緋弾のアリア~影の武偵~   作:ダブルマジック

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Slash35

 

 Nによるおそらく最後となる襲撃を察知した上で迎撃に動いたオレ達は、劉蘭を守りながらもだいぶ有利に立ち回れていた。

 Nが狙うバンシーもその秘めた能力を使い切ることでさらに追い詰めようとして、2つの狙いを潰せる寸前までいったのだ。

 だがそんなタイミングで今まで情報をもたらすだけでこれといって存在感を示してこなかった土御門陽陰がしゃしゃり出てきて、超能力でバンシーを拘束。

 無数の札で作ったキューブに閉じ込めたと思えば、それを圧縮して鳥の式神の足で持てるサイズにまでして逃走していった。

 

「あのクソ野郎が……」

 

 決して味方などと思ってはいなかったし、Nと共謀している可能性すら考えていたくらいだから警戒もしていたのに、Nを追い込むことに意識がいったところを突かれた。

 バンシーの存在は陽陰にも隠していたから、陽陰にとっても嬉しい誤算だったということなのかもしれない。

 それにしたって最悪のタイミングでやってくれやがったぞ。

 バンシーが連れ去られたことで状況は一変し、バンシーの願いを叶える能力で劉蘭の計画の成就を確定させ、連鎖的に劉蘭暗殺を阻止する手筈だったのが失敗したことで、焦っていた勇志さんが冷静さを取り戻してしまう。

 反対に陽陰のせいでオレが取り乱してしまったから、気持ちをリセットするために勇志さんを強引に引き剥がして距離を取り、隙を生まない程度の深い呼吸で勇志さんに再度集中。

 

「……なるほどな。お前が教授の条理予知をわずかながらにも狂わせている理由がわかった」

 

「……どういうことです?」

 

「お前は本来なら繋がることがなかった点と点を結ぶ線の役割を果たしている。縁を繋ぐとでも言えばいいのか。お前という存在を通して、今まで存在していなかった未来が新たに生み出されている。その不確定な未来が教授の条理予知を狂わせている」

 

 オレが早々に持ち直したのを冷静に見て攻め急がなかった勇志さんも勇志さんで何かを考えていたことを口にし、今の一連のことで確信に近いものを得たようだ。

 勇志さんが言う縁を本当にオレが繋げているとするなら、オレ自体がNにとっての厄介者になり得る可能性は十分にある。

 そうなればオレの始末も遠からずNにとっての優先項目に浮上しかねないが、それを今どうこう考えるのは後だ。

 

「とはいえその縁もお前が望む形で繋がるわけでもなく、やはり行き当たりばったりであるのも事実だろう。先ほどの土御門陽陰がその良い例だ」

 

「つまりオレが繋ぐ縁がそっちにとってプラスに働くこともあり得るってことですか」

 

「その辺は可能性の話でしかないな。とにかく、土御門陽陰も追わねばならなくなったし、その女はそろそろ退場願うぞ」

 

 繋ぐ縁がどんな結果をもたらすかなどオレには計算できるはずもないし、勇志さんもその事については同じような意見を述べて話を終わらせる。

 オレも陽陰を追わなきゃならなくなったし、シンプルだったNが敵という構図が崩壊した今、まずは目の前の敵をどうにかしなきゃいけない。

 向こうもそれは変わらないので、メイファンさんと猴がこちらに来ないということはシャナとテルクシオペーもまだ交戦中ということだから、勇志さんも対面で有利だと思われるオレをいち早く倒して劉蘭を殺しに来る。

 その殺気を敏感に感じ取って勇志さんの挙動に反応。

 元々がそうだからということなのだろうが、勇志さんは殺しの手段に対してバリエーションが乏しい。

 旧0課でもマキリとかいう人の下で働いていたのが見受けられ、その人が割と容赦ないようなことを百地さんが言っていたことから、殺しが認められる0課とはいえ極力で血は流さないように配慮していたはず。

 そのストッパーとして勇志さんをあてがったと考えれば、勇志さんの拘束力は十分な性能を持っている。

 そこで完結し、殺しになればマキリが出ると、ある種の役割分担が出来ていたなら……

 殺気こそある勇志さんだが、そこに『何がなんでも、無闇やたらに殺す』というようなものはなく、オレだから感じ取れる劉蘭のみに向けた殺気。

 言ってしまえば勇志さんは劉蘭以外を殺すことに抵抗があるように見えて仕方なかった。

 それは戦闘において武偵法9条という足枷を持つオレとそう変わりはないということだ。

 だからといって殺されない保証もないのでそういう立ち回りはしないといけないが、勇志さんには無力化の筆頭としてナノニードルという武器がチラついているため、否が応でもそれを意識した動きを強いられる。が、そここそが付け入る隙にもなる。

 警察学校では犯人を捕まえるための訓練で剣道や柔道などを学ぶのは割と有名なことで、勇志さんもその例には漏れない。

 ただし勇志さんの場合はそれ以前から体に染み付くほどの訓練をしたとしか思えない型があることに気づく。

 昨夜の襲撃の際にも恐ろしいまでの柔軟性と関節の稼働域を誇っていた勇志さんは繊細なナノニードルを扱う手を守るためか、殴るなどの直接攻撃はしてこなくて、代わりに出てくるのが足。

 つまり蹴り技が主体の型があり、その無駄のない滑らかで鋭い動きは韓国の国技でもあるテコンドー。それかタイのムエタイが元にあると推測。

 蹴りは拳の3倍ほどの威力になるから当たれば当然ながら痛いし大きな隙を生むきっかけを作りかねない。

 かつてジーサードにアホみたいな威力の蹴りで体が冗談抜きで1回転しかけた経験のおかげで蹴りに対しての危険察知能力は高く、どの程度の威力かは見ればわかり、巧みな足捌きで寸止めから逆の足で飛び蹴りといったトリッキーな攻撃もなんとか防御することができる。

 防御こそできはしても攻めに転じられなければジリ貧なのは事実で、しかし勇志さんにとってはオレに時間を稼がれることが一番嫌な手。

 劉蘭を守れればそれでいいという意思を見せたのもあるが、オレが攻めに転じてこないで防戦に回るという思い込み。その意識の違いが勝負の鍵になる。

 チャンスは1度きりだが、昔からここぞのところでは乗り切ってきた自分の勝負勘を信じようか。

 蹴り技は威力を犠牲にして隙が生まれやすくなるはずなのだが、勇志さんの蹴りは特殊で、通常なら股関節から稼働させて振り抜く蹴りを膝を起点にして膝関節のみで振り抜く形で振りが速い。

 だから片足を軸にした連続蹴りが凄まじく、下がれないオレとしてはかなり苦しい。

 それが表情にも防御にも表れたか、攻撃の手を全く緩めない勇志さんは変幻自在の蹴りでパターンすら掴ませないバリエーションからオレの防御をズラし、崩し、当ててくる。

 将棋などの詰めのように1手ずつ追い込まれていくオレは、いよいよ勇志さんの王手がかけられるタイミングでぐいん! とあり得ないくらいの方向転換で真横から真上に振り上げられた蹴りが下顎を捉えて顔が上を向いてしまう。

 さらに顔の上でピタリと止まっていた勇志さんの足がギロチンのごとくかかとから落とされてオレの肩を直撃。

 その威力で上から下へと激しく体を揺さぶられたオレは勇志さんの前に頭を差し出す形になり、首の後ろががら空きに。

 そうなるように仕組んで攻撃した勇志さんはオレが反応するよりも早くナノニードルを撃ち込んでこようと手を伸ばしてくる。

 ──ここ、だぁ!!

 決して演技ではなく、マジで追い詰められることを前提にしたオレのカウンターは、首を掴みかけた勇志さんを強襲。

 前のめりに倒れる勢いを利用して足を後ろから振り上げてほとんどその場でローリングしてのかかと落としを繰り出す。

 そうと決めてなければ繰り出すことができなかったカウンターに対して、やはり反応が遅れた勇志さんが初めてその手で攻撃を受けての防御に回り、両手を使っての防御で胴体に隙が生まれる。

 脳を揺さぶられた影響で意識がぐらついていたが、この好機を逃すかと踏ん張って仰向けで倒れながら抜銃し腹へと3発の銃弾を撃ち込み、ほぼ同時に床を蹴って滑り後転から片膝立ちで銃口を向け直す。

 そこでさらに撃ち込めればダメージもそれなりに入って撤退も促せると踏んでいた。

 しかし現実とは非情なり。

 銃を構え直した時には距離を取ったと思っていた勇志さんが全く距離を離さずに追随していて、構えた瞬間には横から蹴られて銃を手放されてしまう。

 さらに返しの蹴りで顔をモロに蹴られて床に倒されてしまった。

 

「人の目の奥には信念が見えるものだ。お前は苦境の中でも光を失わなかったのが引っ掛かっていた。だからここぞのタイミングで反撃してくると読んでいたが、予想の範疇だったな」

 

 まだ抜かせるわけにはいかないとわずかながらの抵抗で単分子振動刀を抜き足を狙って投げ込むも、たった1歩後退するだけで躱した勇志さんは、無慈悲にオレのカウンターを読んでいたことを告げてくる。

 目は口ほどにものを言うってやつだろうが、目を見ただけでそこまでわかるもんなのかよ……

 旧0課に抜擢されたのは勇志さんのそんな観察眼も理由の1つだったのかもしれないと今さらに思いながら、ついに開けてしまった劉蘭までの道を見据えた勇志さんが速やかに行動を始める。

 これで……終われるわけがないだろうが!

 決死のカウンターが読まれたからなんだ。そこで万策尽きるならお前は武偵として未熟そのものだ。

 どんなことにも第1、第2第3とプランを練るのは基礎の基礎。考えることをやめたらダメなんだよ!

 N相手に自分の都合の良い展開が望めるなんて考えが甘いと思っていながら、それで止まりかけていた自分を叱咤し唯一残された細い糸をたぐり寄せる。

 勇志さんの殺気からして本気で劉蘭を殺そうとしているのは事実。

 ならオレはそれを見過ごせないのだ。死の予感によってな。

 体の痛みなど無視して動いたオレは、劉蘭に拳銃を抜いて向けた勇志さんにではなく、恐怖で後退りした劉蘭の足と床の間にクナイを滑り込ませて踏ませることで転倒させる。

 それと同時に発砲されはしたものの、転倒が重なって銃弾は劉蘭の頭の上をギリギリ通過して難を逃れ、尻餅をついた劉蘭に再度銃口を向けられる前にカポエイラで拳銃を狙いながら立ち上がる。

 崖っぷちに立たされてもまだ粘るオレに拳銃をしまって今度こそ意識を刈り取りに来た勇志さんの目にはオレに対しての殺気が込められたことが本能でわかる。

 意趣返しではないがその殺気ならと繰り出された全力の蹴りに対して、確実に当たりどころが悪ければ死ぬという位置に頭を持っていき、死の回避を無理矢理に発動。

 自力では避けられなかっただろう鋭い蹴りを前に出ながら潜り抜けて躱したオレは、ゼロ距離にまで肉薄した勇志さんに全力の掌打を撃ち込む。

 意識など全くしていなかったし、劉蘭を守るという強い気持ちだけで繰り出した掌打は、勇志さんの超ギリギリに合わせた拳と激突。

 ダメージなど期待できるものではなくなったと確信する防御だったが、それでも振り抜いた掌打が勇志さんの拳を押し返して、さらに接触の際にオレの力とは別の拳を弾く力が加わったのが感覚でわかる。

 そしてバチンッ! と静電気でも走ったかのような衝撃で後退した勇志さんは、初めてその顔を苦痛の表情へと変えて、防御に使った拳を庇うような挙動を見せる。よく見れば腕が痙攣している。

 

「お前……神虎と同じ……ッ!」

 

 その現象に既視感を覚えていたオレに勇志さんの口からメイファンさんが出てきたことで、今の攻撃に無意識で気を送り込んでいたと自覚。

 さすがにメイファンさんの外気勁とは比べるのもおこがましいほどの威力だったが、片腕とはいえ勇志さんにダメージが入ったのはこちらにとって僥倖。

 そのダメージで退く選択をするかどうかは可能性として低くはあったはずだが、オレを見ていた勇志さんは言葉を切って突然その目をオレよりも後ろへと向けて固定させたため、何が起きたのかと気配を探る。

 

我诚然、想是太很好的话(なるほど、旨すぎる話だと思った)

 

 警戒の都合で後ろに振り向くことができなかったオレに存在を教えるようにして聞こえてきた声は、男。

 しかも聞き覚えのある中国語の声はここに来られないと言われていたはずの神龍、趙煬その人だった。

 オレ達がいた準備室とは逆の準備室から入ってこの通路に入ってきたのだろう趙煬は、コツコツと殺せる音をあえて立てながらオレの隣にまで移動して、視線は勇志さんに固定したまま話しかけてくる。

 

「劉蘭は自分に関することで話すことを話さない悪い癖がある。それを出させたお前も美帆も配慮が足りん」

 

「お前、どうしてここに来れたんだよ。ハリウッドで仕事の打ち合わせしてたんじゃなかったか?」

 

「その打ち合わせが中身のない話だったから、何かの意図を感じ取って独断で戻ってきた。そうすればこの有り様だ」

 

 どうやら陽陰が怪しんでいたことは事実だったようなことが今の会話からわかり、それを察して戻ってきた辺りはさすがとしか言い様がない。

 劉蘭もNに狙われていることをあえて告げずに仕事に集中させたいと言っていたが、趙煬はそれを怒ってるようなことも言うのはいい。

 ただそれを本人じゃなくてオレとメイファンさんにぶつけるのはどうなんだ?

 しかしNが恐れていた趙煬が現れたことで状況は一気にこちらに傾き、明らかに趙煬の登場で攻め気が薄れた勇志さんもどうするか思考しているようだ。

 

「霧原勇志さん、でしたね。京夜様からそううかがっています」

 

 オレと趙煬という双璧が立ちはだかったことで勇志さんの動きが大きく制限されたのを見計らい、勇志さんも思考中の時。まさに絶妙なタイミングでオレと趙煬の間に並び立った劉蘭が話しかける。

 依然として命の危険があるのに前へと出てきた劉蘭に勇志さんもどうすべきか迷う様子を見せ、どんな動きにも反応できるようにオレと趙煬は細心の注意を払って警戒。

 

「昨夜、あなたは京夜様に私の計画の闇の部分を鑑みていないと、そうおっしゃったと聞きました」

 

「……」

 

「都合の良いことばかりを述べて、明るい未来だけがあるように思わせているのだと、そう思われてしまって京夜様に迷いを生ませてしまったのなら、それは私の責任と言えるでしょう。ですが勇志様がどのように私の計画を知ったのかはわかりませんが、その認識は間違いであると、それだけは申し上げておきたいのです」

 

 朝に蘭盛街へと戻って支度をする間に、オレは昨夜の勇志さんとの会話についてを劉蘭に報告していた。

 それを聞いた時、まず劉蘭はオレへと謝罪して説明不足だったことを反省していた。

 そしてその後にはこう言ったのだ。

 

「私の計画には確かに進めた先に明るい未来と共存する苦難の未来が待っています。それは各国とのバランスを大きく崩すやもしれない大変にデリケートで慎重にならねばならない事案です。それがわからないほど私は夢ばかりを見る女ではありません」

 

「では何か打開する施策があるとでも?」

 

「私は今日の会議までこの問題は最重要機密として取り扱ってきたこともあり、趙煬も、美帆でさえ知らない機密であった以上、勇志様にも知り得なかったと推測します。ですからまずはご理解ください。私が決して問題を直視していなかったわけではないことを」

 

「……ものは言い様だ。言葉だけで信じられるほど俺もお人好しではない」

 

 勇志さんの危惧する問題というのには劉蘭も直面しずっと考えていたことだったと。

 そしてそれを隠すようにしていたのは、大々的に公表すべき問題かどうかをまずは会議の場で藍幇が判断すべきだと考えていたからだと言う。

 計画自体が秘匿事項とはいえ、勇志さん。Nのようにどこでどう嗅ぎ付けるかわからない以上、騒ぎの元となる情報は伏せておきたかったという劉蘭なりの配慮だったわけだ。

 それを考えの甘い女だと判断した勇志さんを攻撃するのではなく、認識を改めてもらおうと説明した劉蘭に対して、やはり言葉だけではどうとでも言えると切り捨ててくる。

 

「これ以上の言葉は勇志様には不要というわけですね。では私は今の言葉を証明せねばなりません。そのためにもこれから行われる会議には何がなんでも臨まねば、証明のしようがありません。ですから私にあの壇上に立つチャンスをいただけませんか」

 

「命乞いにしては短い延命措置だな」

 

「私はこの会議を、この計画を自らの命を賭けてでも成功へと導く責務があります。その結果として勇志様にご納得いただけないのであれば、所詮はその程度の計画だったということ。その時は自らの命を差し出しましょう。ただの夢見る女の戯言だったと切り捨ててください。私は逃げも隠れもしません。だから!」

 

 全ては会議の場で判断してほしいと、その場しのぎで言ったことではないと証明するために、身を投げ打つ劉蘭の交渉に勇志さんは沈黙。

 殺すなら会議のあとにしろ。それで殺されるなら納得してやると言う劉蘭の覚悟にどうすべきか独断では決められないような雰囲気になった勇志さんは、完全に劉蘭のペースに呑まれてしまっている。

 オレと趙煬にもその決意に意を唱える隙を与えなかったのだから、やはり劉蘭は凄い。この歳で中将にまで上り詰められたのは劉蘭だからこそなんだ。

 そんな説得で場が少しの沈黙に包まれたあと、返答しかけた勇志さんの言葉を遮るように向こうの準備室からシャナとテルクシオペーが雪崩れ込んできて合流。

 追う形でメイファンさんと猴も来て、完全に挟み撃ちの状態になる。

 

「あっ? 何で趙煬がおんねん。自分アメリカにいたんとちゃうんかい」

 

「日本語はやめろ。お前の祖国語は中国語だろう」

 

「やかましいわ! 日本語わからんってそこで止まっとるやつに文句言われる筋合いないわ!」

 

「だったら貴様は英語を話せるようになれ」

 

 会って早々に口喧嘩を始める趙煬とメイファンさんが日本語と中国語を飛び交わせるからなかなかカオスだが、今はそれどころではないとアイコンタクトすると2人もわかってはいてすぐにやめてくれる。

 そして挟み撃ちにされた勇志さん達はいよいよ追い込まれたといった雰囲気でオレ達に睨みを効かせてくる。

 

「ちぃ、神龍まで来ていたのか。仕方あるまい。今回は撤退だ」

 

 こうなると如何なNでも戦況は不利と判断したか、シャナが撤退を決断。

 それを受けてテルクシオペーが懐に入れていた何らかのスイッチを押すと、わずか数秒で3人の周囲にキラキラと光の粒子が舞い始める。

 これは、瞬間移動か!

 Nはアリアや猴が使う有視界内瞬間移動よりも高度な瞬間移動を使えて、座標か何かで跳ぶことが出来る。

 だからこんな状況でも瞬間移動を使えば逃げられるということだ。

 それをみすみす実行させるわけにはいかないとオレが瞬間移動の前に捕縛しようと叫ぶが、食い気味に猴がそれを制止。

 

「やめた方がいいです。どこに跳ぶかわからないですし、あの光の範囲を見誤って近づいて跳ばされれば、体が千切れるかもしれないです」

 

 自身が同じことを出来る猴が言うから、オレ達も光に包まれていく勇志さん達を見送るしか他なく、跳んだ先が敵の本丸で返り討ちに遭う可能性もある以上、本来の目的を優先すべきと判断。

 そうして動きを止めたオレ達から逃げる形となったシャナは明らかな怒りの表情を見せてくるが、勇志さんは跳ぶ寸前に劉蘭へと言葉を投げ掛けてきた。

 

「俺達を退けた以上、運命はお前に味方しているのかもしれんな。自分が言ったこと、忘れるなよ」

 

「……必ずやご期待に沿いますことを約束します」

 

 約束などしていないが、覚悟を秘めた劉蘭の強い目にフッ、と小さく笑った勇志さんは、カッ、とひときわ強く輝いた光に包まれてしまい、それが収まった時にはもう、その場に勇志さん達の姿はなかった。


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