緋弾のアリア~影の武偵~   作:ダブルマジック

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Bullet120.5

 

 これはまた残念な具合になってますなぁ……

 2月に突入してもうすぐ中旬に差し掛かろうという頃。

 朝早くに京夜先輩は欧州から帰ってきたと思ったらまたお出掛け。青森に旅立ってしまって、もうすぐ徒友契約も満了なのに、なんか戦妹の扱いが酷いです。ないがしろです。

 でも構ってちゃんではないので文句は言いません。本人には。

 そうした不満は登校して早々に陽菜ちゃんに聞いてもらって発散し、今日も帰っては来ないだろう京夜先輩のいないうちにやっておかなきゃいけないことを放課後に敢行するのだ。

 あまりに自然と過ごしてきたから当たり前のレベルになっていたけど、私と京夜先輩の徒友契約は今年の3月の終わりと共に切れてしまう。

 そうなれば私が京夜先輩の部屋に住むこともできなくなって、元の女子寮に戻らなきゃならない。

 それで、はい帰れ。となってから女子寮に戻ってたら鈍くさい女でしかないので、今年に入ってから初めて私の本来の部屋に戻ってみたら、まぁ誰もいないので酷いもんだ。

 一応は私物の7割ほどがあるので去年はチマチマと出入りはしてたけど、その時にフローリングの廊下をモップ的なあれでススイとやる程度だったから、あちこちに動くと舞いそうなハウスでダストなやつらがいるいる。

 

「久しぶりに手強いやつらと戦うね」

 

 京夜先輩の部屋は暇な時にほぼ掃除してたから埃が溜まることも少なかったけど、こいつらは放っておけばおくほど強敵になる。

 この強敵を前に昴も「頑張ってー」と言ってくれ……手伝ってよ!

 と言っても昴に出来ることなんて埃が舞わないように飛ばないことだけ。役立たずですね。

 

「お待たせしました」

 

 そんな昴とは違って役に立ちまくりな幸帆さんは、すぐ上の階の自分の部屋から掃除用具を持って参上してくれて、珍しい時期に転入してきた超美人で有名なリサ先輩まで連れてきてくれた。けど、何で?

 

「本日はジャンヌ様のご要請に応じて馳せ参じました。アヴェ・デュ・アンクのメイドとして必ずやお役に立って見せましょう!」

 

 という私の疑問にロングスカートをちょんと摘まんで上品なお辞儀をしてから答えたリサ先輩は、セーラー服もメイド調にアレンジしてるだけあって家事スキルが高そう。

 そして何故かリサ先輩が来てから昴が「お、落ち着かねぇ」とリサ先輩に怯えてる? のか私の肩の上で縮こまってしまい、それに気づいたリサ先輩が「おいで」と言ったら、人見知りのくせにリサ先輩の肩に瞬時に移動して「はいぃ!」と媚を売ってる。何なの?

 

「……変な昴。それじゃあ幸帆さん、リサ先輩、お手伝いよろしくお願いします」

 

 今まで見たこともない昴の変貌ぶりに首をかしげつつも、さっさと掃除を終わらせて生活感を取り戻さないとなので、装備を整えて3人で作業開始。

 

「やはり幸帆様は幸音様のご親族でしたか。幸音様に似ながらもどこか大人びた印象がおありだったので確証はなかったのですが」

 

「私など姉上に比べればまだまだ。ですがここの成長だけは勝ってるようです」

 

 各自で上手く分担して掃き、拭き掃除を高いところからやっていく中で、今日がほとんどはじめましてなリサ先輩がテキパキとやりながら会話に興じてくれて、本当なら幸音さんと比べられることを嫌う幸帆さんを不機嫌にさせることなく姉妹であることに触れる話術はさすが。

 そのリサ先輩に対して幸帆さんも自分の胸をサイドから軽く寄せて誇らしげにしますが、うらやまけしからん!

 

「リサ先輩は幸音さんとお知り合いなんですね」

 

「はい。以前に身を置いておりましたところでとても良くしていただきました。ご勉学も熱心で、リサのメイドとしての手際もいくつか盗まれてしまいました」

 

「あー、世話好きな幸音さんのスーパーメイドっぷりはリサ先輩譲りだったわけですか……」

 

「幸音様は丁寧に教えて差し上げればどのようなことも出来てしまわれて、その才能にはメイドながら少し嫉妬を覚えてしまいました。まさに天に愛されたお方と言いましょうか」

 

「姉上のそういう人の努力を小バカにするような才能は身近で見ると理不尽ですがね……」

 

「それでも幸帆様は努力をやめなかったのでしょう。リサはそのひた向きさも立派な才能だと声を大にして申し上げますよ。普通の方であればあの才能を見て、腐って卑屈になってしまわれるかもしれません。ましてやご姉妹ともなればその差を周囲に比べられたりもしたことでしょう……」

 

 そうして幸音さんを知るらしいリサ先輩から出る天才的な才能を持つ幸音さんの話は納得なのですが、こういう話はやっぱり幸帆さんが嫌な顔をして実際にネガティブ発言も出るけど、それすら予想していたかのように幸帆さんの努力と苦労を理解するリサ先輩。

 そんな言葉に手が止まってしまった幸帆さんを見ると、その目からはポロポロと涙が流れて始めていて、決して悲しかったりして流したわけではないその涙をすかさず近寄ってハンカチで拭ってあげたリサ先輩はさすがすぎる。

 

「私は……頑張っても頑張っても、いつも父上も母上も姉上と比べて落胆されて……それが本当は凄く辛くて……」

 

「ご両親も悪気はなかったのでしょう。それがわかってらっしゃるから幸帆様は文句も言わずに努力を続けられた」

 

「認めてほしかった。褒めてほしかった。それだけで良かったんです。ただ一言『頑張ったね』って……」

 

 そして幸帆さんは出会ってから初めて私の前で秘めていた思いを語り、リサ先輩はその幸帆さんを抱き止めて頭を優しく撫でてあやす。

 それで落ち着いた幸帆さんは流れていた涙を止めてリサ先輩から離れると、溜め込んでいたものを吐き出したからか少しスッキリした表情で心配させたことを謝る。

 

「でもいいんです。そんな私をいつも褒めてくれた方もいましたから」

 

「それって、京夜先輩?」

 

「京様は誰かと比べて人を見たりしない方ですから」

 

「モーイ! やはり猿飛様は素敵なお方です。ご主人様より先にお会いしていたら、リサの運命も変わっていたかもしれませんね」

 

 モ、モーイ……オランダ語でしょうかね。

 嬉しそうに京夜先輩のことを話した幸帆さんにパァッと明るい笑顔で反応したリサ先輩はどうやら京夜先輩とはすでに親しい仲にあるっぽく、どこか好意を寄せているようにも見えなくもない。

 

「ダ、ダメですよ! リサ先輩みたいな女性に京様は弱いところがありますから、これ以上の強敵は断固拒否です!」

 

「ご安心ください。アヴェ・デュ・アンクの女は一生で二君に仕えません。今のリサにはお仕えすべきご主人様がおりますので」

 

「でも、京夜先輩は好きですよね?」

 

「好きと言われると確かにそうなのですが……何と言いましょうか。こう、そばにいても気を張らなくて良い不思議な感じと言いましょうか」

 

 京夜先輩に関しては必死な幸帆さんはその強敵に立ち向かうものの、私達とは好きのベクトルが違うみたいなリサ先輩は恋のライバルではないっぽい。

 けど言ってることは結婚したい人の条件みたいでおかしい。

 

「気を許せるってことですか?」

 

「気を許すと言うよりは、そばにいると全身から力が抜けていく感じ、ですね。極端な言葉で言うと何も考えずに『膝枕されたい』ような……」

 

「「それはどうなんでしょう……」」

 

「そのような目を向けられるとリサも申し訳なく思いますが、表現としてはこれに近いわけでして……」

 

 本当に京夜先輩への好意の種類が私達とは違うようなのですが、表現がやっぱりおかしくて判断に困るところ。

 

「で、ですが猿飛様がリサのご主人様ではなくて良かったとも思っております。もしも猿飛様がご主人様になっていたら、リサはメイドであることを放棄して甘えてばかりになりそうですから。そう考えるとリサにとって猿飛様はむしろ天敵なのではないでしょうか……」

 

「メイドを堕落させる男……」

 

「京様も罪な方です……そのおかげでリサ先輩を退けられたのは良かったですが……」

 

「はい。ですから猿飛様がどなたと結ばれてもリサは最大限の祝福を贈りたいと思います。もちろんお二方のことも応援させていただきますよ! えいえいおー! です!」

 

「「お、おー」」

 

 それでも否定をするリサ先輩が最後の手段として真顔で口から出した天敵という言葉に苦笑い。なるほど。メイドがメイドではなくなるというのは凄いことだ。私はメイドじゃないからそうならないのか……

 結局のところ京夜先輩の変なメイド堕落説で納得した私と幸帆さんは、張り切るリサ先輩がテキパキと作業を再開したのを見て我に返り、掃除を再開。デキる女3人が寄れば早い早い。

 以降は恋愛関連の話は避けて談笑しながら1時間ほどで掃除は終了。散らかってたわけでもないですから楽ではあったんですが、それでも助かったよ。

 

「さて、と。あとは新しく入れていくアレを徐々に……」

 

「アレ、ですか?」

 

「アレ、とは何でしょうか?」

 

「えっと、アレっていうのはつまり……あれですね」

 

 これからはほぼ毎日、放課後に寄っていくのはもう決めていたので、ただここに来るだけなのは勿体ないと思って、ついこの前にランクアップした私の自然と対話する能力を練習するために観葉植物でもいくつか置いていこうと考え、それをアレと表現したら幸帆さんもリサ先輩も気になって突っ込んできたので、リビングにあったドライフラワーを指し示す。

 もちろんドライフラワーはちょっと言い方が悪いけど植物としては死んでしまってるので対話という意味では無理っぽいので、とりあえずの種類としてですね。

 

「私、ちょっと植物ともお話というか意思と対話できるようにもなったので、その練習をここでしようかなって思ってて。あんまり多用するのはおじいちゃんに止められてるし、何かあっても誰にも迷惑かけないようにってことでね」

 

「小鳥さん……いつの間にそんなことを……」

 

「モーイ! 小鳥様は動物達だけでなく草花達ともお話を出来るなんて、まるでおとぎ話の主人公のような素敵なことですね! リサは羨ましい限りです!」

 

「そんな羨ましがられるものでもないですけど」

 

 どうでもいい昴の愚痴とかまで聞こえちゃったりするし……

 と、能力に対して絶賛のリサ先輩には口から出かかってなんとか留めるけど、持って生まれた側としては良い面だけを見れるその楽観論が眩しいのです。わ、悪い面も勿論あるんですよぉ!

 どこか純粋なリサ先輩に現実を突きつけられなかった私は、その場は苦笑いでしのいで掃除も終わったからと撤収の流れに乗って今日のところは作業終了。

 観葉植物といってもそんな大きいのとかはあれだし、小さな植木鉢でいくつか育てる感じを考えてるだけ。急いでも仕方ないし、今はまだ冬だしで暖房もつけない部屋に放置は可哀想。本格的にやるのは春先からかな。

 

「それでは幸帆さん、ありがとうございました」

 

「いえいえ。私、掃除って嫌いじゃないので、気分転換で手伝った感じです」

 

「気分転換?」

 

「あ、いえ……戻ってこられてから京様が会いに来てくれてないなぁとかそんな身勝手なものなので、気にしないでください」

 

「猿飛様はお忙しそうでしたからね。幸帆様から会いに行くのが最良かと思いますよ」

 

「その本人はまたいつ帰ってくるやらですがね……」

 

 外も暗くなってきたタイミングで幸帆さんとお別れの会話をしたら、どうやら京夜先輩は欧州から戻ってきてから幸帆さんと会ってなかったらしく、その辺は少し薄情だなと思いつつリサ先輩の意見に賛同はするけど、当の本人が現在も外出中というね。

 そんな薄情な京夜先輩には後日、3人で思いの丈を伝える約束をして幸帆さんと別れて男子寮の方に戻るけど、リサ先輩も今は遠山先輩の部屋で居候中ということで一緒に歩いていく。

 相変わらず昴はリサ先輩の肩で大人しくしてるけど、図々しいくらいの口が固く閉じられていて道中は本当に気持ち悪かった。

 リサ先輩は微妙な空気というのを嫌うのか、寮に着くまでの間はひたすら会話に努めて話題が途切れないようにしてくれたので、体感では割とすぐに寮に到着。階段でお別れしてようやく帰ってきましたが、これから晩御飯だよ……

 そうしたガックリくることを考えてため息を漏らせば、今まで沈黙を続けていた昴が「じゃあカップ麺でいいんじゃない?」とか堕落の一手を差し伸べてきたので、そんな昴にも適当に刻んだキャベツでも出して納得させてやろうと画策。

 フッフッフッ。私が堕落するということは昴のご飯もグレードダウンするのだよ。

 そんな手抜きを本当に敢行しようとしたら、部屋に明かりがあって誰かまた勝手に来たのかなとリビングを覗くけど、いない?

 この部屋のセキュリティーもだいぶ下がってるからどうにかしなきゃなぁ。とかなんとか思いつつ寝室も覗いて誰もいないことを確認して、不思議に思いながらもいざという時のための最終兵器、カップ麺を取り出す。本当に久しぶりだな、この堕落兵器は……

 

「んおー! ことりんが手抜き工事しようとしてるぅ!」

 

「ひゃああ!!」

 

 もはやその味すら曖昧だろうそれを食べるためにお湯を沸かすためにやかんに水を入れたところで、どこからともなくキッチンに顔を出した理子先輩がそんな声を上げたので、ほとんど背中を向けていた私は持っていたやかんを落としそうになる。あ、危ない……

 

「り、理子先輩……どこから湧いて出たんですか」

 

「ちょおっとキョーやんのお部屋にねぇ。それよりことりんがカップ麺とは何事ですかな?」

 

「これは……たまには日本の食品の優秀さを確認しようという向上心からの好奇心であって、決して手抜きをしようとしたわけでは……」

 

「いいっていいって。ことりんの料理は美味しいけど、週1くらいはこういうのがあっても怒んないから。ってことで理子も今夜はカップ麺! きゃっふぅ!」

 

 廊下の方からキッチンに入ってきたので、不思議ではあったけど、京夜先輩のお部屋に無断で入っていたらしい理子先輩は、私の言い訳も話し半分で流しつつ自分も食べると棚から別のカップ麺を取り出したので、やかんの水を足して沸かし始めた。

 

「それで京夜先輩のお部屋で何をしてたんですか?」

 

「ちょっと調べものー。こういうのは本人の留守中にちゃちゃっと済ませるに限るし」

 

「あんまりプライバシーを侵害するのは良くないかと」

 

「別にキョーやんの性癖を暴こうとか、エロ本を物色してたとかじゃないから大丈夫大丈夫。まぁ知っておくに越したことはないけどねぇ」

 

 お湯を沸かす間に昴にも手抜きのご飯を出してあげながら、ダイニングテーブルに腰を下ろした理子先輩とそういった会話で沈黙をなくすけど、自由すぎだよね、京夜先輩の周りの人って……

 そのあとすぐにお湯も沸いてあーだこーだと話していたら出来上がり。お湯を注ぐだけなんて本当にダメな食べ物だよね。うん。

 

「あ、そうだことりん。もうすぐあの日だけど、ことりんはどうするの?」

 

「あの日? えっと……ああ! すっかり忘れてました……今まで無縁なイベントだったので考えてなかったです」

 

 食事中に本腰の入った会話はあまり良くないけど、理子先輩に言ったところで意味がないのはわかってるのでそのまま会話を続けたら、何やらボカすように数日後を指すので、何かあったかなぁとカレンダーに目を通してすぐに気づく。バレンタインデーですね。

 でもこれは武偵高において死のイベント。冗談でも学園島でこのイベントを匂わせてはいけない。知られたが最後、良い思い出を持ってない教務科の一部による悪夢の拷問が……

 

「だったらさ、理子達も当日は別のとこで騒ぐ予定だから、ことりんもおいでよ。キョーやんも来る約束してるし」

 

「でも幸帆さんや貴希さんを差し置いてはなんだか……」

 

「じゃあ2人も呼んじゃうか。実は蘭ちんからも頼まれ事あるし、キョーやんラブのライバル認定はどんとこいや!」

 

「それならまぁいいですけど」

 

「だからことりん先生! 可愛いデコとかしたアレのご教授をお願いしまっす!」

 

「それが本当の目的ですか……了解です。みんなで作っちゃいましょう」

 

 それを避けるために理子先輩は当日を学園島の外で過ごす予定みたいで、色々と言ったけど結局は私からチョコ作りを教えてもらいたいだけだったっぽい。

 それでもまぁ、言われなきゃスルーしてたかもしれないイベントに参加させてもらえるなら嬉しい限り。

 

「でもあれだよ? ことりんは早くキョーやんに気持ちを伝えなきゃみんなと同じラインに立てないよ? キョーやんもキーくんに負けず劣らずの鈍感だし、言わなきゃ伝わらないのは周りから察せるでしょ」

 

「それはわかってますけど、私にもタイミングというものがありますし、今はまだ徒友契約も残ってるので、変に意識されて微妙になるのを避けたいのもあります……」

 

 話もまとまって理子先輩もズズズ、と麺をすすったところで、思い出したようにサラッと痛いところを突いてきてクリティカル。ごふっ、現実は厳しい。

 でもそれも仕方ないと思ってるところはあって、徒友契約中は純粋に先輩後輩の師弟関係を揺らがせたくない。

 元々、私は京夜先輩から今後に活きる技術などを学ぶために戦妹になったんだから、その姿勢は最後まで崩したくない。これは本心。

 本心ではあるけど、やっと芽生えた恋愛感情を押し殺したままにするのもまた辛い。

 

「…………あんまり悠長にしてると、その間にキョーやんもどっか遠くに行っちゃうかもよ」

 

 だから焦って今の関係がギクシャクするよりも、ちゃんと1つの関係を終わらせてから新しく踏み出そうと、後ろ向きではなく私なりの前向きな考えだったんだけど、それを聞いた理子先輩は何やら不思議なことを言うので首をかしげてしまう。

 

「遠くへ? でも京夜先輩は進級するだけで武偵高を卒業するわけじゃないし……」

 

「…………うん。そだね。ことりんにもことりんなりの考えがあるんだろうし、これは理子がちょっと踏み込み過ぎたね」

 

 そうして突いて出た疑問に答えるわけでもなかった理子先輩は、私の考えを肯定するようにあっさりと退いてカップ麺を食べ切ると、パパッと片付けていつもの調子で廊下の方に向かい、キッチンの前で振り返って敬礼。

 

「それでは理子はこれにてバイバイですっ!」

 

「あ、はい。さよならです」

 

「……後悔は先には立たないからね」

 

「ん? まぁ諺にもありますからね」

 

「……んじゃ、当日はしくよろっ!」

 

 今日はなんだかいつもよりも意味深なことを言う理子先輩でしたが、言ってることはわかるので肝には命じておきつつ、物音で理子先輩が出ていったのを判断してから食べかけのカップ麺に再び口をつけ始めた。

 後悔なんてしない。だってそれが残すものの後味の悪さを、この1年で嫌というほど味わってきたんだから。だから、絶対に後悔はしない。


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