緋弾のアリア~影の武偵~   作:ダブルマジック

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色金編
Bullet115


「どうしてこうなった……」

 

「それは君が極端な運の持ち主だからだろうね」

 

 欧州戦線を終結させ、極東戦役もひとまずの停戦にまで持っていけてようやく日本に戻れるかと思っていたが、オレが今いる場所はグレートブリテン及び北アイルランド連合王国。その首都だ。

 ……イギリスのロンドンだが、格安航空でオランダの空港から辿り着き、祖国ということで羽鳥がガイドとしてついてきた。

 

「その運は今回はどっちに転んでるんだよ」

 

「間違いなく幸運の類いだろう。欧州での反動だろうけど、フフッ。次の悪運で死なないか心配だよ」

 

「笑いながら言うことではない」

 

 そのガイドの羽鳥はロンドンに用があったからと、ガイドはほとんど後付けみたいな役割で、ここからはもう別行動となるからか心なし嬉しそうにしてるのがムカつく。

 そんなオレと羽鳥が空港を出て真っ先に来たのが、ここロンドンでもけっこう有名なベーカー街。

 あのシャーロック・ホームズが居を構えていたところであり、そこにいま住んでいる『アリアの妹』に、英理さんの勧めでオレは会いに来たわけだ。

 

「それでは私はこれで失礼するよ」

 

「へぇ。お前がアリアの妹の顔も見ないで行くなんて、珍しいこともあるもんだ」

 

「私に自殺願望はないからね。呼ばれてもいない身で会って彼女の機嫌を損ねでもしたら、そこで私の人生は終わりを迎える」

 

 そのアリアの妹であるメヌエット・ホームズに会わずに行こうとする羽鳥は、忠告するようにそんなことを言うのだが、英理さんがすでにアポイントメントを取ってくれてるとはいえ、お呼ばれしたのはオレだけ。

 だがこのメヌエットは大変に気難しい性格で、物理的に強いアリアとは真逆に遺伝した頭脳派らしく、羽鳥ですら機嫌を損ねることを怖れるレベル。

 

「会う前にそういうこと言うなよ」

 

「言わずに死ぬより優しいと思うがね。まぁ最後に言うなら、アリアの妹だから。アリアの友人だから。そんな気構えだと門前払いにされるだろうから、くれぐれも油断や隙を見せないことだ」

 

「嫌だなぁ……年下への気遣いとか……」

 

「年は関係ない。彼女はアリアと同じ貴族。貴族と平民の格差はバカじゃないなら理解はしてるだろ。自分の立場を忘れるな」

 

 ズビシッ!

 なんとなくでこれからメヌエットに会う心構えができてないオレに対して本当に厳しい羽鳥だが、最後と言っただけにそれで終わって手で銃の形を作りバンッ、と撃つ仕草をしてから歩いていってしまった。

 何の示唆かはあえて言わないが、先行き不安になるようなことをするなと。

 

「ここか」

 

 ガイドとは名ばかりな羽鳥と別れてベーカー街を少し歩き、そこだけが19世紀末にでもなったかのような趣あるアパートの前まで来て、その表札に英語でメヌエット・ホームズの名が刻まれているのを確認して、約束の時間にも間に合ってることを確かめて呼び鈴を鳴らす。

 鳴らしてすぐに扉を開けてくれたのは、ここで雇われているだろう双子っぽいメイドで、年の差はほとんどないだろうが少し無愛想な印象はある。他人のことは言えないけど。

 

「橘英理さんからご紹介いただいた猿飛京夜です」

 

「サシェです。ようこそ(ウェルカム)

 

「エンドラです。ようこそ」

 

 別に接待をしてくれるならメイドの性格とかいちいち気にしても仕方ないので、一応は名乗ってからサシェとエンドラに中へと入るように促され、なかなか落ち着いた感じの内装の廊下を歩いて奥の部屋へと通される。

 そしてその部屋には、いつかイ・ウーの艦内で見た博物館を小型化したような世界があって、この辺でもシャーロックの遺伝が関係してたりしてなかったりなんだろうとしみじみ思う。

 

「メヌエットお嬢様はこの先のお部屋にいらっしゃいます」

 

「失礼のないよう、よろしくお願いします」

 

 そんなプチ博物館を進んだ先にあった階段の両端に立ってどうぞと促したメイド2人は、これ以上は来るなと命じられてるらしく、何気なくエレベータもあったりバリアフリーになってたりな中の造りを気にしつつも階段を上がり、教えられた部屋まで一直線に歩いていこうとする。

 だがちょっと心構えがあれだったので歩く前に羽鳥の助言通り、アリアの妹とかそういうのを排除。

 その1歩目でギィッ、と木の板の廊下が軋む音がしてちょっと止まる。

 

「現代最高の探偵、か」

 

 そこで思い出したのはメヌエットが現代において最高峰の探偵と呼ばれていることと、その曾祖父があの教師面したシャーロックだという事実。

 あの性格を知ったからか、そういうところまで似てたら嫌だなぁとか思いつつ改めて廊下を歩き、目的の部屋の扉をノック。返事はない。留守のようだ。帰ろう。

 とまぁそんなわけはないので沈黙は了解とは言うので「失礼」と一言だけ述べてから扉を開けて中へと入る。

 生前のシャーロック――今も生きてそうではあるが――もそうだったらしいと書物にもあるが、中は割と汚い。

 出したら出したままの本やらが机に積まれてたりとする部屋の奥。そこにメヌエットはいた。

 

「不思議な匂い。香水や何かの外部的要因ではなく、本人から発する体臭、とでも言うのでしょうか。とても自然な匂いですね」

 

 そのメヌエットはデスクを挟んだ向こう側でまだこちらを見ずに腰かけてオレに背中を向けていたが、腰かけているのは車椅子で、挨拶もなしに急にそんなことを言う。

 

「身長は160センチ前後。体重は52キロといったところでしょうが、男性にしてはずいぶんと小柄です……」

 

 そして驚くことにまだ見てもいないオレの身体的ステータスを述べたメヌエット。

 オレの予想した通りにそれを導き出したなら、噂に違わない実力者と言いたいところだが……ざんね……

 

「が、これはフェイク。本当のあなたはもう10センチほどは身長があると思われます」

 

「…………その根拠をお聞かせ願いますか?」

 

「あら、最低限の礼儀もお持ちでしたか。素直な人には好感が持てますから、小舞曲(メヌエット)のステップの如く、順を追って説明いたしましょう」

 

 未だ振り向いてもくれないメヌエットではあったが、やはり侮れない。オレがした『意地悪』にも勘づいた感じで本当の身長を言い当てられた。

 

「まず足音。人体は常に、多様な情報を発信しながら動いている」

 

「去年の夏にも同じようなことを言われたので、身に染みています」

 

「そうですか。だからこのような意地悪をなさって私を試したのですね。非常に不快ですが、その比較対象となった方に免じて許しましょう」

 

 この話し方から察するに、オレがメヌエットと比較した人物も特定できていそうだが、あんまり口を挟むのもあれだから今は聞きに徹しよう。

 それにオレが口を開けばそれだけメヌエットに確定した情報を与えてしまう。

 

「話を戻しますが、そうした意地悪をするということは、私がこの部屋までの廊下であなたのプロフィールを言い当てられた推測はできているのでしょうね。ですからそこは省略し、あなたの意地悪を見破ったことについて説明します。あなたはどうやら見た目よりもずいぶんと身軽でいらっしゃる。足音の響き方で体重は誤魔化せませんから、その歩幅をあえて縮めて身長を体重相当ほどにまで設定し私のミスリードを狙った」

 

「ご推察の通りでございます」

 

「ですがそれを行うタイミングが悪かったですわ。肝心の『最初の1歩』から次までに不自然な間がありました。この部屋までに迷うことなどあり得ませんし、サシェとエンドラも命令以外の行動をしませんから、あなたがそこで思考したことを物語っているのです」

 

 さすが。

 まるでそこで見ていたかのような推理に意地悪を仕掛けたオレが面食らってしまう。

 なかなかに理路整然とした推理ではある。が、それでもまだ穴はある。

 

「では……」

 

「ではどうして本来の身長まで見破れたか説明いたしましょう。いくら歩幅を変えるといっても限界はありますし、体重から逸脱した身長では不自然な体格の男が出来上がってしまう。そこから推測し今度はあなたの歩幅に着目します。どのように偽っても本来の歩幅を変えるということは『歩幅に微妙なバラつき』が出る。そしてその時に『本来の歩幅』は出さないようにする。これは意図するからこその意識的な無意識の動作」

 

 穴はあったのだが、言う前に被せ気味で埋められたよ……

 しかもなんか難しいことまで言うから本当に年下かも怪しく思えてくるから怖い。

 

「それを踏まえて今度は歩数に着目しますと、階段からこの部屋までの廊下の長さは当然ながら把握していますので、実際に測った歩数から身長を割り出し、体重から逸脱しない限界値をおおよそ割り出すと、前後1、2歩で誤魔化すのがせいぜい。そして歩幅は最大値と最小値を上回るか下回るかの2択でほぼ確定しますが、歩幅の平均値が高めでしたので上回る方で確定いたしました。そして廊下の長さから2歩誤魔化したとする値は約15センチ。1歩でも約7.5センチにはなりますから、その平均値を述べたと言うわけです」

 

「……お見事。このようなご挨拶で申し訳ありませんでした」

 

「いえ、前戯としてはそこそこ面白かったですし、あなたの人となりもある程度ですが理解できましたので」

 

 見事な推理を披露しても、それは朝飯前と言うように返したメヌエットは、本物だな。

 そしてここでようやくメヌエットはその車椅子を反転させてオレと正面から相対してくれる。

 青い瞳のツリ目にツーサイドアップに結った綺麗な金髪ロング。外にあまり出ない人間特有の肌白さも合わさった色白は少しあれだが、やはりアリアの妹だけあって超がつく可愛さだ。

 服装は理子が喜びそうな暗色でまとめた人形に着せるようなゴシックロリータで、帽子のようなボンネットも被って生きた人形感が増している。

 

「はじめまして。ご招待いただき参上しました、猿飛京夜と申します」

 

「はじめまして。メヌエット・ホームズ。ホームズ4世ですわ」

 

 ここでレディーファーストの精神で名乗るのを待つか考えたが、この場面は名を尋ねるなら自分から名乗るのが礼儀かなと思い先に名乗ったら、特に問題なくメヌエットも名乗ってくれたので合ってたっぽい。この辺の礼儀作法はよくわからん。次はえっと……

 

「メヌエット。あなたの卓越した推理力はもちろんのこと、その若さで将来性を大いに感じさせる愛らしさと美しさは恐怖すら覚えます」

 

「平民にしてはよく褒めた方でしょうか。私と同じ貴族であれば50点といったところですが、平民ならば70点は差し上げてもいいかしらね。ありがとう、京夜」

 

 ぐっ……貴族とはいえ年下に呼び捨てにされるのはなかなか堪えるな。

 アリアなんて会ったその日に呼び捨てでいいって言ってたが、あれが特例であることを実感する。

 

「さて、挨拶も済んだことですし、私が京夜を招いた理由についてを話す順序ではあるでしょう。が、その必要もなさそうですね。もう帰ってください。お越しくださったことには感謝します。さようなら」

 

「…………はっ?」

 

 それでもこれが本来の立場による対応ならと表情にも出さずにいると、本題に入ってくれる素振りを見せた途端に帰れと言われ、思わずそんな声が出てしまう。

 

「よく感情をコントロールされていましたし、私が貴族だという前提を踏まえた礼儀作法にも不備は特にありませんでした。ですが人は不意に想定外のことを言われるとその本心を面に見せる。つまり今のリアクションが京夜の私に対する本来のリアクション。本心では私への敬意はあまりないということです」

 

 やられた……今のはオレの無意識での反応を引き出すためのアクション。あまりに突然の身勝手な発言だったこともあって素が出まくった。

 つまりメヌエットは最初からオレが自分を偽って接してることを勘繰って会話をしていた。

 探偵業で貴族だから、そういうことに敏感なのかもしれないが、だったらどうするのが正解なのかわからん。

 

「では私はどのようにメヌエットと接すればご満足でしょうか?」

 

「内心がバレて開き直りましたか。ですがこちらの意思を無視せずに仮面を被ったまま素直に尋ねられたのはとても好印象でしたわ。京夜は仮面を作るのがお上手なようでしたので、その仮面を剥いでさしあげたいと思い意地悪で返してみました。どうぞご自分の話したいように接してくださいな。私は気にしません」

 

 わからないことは聞く。万事において穏便に済ませる近道はこれに限る。

 今時のやつはみたいな風潮もあるから諸刃の剣だったが、メヌエットもその今時のやつの分類だから功を奏した、のか?

 とにかく素でいいと許可が下りたのは確かなので、スゥ、と浅い呼吸で切り替えて体に入っていた変な力も抜いて改めて目の前の少女、メヌエットと相対する。

 

「じゃあメヌエット。改めて聞くけど、オレを呼び出した理由は? 英理さんの推薦でアリアの妹だから来たが、正直なところ結構なホームシックで重要な案件じゃないなら今すぐにでも日本に帰りたい」

 

「あらあら、仮面が剥がれると割と素敵なご容姿に似合わずの毒舌なんですね。英理や幸音から聞いていたイメージはずいぶん美化されているようです」

 

「…………ん? 幸姉と、会ったのか?」

 

「ええ。昨年の12月15日に。英理とは1日にお話をさせてもらいました。両人ともに珍しく有意義と思える時間でしたので、相談以外のことも色々と。その時に京夜の名前が両人から出てきたので少々気になっていましたら、ちょうど英理から欧州に来ていると報が入ったので、日本へ飛ばれる前に寄っていただこうと思いまして」

 

「……顔が見たかっただけとか言ったら、さすがにそのほっぺをぐにっとやるくらいの権利は得られるよな?」

 

「レディーに対してその仕打ちはセクハラ同然ですわよ? 訴えたら確実に勝訴する自信はありますが、試してみますか?」

 

 それで素で会話をしてみれば、本当に貴族と平民とかは気にしてない感じで応対するメヌエットは、何やら去年に幸姉と会ってると言い出し、英理さんと同じくその時にオレの名前が出たから気になった。だから近くにいる時に呼び出したと言うのでため息が出る。

 しかも腹いせをしようものなら勝てない勝負をさせられると言われる始末だ。

 

「はぁ……もう来ちまったもんは仕方ないし、この際だから気の済むまで付き合ってやるよ。あとは何がお望みだ?」

 

「京夜は面白い人ですね。私を年下と見ているのに侮るわけでもなく、その人の性格や能力を分析し最も波風の立たない選択をしているように見えます。それは頭脳的なのか本能的なのか、とても興味深い」

 

「人生諦めも肝心。開き直ってるだけだ。それにアリアの妹なら1度くらい会ってみてもって気はあったし、全くの無駄足ではなかったよ。今後の付き合い方を考えさせられる性格ではあるがな」

 

 とはいえこうして来た以上はこっちもこっちで手ぶらでは帰りたくないので、まずはメヌエットの要求を引き出そうと口を開いたが、考えることを単にやめただけのオレの思考を深読みしたメヌエットが面白いので、そのまま深読みさせておく。

 

「英理と幸音がなぜ京夜に惹かれるのか、まだハッキリとしません。ですので今回は特別に私の半径5メートル以内に立ち入ることを許可します。普段は男を近寄らせることはないのですが、京夜は男特有の臭さはあまりしませんし、このような『年下』に変な気は起こさないのでしょうからね」

 

「いちおう言っとくが、年下とは思ってるけどそれがイコール恋愛対象外ってわけではないぞ。まぁ、会ったばかりの女を口説くほどの度胸がないのは認めるが」

 

「まぁ。ではこれから私を知っていけば、京夜も変な気を起こす可能性があるんですね。最低です」

 

「じゃあこの距離感を縮めるのを拒否して帰る」

 

 するとオレへの関心が高まったからなのか、そうした自分ルールを適応外にしてオレの接近を物理的に許可してくれたのだが、年下に見られてるのを皮肉ってきたからやんわり否定してみればこれだ。

 なので今まで1歩たりとも詰めなかったメヌエットとの距離を心の距離にも比喩し踵を返すと、意外にも「そうですか」と止める気なし。あれ?

 

「ああ、帰られる前に1つだけ確認を」

 

「何だ?」

 

「ここまでのやり取りで私は京夜の色々な観察をしましたが、京夜の見る目は最初から最後まで私を対等に見ていました。私のこの姿を見て何も思わなかったのですか? 心の中で見下してはいなかったのですか? それとも今も京夜は別の仮面を被っているのですか?」

 

「……人の幸、不幸は他人が決めることじゃないし、人間なんて欠陥だらけの生き物だろ。それがメヌエットは目に見えるってだけの話で、オレにだってメヌエットにとってのその足みたいな欠陥はある。生憎とオレはそういう欠陥を補って余りあるものを持った人達を何人も見てきたから、メヌエットにとってのそれがきっとその利口な頭なんだろ。オレはもうそういうトータルでの見方が基本になってるだけだ」

 

 帰ること自体を止めることはなかったメヌエットだったが、メヌエットなりの観察で見たオレはどうにも普通ではなかったらしく、事実としてオレはメヌエットを見た時に足が不自由なのはすぐにわかったが、それを自分と比較して見下したりはせずにスルーした。

 その理由については言った通りだが、極端な話で言えばオレがメヌエットに徒競走で勝てたとして、数学のテストでも勝てるのかと、そういうことだ。

 そんな些細なことで優劣を決めて見下したりとか不毛なのだ。

 だからオレのそういった一線を越えて達観した人の見方に少々驚いたような表情を初めて見せたメヌエットは、ここでまた初めて見せる『笑顔』でオレを見る。

 

「なるほど。英理と幸音の言っていたことが少しわかったような気がします。ではこうしましょう京夜。私はあなたに興味が湧きました。ですから明日、私とデートをしましょう。その結果次第で、私は京夜の望みを1つ聞きます。どうです? 悪いお話ではないでしょう?」

 

 その笑顔のあとに唐突なデートの約束を取り付けに来たメヌエットは「譲歩してやったのだから断れないでしょ」と目で訴えてきて、本来なら見返りなどなさそうなその条件の提示でオレもちょっと思考するが、この場ですぐに了承するのはなんか嫌だ。

 

「明日の13時にまた来てください。来なければこの話はなかったということで私も納得します。納得はしますが、私からのデートの誘いを断った男という不名誉を一生背負わせてさしあげますわ」

 

 その思考を読まれたのか、メヌエットの方から返答の時間をくれて無言で立ち去れるタイミングを作ってくれるが、ホームズ家の歴史に何やらオレの名が刻まれるようなことを言うので大変な迷惑。

 もはやオレに選択の余地がないのが気に食わないが、とりあえずこの場は無言で退室しその日は近くのホテルに宿泊。

 

「女に恥はかかせるなって、昔に幸姉も言ってたしな……」

 

 翌日の13時5分前。

 悩んだようで悩んでないという1日を過ごして、結局はメヌエットの家の前に来ている自分の保守的な結論にはガッカリだが、こちらにメリットがないわけでもないのだからいいのだ。

 だから無愛想なサシェとエンドラの応対にも何も言わないし、昨日の意地悪をした廊下も普通に歩いて、今回はノックのあとに返事のあったメヌエットの部屋に入り、嫌な笑みを浮かべたメヌエットに言ってやる。

 

「書を捨てよ、町へ出よう」

 

 見るからに出不精の箱入り娘――引きこもりとも言う――を外へと引っ張り出す魔法の言葉を。

 

「……デートなのですから、外出も視野に入ってますわよ」


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