緋弾のアリア~影の武偵~   作:ダブルマジック

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イ・ウー編
Bullet18


 不意打ちのごとく、ご褒美と言って突然オレにキスをしてきた幸姉。

 悔しいが、それは凄く嬉しくて、幸姉が離れるまで拒むことができなかったオレは、それからゆっくりと名残惜しそうに唇を離した幸姉から目を逸らせずにいた。

 

「ふふっ、京夜ったら、もっと欲しそうな顔してる」

 

「なっ!? そんな顔はしてない! ただ、突然でビックリしただけで……」

 

「私は嬉しかったけどなぁ、京夜とのキス」

 

「誰も嬉しくないなんて言ってないだろ」

 

「その様子だと彼女はいないな? 京夜は奥手だからねぇ」

 

「からかうなよ、幸姉。幸姉だってその『性格』のせいで彼氏なんていた試しがにゃい!?」

 

 そうしてオレが反撃混じりの言葉を言い切る前に、幸姉はオレの両頬を引っ張って言葉を切る。

 

「私はいいの! 京夜が私を理解してくれてればそれで満足。だからそんな話しない! アーユゥオーケイ?」

 

「イ、イエフイエフ!」

 

「よろしい」

 

 オレの返事を聞いた幸姉はそれで手を放してオレの上から退いて立ち上がり、手を差し伸べて立ち上がらせてくれた。

 

「さてさて、話すことも色々あるけど、話せないことも色々だ。どうしよっか?」

 

「……とりあえず『今日の幸姉』はまだ話ができるから、日付が変わらないうちに話せるだけ話してほしいかな」

 

「まだとは失礼ね。私はいつでもきちんと話す時は話すよ」

 

 そうは言うけど、実際そうじゃないから困るんだよ、幸姉。

 明日には『話さなくなる』かもしれないんだから。

 そう思ってると、察した幸姉がまたオレの両頬を掴もうとしたので、今度はしっかりガードした。

 防がれた幸姉はムスッとしたが、まぁスルーだ。

 

「それで? 幸姉はイ・ウーで1年半も何してたんだよ。まさか犯罪なんかしてないよな?」

 

「それは大丈夫よ。京夜を裏切るような真似はしないわ。ただ、イ・ウーについては何も話せないわ。京夜はこれ以上踏み込んじゃダメ」

 

「イ・ウーが危険な組織なのは今までで十分理解できてるよ。そんなところに幸姉がいるのが心配なんだよ」

 

「京夜は優しいね。昔から私の心配を一番にしてくれる。そして『私の言うことをなんでも聞いてくれた』。それは……今でも変わらない?」

 

 ……なんだ? 何を言うつもりだ? 幸姉……

 オレは少し嫌な予感を感じながら、その問いにためらいながらも首を縦に振る。

 

「そっか! じゃあ、これから京夜のお家でしばらく厄介になりたいな!」

 

「…………はっ?」

 

「はっ? じゃないよ京夜。私これからしばらくこっちにいる予定なの。宿代なんてバカにならないし、『あの人』と一緒なんて色々心配だもん。だから泊めて? あ、もしかして寮だから他の子がいる? それだと私も気を遣うかもなぁ……」

 

 ……オレのカンが外れた? いや、あながち外れてはいないが。

 今オレの部屋に招いたら、もれなく小鳥と鉢合わせだからな。どうなるかはなんとなく予測できるし。

 だが、あの嫌な感じ……無視するには少々はっきりしすぎた。

 

「一緒に住んでるのは……オレの戦妹だけだけど……」

 

「あら! あらあらまあまあ! 京夜ったら戦妹と同棲? お姉ちゃんビックリ!」

 

「はぁ……幸姉、同じ『武偵』なんだから徒友制度くらい知ってるだろ。健全な師弟関係だよ。線引きはちゃんとしてる」

 

「向こうはそう思ってないかもよ?」

 

 はっ? んなわけあるかよ。幸姉も面白いことを言う。

 

「それでは早速その戦妹ちゃんに会いに行きましょう! さぁエスコートして京夜!」

 

 こうなった幸姉はオレの意見を半ば無視するからなぁ。やっぱり『今日の幸姉』も話が通じにくいし。

 日を改めるしかないか……『何日かかる』だろう……

 思いながらオレは、テンション高めな幸姉をエスコートして家へと連れていった。

 その間、誰にも見られないようにしないと、後日変な噂が流れるからな。武偵高はそういう意味では厄介極まりないよホント。

 

「おかえりな……さ……い……」

 

 誰にも見られないように部屋まで帰ってきたオレは、いつものように中に入ると、それを察知した小鳥がキッチンからパタパタと玄関に来て迎えてくれたが、後から入ってきた幸姉を見て声が小さくなってしまった。

 

「あら、あなたが京夜の戦妹? やだぁ! 超可愛いー!」

 

 幸姉は迎えた小鳥を見て目を輝かせると、オレを押し退けて小鳥に抱きつき頬擦りを始めた。

 

「え? あ、あの、京夜先輩? この方は?」

 

「あー……んーと……オレの……」

 

「京夜のご主人様よぉ」

 

「ちょっ!? 幸姉!」

 

 ざっくり言いすぎ!

 確かに間違ってないけど、説明省くと何か色々問題が……ほら、小鳥も驚いてるし。

 

「あ! 正確には『元』ご主人様だねぇ」

 

「幸姉は黙っててくれ。小鳥、この人は真田幸音。オレの姉みたいな人だ。今幸姉が言ったのは、家のしきたりに従った主従関係だったって意味。他意はない」

 

「そ、そうなんですか……と、とりあえず離れていただけるとありがたいです」

 

 ふう。なんとか誤解されずに済んだか。

 それから騒ぎを嗅ぎつけた銀狼、美麗と煌牙がやってきて、煌牙の頭の上には昴が乗っていた。新しい特等席か、昴。

 

「ん? この子達、ブラドの下僕? 京夜が手懐けたの?」

 

「幸姉!」

 

 小鳥を抱いたまま、美麗と煌牙を見た幸姉がなんのためらいもなくブラドの名を口にしたため、慌てて注意する。

 小鳥は何も知らないんだから、余計なこと言わないでくれ。

 

「ブラド?」

 

「ああごめんね。ブラドっていうのは私の知り合い。その人は最近連絡取れなくなっちゃって、それで色々と手放しちゃったみたいなの。この子達も身寄りがなくなったところを京夜に拾ってもらったんでしょ。そうよね? 京夜」

 

「あ、ああ。まぁ、な」

 

 ……ったく。こんな感じでも頭の回転は抜群に良いから驚かされるよホント。

 

「あ、まだ名前聞いてなかったね。ホワッチュアネィム?」

 

「あ、はい。私は橘小鳥って言います。よろしくお願いします!」

 

「はーい、よろしくねー」

 

 とりあえず幸姉の来訪によるドタバタを治めて、夕飯を食べ始めたオレ達。

 まぁ当然幸姉の分まで作ってあるワケもなかったので、オレと小鳥の分を分けて食べることに。

 美麗と煌牙は魚肉ソーセージをガツガツ食べ始めて……って、それで満足なのかお前達。なんだかレキのとこのハイマキみたいだな。

 

「やっだぁ! これ全部小鳥ちゃんが作ったの? 美味しーい! これならいつでもお嫁に行けるね」

 

「そ、そそそそんなお嫁さんだなんて!」

 

「もう私の妹にしたいくらいよ。京夜が貰ってあげなさいよ」

 

「幸姉には『幸帆(ゆきほ)』がいるだろ。それに小鳥にだって好きな奴くらいいるって」

 

「私、昔からあの子に嫌われてるのよねぇ。話しかけても素っ気ないし、壁作られてるもん」

 

「気のせいだろ。オレがいる時は仲良く話してたし」

 

「さてさて、妹とそうなっちゃった原因。それは一体誰のせいでしょうね?」

 

「他人のせいにするなよ。そいつが可哀相だろ」

 

「小鳥ちゃんも大変ねぇ。京夜は昔からこんなんなのよ? 困っちゃうわよね」

 

 こんなんって酷くないか幸姉。小鳥も同意するように「へぇ」とか言うなよ。

 思いつつオレは黙々と夕飯を食べて、もう仲良しになった幸姉と小鳥は、ゆっくり話しながら食べていく。

 

「ねぇ小鳥ちゃん! 一緒にお風呂入ろっか! 洗いっこしよっ!」

 

「はい! 喜んで! 幸音さんって凄くお話しやすい方で安心できちゃいます!」

 

 小鳥、それは『今日の幸姉』だからだ。明日にはそのイメージが崩れるかもしれないぞ。

 オレはそんなことを考えつつも、楽しそうにする2人を見て割り込む気にもなれず、さっさと食べ終えてリビングに移動して美麗と煌牙とテレビを見ながらくつろぎ始めた。

 

『連日、港区において砂金や砂鉄といった工業用の砂が盗まれる事件が発生し、いずれも同一犯である可能性が高いようです。警察は武偵高にも調査依頼を要請したようで――』

 

 何気なくニュースを見ていたオレだったが、夕飯を食べ終えた幸姉がすぅっとリビングにやってきてチャンネルを許可なく変えていき、動物バラエティー番組でその手を止めた。

 

「あら可愛いワンちゃん!」

 

「幸姉、風呂入るんじゃないのかよ」

 

「小鳥ちゃんが片付け終わらせたらね。お客様に手伝わせたくないってきかないから、それまで暇潰し。あと着替え用意してほしいな。小鳥ちゃんのはちょっとサイズが合わないから」

 

「……ジャージでいいよな?」

 

「えー、そこはYシャツでしょ。京夜はわかってないなぁ」

 

「Yシャツがいいならそうするけど」

 

「違うー! 私が着たいんじゃなくて、京夜が着てほしいんじゃないかって意味!」

 

「意味わからん」

 

「想像してみなさい? 私のジャージ姿とYシャツ姿。どっちがエロい?」

 

「そりゃYシャツのが……って! 幸姉にエロとか求めてないし!」

 

「じゃあ私に何を求めてくれるのかな?」

 

「健全でまともな思考……イタッ!?」

 

 オレが言い切る前に神速のチョップが頭に振り下ろされる。

 ちなみに言っておくが、オレはこういう時でも油断は一切してない。

 つまり幸姉は『オレの反応を越える動き』で手を加えてきてるのだ。

 アリアにさえさせないオレのちょっとした自慢なんだが、この人の前では自慢にすらならない。

 

「私は十分まともよ! 失礼なこと言わないで! あ、そうだ京夜。あなたにこれ渡しておくわね」

 

 そうやって文句を言ってきた幸姉は、突然思い出したようにそう言って、ポケットから碧い小さな宝玉がついたペンダントを取り出しオレの首にかけた。

 

「これは?」

 

「うーんと、『魔除けのお守り』。それ、私だと思って大切にしてね」

 

「……幸姉がオレにプレゼントなんて初めてじゃないか?」

 

「そうだっけ? じゃあ特別大事にしてね」

 

「努力はする……イタッ!」

 

 そう言ったらまた幸姉はチョップ。恥ずかしいから濁しただけだよ、幸姉。

 幸姉からのプレゼントなら、一生大事にするって。

 それから片付けを終えた小鳥と一緒にお風呂へと向かったのを確認してから、着替えを引っ張り出すため部屋に行くと、ジャージがない。

 あ、そういや着てないから教室に置きっぱだった。そうなるとオレの普段着とかを……

 そうして悩んで用意したのはYシャツ。オレも男なんだなと強く思うよホント。

 それで幸姉の着替えを脱衣場にパッと入り、置いてすぐ退散しようとしたが、浴室から聞こえる2人の会話につい耳がいってしまった。

 

「ねぇ、小鳥ちゃんは京夜のこと、好き?」

 

「はい! 好きですよ。頼りになりますし、私の面倒もよく見てくださいますし」

 

「あらら。そういう話じゃなかったんだけどねぇ。本当に公私をきっぱり分けちゃってるんだね。お姉さんちょっと残念。じゃあ京夜って学校でモテてたりする? あの子普通にしてたらカッコいいから、気になっちゃうなぁ」

 

「そうですねぇ……京夜先輩は悪評もあるので表立ってアプローチする方は見かけませんね。あ、でも陰では人気ですよ」

 

 何の話してんだ。もっと他に話すことあるだろ。家族の話とかそういうの。

 

「悪評ねぇ……あの子京都の武偵高ではインターンで私と同学年の扱いになってたくらいなのに。武偵ランクだってえ……」

 

「幸姉!」

 

 ……はっ! しまった! 思わず叫んじまった。

 

「京夜のエッチー。覗きに来たなぁ?」

 

「着替え持ってきただけだ。あんまり余計なこと言うなよ。特に『昔』のことは」

 

「京夜に注意されちゃった。じゃああがろっか小鳥ちゃん」

 

「え! まだ入ったばっかり……それに今京夜先輩が……」

 

「真に受けるな小鳥。反応見て遊んでるだ……」

 

 ガランっ!

 そう思い込んでたオレは、突然開かれた浴室のドアの向こうを思わず見てしまった。

 そこには何の恥じらいもなく正面から向き合う幸姉と、反射的に背中を向けた小鳥がいて……

 

「やだ京夜ぁ! あがるって言ったのにぃ! これはもう訴えたら勝てちゃうよぉ。それから責任とってね?」

 

 と、遅れて身体を隠した幸姉に、興奮よりも怒りが上回ったオレは、それをぶつけるように浴室の扉を乱暴に閉めたのだった。

 

「京夜、結局Yシャツにしてるじゃないの」

 

 そのあとちゃんとお風呂から上がった幸姉は、用意したYシャツ姿でリビングに顔を出し言いながらにやにや笑ってきた。

 しかもYシャツのボタンは真ん中の2つしか留めてなくて、非常にきわどい。

 そして小鳥に至ってはオレと目を合わせない。恨むなら幸姉だよな、あれは。

 

「ジャージがなかったんだ」

 

「じゃあ普段着でいいじゃない?」

 

「京夜先輩も……やっぱり男の人なんですね」

 

「やっぱりってなんだ小鳥。とりあえず幸姉はちゃんとボタン留めてくれ。目のやり場に困る」

 

「あ、今ブラ付けてないのよ?」

 

「言わなくていいっての!」

 

 くそっ……『今日の幸姉』と話すといつも主導権が握れない。

 今日はもう寝よう。明日になれば状況も変わるはずだし。

 オレに注意された幸姉はにやにやしながらボタンを下から留めていったが、上2つは留めるつもりがないらしい。谷間が見えるが、まぁこのくらいなら。

 思いつつオレは立て続けにちょっかいを出してくる幸姉に疲れてしまい、のそのそと寝室に向かうのだった。

 

「あら、もうおやすみ? 疲れてたのかしら?」

 

「幸姉が疲れさせてるんだよ。久々なんだから加減してくれ。幸姉は楽しいだろうけど、オレはしんどい」

 

「添い寝してあげよっか?」

 

「……幸姉は小鳥の上のベッドで寝てくれ。オレの上でもいいけど、絶対騒ぐなよ」

 

「あら、スルーされちゃった。ホントにお疲れみたいね。じゃあ私はもう少し小鳥ちゃんとお話しよっかな。いいよね、小鳥ちゃん?」

 

「あ、はい。大丈夫です。京夜先輩はゆっくり休んでくださいね」

 

「ああ、おやすみ……」

 

 そうしてオレはいつもより圧倒的に早くベッドに入り、まだリビングで楽しそうに話す幸姉と小鳥の声を聞きながら、驚くほど早く深い眠りに就いた……

 ――どうか明日、起きたら『一番まともな幸姉』でありますように――

 そんな淡い願いを抱きながら……

 そして翌朝。

 射し込む日の光で目が覚めたオレの視界に最初に飛び込んできたのは、すぐ隣ですやすや眠る幸姉の顔だった。

 それにはオレもビックリして頭を引き横の壁に後頭部をぶつけてしまう。

 幸姉、寝ぼけてたか、面倒臭がったな。

 などと思いながらも、眠る幸姉を起こさないようにベッドから抜けたオレは、すでに起きてキッチンで朝食を作っている小鳥に話し掛けながら席に座る。

 

「幸姉、最初からオレのところに潜り込んでたか?」

 

「えっと、私が寝る時にはちゃんと京夜先輩の上のベッドで寝てましたよ。朝起きたら京夜先輩のところで寝てましたけど」

 

「はぁ……ってことは面倒臭がったわけだな……」

 

 となるとこれから起きてくる幸姉はどっちかだな。

 考えていると、朝食の準備が終わり小鳥がテーブルに料理を並べていると、匂いに釣られたのか幸姉が大きなあくびをしながら、右肩からずり落ちたYシャツも直さずに起きてきて、寝呆けたまま席に座る。

 

「幸姉、だらしないから顔洗って目を覚ましてこいよ」

 

「いいわよそんなの。食べたらまた寝るし」

 

「いつも言ってるだろ。食べてすぐ寝るのは体に悪いって」

 

「京夜うっさい。私に指図するなって言ってるでしょ? あんたは私のすることに口出ししない」

 

 ああ、『こっちの幸姉』か。こっちならだいぶ楽だな。

 

「オレはだらしない幸姉が嫌なんだよ。せっかくの美人なのに勿体ないだろ?」

 

「バ、バカ京夜! なに言ってんのよ!? もう!」

 

 幸姉は言われてかあっ。

 顔を真っ赤にしてから、着崩れていたYシャツをさりげなく直して、留めてなかった上のボタンも1つ留めて胸元を隠してしまった。

 

「あ、あの……なんか幸音さんの様子が昨日と違いますが、どうしたんです?」

 

 そんな幸姉を見た小鳥は、明らかに昨日と違う幸姉に疑問を持ち、オレにそう耳打ちしてきた。

 

「これが幸姉なんだよ……。幸姉は『日毎に7種類に区分された性格に変わる』んだよ」

 

「え!? あの、それってつまり多重人格ってやつですか?」

 

「違うよ。幸姉の意思は1つだ。言うなら『多重性格』ってところだな。もっと簡単に言っちまえば『究極の飽き性』なんだよ、幸姉は」

 

 そう。幸姉は『1日毎に性格が変わる』のだ。

 その性格は全部で7種類あり、それによって言動、行動、考え方、好き嫌いがごっそり変わる。

 昨日の幸姉は『フレンドリー』とオレは呼んでいて、とにかく人当たりが良く壁を作らない。ついでに若干自己中。

 そして今日の幸姉は『男勝り』。

 勝ち気で負けず嫌い。細かいことは気にしないのだが、女性として扱われるのに恥じらいを見せたりする。今みたいにな。

 幸姉は最初からこうだったわけではないのだが、『とある事情』でいつしかこれが普通になってしまっていた。

 オレも最初こそ戸惑ったが、オレを信頼してくれる幸姉に変わりはなかったから、オレもそんな幸姉を今では理解し受け入れている。

 昨日みたいなことは京都にいた頃は日常茶飯事だったが、あんなのに合わせてたんだな、オレ。

 

「小鳥、早く座りなよ。学校あるんでしょ?」

 

「あ、はい。すみません」

 

 オレと話をして、いつまでも座ろうとしない小鳥を見た幸姉は早く座るように促して箸を手に持ち、小鳥も謝りつつすぐに席に着き一緒に朝食を食べていった。

 

「幸姉、オレ達が学校行ってる間はどうするんだ?」

 

「テキトーよテキトー。私もやることあるしね。ああ、京夜と小鳥には迷惑かけないから安心していいわ」

 

 朝食を食べ終えて、いつも通り小鳥が先に登校していって、オレと幸姉だけになってからそんな質問をすると、幸姉はソファーでくつろぎながらそう言ってきた。

 まだ幸姉が何をしにここに来たのかを具体的に聞いていなかったオレは、一応幸姉に美麗を付けて行動を監視することにした。

 なにせあのイ・ウーに1年半もいたのだ。完璧には信用できない。

 幸姉も美麗を付けることには異論がないようで、オレもそれからすぐに登校していったのだった。


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