緋弾のアリア~影の武偵~   作:ダブルマジック

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 土御門陽陰の逮捕を目論むオレ達がようやく全員揃って、決戦の地となる青森県を目指して学園島を出発し約2時間。

 多国籍の集団のため、言語統一は英語と決められたこともあってオレは発言もちょっと面倒臭くて、作戦内容の反復とあら探しを黙々と頭の中でやっていた。

 が、対照的に祖国語だから絶好調な運転手の羽鳥は、助手席に乗ってすらもらえない人気のなさを嘆くこともなく後部座席の前後の後ろに座るジャンヌとセーラに話しかけていた。

 一応、その間にはオレと趙煬が並んで座っているが、そんなオレ達が存在しないようなスルーっぷりは感心すらできる。

 

「しかしまぁ、よくこの面子で作戦に当たれたものだ。程度はあれど、皆が皆、1度は敵として相対した関係にあるわけだからね」

 

「それが武偵の縁なのだろう。昨日の敵が今日の友となる時もあれば、その逆もあるということだ」

 

 ほぼほぼ羽鳥の一方的な会話も飽きてきたところで、半ば諦めるようにして話題をシフトした羽鳥は、バックミラー越しにオレ達を見ながらそんなことを言い、話題が全体に変わったからか口を開いたジャンヌが武偵という職業柄の話をして返した。

 が、この中で武偵は3人なので、その言葉が適切なのかは正直かなり微妙なところだし、羽鳥が言い出したこととはいえ、全員と直接の戦闘経験があるのはオレだけじゃないですかね。

 冷静に考えたら、オレってなかなかハードな高校生活を送っているよなぁ、なんてことをついつい思っちゃうくらいにはここにいるやつらの異常さは際立つし、これがまだ1年以内の出来事だったことがもうあれだ。やっぱりハードすぎる。

 まだプロの武偵にもなってないのに、ましてや本気で武偵になると決めて半年も経ってないのにこの調子では身が持たないかもなぁ、とかなんとかも思いはする。

 しかし辛いことばかりでは決してなかったし、その証拠が今のこの状況なのだろうとも思う。

 このハードで刺激的な日々の始まりはきっと、あの春のチャリジャック事件……いや、アリアと出会い、あの台詞を言われた時からだったのかな。

 

「……他人より優れた能力を持っていても、それを隠し続けて出し惜しみするようなら、それは宝の持ちぐされ、か」

 

 あの時のオレはただ、武偵という体でなんとなく過ごしていただけの怠け者に等しかった。

 あの時のままのオレだったなら、絶対に今のこの状況は作れなかったし、今頃は教室でのほほんと何食わぬ顔で授業に参加していたのも明らかだ。

 面倒なことから自然と遠ざかり、その場その場をのらりくらりとやり過ごす。そんなことだけ上手くなっていたはず。

 きっとオレにとっての人生の分岐点はそこにあったんだと思う。

 アリアのあの言葉があったから、翌日に小鳥が戦妹になり、色々な起こりえなかったことが身の回りに降って湧いてきた。

 武偵としての分岐点もあれがあったから訪れたと、今なら思える。

 

「……何やら非常に不気味な笑顔を浮かべている男がいるが、後ろの美女であらぬ妄想でもしていたのかい?」

 

 そうしたことを考えながらなんとなく外の景色を見ていたら、羽鳥が余計な茶々を入れてくるもんだから、後ろのジャンヌとセーラが背中越しでもわかるジト目を向けてきて困る。

 

「そんなことは断じてないが、だがまぁ、意識を脱線させてたのは認める」

 

「これから大捕物をしようというのに、ずいぶんな余裕だね。まぁ、今からガチガチになられる方が心配になるからいいんだけど」

 

「それならお前も良い緊張感を保ってもらえないかね。あまりにいつも通りだと緊張の裏返しに見えてくるわ」

 

「この私が、緊張? 私が人生の中で緊張して動けなくなったのは1度だけだ。まぁそれも半分以上は恐怖が上回っていたがね」

 

 その辺は誤解を招く前に解決しつつ、言葉を返すように羽鳥を問い詰めたのだが、なんか無駄にこいつの過去を知ってるだけに掘り返すのがためらわれる言葉が出てきて強制終了させられる。

 たぶんだが、羽鳥の言うその場面は羽鳥が武偵になる前の話で、それを証明するように口を開いていた羽鳥からは少し哀愁のようなものが漂っていた。これは武偵、羽鳥フローレンスが出さない類いのものだ。

 

「その1度目はともかく、2度目がないことの証明にはなるまい」

 

 だが、事情を知るオレとは違い、羽鳥について知らないも同然の趙煬は本来ならオレが言うべきことをズバッと言ってしまって、それにはバックミラー越しの羽鳥も青筋を浮かべてひきつった笑顔も見せる。

 

「言うことはもっともだが、君の方こそこのメンバーの中で最強の戦力なんだ。いざって時に『中国拳法も槍術も効かない。ダメだこれ帰る』などと言わないようにしてくれたまえよ、神龍」

 

「武は俺を裏切らない」

 

 相手が男だからか、羽鳥も標的をオレだけに絞ることなく、割と趙煬に対しても辛辣な言葉を並べてコミュニケーションを取るが、趙煬も趙煬で羽鳥の毒を涼しい顔で受け止めて無駄にカッコ良いことを言って黙る。

 しかしオレとは違う反応に羽鳥は舌なめずりし、どう平静を崩してやろうかとちょっと燃えてるみたいで、これなら当分オレへの毒攻撃は来ないかなと安堵したものの、そういう心の隙を見逃さない羽鳥は結局オレへの毒は適度に吐いてダメージを与えてくるのだった。

 

「部屋は分ける」

 

「それは構わないが、当然ながら私はそちら側だよね?」

 

「何故だ? お前は女扱いが嫌なのだろう?」

 

「夜這いでもしそうな輩から君達を守るためだよ」

 

「ああ、お前のことか」

 

「違いますけど……」

 

 休憩も挟みつつで無事に青森県の弘前市に夕方頃に到着したオレ達は、数日間お世話になる予定の旅館に入って、2部屋を男女で分けて使うと決めた。

 だがまぁ、なんというか扱いの面倒臭い羽鳥が女部屋に入れられなくて不満が駄々漏れし抗議していたわけで、生粋の女子2名が羽鳥との同室を断固拒否するので話は平行線。

 非常にどうでもいいやり取りなので、オレと趙煬はロビーで言い合う3人を放置して先に部屋に行き、各々で自分のスペースを確保する。自分の空間って大事だよなぁ。

 結果として理屈を通すことが出来なかった羽鳥が愚痴を言いながらこっちの部屋に来てオレと趙煬をキロッと睨んで「吐き気がするから寝る時は離れてくれたまえ」と不可侵領域を設定して落ち着きやがる。

 別に何かしようなんて思ってもいねぇし、そんなに嫌なら個室でも取ればいいだろと本気で思う。

 

「険悪な雰囲気を作ってる場合ではないぞ。ブリーフィングを始めるから、渡したファイルを出しておけ」

 

 そうして同じ空間にいるのも息苦しい3人が会話もなく部屋でバラけていると、荷物を置いてきたジャンヌとセーラが部屋にやって来てこの部屋の重い空気にツッコミつつ、手に持つファイルを叩いて示すので、それに従ってテーブルを中心に全員が座って準備を整えた。

 

「まずは今日はもう日が暮れてしまったから、現場の下見は明日に行う。遠山とアリアがキノクニへと出発しておよそ80時間が経過したから、あと3日は猶予があると見ていいが、気は抜かんようにな」

 

「それはもちろんの事だが、1つだけ確認したい。色々な根拠があるとはいえ、本当に土御門陽陰は現れるのだろうね」

 

「……前提から覆す発言だな」

 

「だろう。かも。おそらく。この作戦で出来る限り使用すべきではない言葉がチラつくのはポジティブではないと言っているんだよ」

 

 シャーロックが現れてからおよそ80時間が経過し、キンジとアリアがキノクニに到着するまであと80時間ちょっとくらいになったのを知らせたジャンヌは、あと3日で準備できることを順に片付けていこうと今後の予定を話した。

 しかしその前にと真面目な雰囲気になった羽鳥がそもそものところを言及してきて今さらかよと一同が呆れる。

 ロンドンにいる時に納得して進めたと思ってたが、曖昧な言葉が嫌いな羽鳥は改めて確信を持ちたいのだろう。

 

「羽鳥の言うこともわかるから、確認のために改めて説明してやるよ」

 

 仕方ないのでファイルでは省略されてしまってるその部分を情報を揃えたオレが説明する。

 

「まず1つ。年末の香港での騒動の時に、幸姉が日本と香港にあった陽陰の地脈の噴出点を利用した天地式神を破壊。これによって一部アジア圏の陽陰の目を潰すことに成功している。さらに現在進行形で日本の天地式神は武偵庁と幸姉の協力で敷かれていない」

 

「それによって今も日本は『陽陰本人がいない限り』は穴になっている。そういう認識でいいのだろう?」

 

「天地式神ってのは地脈を利用して式神に魔力を常に変換、供給する術式で、これなしで式神を遠隔操作する場合は術者からそう遠くまでは無理だって話だ。陽陰が規格外の陰陽師だとしても、半径100キロが限界だろうってのが超能力者による見解だ」

 

「これについては私とセーラも同意している。これ未満の見誤りはあっても、これ以上はないという確信がある」

 

「これ以上は人間じゃない」

 

 なるべく丁寧な説明と専門家による補足によって、まず最初の要素については納得した様子の羽鳥は、そこに指摘するところはなかったのか次の話を促してきた。

 

「2つ目。これは幸姉や劉蘭も現場にいたから知っていることだが、藍幇城に現れた陽陰はそこにいたアリアと猴を見てこう言ったんだ。『緋弾の娘か。まだ緋緋の色は薄いようだが、お前の行き着く先には興味がある。そこの斉天大聖のような末路となるか。はたまた……』とな」

 

「その緋緋の色、というのがアリアの緋緋神化を指しているのだとすれば、陽陰はその結末に興味を持っていることになるわけだ」

 

「加えて、シャーロックがその色金問題の結末が近いと推理したことも陽陰の知るところだとすれば、今のアリアの動向を掴んでいる可能性はかなり高い」

 

 続けて年末の香港での陽陰の言動から推測で語ったアリアの監視の説だが、これも可能性としてはほぼ間違いないと見ていいため、羽鳥も推測の域ではあるが90%以上は確率的にあるので指摘することはなく、了解の意を示した。

 

「3つ目。緋緋色金の原石と呼べるものが星伽神社にあるからだ」

 

「これは私から話そう。京夜がアメリカで発見した瑠瑠色金は、その総量が巨岩サイズにまで及ぶものだったという。瑠瑠色金がそれだけの質量ならば、同族異種の緋緋色金もその原石と呼べるものがあって、それだけの質量を持っていると考えられる。そして星伽は代々、その緋緋色金を研究すると同時に守ってもきた」

 

「これはオレがロンドンにいる間にジャンヌが白雪から聞き出して確定情報になっている。さらにシャーロックとメヌの推理で何はどうあれ、キンジとアリアの今の終着点も星伽神社だ」

 

 これは要素として強くはないのだが、緋緋色金の全てが星伽神社にあるとなれば、その全てが収束する場所と考えてもいいだろうという理屈。

 どのみちアリアも遠からず星伽神社に来るだろうし、先回りした形なのは周知の事実。というか先回りして待ち伏せしないと作戦の意味がない。

 

「4つ目。ここまでの要素から陽陰は星伽神社の近くまで来なければその結末を見届けることができない」

 

「加えて星伽の周囲には侵入者への対策もされていて、夏のパトラの一件から星伽神社を中心にドーム状の陣を半径500メートルの範囲で敷いているらしい」

 

「その警戒網に引っ掛からずに監視をしようとするなら、式神に視覚と聴覚をリンクして、望遠と透視、盗聴の機能も持たせないとほぼ不可能だ。これだけの高性能の式神を扱うとなると、術者本人も限りなく近くでコントロールする必要があるらしい。少なくとも幸姉はそんな式神を扱うことはできないって言ってたよ」

 

「それがファイルに書いてある星伽神社から2キロ圏内ってわけだね」

 

 と、ここまでの話を一応はロンドンにいる時にしたと思うのだが、改めて説明したことで羽鳥も趙煬もどこか納得のいった表情をしていた。

 

「まだいくらか可能性の域を出ないが、未知数の部分は仕方のない不安要素だね。了解した」

 

「改めて説明すると面倒臭いな」

 

「君はメヌエット女史にずいぶんと助けられた事実を真摯に受け止めるべきだね。彼女なしでロンドンでの話はスムーズにいかなかったのが今のでわかったよ」

 

 言われてみればこの辺の根拠はある前提でメヌエットに話を進めてもらった気もしないでもないので、羽鳥の言うことに強く言えなかったが、要するにそういった根拠があるからこそ作戦は実行に移されている。

 それを再確認したところで羽鳥も大人しくなったので、ジャンヌも小さく息を吐いて仕切り直すと、明日の下見での各々の役割を説明していった。

 それが終わって解散になってからは、温泉に入ったり食事をしたりで各自がリラックスしながらの時間の使い方をし、この辺の様子をなんとなく見ていたが、個性が出て面白い。

 まずジャンヌは日本文化に関心があるから、温泉に長く浸かって、戻ってきての食事の際にあれこれ料理について尋ねられてちょっと疲れた。

 セーラはなんか姿さえあんまり見なかったが、ジャンヌと一緒に温泉に入ってから食事はベジタリアンらしくてほとんど口にせずにどこかへと消え、それから朝まで女子部屋から出てこなかった。

 羽鳥はアホなので普通に男湯に入って騒がれて、ジャンヌとセーラと時間をずらして女湯に入っていたが、公共の施設に向いてない。

 しかも寝る前になってから怪しげなトランクを引っ張り出してよくわからん化学実験をやり始める始末。寝ろ。

 趙煬もなんかストイックなのかどうなのかわからないが、温泉に入る前に持ってきた長槍を外でブンブン振り回して汗を流してきて、温泉でもサウナ部屋で倒立して腕立て伏せをやったりと酷いもんだ。

 なんかもうグローバルな連中の集まりだが、この人目を気にしない傲慢さはある意味で頼もしいとさえ思えるし、自分のやりたいことを我慢しない感じは見てても分かるから安心もする。

 ここで変にストレスを溜められても仕方ないし、メリハリはつかないと良い緊張感も保てないものだからな。

 そんな変わり者集団を客観的に見つつ順応してる自分自身の慣れにちょっとあれ? とも思うが、考えてみれば幸姉を含めて昔からとんでもない人達と絡んできた都合、今さらだよなと冷静になったり。ホント、今さらだったわ……

 

「くそっ、人を何だと思ってるんだ……」

 

 翌日。

 予定通りに星伽神社の近くまでやって来て、ジャンヌとセーラは巨視報で予報をするために見晴らしの良い場所へと行ってしまい、羽鳥と趙煬は作戦当日の待機場所を調整するために公道沿いをのんびり散策。

 対してオレはと言えば、近接戦闘要員の3人の中で一番のサバイバル術を会得してるからと、作戦当日にトライアングルの陣形を組む都合で森林地帯に待機しなきゃならないため、その下見で森の中に入れられたわけだ。

 

「冬のサバイバルは……生存率が段違いなんだぞコラぁ……」

 

 まだ雪も十分に残る森林地帯は同じ景色の連続で遭難なんて超簡単だが、本当に遭難したら事なのでちゃんと足跡を残しつつ進む。

 愚痴など吐いて捨てるほど出てくるが、言い出しっぺのオレが泣き言を言えば士気にも影響するし、羽鳥か趙煬に行かせて遭難されたらそれこそ寝覚めが悪い。捜索するのも二度手間だし。

 ジャンヌが白雪から聞き出した情報によると、この辺に見える中腹が抉れた標高の低い山の麓に星伽神社があるらしく、森林地帯に入る前にそれを確認したオレは、そこからおよそ2キロ程度離れた距離のトライアングルのポイントを目指した。

 当日は待機時間があって寒さ対策も必要なので、厚手のコートやら手袋やらは必須かなぁとか思いながら待機場所の目印となる木に1週間は持続するという赤色の点滅装置を取り付けて準備完了。

 野生動物にいたずらされないように割と高所に付けたので、これなら遠くからでも発見できそうだ。

 

「あとはどこに陽陰が現れるかだが……その辺も巨視報と占星術で特定できないものかね」

 

 トライアングル陣形は陽陰の退路を塞ぐための封鎖的な配置なので、場所さえ特定できればその範囲もグッと縮められ、オレの待機場所も深くする必要がなくなる。

 しかし現実はそう上手くいかないので、こうして苦労して色々と準備をしないといけない。

 何事も楽だけじゃやっていけないっていう現実を認識させる良い機会だよな。

 そう思うことで自分を納得させて森林地帯を抜け公道へと戻りしばらく待っていると、下見を終えたジャンヌとセーラを乗せた車が戻ってきてオレを回収。

 最後に趙煬を戻った先で回収してから、帰りの道でジャンヌが報告会を開き状況を確認。

 

「セーラの予報では『数日中にこの地に緋緋神がやって来る』らしい」

 

「アリアじゃなくて緋緋神が、か」

 

「その辺は私達がどうこうすることは叶わないかもしれんが、星伽神社に緋緋神が来るということは、陽陰もまたその動向を掴んでここに来ると見ていいだろうな」

 

「あとはパトラ姉の占星術でタイミングを図るだけ」

 

「パトラにはどの程度の回数やってもらうんだい?」

 

「日に5、6回くらいは占ってもらわねばなるまい。兆しがあったら昼夜を問わずに出るから、長期戦も覚悟しておいてくれ」

 

 セーラの巨視報は無事に見えたようなのだが、それによると星伽神社に来るのはアリアではなく緋緋神なのだと告げられてなんとも言えない気持ちになる。

 完全な緋緋神になって星伽神社に来てしまうのか。星伽神社にある緋緋色金の大元に接近する目的があるのかわからないが、中身がどうあれアリアの体がここに来てしまう未来は知らされてしまった。

 それによって陽陰もこの近くに来る可能性はグッと高くなったので、アリアの心配はするがこちらも集中しないと返り討ちに遭いかねない大仕事。

 なに、アリアには不可能を可能にする(エネイブル)がついてる。これまであいつのとんでもない所業の数々を見てきたんだ。だから今回も頼んだぞ、キンジ。

 

「いよいよって感じがしてきたな」

 

「なんだい? まさか緊張してきたなんて言わないよね?」

 

「この面子で緊張なんてしてたら蹴落とされて役立たずの烙印を押されちまうだろうが。大丈夫だよ」

 

「強がり」

 

「京夜、私が言うのもなんだが、虚勢は心配になる」

 

「弱いやつほどよく吠える」

 

「お前ら揃いも揃って人の言葉を信用しないんだな……」

 

 陽陰の影がチラついたことで一同にピリッとした緊張感が漂ったのを肌で感じたオレは、あえてその事実を口にすることで今から張り詰めても仕方ないと示したのだが、何故か全員がオレをいじる側に回りやがって不愉快である。

 そうした扱いにそっぽを向いたオレに対して、大なり小なりで笑って緊張感を柔らかくした一同の変化にちょっと安堵しつつ、来るべき日に備えて改めて気持ちを作り始める。

 ――決戦の日は近い。


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