緋弾のアリア~影の武偵~   作:ダブルマジック

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Slash12

 

 ──俯瞰で自分を見ているような感覚。

 もっと言えば幽体離脱しているような、そんな感覚がオレを襲い続ける現状。

 レス島の南の海岸にて囮捜査を実行していたオレ達が行動を起こした4日後に、ついに囮であるオレに幻聴のような女の歌声が聴こえたかと思えば、すぐにオレの思考は自由を失い、体までが勝手に冷たい海の方へと歩いていってしまう。

 その状況をオレは危機感とか何かを感じることもなく、ただ傍観者として見ているような認識で見ることしかできなく、何をどうするかの思考を切られている。

 だからこの状況をどうしようとか全く考えることができずに、自分の体が海へと沈むのを黙って認識していることしかできない。

 ──バヂィィン!

 どうしようもないとか、そういうことさえも考えられなかったオレの体が海へと足を踏み入れる直前。

 不意に胸の辺りで電流でも流されたような衝撃が走り、その痛みでオレの思考が急速に戻って回復。

 あっぶねぇ……事前に仕込んでた電極装置を羽鳥が作動させてくれたんだ。

 これは催眠術などにおける対策としてショックによる覚醒を促すためのものだったが、効いてくれたみたいだ。

 依然として女の歌声は聴こえているが、1度でも解けると効力が失われるのか異常は起きなかったので、また電気ショックをやられても困るが、まだ催眠状態だと相手に思わせておくことにして、夜の海にあえて足を踏み入れていく。

 さすがに濡れてしまうと電気ショックが殺人兵器になりかねないので、羽鳥も足が海に触れたところで再度電気ショックを流してくることはなかったが、オレもオレでどこまで行くべきかの判断に迷う。

 このまま体が海に沈んだタイミングで何か仕掛けてくるのか、はたまた溺れて苦しんでいるところにとどめを刺しに来るのか。

 どうあれ水中ではオレもまともに動けないから、顔が海に沈んだタイミングで何もなければ引き返そう。それで手遅れだったら……死ぬ、かな。

 とかなんとか考えてるうちに胸まで海に浸かったオレに依然として変化はなく、しかし歌声は聴こえ続けているから限界まで行くしかなく、そうと決めた顔が海の中へと入り込んだ。

 当たり前だが夜の海は視界ゼロ。目を開けようと何をしようと何も見えることはなく、何が来ても対応はできないだろう。

 だが残された聴覚と触覚でわずかな変化を逃すまいと集中すると、オレの体を不自然な水の流れが沖の方へと導こうとしているのがわかった。相当に強いぞ。

 ──これは、ヤバイ!

 まだ足はかろうじて着くが、この流れに乗れば数秒で溺れるところに到達する。

 そうなったら確実に死ぬと確信したオレはなりふり構わずに羽鳥から渡されていた特殊な製法によって作られた弾丸、武偵弾を手投げして前に送り出すと、手動でも起爆できる炸裂弾(グレネード)はすぐに海中で爆発を起こして、沖へと向かいかけていたオレの体を止めて、水の流れも強引に変える。

 そのチャンスを逃さずに炸裂弾の痛みも堪えて海中から一気に浜へと戻り、なんとか溺死を免れる。

 

「はぁ、はぁ、くっそ……」

 

 それに安堵してる場合ではないので、すかさず閃光弾(フラッシュ)を海上へと投げ込んで周辺を照らし、何かいないかを確認しにかかるが、備えがないオレでは閃光弾の光が邪魔でしかない。

 その辺は近くにいる羽鳥とヴィッキーがどうにかしてくれてると信じて、目を閉じていたオレは聴こえなくなっていた歌声が海中でもはっきりと聴こえたことから、音。つまりは振動によって聴こえるものではないと考察。

 音はどうしたって大気中と水中では伝わり方に差が出るのに、それがないならそうとしか思えない。

 閃光弾の光が収まり目を開けてみれば、すでに周囲には何の変化もなくこれまでと同じような静寂の中で波の音だけが聞こえてくる。

 

「…………もう無理だな」

 

「さすがに明日また、とはいかないだろうね」

 

 ずぶ濡れになりながらこの状況から次にどう動くべきかを考えていると、待機していた羽鳥とヴィッキーが安全を確認しながら近寄ってきて、独り言に言葉を返してくる。

 ヴィッキーからタオルを受け取りつつその場で着替えながら、今の出来事での成果を報告。

 

「それにしても突然だったね。君には何か幻聴でも聴こえていたのかい?」

 

「ってことはお前らには聴こえてなかったか。女の歌声が頭に直接な。音じゃない念みたいなものかね。それを聴いたら体が自由を奪われた」

 

「電気ショックは効いてたの?」

 

「それは効いた。それから歌声の影響は受けなくなったが、誘い込むために催眠状態のフリをしてた」

 

「それで炸裂弾と閃光弾を? 君も大概、出費を惜しまない人間になってくれたね。武偵弾の請求を君に出してあげようか?」

 

 その報告で確認が取れたのは、オレにしか聴こえなかった歌声は『対象を取る』タイプのもので、無差別に効くものではないこと。

 それと切羽詰まってたから忘れてたが、武偵弾が高価だったこと。請求されたら死ねる。

 ただそれを表情に出すと本当に請求されるのでポーカーフェイスで屁理屈として「オレに預けた時点で使用権はオレにあった」と言ってみせると、オレの嫌そうな顔がお望みだった羽鳥はつまらなそうに「仕方ないね」と引き下がった。危なかったぁ……

 

「ねぇ、話をするのはいいけど、それってここじゃなきゃできない? 暗いから捗るものも捗らない気がするんだけど」

 

「「いや、やることはある」」

 

「な、なによ……」

 

 個人的な危機を脱して着替えも終えるところで、車からペンライトを持ってきたヴィッキーがオレと羽鳥の顔を照らしながらにまともな意見を述べてくるが、嫌なことにここでも羽鳥と意見が被りヴィッキーもそれにはちょっとビックリする。

 もちろんここで今夜のうちにやっておくべきことは1つしか思いつかないが、羽鳥は違うと信じて先に言わせると、ヴィッキーからペンライトを借りた羽鳥は適当な漂着物を拾い上げて、オレが着ていた服を絞り、その上からデンマーク語、英語、ドイツ語、スウェーデン語、ノルウェー語で同じ内容の文を書き上げて漂着物にくくりつけ即席の看板を作った。

 

「これらの言語が通じるかどうかはさておき、とりあえず私が今夜のうちにやっておくことはこれだけだ」

 

「お前って何ヵ国語出来るんだよ」

 

「まさか。こうなることを想定して事前に用意していただけだよ。いざデンマーク語やスウェーデン語で話されてもわからないよ」

 

 作った看板を砂浜に突き立てながらにオレの呆れ気味の質問を笑いながら返した羽鳥は、どうやらこの展開も想定していたようで無駄がない。

 そしてオレもオレで悲しいことにやろうとしていたこと自体は同じだったから、流れるように「さぁ君は何をするのかな?」とターンを回してきた羽鳥に舌打ちして車へと戻るしかなかった。殴りてぇ。

 その帰りの車の中でも話は続け、さっきの看板に何を書いたのか推測の域を出ないヴィッキーがオレに尋ねてくるが、そこは羽鳥に聞いてくれと思わなくもない。

 

「オレと羽鳥がやろうとしたことが同じならだが、あれには待ち合わせ時間でも書いたんじゃないか?」

 

「ふーん。そんなのでホイホイ出てきたら苦労はないと思うけど?」

 

「出てくるさ。むしろ出てこずにはいられないよ。こちらにはすでにカードがあるからね」

 

「カード? えーっと……どんな?」

 

「ヴィッキー……もう少し頑張れよ。さっきの出来事。あの結果でどう状況が変わった?」

 

「状況…………ああそういう。2人とも頭の回転が早いのね。それにあそこで気づいてたわけでしょ」

 

 これがヴィッキーなりの話を円滑に進めるための演技なら良かったが、割とマジでわかってないっぽいからヒントを与えたら、ようやく理解してくれてひと安心。

 仮にもAランクの武偵だから躓かれても困るが、さっきの出来事でこれまでと変わった1つの事実。

 それは『神隠し事件が現実に起きうること』が証明されたことだ。

 方法はこの際後回しでいいが、あくまで噂話や伝説でしかなかったことが事実として公表されれば、たちまち話題は拡散してこのレス島の周辺は徹底的に調査が行われることになる。

 そうなればいくら人魚、かはまだわからないが、この周辺に隠れ潜む存在が明るみに出るのも時間の問題。

 そういうことに頭が回らないアホならとっくの昔に見つかっているはずなので、その知恵がある大前提で羽鳥はあの看板に待ち合わせの時間と、おそらくはカードと称したちょっとした脅しをやんわりと混ぜているはず。

 

「『君達と事を荒立てるつもりはない。話がしたいだけで、その内容によっては君達の存在も秘匿することを約束する』。そんなことを書いてはみたけど、交渉の際はまず君だけが行ってくれ。複数人がいきなり行けば警戒が増すはずだ」

 

「何が出てくるかもわからないのにまた餌をやれと? 鬼だなお前」

 

「じゃあさっきの武偵弾……」

 

「時間はいつだ」

 

「フフッ。明日の午前0時」

 

 今のご時世。引っ越しなども衛生写真なんかに写り込む可能性は否定できないし、事前の備えなしに移動するのはリスクを伴う。

 それならその場に留まれる選択があればそちらを選ぶはず。バンシーもかつて何者かに接触されたようなことを言っていて、未だにここにいるなら交渉の余地があるはずなのだ。

 そこまで頭が回ってそういうメッセージを残してきた羽鳥なら、すでに交渉で引き出すべき事も考え始めているだろうが、オレもオレで交渉に当たってのリスクも考えておく。

 向こうにとって手っ取り早いのはもちろん、オレ達が死ぬことだからな。

 

 ホテルに戻ってからオレがシャワーで海水やらを落として上がる間に、羽鳥とヴィッキーが明日の連係の打ち合わせをしていて、そこにオレが加わるとあからさまに嫌な顔をした羽鳥は無視。

 まずはオレの殺されるリスクを下げる意味でもヴィッキーには交渉への参加は控えてもらい、可能なら羽鳥が同行する流れを作る。

 それでオレ達を殺しても外に情報を漏らす存在がいる状況で交渉に持ち込みやすくなる。

 次に交渉の際に向こうが何を指定してくるかの推測と対策になるが、こればかりは甘んじて乗るしかない部分が多くなるだろうな。

 それらの共通認識が為されながら、オレが咄嗟に投げた閃光弾の炸裂中の写真をちゃんと撮っていた羽鳥がテレビに繋げて連写していたものを画面にスライドで順番に表示。

 さすが武偵弾という威力の閃光弾のせいでかなり広範囲が光で見えなかったが、距離もあったからか発生地点から離れた位置は強い照明を当てられた程度の鮮明さを保っていた。

 オレの姿も写り込んでいるのが確認できたので、その辺りを拡大表示して数枚を見比べてみて違和感を探す。

 

「……ここと、ここ。2ヵ所だな」

 

「大きさはわからないか。これがイルカサイズとかならウェイトでも勝てなくなるけど」

 

「アンタ達って本来するべきリアクションしないから困惑するんだけど……」

 

 その中にはハッキリとではないが、オレのすぐ近くの海面付近に何かの影が沈み込むのと、奥の離れ小島の付近で波とは違う水しぶきが発生している変化が見られた。

 大きさは人サイズと同等かそれ以上な可能性が高いが、断定するには材料が少ない。

 そうして冷静な分析をするオレと羽鳥が人魚らしきものを普通に受け入れていることに、まだ普通の枠にいたいらしいヴィッキーがツッコミを入れてくるものの、その段階はもう過ぎているためにヴィッキーの反応が逆に新鮮に思えてしまう。

 いやぁ、オレもこんな現実を普通に受け入れる人間にはなりたくなかったよ? でも仕方ないじゃん。オレの意思とは無関係に向こうが関わってきたんだから。

 

「……小娘どもという発言から複数体の活動は推測していたが、人を選別していそうなところを見るに、誰彼構わずに襲ってくるわけでもないんだろうね」

 

「何かしらの条件が満たされないとあの歌が聴こえないのかもしれないな。肉声じゃない、羽鳥とヴィッキーには聴こえなかったことから、今のところは距離的な問題くらいしか予測できないが」

 

「精神的な問題の可能性もあるね。病は気からと言うように、その聴こえた歌とやらも精神的に付け入る隙が必要なのかもしれない」

 

「精神的にって、それってもしかしてキョーヤ。連日で私にフラれて演技でも傷ついてたり?」

 

「…………役になりきるってそういうことなんじゃないのか……」

 

 ヴィッキーにも早くこっちの側に来てもらうことを願いつつ話は淡々と進み、先ほどの催眠術みたいな歌への対策も考え始めて、距離問題は最有力ながら羽鳥が言う精神状態によるかもしれない推測でマズい反応をしてしまった。

 演技とはいえ美人のヴィッキーを口説き続けてフラれることを繰り返して、男として少しでも傷つくことの何が悪いというのか。

 いや、決して傷ついたなどということもなきにしもあらず程度なのだが、口から出た言葉があれなせいで羽鳥からは「へぇ、君が傷心ねぇ」などと笑われ、ヴィッキーには「キョーヤは普通にしてればイケメンだから大丈夫よ」と謎の励ましを受けることに。

 だから別に傷ついたとかないんだよ!

 

「……その辺も考慮するとして、またあの歌が聴こえたらその時点でさようならだ。ヴィッキーには目視できる距離からの観測はさせない方が良いだろうな」

 

「最悪、ヴィッキーにはこのホテルに待機してもらうことにもなるが、向こうもこちらが対策しないなどと思ってはいないだろうし、口封じ目的で強行な手段はないと信じたいね。何にしても向こうには身を隠す場所が確実にあるから、明日はそこに招かれてしまう可能性を前提にした方がいい」

 

「そうなる時は時間くらい指定して戻ってきてよね。戻って来られなかったら情報を漏らすくらいの脅しは必要でしょ」

 

「確かにな。もしも行った先がこっちと時間の流れが違ったりして、戻ってきたら10年後だったとか笑えないし」

 

「日本の浦島太郎みたいな話かい? まぁ相手が相手だし、そこは考慮すべきところかもね」

 

 ムキになると余計な笑いを与えるのはわかりきってるから心に留めたツッコミはあとで寝る前に枕でも殴って発散するとして、大人になったオレからいくつかのケースを想定した対応の話が真面目に繰り広げられる。

 その中には想定するべきか真面目に対応を考えるべきかなことまであったものの、常に最悪を想定したシミュレートはいざという時に「あの想定よりマシだ」と思える精神的な余裕にも繋がるので無駄では決してない。

 まぁ人外の相手だとその想定をいつも上回る最悪がついて回るから「あの想定より酷いじゃねぇか!」ってなる可能性も十分にあるが、それはそれで開き直ることもできるので悪いことではない。展開としては悪いことだけど。

 

「問題はまだあるけど、その辺はいま考えても仕方のないことかもしれないね。それから日程的に私も猶予はない。明日の交渉の結果に関わらず、もう一方の件は君とヴィッキーに任せることになるが、何か問題はあるかい?」

 

「お前の危惧する問題ってやつがどのくらい先を見据えたものかによるが、この件を終えて言わないとかあると問題だろうな」

 

「荒事になるなら私はパスしたいなぁ。アンタ達と違って私はか弱い女の子だし」

 

「セクハラしようとしたマルボシをキックボクシングで半殺しにしたとか噂で聞いたことあるけど、それでか弱い女の子ねぇ」

 

「素人相手とでは勝手は違うだろう。ヴィッキーには選択の自由はあるから好きにしてくれて構わないよ。君は他に予定があろうとやれ」

 

 しかし夜ももう遅いとあって、夜型の羽鳥の調子が上がってくるのに反比例して、基本はノーマルサイクルのオレとヴィッキーが思考を落とし始めたのを察して、羽鳥が話を切り上げにきた。

 羽鳥は朝に寝て昼過ぎに起きるので、3人での話し合いは夕方頃がベストと判断しつつ、寝られるとあって嬉しそうなヴィッキーのか弱いアピールには苦言を呈して見送り、これから何かするっぽい羽鳥も出ていくならさっさとしろと目で訴えてきたので、お望み通りに羽鳥の部屋を出て今夜の出来事を整理してから就寝していった。

 

 翌日の夕方。

 オレとヴィッキーが起きた頃に寝た羽鳥が頭を覚醒させるまで待ってから始めた今夜のための作戦会議は、一晩寝かせたおかげで色々と可能性や対策が飛び交い、割と有意義なものにはなった。

 食べられそうになったらオレが犠牲になるというところ以外は概ねで合意して、最後の晩餐とならないためにあえて質素な夕食で済ませた後は、出すことにはならないようにするが各武装の整備に時間を使う。

 要は暇だったんだが、羽鳥は羽鳥で次の仕事の話でどこかに連絡したりとマジで休暇返上のブラック就業で動いていた。

 それには同じリバティー・メイソンのヴィッキーが信じられないとオレに漏らしていたが、オレもこいつの仕事熱心には恐怖すら覚えるね。

 まぁ動いていないと血の呪いが体を蝕んだりとあるのかもしれないが、単に働くのが好きな部類かもしれないな。そんな顔はしたこともないが。

 

「さて、では行くとしようか。ん? 何だいその顔は?」

 

「いや。リバティー・メイソンが頭を抱えるのがわかるなぁと思ってな」

 

「アンタが休まないからキョーヤのリバティー・メイソンへのイメージが悪いのよ」

 

「休む? ちゃんと休んでいるじゃないか。今朝だって5時間も寝たんだけどね」

 

「「そういう意味じゃない」」

 

 絶対にわかっててあえて言ってるのだが、ツッコまざるを得ないとぼけ具合にオレとヴィッキーは口を揃えてツッコミを入れてしまう。

 こいつが特殊なのはわかっている。わかってはいるが、オレもリバティー・メイソンに入ったらこうなるかもしれない可能性があると、やはり勧誘は断固として拒否させてもらう。自由が欲しい!

 そうやってオレとヴィッキーをからかってひと笑いしてから車を出しにホテルを出ていった羽鳥に呆れながらも、今はやることをしっかりとやろうと切り替えてオレとヴィッキーもホテルを出て車へと乗り込み、人魚の待つ南の海岸へと足を運んでいった。

 

「鬼が出るか蛇が出るか」

 

「そこは人魚であってほしいね」

 

 ヴィッキーと車を海岸よりも離れた位置で待機させて歩いて海岸まで来たオレと羽鳥は、昨夜に取り付けた簡易の看板に何か変化はないかを確認しつつ、指定した時間まであと3分と迫ったことも確認。

 看板はいくつかの言語で同じことを書いていたのだが、いま見ると英語だけが器用に残されて他の言語はインクを落とされてしまっていた。

 これは向こうからの返答で英語でなら会話可能というサインだと思われる。

 とりあえず言語は通じそうなのでそこをクリアしたことに少し安堵し、約束の深夜0時になるのを警戒しながら待ち、鐘などの音もなく静かに迎えた深夜0時ジャストに、オレと羽鳥の頭の中へと謎の女性の声が響いてきたのだった。


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