緋弾のアリア~影の武偵~   作:ダブルマジック

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最強の陰陽師編
Bullet142


「それじゃあ行くよ。色々と世話になったな」

 

「本当に、面倒なことばかり起きた日々でしたわ」

 

 キンジとアリアと別れてから2日後。

 直前までシャーロックのところにいたセーラの話によると、キンジとアリアは鬼達と一緒にハビのいる拠点、キノクニに向かったらしく、その移動時間は約160時間。

 そこから考えて、オレ達が準備を整えられる時間はそれだけとなるわけだが、1週間もあれば十分だ。

 それですでに36時間ほど経過した頃にロンドンを発つことになったオレは、最後の挨拶のためにメヌエットの家へと立ち寄っていた。

 最後までメヌエットらしい言葉で見送りをしてくれたのはいいのだが、言ってる割にはちょっと元気のないメヌエットの内心を推理しちゃったオレは、そのメヌエットの前で屈んでその手に触れる。

 

「別に2度と会えなくなるわけじゃないだろ。メールだってしてくれれば返事はするし、頻繁には無理だが……また会いに来るよ」

 

「…………何ですかそれは。まるで私が寂しがってると言いたげで不愉快なのですが」

 

「あれ、違った?」

 

「……違っ…………えっと……」

 

 あまり他人に素顔を見せたがらないメヌエットだからこそ、こういう時でも素直になれないのはわかる。

 だが今くらい正直になってほしいので優しく話すと、ちょっと否定しかけて視線をさ迷わせると、観念したようにオレの手を握って口を開いた。

 

「……また来てください。京夜とキンジのせいで、退屈な日々に耐えられなくなってしまったんですから、その責任を取る義務があります」

 

「そんな毎回メヌを楽しませるエンターテイメント性は持ち合わせてないんだが……まぁ、努力はするよ」

 

「とはいえ、どうせまた『ひと月もすれば』京夜は私に会いに来るのでしょうけど」

 

「オレが寂しがりみたいなことを言うな」

 

「違ったのですか?」

 

「……違っ…………わなくもなくもない……」

 

 観念したのはいいが、開き直ったように仕返しでオレの言葉をそのまま返してきてしたり顔のメヌエットは、この上なく嫌な笑顔だったものの、正直になってくれた手前でオレが正直にならないのはあれなので、さっきのメヌエットのようにごにょごにょと言う。

 それでなんか偉そうなメヌエットはクスクスと笑うが、オレもオレで笑ってしまったのでもう怒りすら湧かず2人で少しだけ笑い合ったのだった。

 

「メヌエットお嬢様とのご挨拶は滞りなく終えられましたか?」

 

「駄々をこねるような年じゃないだろ。色々と『推理』もできてるみたいだし、思ったよりは寂しがってなかったよ」

 

 そうして後腐れなくメヌエットと別れて空港へとやって来たオレを待っていたリサが手続きなどを終えた状態で話しかけてきて、同乗するセーラもリサの荷物に腰かけて待ちぼうけしていた。

 

「猿飛様といる時のメヌエットお嬢様は、呼吸をするように辛辣な言葉を放ったりとありますが、それは猿飛様にお心を開いているからこそだと思います」

 

「信頼の示し方がダメージ付きって嫌なんですがね……」

 

「ふふっ。私の見立てでは猿飛様はそれも意外と楽しんでいらっしゃるのかと思ってましたが」

 

「Mではないんだが……まぁ、来年までは見逃してやろうとは思ってる。それ以降は性悪認定だ」

 

「搭乗時間、迫ってるんだけど」

 

 オレとメヌエットを気遣って別れの挨拶は前日に済ませていたリサは、自分の時にはそういった毒吐きがなかったからか、心からの言葉で言ってくれているのだが、毒を吐かれる側はたとえ信頼の証であろうと多少のダメージは必至なので羨ましがるものでもない。

 だからメヌエットが15歳になってもあの調子なら、接し方は変えようと心に誓ったところで、待ちぼうけしていたセーラが電光掲示板を示しながら割り込んできたので、オレもリサも話は切り上げて3人でロンドン発の羽田行きの便に乗り込んでいった。

 ――色々あったけど、また会えて嬉しかったよ、メヌ。

 

「おっすおっす! おかえりダーリンっ!」

 

「…………」

 

「あれぇ? セーラんもいるー! おっすおっす!」

 

「……」

 

 約半日かけて早朝に羽田へと到着したオレ達を出迎えたのは、帰国を知っていたジャンヌと送迎係の島のみ、と聞いていたのだが、アメリカから帰国していた理子が朝とは思えないテンションでついてきていて、オレとセーラはげんなり。

 こっちは微妙な時差ボケもあったりで体内調整が整ってないところでのこのテンションには乗れねーんだよ。

 そういったツッコむ気力も振り絞るのが億劫だったオレとは違い、いつでもどこでもスーパーメイドのリサはそんな理子に付き合ってキャッキャと対応してくれて助かる。

 

「他のやつらはまだか?」

 

「24時間以内には揃う予定だが、とりあえず海外組ではお前達が一番乗りだ」

 

「理子には話してないんだよな」

 

「あまり頭数がいても仕方ないだろう。役立つことは間違いないが、役割分担もすでに決めてしまったし、今から組み込むにしても練り直しが必要だぞ」

 

 助かってる間に近寄ってきたジャンヌと小声で確認作業しつつ、理子がオレ達の作戦を知ってるのかを聞くと、そこは知らずに来ていると知りちょっと安心。

 理子には直近で頼ってしまってるのもあるし、最強クラスの超能力者との対面が想定されてるだけにプチ超能力者の理子は使いたくないのが本音。

 だったらジャンヌとセーラがいるだろという話にもなるが、こちらは参謀と遠距離攻撃、サポートに徹してもらうからギリギリオッケー判定。超能力分析も兼ねてもらうから、いなくては困る枠なのだ。

 

「おやおや? 正妻を放っておいて愛人と内緒話ですかな?」

 

「嫁面うぜぇ」

 

「京夜の愛人か……悪くない響きだな」

 

「えー! ジャンヌが乗り気ー!? そりゃ意外ですなぁ」

 

「私にも略奪愛への憧れがあるのかもしれんな。どうだ京夜。嬉しいか?」

 

「ジャンヌを愛人にするくらいなら、ちゃんと正妻にするっての」

 

 都合やら何やらとあるが、今回は理子を巻き込まないようにしようと視線をちょっと理子に向けたら、内緒話に気づいた理子が近寄って冗談混じりで割り込もうとしたが、ジャンヌが何故か澄まし顔で冗談に付き合うのでくだらないからお話終了という意味でそう返したら、なんか場の空気が変わったんだが……

 オレは『ジャンヌを愛人にするほど男として腐ってないし贅沢でもない』と言ったのだが、何をどう捉えたのか理子とジャンヌは「マジかー」みたいな表情でオレを見る。

 

「いや……なんだ……京夜が本当にその気なら私は考えないこともないぞ?」

 

「うえーん! キョーやんがジャンヌにプロポーズしたぁ!」

 

「あっ? 何でそうなる。オレは……」

 

「しかし私の家の都合、京夜には婿養子に来てもらうことになるだろうが……いやだが、私としては京夜のファミリーネームを名乗るのも悪くは……」

 

「びえーん! もう婚前の話してるぅ!」

 

「…………ふんっ!!」

 

 どうやら2人して同じ誤解をしたようなので、説明しようとしたら各々で泣いたり照れたりで話を聞く耳を持たないので、脳天へのチョップを振り下ろして黙らせてから、改めて説明して誤解を解く。

 それを聞いてから笑顔全開の理子は「わ、分かってたしー!」とか言ってセーラに絡んでいき、ジャンヌも「私は理子の冗談に乗ってやっていただけだ」と腕組みしながらそっぽを向くが、2人して誤魔化し方が下手くそすぎ。変装術を習得してるくせに何だこのクオリティーは。そこを恥じろ。

 まぁそんな些細なことで実力を発揮されてもあれなので2人とも冗談でオレにツッコませたことにして話を終わらせて、みんなで島の車で学園島に戻る。

 それから理子とリサは普通に登校していったが、オレとジャンヌとセーラはオレの部屋に集まって情報の確認と作戦の詳細を頭に叩き込んで、その間に島はこれから来る羽鳥と劉蘭からの派遣要員、趙煬を迎えに成田空港の方に行ってくれる。

 

「出発は明日にしても、日本だと璃璃粒子の方か? そっちは大丈夫なんだよな?」

 

「このところは濃度も薄いからな。絶好調とまでは言わんが、戦力にはなれるだろう」

 

「大丈夫」

 

 オレ達が来るまでに作戦内容をまとめてくれていたジャンヌのファイルを見ながら、それに関わる案件を確認すると、ジャンヌもセーラも調子は良さそうで超能力は安定してるっぽい。

 

「だけどそれってつまり、あっちの方も戦力ダウンは見込めないってことだよな」

 

「そもそも私達はあいつの情報をほとんど持ち合わせていない。あるのはお前と真田幸音から教えられた超能力や推定のGくらいで、実際に相対した場合はほとんど臨機応変に対応するしかない」

 

「問題ない。超能力なら使わせればいい。その方が勝算が上がる」

 

「頼もしい限りで。良い仕事を期待してるよ、セーラ」

 

 しかし2人がそうなら、これから捕まえようとしてる土御門陽陰も条件は同じということなので、安心した反面で不安も出てくる。

 それでも想定内で作戦を練ってくれてるジャンヌと、高い報酬を払うセーラは落ち着いたもので頼もしい。

 

「私達のことはあまり心配するな。むしろ私は前線に出るお前達の方が心配だ。作戦云々よりもちゃんと連携は取れるんだろうな?」

 

「んー、どうだろうな。その辺は顔を合わせてみてってところか。仕事と割り切れるだけの器量はあるが、協調性は基本ないし」

 

「バカだから」

 

「一言余計だ」

 

「自覚があるなら京夜は大丈夫だろう。問題はなまじSランクのあいつと人外クラスの『神龍(シェンロン)』か」

 

 そんなオレの言葉をそのまま返すように、今度はジャンヌが前線に立つオレと羽鳥と趙煬を心配したが、こっちは現状で断言できるような要素がないから曖昧な回答になった。

 その曖昧なところをセーラがつついてくるが、オレよりも羽鳥と趙煬を不安視するジャンヌの意見はもっともかもしれない。

 基本的に何でも1人で出来ちゃう人間の羽鳥に、共闘などしようものなら本来の実力を出せない可能性のある超人、趙煬。

 この2人とオレとセーラを同時に動かすジャンヌには実際かなりの負担だろうな……

 

「まぁ、オレも羽鳥も趙煬も想定外には弱くはないし、作戦行動内でならリーダーも機能するさ」

 

「そうでなくては困る。私が想定外に弱いのだからな」

 

「威張って言うな天然リーダー」

 

 正直、人選を間違ったかもとも考えたが、自負するように想定外に弱いところのあるジャンヌをフォローするには臨機応変に柔軟な対応のできる前線メンバーが必要だったわけで、加えてオレ以上の戦闘能力を持つ奴となると頼れる人材にも限りがあった。

 あとは『こっち以外』にも配置しなきゃならない人材もあったし、精一杯の結果がこれなのだから今さら文句も弱音も吐けない。

 それがわかってるからジャンヌも弱音として自分の弱点を自虐したのではなく、その弱点を補えるだけの活躍をオレ達に期待してるんだ。わかりにくいけど。

 その期待には応えたいので、オレも今回はマジのマジでやる。

 元々はオレが持ち込んだ話から実行に移されたものだし、頑張らないのも変な話ではあるが、細かいことはいいんだ。要はやる気に満ちているわけだからな。

 

「相変わらず不愉快な顔だね君は」

 

「まったくだ」

 

「普段の顔を批判されるのは非常に不快だ」

 

 クソだなこいつら……

 そうして今回はやる気満々だったオレに対しての羽鳥と趙煬の第一声がこれである。

 夜に到着し空港から直行でオレの部屋にやって来た2人は、着くなり我が物顔でリビングでくつろぎ始めたが、図々しいところも似た者同士。

 ジャンヌとセーラは明日の出発の時に再合流すると言って今日はジャンヌの部屋に戻っていき、小鳥も幸帆のところに泊まってもらったので、今夜は会話も弾みそうにないこの面子で過ごさないとダメで憂鬱だ。

 趙煬なんて主武器なのか3メートルはある槍っぽい何かを布に包んで持ち込んでるし、羽鳥も何が入ってるのやらなトランクを持ち込んで大事そうにテーブルに置いてるし、さらに今さらだけど趙煬が羽鳥に合わせるように普通に英語で話してたし。

 てめぇ英語で話せるなら香港でも英語で話せやこらぁ!!

 と言いたかったが、立ち向かっても勝てないので黙っておき、ジャンヌの作ったファイルを2人に渡してオレは明日に備えて先に就寝。時差ボケを治す意味でも日中はずっと起きてたから、すぐに寝られるだろうな。

 翌日。

 羽鳥が車輌科からボックスカーをレンタルしてくる間に、今回の作戦で出撃するメンバーが第3男子寮の前に準備を整えて集合。

 オレ、ジャンヌ、セーラ、趙煬に羽鳥の5人と少人数ながらなんか無駄に濃い面子にオレの影が薄くなってるが、これだけの面子を揃えても作戦の成功率は五分程度。

 それだけ相手も強敵な証明だが、たとえ五分でも千載一遇のチャンスを逃すわけにはいかない。

 

「お前が神龍か。藍幇でも五指に入るその実力、期待している」

 

「劉蘭から出来るだけ力になるよう言われている。役立たずにはならないつもりだ」

 

 基本的に口数が少ないか無駄に饒舌なやつらの集まりだけに、待つ間の会話など皆無に等しかったが、全員を統括するジャンヌはそうも言ってられないので、英語で趙煬と挨拶がてら会話をしていた。

 それを横目にオレはセーラに近寄って隣に立つと、ちょっと睨まれたが微動だにしないセーラに話しかける。

 

巨視報(マクロユノ)、だっけか。ジャンヌの話だと的中率は100%らしいが、まだ何か見えないか?」

 

「直接的な影響のないここでは予報もできないし。現地に行けば嫌でもわかる」

 

「一応、セーラのそれとパトラの占星術で正確性は上げるってことだが、それでもピンポイントとはいかないよな」

 

「あくまで予報。占い。未来予知じゃない」

 

 作戦上、オレ達が動き出すタイミングは陽陰の出方次第で変わってしまうため、その辺の都合をセーラの巨視報。自然物の大局的な動向を予報する能力である程度で察知し、さらにジャンヌが無理矢理こじつけたパトラの協力で、欧州で逃亡していたリサを見つけた実績のある占星術を使ってもらって確実性を上げていく。

 パトラも香港で陽陰の超能力を近くで感じたとかで足掛かりはあったから協力してくれるが、最近に婚約した金一さんとの新婚生活に水を差されて完全に乗り気ではないらしく、顔を合わせたらパンチやらキックやらが飛んできそうで怖い。占星術自体は遠くでも出来るから、パトラが現地に来ることがないのがせめてもの救いだ。

 

「まぁセーラとパトラに頼りきりはオレもあれだし、出来ることはやるよ。それから巨視報の他に死相も見えるんだよな。もしかしてこの面子で死相の出てるやつがいたりする?」

 

「…………味方の死相は見えても言わない。仮にお前に死相が見えて、それを知らされてどう思う?」

 

「…………やる気出ねぇな」

 

「わかったならバカは黙って」

 

「うい……」

 

 そんな感じで初動はセーラとパトラの働きにかかってるのは間違いないが、おんぶに抱っこでよしとするわけにもいかないので、助力はすることを伝えておく。

 それとついでにその人の顔の相。顔相という手相みたいなものが見えるセーラに死相が出てるかも聞いたが、完全にアホなことを聞いたことを突き返されて黙らせられる。

 そりゃそうだよね……誰だって「数日中に死にます」なんて言われて危険な作戦に参加なんてしませんわよね……

 なんか年下にバカ呼ばわりされて正論を叩きつけられるとガチで落ち込むが、仕事である以上、ちゃんとコミュニケーションを取れるセーラの確認はできたのでそれでよしとしよう。

 落ち込んでいた時間はそう長くはなかったが、羽鳥の到着がちょっと遅いなぁ、くらいに思ってきた頃に挨拶を済ませたジャンヌが「作戦中の常用語は英語に統一する」と通達されて、なかなかハードな言語統一だが、趙煬に中国語を使われるよりはいいかと了承。

 だが趙煬が関わらないなら日本語でオッケーだよな。趙煬のための言語統一だし。

 などと早速ジャンヌの通達の抜け道みたいなものを探すオレのズル賢さは表に出さず、こっそりやっとくかと甘やかしていると、羽鳥の到着の前に幸帆のところに泊まっていた小鳥が戻ってきて、まだ出発してなかったオレ達を見て申し訳なさそうに近寄ってくる。

 

「な、なんか凄いメンバーでのお仕事なんですね……あちらの中国人っぽい人は物干し竿みたいな長物を持ってますし、なんとなくレキ先輩っぽい子も近寄り難い何かを感じますし、あとはフローレンスさんもいるんですよね……」

 

「オレもかつてないくらい豪勢な面子だと思うよ。これから1週間くらいかな。留守にするからな」

 

「……そうですか」

 

 ただならない趙煬とセーラの空気を感じ取る辺り、小鳥もなかなか場数を踏んできてる気がするが、この2人が一際あれなだけかもしれないので気にしないことにし、これからまたしばらく留守にすることを伝える。

 それに何故か少し俯いて寂しそうに返事した小鳥が何やら考え事をしてるような感じがして、言うまいか迷ってる雰囲気だったので仕方なくオレから言葉を引き出す。

 

「何か言うなら今のうちだぞ。メールなんかで済まないなら尚更な」

 

「……では言いますけど、もうすぐ京夜先輩との徒友契約が終わってしまうんです」

 

「お、おう。あとひと月ないな……」

 

「それなのに京夜先輩はいつもいつも学園島にいなくて、今年になってからなんて外に出てる時間の方が長いんです。正直なところ、戦妹としては今の扱いに不満があります」

 

「お、おう……すまん」

 

 きっと心配するなって言われるから、それ系の言葉を言わないようにしてたんだろうと軽い気持ちでいたら、俯いていた顔から鋭い眼光でオレを睨むような小鳥の表情が見上げて、そうした不満を爆発させてきて焦る。

 オレも思わず謝ってしまったが、よくよく考えたらオレも依頼とか真面目な仕事をしてるわけだし、戦妹とはいえその処遇をどうこう言われるのは違う気がする。勢いに圧されたな。

 

「……ですが京夜先輩も好きで私を放置してるわけじゃないですし、ちゃんと武偵として活動しての結果ですから、私も不満はあっても文句はないです。仕方ないと割り切れます」

 

 だがそんな不満がオレに謝らせることではないと自覚もしていた小鳥はちゃんと割り切れてることも話してくれ、やっぱりこの辺で戦妹として戦兄に放置される寂しさがうかがえる。それは申し訳ないと思うよ。

 

「この仕事が終わったら落ち着いてくれるはずなんだ。だから帰ってきたらゆっくり話そう。小鳥のためだけに時間も作る」

 

「……わかりました。私もその時に言いたいことを言います。無事に帰ってくるのを学園島(ここ)で待っています」

 

 えー……まだ言いたいことあるんですか……

 そうした小鳥の気持ちを汲んで、帰ってきたらの約束を取り付けたはいいが、なんか不満はまだありそうでこっちは不安になる。

 ただそうやって帰りを待ってくれるというのは、これからのことを考えれば少なからずオレの力になる。

 こちらの仕事の危険性については全然わかってないだろうに、自然と力になってくれた小鳥の頭をポンポンッと軽く触ってから、いつの間にか到着してオレ以外が乗り込んでいた羽鳥の運転するボックスカーにオレも乗り込んでようやく学園島を出発。

 まず目指すのは本州の最北端、青森県だ。


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