緋弾のアリア~影の武偵~   作:ダブルマジック

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Bullet150

 

 ギリギリの攻防でついに陽陰を拘束して超能力用の手錠をかけたまでは良かったが、それでも貴人の力を宿した式神は止まることなく趙煬と激しい攻防を続け、陽陰は拘束された瞬間から深い眠りに就き始めて意味不明。

 しかも何やら上空から徐々に高速で近づいてくる音が聞こえてきて、それが新たな敵なのかどうかもわからないときた。

 

「……航空機。だがそれにしても速いな。大きさもそこまでじゃない」

 

「航空機より速く小さい飛行物体って……」

 

 だがそんな状況でも冷静な羽鳥は近づいてくる音を分析し、さっき投げていた単分子振動刀をオレに返してくる。

 それを受け取って納刀しつつ、羽鳥の分析から近づいてくる物の正体がかなり限定されて見当がいくつかついたのもすぐ。

 音は超高速でオレ達のいる地点の頭上を通過。暗闇に見えたその影は紛れもなく戦闘機だったが、偶然、なのか?

 ほぼ南から北に飛んでいった戦闘機が何だったのかと羽鳥と顔を見合わせてしまうが、通過したから関係ないのかなと思考をやめようとした。

 

「……何か来るね」

 

「…………あっ」

 

 が、その時に空を見上げた羽鳥がまた何かを捉えて視線を固定するので、オレもそちらを見ると、なーんか見たことある『人』が降ってきていた。

 その人は弾丸のようにオレ達のいる空洞地帯をめがけて落下してきて、激突の直前に空気のクッションみたいなもので3度ブレーキをかけてオレと羽鳥の前で華麗に着地。

 

「おーおー、派手にやってるわね」

 

「……何でここに来てんだよ、幸姉」

 

「そんなの愛する京夜のために決まってるでしょ?」

 

「嘘つけ」

 

 およそ戦闘をする格好ではない、仕事終わりに駆けつけました的な黒スーツ姿の幸姉は、何やら背中にクソ長い刀を背負って呑気な雰囲気。

 それにはここまで緊張の連続だったオレも殴りたくなったが、今はそれを抑えてここに来た理由についてを尋ねる。

 

「愛するの部分は本当にしといて、話はあれを片付けてからにしましょ。それと京夜にはこれ」

 

 しかし今は状況が状況だからと話を切った幸姉は、戦闘中の趙煬と式神に視線を向けて切り替えると、背負っていたクソ長い刀を鞘ごとオレに渡してきてウインク。何これ。

 刀は日本刀の形状で少し抜いたら片刃のほぼ直刀。刃渡り150センチほど。幅は10センチはあるが見た目ほど重量はそこまでじゃなく、両手でなら十分に振り回せそうなくらいだ。

 

「これを何でオレに?」

 

「さぁ? アメリカ帰りの眞弓が持って帰ってきて『京夜はんに渡すよう言われましてな』とかなんとか。誰からかは察してちょうだい」

 

 ……ああ、ジーサードのお節介か。ってことはこれ先端科学兵装の1つだな。

 しかもオレに扱えるやつなら、単分子振動刀と同じ構造だろう。完全に主力武器(メインウェポン)に照準した造りだ。

 

「君ってどうしてそう人から好意を向けられるんだろうね」

 

「一方通行なことが多いんだがな……」

 

「だがそれならあれをどうにかできるだろうね。こちらの状況など知らないはずなのにファインプレーをしてくれる」

 

 思わぬプレゼントに少々言葉を失っていると、横から白けた目で羽鳥が口を開き、しかしこの状況では切り札になり得るそれには嬉しそうに笑顔を見せ、オレも刀を腰に差して戦闘中の式神に向き構える。

 

「一発勝負でいきましょう。綺麗に決めてきなさい、京夜」

 

「おう」

 

「……君は真田幸音がパートナーだとそんな笑顔を見せるんだね」

 

「笑ってない」

 

「笑ってるよ」

 

「あらあら、仲良しさんね」

 

「「それはない」」

 

 それで1度は完全に切り替えたかと思ったが、なんか変な掛け合いに発展してちょっと調子を崩され、気に食わないがハモってしまったオレと羽鳥がふんっ! と顔を振ってから行動開始。

 どう割り込めばいいかもわからない高速の攻防ではあったが、そんな速度を無にする幸姉の魔眼が煌めき、両者から一瞬ではあるが全ての運動エネルギーを奪い、その異変で即座に離脱に動いた趙煬は見事。

 その趙煬を追撃しようとした式神との間に羽鳥が最後の武偵弾である炸裂弾を放って手動で爆破。

 その爆発に少々だが巻き込まれながらも後退して逃れた式神の動きはさすがだが、その逃げた背後に回っていたオレは、信じられない反応速度で振り返って攻撃を仕掛けてきた式神に大太刀の抜刀が遅れる。速すぎだろうが!

 

「1人じゃ瞬殺だったな……」

 

 だが今はオレ1人で戦ってるわけじゃない。

 オレなんかじゃ死の回避に頼らなきゃ避けることさえできない攻撃も、幸姉の魔眼によってその動きはピタリと止まり、そのわずかな時間で可能となったオレの渾身の抜刀からまずは横一閃で胴を真っ二つにする。

 抜刀した大太刀は式神に対してほぼ抵抗なく振り抜かれたため、そのエネルギーを上手く利用して今度は両手持ちに変えて八相の構えから正中線をなぞる縦一閃。

 

「美味しいところを持っていく」

 

 その二連撃によって式神は撃破でき、4つに分かれたパーツはそれぞれが爆発の予兆を見せたが、爆発の規模から考えても離脱が間に合わなかった。

 だからといって諦めたわけではなく、式神の背後から近づいてきていた趙煬が見えていて、なんかオレに対して嫌味っぽいことを言いながらその手の槍で式神のパーツを一瞬で横へと弾き出して爆発の範囲から逃がしてくれる。

 そうして空洞地帯の端っこの方で爆発した式神の余波だけでその場に留まることも出来なかったオレは、大太刀を地面に突き刺してやり過ごすが、あっつ! 火傷するわ!

 爆発の煙で式神が倒せたかどうかの確認がまだできないが、大太刀を地面から抜いて納刀し趙煬と一緒に煙が晴れるのを待つものの、なかなか晴れないな。

 

「あれだけ撃ち合って怪我はなさそうだな」

 

「見た目からはわからんだろうが、打撲が8ヵ所ある。俺もまだ修行が足りんようだ」

 

「打撲だけで済んでる時点で十分すぎるだろ……」

 

 あの式神との打ち合いでも痛打は浴びなかった趙煬の化け物ぶりはもう呆れるが、味方としては頼りになりすぎる。これから先は藍幇と敵対しないようにしよう。うん。

 そうした会話をしていたら煙も晴れて、草の根もなくなった爆心地には何もなく、周りに飛び火もせず火事などにはなってないことも確認。

 趙煬もそれらを確認して槍を肩に担いで警戒を解き、オレもふぅ、と息を吐いてから後ろにいた幸姉と羽鳥に視線を向ける。

 が、何故かこのタイミングでオレの死の回避が発動し、その体がゆらりと横に逸れて動くと、後ろから光がやや上方向にオレと趙煬の間から抜けていく。

 

「「往生際が悪い」」

 

 それが式神による最後っ屁であると理解したオレと趙煬は、ほぼ同時に振り返ってそれぞれがクナイと投げナイフを投擲し、爆心地で不自然に浮いていた真っ赤な人型の札を貫いて沈黙させた。これで今度こそ終わりか。

 そう思ったら全身から力が抜けて尻餅をつきそうになったが、それを堪えてちょっとフラつく足取りで幸姉と羽鳥に近寄り、確認しなきゃならないことを口にする。

 

「ジャンヌとセーラが無事かどうか確かめないと」

 

「だね。セーラにはインカムから応答を確認してみてくれ」

 

「ジャンヌとセーラね。超能力者なら私が大雑把に感知できるし、最低限の治療もできるわよ」

 

「とりあえず近くにジャンヌはいるから幸姉はそっちを頼む。オレはセーラを拾ってくる」

 

 まだ安否すらわからないジャンヌとセーラの心配をしながら、テキパキと行動を開始する一同。

 医療技術のある羽鳥と超能力による治療ができる幸姉がいるのは心強いが、死んでいては意味がないので、一刻も早くセーラを見つけなきゃとインカムに声を通しながら移動を開始した直後。

 インカムからではなく、近くから「その必要はない」とセーラの声が聞こえてきて、そちらを見れば森林地帯から自力でここまで来たのか、フラフラな足取りでセーラが姿を現し、オレ達が見えて緊張の糸が切れたのか、近くの木を背にぺたんと座り込んでしまった。

 

「怪我は?」

 

「お腹にもらったけど、ギリギリで防御した」

 

 そんなセーラに近寄った羽鳥の言葉にお腹をさすりながら答えたセーラは、あの光の弾丸を腹に受けても貫通はさせなかったようだが、可愛い服が腹見せスタイルみたいに穴を開けておへそが見えていた。

 

「京夜ぁ、ちょっと手伝ってぇ」

 

 とりあえずセーラは大丈夫そうなのでホッとしたら、ジャンヌの方に向かった幸姉が呼んでくるので、呑気な声から無事なのはわかって小走りで近寄ると、気絶してはいるが目立った外傷も出血もないジャンヌは静かに寝息を立てていた。

 

「これに感謝ってところ?」

 

「……かもな」

 

 そのジャンヌを助けただろう、半ばからポッキリと折れてしまってるデュランダルを持った幸姉に、オレもそうなんだろうなと思う。

 起きたら悲鳴を上げそうなデュランダルの有り様は同情するが、とにかく無事だったジャンヌの頬に軽く触れてから、他に外傷はないか幸姉に確認してもらって、全員の無事にようやく安堵の息を吐いたのだった。疲れたぁ……

 

「しんどぉ……」

 

「その言葉をあとでジャンヌに聞かせてやろうか」

 

「やめてくれ。太っただなんだ言いかねん」

 

 各々の応急処置やらを空洞地帯で済ませて休憩してから、撤収のために車に戻ろうとしたのだが、その車は先の戦闘で崩れた崖の岩でぺしゃんこにされたとセーラから言われてしまう。

 足を失ったオレ達がどうするかと悩んでいたら、そそくさと携帯を取り出した幸姉はどこかへと連絡したかと思えば、なんか星伽神社に入る許可を取ってくれたらしく、寝てるジャンヌをオレが。ヘロヘロなセーラを羽鳥が。意識のない陽陰を趙煬がそれぞれ運び、幸姉の先導で星伽神社まで辿り着いたが、もう歩けない……

 

「お待ちしておりました、猿飛様、幸音様」

 

 満身創痍なオレ達が星伽神社の入り口でへたれていると、奥から小走りで近寄ってきた風雪ちゃんが呑気に挨拶をしてきて、それに会釈しつつ連れ立ってきた他の巫女にジャンヌ達を運んでもらって、オレ達も境内の方に移動しながら話をする。

 

「それで白雪ちゃんはどこにいるの?」

 

「はい。今は御神体の元にいらっしゃいますが、先ほどその御神体の元で崩落があり、安否の確認が取れません」

 

「そこにアリアとキンジもいたりする?」

 

「……はい」

 

 どうやら事前に風雪とは何かを話していたらしい幸姉は白雪の居場所を聞き出してそこに向かうような足取りで、緋緋神がここに来てるのはわかってるからアリアと、それからもしかしたらとキンジもいるかと尋ねるといるようなので、オレもそっちに向かうことにする。

 

「羽鳥達はメーヤさんとかへの連絡を頼む。武偵庁にも陽陰を引き渡さないとか」

 

「その辺の手配は私がやる。少し気になることもあるしね。そちらは任せよう」

 

「何かあっても無理はするな。今のお前など吹けば飛ぶ」

 

「ご忠告ありがとよ」

 

 ここからは趙煬達にとっては依頼にない事なので、そうした意味でもついてこようとはしなかった一同に見送られて、風雪ちゃんの案内で本殿の裏へと回り、その奥の林を抜けて湖のある空間に出る。

 するとその湖の奥の星伽山とか言うらしい噴火口の凹みに積まれていただろう岩が崩落したような跡を残して無惨な姿を晒していた。

 

「この湖は水面に足場があり歩いて渡れます。この奥には私は行けませんので、ご案内はここま……」

 

 白雪の次に年長の風雪ちゃんだから、妹達のいる手前、冷静には見えるが内心では駆けつけたい一心だろうことを察して、湖の前で足を止めた風雪ちゃんの手を引いてガラス張りでもしてある水面から3センチ程度の深さにある足場を通って湖を渡り始める。

 

「猿飛様……困ります」

 

「今のオレなら簡単に振り払えるぞ。そうしないのは風雪ちゃんだけど?」

 

「こら京夜。年下の子をいじめないの。ゴメンね風雪ちゃん。うちの京夜が『強引に』連れてきて」

 

「……仕方ありません。男性の力には抗えませんから」

 

 渡り始めてすぐに風雪ちゃんが戻ろうと少し抵抗するが、その力は消耗しまくったオレでも止められるほど弱く、あんまり気の利かないオレの言葉を訂正して幸姉が言い訳作りをしてくれて、少し迷った風雪ちゃんはその言葉で仕方なくついてくることにするが、その顔には少々の涙と笑顔があった。

 湖を渡り切った先の噴火口の凹みは、どうやら人工的に岩を積んで中に空間を作り出したものだったようで、鳥居などでどの辺が入り口だったかはわかったが、今やそこも天井になっていた岩盤が沈んで崩れて完全に塞がり、人が潜り込めそうな隙間も見つからない。

 

「この中にキンジ達がいるのかよ。生きてるのか?」

 

「こら。風雪ちゃんの前で縁起でもない。ちょっと待ってなさい」

 

 どうしようもなさそうな状況で中もどうなってるのか探りようもないと口に出したら、心配そうな風雪ちゃんをさらに不安にさせたオレは幸姉に怒られ、その幸姉は懐から札を取り出してネズミの式神を作り、視覚をリンクさせたそれを小さな隙間から潜入させる。

 

「暗い! 何も見えないんだけど!」

 

「そりゃそうだ」

 

「仕方ない。聴覚もリンクさせて目が光るようにするか。ちょっと集中するから黙っててね」

 

 何のギャグなのか当たり前に暗い中を進んで叫ぶ幸姉がこの上なくアホなんだが、式神の性能を上げてからはすっかり沈黙して式神を奥へ奥へと進めていったようだ。

 この幸姉を見ても式神の操作にはそれなりの集中力を要することがわかり、改めてさっきまで戦っていた陽陰が反則級の化け物だったことを実感し背筋に寒いものを感じる。よく生きてたなオレ。

 

「ん、赤い……石?」

 

「……赤?」

 

「おそらく御神体ではないかと」

 

「御神体……っていうと、緋緋色金の原石か」

 

「そうなります」

 

 5分ほどかけてかなり深いところまで式神を進行させた幸姉は、ようやく何かを見つけて目を閉じたまま呟くので、赤い石と聞いた風雪ちゃんはそれが御神体であると言い、その御神体が緋緋色金であることを知ってるオレの問いに肯定を示す。

 

「…………はっけーん! ひー、ふー、みー……よー、いつー?」

 

 そしてついにキンジ達を発見した幸姉は、その人数の確認をしてくれたのだが、なんか数が多くない? 2人ほど知らないのがいるよね。

 

「風雪ちゃーん。お姉ちゃんはとりあえず生きてるわよぉ。上手い具合に御神体とやらの下でやり過ごしてたみたいね」

 

 続いて生死の方を確認した幸姉が明るい感じでそう言えば、それだけで風雪ちゃんは安堵の息と涙を同時に出して顔を手で覆って静かに泣き出す。

 オレもキンジ達が生きててひと安心だが、緋緋神がどうなったかがわからないからまだ脱力するには早い。

 

「あー、はい、はい。了解です玉藻様。ではそのように」

 

「ん? 玉藻様がいるのか?」

 

「緋緋神の方も問題は解決したみたいよ。とにかく救助のために重機やら何やらを呼ばないとだから、風雪ちゃんはそっちの手配をしに行ってくれる?」

 

「わかりました。お二方には後ほど、どなたかに暖を取れるものを運んでいただきますので、少々お待ちください」

 

 そして向こうの声を聞いた幸姉は、中からの指示で本格的な救助要請の許可を取ったようで、それを聞いた風雪ちゃんはペコリとお辞儀をしてから急いで本殿の方に戻っていき、式神を向こうに置いたままリンクだけを切った幸姉も休憩しつつ崩れた岩場に座ってオレを隣に招くので、隣り合って座る。

 

「あと1人は誰だったんだよ」

 

「んー、緋緋神の思念体みたいな? アリアとなんか折り合いがついたみたいで敵対はしてないっぽいわね。大人しくしてるわ」

 

 思念体っていうと、瑠瑠神がやってたあれみたいなやつだな。

 そうして思念体を出してるってことは、アリアの体からは出ていった? とかそんな感じなんだろうが、よくわからんから説得はできたって理解でいいかな。

 その程度の解釈ではあるが、まぁ緋緋神の問題が解決したならいいかとようやく安堵して寝転がると、幸姉も一緒に寝転がって夜空を見上げてそのまま会話を続ける。

 

「んで、どうしてこのタイミングでここに?」

 

「パトラがね、金一に頼まれたからって私の方に情報をリークしたのよ。それでちょうど自衛隊に投入される戦闘機のテストパイロットに早紀がゴリ押ししてくれて、それに同乗してきたってわけ」

 

「早紀さんは?」

 

「そのまま函館に行って供給受けたら戻るはずよ。お土産頼んでおいたから今から楽しみなんだよねぇ」

 

「あの大太刀は他に何か聞いてるか?」

 

「あー、なんだったっけな。『これがあればあの扉も斬れるんじゃね?』だったかな。何の扉かは知らないけど」

 

「バカかあの脳筋は……」

 

 時間ができたのでさっきはあやふやにされたことを聞けば、どうやら金一さんのファインプレーだったようで、それがなきゃ死んでたかもしれないから、今度会ったらお礼を言っておこう。

 その弟ってことになるジーサードは頭が良いのにバカらしく、あの大太刀ならオレと理子が閉じ込められたエリア51の隔壁も破れる武器を作ったみたいだが、携帯性重視のオレにあれを渡すのはバカとしか言えない。あんなの常日頃から持ち歩けるかっての。

 

「でもまぁ、京夜達が真っ向から陽陰に喧嘩を売るなんてビックリよ。それで逮捕までしちゃうんだからさらにビックリ」

 

「うーん……それに関してはちゃんと話しておくべきだったのかもな」

 

「なに言ってんの。情報ってのは知る人が増えればそれだけ漏洩の可能性が高まるんだから、教えなくていいのよ。私だって陽陰と直接やり合ったらセーラとジャンヌみたいな結果になるだろうし、式神だけにしてくれたからこそ役に立てたわけ」

 

「ナイスタイミングすぎて最初は敵かと思ったけどな」

 

「そこはほれ、女の勘ってやつ?」

 

「恋愛限定の能力かと思ってたよ」

 

 張り詰めた空気を完全に払拭したからか、今頃になって怪我という怪我に体が悲鳴を上げてくるが、そうして幸姉と話していると痛みもずいぶん柔いてくれてる気がして、綺麗な夜空を見たまま少し笑い合う。

 

「ありがとな、幸姉」

 

「私もありがと、京夜」

 

「……何に対しての感謝だよ」

 

「ふふっ。そんなの決まってるじゃない。『生きててくれてありがとう』ってこと」

 

 何はともあれ、ピンチを救ってくれた幸姉にはちゃんと感謝を述べようと口にしたら、幸姉からも感謝されて困惑するが、そんな返しをされると改めて実感してしまう。

 ――ああ、生きてるんだな、オレ。

 

「…………帰るか。『みんな』で」

 

「それはとっても素敵なことね」


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