緋弾のアリア~影の武偵~   作:ダブルマジック

271 / 288
Slash58

 

 全方位から迫り来る水の刃。

 その1つ1つが着ている防弾制服の防刃性能を上回るのは、高速回転が発する高音から明白。

 逃げ道は、ない。いや、ないわけではないかもしれないが、たとえ避けられてもおそらく五体満足ではいられないだろう。

 正直あそこまで平静を失ってこの精度の超能力を操れるのは想定外だった。

 ほころびが出るのを期待していたオレにとって、この状況は悪い方向に転んでしまったし、死の回避も最悪に引っ張られて嫌な対応を取ってしまう。

 水の刃はシャナの左右に広げられた両腕が前でクロスするように振るわれる動きに連動するのは明白。

 加えて今、シャナが操る水は全てオレへの攻撃に用いられ、シャナを守る余剰分はないように見えた。

 だから死の回避もシャナの動きを『確実に止めるため』に懐のブローニングをクイックドローし、その額へと銃弾を撃ち込もうとしたのがわかってしまった。

 シャナはクエレブレの血で身体を作り変えられて餓死や病死のない長命になったとはいえ、完全に死ななくなったわけではないから、銃弾が額に命中し脳にダメージを受ければ、人間同様に致命傷となり得る。

 武偵法9条で殺人を禁止されているオレにとってこの動きはなんとしても止めなきゃならないが、完全に止めればオレが死ぬかもしれない。

 

「……ここまででいい」

 

 通常のオレは自分が発動させる死の回避を止めるために身体にかなりの負荷をかけてしまうから、止めたら最後、無防備を晒して水の刃で八つ裂きにされる。

 だが今回は驚くほどに冷静な頭がそこまでの行動を予測してくれて、ブローニングをクイックドローしてシャナの額に照準し発砲するまでの動作を修正する余裕があった。

 その負荷はほとんどなく、オレがしたのは額に照準された狙いをシャナの肩辺りに命中するようにズラしただけで、シャナにとっては予想以上のクイックドローだったか、発砲した時には反応が遅れて動きも止められていなかった。

 

「ぐっ!」

 

 その結果。オレの放った銃弾はシャナの右肩に命中し、水の刃を動かす動作を強引に遅延させることに成功。

 1秒となかったかもしれない猶予で、わずかばかりに水の刃の回転も鈍ったのを確認しつつ、即座に単分子振動刀でいくつかの水の刃を切り裂き無力化。

 そこに出来た隙間に飛び込んで包囲網から抜け出すと、直後にはオレのいた場所は元の殺傷力を備えた水の刃が殺到して殺意を撒き散らした。

 

「……っぶね……」

 

 回転受け身を取りながら単分子振動刀とブローニングを納めリカバリーして立ち上がり、また1つの水球となった水を見てから、撃たれた右肩を押さえるシャナに視線を移すと、ちゃんと赤い色をしていた血が腕から手へと伝っているのが見える。怪我は、治せないみたいだな。

 

「人間風情がこの私に血を流させるとは……」

 

「こっちは殺しそうなのを止めてるんだ。怪我の1つくらい大目に見ろ」

 

 その代わりに無人島でテルクシオペーがやっていたような水を使った止血は出来るようで、忌々しそうにオレを見ながらしっかりと右肩に水を纏わせて止血したシャナは、滴り落ちた血や左手にべっとりと付いた血を残さず水で掬って混ぜ合わせ、わずかばかりに濁った水が水球となって浮く。

 その行為に何か意図的なものを感じたオレは、血を流したことでいくらか冷静さを取り戻してしまったシャナが身に纏う殺意を高めたのを察知。

 

「お前はもう、私があの人から血を分け与えられたことを聞いたのだろう? なら私の身体を流れる血もまた、それに応じて変質しているとは思わないか?」

 

「……おいおい、まさか……」

 

「あの人のような劇薬にはならないし、変質も起きはしないだろうが、身体に入れば拒絶反応が毒のように蝕み、中をズタズタにするだろうな」

 

 ゾワッ、と、それを聞いた瞬間にオレの全身の感覚器官が警鐘を鳴らし、一気に血の気が引く。

 あの水はもう人間に対する毒。触れることさえ危うい上に液体という変幻自在の物質だ。

 それを異常なほどに警戒するオレの身体は今すぐこの場を離れろと訴えてきていて、何故こうも逃げ腰な姿勢になるのかと頭が理解に努め、わかった上で決断しようとする。

 が、その理由はすぐにわかってしまった。

 シャナの血を含んだ水球は頭上へと掲げられると、見た目からはほとんどわからないほどの表面が波打つ微振動を始める。

 振動こそ小さいが、それは振動の波が小さいだけで、ハチドリのホバリングのごとく秒間何百、何千回と振動しているのがわかり、それだけの振動を与えることで表面から少しずつ水が分離して空気中に霧散するんだ。

 そして霧状になった水は周囲へと広がり、呼気や皮膚に吸引、或いは吸着して体内へと侵入する。そうなれば……

 

「ウィルス兵器かよっ!」

 

 空気感染などと同等の効果を得た毒は避けようがない。

 対策はとにかく離れること。幸い、シャナが操る水の総量は直径3mほどの水球だったから、それを霧状に霧散させたとしてもシャナの半径100mも離れれば毒の範囲からは逃れられるはず。

 よく見ればシャナも繊細な超能力のコントロールをしているのか、その表情にいくらか余裕の色はないが、こっちの攻撃に防御を回すだけの余力はあるな。キャンセルは難しい。

 止められないなら逃げるしかないと心と身体の動きが一致したオレは、現在進行形で霧散されていく毒霧を吸い込んだりしないために全力で逃走。ほぼ無風とはいえ風向きも向かい風の方向へと走ればいくらか霧も影響を受ける、はず……

 もっと言えばクエレブレへの奉納品を用意してくれているビオドの町の人間を無闇に殺しでもして、クエレブレの今後に悪影響を与える可能性がある以上、オレがビオドの町まで逃げればシャナは手を出せない。

 そこまで考えての逃走で迷いなどなかった。が、誤算があったとすればオレがビオドの町に向かい灯台の方へ背を向けた瞬間。

 そちらからゴゴゴゴゴ、とうねりを上げてせり上がる何かを察知し走りながらチラッと後ろを見ると、今までレキ達が抑えてくれていたテルクシオペーが海水を巻き上げて巨大な水球を発生させていた。

 その水量はレキの対物ライフルすら通さない圧倒的な量で、その水球の中に姿を隠したテルクシオペーには現状、誰も手が出せなくなってしまっていた。

 あれもまた膨大な精神力を消耗するから出し惜しみしていたんだろうが、このタイミングで使ってきたことにこの上ない恐怖を感じていたら案の定、水球の中で動いたテルクシオペーが別の海水の塊を海から引き上げて陸へと移動させる。

 その海水の塊はオレとシャナの間ほどの位置でバシャリと弾けて広がり、逃げるオレの先を追い越してドーム状に落ちてきて、大きな水の膜が形成される。

 それだけならまだ!

 ドームの半径は50mあるかくらいで、その縁辺りにいたオレはシャナの毒水ではないならとそのまま突き破るため加速。

 しかし水の膜はオレが体当たりする直前に一瞬にしてビキビキビキィ! ジャンヌのオルレアンの氷花のような瞬間凍結により氷と化し、オレの体当たりすらものともしない強度で立ち塞がってきた。

 厚さは5cmはある。ムラもなさそう。穴も……ない。マズい!

 直径では100mほどあるとはいえ、密閉空間に閉じ込められたことには変わりなく、今も毒の霧を発生させるシャナがその範囲を広げていく。

 このままじゃ1分と待たずにドーム内に毒の霧が充満して耐性のないオレだけがダメージを負う。いや、最悪死ぬ。

 死の回避も歩み寄ってくる死にいつ反応するかわからないし、そうなったら今度こそシャナを撃ち殺しかねない。

 それ以前にオレの発砲を警戒して拳銃が通用しない可能性の方が高いか。

 とにかく毒の霧を逃れるためにはこの氷のドームを脱出するかシャナを無力化するしかないが、どちらもオレ1人では突破口が見えない。

 それでも思考を止めずにいると、氷のドームの外からガンガンガンッ! 3発の銃弾がほぼ同時に別々のところへ着弾。

 レキ達が異変を見て即座に破壊を試みてくれたようだったが、氷の壁はほんのわずかに削られた程度ですぐさま修復されてしまっていた。

 ならばと今度は3人が示し合わせたか、ほぼ同じ箇所に同時に着弾させてみせたものの、ピシッ、といくつかの小さなヒビを入れただけに留まる。

 あれでは到底破壊は無理だと悟り、もう地面に穴を掘ってでも抜け出すしかないかと悪あがきに走りかけた時。

 ──ドガァァァアン!

 氷の壁を隔てた向こう側で武偵弾と思われる炸裂弾が壁に直撃し爆炎を撒き散らす。

 物理的に無理なら解かそうという魂胆だったのかもしれないが、燃え盛る炎をものともせずに立ち塞がる壁は1cmも薄くはなってくれていない。

 

「無駄なことを」

 

 それを見たシャナもテルクシオペーの超能力の強さを知ってるからか、突破されないとわかりきった嘲笑を浮かべて、いよいよ毒の霧も逃げ場がなくなってきた。

 ただオレはシャナの嘲笑を聞きながらも、わざわざあの高級な武偵弾を無駄撃ちするようなことを3人がするはずないと冷静に考察して、オレが何かをすべきなのかと考えを巡らせる。

 そして炸裂弾の炎がその威力を落とし始めた瞬間、その炎を突き破って1発の銃弾が氷の壁を撃ち抜いてシャナの近辺の地面に着弾。

 あまりにロスがなかったその銃弾の軌道には、銃弾の幅のみを残した穴が壁に穿たれて存在し、その威力から徹甲弾(ピアス)と判断。

 だがそれだけではオレが反応したところでこの氷のドームを抜け出すための手としては浅い。正直どうにもできないぞ。直径1cm程度の穴では広げるより先に再生が間に合ってしまう。

 事実、氷の壁に空いた穴はすぐに再生を始めて、オレが動くより遥かに早く再生を完了させてしまう。

 が、その再生の時間に再び外から銃弾が飛来し、徹甲弾が作り出した穴に寸分の狂いもなく、針の穴に糸を通すような精密な狙撃でドーム内に銃弾が通過して着弾。こんな神業はレキにしかできない。

 地面にぶつかった銃弾はこれも武偵弾で、炸裂弾とは違った燃焼を周囲へと撒き散らし始める。

 この燃え方は焼夷弾(フレア)か。炸裂弾は弾自体に爆発力を内包してその威力で対象を攻撃する武偵弾だが、この焼夷弾は弾自体に殺傷力はあまりなく、燃焼を助ける薬品が内包されているから、それで周囲を焼き殺す弾だ。

 焼けないにしても一酸化炭素中毒に陥れることも出来るから、密閉空間であるこのドーム内では絶大な威力を発揮するだろうが、閉じ込められてるオレもヤバイんですがね……

 さすがに焼夷弾1発でこのドーム内の酸素を全てどうこうできる燃焼は起きないはずだが、生憎とレキが撃ち込んだ場所の近くにはクエレブレへの奉納品という絶好の延焼材料があり、火に薪を放るがごとく炎はそっちに引火。

 炎と毒の霧の地獄のような光景に目眩がしてきそうになりながら、燃焼によって毒の霧が蒸発しドーム内に広がるのを阻害してくれているのがわかり、オレの脅威は一酸化炭素中毒だけになってくれているのはせめてもの救いか。

 シャナも焼夷弾による燃焼は苦しいのか、その場から離れるような動きを見せていたが……

 

「ああっ!」

 

 クエレブレへの奉納品に引火した途端に毒の霧を発生させるコントロールも解いて元の毒水へと戻し、奉納品が燃えるのを自らの水を使うことで防ぎ始めた。

 気配からもその必死さはしっかりと伝わり、この瞬間にはオレへの警戒すらもほとんどしていないほどの隙を生じさせるシャナに、オレはどうすべきかをほんの少し悩んでしまった。

 氷のドームがある以上はテルクシオペーの介入はないと見ていいし、毒の水も消火に全て使っているなら防御も皆無だろう。

 だが今シャナが生じさせた隙は、ひとえにクエレブレへの愛情が生み出した産物であり、非情な人間でなければ誰しもがためらう場面だ。

 ……違う。そうじゃないぞ猿飛京夜。シャナを止められるならこのチャンスを逃す方が大きな痛手で、これを逃せばオレはまた毒の水の恐怖に怯えることになるんだ。

 せっかくレキ達が作り出した1度きりのチャンスを棒に振るのか。答えは否!

 ──だから……行け!

 ドーム内の酸素も消費させられてるから、大きく息を吸って体に酸素を取り込み、最小限の動きで無呼吸動作へと移ったオレが、消火に勤しむシャナめがけて突進。

 ……したが、そのシャナをスルーして奥に位置するクエレブレの奉納品へ一直線に駆け、上着を使って消火に入る。

 

「違う! 着火点付近の火を消せ! 燃焼を促進する薬品の燃焼を完全に止めろ! そうすりゃ延焼も止められる!」

 

 あー、何やってんですかオレは。

 まさかの割り込みにシャナも面食らって動きが止まってしまったが、オレが嘘を言って動いてるわけではないと理解はしたのか、すぐに指示通りに水を操作してレキの焼夷弾の消火に集中し、オレもまだ被害が少ない奉納品を必死に守る。

 シャナの操る水は焼夷弾の着火点を覆うように渦を巻いて範囲を狭めて一気に消化し、それによって奉納品への延焼もいま燃えてるだけのものを消すだけで簡単に消化することができた。

 呼吸もドーム内にまだ十分な酸素があり一酸化炭素中毒の心配がなさそうなのを見越して呼吸を再開。

 それから残りの火を2人で消して焼夷弾の脅威が完全に無くなったところで、落ち着きを取り戻したシャナが残った水を手元へ戻しつつ、上着を着直したオレをまだ距離を取りながらまっすぐに見てくる。

 

「何の真似だ」

 

「……オレにもわからん。あえて言うなら、クエレブレを困らせたかったわけじゃなかったってところか。もしクエレブレの加護が消えたら、このアストゥリアス州の人達の生活を脅かしかねないしな」

 

「他人事だろう。綺麗事だ。敵を目の前にしてやることではない」

 

「それをお前が言うのかよ……」

 

 シャナの立場からすれば至極当然な問いかけに対して、自分でもバカだなぁと思いながらそれらしい理由を後付け。

 本当は非情になりきれなかった甘さゆえの行動だったが、今回の案件を解決に導く上でなんとなくあそこでシャナを拘束するのは違う気もしたのは事実なんだ。

 この選択がどういう結果を出すかはまだわからないものの、敵を前にしてって意味でシャナも人のことを言えたものではないと返せば、ぐっ、と言葉に詰まりわずかばかり表情を恥じらいのそれに変えて顔を逸らす。

 

「……礼は言わん。殺すことにも変わりはないぞ」

 

「だろうよ。オレもやることは変わらない。お前をクエレブレの元に帰す。それだけだ」

 

 それでも感謝はしなかったシャナはすぐに切り替えて仏頂面へと戻ると、毒の水をいくつかの水球に分けて操作。

 おそらくさっきの超振動による霧は精神力の消耗が激しかったんだろうな。使えば近寄る隙も与えないし……というか防御に回せるだけの水の量が無くなったと見ていいのか。

 厳密には蒸発した水はまだこのドーム内に存在するから、氷のドームによって冷やされれば水滴になってシャナのコントロール下に戻るように思えるが、そうならないならシャナの超能力には何らかの操作可能条件があるのか。

 単に弱っているだけと捉えることはできるし、こちらの油断を誘う罠の可能性も考慮して何かされる前に制圧すべきと判断。

 毒の水に触れずにシャナを倒すには、シンプルにシャナの水の操作がオレの動きに追い付かなければいい。

 そうした状況を作り出すためにオレが出来る唯一の策は、懐に忍ばせている閃光弾。

 それを取り出す動作をすれば警戒されただろうが、すでに動作は上着を着直した段階で完了している。

 着直した際に閃光弾を左袖に通して肘で止め、シャナが先に動く前にクナイを取り出す動作を右手でやって視線をそちらへ誘導。

 同時に左肘を伸ばして閃光弾を滑り落とし、流れるようにピンを抜き地面に落ちる寸前で炸裂させる。

 ほとんど動作なしで行ったため、オレが目をつむる瞬間にもバッチリ目を開けていたシャナが目を眩ませたのは確実で、目を開けてすぐにシャナが反射的に手を顔の前に構える防御姿勢になっていることを確認。

 血を流すような傷を加えるとこっちが毒にやられるので、超能力者用の銀の手錠を取り出して駆け、視界が戻る前にと決着を急ぐ。

 しかしシャナもオレが接近してくるのを察知して、毒の水を細い縄状にして新体操のリボンのように体の周りを周回するように動かし触れられないようにしてきた。

 絶対に捕まってたまるかという強い意思を感じるシャナの抵抗は、あと10秒もしないうちにオレへと向ける殺意に変わる。

 そうなったら勝ち目はほぼないため、直接触れずとも手錠をはめられる手段としてミズチのアンカーの先に手錠をくっつけて射出。

 腕を振ることで軌道を修正して、不幸中の幸いと言うのか、水の縄を動かす右手が頭上に掲げられて固定されてるそこを狙う。

 手先の繊細なコントロールには自信があるから寸分の狂いもなくシャナの手首に手錠がはまる軌道に乗せ、凪ぐような手錠はシャナの手首にガッチリはま……

 

「ぐぇっ、マ、ジかよ!?」

 

 る寸前にシャナの後方。氷の壁の向こう側からテルクシオペーのピンポイントな水の弾丸の狙撃が襲いかかって、ワイヤー付きの手錠が弾かれてしまう。

 そりゃ自分で作ったドームに小さな穴を作るなんて造作もないだろうけど、ここまで精密な狙撃をできますかそうですか。

 だからといって諦めるほど根性なしではないぞ。

 弾かれた手錠が地面に落ちる前に弛んだワイヤーを張り直すため体をその場で回転させて手錠を360度回して再度トライ。

 次弾を撃ち込むには時間もあっただろうが、今度は左手にブローニングを抜きさっきの軌道上に狙いを定めて撃ち落としに備えた。これでチェック……

 ──ピューン。

 メイトぉぉぉ……とはならず、テルクシオペーの狙撃に撃ち落とされるでもなく、ミズチのアンカーの粘着力がギリギリ持たず、300度辺りで取れてしまって明後日の方向へと手錠がさようならしてしまった。

 …………やっべ。これ詰みじゃね。

 完全にオレとテルクシオペーが目を点にした珍事で時間すら凍結した感覚があったものの、何が起きてるかを理解していないシャナは依然として水の縄を回し続けて、ついに視界も元に戻ったような気配でオレを捕捉してきた。

 いよいよヤバいぞ。手は残ってるには残ってるが、最終手段は使いたくないから最終手段なのであって、いま使ってもテルクシオペーが邪魔すぎる。

 レキ達もドームのせいで牽制ができないみたいだし、どうすれば……

 手詰まり1歩手前な状況に陥ってパニックになってないのは成長だが、活路を見出だせなきゃ意味がないんだよ!

 そして無情にもシャナの視界が完全に元に戻って、その水の縄が密度を上げて短くなり鞭へと変貌。

 来る。来る。来る!

 膨れ上がる殺意に当てられて体も硬直しかけてしまったのをギリギリで叩き起こして迎撃に備えて、シャナが1歩踏み出そうとしたその時だった。

 オレとシャナの真上。ドームの頂点に不意にドン! と何かが落ちてきた音が盛大にして、2人して動きを止めて頭上をバッと見上げる。

 するとそこには、ゴツいパイルバンカーみたいな装備を構えたMI6の007。サイオン・ボンドが今まさにこのドーム内に侵入しようとしていた。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。