学科はSSR。得物は一応なんでも使えますけど、これからしっくりくるものを探していくつもりです。好きな人は後ろにいる京夜。以上、よろしくね」

 

 ギロッ!

 幸姉のその自己紹介によって、またもオレは男子から殺気の込もった視線を浴びせられ、この場から逃げたくなる。もうやだ。

 

「ほほう! モテモテじゃないか少年。入学初日から美女2人の告白は貴重な体験だぞ? それじゃあ少年の自己紹介いってみよーか!」

 

「猿飛京夜。インターンで入った中1です。学科は諜報科。得物は黙秘。よろしくお願いします」

 

 もう色々面倒になったオレは、先生に煽られたのも無視して淡々と自己紹介をしてパッパと席に着いた。

 

「京ちゃん、好きな人で私の名前出してもバチ当たらんかったで?」

 

「そうよ京夜。そこは私の名前を出すところでしょ」

 

 席に着くなり前と隣からそんな言葉がかけられるが、オレは机に突っ伏してそれ以降誰の言葉も耳に入れなかった。

 オレは目立ちたくないのに……学科的にも、性格的にも……

 

「よーし、とりあえずみんな自己紹介が終わったな。んー、今頃体育館で入学式の最中だけど、どうせ行ってるのはC組だけだろうし『遊ぶ』か」

 

 頃合いを見て顔を上げてみれば、唐突に先生はそう言って黒板に何かデカデカと書いてバン!

 黒板を叩いてそれを読み上げた。

 

「『鬼ごっこ』! まぁ入学式よりは楽しいはずだから全員強制参加な」

 

 おいおい……高校で鬼ごっことか、この先生大丈夫か?


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