緋弾のアリア~影の武偵~   作:ダブルマジック

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 幸姉を含めた劉蘭の計画の賛同者による会合が無事に終わり、もののついでで幸姉に気のコントロールのコツを掴むための意見を聞いてみたところ、超能力者である幸姉の意見を参考にイメージを膨らませてみれば、何故かそれを見ていたみんなが驚くような反応をする。

 自分としてはただイメージトレーニングをした程度の認識だったから何の自覚もなかったが、メイファンさんがオレの手を取ってもう1度やれと言う。

 そういう反応をしたということは何らかの変化があったことは明らかなのだが、同じイメージを同じだけするというのもなかなか難しい。特に……

 

「…………あのぅ」

 

「なんや、さっさとやらんかい」

 

「メイファンさんはともかくとしても、幸姉とか蘭とかの視線が強い……」

 

 さっきは勝手にやってたから集中力もそれなりにあって周りも気にならなかった。

 ただ、今はメイファンさんが確認のために手を握って内気勁を使ってるっぽいし、幸姉や劉蘭も興味本意でオレを凝視してきて非常にやりにくい。

 熟練者のメイファンさんなら気にもならないことだろうし、甘えるなって感じだとはわかる。

 しかしオレはまだひよっこ同然の素人であり、それがわかっててメイファンさんも功夫は1人の時にやれと言ってくれていたはず。

 

「あかんなぁ。そないな状態やったら調べるだけ無駄やな」

 

「さっきの感覚で良かったなら、今夜にでも反復させておきます。試験は明日の夕方ですよね。それまでにはなんとかします」

 

「言うは易しやな。まっ、悔いのないように足掻いとけや」

 

 暗に環境が悪いと言うオレに対して鼻で笑いそうな顔をしたメイファンさんがちょっとムカついたものの、言い訳したオレが文句を言えるわけもないので、パッと手を放したメイファンさんが予定通り明日に試験をすることを告げてココ姉妹をこき使って部屋の片付けを手伝いにいってしまう。

 上手くいけば明日を待たずに試験合格もあったかもしれないチャンスを逃したのはオレとしても痛いところで、そういうところでチャンスを活かせないオレの不甲斐なさを幸姉もやれやれといった感じで見てくる。

 劉蘭は励ますような視線と両拳を握って「頑張って」とジェスチャーしてくれる優しさで幸姉とは対照的だ。

 厳しさと優しさ。どちらがオレにとって良いのかは……わからん。

 

「さて、と。それじゃあ私も行こうかな。劉蘭、夕食を一緒にとか出来ない?」

 

「申し訳ありません。今は食事の席を一緒にするのは幸音様にもご迷惑をかける可能性がありますので。その代わりに私のオススメのお店を紹介いたします」

 

「劉蘭も大変ね。こういう女には心の支えになる人は必須と思うし、京夜はその辺さっさとハッキリさせたらどうかなぁ」

 

「……オレは……」

 

「幸音様。あまり京夜様を困らせないでください。京夜様にもご自分の貫くべき思いがあって、私もそれに納得した上で今を受け入れています」

 

「あらら、怒られちゃった。でもまぁ私としては京夜の付き合わない宣言は何がなんでも貫くべき気持ちでもないって思うから、つまんないプライドで本当に大切なものを取りこぼす前に、考え直してもいいとは思うわよ。お姉さんからはそれだけ」

 

 そしてオレとの話も一段落したと判断した幸姉も長居は無用と退散する素振りを見せ、劉蘭とプライベートな会話をする。

 食事の誘いは残念ながら昨日のこともあって控える形となったが、暗殺の件は話してないのにその辺を察する幸姉の危機回避能力はさすがで、食い下がらずに別の話題にシフト。

 そこでオレに矛先が向く辺りが幸姉の嫌なところでもあり、もちろんオレも反論するべきところではあったが、なんとも絶賛お悩み中でもあった件をツッコまれて咄嗟に言葉が出てこなくなってしまう。

 そんなオレを庇うようにして劉蘭がすかさずフォローに回ってくれたのが良かったのかどうか。

 いや、良くはなかっただろうな。

 少なくとも幸姉はオレの心の揺らぎを敏感に感じ取っている。ずっとそばで見てきた人の目は誤魔化せない。

 オレは去年のクリスマス辺りに理子や劉蘭のいる場で『高校在学中は誰とも付き合わない』と宣言した。

 それはオレ自身がまだ武偵としても男としても半人前な上に、今後のことも明確にできていない段階で色恋沙汰にかまけている余裕はないと、オレなりの覚悟で宣言したものだった。

 もちろんそれを撤回する気は今もないし、気持ちの変化もないが、幸姉にこう言われてしまうと揺らぐものも確かにある。

 オレが一人前の武偵になってから恋愛のことを考えるというのは、男として見ればある種の甲斐性という、立場的なものを意識した立ち回りになる。

 ちゃんとした土台ありきの将来設計をすることはオレの中でかなり重要なことと思う。女を養えない男ほどカッコ悪いこともないからな。

 だがその一方で幸姉が指摘してきたような今の理子や劉蘭の気持ちに応えようとしない態度は、端から見ればイラつくものに映るんだろう。

 そしてその気持ちをないがしろにした結果。理子や劉蘭がオレから離れてしまって、生涯の伴侶となったはずの女を逃がしたなんてことになることだって十分にあり得る。いや、このままなら遠からず起こりうることと考えていい。

 今はまだ理子も劉蘭もオレを好きだと言ってくれているが、人の気持ちは移り変わるもの。そこに変化が起きないことなどあり得ない。

 それを考えればオレが貫こうとしている覚悟は、どうあっても守らなきゃならないものではなく、むしろ理子達から『逃げている』のではないか。

 向けられる好意から逃げないと誓ってした覚悟は、実はまだ逃げの1手だったのか。それならオレは……

 幸姉のたったそれだけの言葉で確実にオレの中の何かが崩れかけてきたのを自覚しながら、蘭盛街を出ていく幸姉と誠夜を見送り、それから何事もなく夜を迎えて1人の時間まで進み、そこでようやくゆっくりと自分を見つめ直す時間が作れた。

 正直、今は明日に控えたメイファンさんの試験に向けて功夫をやるべきところで、考え事はそれを乗り越えてからでも遅くはない。

 だがオレはもう逃げたくない。自分の気持ちを圧し殺してまで守るべきものとは何なのか。本当に守りたいものは何なのか。未来ではなく、今をちゃんと見なきゃいけないんだ。

 

「逃げてるつもりは全くなかった。でも見る人によってはそう映って、そこを突かれて揺らいでるなら、やっぱりそういうことなんだろうな……」

 

 考え事を普段は口にしたりはしないオレでも、今回ばかりは強く自覚するために呟きレベルでも声にしてわからせる。

 そうして事実をまずは受け入れて、あの宣言からこれまでの自分を振り返れば、確かにこれからのために色々とアグレッシブになった。

 ロンドン留学だって元を辿ればそれが理由の1つになるのは明らかだし、愛菜さんから誕生日プレゼントに貰ったブローニングも、心許なくなってきた自分の実力を増強する目的があり、今の功夫もその延長線上にあるのは間違いない。

 だがそれで武偵高を卒業してプロの武偵になったからといって、そこでオレが自分に納得して理子や劉蘭と真剣に向き合うことにすんなりと繋がるのかと問われれば、それは違う。

 詰まるところ、オレがオレ自身を認められるかどうかというだけの話で、そこに彼女達を巻き込むのはそもそもとして間違いなのではないか。そう考えてしまった。

 たとえ今後、宣言通りに武偵高を卒業してプロ武偵として働いたとして、そこを転機に彼女達と恋愛云々を考えるというのも勝手な話で、そこでまたオレは何かしらの理由をつけて先延ばしにする可能性は十分にあり得る。

 それらを考えればオレの覚悟なんて……

 まさに幸姉の言葉通りの思考に至ってきた自分の弱さには腹が立ってくる。

 しかしそれと同時に振り回してしまった理子達への申し訳なさから今さら引き下がれないという意地も出てきて、グラグラな思考はその手に携帯を握らせて、その登録者の中からジャンヌ、理子、幸帆と何人かに電話を掛けようとしてしまう。

 自分だけでは決められないといった揺らぎが見て取れていながら、その指を携帯から離せずにいる時間がいくらか続き、オレへの好意という点で恋愛感情がないだろうジャンヌに電話してみようかと心が負けそうになった時。

 その携帯がこちらの意図とは別に突然鳴り出し、柄にもなく小さな叫びを上げて携帯を宙に舞わせてキャッチし、誰からかと確認すると、この迷いの元凶とも言える幸姉からだった。

 

『そろそろ誰かに電話して相談しようかなって考えてたんじゃない?』

 

「オレの心を読むのやめてくれよ……」

 

『京夜はあれこれいくつも悩みとか抱えられる器用な子じゃないからね。1つずつ解決しようとしたらまず私の件からだろうなって思っただけ。思考誘導ってやつよ。相手はジャンヌ辺りかな』

 

「もうやだこの人怖い」

 

 通話に応じて挨拶もなしでいきなりオレの悩みのタイムリーな話題をズバリ当ててきた幸姉の超能力者めいた予知は恐ろしい。

 いくら長年一緒にいて親の顔より見知った存在だからといって、これは引く。さすがにドン引きだ。ストーカー認定されてもおかしくない。

 とまぁ今に始まったことでもない幸姉の超察知能力へのツッコミはそのくらいにして、わざわざオレが誰かに電話して相談する前に阻止してきた感じの幸姉の目的について尋ねると、携帯越しに非常にリラックスするような声と共に布の擦れる音がわずかにする。

 あー、これホテルの部屋に着いて完全にオフモードに入りながらの通話だ。最悪全裸になるぞ。

 

「あのさ幸姉。せめて通話してる時は下着くらい付けててくれよ」

 

『えー、もうブラに手をかけちゃったんだけど……あーホックが外れて綺麗なおっぱいが露にー。そしてパンティーも謎の重力で落ちるー』

 

「…………まだジャケット脱いでシャツのボタン緩めたくらいだろ。変な実況するなよ」

 

『音だけでそこまでわかるとか京夜のエッチぃ。音だけをおかずにヌケるんじゃない?』

 

「話があるなら早くしてくれ。護衛の交代とか休憩に使う時間とかあるんだから」

 

『イライラは美肌の大敵だぞ』

 

 ビキッ!

 何でこんなにウザい絡み方をしてくるのか謎すぎる幸姉にはちょっとイラッとしてきた。

 野郎が肌を気にしてイライラするとでも思ってんのかああん? 幸姉を逆にイラつかせてお肌を荒らすぞコラ!

 と、出来もしないことに労力を割くだけ無駄なので口から出かかった言葉を必死に飲み込んで聞くのも嫌になる長いため息で呆れてることを表現して伝えると、言ったそばから携帯をスピーカーにしてテーブルにでも置いた幸姉は、空いた手でズボンを脱ぎにかかったっぽい音を立てるから、わざとっぽいその音の生々しさから創造力が働かないように携帯を遠ざけるのだった。遊ばれてるなぁ、オレ。

 幸姉の悪ふざけもズボンを脱いだだけに留まり、本人からするとぴっちりタイプのズボンは疲れるとかでマジだったようだが、こっちは耳が良いのを考慮してほしかったと愚痴りつつ本題に戻ると、携帯を持ち直した幸姉はさっきまでのおふざけモードな声色をちょっとだけ真面目にさせて口を開いてくる。

 

『話っていうか、京夜が少し調子悪そうだなって会った時から感じてたんだけど、その原因が今の悩みなのかなってのはさっきわかったのよね。それで私も悩ませるようなことを言った手前、フォローくらいしておかないとと思ったの』

 

「じゃあ幸姉が相談に乗ってくれるのかよ」

 

『乗らないわよ。男のうじうじした悩みを聞くほど私は優しくないもの。そういうのは勝手に解決しなさい』

 

 じゃあ何をフォローしようとしてるのこの人……

 どうやらオレが上海に来てからわずかながらに抱えていた悩みまで見抜いていた幸姉は、それを掘り返した責任感で電話してきたようだったが、それで悩み相談させてくれるのかと思えば違うらしい。

 全くもって意味不明な幸姉の行動にどう返せばいいかわからないオレに構わずに自分のペースで話す幸姉の独特のペースには尊敬するね。

 

『私が京夜に言うことは1つだけ。今そうやって悩むのは大事なことだけど、最重要じゃないわ。だから後回しにしなさい』

 

「それは……出来な……」

 

『出来ないとかじゃなーい。そうしなさいって言ってんの。今の京夜は何をしてるの? 劉蘭の気持ちに応える準備? 違うでしょ。劉蘭を良く思わない連中から守ることでしょうが。それをないがしろにしてまで頭を悩ませて、それで劉蘭を守れなかったじゃ、それこそ劉蘭が可哀想よ』

 

 フォローって何なんだと予測もつかなかったオレに対しての幸姉の言葉は、悩みを抱かせた本人から『後回しにしろ』という衝撃のもの。

 悩ませておいてそれかよと思うのは当然ながらも、次に指摘されたことがぐうの音も出ない正論で、そこでやっと言葉の意味を理解する。

 そうだ。今オレがやるべきことはNの脅威から劉蘭を守り抜くこと。

 功夫はそのための手段として有効だからいいが、今の悩みはそれとこれとは話が別。護衛の任務中にあれこれ考えて解決すべき案件では決してなかった。

 そんなことさえも判断がつかないほど思い悩んでいたことに気づかされて、その間にもしも劉蘭が狙われていたらオレはその役目を果たせていただろうか。

 答えはNOだ。無理に決まっている。

 

『問題を解決しようって気持ちがあれば、どうにか出来るだけの時間を確保してそこでやりなさい。劉蘭も理子だって今の京夜でも待つって言ってるんだから、焦って変な答えを出す方が見てられないわ。だから今はやるべきことに集中しなさい。明日には何か試験があるんでしょ。解決するならそっち! わかった?』

 

「……わかった。やっぱり幸姉には敵わないな」

 

『私はいつでも京夜の味方よ。これまでも。そしてこれからもね。だから京夜も良い男であろうとする努力を怠るな。初恋の相手が情けないのは私も寂しいんだからね』

 

「幸姉の初恋は幼稚園の先生だったんじゃ?」

 

『あれは単なる憧れ。っていうか幼稚園児で初恋はマセすぎでしょうが』

 

 一番大事なことを一番言ってほしい時に言ってくれる。

 そんな存在がそばにいる幸せを噛み締めながら、それに頼る自分の甘さもここに置いていこうと誓う。

 そんなかつての太陽が放つ光で出来る影だったオレは、本当の意味でその影から抜け出るという決意を胸に秘めて他愛ない会話のあとに通話を切り、今なすべきことをしっかりと見つめる。

 理子や劉蘭の気持ちに応えることも大事なこと。だがそれ以上に大事なことを見失うな。お前は劉蘭を守るんだろ。

 

「そのために今オレがやるべきことは──」

 

 翌日。

 この日はせっかく上海に来たからと昨日の要人が時間をズラして来訪してきて、個別に劉蘭と話し合いをしていた。

 その間、昨日までなんとなく集中しきれていなかったオレも自分の調子を確かめるように感覚を鋭敏なものへと変えていき、ちょっと鋭くしすぎてメイファンさんから「怖いわボケ!」と注意されてしまった。

 そういうのが表情に出るところがまだまだ未熟の極みだなと反省しつつ、夕方頃には来客もなくなり、アポイントメントを取っていた客の対応は終了。

 夕食までは割と暇になったので、劉蘭やココ姉妹、猴も見ている中でメイファンさんが試験を始めると言い出す。

 

「ほーん。昨日とは違って劉蘭達を邪魔者扱いはせんか」

 

「元々オレは騒がしい環境に放逐されてたので、この方が落ち着くまでありますよ」

 

「言うたな自分。ほなら見せてもらおか。その成果っちゅうやつを」

 

 そこに文句の1つも言わずに水の入ったペットボトルを取り出したオレにニヤリとしたメイファンさんは、この一晩でのオレの変化を見抜いたのか、それ以上は何も言わずに腕を組みオレをまっすぐに見てくる。

 その期待かどうかはわからない笑みに応えられるようにペットボトルから手の平に水を一滴だけ垂らして、その手をメイファンさんに見えるように前に伸ばして目を閉じ集中力を高める。

 幸姉との電話のあと、頭をまっさらにして集中したところ、会合後のイメージを反復することで身体中を絶えず巡る血液のように、常に丹田から捻出される気が全身に巡る感覚を掴むことが出来た。

 ただし気の流れを理解できたからといって、その気をどうこうしようとする方法はわからず、メイファンさんの言う通り、まずは常に開いている気穴の1つから気が放出される感覚に意識を集中。

 そうすることで手の平に垂らした水の雫が放出される気の影響を受けてわずかに動いた。気がした。

 しかしそのポジティブな捉え方は大事なもので、気づけば1時間ほども集中していた結果。その後にちょっと脱力感が襲ってきたものの、自分でも確信できるほど水の雫を動かすことが出来るようになったのだ。

 

「…………どうですか」

 

 未だに気とかそういう抽象的な力に疑念はあるのも事実だが、自分で出来てしまうと認識も変わってくるもので、劉蘭達の緊張する視線を浴びながらも手の平の水の雫を気の力で動かしてみせたオレは、スッと目を開けて目の前のメイファンさんの返答を待つ。

 与えられた課題はクリアしたはず。それなら答えは1つしかない。

 そんな期待とわずかな不安を胸に腕を組んでいたメイファンさんがそれを解いて腰に手を当て小さくため息。

 

「……はぁ。しゃーないか。まさかホンマにやってまうとは思わんかったわ」

 

「えっ、それはちょっとズルいのでは……」

 

「そ、そうですよ美帆! クリアできない課題を与えるなんて」

 

「あーもう! うるさいわぁ! 稽古つけたるんやから文句言うなや! スパルタでやるから覚悟せいや!」

 

「ごり押しネ」

 

「ごり押しヨ」

 

「美帆、割と脳筋アル」

 

「後先考えてないアル」

 

「良かったですね、京夜!」

 

 何のため息かと思えば、まさかの振り落とすための試験だったと語るメイファンさんに嘘だろとマジで驚く。

 それには劉蘭達でさえ文句やツッコミを容赦なくしていて、口々に言われることに鬱陶しいと振り払う様はちょっと大人げなかった。

 その後、バンシーの死の宣告によるある程度の命の保証もあって、油断はしないが適度に気を緩めるだけの余力を残した護衛を続けつつ、メイファンさんによる気のコントロールの功夫が宣言通りスパルタで行われる。

 寝る時間も削って功夫をこなしてみても、メイファンさんでさえ1年以上もかけて培った発勁だ。そう簡単に何かを掴めることもなく、無意味に時間だけが過ぎていく感覚は凄く歯痒かったし、時間を経過を異常なほど早く感じたのだった。

 そして護衛任務に就いて8日目の昼下がりに事は起きた。

 

「……はい。はい、わかりました」

 

 劉蘭の命が脅かされたわけではないが、それに関わる非常に重要な案件で本人から連絡が入り、それに応対した劉蘭が電話を切ると、少し落胆したような顔を見せた劉蘭は事実だけを伝えてくる。

 

「趙煬は……明後日の会議までには戻れなくなりました」


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