緋弾のアリア~影の武偵~   作:ダブルマジック

200 / 288
Bullet162

「よくもまぁこんなもんを……」

 

 今日もまた面倒事を押しつけられて現場に来てみたはいいが、何やら違和感を感じて探りを入れてみたらビンゴ。

 下水道の通路の途中に出来た妙な横穴。

 人が1人で通れるようなそれは暗がりなら気づかないようにくり抜いたコンクリをはめて栓がしてあったが、見つけようと思えば余裕。

 穴は横穴から少し進んで、そこからほぼ垂直に上へと伸びていて、6メートル程度の高さに栓がしてあるが縁から光が漏れている。

 

「あとは上で追い立ててくれれば……っと、始まったか」

 

 地上ではロンドン警視庁がこの穴が繋がってる建物を包囲し、潜伏している窃盗団を追い詰め始めてパトカーのサイレンが聞こえてくる。

 ここ最近の情報からこの窃盗団がかなり用意周到な集団なのは手口などからわかっていたから、アジトがバレた時には逃走をスムーズにするための抜け道を作ってる可能性が考えられた。

 あとは建物の立地が逃走に不向きなところがあったから、目に見えない逃げ道がありそうと睨んだ結果だが、ドンピシャだったな。

 穴が狭いこともあって逃げる際には渋滞になるのは当然だが、上から聞こえてきた窃盗団の足音が穴へと到達して、列を為して降りてくるのがわかる。

 

「警察官に通達。下水道にて隠し通路を発見。応援を求む」

 

 しかし油断は禁物なのでもしも別の逃走ルートがあったりして、事前にこっちを押さえてしまうと逃がす原因になるため、実際にこのルートを使ってきたことを確認してから、持ってきた無線で上のロンドン警視庁に報告。

 時間稼ぎは5分といらないだろうが、一応はギリギリを攻めたからそれはちゃんとやる。

 窃盗団が横穴へと到達してはめ込んでいたコンクリの壁を蹴り飛ばして開けたところに、ミズチのアンカーを天井に付けて振り子の原理で出てこようとした先頭に蹴りをお見舞いして押し戻す。

 そこから狭い通路が仇となって、まともに反撃もできない窃盗団は穴の出口で陣取ったオレの蹴りだけで足止めされてしまい、地上の建物からも突入して穴を発見した声が聞こえ、下水道にも警察官が到着しオレの足止めも終了。

 恨みを買いたくないから終始で窃盗団には顔を見られないように立ち回って地上に出たオレは、ほとんど終わってしまってから呑気に到着した羽鳥を発見して、見つかる前に撤収しようとした。

 が、踵を返す直前で見つかってしまったから、仕方なく近寄ってくるのを待つと、どこかご機嫌な羽鳥は開口一番で毒を吐きそうな笑顔でオレを見る。

 

「君にしては抜け目がない行動だったが、足止めは雑だったんじゃないかい?」

 

「見てきたようなことを言うな。その口振りだと無線も拾ってたんだろうが、仕事するなら早く来い」

 

「勘違いしないでほしいが、私はあくまで尋問担当だ。現場で動くのが君の仕事。私は捕まえたやつから必要な情報を抉り出すのが仕事。つまり」

 

「これからが仕事なんだろ。はいはいわかったから窃盗団の顔を見るなりなんなりしてこいよ。オレなんかに構ってる時間が勿体ないぞ」

 

「言われずともそうさせてもらう。だが君が私に声をかけてもらいたい顔をしたから、仕方なく寄ってやったのにその言い草はどうなんだろうね」

 

「そんな顔をした覚えはない。自意識過剰なんじゃないか?」

 

 案の定で毒を吐く挨拶できた羽鳥だが、現場に出てきたのはこいつの尋問が相手の表情を見ることから始まるから、本格的に仕事を始める前に下見に来た感じ。

 それはわかってるのだが、優秀なのは事実なのでこいつがいると事はもっと迅速に解決する可能性が高いから、皮肉を込めてやったわけで、それがわかってる羽鳥もオレいじりで仕事前にリラックスしようとしてるんだ。質が悪い。

 

「それはそうと、今回も安い報酬で動いたようだね。それでちゃんと生活できているのかい? アリアのように振る舞っていたらすぐにロンドン警視庁に都合のいい人形にされるよ」

 

「元々がアリアみたいに報酬目当てで動かない、偽善者的な人材を探してオレに来た話だしな。ちゃんと報酬があるなら向こうから舞い込む依頼を解決する方が楽なのはある。依頼を探したって見つからないこともある武偵業で、待ってればいいのは利用してるとも言えるし」

 

「君もずいぶん図太い精神を持ち合わせたものだね。互いに利用し合う関係ってわけか。ロンドン警視庁への信頼も買えて一石二鳥だ」

 

「内容はちゃんと確認するがな。信頼されすぎれば無茶な依頼が舞い込む可能性も上がるし、弾よけみたいにされるのは御免だ」

 

「おや、その辺を忠告してやろうと思ったが、意外と頭を回してるね。おっと、のんびりしてたら窃盗団を連れていかれる。用が済んだなら行きたまえ。どうせ今日も呼ばれているのだろう?」

 

「そんなしょっちゅう呼ばれてない。オレが暇みたいに言うな」

 

 そんな羽鳥に付き合ってると精神を削られるので、下水道から出てきた窃盗団に目をやりつつちゃんと考えがあって行動してることを話し、早く行けと促してやると、オレの精神的な成長にちょっと驚いた羽鳥も仕事に追われるように行ってしまった。

 オレの留学にはロンドン警視庁へのちょっとだけ優先度の高い協力が含まれていて、それによって留学して1ヶ月が経過した今で、もう結構な案件で引っ張り出されていた。

 依頼の数としてはロンドン警視庁からの方が上回ってしまってるが、まだまだオレへの探りを入れてる感じでハードな依頼は避けてくれてる印象があり、もう少しすると面倒な依頼も来そうな予感はしている。アリアの代替も楽じゃない。

 

「さて、約束までまだあるし、いったん戻って適当に食べてから行くか」

 

 昼下がりにはなってしまったが、羽鳥の言うように今日はメヌエットにお呼ばれしていたから、その前に腹ごしらえして時間を潰そうと今の居住へとまっすぐ帰宅。

 留学の特典の中に賃貸の確保があったのだが、確保をしてくれるだけで支払い能力を無視したものだったから、以前にロンドンへ来た時にワトソンにお願いして不動産に行ってもらい、別の賃貸を見つけて今はそこに住んでいるが、メヌエットの住むベイカーストリートもロンドン武偵高もほどよく近いので立地も悪くない。

 

「それで、学校の方はどうなんですか?」

 

「まぁ特別に親しいやつってのもいないが、居心地が悪いってことはないぞ」

 

「学校に馴染めるというだけで京夜は才能がありますね。私には一生かけても無理でしょうから」

 

「メヌはオツムの方で同世代から頭1つ2つ抜けてるしな。飛び級とかで大学にでも通ってみるのも手かもしれん」

 

 それで少し遅い昼食を済ませてからメヌエットのところにお邪魔して、いつものようにメヌエットの自室で他愛ない会話でコミュニケーションを始めたわけだが、何やらオレの留学生活が気になるらしいメヌエットは、自分の目の届かないところでのオレのことをよく聞いてくる。

 

「大学に行って私が何を学ぶのです? 人との関わり方ですか? それとも教授に論文を叩きつけて追い返す嫌がらせをしろと?」

 

「ああはいオレが悪かったよ。押しつけがましい人とのコミュニケーション手段を提案したオレがバカだった。メヌにはメヌのペースもやり方もあるんだよな」

 

「人には向き不向きがあって当然です。特に交友関係など一朝一夕で築けるものではないですし、学舎という環境では自分を偽ることも我慢もせねばならない時もあるでしょう。私はそれに耐えるだけの強さを持っていないと自覚していますから」

 

 聞かれることに答えるだけでは一方的だから、オレもあの手この手でメヌエットの今を改善する提案をしてはみるのだが、やはり言葉巧みに躱してくるメヌエットは手強く、未だに進展はしない。

 今も甘い香りを漂わせるパイプを吹かせてアロマを嗜む余裕がうかがえる。無駄と言いたいわけだ。

 だからといってメヌエットの出不精を良くは思わないのは変わらないので、とにかく外に出る習慣くらいはつけておきたい。

 

「そうは言うけどよ、人ってのはどこかしらで我慢はしなきゃならないもんだぞ。学校に限らず、どこでだって我慢っつーか忍耐はなきゃやってられん」

 

「だからこそ私は必要以上にこの家から出ないのです。外は人の我慢で満ち溢れていますし、今だって京夜の都合が合わずに来ない日は面白くありません」

 

「わがままなお嬢様だな。なら考え方を変えろよ。メヌが我慢しない生活の裏では、別の誰かがひたすらに我慢をしていて、その我慢がいずれ自分に火の粉となって降りかかるとしたら?」

 

「曖昧な話はやめなさいな。例えばどのようなケースで私に火の粉となって降りかかると?」

 

 今日はなかなか引き下がらないオレにメヌエットも叩きのめすために論破を狙って食いついてきて、そこに丁度サシェとエンドラが茶菓子を運んできてテーブルに置いてくれ、例え話をするなら身近な人を挙げた方がいいかと口を開く。

 

「例えばこのサシェとエンドラが日々のメヌのわがままを素直に聞いて、自分の時間を使えないことに我慢が出来なくなって、メヌが寝てる間にこの家を出て雲隠れしたら、家事スキルのないメヌは1日で発狂するだろ?」

 

 急に自分達が話に加えられてビックリする2人は話の流れがわかってないから、なんて例え話だと言わんばかりにオレを見てメヌエットに「そのようなことはいたしません!」と弁明に動く。

 あくまで例え話だからメヌエットも必死な2人に対して淡白な返事でわかってるとは言うが、あながちない話でもないからか少しだけ思考するように顎に指を添える。

 

「……京夜の例え話は極端ですが、サシェ、エンドラ。あなた達は私への奉仕とフリータイムのバランスをどう思っていますか? 怒りませんから正直に話しなさい」

 

 そして意外なことに2人の今の処遇に不満がないかと尋ね出し、そんなことはかつてなかっただろう2人も顔を合わせて目をぱちくりさせる。

 だが沈黙はメヌエットをイラつかせる原因なのでオレが小声で「答えないとあとが怖いぞ」と言えば我に返って、恐る恐るサシェが代表して発言。

 

「メヌエットお嬢様へのご奉仕は私どもにとって生活の一部も同然ですから、不満などございません。ですがその……メヌエットお嬢様のお留守のうちに捗る作業もございまして……」

 

 と言ってから、2人はペコペコと申し訳なさそうに頭を下げるが、初めて聞いただろうサシェとエンドラの意見に黙ったメヌエットは、出された茶菓子を1つ食べてからオレを見る。

 

「京夜は私に学校へ行ってほしいのですか?」

 

「学校じゃなくても別にいいさ。とりあえずは日々のほとんどを家で過ごす今が少しでも変わるなら、散歩でもなんでも構わないと思ってる」

 

「外の空気は好きではありません。ですが今日は過ごしやすい陽気のようですから、散歩がてら太陽光を浴びるのも良いでしょう」

 

「今日だけか?」

 

「何度も言わせないでくれますか。日によります」

 

 本当はもう少し多くの人と関われる環境に放り込んでやりたくはあるが、メヌエットの毒を受け止められる存在が少ないこともあるので不安も大きい。

 それでもメヌエットが外に出たいと言ってくれるのは嬉しいことだし、サシェとエンドラがこんなことを言えたのも自分達がいなくてもメヌエットを任せてもいいと思えるオレがいたからだと思いたい。

 そうして散歩に出かけることになって車椅子を押せと無言のアイコンタクトでエスコートを勧めてきたメヌエットに従って、サシェとエンドラに見送られて昼下がりのお散歩に出発。

 

「良い機会ですから、京夜の素行調査でもしましょうか」

 

「嫌な予感」

 

「さぁ京夜。行くべきところはわかってますね。あなたの言葉が真実かどうか証明されてしまいますね」

 

「嘘は言ってないつもりだが、メヌが受ける印象とは違うことはあるかもしれないぞ。そこは許容してもらわないと困る」

 

「京夜の言葉とあまりにかけ離れた事実があった場合は、その処遇はその時に考えましょうか。ふふっ。楽しみですね」

 

「悪魔的な笑いをするな性悪め」

 

 出発して早々に目的地を決めたメヌエットの口振りから、どこに向かえばいいかはすぐにわかってしまったが、オレへの嫌がらせがしたい魂胆が丸見えのメヌエットに悪魔の尻尾が生える錯覚が生じる。

 しかし行かなきゃオレが嘘をついたことになるので、仕方なくさっきまで話していたオレのここでの学舎であるロンドン武偵高へと足を運んでいったが、その足取りは重かった。

 

「嘘をつきましたね?」

 

「これは完全に100%でメヌのせいだ」

 

 それでいざロンドン武偵高の敷地に踏み入って、放課後になりたての時間帯なこともあり生徒の出入りもそれなり。

 そこに留学生ってことでちょっとだけ注目されてるオレが、英国が誇る安楽椅子探偵を連れてくるもんだから、まぁ目立つ目立つ。

 あまり校舎の深くに踏み入るのも注目を集めるだけだからやらないが、それでもここに通っていたアリアの妹はざわつくには十分で、ロンドン武偵高に来て一番の注目を浴びている。苦手な視線だ。

 

「視線のほとんどは私に向けられていますが、一部は京夜に向けられていますよ。主に女子生徒から」

 

「女子かどうかまでわかるもんかね」

 

「お姉様のような表現をするならば、女の勘です」

 

「妙な説得力が生まれる不思議。だが話しかけては来ないんだから親しいかどうかは確認できただろ」

 

「それはまぁそうですね。私に尻込みするような方であれば京夜も親しくはしないでしょうし」

 

「オレの人脈の基準をメヌが作るな」

 

 実際にアリアがいた頃はどうだったか1ヶ月の間に聞いていたが、アンジェリカ・スターとかいうSランクの戦姉と活躍して一目置かれ、戦姉妹のダブルSランクとあって近寄りがたかったところはあったらしく、特に親しいという人物もいなかった。さすがは独唱曲様だ。

 それもあって妹のメヌエットにもアリアと似た近寄りがたい空気を勝手に感じてる生徒達は興味はあるものの敬遠気味で、オレというクッションありきでも変わらないみたいだ。

 それが良いとは言わないが、結果的に学校で特に親しい関係にある人物がいない証明になったから、あらぬ誤解を生まずに済んだのは幸運。複雑な気持ちではあるがな。

 そうした結果に満足したメヌエットは、元々が武偵が嫌いなところもあって撤収も早く、少し硝煙臭いロンドン武偵高をあとにして、帰ろうと思えばすぐに帰れるベイカーストリートのやや北東のところにあるリージェント・パークのパーク・クレセントでのんびりと日光浴。

 明日は武偵高でメヌエットのことについてを根掘り葉掘り聞かれるだろうなぁとかその対応についてを考えてベンチに座っていたオレに、街の中にある自然に囲まれた空間であるここでリラックスした様子のメヌエットは、他に誰もいないことを軽く確認してからあまり大きくない声でオレに話しかけてくる。

 

「バチカンの護衛も解けて日も浅いですが、進展の方は聞いていますか?」

 

「んー、報告くらいなら会いたくもないのに会う羽鳥から色々とな。とりあえずアレの世界の目は全部潰しただろうってのと、それらしき人物の写真をいくつか入手したってことくらいか」

 

「その写真とやらはまるでアテにならないでしょうが、確実に力は削いでいるということですね」

 

「その証拠がメヌの無事なら喜ばしいことだ」

 

 唐突な話だったが内容についてはすぐにわかる土御門陽陰のことなので、特に間も開けずに聞き及んでることを答えておき、オレがつけたバチカンの護衛があるうちに襲撃がなかったことを今さらだが喜ぶと、ちょっと言葉に困ったメヌエットはさっさと話を畳みにくる。

 

「武偵組織も役立たずではないことを少しくらいは信じてもいいかもしれませんね」

 

「今メヌが照れたことに関しては触れないであげよう」

 

「でしたら声に出す必要はありませんよね。京夜は頭がおかしいのですか?」

 

「ネジの1本くらいは飛んでるかもな。じゃなきゃメヌみたいなぶっ飛んでる友人とは付き合いが続かな……」

 

 そんな照れ隠しが可愛い隙だったからちょっと突いて遊んでみたが、タイミングが悪いことにここでオレの携帯にメールが来て、言葉を切ってメールを確認すると、送り主は理子。エスパーかこいつ。

 オレが女といることを邪魔するような理子のメールは、さすがに状況をわかってて送られたものではなく、近いうちに修学旅行Ⅲで顔を出しに行くからという報告。

 まだ留学して1ヶ月なんだが、そんな早くに会いに来るかこいつは、とか思いつつ、オレのメールが気になったメヌエットがどんな内容だったのかを尋ねてきたから素直に教えてやる。やましいこともないし。

 

「そういえばお姉様も近々こちらに来るようなことをメールしてきていましたね。ということはそのメールの送り主はお姉様と同じチームである可能性が高く、わざわざ京夜に報告するということは京夜に好意を寄せている。是非とも1度お目にかかりたいですわ」

 

 簡単な推理と共にそれが純粋な好奇心なのか判断の難しいメヌエットの放った言葉に何も返せなかったオレは、遠からず訪れそうなホームズとリュパンの2度目の邂逅に心臓が変な鼓動を刻む。何も起きないわけがない。お喋りが名探偵の前でベラベラ喋るんだからな。

 そんな微妙なオレの反応を見逃さなかったメヌエットが言及に動こうとしたから、オレも寝たフリでもしようかなとベンチで横になりかけたところで、またも携帯に今度は電話がかかってきて、話の腰を折られたメヌエットは明らかに不機嫌な顔で「どうぞ」と出ることを促し、正直なところ助かったその相手を見ると、登録名には『レストレード』のファミリーネーム。

 だからあからさまに嫌な顔をしたオレが通話に応じるのを躊躇ったから、メヌエットも誰かと問いかけてきたから画面を見せると、急に携帯を奪われて勝手に通話に応じられる。えぇ……

 

「……はい……はい。では1秒でも早く事件が解決することを願っていますわ」

 

 そこから可哀相になるくらいの毒を吐かれていた携帯の向こうのロンドン警視庁の警部さんには同情するが、通話の切れた携帯を笑顔で返したメヌエットにオレも戦慄を覚える。怒ってらっしゃるよぉ……

 

「虎の威を借る狐とはあのような者を言うのでしょう。曾おじい様の時代からレストレードの人間はその気があったようですが、受け継ぐべき素質を間違えているようですね」

 

「勝手にオレから仕事を奪うな」

 

「何人であろうと私と京夜の時間は奪わせません」

 

 おそらくはロンドン警視庁からの仕事の依頼だったと思うのだが、我慢のできないメヌエットが却下してくれたおかげで次にロンドン警視庁に顔を出した時が怖い。

 依頼がコストが上がっても解決できるならいいが、今後はメヌエットといる時は携帯を貸さないようにしようと心に決めて、日も沈みかけてきたからメヌエットも帰ろうと言ってきたので、再び車椅子を押してゆっくりと帰路につく。

 

「さて、明日はちょっと面倒臭い日になりそうだ。どこかの誰かさんのせいで」

 

「ふふっ。退屈な日々よりもずっと良いのではないかしら? 人生にもスパイスは必要です」

 

「効きすぎても嫌じゃないか」

 

「濃い味付けは男性の好みでしょう」

 

「好みは性別で決まらないぞ」

 

 本当に自由気ままなメヌエットには振り回されっぱなしだが、わかってて選んだ道でグチグチ言ったところで仕方のないこと。

 ならメヌエットが言うようにこれからの人生に少々のスパイスを加えていくことにも抵抗は少ない。

 そのスパイスによって彩られるオレの人生はまだまだ始まったばかりだが、せいぜい笑って楽しんでやるさ。

 だが、そのスパイスを加えるタイミングくらいは自分で選びたいもんだね。

 ――そうじゃなきゃやっぱり面倒臭い。面倒臭いのは、なるべくなら避けたいしな。

 

 

Go For The NEXT!!


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。