緋弾のアリア~影の武偵~   作:ダブルマジック

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「ほなら京ちゃん、今度は夏休みにでも帰ってきてや?」

 

「あー、余裕があればってことでお願いします」

 

 愛菜さんとの少し早い誕生日パーティーから一夜明け、朝早くに帰り支度を済ませた愛菜さんは、これから理子にも会ってくることを言って玄関でお別れ。

 名残惜しくなるから玄関まででいいと言う愛菜さんに従ってそこまでの見送りにするが、いざ扉を開けようとした愛菜さんはもう1度だけオレを見て抱きしめたい衝動でもあったのか、それをグッと堪えて笑顔で手を振って行ってしまった。

 別にそこまで自制しなくてもいいだろうに、眞弓さん辺りに釘でも刺されていたんだろうか。

 そんな予想をしつつ、今日は理子の誕生日の当日。いつ来るかは知らないがヒルダもケーキを作りに来るだろうから、それを待ちつつオレも昨日、愛菜さんからプレゼントされたブローニング・ハイパワーのメンテナンスを慣れるために、懇切丁寧に改造機構込みで教えてくれた通りに何度かバラしてやっておく。

 使用感の方はヒルダがケーキを作ってからでもいいかと思ったところで、理子の誕生日に何をやってるんだろうと思い至りやめようかと考えたが、変に何かする日でもないかと思い直して作業を再開。

 日中は後輩とかとワイワイやると言っていたので、オレがいるとテンションが下がる麒麟とかを盛り下げないために夜に時間を割いてもらってるしな。

 

「しかしまぁ、銃ってのは手間がかかるな」

 

 今まで手先の感覚を重視して拳銃などの使用は避けてきたが、 携帯武器に昇格するとコストも上がる。

 銃弾だってタダじゃないし使う度にメンテナンスはしなきゃならない。みんなよく使うなぁと本気で思う。

 

「あらサルトビ。お前もそんな物を持つようになったのね」

 

「……チャイムくらい押してもらいたいんだが」

 

「何故サルトビに私の来訪を知らせてやる必要があるのかしら。ここは理子の拠点の1つ。なら私にとっても家も同然でしょう」

 

「その理屈はおかしい」

 

 慣れないメンテナンスで手順やらを頭で反復させていたせいで、扉も開けずに影のまま部屋に入ってきたヒルダの来訪に声をかけられてから気づき失敗。

 何やら意味不明なことも言ってはいたが、挨拶もその程度で理子の誕生日ケーキ作りに移ろうとしたヒルダは、バタバタされるのは嫌だったから必要なものはダイニングテーブルに出しておいてやったのを見て「手伝わないのではなくて?」とかまだ淡い期待をしている感じの表情をする。

 だがそのヒルダをチラ見した程度で作業に戻ったオレは「食べ物だけは冷蔵庫に戻してくれよ」とだけ言って後片付けに期待してないことを強調。

 そうすればオレに反発的なヒルダは本当にそれだけをするのがはばかられて、結局は道具も片付けてくれるという算段。

 

「冷蔵庫に戻す? 何を言っているのかしら。余ったものは理子のものになるに決まってるでしょう」

 

「…………」

 

 斜め上いったー!

 くっそぅ。下手な挑発をしなきゃ残していったかもしれないと思うと悔しくて仕方ないが、残していくことを前提にしていたオレの悔し顔を見たいだろうヒルダには死んでもそれを見せたくないので「あっそ」とだけ返して作業を続け、予想した反応が返ってこなくてつまらなかったのか、ヒルダも時間を惜しむようにケーキ作りに移っていった。

 

素晴らしいわ(フィー・ブッコロス)! 完璧な仕上がりよ!」

 

「そりゃあ良かったザマスね」

 

 オレの手助けなしで四苦八苦しながらも、そうした声をあげるほどの出来映えになったらしいヒルダのケーキ。

 その代わりにオレのキッチンは悲惨なことにはなっていたが、今日くらいは勘弁してやろうと諦めつつ、事前に買っていたケーキの入れ物を組み立ててそれに入れるように促してやる。

 上機嫌のヒルダはそれに感謝しながらケーキを入れて、奇跡的に道具の後片付けを始めたので、その間にオレもこっそりと入れ物の中に理子宛のメッセージカードを放り込んで前祝いを贈っておく。本番は夜だからな。

 

「それじゃあサルトビ、行ってくるわ」

 

「途中でケーキを転がすなよ」

 

「私の超能力を馬鹿にしないことね。中では天地がひっくり返ることはないのよ。ホホッ」

 

「そりゃお前にしかわからん世界だしな」

 

 本当に余った食材は根こそぎ持っていかれて泣きそうだったが、昨日に完食したケーキやリサに押しつけたケーキの言及がなかったのでそれで手打ちでいいかと立ち直って、上機嫌なヒルダを見送る。

 その頃にはすでに午後1時を回ってしまっていたので、あと6時間くらいの暇を潰すためにまずは適当に昼ごはんを済ませて、それからブローニング・ハイパワーの試射をしたかったので不知火辺りに見てもらおうと思ったのだが、珍しく繋がらなかったので、仕方なくワトソンを呼んで強襲科の射撃レーンを拝借。

 昔から拳銃の反動というのに抵抗があったから、授業でも撃たざるを得ない時――ランク考査とかが当てはまる――は相当なテキトー具合で散々な結果を出していた。

 

「急に撃つのを見てくれなんて言うから、サルトビはてっきり下手な部類と思ってたけど」

 

「オレも下手な方だと思ってたがな」

 

 しかしそれは『扱う気がない』ゆえの結果であり、実際に『武器として実践投入する』という前提が加わればまた違ってくる。

 人の命を左右する武器を扱う責任を持って撃ったオレの銃弾は、固定されたマンターゲットの肩や腿をある程度だが集中させて当てることができ、その結果に横で見ていたワトソンも呆れ顔を浮かべる。

 

「メインに据えるならまだまだだけど、撃つ習慣さえつけて練習していれば数週間で上達はするだろうね」

 

「羽鳥くらいの腕になるなら?」

 

「あれは君が思うよりずっと上手いよ。トオヤマのような派手なパフォーマンスはできないけど、無駄撃ちがほとんどないからコストパフォーマンスは理想系に近い」

 

「とことんSランクだなあいつも」

 

「サルトビは何かとあれと張り合うけど、ライバル意識でもあるのかい?」

 

「いや、あれと離されるとオレが危ないし……」

 

「ん?」

 

「こっちの話だ」

 

 腕はまだまだとの評価だが、上達の余地はあると見たワトソンの目は信じてみるとして、改めてわかる羽鳥の有能さにはちょっと焦るね。

 ワトソンは知る由もないが、あれがまた暴走した時にはオレが止めてやる義務みたいなものがあるので、実力の差が開くとそれだけオレの死ぬ可能性が高くなるから、ワトソンの言うライバル意識はないが立ち止まってるわけにもいかないのだ。

 本当に面倒なやつと関わっちまったなぁ……

 それからワトソンにもオレの銃を撃ってもらって、どの程度の差異があるのかを比べてもらうと、明らかに反動で差があるらしく、改造の機構についてを尋ねられてしまった。

 実はこの改造は京都武偵高にいた青柳空斗という装備科だった同期の武偵がカスタムしてくれたものらしいのだが、あややまでとは言わないまでも挑戦的な技術は2割くらいで不具合を出すから正直ちょっと心配はしている。

 まぁその辺は愛菜さんがずいぶん前から調整に次ぐ調整をするようにとガンを飛ば……お願いしての完成なので1割未満の不具合くらいにはなってるだろうが、オレのようにそもそも主武器にしてない武偵のための改造なため、継戦能力は削ってしまっているらしい。

 つまり弾倉2つ分くらい――約30発と言われた――を撃ったらメンテナンスが必要なくらいデリケートな銃なので、ワトソンのように割と使うやつには向いてないと端折って説明すると、唸りながらも納得はしてくれた。

 

「サルトビには向いてると思うんだけど」

 

「向き不向きじゃなくて好き嫌いの話なんだよ」

 

 納得してくれたのはいいのだが、そんな事情もあって長々と撃ってられないから、メンテナンスを終えてからは西欧忍者(ヴェーン)とか呼ばれてるワトソンが前々から密かに日本の忍者の末裔であるオレに興味があったとかでやたらと装備についてを語り始める。

 話し出すと意外と饒舌なワトソンは暗器を用いないオレが不思議でならないと言って、自分が普段から携帯している暗器をいくつか見せてその有用性について話してくれたが、オレは靴のかかとに刃を仕込んだり口の中に剃刀を仕込んだりはなんか嫌だし、装備を増やせばそれだけ整備も増えるからと勧められた暗器は却下。

 というかすでにジーサードのやつからクソ面倒な長刀の単分子振動刀も押しつけられたし、愛菜さんのブローニング・ハイパワーも増えて武装の補強は事足りているので、これ以上の新装備はいらない。多けりゃ良いもんでもないし。

 

「そうか……ならボクもたまに使うドラッグなんていうのは……」

 

「合法だろうと薬物は依存性がある。使えば使うほど効きにくくもなるしな。っていうかあんま武偵が手の内を明かすなよ。基本がなってないぞ」

 

「サルトビは無闇に敵を作るようなバカじゃないだろ。それにリバティー・メイソンはまだ君の勧誘を諦めたわけじゃない。ボクもサルトビとなら良い仕事ができると思うし、あれの理解者も必要だ」

 

「理解者だの言ってるから置いていかれる。まずはお前らがあいつを理解しようとしろ」

 

「サルトビも不思議な人だね。嫌悪してると思えば肩を持ったり」

 

「お前らの怠惰をあいつのせいにするなって言ってるだけだ。肩は持ってない」

 

 それでも色々と言ってくるワトソンが何をそんなにご執心なのかと勘繰ると、個人の意思が半分の組織の意思が半分くらいの魂胆が見えたので納得。諦めてくれませんかね。

 最近は関係も良好だったから距離を詰めてきたようだが、こういうスカウト的な行為は経験が浅そうなワトソンでは逆効果なので、これ以上の勧誘行為はウザいから話を強引に終わらせて強襲科の専門棟を出たところで逃げるように別れた。

 

「仮にも秘密結社ならコソコソしてほしいもんだ……」

 

 理子との約束まで残り1時間ほどになって、1度は帰宅して寝ていたオレは、直前までの勧誘のせいで夢にまでワトソンやらカイザーやら羽鳥やらのリバティー・メイソンが出てきて呪われそうな「入れぇ」によって目覚めて1人愚痴る。

 あの手この手で強引に引き抜こうとかする組織よりはかなり良心的なやり方で助かるが、あの羽鳥を見てるとどうしても組織という枠に収まる気にはなれない。家があの状態になるんだもんな……

 こういう考えがまだオレが子供だってことなのかもしれないが、子供でも大人でもない今だからまだ決めるのも早いってだけ。

 

「一人前の武偵になるための残り1年。大人になるための残り1年。無駄にはできないな」

 

 のんびり歩いていけば丁度いいくらいだったので、明日から3年生になるという実感をジワジワと感じながら武偵の道を進む新たな決意もひっそりとする。

 そんな決意をしたせいなのかよくわからないが、第2女子寮に向かう途中で微かにだが少し遠くからプレッシャーが伝わってきて、それでも全身が身の危険を知らせるように警鐘を鳴らす。

 なんかまた化け物みたいなのがいるようだが、オレに向けられたものではなさそうなそれに関わると面倒臭そうなので、気付かなかったことにしてちょっと回り道。

 学園島に来てるんだし犯罪者の類いではないと思うが、オレの危険センサーもずいぶん性能が上がったもんだ。これも経験かね。

 とかなんとか思いつつ、よくわからない危機を脱したオレは無事に第2女子寮に到着。まっすぐに理子の部屋へと向かうと、タイミング良く誕生日パーティーをやっていたっぽい後輩連中と廊下ですれ違う。

 メンバーは火野と島姉妹だが、姉の苺の方は「猿飛さんですのー」とか言いながら友好的なのに対して、妹の麒麟は明らかにテンションがた落ちしたような表情で火野の後ろに隠れた。姉妹の落差よ。

 火野も男嫌いなところがあるから挨拶も明るい感じではないが、麒麟のような態度は見せずにやり過ごす。1年でこの差。麒麟もそろそろ大人になろうな。

 などと自分を棚に上げて後輩をやり過ごして理子の部屋のチャイムを押すと、忘れ物を取りに来た火野達かと思ったのか心の準備が不十分だったようで、扉を開けてから珍しくフリーズ。

 

「…………うぉおお! キョーやんだったよぉ! もう来るなら来るって言ってよねぇ!」

 

「約束の時間通りに来たのに何を言ってるんだ」

 

「そこはほら! 主役は遅れてやってくる的な?」

 

「今日の主役はお前だろ。アホか」

 

「ささっ! そんなところに突っ立ってないで上がりんさい! 夜はこれからですぞ?」

 

「玄関で道を塞いでるのもお前だがな」

 

 何やら言ってることが思いつきレベルで酷いが、そんなテンパるほどのことをしたのかと疑問を抱きつつ、通されるままにリビングの方に移動。

 なんか珍しくヒルダがパーティーの後片付けをしていてビビったものの、作ったケーキは完食したようで何よりだ。

 

「ヒルダ。ありがとね」

 

「今日はお前の誕生日なのだから、気にすることはないわ。それよりサルトビ、わかってるでしょうね?」

 

「そういうのは理子に言え」

 

 後輩達とのパーティーの後片付けをして、その間に落ち着いた理子は、これから席を外すヒルダにお礼を言えば、ツンデレなヒルダは平静を装ってはいるが嬉しそうに背中の小さな羽をパタつかせながらそう返して、理子と2人きりになるからオレは睨まれてしまう。

 オレはこれで誠実という名のヘタレで知られているから問題ない。ヒルダが想像するようなことが起きるとすれば、理子から起きるものだ。たぶん。

 それでも決まっていたことだからヒルダも無理を言って部屋に残ろうとはせずに影になって静かに部屋を出ていき、それを見届けた理子は「よしっ」と何か切り替えたような雰囲気でソファーに座り隣をポンポンするので、主役のご指示とあって素直に隣に座る。

 

「あー、暑いねぇ」

 

「さっきまで騒いでたからだろ。部屋自体は快適な温度だぞ」

 

「そ、そっか。そうなのかな。あははぁ」

 

「それよりケーキ、美味しかったみたいだな」

 

「うん、美味しかったよ。でもあれ、ヒルダが1人で作ったって言ってたけど、キョーやんも手伝ったでしょ?」

 

 まだ緊張してるのか、スカートやらブラウスの裾をパタパタやって涼む理子が絡み方を模索中だったから、オレからそんなことを言って話題を提供する。

 すると理子は言いながらケーキと一緒に入れていたメッセージカードを取り出して勘繰ってくる。メッセージカードは手書きだから字でバレるよな。ルーマニア語じゃなくて日本語だし。

 

「悪いが本当にヒルダが1人で作ったぞ。オレは事前のアドバイスとそれをこっそり入れただけ」

 

「マジかぁ……じゃあヒルダにちょっと悪いこと言ったなぁ。キョーやんが手伝ったって疑わなかったから」

 

「あとで謝れば済むことだろ。っていうか食べてくるなって言うから腹が減ってるんだよ」

 

「おーそうだった! 今日は理子りんが腕を振るって好感度を上げる予定だったんだよ!」

 

「お前の自炊スキルなんて知ってるわ」

 

 それでもヒルダが1人で作ったことは事実なのでその辺はハッキリと言ってやり、呑気な会話と共に腹の虫が鳴りそうになったから食べ物関連で繋ぐと、思い出したように料理を始めようとする理子の思惑が口から漏れてすかさずツッコむ。

 キッチンの方を見ると下準備も微妙な線だったので、何を作るかを聞いて手っ取り早く食べたいからオレも手伝うことにすると、最初は1人で作ると言ったが、すぐに考え直して「つまりこれは初めての共同作業か!?」とか言うから、もうそういうことにしておいてテキパキと行動していく。

 料理しながらかなりの上機嫌で鼻歌も交えている理子がまた可愛いのだが、ちょっと手が空くと意図的にオレに寄りかかるという謎行動には困惑。邪魔にならないタイミングなのも考慮してるから拒否しにくいな。主役だし。

 

「暑いとか言っててこういうことするんだからお前はわからん」

 

「気持ちのいい暑さってのもあるんだよねぇ。まぁ大抵はそういうのを『温もり』とかそういう風に言うけど」

 

「温もりねぇ……後ろから抱きつかれたりも嬉しいのか」

 

「いいですなぁ。好きな人限定だけど胸キュンポイント高いですぞ」

 

 会話するだけの余裕も出てきたようだから他愛ないことを話して調理を進めるが、胸キュンポイントなるものについて話し出してしまって、理子調べの『女性が喜ぶ恋人にされたい愛情表現』を聞かされて、なんか1つくらいはやらないといけないのかという雰囲気を作られる。

 具体的にやってほしいことを言ってこないから、やらない雰囲気を出せばリクエストが来て権力を発揮される可能性があるため、出来上がった料理をリビングのテーブルに運んでから、エプロンを脱いでキッチンから移動しようとした理子を有無も言わさずにお姫様だっこ。

 ランキングの中にあったやつで楽な部類のそれに最初は「うおっ!?」と驚いた理子だったが、すぐに順応して首に腕を回してお姫様気分。

 移動自体はすぐだったからものの数秒の出来事だったが、ソファーに下ろされた理子はテンションが上がったのか隣に座ったオレから腕を離そうとしなく、なんか食事どころではない。

 

「食べるんだよな?」

 

「理子が食べられるぅ。食べて?」

 

「いいから冷めないうちに食べるぞ」

 

「仕方にゃいにゃあ」

 

 ふざける余裕まで出てきた理子をなんとか食事の方に意識を向けさせて離れてもらったのはいいが、いざ食べるとなるとスプーンなども取らずにオレを見て黙るから何事かと思う。

 

「早くぅ」

 

「いや、食べろよ」

 

「理子はいま手が使えないのです」

 

「料理してただろ」

 

「意地悪しないでよぉ。あー」

 

 そうしたらオレ待ちみたいなことを言うから、ようやく理子のしたいことがわかって微妙な顔をするが、そんなのお構いなしな理子はオレを見て明確に口を開けて「あーんして」と要求。

 なんだろうか、今日の理子は甘えん坊なのか女子力アピールがしたいのか色々と散らかってるが、それくらいなら恥ずかしさはあっても無理はないので、オムライスを掬ってオープンしてる理子の口に入れてやる。

 

「うーん、美味しっ」

 

「そりゃ良かった」

 

「じゃあ次はキョーやんね。はい、あーんっ」

 

 それを味わった理子は、今度は自分がしたいのかオレからスプーンを奪って口を開けろと言ってくる。

 割と悪くない雰囲気ができ始めていたから、ここで拒否すると理子のテンションもガタ落ちするのが目に見えたので、1回だけならいいかと大人しく口を開けてオムライスを食べさせてもらう。

 思った以上に恥ずかしいそれには思うところがあったが、咀嚼中に理子が「いやん、間接キッスぅ」とか言うもんだからむせて吐き出しそうになる。

 

「おまっ……ガキかよっ」

 

「見た目はロリ巨乳、中身は乙女、その名は」

 

「迷武偵、峰理子さんですね」

 

「その『めい』って別の字を当ててない?」

 

「気のせいじゃないか?」

 

 なんとか吐き出さずに飲み込んでからツッコミをいれてやれば、嬉しそうにどっかで聞いたような名乗り文句をやるからノッてやる。

 そうした息の合ったやり取りがまた嬉しいのか笑ってくれた理子だったが、やはり食べさせあいっこは恥ずかしいと思ったのか、顔を少し赤くして「じゃ、じゃあ普通に食べよっか」と料理に手をつけようとした。

 しかしそのスプーンはオレが没収して使い、あえて言うやつは気にしてるの法則から間接キスはさせないようにすると、あからさまにブーブーしながら別のスプーンを取って食べるのだった。

 とはいえ、なんだかんだで楽しいんだよな、理子といると。


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