「や、やだキョーやんったら。理子にこんなことして何するつもりなの? いやんっ」
「安心しろ。お前が想像するような事には絶対にならんし、オレにそういう趣味もない」
学園島の学生寮に戻って早々、自分の住む部屋が色んな意味で荒らされていたことに心が荒んでいたオレは、その元凶が精神的ダメージを負って動けずにいた隙に縛り上げて拘束。
手首と足首を後ろでまとめて縛ったからエビ反りな姿勢で寝室の床に転がる元凶、理子は、不利な状況にも関わらずボケをかます余裕を見せるから、オレも罪悪感に苛まれなくてありがたいね。
しかし拘束してもこのまま放置したところでクネクネとキモい動きでイラつかされるのは目に見えてるから、布団を使ってさらに理子の身体をぐるりと包囲して縛り、首から下の動きを不鮮明にすることでストレス軽減。これで口しか動くまいよ。
「キョーやん……これはヤバいよ……」
「暑さでか? それならクーラーの効くリビングに運んでや……」
「物理的に理子の下から見放題の攻め放題だよ! すっごくエッチぃよぐへぇ!!」
「万年発情期の猫かお前は!」
……忘れてた。こいつの一番封じなきゃならんのはペラペラポロポロと言葉が出てくるこの口だったわ……
しかしそれを封じると会話が成り立たなくなるから、受け身も取れない理子を脇に抱えて2段ベッドの上の側面に頭をぶつけさせ鎮圧……
しかけたのに頭がぶつかる直前に理子の影に潜んでいたヒルダがオレの足を払って転倒させてきて、真後ろにひっくり返って背中から落ちてしまう。
「こっの……ヒルダぁ」
「ダメだよキョーやん! 理子のために怒らないで!」
「お前は話を捏造するな! はぁ……頭痛い……」
その一連の行動で最終的に布団に包まれた理子が直立不動のギャグみたいな姿勢になったのはスルーして、真面目に相手してるのもバカらしくなったオレは、影から顔だけ出してアッカンベーしてきたヒルダのわずかに出ていた手に超能力者用の手錠を素早く嵌めて影から引っ張り出し、両手にしっかりと嵌めて理子と同じような拘束をして寝室からリビングへ連行。
理子はしばらくそのまま寝室に放置して、ヒルダは大嫌いな日光が射し込むギリギリの窓際に吊るしてやったのだった。構ってちゃんは放置が一番ダメージあるからこれで良いだろう。
それから昼まで理子とヒルダの悲鳴やら罵声やら弱音やらが聞こえ続けたが、全く取り合わずに荷物を開けて整理したり、昼飯を作るための買い出しに行ったりで過ごし、帰ってきたら2人とも状況に慣れて扉越しにしりとりをやってたから呑気なもんだ。
オレが帰ってきたのを察してからすぐに「おトイレー! 漏れるー!」とか切羽詰まった声で言われたりもあって、仕方なく2人を解放してやり、マジだったのか全速でトイレに駆け込んだ理子を見送って昼飯の準備に取りかかる。
ヒルダはヒルダで理子に執拗な『り』攻めを食らっていたらしく、敗北寸前のところを助けたみたいで謎の感謝をされ困惑したが、罰ゲームでも設定してたのか?
手錠を外してからはまたいつもの調子を取り戻して、スッキリした顔でトイレから出てきた理子の影に再び潜んでいってしまい、理子も買ってきた材料からオレが作ろうとしてるものを推理して勝手に手伝い始めてくれる。こういうところは何故か良い女なんだよなぁ。普段とのギャップよ。
まぁ材料自体が卵ときゅうりとハムに麺なんだから、推理もクソもなく冷やし中華なのは確定的でやることも少なく、各種具材を切って麺を茹で、サクッと錦糸卵を作ったらほぼ完成だ。
これを食べると夏って感じがするからか、オレもさっきまでの頭の痛いやり取りを忘れて夏気分になり、理子もニコニコ笑顔で対面に座ってお行儀良く食べ始める。
「やっぱ夏はこれ食べないとだよねぇ。キョーやんわかってるー」
「夏本番はこれからだがな」
「今年も海行こうよー。理子的には2人きりがベストだけど、周りがうるさそうだし高望みはしないから、ね?」
「そういう話はまたあとでだ」
食事中はふざけてテーブルをひっくり返されたりするのが嫌だから大人しい理子が食べ終わる前に聞くべきことは聞こうと、軽い会話を交わしてから本題へと切り替える。
「リビングにあった芳香剤と寝室の有り様。あれは何だ。あと来るタイミングが良かったところを見るに、何か仕込んでたな?」
「ぶーぶー。タイミング良くないよぉ。理子としてはキョーやんが部屋に入るタイミングに居合わせるのがベストだったしぃ。保険としてドア鍵が開いたら反応するセンサーを仕込んでたから、正規ルートの侵入はわかるようにしてたけど、あくまで保険だったしなぁ。それ使った時点で失敗だよぉ」
「あーそう。つまりお前は芳香剤も寝室のあれも自分の仕業だと自供したわけだ。お前くらいしかやらんから無駄な尋問だったが、嫌がらせか」
「ちーがーうーよー。ロンドン留学と長時間のフライトで心身共に疲労してるキョーやんを少しでも癒してあげようと……」
「あの芳香剤で?」
「そう! 実はあれ、夾ちゃんに調合してもらってて、吸い続けると段々と気分がフワッてなってハッピーな気持ちに……」
「それが事実ならさっさと捕まれ」
「別に違法なものなんて言ってないし! ホントにアレなら理子が対策なしに入ってくるわけないじゃん。ぷんぷんがおー」
……なんだかなぁ。理子なりの優しさ? なのかもしれないし、夾竹桃が調合したなら本当にヒーリング効果のあるものだったのかもしれないさ。
でもな、誰だって久しぶりに戻った部屋の中に信じられないくらい甘ったるい匂いが充満してたらヒーリング云々より先に身の危険を感じるっての。そこをまず考えてくれ。
いやいや、よくよく考えればあの存在自体が危険毒物みたいな夾竹桃が調合した芳香剤って逆に危ないだろ。もうツッコむところがどこかもわからなくなってきたんだが……
本人は真面目に話しているのかもしれないのに勝手に色々考えてドツボに嵌まっていくオレが険しい表情をしたからか、ぷんぷんがおーしていた理子も罪悪感が勝ったらしく少しテンションを下げてチュルリと麺を啜ってから口を開く。
「確かに匂いはちょっとキツすぎちゃったなぁとは思ってたからそれはごめんだけど、悪気がなかったことだけは信じてほしいかも」
「…………はぁ。あれで悪気がないってのも凄い話だけどな。いつまでもグチグチ言ってても仕方ないしもういい。あとは寝室だが……」
「あれは想像通りの反応してくれたのでオッケーです!」
「悪気満載じゃねーか!」
理子のことだから本音の中にギャグを挟み込むくらいのことはしてそうだと思いながら、芳香剤が本音と判断して残った寝室の抱き枕やベッドの占拠はどうなのかを問いただすと、やはりこっちは盛大に仕込んだボケだった。
5秒くらい前の申し訳なさそうな顔など消し飛ぶような満面の笑みからの親指をグッと突き立てたナイスのポーズには心底腹が立ったので、避ける間もなく持っていた箸をズガガンッ! と理子のおでこに2本ほぼ同時に投げて突き刺す。
その不意打ちで椅子ごと後ろに倒れた理子は大股を開いてスカートも全開になっただろうが、テーブルが仕事をしてオレからは情けない姿は映らず、ゴロゴロと床を転がりながらの呻き声だけを聞いて大きなため息が漏れたのだった。
「い、いちおう言っとくけど、あの有り様でもキョーやんのベッドで寝泊まりしてたとかはないですはい……」
「別にシーツの洗濯とかやってるなら使ってても文句は言わなかったが、お前なりの線引きが常識の範疇で良かったよ」
「理子は変態なだけであって非常識な人間ではないのでーす」
オーバーなリアクションもおふざけだとわかってるから放置して満足するのを待っていたら、オレの反応がいまいちで速攻で飽きたらしく、のそのそと椅子を戻して座り直しベッドの使用について説明。
てっきり使いまくってるものとばかり思ってたのに、そこは踏み留まるのかと思ったが、確かに理子は常識をわかった上で行動してるんだよな。変態なのも否定してほしくはあったが。
そんな変態なことを自慢気にする理子にどう反応するか迷って苦笑いで返したら、ルンルン気分で冷やし中華を食べ終えた理子が一緒に後片付けをしてくれる。
後片付け中も隣で鼻歌をしながら楽しそうにする理子だったが、それが嵐の前の静けさを感じさせるような落差で変貌した。
「…………京夜。劉蘭とエッチした?」
唐突に、ぶつ切りになった鼻歌の後に放たれた不意打ちに、内心では心臓が飛び出そうなほどの衝撃を受けたものの、表面に出せば状況が悪くなることは目に見えていたからギリギリで堪えて、一見すれば失礼にも当たる質問に理子を見ずに怒気を含めた口調で返す。
「そんなこと、確たる証拠もなしに聞くもんじゃないんじゃないか。蘭にも悪いだろう」
「やっぱり表面には出ないか……。あたしとしては割と可能性としてあると思ってたけど、劉蘭のこと、蘭って呼ぶようになってたか」
「蘭がそう呼んでほしいって上海に行ってた時に言われたからだ。それで、そんな可能性が出てきたのは何でだよ?」
素の理子が怒りを含まずに出てくる時は、おふざけが入らない真面目な話だとわかってる。
だからオレも真実を語るべきタイミングはあるだろうと、まずは理子の話に耳を傾け、嘘はつかないように努める。
「先月末くらいに蘭ちんとお電話したんだよ。そん時になんか蘭ちんの雰囲気が今までよりずっと『女』って感じになってた。それだけなら理子の主観でしかないし、大きな山場を乗り越えたからってことで納得もいくから別に良かったけど、蘭ちんってキョーやんの話題になるといきなりポンコツになるんだよねぇ。そんで『キョーやんと何かあった?』って聞いたら『京夜様は何も悪くありません』だって。そんなのもう何かあったわけですよ」
…………劉蘭……何でそこでポンコツになる……
普段はぐらつくとさえ思えないほどしっかり地に足を付けて我を通し堂々としてる劉蘭なのに、そんなところでぐらつくんかいと遠く上海にいるだろう劉蘭にツッコミつつ、いつもの調子に戻った理子の話を最後まで黙って聞く。
「そこから推測すると、たぶん上海でキョーやんと蘭ちんの間に良くないことが起きたんだよね。もちろんそれはN絡みのことだろうし、選択の余地がなかったことなんだと思うの。それで蘭ちんがキョーやんを庇うってことは、その行為はキョーやんから蘭ちんへ向いてるし、キスとかそんな軽い行為で乗り切れる状況でもなかったでしょ。ヒルダから聞いたけど、超能力の中には他人の生命力を分けてもらうみたいなものがあるってね。そういうのの大半は対象との密接な状態を維持するみたいだから、誰かの助力があったにしても蘭ちんを抱いたのかなって」
いつの間にか伏し目がちで話していた理子が手を止めてそういった考えに至った経緯を説明し終えると、最後に「もちろんエッチっていうのは最悪を想定しただけだからね」と付け足したが、本当にそうだった時にどんな反応をするか自分でもわからないといった、そんな不安げな表情を浮かべていた。
別に理子はオレの彼女でもないし、劉蘭と何があろうと理子にとっても他人事で、オレにとっても理子がどう思おうと他人事ではあるだろう。
それでもオレを好きだと言ってくれている女性が、オレが他の女性を抱いたのだと聞かされれば、逆の立場ならどう思うかは想像するに容易い。
「…………エッチだの抱いただのなんて優しい言葉で片付けられないさ。オレは蘭を犯したんだよ。それが真実だ」
それでもついていい嘘はないことも理解しているから、どんな結果になろうと伝えることにする。劉蘭には、あとで謝っておこう。
オレの最初の返答にちょっとビックリした表情になった理子が顔を向けてくるが、気にせずに上海で起きたことを包み隠さずに話し始めた。
理子も口を挟むことなく最後までオレの話を聞きに徹して、ほぼ推測の通りだった事実に何を思ったか顔には思考を読めない色が浮かんでいた。
「…………そっか。いやぁ、まさか本当に蘭ちんとヤっちゃってたとはねぇ。構えてはいたけど、直接聞くとやっぱりショックが大きかったかも」
「ショックってのは、どういう類いのだよ」
「んー、キョーやんの初めてを貰えなかったこと……は別にいいんだよ。初めて同士だとなんか色々不安だったし、キョーやんに経験があるのは今後のあれこれでプラスかなぁと。ショックだったのは……理子が言及しなかったら、ずっと知らないままだったんだなぁってこと、かな。仮にも蘭ちんは友達で恋のライバルだし、キョーやんは理子の好きな人だもん。たとえそれが必要を迫られたからでも、肉体的に繋がったのは事実なわけで、それは男女の関係としては特別なことでしょ?」
「だからって他人に話すことでもないだろ」
「そりゃそうですけどもぉ……」
オレが想像するよりもずっと落ち着いた感じで少し安心しつつも、片付けを終えて椅子に座り直した理子の顔には苦笑いが。
きっと自分で言ってておかしいなとは思ったんだろうな。
今の理子の立場からすればそう思うのも仕方ない反面、こっちの立場になればオレの言い分が正しくなるから、話の納め方がわからなくなった感じだ。やっぱり少なからず頭は混乱してるんだろう。
まとまらない思考を言葉にしたのがらしくないとでも思ったのか、天井を見上げてちょっとだけボーッとした理子は、切り替えるように椅子からピョンっと跳んで立ち上がると、キョトンとするオレを見てくる。
「あーはい! 聞くこと聞いたからこの話は終わりー! プライバシーはちゃんと守るので心配ご無用です!」
「いいのか? それで終わって」
「ふーん。じゃあキョーやんは理子が蘭ちんに嫉妬して『理子のことも抱いてくれなきゃ許さない!』とか言って欲しいの?」
「それは冗談抜きで嫌だ」
「でしょ? この話を広げたら理子の好きが暴走して変なことになるから、自制が効かなくなる前に終わるの! それに嫉妬するような話でもないんだよ。そんなの死に直面してた蘭ちんにも、罪悪感と戦ったキョーやんにも失礼だもん」
意外にも話を切り上げに来た理子にありがたいのにオレが食い下がる形になると、続ければどうなるかを言われて心底嫌な顔をしてしまう。
それを見てクスクスと笑いながらも、自分が抱く感情がこの場で不適切だと判断して引き下がったのは、オレよりもずっと大人な対応だったろうな。
「ああでも、1個だけ聞いていい?」
「何だよ」
「もしも理子が死にかけて、蘭ちんと同じ方法でしか助けられないってなったら、キョーやんは助けてくれる?」
「……助けるよ。理子でも蘭でも、名前も知らない人だろうと、目の前で助けられる可能性のある命があるなら、どんな十字架を背負ってでも。そうならないための最善を尽くしてからの最後の手段ってことにはなるがな」
「……えへへ」
「笑うところか?」
「理子が好きになった人がキョーやんで良かったなって思ったら、嬉しくなっちゃって」
こういうの本当に苦手……どう反応するのが正解かわからなくなるんだよ。
男としてとかそういう話でもないが、人としてあるべき姿を貫きたいだけのオレを理子が誇らしく思ってくれるなら、その期待を裏切らない男でいようとは思う。
ただそれを言語化するだけの余裕がなくて渋い顔で頭を掻いたら、照れてると勘違いされて「あー! キョーやん照れてる可愛いー!」と茶化されてしまい、何も言い返せないで更なる追撃を許してしまう。
「あとあと、理子との時はキョーやんが優しくリードしてね? 理子、初めてで上手く出来るか不安だ・か・ら」
ヤバい。ここで止めねばあと2、3回はこんなのが続く。
本能でそれを察したオレは、おふざけモードに切り替わった理子によって不幸中の幸いか調子を取り戻し、思考も高速回転。
そこから導き出された答えは……これだ!
考えるや否や追撃の手を緩めようとしない理子に迫って抱き寄せてから、その顎をくいっと手で持ち上げて見つめ合い至近距離でささやく。
「本当にその時が来たら、な」
理子を弄ぶようで気が引ける……なんてこともなく仕返しのつもりでやってやった渾身の演技に対して、攻勢に出て守りが薄くなっていた理子は途端に赤面。
これがアリアなら次には突き飛ばされてガバメントを撃たれていただろうが、理子は不意打ちに関しては暴力に及ばない。
予想してなかった反撃で思考停止気味になったらしい理子は、あぅあぅ、と声を漏らしながらオレからそっと距離を取って胸に両手を添えて自分を落ち着かせるように黙り込む。
「……キョーやんのそういう演技力、上がらなくて良いのにぃ……」
「演技とわかったならそんなに動揺するなよ」
「無理だよぉ……好きな人に嘘でも嬉しい言葉をかけられたら、多少なりともドキドキしちゃうもん。バカキョーやん」
「はいはい。茶化された分のでチャラってことで許してくれ」
咄嗟の機転で追撃を逃れることには成功。別の手で弄ってくる様子もないことから、この話はこれで終わるだろうと気持ちを落ち着けた理子から視線も外してリビングのソファーに移動。
落ち着いた理子には寝室のぬいぐるみやらの片付けをするように言ったら、意外とあっさり引き受けて消えていったので、この数ヵ月間の日本の情勢に疎くなったことも加味してテレビで情報収集を始める。
自分に直接的にでも間接的にでも関係がありそうなニュースをピックアップしてコロコロとチャンネルを変えてのんびりしていたら、寝室の片付けをしていた理子がぬいぐるみを勝手に使ってる私室に運びながら話しかけてくる。
「そうそう。留学中、ほっちゃんとかの後輩達がぷんぷんがおー状態だったよ」
「ん? なんか怒らせることしたか?」
「怒ってるのは勝手なことだけど、留学するの黙って行っちゃったのはキョーやんラブ勢にはマイナスですよー」
「そういや留学してから1度も連絡してないし来てないな……悪いことした、のか?」
聞けば留学することを黙って行ったことに幸帆達が腹を立てていたらしく、そんなことでと思いつつも幸帆に関しては過去に幸姉が突然いなくなった経験があったりするから、身近な人間が黙ってどこかに行くのは少なからず恐怖を感じたのかもしれない。
そこには配慮が足りなかったかもと感じてしまったから、今からでも謝っておこうと携帯を取り出しメールを送る。
しかし送信後にリビングに戻ってきた理子がオレのしたことに「あちゃー」と声を漏らしてため息。何だよ……
「やっちまいましたなキョーやん。その選択は女に対しては60点ですがね。武偵に対しては赤点ですぜ」
「その採点は何だよ」
「理子は知らなーい。キョーやんは自力で切り抜けてくださーい。理子は巻き込まれたくないので、ばいばいきーんっ」
はっ? あいつ何?
核心的なことは一切言わずに何らかの危機を察して片付けを終え、のんびりしていくでもなく速攻で部屋を出ていってしまった理子の思わせ振りな行動にオレは眉を寄せるしかなく、何をそんなに恐れているんだと思っていたら、幸帆から返信が来てそこに「部屋から出ないで待っていてください」と、何の色気も女子らしさもない簡潔な文章に寒気が。
えっ? オレは何かを間違えたのか? 誰か教えてプリーズ!