緋弾のアリア~影の武偵~   作:ダブルマジック

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Slash67

 

「それではひと稼ぎして参ります!」

 

「金のためでも笑顔は作るなよ」

 

「あ、それは大丈夫です。レースクイーンって案外楽しいので。レーサーにとってのチアみたいなもので士気も上がるとかなんとか」

 

「それで呼ばれてるんだったらもう才能だよ才能」

 

 宮津市での観光も昨日のこと。

 昨夜は旅館に戻ってからすぐに食事にありつき、オレの分のすき焼きを後輩3人につまみ食いされて散々だったり、その後にお風呂に入ってきて浴衣姿となった3人を褒めさせられるという強制イベントもこなして、同室なのも気にせずのガールズトークに花を咲かせる3人プラス悪ノリの眞弓さんの適度なフリにあたふたしつつ、23時頃にようやく安眠へと至ることができた。

 朝起きたら寝相の悪い小鳥と貴希がかなり際どい着崩れを起こして布団からはみ出していたから、見なかったことにして部屋を出るか、布団をかけ直してあげるべきか、はたまた少しの下心を持つべきかで葛藤する羽目になって、その様子を寝てるんだか起きてるんだかわからなかった眞弓さんに目撃されて土下座で黙ってもらうように頼み込んだりとあった。

 そんなこんなで朝食後は予定通りに旅館を出てのんびりと京都市まで移動して、実家で幸帆を降ろして、駅前で眞弓さんを降ろしてからさらに南下して三重県鈴鹿市の鈴鹿サーキットで貴希を降ろして今に至る。

 レースクイーンをバイトでやれちまう貴希は世間的にも高く評価されていると見て間違いないが、そんな美人が金儲けと考えてるのは気に入ってる人達としては知りたくないだろうな。

 本人も楽しんでいるなら良いのかと思いつつも、仕事前でテンションを上げ始めたのか車を降りて最後に振り向き様で投げキッスをしてきたのは割と不意打ちで、それがまぁ色っぽいこと。ファンができる気持ちもわかるね。

 その仕事ぶりでも見たらまた魅力がわかるのかもしれないが、後輩のバイトを覗き見する趣味は持ち合わせていないので大人しく鈴鹿市をあとにして学園島を目指し始めた。

 

 車を走らせて数分後くらいになんとなく考えたら、小鳥と2人きりというのも久しぶりな気がして、徒友だった頃はほとんど当たり前だったことも、今は何やら不思議な感じがする。

 小鳥も小鳥で助手席に座っていながら話しかけてくる様子もないし、昴もグローブボックスの上で正面を見ながら大人しくしている。

 うーん。なんだかこの空気は長続きすると良くないぞ。オレから話題でも振るか。

 そう思って赤信号で止まったタイミングに話しかけたら、小鳥もほぼ同時に「あの……」と被って話しかけてきてしまい、日本人の特徴である譲り合いが発生。

 どっちが先に話すかを軽く言い合っていたら、小鳥の携帯に通話の着信があって、会話を中断して確認した小鳥は、相手が母親である英理さんなのを報告してから通話へと応じる。

 わざわざ通話ってことは、今は国内にいそうだな。徒友だった頃も基本的な連絡はメールでしてたみたいだし。

 

「うん…………今は京都観光の帰りで三重を出るところ……ルートは人を送ったりで遠回りはしてるけど……うん、車だよ。京夜先輩が運転してる…………うえ!? ちょっとお母さん!?」

 

 英理さんの声は聞こえないものの、小鳥の返しから何を聞いているのかはわかる内容に普通の会話かと青信号になって車を発進させるが、オレの名前が出てきた途端に小鳥の声色が急変。

 おそらく向こうの態度が変わったんだろうが、何を言われたんだ?

 

「あの……京夜先輩……」

 

 すでに通話も切れてしまったのか、かけ直す選択も迷いながらそれをせずに恐る恐るな感じでオレに話しかけてきた。何用で?

 

「今お母さんとお父さんが長野の実家に帰ってきてるらしくて、2日後にはまた日本を発つからそれまでに帰ってこれないかって言われまして……」

 

「なるほどな。学園島に戻るなら実家に寄ってくれってことか。今さら遠回りを面倒臭いとは思わないからいいぞ」

 

「なんかすみません。お母さんも帰ってくるなら事前に連絡してくれたらいいのに……」

 

「それだけ忙しかったんじゃないのか。それに小鳥の実家に行くなら、煌牙と美麗の顔も見ていけるし、良い寄り道かもな」

 

「そう言ってもらえれば罪悪感も少ないです……」

 

 話の流れとしては極々自然なもので、何をそんなに動揺したのかがよくわからない。

 もしかしてオレがきっぱり断るとでも思われていたのか。そんなに薄情な人間に思われてたのかオレ……

 これが普段の行いの結果か……なんて密かに落ち込んでいるのも知らずに、小鳥は行き先が実家になったことで携帯のマップ機能を使ってルートの検索を始め、オレに指示を出してくれる。

 

 小鳥のナビゲートで約3時間の道のりを走ったオレは、長野県諏訪市に突入し、大きな諏訪湖を右手に望める道路を通って北上。

 たくさんの動物を飼ってる家なだけあって、市内の中心部に居を構えるのが難しかったらしい小鳥の実家は、発展もしている中心部から離れた北部の自然の多い萩倉の方にあり、小さな集落といった印象の程よい田舎の田園地帯に佇んでいた。

 市内へのアクセスも車があれば容易だし、住もうと思えば不自由は全然なさそうだなぁと思いながら小鳥に言われるまま車を家の脇に停めて玄関へ向かうと、車のエンジン音とか動物達が何かを察して報せたのかでタイミング良く英理さんがお出迎えしてくれる。

 しかしまぁ相変わらず綺麗な人だなぁ。高校生の娘がいるとは思えない。

 

「小鳥、おかえりなさい。京夜さんも小鳥を送ってくださってありがとうございます」

 

「いえ。オレもこの家に引き取ってもらった2匹の様子を見たかったので」

 

「煌牙ちゃんと美麗ちゃんね。2匹ともすっかりこの家に馴染んでいますよ。ささっ、どうぞ上がってください」

 

「何でお母さんが嬉しそうなの……」

 

 オレが会う時はいつもフォーマルな格好をしていた英理さんだが、実家ということもあって今日は涼しそうなワンピースを着ていて新鮮さが目立つ。

 まだまだ若さを売りにできるだけにワンピースでも無理してる感じは全くなくて凄いなぁとぼんやり見ていたら、何やら視線に気づいた英理さんに「そんなにまじまじ見ないでください」と照れられて困惑。どう反応するのが正解なんだ……

 その母親の照れが娘として恥ずかしかったのか、オレが何かを返すより先に「もう! 早く中に入って!」と背中を押して入ってくれて、ナイスだ小鳥!

 そうして家の中に押し込まれる英理さんと押し込む小鳥の後ろから玄関に入っていくと、ドドドドドッ! と、居間の辺りから大小様々な犬が押し寄せてきてオレ達を取り囲む。すげっ。

 小鳥の実家には犬と猫だけで50匹を越える数がいると聞いていたが、犬だけでこの迫力か……

 

「ちょちょっ!? こらぁ!」

 

「あらあら、お義父さんにあとで怒られても知らないわよ」

 

「歓迎、ではないんですか」

 

「お出迎えには変わりありませんけど、その時はちゃんと数に制限を設けているんですよ。もちろんこうやって勝手に騒いだらお義父さんにめっ、ってされちゃいます。今はちょうど鳥達を連れて散歩に出ていて、鬼の居ぬ間になんとやらですね」

 

「それじゃあ、吉鷹さんが怒ったりは……」

 

「あの人はここの子達にナメられてるんですよ。ふふっ、良い意味で、ですが」

 

「……ん?」

 

 小鳥の祖父の泉鷲さんは訓練士でもあるとかで躾もちゃんとしてるはずなのにこれは、よっぽどやんちゃなんだな。

 その泉鷲さんが家にいないからと騒いでる犬達も小鳥がわーわー言うのは無視していたが、英理さんが「そろそろ戻らないと怒りますよ」と圧をかければシュバッと踵を返してドタドタと居間の方に引っ込んでいく。

 しかし居間に居ると思われる吉鷹さんがこの一連の騒ぎに割り込まなかったのは、本当にこの家では動物達にナメられてるんだな。良い意味でってのはよくわからないけど。

 純和風建築な木造2階建ての小鳥の実家はオレの実家に空気感がよく似ていて、初めて上がったにしても変な緊張感がなくすんなりと馴染むことができた。

 そして通された居間には座布団に座ってお茶を飲む小鳥の祖母らしき人と、縁側に腰掛ける淡い色の甚兵衛を着た吉鷹さんが、入ってきたオレを見てそれぞれ反応してくる。

 祖母らしき人は優しい笑顔で「孫がお世話になってます」と丁寧な挨拶と共に芳乃と名乗り、吉鷹さん側の祖母──つまり泉鷲さんの妻だ──であることを説明してくれる。

 吉鷹さんは相変わらずオレに対しては無愛想で一瞥だけしてすぐに背を向けて庭の方を見てしまった。どうも。

 そして居間には今さっき玄関に突撃してきた犬の他にも10匹以上の猫が各々で寛いでいて、初対面のオレに猫らしく興味を持ったのがわかるが、あえて無視してオレの匂いを嗅ぎとって重ねて寝ていた体をムクリと起こして近寄ってきたコーカサスハクギンオオカミの美麗と煌牙の前でしゃがみこむ。

 美麗は視覚を、煌牙は聴覚をそれぞれ失ったことでオレの武偵犬としての役割を引退してここで余生を送っているが、オレに対する信頼はまだあるのか顔を寄せるとスリスリと頭を擦り付けてじゃれてきた。元気そうだな。

 現役ほどの動きができなくなったこともあって運動量も減ったか、少し太った気もするな。肥満にだけはならないといいが、そこは泉鷲さんと芳乃さんが上手く管理してくれてると信じよう。

 美麗と煌牙が離れようとしないから、そのまま促された座布団にあぐらで座り、その膝にそれぞれが顎を乗せてくつろぎ始めたのをやれやれと思いつつ、お茶を淹れて四角形のテーブルの4辺にオレ、対面に英理さんが、横に芳乃さんと小鳥が座って落ち着くと、すぐに英理さんの元に数匹の犬猫が集まってその腹を見せて転がり、小鳥の膝の上を我が物顔で三毛猫が占拠。

 それだけならまぁ橘家の日常風景として素直に受け入れることは容易かったし、小鳥達も自然に振る舞っているのがわかったのだが、幸か不幸か今日はオレがこの場に居てしまったことで少々驚かれることになる。

 美麗と煌牙がオレのそばの大部分を占有しているのがあったにも関わらず、オレが落ち着いたのを確認してから近くの犬猫がノソノソとオレのそばに寄ってわずかなスペースでその体を丸めてくつろぎ始めてしまう。

 これには小鳥のみならず、英理さんと芳乃さん。縁側にいた吉鷹さんも目を丸くしていた。

 

「あら、珍しいこともあるのね」

 

「おやおや、人見知りするこの子らが初対面の人にこんなに」

 

「うわぁ、やっぱり京夜先輩って凄い」

 

 言いながら芳乃さんが人見知りするらしい犬猫を視線で示してくれて、その理由に気づいているオレは示された犬猫の頭をそっと撫でてあげる。

 そして嫌がる素振りを見せないことにまた少し驚かれてしまうが、今のは意図的にやったからな。

 

「オレのこれは上海で原因がわかったんですが、まだ自分でどうこうできなくて自然とこうなってしまって」

 

「お義父さんが以前に言っていたけど、京夜さんは生命力に溢れてるから、動物達もその生命力に惹かれているんだろうって。そういうお話かしらね」

 

「まぁそんな感じです」

 

 オレのバカになって開きっぱなしの気穴から漏れ出てくる気。

 それに本能的に反応した動物達がこうして近寄ってくることを具体的に説明するのが難しかったものの、英理さんは泉鷲さんからオレの体質的なことを聞いていたらしく、やんわりとではあるが納得した雰囲気がある。

 今も内気勁で動物達の体にオレの気を少し流し込んで気を充填する行為をしたから嫌がったりしなかったわけで、それをしなかったら普通に逃げられたかもしれないな。

 それに大人しく動かない相手にならオレも内気勁を上手くコントロールできる程度にはなったことを少し喜んでいたら、動物達が驚かない程度の声量で「上海といえば!」と唐突に変なところに反応した英理さんがその手を合わせる。

 

「実は5月の半ばに私と吉鷹さん、ロンドンに寄ってメヌエットちゃんに会いに行ったんです。そうしたらメヌエットちゃんが京夜さんが留学に来てることを嬉しそうに話してくれてて。小鳥から京夜さんの留学のお話は聞いていたので、私もあわよくば会えるかなぁって期待してたんですけど、メヌエットちゃんからデンマークに行ってるって聞いて残念でした」

 

「あー、その時はテンション高いメヌに顎で使われてましたから……」

 

 何かと思えばオレが丁度レス島のセイレーネスを探しに行ってる頃にロンドンを訪れていたことを話してくれた英理さんに、依頼の内容は言えないから怪しまれない程度で話を合わせて相槌を打っておく。

 人魚伝説を追ってたなんてファンタジーも良いところだし。

 

「それでどうしてデンマークにかなぁって思ってたんですけど、メヌエットちゃんってお仕事の部屋がわかりやすくて、デスクにアンデルセンの人魚姫とデンマークの地図。それからフレゼリクスハウンとレス島付近での過去の事件・事故に関する記事をいくつか置いてたから、なんだかとってもファンタジーな探し物をしてるのかなって考えてましたけど」

 

 …………ウソやん……この人やっぱり怖いよぉ。

 今さらながら英理さんが『誰の依頼でデンマークに行ってるか』を言ってなかったのに、オレが自白に近い形でメヌエットの依頼だと白状したところで、メヌエットの仕事部屋にあった資料からオレの目的までなんとなく推理してきた。

 ただそのこと自体を詳しく尋ねてくる様子は全くなく、むしろ思い出話のように欧州の経験を話してくれる。

 

「デンマークには私も何度か行きましたけど、確かにあそこは人魚に関しての面白い話がいくつかありますよね。それこそ人魚姫のお話のように『人魚に恋した男性の顛末』なんてものまであって……」

 

 仕事柄、多くの人から色々な話を聞く機会が多いのだろう英理さんの知見は相当に広いようで、地方の逸話などにも精通しているみたいだ。

 普段なら「そうなんですね」の一言で片付けられそうな話だったが、しかし今回に至ってはオレも聞き逃せないことを聞いて本当に珍しく目を丸くしたと思う。

 人魚に恋した男性の顛末? それは今、オレが求めていた情報そのものだろうが。

 

「その話、どこで聞きましたか」

 

「デンマークのオーフスという街でしたね。港では『人魚に心を許してはいけない』という戒めのような歌も創作されていました。とは言ってもそのほとんどが海に対する油断を無くす意味合いが強いとのことで、人魚自体は海の比喩表現だとする話ですよ」

 

 それはそうだろう。史実で言ってももう何百年も前のことで、生き証人など存在しない。当事者であるテルクシオペーを除けばな。

 だがこんなところでその話が出てきたのはラッキーとしか言い様がない。なんと言ってもここにいるのは実績保証付の捜索専門探偵だぞ。

 

「…………無理を承知でお二方に依頼したいことがあります。出来るなら早くに動いてもほしいですが」

 

「この話の流れからすると……デンマークに行くことになりそうね。家族団欒のあとにはなるけど、それでもよろしくて?」

 

「引き受けてくださるなら」

 

 動かすならいま欧州にいる羽鳥やヴィッキーも手ではあったろうが、過去の依頼で橘夫妻の報酬は破格なことが判明しているし、確実性を取るなら断然こっちと判断して依頼を申し出る。

 それに意図を汲み取るのも早いから、もうどんな依頼かも察してくれたっぽい。

 唯一の不安は依頼に乗り気な英理さんと違って、相談もなしに依頼を受けようとしてる英理さんに苦い顔をする吉鷹さんだが、仕事ならオレからでも割り切ってくれるでしょ。

 

「おおっ、小鳥が婿を連れてきおったか」

 

 依頼に関しての詳細は明日までにまとめてメールで送る手はずで進み、テルクシオペーの問題に光明が見え始めたのは僥倖。

 意図せぬ寄り道だったが思わぬ収穫だったと内心で喜んでいると、散歩から帰ってきた泉鷲さんが居間に入ってくるなりオレを見て爆弾を投下してくる。

 泉鷲さんの中ではまだオレは小鳥の彼氏って認識なのか反応に困るが、その言葉で橘家は混沌としてしまい、小鳥はあたふたと訂正をし、英理さんは「あらあら」と否定もせずに笑うだけ。

 芳乃さんも「そうだったのね」と信じちゃってるし、吉鷹さんは鬼の形相で居間に乗り込んできそうになる。

 色々と言うべきなんだろうと察しつつも、オレが口を開けばまた誰かが何かしらの反応をして話がこじれる確率が低くないこともあって、ここは沈黙を選択。我関せずー。

 騒がしい居間の中心で無心になって仏様みたいに座っていると、場を掻き乱している英理さんと泉鷲さんに小鳥が涙声で訴えたのが決め手となって話が終息。

 泉鷲さんは泣かせるつもりはなかったと小鳥に謝り、英理さんは「恥ずかしがらなくてもいいのに」とまだ弄る姿勢で困るが、芳乃さんは「婿じゃないのね」と残念がる程度で、吉鷹さんも床を踏み抜きかねない足取りで縁側に戻っていった。

 そんな賑やかな橘家にいつまでもオレがいたらダメな気がしたから、お茶もいただいて泉鷲さんにも挨拶したし、そろそろお暇しようとする。

 しかしそれとほぼ同時に落ち着きを取り戻した小鳥がふと庭の方に視線を向け、何かに気づいたのかその庭へと移動。

 その様子に不思議がった英理さん達も動向をうかがい、オレも立ち上がって縁側まで移動。

 そしてそこでちょっとした違和感に気づいた。夏本番にもなるこの頃にしては、この庭の草花に青々しさが少ない気がする。

 小鳥もそれに気づいたみたいで、泉鷲さんと芳乃さんも原因はわからないが1ヶ月ほど前から草花に元気がないのだと話す。

 段々と悪化しているとも付け加えられると、オレも内気勁でいくらか回復は促せるかもと考えるが、そもそもの原因を取り除かないと意味はないかと黙ってしまう。

 すると話を聞いた小鳥は庭の1本の木の前に移動してその手で幹に触れると、感覚的に何かを感じ取ろうとしてるのがわかり、泉鷲さんは何故か目を丸くしている。何かをしてるんだろう。

 

「…………何か地面に埋まってるみたい。それがこの子達の栄養を奪ってるって」

 

 わずか数秒で木から手を離してこっちに振り向いた小鳥は、まるでその木から直接話を聞いたように原因を探り当て報告してくる。

 そんなバカなことと笑うことは簡単だ。だがそうせずに泉鷲さんが至って真面目に倉庫からスコップを持ち出して吉鷹さんに掘るように指示し、それで木のそばの地面を掘り進めてみると、出てきたのはまさかのタケノコ。

 竹害という言葉が存在するように、竹というのは地面に厄介な根を張り巡らせ、しっかりと管理しないと周りの木々や草花の成長を阻害してしまい、何れは死滅させてしまう。

 その竹が掘ればなんと4本も埋まっていて、根の張り方からして1ヶ月くらい前に植生し出したと見て間違いないため、泉鷲さん達の証言と一致する。

 だが何故こんなタケノコが庭に……と思っていたら、何やら様子を見ていた動物達の方もざわざわし出したのがオレにもわかり、言葉がわかる橘家の人達は話を聞いてやれやれといった雰囲気でため息を漏らす。

 どうやら散歩してきた犬の1匹が森で掘り当てて持ち帰ったものを庭に埋めて隠したようで、そんなことを4回もやってこの有り様だったようだ。

 竹害など知る由もない動物を責めるのは筋違いも良いところなので、厳重注意といった形でこの事件は収まり、タケノコをキチンと処理して元通りになった庭に出たオレは、小鳥が触れていた木に触れて気休め程度の内気勁で気を充填してあげる。

 その様子が自分に似ていたからか、オレが離れたあとにまた木に触れた小鳥は、すぐに手を離してオレに向き直る。

 

「この子が京夜先輩にありがとうって。何でかは私にはわかりませんけど、伝えてくれって」

 

「お前、やっぱり……いや、どういたしまして」

 

 橘の家の特殊な能力は超能力に近しいものだと以前から思っていたが、今回のこれでその認識も違うかもと思い始める。

 小鳥達には超能力者特有の気配がなく、能力を使っている際にも何かを消耗している様子がない。

 きっとこれは超自然的な何かで、人間に本来、或いは遥か昔には備わっていた能力が先祖返りのように蘇っているんだ。橘家はその遺伝率が100%になる遺伝子でもあるのかね。

 そんな考察をしつつ、この庭の危機を救った小鳥を褒めたら、そんな仲良さげな雰囲気に茶々を入れたがる英理さんと泉鷲さんがムフフと縁側からニヤけてきて、吉鷹さんが怒り出すというさっきの流れがぶり返し、また騒がしくなってしまうのだった。


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