いくつもの難問をなんとか突破して、ようやく手に入れた瑠瑠色金を外へ運び出そうとしたところで、オレ達の運も尽きて、深い地下の空間に閉じ込められてしまったが、同じく瑠瑠色金を目指していたキンジ達も辿り着くことで危機を脱する。
「それで、瑠瑠色金はあったのかよ」
先に入って閉じ込められていたオレ達が光屈折迷彩を脱いで現れた時のちょっとした混乱もすぐに納めて、ジーサードが回りくどいことはなしだと言わんばかりに問いかけてきたので、オレは足に仕込んでいた瑠瑠色金を取り出して近くにいた超能力担当っぽいロカに手渡しておく。オレにはあまり必要ないしな。
「まだ必要なら勝手に持ち出しとけ。オレじゃこのくらいが限界だったってだけだからよ」
「あっ?」
ロカの確認を待たずに答えを示したオレは、不思議そうにするジーサードの視線を先にあるT型フォードへと向けさせる。
「まさか……あれ全部、なのか?」
「ヒルダのお墨付きだぞ」
ロカに渡したのがナンバープレートを分断したものだと理解したキンジが驚愕の声をあげ、一同がわらわらと瑠瑠色金に近づいていく。
そうした一同から1歩引いた位置で止まったオレと理子、ヒルダは、念願の瑠瑠色金に到達し喜ぶキンジ達を見てちょっと笑い合うが、すぐに別の驚きが場を包む。
なんとレキがいきなりキンジに強引なキスをして、舌まで絡めてそうなそれには理子が興奮。
すぐに尋常じゃない行動とは思い至ったので理子にはオレから茶々は入れるなと釘を刺しておき、かなめでさえ割り込めなかったキスを終えると、レキはその表情に普段よりも人間っぽい喜びに似たものを浮かべて瑠瑠色金へと向き直る。
そのレキの変化に合わせて、感応するように今度は瑠瑠神が先ほどのように仮の実体となって姿を現すが、その姿はオレの知らない……いや、写真でしか見たことがない人物。
ジーサードやかなめ、人工天才に敬愛されていたサラ博士と思われる人物の姿となった瑠瑠神はまたも裸なので、ムッとした理子がオレに目隠ししてしまう。まぁ話さえ聞ければいいし、このままでもいいけど。
その瑠瑠神が口を開く限り、今レキは璃璃神にその体を貸している状態のようで、自然を破壊するのを嫌ってるという言葉通りにジーサードの願いであったサラ博士を生き還らせることを拒否。
それから自分達、色金の特性である『分かたれても個体それぞれに意思を持つ』ことや、緋緋神がずっと昔からしてきたことを話してから、オレ達と話した時には迷っていたこともハッキリと口にして『緋緋神を殺す』と言い、一同を困惑させる。
「ダメだ。殺さない。家族殺しの片棒は担がないぞ」
だがキンジはこれに少しだけ沈黙してから瑠瑠神のやり方を否定。間があったのはおそらくオレと同じで色金をどういう扱いで見るかを定めていたといったところだが、そんなキンジに瑠瑠神も「では?」と尋ねると、ここは即答で「逮捕する」と言うもんだから、もう周りがどよめく。
しかしその具体的な逮捕する方法まではここでは思い付いていないようで、日本の法律の話やらで理屈っぽく瑠瑠神を説得すると、その方法を探る時間はくれるような言い回しでとりあえずは納得したようなしてないようなだった。
それから瑠瑠神の策も実行できるようにするためと、ジーサードの私的な目的のために瑠瑠色金を適量で車から拝借して、なんか長居もできないらしいこの場からさっさと退散。また閉じ込められたら泣くわ。割とマジで。
そうしたマジな感想を抱きつつ、地上を目指しながらここにきて初めて顔見せになったロカの隣まで移動して挨拶がてら会話に臨む。
「ちょっとぶりだな、ロカ。日本には来てなかったんだよな?」
「リーグの全員がサードに付いて回ることなんて珍しいくらいだし。あと知り合い感覚で接してこないでちょうだい」
「まだ笑ったこと根に持ってんのかよ。そんなことじゃ背も伸びないぞ」
「そんなことで私の背が伸びないことを実証するデータを提示しなさい。迷信とかそういうの嫌いなんだけど」
この中で一番の迷信とかオカルトの部類の超能力者なのにか。
「超能力だって科学的に立証されてきてるのよ。私はその最先端にいたんだから当然でしょ」
兵装も超能力も先端ってか。それは失礼しましたね。少しだが子供扱いもレディーにするもんじゃなかったな。
「そう思うならちゃんと言葉にしなさい。私は言葉入らずの翻訳機じゃないんだか、ら!」
どげしっ!
途中からオレの思考を読んで会話してくれたので楽したが、オレを注視しなきゃいけない都合なのか余計なことをさせるなと尻に蹴りを入れながらのツッコミをされてしまった。怠惰、良くない。
そんなオレとロカがどう見えたのか不明だが、後ろをヒルダと歩く理子からジト目が飛んできていたが、オレも世間話とふざけるために会話をしたわけではない。
「それで、何でマッシュがこっち側で我が物顔してるんだ?」
「私達がエリア51に到達した段階であいつが所属してたNSAから弾かれたのよ。でも私達が暴れてここまで来るのを防ぐって建前で案内役を買って出たわけ」
「ならその権限はないだろ」
「だから今こうして急いでるでしょ。頭が悪いわね」
なるほど。つまり今、マッシュはジーサードに敗北して失脚し、起こってしまったことをせめて穏便に収めるために瑠瑠色金まで通したと。どうせ負けたならどれだけ泥を被ってもいいやっていう自暴自棄なところもあるのだろう。
「ん、となるとオレ達がここまで来てたことはマッシュも知らなかったってことか?」
「でしょうね。あなた達がどうやってあそこまで行けたか私も気になるけど、気付かれてないならそのままの方があなたにとっては都合が良くない?」
「全部マッシュとお前らのせいにしていいってか? お優しい言葉ですが、リーダーは納得してらっしゃるので?」
「あなたが下手に有名になって名前を売られるよりも、そっちの方が今後のためになるってことよ。だから外に出る前にレンタル品は使っておきなさい。あとは私達についてくれば出してあげるから」
「利用価値は影であることってか。まぁ利害は一致してるしな。ここはお言葉に甘えておきますか」
事の詳細はまた後でではあるが、大雑把な事は今の会話でだいたい把握したので、会話に応じてくれたロカに例を言ってから後ろに下がって理子と合流し、グチグチ文句を言われたが軽く聞き流して、外に出る前に光屈折迷彩を着ることを伝えた。
約1日半ぶりに外の空気に触れたオレは、ぞろぞろと出入り口から出るキンジ達から少し離れた位置で様子をうかがいながら深呼吸。砂漠地帯の空気だから美味いって感想はないが、天然と閉鎖空間では吸い込む感じはやはり違う。
まぁそんなことはさておきだ。
全員が外に出てきてから、ジーサードとマッシュの会話の最中で地中から突然LOOがほぼ武装なしの少女で現れて一悶着あるかと思われたが、どうやらペンタゴンにお世話になるしかなかったマッシュをジーサードがスカウトすることで事は済んで、LOOを出したのは攻撃の意思はないことを示しただけ。びっくりさせんなよ。
その騒動のあと、みんなで移動をして空軍キャンプの1つにまで辿り着くと、ジーサード達をヒーロー扱いの軍人達がすでにここからの脱出用ガンシップを手回ししてくれていて、あとは乗り込むだけとなっていた。
「根暗な少年、無事どしたか」
「言うたやんか、大丈夫やって」
そのキャンプには何故か眞弓さんと雅さんもいて、HSSも解けてすっかり元通りのキンジに近寄って話をしているが、何の話だろうか。
「えっと……月華美迅の……」
「おいおい兄貴。薬師寺眞弓とも知り合いかよ」
「知り合いってほどじゃないし、むしろ猿飛の方の知り合いでだな」
「酷い! 京都であないにお世話したったのに!」
「恩着せがましいどす」
ほとんど会話もしたことがないキンジは独特な空気の2人に対して反応に困って、眞弓さんを知るらしいジーサードも予想とは違ったのかちょっと苦笑しているが、そんなのお構いなしな眞弓さんは雅さんを軽く小突いてから話を進める。
「なんやあんたら、蒸気機関車で突撃してきたようどすが、よう生きてましたな」
「こんなことで死んでたら、俺らはもうとっくにこの世にいねェよ」
「お前の基準に俺まで取り込むな」
「京くんの知り合いはオモロイ子がおんなぁ。それより私の『援護』は役に立ったか?」
どうやらキンジ達の接近を知ってたらしい眞弓さん達は、仲良しな遠山兄弟に援護らしきことをしていたみたいだが、それに心当たりのないキンジもジーサードも首を傾げたが、話を聞いていたマッシュが憎たらしげに割り込んで会話に加わった。
「やはりあなただったか。ボクの管理下にあった無人機の1つの遠隔操作が切り離されて、そのまま1機を巻き込んで墜落させられたのは腹立たしかったよ」
「ん? おお、そういや戦闘中に勝手に沈んでった無人機があったな」
「そやで。その1機のカメラから少し見ただけやったけど、京くんの知り合いやし助けたろかって思てなぁ」
「もののついででたまたまやったことでしたが、そこのガキが悔しがったんならエエとしましょか」
「くっ……待て。もののついでってことは……」
「そのまさかやろ」
何をどうやってジーサード達がここまで来たのかをまだ聞いてなかったのは失敗だったが、なんかとんでもない方法だったのは片腕をもがれてボロボロ――義手だからいいのかもだが――のジーサードやらを見れば想像するに容易い。
そのジーサード達の進撃をもののついでで援護したらしい雅さんは、血の気の引くマッシュにババンッ! と何かをコピーした用紙を突きつけてみせると、それを見たマッシュはガックリと肩を落としてしまった。あれは抜き出せとか言ってた自身のプロフィールだな。
「まさかこのボクが1日で連敗するなんて……」
「……なんか知らんが、こいつをこんなにするとはやるじゃねェか。こりゃ月華美迅もスカウトしとくか」
「日本の治安もままなりまへんのに、アメリカにまで手を貸す暇はありまへんなぁ」
「まぁなんかあったら『愛菜の父親』にでも頼めばエエんちゃう? 確かこっちやと『
「あっ? そりゃミスターマッケンジーっていやァ顔は合わせたことはあるが……ありゃ
「大統領のSPやってた奴がよく言うぜ」
「昔の話だろそりゃ」
さすがの雅さんには誇らしいとさえ思うが、勧誘の話から愛菜さんには隠されていた父親の話がポロッと他人の口から出てきてそっと耳を塞ぎつつ、なんとなくこの会話の意図が見えたので静かに眞弓さんの背後に移動して肩をタップし気付かせてから、小声で話をする。
「ありがとうございました。こちらへの『援護』も助かりましたので」
「……そうですか。このままあの子らと行きますのやろ」
「はい。なのでここでお別れになります。最後に姿も見せずすみません」
「次に会う時は京都でのんびりにしましょか」
「その時はお茶菓子の土産でも用意しますよ」
「おおきに」
眞弓さんと雅さんはオレ達の姿が見えないことから、そのまま消えることを予想してキンジ達に話しかけてちょっと場を盛り上げてくれたわけだ。
さらに雅さんはオレ達がここにいることを前提にキンジ達へ向けた言葉にオレ達への言葉も含めていた。
今日の朝に起きた謎の電子ロック解除も、きっと雅さんが助けになればとやってくれた『もののついで』で、閉じちゃったのはおそらくマッシュが後から別の操作をしたからだろう。
それがわかったのでガッツリ会話に参加する雅さんには話しかけられなかったが、眞弓さんから伝えてもらえればいいかと思い次の再会での約束をしてから離れて、先にガンシップに乗り込んでいったロカ達に続いて乗り込む。
それからすぐ会話を終えたキンジ達も無事に乗り込んでアンガスとアトラスの操縦するガンシップは離陸。目的地はニューヨークのケネディ空港らしかった。
搭乗者はジーサード達だけだったので、オレ達もようやく光屈折迷彩を脱いでそれを返却。稼動限界も近かったのか、受け取ったコリンズに「ずいぶん酷使しちゃって」とか言われたため、内心ヒヤッとしながらも最後まで助けてくれたことに感謝。
理子なんて便利なもんだから買い取ろうとしていたが、維持費とかをロカから聞いて青ざめていたので、一個人が簡単に持てるような代物でもなかったことは言うまでもないな。
ガンシップでの移動中、各々が割と自由に過ごす中で、ツクモからエリア51到達までの話を膝枕しながら聞いていた――本人が「サード様ごめんなさい」とか言って本能に勝てなかった辺り、やはりツクモも化生の類いだった――オレは、そのぶっ飛んだ話にも今さら驚くようなこともなく夢物語を聞くように流して把握すると、キンジ達が今後のことを話し始めたのでそちらに耳を傾ける。
オレもこれからどうするか身の振り方を決めないとな。
「イギリスに行って、アリアに会うよ」
ジーサードの今後どうするかの問いかけに対して、考えがあったっぽいキンジがそう答えると、おネエのコリンズが男女の話かとキャッキャとはしゃいだが、割と消去法だと説明したキンジは、瑠瑠色金を持ってアリアと合流し、妹であるメヌエットに会うのが最善と判断したようだ。
確かにメヌエットの推理力なら、材料さえ揃えばかなりの推理を披露してくれるはずだし、それで事態の解決まで持っていける可能性もある。
「それならオレもイギリスに行くか」
「いや、猿飛が付き合う必要はないぞ」
「イギリスに行く選択肢があって行かなかったら、なんかアリアに『風穴っ!』って言われる気がするし……」
「……はっ?」
しかし『キンジがメヌエットと会う』というこの上なくヤバめなマッチングを見て見ぬふりは知り合いとして出来ないので、以前に何やら不穏なことも言っていたメヌエットとキンジが会う前にどうにか穏便に済む道を探しておきたい。
それがなくても帰国直前のアリアにメヌエットと会ってることをそれとなく伝えてしまってるから、もしも向こうで手をこまねいていたりでもしたら風穴は間違いない。
「んー、まぁ『別件』もあるしイギリスには行く意味があるんだよ。だから最悪は別行動でも問題ないし、オレが迷惑をかけたことなんてあったか?」
「数えきれんほどにある」
「真顔で言うな」
そんなわけでオレとキンジはイギリス行きが決定。
すっかり元に戻ったレキはこっちについてくるかわからないが、何かしらの返答はキンジが引き出してくれるだろう。
理子は険悪な雰囲気で威嚇みたいなことをしていたロカとなんか意気投合して、今やマブダチっぽい感じで会話していたが、こっちの話を聞いても何も言ってこない辺り、藍幇のマークの関係でここらが限界と見たんだろうな。オレも良い判断だと思う。
翌朝。
J・F・ケネディ空港に到着してから、バカみたいに派手なスーパーカーの行列でジーサードの拠点へと行くと、そこでジーサードはリーグのやつらに休暇を与えて、直前の作戦行動がなかったかのようなテンションで各々が行動を開始。
理子も時計コレクターらしいロカと一緒にオークション会場で何やら競り落としてくるようなことを言って正装してから消え、他も野球観戦とかお出かけとかなかなかアクティブなことをしたりする中、部屋でまったりしだしたキンジとレキとLOOにはなんか凄く落ち着く。これが普通だよな。
そうしたそれぞれの休暇の使い方を見送ってから、お国にマークされてるキンジのイギリス行きをスムーズになるよう手配するために動き始めたジーサードとアンガスとマッシュについて、オレも自分の分の手配をするために行動。
理子のやつが今回のオレからの報酬をジーサードから直接で受け取って逃げたので、オレの手取金がイギリス行きと滞在費、帰国便で消えるくらいには心許なくなったのはキツい。ほぼプラマイゼロって……
「よし、マッシュを脅す。お前はオレ達の侵入を許したからな」
「いいのかい? それが露見すれば、君も晴れてアメリカのブラックリスト入りだ」
「一時の感情で下手に名を売るのはバカのやることだぜ」
「猿飛様の懸命なご判断が問われますな」
「オマエラ、キライ。モウイライシテクンナ」
ガチの金のやり取りだっただけに、ほぼほぼ冗談だったオレの言葉にも辛辣なジーサード達は、バカなこと言ってないで早く手配しろよと暗に言ってきやがって腹が立つ。
オレはキンジとは違ってイギリスには良い顔してるので、入国審査を顔パスできるんじゃね? くらい簡単に手配は完了し、翌日の同じ便で行けるようにあたふたしてるジーサード達は、偽造パスポートから作成してるっぽく、その過程を見てからそんなことは露知らずにぐうたらしてるキンジが、翌日の出発の朝に身勝手に怒り出したのを腹を抱えて笑ってやるのだった。
「あら素敵。これが噂に名高いクロメーテルさん?」
「お前、いつかの仕返ししてんだろそれ……」
「自分の意思とは関係なく絶賛される苦痛を味わいたまえよ」
そうこうして迎えたイギリス出発の直前。
ジーサード達が用意した偽造パスポートは、キンジが欧州で潜伏中にしていた変装を流用したため、その性別が女になって、名前もリサに適当に言ったらしいクロメーテルが採用されて公式化。
そのせいで搭乗前の段階でクロメーテルさんに変装を完了させたキンジを軽くいじって遊んでやるが、やはりあの金一さん――ここではカナを指すが――の弟。そのポテンシャルは高く、周囲からも注目されていた。
あんまりいじると出発前にベレッタが火を噴いて御用だ御用だ、になる可能性もあるので、かつて自分がした女装の経験も相まってちょっと可哀想には思い、飛行機に乗ってからは黙って付き人的な空気で自由席の隣に座って、さりげなく周りとの緩衝材になってやる。
そんなオレとクロメーテルを乗せた飛行機は何事もなく空港を出発。
レキはどうやら故郷のウルスに帰省するとかで、また別の便で旅立つようで、理子もロカとエンジョイしてから日本に戻るらしく、出発直前に競り落とした品と一緒の写メが送られてきたが、顔は変装していたので抜かりがない。ロカは素顔でムスッとしてたが、仲良きことはなんとやらだ。
何はともあれ、アメリカでのこともなんとか達成して乗り込むイギリス。
あの時から持っている情報もずいぶん変わったからな。今度はもう少し踏み込むぞ、メヌエット。
そして今度はタコ焼きでも一緒に食べようか。