現状で考えうるだけの策で陽陰を追い詰めたまでは良かったが、本気になった陽陰は高速の光の弾丸でセーラとジャンヌの超能力者組を速攻で無力化して、さらに接近戦組のオレ達に狙いを定めてくる。
2人の生死が不明でそっちの方が気になるが、それよりも次の光の弾丸を放つ札を手に取った陽陰から目を離せず、さらに式神もいるのでどう対処するか整理がつかない。
「ずいぶんとしてやられたようだが、これならばもうステルスはいらんな。水も残らず凍らされたようだし、少し早いが降ろしてやるか」
式神の防御の中からかなり集中していないと当たる光の弾丸を撃ち出せる陽陰に足踏みしたオレ達が仕掛けてこないのを確認した陽陰は、札は持ったままペイント弾で半分ほどは見えてしまってる式神を見てそんなことを言いながら空いた片方の手で式神に触れる。
降ろすという言葉の意味を汲み取るならば、先ほどの朱雀から玄武へと切り替えた式神の変化が思い出され、少し早いという意味を汲み取るとこれは時間が関係し、チラリと時間を確認するとあと20分ほどで午前1時を回ってしまう。
つまりセーラが危惧した丑の刻で力を発揮するという十二天将の主神、貴人とやらを今から式神に宿そうとしているのだ。
「阻止だ! 手を斬り飛ばす勢いで止めるんだ!」
それを理解した羽鳥もオレと同じようなことを思ったようで、オレ達に聞こえるように前進を促して陽陰の行動を止めようとする。
日本語がわからない趙煬は羽鳥の声色で危機的状況を理解しオレより早い反応で飛び出して先陣を切るが、式神の妨害ですぐに動きを止められる。
だがその隙にオレと羽鳥が別方向から接近して陽陰を攻撃しようとするものの、羽鳥は横凪ぎに振るわれた式神の尻尾に吹き飛ばされ、オレは構えられた札から放たれた光の弾丸で死の回避が発動し地面にヘッドスライディングすることになり攻撃失敗。
オレの転倒の隙を逃すまいと次弾を構えた陽陰の動きが早く、クナイの1つでも投げてやろうとした行動をキャンセルされて即座に立ち上がるも、羽鳥を吹き飛ばした尻尾が追撃してきて真後ろに吹き飛ばされてしまう。
「空中は避けられまい」
尻尾の衝撃で意識が飛びかけて弧を描くように吹き飛ぶオレの耳にもハッキリとその声は聞こえ、なんとか陽陰に顔を向けるも言う通り空中ではどうすることもできず、札を投げて印を結んだ陽陰をただ見ることしかできない。
ここでミズチのアンカーが反射的に出るところだが、それはさっきのコピーとの戦闘で肝心のアンカーとワイヤーが繋がってない状態。アンカーは回収していたが、ワイヤーの交換は余裕がなかった。くそっ!
無情な光は陽陰の姿を隠すように煌めいて、死の回避も無理と悟るように無反応でいよいよ死んだかと半ば諦めたその時。
急にオレの左足に何かが巻きついて、その巻きついた何かに引かれてオレの体は急に真下へと落下して地面に叩きつけられ、何事かと思いながらもギリギリで受け身を取りダメージを軽減し片膝で立ち上がり状況を確認。
どうやら今ので陽陰の光の弾丸は回避できたようだが、荒っぽい救出は誰によるものかと左足に巻きついたものを見ると、分銅のついた鎖が前方に伸べていて、その先は趙煬の右の袖の中へと繋がっていた。
「お前が死ねば劉蘭が悲しむだろうが」
まさか趙煬が助けてくれるとは思ってなかったが、そんなことを言う趙煬はオレに注意を向けたせいで式神の攻撃を防御しきれずに吹き飛ばされ、鎖で繋がったオレも遅れて引っ張られて地面を転がってしまう。
趙煬は槍を即座に地面に刺して木への激突を回避しつつリカバリーするが、オレは地面にベタッとすることで強引に止まって鎖を解く。
「よく動くものだな。だがこれに苦戦していたお前らがどう足掻くか、見せてもらうぞ」
陽陰の追撃が来ないことを確認してから、吹き飛んでいた羽鳥の安否を確認し、咳き込んではいたがなんとか立って構える羽鳥を発見。
しかし全員が陽陰から引き離されたことで式神の切り替えが完了してしまったようで、今まで使っていた見えなくなる超能力を解き、ペイント弾も取り払われて一新したように黒塗りの式神となり、さらにその体がふた回りほど小さくなると、背もまっすぐになり尻尾もなくなって人間に近くなる。
目に見える変化はそれだけで一見すると小さくなってくれてありがたいと言いたいが、オレ程度の観察眼でもそんなことを言えない事態になったことがわかり嫌な汗が止まらない。
その証拠にオレよりも戦力分析が出来るだろう趙煬がまだなんとかなりそうだと顔に出していたそれが消え、今までで一番の集中力を宿したのが遠間でもハッキリとわかった。
「貴人、だったか……万全じゃなくてこれかよ……」
何もしていなくても放たれる式神のプレッシャーに押し潰されそうになりながら、まだ丑の刻ではないことを確認して心が折れかける。
予測できるのは式神がこれからもっと強くなっていくというネガティブなものだからだが、オレ達の心が折れたからといって陽陰が見逃してくれることも万に一つもない。
だったら無抵抗で死ぬよりも1秒でも長く抗ってやるよ。
それに羽鳥と趙煬の顔にはまだ絶望の色はないのに、オレだけが膝を折っては士気に関わる。
まだ動いてすらいない式神に臆す理由もない。
「生きて帰るんだろ、猿飛京夜」
オレは知ってる。こんな状況でも、不可能を可能にしてきた男を。
オレはあいつとは違うが、何とかしようとしない人間にそのチャンスすら訪れないのだ。
他力本願の精神を持つオレだが、それが悪いことなわけではないことを学んだ。
仲間に頼り力を合わせて事を収拾する。それもまた不可能を可能にするための力なのだから。
だからこそ今ある力で最善を尽くす。それが以心伝心したオレ達の動きは無駄がなくなった。
……はずだった。
「油断するなよガキども」
集中力はかつてないほど高めていた。
だが陽陰がそんな言葉をオレ達に向けて放った瞬間、佇んでいただけの式神の姿がブレて消え、次には離れた位置にいた趙煬がこっちにノーバウンドで吹き飛んできて、それをなんとか受け止めつつ趙煬の様子をうかがう。
「縮地法か……人形風情が人の真似とはな」
ダメージ自体は防御して通ってなさそうだったが、どうやら趙煬も使える相手との距離を瞬時に詰める技を使ったらしい式神に苛立ちが見える。
縮地法とか言うが、端から見たオレにはステータス任せに高速移動しただけにしか見えなかったぞ。
「奴とは5メートル以内の距離に近寄るな。お前とあれでは意識する前に殴られて殺されるぞ」
「……だそうだぞ、羽鳥」
『これだから超人バトルは好かないんだ』
オレも全面的にそう思うよ。
今の攻防だけで式神とこっちとの戦力差を正確に見抜いた趙煬の助言によって、まともに相手ができるのが趙煬のみとわかったオレと羽鳥は、一層の気合いを入れて槍を構えて突撃していった趙煬を横目に合流。
そこから趙煬は徒手空拳らしい式神と槍で高速の攻防を始めたのだが、なまじ姿が見えるようになったからこそ、式神の動きが化け物じみてるのがハッキリとわかり、それについていける趙煬の凄さも再確認する。
だが趙煬も式神だけで手一杯らしく、肝心の陽陰にまで気が行っていないのか、容易く光の弾丸を撃ち出す札を取り出させて狙いをつけられてしまう。
「その間に陽陰を取っ捕まえろと、そう背中が語っているね」
「呑気に言ってる場合じゃないだろ」
その様子を見てさっきの借りは返そうとクナイを取り出してそれを陽陰の札を狙って投げ入れ、羽鳥も動きを悟らせないようにか、腕に仕込んだメスを取り出して小さな動作で投げ入れる。
それでもオレ達への注意を払っていた陽陰は、しっかりと反応して札を引っ込めてクナイとメスを躱し、式神と趙煬の戦闘が式神やや優勢と見るやまずはオレ達の始末からといった感じで向き直ってくる。
光の弾丸は厄介だが、オレには死の回避があるのでフェイントにも引っかからず接近が可能と判断し、迎撃体勢の陽陰に正面から突撃。
対して羽鳥はその場から動かずに拳銃を構えてオレをブラインドに隙間から陽陰を狙う。札を出されたらおそらくは横にズレると思われる。
「姑息な手では俺に手傷すら負わせられんぞ」
そのオレ達の光の弾丸対策に一笑した陽陰は、札を使うまでもないといった雰囲気で切り絵のような簡易の鳥の形をした紙を3枚、懐から取り出してオレの方に投げ印を結ぶ。
すると紙は一瞬で黒い鳥、烏になって襲いかかってきて、咄嗟に単分子振動刀を抜いて真ん中から来た1羽を両断してやり過ごし、残りの2羽は腕を掠めて通りすぎて後ろの羽鳥を強襲したよう……
そう思った次の瞬間、単分子振動刀を納刀したオレの胴に正面から圧迫する感覚と後ろに引く力が働き、何事かと踏ん張ってみる。
「バック宙したまえ!」
だがそんなオレに後ろから叫んだ羽鳥の指示は力に抗うなといったニュアンスのもので、胴にある圧迫感が何やら縄状のそれに似てるのもあって即座にその場でバック宙。
体が回転したことで胴の圧迫感は4分の1回転でスルッと抜けるようになくなり、そこで羽鳥がオレを掠めるように陽陰に発砲。信じてないわけじゃないが、危ないのは変わらない。
そして上下が逆転した反転の視界では、通りすぎた烏が少し左右に広がったところから羽鳥に挟撃を仕掛けてるように見えたが、距離的にはクロスのタイミングが早い。あれでは羽鳥の前でクロスして当たらないだろう。
そんな後ろの光景をチラッと見て着地を決めると、札を取り出そうとしていただろう陽陰が羽鳥の銃撃によってその動きをキャンセルされ、何も持たない右手をシュッ、シュッ。謎の動きで左右に振る。
「ぐっ!」
何か変化が起きるのかと構えていたら、直後に後ろから羽鳥の呻き声が聞こえて振り返ろうとしたが、目を離せばまた光の弾丸を使われる危険があったので、クナイを取り出してその刃の反射で鏡のようにして後ろを見る。
後ろの羽鳥はどうやら木に縛りつけられてる感じだが、胴辺りに巻きついてるだろう縄は見えない。それでも服に食い込みは見える。
その羽鳥が縛りつけられてる木の側面には、さっきの烏がくちばしを突き刺して止まっているのが見えた時に、オレはさっきの謎が解けて納得。
オレの胴にもあった圧迫感は羽鳥を縛りつけている見えない縄によってもたらされ、それを2羽の烏が元から繋がった状態で運び、最初はオレを拘束しようとした。
羽鳥のバック宙しろというのは、烏がオレの後ろでクロスして折り返してくる前に縄から脱出するための手段で、それが叶わなかった烏は即座に羽鳥に狙いを変えて木に縛りつけたのだ。
銃撃の直後で縄が見えないから回避のタイミングを掴めなかった羽鳥は、結構しっかりと拘束されたようで簡単には脱出できそうにない。両腕が動かせない縛りつけ方なのが災いしてる。
こうなると陽陰には絶対に光の弾丸は撃たせてはならない。オレが避けられても羽鳥が避けられないんじゃ意味がないんだ。
まさに姑息な手でしか陽陰に仕掛けられないオレは、後出しジャンケンの陽陰に羽鳥を守りながらどう仕掛ければいいか思いつかない。
どうにかして陽陰の予想外を引き出して隙を突かなきゃ、懐に入る前にやられる。
趙煬もあと何分、式神を抑えてられるかわからないし、思考時間は短くしなきゃならない。
「忘れるな、君は『影』だ」
とにかく1秒でも早く陽陰を捕らえなきゃと考えるオレに、そうして諭すように口を開いたのは、後ろで拘束される羽鳥。
響くような声ではなかったが、何故かハッキリと聞こえたその言葉にスッと思考が落ち着いた瞬間、背中に何かが当たって落ちる前に背面キャッチ。
それは羽鳥からの1つのプレゼント。どう使うかはオレの技量しだいといったところか。上等だ。
影は影らしく『影の中でコソコソ』するさ。
「土御門陽陰。お前を逮捕する」
「ほざけ小僧」
今や陽陰と対峙してるのはオレだけだが、ここでオレが相手の土俵で戦ってることに気づき、それがそもそも間違っていたと冷静になってクナイを取り出す。
後出しジャンケンが出来る陽陰は少しだけ構えてオレの動きに注意するが、そうして注視すればするほど、お前に死角が出来るってことを教えてやる。
クナイを両手で合計8本持って、それをほぼ同時に投げたオレの標的は陽陰ではない。
作戦上、ジャンヌが見えやすいだろうからと戦闘開始から放置していた陽陰の光源。
ジャンヌやセーラにとっては少々ありがたい存在だったと思うが、オレにとっては持ち味を消す1つの要因になってたので、それを今クナイで撃ち抜いて排除。
クナイで撃ち抜かれた光源の札はその効力を無くして発光を停止し、空洞地帯は再び夜の闇に紛れ、突然の暗闇は星明かり程度では簡単に順応はできない。
だが光源が無くなるとわかっているオレはその瞬間に目をつむって暗順応を済ませ、目を開いた時にはもう暗闇で動ける目が完成していた。
その視界で見た光景では、すでに陽陰が次の光源を出そうと動き始めていて、それをじっくり見る前に行動を開始したオレは、音を最小に留めて陽陰に接近。
「遅いぜ陽陰」
そして妨害なく陽陰の背後に回れたオレが、その手錠を持ってかけようとした瞬間、光源を出そうとしていたはずの陽陰は、まさかの光の弾丸の札を、しかも背後のオレに待ってましたとばかりに構えて放とうとしてきた。
「背後が得意なんだろう? わかっていたんだよ小僧」
――カッ!
そんなオレの動きを読んでいたらしい陽陰は不敵な笑みを浮かべながら躊躇なく光の弾丸を撃ち込んできて、その光にオレは成す術なく撃ち抜かれる。くっそぅ……
「…………オレをそう簡単に理解できると思うなよ、陽陰」
なんて言うくらいの演技があっても良かったのかもな。
とかなんとか思いながら、驚きながら正面を向いた陽陰は、そこにいたオレの目にも止まらない拘束術で地面に伏せられて、後ろ手に背中に乗られる。
「……貴様ぁ、確かに背後から迫っていたはずだ」
「そうだな。オレの『声』は確かに後ろにやったからな」
まだ何が起きたか理解してなさそうな陽陰は、疑問を解消するように質問をしてきたので、オレもしっかりと力の入らないような拘束をしつつ応えてやる。
「オレはお前の『背後には回ってない』。あの短時間で接近できるほどオレも超人じゃないし、お前がそれを読んで罠を張ってるだろうことは読んでたからな」
「裏の裏を読むだと? 小僧が浅知恵を働かせたか」
「その小僧に捕まってるんだ。何を言っても負け犬の遠吠えだぞ」
話しながらオレは暗闇に慣れてきただろう陽陰に顎であるものを見るように促し、それを見た陽陰は苦虫を噛み潰したような顔でオレを見返す。
言ったようにオレは陽陰の背後には回れていない。
時間的に言えば2秒もかかってないその接近時間で15メートルはある背後に回れる脚力はないからな。
ならどうしたかと言うと、直前で羽鳥から渡されたプレゼント。羽鳥が付けていたインカムを陽陰の背後に落ちるように投げていたのだ。
そこから接近しながらタイミングを見計らってインカムに声を通し、その声を拾った陽陰が振り向いて光の弾丸を撃つ間に接近を完了させて今に至るというわけ。
これが陽陰の言う姑息な手だったとしても、オレにとってはその場しのぎじゃない逆転手。姑息なんて言わせはしない。
「……フッ。小僧はやはり小僧だな」
そうやってオレの使ったトリックを理解した陽陰はしかし、不敵な笑みを再び浮かべて、超能力者用の手錠をかけようとしていたオレを煽ってくる。
強がりだと思われたが、何か時間を稼ぐ節があった陽陰の違和感に気づき、拘束する手元を見ると、1枚の札が袖の中から引っ張り出されていた。
「死ね」
それは間違いなく光の弾丸を撃ち出す札で、死の回避もここに至って発動してくれなくて回避不可能だったかと瞬時に悟った。
だがそうではなく、死の回避は『回避が無理だから発動しなかった』のでなく『死なないから発動しなかった』のだと、横から札を撃ち抜いた銃弾を見て理解する。
「犯罪者に饒舌になるな。バカか君は。口を開く前に手を動かしたまえ」
その声を聞くよりも早く陽陰に今度こそ手錠をはめることに成功し、オレを倒せなかった陽陰もついにその口から舌打ちの音を漏らして沈黙した。
陽陰を沈黙させても油断せずに、銃弾を放ってくれた羽鳥へと視線を向けると、ちゃんと拘束から抜けて拳銃を構えてくれていた。
実はクナイで光源を撃ち抜いて動き出す前に、単分子振動刀を抜いて背後の羽鳥を拘束する烏の1羽を狙って投げていたわけで、片方が緩くなったおかげで縄も緩んで拘束から抜けられたみたいだ。いやぁ、やっといて良かったぁ……
「君、まだ終わってないんだがね」
一応、陽陰には足首にも手錠をはめて、2つの手錠を後ろで繋いで人体的にかなり厳しい拘束をしてから立ち上がり、この暗闇の中でもまだ式神と戦ってる趙煬に目を向ける。止まってないのかよ……
「おい陽陰。あれはどうやれば止ま……」
陽陰には力を奪うはずの手錠がかけられてるのを確認しつつ、それでも止まらない式神の止め方を無理と承知で聞き出そうとしたのだが、力なく横たわる陽陰はすでに意識を手放してその目は閉じられていた。
「ちょっと待て! 何でこの状況で寝られるんだ!」
「待ちたまえ」
マジで意味不明な陽陰の現象に思わず胸ぐらを持ち上げて起こしにかかったオレを制して、羽鳥は仰向けにした陽陰の状態を医者目線で観察。
「脈は正常。呼吸も乱れがなく、完全に睡眠状態だ。だが突然すぎるし、眠りも深い」
その羽鳥の診断でハッキリと睡眠状態にあることがわかったが、今はその謎を解いてる暇はない。
なので多少強引にでも起こしにかかったが、全く起きる気配すらないために、起きたとしても話す可能性の方が低いと判断して陽陰は保留にしたオレと羽鳥は、衰えることなく壮絶な攻防を続ける両者にどう割り込むかを考える。
下手に割り込んで趙煬の調子を崩して倒されたら、オレと羽鳥じゃ瞬殺される。
だが人間である故に徐々に趙煬も体力的に押されてきていて、長引けば不利なのは間違いない。
「どうしようか」
「どうするよ……ん?」
薬品を使い切ってしまったからか、羽鳥も手持ちではどうするか判断に迷っていて、互いに顔を見合ってしまうが、そんなオレの耳が何やら変な音が近づいてくるのを捉え、それが空から聞こえてくることがわかって、同じように聞こえたのか羽鳥も夜空を見上げる。
――なんだよ、何が来るんだよ!