緋弾のアリア~影の武偵~   作:ダブルマジック

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 エリア51の偵察を終えてラスベガスに戻ったら、まさかの眞弓さんと雅さんと遭遇。

 2人にしては割とオープンな感じの雰囲気でアメリカにいる理由についてを話そうとしてくれる。

 

「京夜はんはもう知ってはると思いますけど、この雅は『とある契約』で武偵ランクを下げられとります」

 

「それはまぁ……そもそもの原因はオレの言動からですし……」

 

「そやで。京くんがあん時に提案してくれなかったら、今頃はミッちゃんにミッチャミチャにされとったからな」

 

「挽き肉にされてるみたいな擬音だね……」

 

 その前に前置きとして雅さんの武偵ランクに関しての話から入った眞弓さんだが、その話は耳が痛い。

 京都武偵高にいた頃に遊び感覚で武偵庁のサーバーにクラッキングしていた雅さんをどうにかするためにオレがちょっとだけ口出しした結果。武偵ランクをBに留める代わりにサーバーへのクラッキングを黙認しセキュリティー強化への協力を認められているのだ。

 本来なら雅さんはその能力でSランクは余裕なのだが、そうした契約のせいで世間的にはどこにでもいるありふれた武偵の1人という扱い。

 これには恩師であるミッちゃん。夏目美郷(なつめみさと)先生が頭を抱えていたのを今でも覚えている。

 

「夏目先生にミッチャミチャにされるのは別にいいんですけど」

 

「いやいや、良くないやろ!」

 

「雅、やかましいどす」

 

「その雅さんの話がどうアメリカと繋がるんですか?」

 

「今の雅の話は知る人ぞ知るところの裏取引みたいな側面があります。それをどう嗅ぎ付けたのか、えらい評価した変わり者がこっちにおりましてな。その手腕を買って対談とついでに電脳戦したい言うバカを懲らしめに来たっちゅうことです」

 

 そんな物好きがいてもおかしくないと思えるアメリカの国柄には苦笑しかないが、日本でも屈指のコンピュータ技術を隠し持つ雅さんを見つけて招いたそいつも、雅さんに負けず劣らずの技術力があるんだろう。

 その相手の挑戦に応じてやって来たのはわかるが、それなら雅さん1人でも問題はなさそうに思え、それを疑問系の表情に少しだけ変化させたのを察知されてしまう。

 

「それが『雅の』こっちでやることですよって」

 

「ってことは眞弓さんはまた別件ってこと?」

 

「敬語は使いましょか、金髪はん」

 

「別件ってことでしょうか?」

 

 その言い回しからして眞弓さんも眞弓さんで雅さんのお守りという冗談抜きでこっちでやることがあるのはわかったのだが、なんだか正月の振袖騒動の後から上下関係に敏感になった眞弓さんと理子の蛇と蛙みたいな関係は不思議な感覚になる。

 あの理子が眞弓さんに素直に従ってる図というのが愉快すぎる。眞弓さんも理子の名前を呼ばない辺りに意図がありまくりだ。

 

「京夜はん、女同士のやり取りを横目で笑うのはいただけまへんえ?」

 

「大丈夫です。主に理子の反応に笑ってるだけなので」

 

「それなら構いまへんが」

 

「構ってよぉ!」

 

「なんやろ……この昔の愛菜と千雨を彷彿とさせる眞弓のいじり方。りっちゃん、あの2人と仲良しさんやし、類は友を呼ぶんやな……」

 

「どっちかというと幸姉への対応に近い気もしますけど」

 

 そうした会話で微妙に話が脱線していくのはもはや常だが、本筋に戻す一声が出せる眞弓さんがいれば万事問題はない。

 圧倒的な存在感を持つ眞弓さんが「それは置いといてや」と言えばそれでもう話は元に戻り、改めて理子の問いかけに答えてくれる。

 

「ウチがわざわざ来たんは『後進の育成』って言うたら聞こえはエエかもしれまへんな」

 

「後進……武偵の、ですよね?」

 

「京夜はんは衛生武偵のSランクが何人いてはるか知ってますか?」

 

「いえ。というよりもSランク武偵712人の専門の割合とか考えたこともないです」

 

「そこの金髪はんは?」

 

「わかりませんけど、たぶん1%に近い割合だと思います」

 

「エエ線どす。衛生武偵は現状、専門としてはウチ含めて14人しかおりまへん。これが意味するところがわかりますか?」

 

 後進の育成と言うからには、どこかの武偵高にでも赴いて指導とかするのだろうが、そこに含まれる理由についてを話そうとする眞弓さんの話にオレも理子も聞き入る。たった14人、か。

 

「そもそもSランクになるには抜きん出た実力が伴わなきゃならないわけですよね」

 

「つまりあれだよキョーやん。衛生武偵でSランク取るのは化け物級ってことだよ」

 

「否定はしまへん。が、言い方が気に食いまへん」

 

 あまり考えたことのなかったSランクの専門の割合だが、衛生武偵の数の少なさは理子の言うように難易度が高いのだとオレも思う。

 しかしそんな簡単に行き着く答えを眞弓さんが求めてるとは思えないので、扇子でおでこをバシッ、と叩かれた理子を横目に話を再開する。

 

「…………絶対数」

 

「おっ、京くん鋭いで。さすが難解な眞弓の理解者の1人や」

 

「一言余計どす。京夜はんが言うたように、そもそもとして衛生武偵の絶対数が他の専門より少ないのがあります。さらに衛生武偵のSランク要求レベルが高めに設定されてますさかい、そら数も必然増えませんよって話どす」

 

「ほえぇ……でも確かに衛生武偵って要求される能力が割と分散してるよね。その辺の全部が平均以上とか、そりゃキツいかも」

 

 そこで絶対的な武偵の数での専門の割合が違ってると考えてちょこっと口にするとどうやら当たりだったようで、確かに活躍する武偵の大体が強襲科や探偵科などの武装探偵を地で行く専門にいるのは明らか。

 そこから派生した医療系や情報系が数の上で劣るのは仕方がないことではあるのだ。

 さらに衛生武偵は医療技術に加えて、自らが現場で生存する義務に近い必須事項があるため、戦闘能力でも護身程度は最低でも必要。Sランクともなればそのどちらも高水準でまとまってないといけないなら、眞弓さんの言うことにも納得。

 

「まぁ言うても、Sランク武偵を育てるなんてSランク武偵でも無理ですよって」

 

 そういった話から眞弓さんが衛生武偵の後進育成のために来たことは明白だったが、凄くリアリストな眞弓さんはいかにもな話をしておいて「自分にもそんな大層なことはできません」と平然と言うので、2人して当たり前なことに空笑い。

 

「Sランク武偵は意図として育成はできまへん。最後は結局、その人の才能とやる気と結果が評価されなあきまへんからな。やけど、その土台を作ってやることはできます」

 

「眞弓はこれで人の才能を見る目はあるさかいにょあ……」

 

 それでもSランク武偵になれる可能性を上げることはできると力説する眞弓さんの言葉の力はさすがで、横から雅さんも褒めてはいるのだが、やはり言い方。

 言い終えるより早く頬にグリグリと扇子をねじ込まれた雅さんの呂律が微妙になったが、眞弓さんの『目が良い』のは知っている。

 オレも京都武偵高に通学した初日で目をつけられたからな……

 

「武偵には秘密主義の性質がありますが、それは戦闘において相手に手の内を見せないための習性。それが身に付いてる京夜はんや金髪はんからすればアホかと思うような技術提供ですけど、命に関わる医療技術と護身術は秘匿したところで自分のプラスにはなっても世間のプラスにはほとんどなりまへん」

 

「広めるべき技術と秘匿すべき技術。その区分はしっかりされるべきって考え、ですか」

 

「聖人さんみたいな考え方だよねぇ」

 

「その分の見返りはちゃんと請求しとるから、別に慈善事業ってわけやにゃいで……」

 

 昔からオレ達とは見えてる世界が少し違う眞弓さんが持ち出す意見は確かに武偵として異質。

 だが元々が武偵よりも医者寄りの眞弓さんだからこその持論は、今後の武偵社会に根付くべきものなのかもしれない。

 もちろん、雅さんの補足したように見返りは求めて当然のことではあるが、あれもこれも秘密では廃れてしまう専門だってある。

 いつもオレなんかより先を歩く眞弓さんの背中は今でも遠いが、眞弓さんにはそうあってほしいと願うオレがいるのも事実で、それを扇子を頬にグリグリやってるところに被せて笑うと、笑いのツボを勘違いされてしまった。

 

「眞弓さんはやっぱりカッコ良いですね」

 

「カッコ良い背中を見せておかな、また膝を折って俯いて生気の抜けた顔するかもしれへん子がおりますさかい、落ち込んどる時間もありまへん」

 

「……耳が痛い話ですね……」

 

「1回カッコ悪い背中見せたから、もう2度と見せへんって言うてんねにゃで……」

 

 一応、勘違いは訂正しておきつつで改めて眞弓さんを賞賛すると、オレをピンポイントで撃ち抜く返しをされて笑うことさえできなかったが、こういう時にブレない雅さんにも感謝だ。

 そんな身内話に理子がキョトンとしたところで、眞弓さん達の事情は話し終え、止まっていた食事を再開させたのだが、食べてるうちにあの眞弓さんが。『あの』眞弓さんが自分の都合だけを話すなんてことが不気味に思えてきて嫌な汗が出てきた。

 や、やべぇ……眞弓さんの顔が見れない。

 

「それで、京夜はんは何でこないなところにおりますのや? ウチらのことを話しましたさかい、もちろん教えてもらえますよね?」

 

「それは理子から話がされます」

 

「こっちに投げるの!?」

 

 嫌な雰囲気に勘づいてあからさまに眞弓さんの顔を見ないオレに対して、絶対に嫌な笑顔を向けていた眞弓さんが「そろそろいいかな」的な感じで切り出してきたので、これから泥棒をやろうとしてる都合、オレからは口を開きたくなかったから理子に丸投げ。

 丸投げされた理子もオレにパスしてきたが、これを繰り返すと眞弓さんの機嫌がよろしくなくなってくるので、結局はそのことがわかってるオレが折れることで話をする。

 実に話しにくいことだったので始めはもごもごした話し方をしたが、イラッとした眞弓さんの空気で姿勢を正してきびきびハキハキ話し終えると、わざとらしくハンカチを取り出して扇子で口元を隠して泣くフリをする眞弓さん。

 その様子からして予想したよりも怒ったりはしてないようでひと安心だが、雅さんはなんだか意味深な笑みを浮かべたので嫌な予感はする。

 

「京夜はんが泥棒をやるようになるなんてお姉さん悲しいどすえ」

 

「心にもないこと言わん方がエエで眞弓」

 

「言うても法に触れる仕事やし、見逃すのもあきまへんやろ」

 

「また心にもないことを言うて。京くんや。その泥棒さんに入るの、エリア51で間違いないんやな?」

 

 なんか冗談なんだか本気なんだかよくわからない2人のやり取りにヒヤヒヤするが、確認するように雅さんが侵入する場所を口にしたので、オレも理子も間違いないと首を縦に振る。

 すると泣くフリをやめた眞弓さんもいつもの笑顔の奥に嫌な笑みを浮かべて雅さんとアイコンタクトすると、こっちがまさかと思うようなことを平然と言い放った。

 

「丁度エエどす。ウチらもそのエリア51にお呼ばれしとりますから、そっちの都合が良ければ、中まで案内しますよって」

 

「「………………えっ……」」

 

「まぁ補足するとや。私を呼んだ変わりもんがそこにおるから、向こうの準備が整うまでラスベガスに待機してたって話やね。なんや当人、どっか行ってて留守やから待っとれって、なんやねんと思うてたけど、それで京くん達に会えたわけやから感謝せななぁ」

 

 まさかまさかの目的地の一致。

 しかもそれに留まらずに侵入しようとしていたオレと理子を中に入れてくれるとまで言う眞弓さん達の話はビックリ仰天。

 それはエリア51へ不審者を招き入れる行為でしかないわけで、眞弓さん達にメリットなど何一つない。

 

「何でそんな提案を?」

 

「気に食わへんからどす」

 

「気に食わない? 何が?」

 

「け・い・ご」

 

「……何がですか?」

 

「雅を呼びつけた生意気な輩がどす。向こうから呼び出しておいて都合がつかないからここに待機させてって、どこぞの王様ですかって話どす」

 

「まぁ交通費、宿泊費、その他もろもろの経費は向こう持ちやから待遇が悪いってこともないんやけど、向こうの都合に振り回されとるのが気に食わんってことやね」

 

 てっきり何かの要求があるのかと勘繰って質問をしたのだが、見返りとかそんなものではなく、単純にムカついてるからときたのでオレも理子も「大人のすることか」と思ってしまう。

 要するに眞弓さん達を招き入れたそいつが許した侵入だから、その責任はそいつにいくだろバーカ。ってことだろうな。

 もちろん、オレと理子が終始見つからないことは前提にあるが、これで瑠瑠色金が盗まれていたら王様気取りのそいつは責任を負わざるを得ない。

 侵入の機会を作れた眞弓さん達だって知らぬ存ぜぬを通せば証拠不十分で解放される可能性が高い。というかその自信がなきゃ提案なんてしてこない。

 

「とまぁ提案はしましたが、実際問題でゲストとして入れると消える時に不都合が出ますやろ。その辺はどないどす?」

 

「それは、はい。大丈夫です。『物理的に姿を消せる道具』があるので」

 

「ほほぅ。そないな便利品があるんやね。それ使たら覗きが捗りますなぁ」

 

「何で女のみやっちがエロ思考なんだろう……」

 

 しかし提案はしても、その具体的な侵入方法は丸投げな眞弓さんには驚くものの、元々オレと理子が見つからずに侵入する方法を探ったりしていたことから、敷地内で見つからない手段があるのはわかってたんだな。

 だから確認するような眞弓さんの問いかけには流し気味で答えておき、ササッと夕食を終わらせて解散。

 来たる日がいつ来るのかわからないので、まだ準備が万全ではないオレと理子は眞弓さんからの連絡が来る前に準備を完了させるため急いでホテルへと戻って、必要な装備の見直し――工程が減ってくれたので――と作戦の細かい部分の確認をしていった。

 

「しかし、お前も眞弓さんの前だと大人しいのな」

 

「あー。絶対それ言うと思ったぁ」

 

 その過程で空白の沈黙ができたので、ずっと静かな空間は主に理子の方に悪影響が出るので会話に繋げると、動いていた手も止めてオレを見た理子は少し怒ってる。

 

「理子だって怒らせちゃダメな人くらいわかるし。正直、戦闘能力なら理子の方が高いかもとは思うけど、それでもまゆちんには勝てないんだよねぇ」

 

「勝てない?」

 

「そう。あっ、戦闘の勝ち負けじゃないよ? そういうのとは違う意味で勝てないの」

 

 そんな理性とでも言うべき本能は持ち合わせてると豪語する理子は単なる戦闘狂とは違うところを見せているが、負けず嫌いが垣間見えるところはまだ子供。

 それとは別に意味がわからないことも言うが、理子自身もその意味について具体的なことが言えないらしく言葉に困っていた。

 だがオレにもなんとなくその理由はわかる。

 

「あの人は……眞弓さんは『正しい』んだよ。いつも。いつでも。どこでも。どんな時でも。正しい人には勝てない。それがわかるのが人間だ」

 

「正しい、か……そだね。理子みたいに悪いこともいっぱいしてる人間じゃ、きっと一生かけてもああいう人には勝てないんだろうなぁ」

 

 眞弓さんは、いつもオレの前を歩いてる偉大な人で、その背中を一生追いかけなくちゃいけないような存在。

 憧れ、とは違うが、眞弓さんの背中が語ってくるのは、いつだって「私のすることに間違いはない」という確信にも近い自信。

 失敗だってある。間違いだってあったかもしれないが、眞弓さんは『正しくあろう』としていつも行動している。

 その姿勢はずっと見てきたオレも幸姉も、月華美迅の誰もが感じてること。

 

「人を助けるのに理由なんていらない。誰もがためらったりすることを迷いなく出来る。そういうことが当たり前に出来るからきっと、眞弓さんは強いんだよ」

 

「ふーん。じゃあキョーやんは付き合うならまゆちんみたいな人が良かったり?」

 

「恋愛脳が。眞弓さんはそういうのじゃない。例えるなら……そうだな……会社の超有能な上司ってところだ。その人の下でなら自分の仕事に誇りを持てるっていうか、そんな感じの」

 

「おおー。でもその超有能な上司は部下をめっちゃ選ぶし、使えなきゃポイされるんでしょ」

 

「それは仕方ないことだろ」

 

「いやいや、企業ならブラックよブラック」

 

 そうした話を黙って聞いた理子は、真面目な話が少し苦手な部分を出しつつで最後は無理矢理に恋愛話に持ち込んだが、自分の表現したい強さを言葉にされて納得した様子だった。

 正しいだけでは武偵としてダメかもしれない。だがその正しさがなければ、それはきっと『武装探偵』ではなく、『武装した何者か』になってしまうのかもしれない。

 それだけはあってはならないんだ。

 あの日。幸姉から離れて武偵になると決めたオレは、眞弓さんのように正しくあろうとしないと。

 

「…………まっ。今は盗人のそれをやってるわけだけどな……」

 

「ん? なに独り言してんの?」

 

「何でもねーよ。眞弓さんからいつ連絡が来るかわかんねーし、睡眠も取っとけよバカ理子」

 

「キョーやん様のお添い寝があるなら今すぐにでも寝ぶっ!?」

 

 とかなんとか考えつつも、今やってることの若干の矛盾にツッコんで独り言したら、理子の耳に届いたので誤魔化しつつ、バカを言うバカの顔に枕をぶつけてやるのだった。

 

『ほな、行きましょか』

 

 物凄く軽い感じの眞弓さんの声には呆然とさせられたが、翌日の昼にそうした連絡がオレのところに来て、割と作業に没頭し夜ふかしで爆睡していた理子を起こして急いで準備を整えてホテルを出発。

 わざわざ向こうから迎えを寄越すとかの待遇なので、オレと理子はその迎えに勝手に同席してそのままエリア51へと侵入する手はず。

 なので眞弓さん達とはそれより前に合流しておき、乗車の際に勘づかれないようにちょっと手助けをしてもらう必要がある。

 

「これはまたけったいな道具どすなぁ」

 

「うおー! カッコええ! カッコええでぇ!」

 

「チートだよねこれ」

 

「自分で使うとそう思う」

 

 それで急いで合流した先で、オレ達がどうやって同行するかを確かめたいと言う眞弓さんの指示でジーサードからの餞別であるあの例の透明になれる道具を身につける。

 正式名称は『光屈折迷彩(メタマテリアル・ギリー)』と言う、説明を聞いた限りだと周囲の景色に同化するように常に映像を投射し続けるレインコートのこれは、本当に便利だ。便利すぎて泣けてきた……オレ達の創意工夫って……

 

「まぁそれなら問題ありまへんやろ。あと1時間くらいは待ちますやろし、昼寝でもしときなはれ」

 

 悲しいほど努力を科学が上回った現実にうちひしがれてるオレと理子――透明になってるので見えてないが――にリアクションもほどほどで淡々とそう告げた眞弓さん。

 こういう時でもマイペースな眞弓さんを見ると安心感が半端なく、いつまでも落ち込んでても仕方ないと切り替えて、光屈折迷彩に興奮気味の雅さんに付き合って、顔だけ星人とか意味不明なことをして遊び始めたのだった。

 これが作戦開始前の雰囲気とは……懐かしすぎてホッとすると思ったのは内緒にしておこう。


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