眷属の拠点となっていた竜の港をパトラ達の留守中に襲撃し押さえ、帰還したパトラ達を討つところまでは良かったが、想定外もいくつかあって現在、そのパトラ達と交戦する流れとなってしまった。
全員がほぼタイマンでぶつかる中、洋上へとゆっくり動き始めた帆船のマストの上で、オレは傭兵として雇われたセーラ・フッドの足止めを続ける。
「ところでセーラ。セーラはいつもそういう格好で仕事をしてるのか?」
「そう。スコットランドのキルト。男装」
ああ、そういや男があんな感じのもう少し長いスカートを穿いてる映像を歴史番組で見たことあるかもしれん。
向こうに明らかな敵意がないことをいいことに会話による足止めのために話題を掘り起こしたが、民族衣装的な格好だったのか。
「それがなに?」
「これさ、怒るかもしれないけど、一応は異性としてと、お兄さん的アドバイスと取って欲しいんだけど……」
その服装に関しての質問はちょっとした偶然だったら良いかなとも思ってのあれだったが、常日頃からということなので、年頃の女の子なことも考慮して言っておかなきゃならないだろう。
「そういう格好で風の超能力を使うなら、スカートの中にスパッツか何かを穿くことをオススメするよ。不可抗力だけど、割とマジで女の子として恥ずかしいと思……」
――ビュビュンッ!!
こっちも怒られる覚悟を決めてこの状況に至るまでに見えてしまった色々をボカして話したら、言い切る前に顔を赤くしたセーラが2本の矢を放ってきて、どちらも即死レベルの狙いだったため死の回避で躱すが、今度は矢じりが頬を掠めてヒヤッとする。
「変態ッ!」
「変態でもいいけど、忠告はしたからな。次に会うことがあって同じことがあっても、変態って言う権利はセーラにはないから。あと頭、気をつけて」
頬の血を拭いつつ、変態呼ばわりには反論したいところだったが、ここは年上として大人な対応をして忠告。
それからセーラの後ろに滝が迫っていたので、自分はマストの下の帆に上手い具合に隠れるようにして滝に打たれないように備えたが、セーラはその手を上にかざして風の壁でも作ったのか、滝へと突入してもセーラには滝の水が当たることなく通過する。
オレも多少は仕方ないがほとんど濡れずに滝を潜り抜けると、夜の闇に輝く満月が綺麗で、それをバックにマストに立つセーラが幻想的でちょっと魅入る。
「将来は期待できるな」
「なに?」
「羞恥心はあるんだなぁって……はいごめんなさい構えを解いて」
なんか下では派手にやり合ってるのに、こっちがのほほんとしたコントやってていいのかなと思うが、セーラのツッコミが即死レベルなので笑い話にはできない。
「そういやセーラは眷属にどの程度の報酬で雇われてるんだ? 差し支えなきゃ教えてくれ」
「24金。60キロ」
「ろくじゅ!? 依頼の難易度とかそういうの度外視で?」
「二つ返事でなきゃ即破談。あと依頼主を裏切る二重契約はしない。信用は金より大事だから」
「おおぅ……まさにプロフェッショナル……」
それでも戦わずしてセーラを足止めできるなら最良だと思いまだまだ会話を続け、傭兵ということを思い出して報酬とかを聞けば、純金で60キロとか現金換算が怖すぎる額を提示されて青ざめる。
一応、現在の金の相場は1グラム3500円くらいだった気がするので……その6万倍で約2億……計算してゲンナリしたな……
「オレは払えないけど、傭兵ってことなら力を借りたいことがあるかもしれないわけだよな。だったらうちのリーダーが気前良さそうだし、連絡先だけでも交換しない?」
「…………ナンパ?」
「いや、ビジネスだから」
それでも眷属が報酬を払ってまで雇ったなら実力は折り紙つきなので、繋がりそうな線を途切れさせるのはいただけない。
だから将来のことも考えていざコンタクトする時に困らないようにとオレの携帯の番号を書くと、ジト目でナンパを疑いつつもその手の指をクイッ、と曲げて渡すように促すが、距離が……
と思ったら不意に後ろから風が吹き持っていた紙はその風に乗ってセーラの手元へと収まり、確認してからその紙に自分の番号を書いて風に乗せ返してきた。
「覚えた。連絡するなら報酬を払える時だけ」
「了解。リーダー……セーラの元同門、ジャンヌと話し合うよ」
とりあえず今後の繋がりは持てたところで海に近づく帆船では、すでに羽鳥がカツェを拘束して、ほぼ相討ち気味のジャンヌとパトラは息を切らせてつばぜり合い。
そして閻と戦っていたキンジは……
「リサぁ!!」
あの鬼とここまで奮闘してるだけでも人間離れしていたが、突然のキンジのその叫びで下を見る。
すると金髪ロングの少女がキンジを庇って閻の振り回す金棒を受けてしまったらしく、見るからにヤバそうなダメージで倒れていた。
――ビリッ。
これはどうするかと思考しかけた瞬間、オレの鋭敏な感覚が何かの危険を察知し警告するように全身の鳥肌が立つ。
すると瀕死のダメージを受けていたその少女の体に変化が訪れ、みるみるうちに肥大化し服を破いて出てきた体は獣の金毛で覆われ、ブラドにも似た人狼といった生物へと変貌した。
「アォオオオオオオオンッ!」
その人狼は瀕死だったのが嘘のように元気な遠吠えをすると、後ろから迫った閻を強力な蹴りで吹き飛ばし、目の前にいたキンジを睨んでその大きな手で掴んでしまう。
「ジェヴォーダンの獣……」
その様を一緒に見ていたセーラは、あの人狼に理解があるのかそう呟いてその表情を驚愕へと変える。
「ジェヴォーダンの獣?」
「西ヨーロッパの伝説にある生き物。吸血鬼のライバルとか言われてる」
セーラもその目で見るのは初めてらしいが、どうやらあの少女が普通の人間ではなかったと、そういうことだと思う。
しかしそういった人外に驚く段階ではない自分にちょっと落ち込みつつも、もう海に出るというところでセーラが帽子を押さえて跳ぶ予備動作をしたので、援護でもするのかと思ったがそうではなく、眷属の戦況を見て撤退を判断したようだ。
どうやらその撤退をスムーズにするためにこの帆船を動かした節のあるセーラは、グッと踏ん張って岸へと跳ぼうとする。
「あっ、スカートもちゃんと押さえるんだぞ」
「なっ!?」
それを見てオレは帽子だけじゃなくヒラヒラしてるスカートも押さえるように注意すると、それで意識が散漫になったのか、マストから跳んだはいいがバランスを崩して落ちていったセーラは、帽子とスカートを押さえた上でオレにアッカンベーをして突風に乗りあっという間に見えなくなってしまった。
敗色を察して逃げたセーラなら別に誰も追わなくても文句は言わないだろうと思い、今まさにリサと呼ばれていた現在、ジェヴォーダンの獣に噛みつかれそうになっていたキンジの救出のためにマストから一気に下に降りてどうにかしようとしたら、ガブリと肩を噛まれたキンジは、それでクナイを構えたオレを手で制して噛まれながら優しい顔でジェヴォーダンの獣の顔に触れる。
「リサ、ありがとう。俺のために戦ってくれて。でももういいんだ。約束しただろう。リサは俺が守るって」
先ほどまでの美人だったリサからは似ても似つかない姿に変わったジェヴォーダンの獣に、全くの敵意を見せずにそう言ってみせたキンジには驚かされたが、その言葉に反応したのかジェヴォーダンの獣はその噛みつきを緩めて肩から離れ、むき出しだった闘争心もキンジに対してぶつけることをやめてしまった。
そんなジェヴォーダンの獣、リサの暴走を治めたキンジは、吹き飛ばされて戻ってきた閻をまっすぐに捉えて、オレも後ろに迫っていた閻から離れてキンジの横まで移動。
だがすでに現場はリサの出現で眷属側が戦意を失いつつあり、パトラもカツェもヘロヘロの状態。
「うむ。これ以上の戯れは止そう。我の務めはこの戦の行く末を見守ること。なればすでに結果は見えた」
「逃がすと思うかい?」
それをざっと見て判断を下した閻は、これ以上の戦闘は無駄と金棒を下げて逃走のために海に飛び込もうとするが、それを羽鳥が銃を向けながら止める。
「勘違いされるな人間。見逃すのは我の方。この場は退いてやると言うのだ」
完全に立場はこちらにあるというのが普通では成り立つ公式であろうが、この場にそれが当てはまらないのは羽鳥も含めて全員がなんとなくわかる。
それだけ閻という鬼が桁外れに強い。
わかるからこそ言ってから海に飛び込んだ閻を誰も追撃できなかった。その圧倒的なプレッシャーで、手痛い反撃が来るのがわかってしまうから。
「……仕方ないね」
海を泳いで遠ざかっていく閻を見ながらに、もう射程外になって銃を下ろした羽鳥が悔しそうに呟けば、皆も臨戦態勢から1段下げて残ったパトラとカツェを縛り上げて終結。
人質にしていたイヴィリタもカイザーが連れてきて帆船もいかりを下ろして海上に止めて一段落とすると、すっかり大人しくなったリサを見ながらにキンジに一応は尋ねておく。
「このリサ、だっけ? この子は元に……元がどっちなのかも知らないが、人型には戻るんだよな?」
「た、たぶんな。リサが言うには瀕死と満月が変身の条件みたいだから、朝になれば元通りにはなる、はず」
「元に戻った時にはあれな感じになりそうだから服は用意しとけよ。何はともあれ、色々と言ってやりたいこともあるが……」
「ひとまずはこれにて一件落着、ってところか」
噛まれた肩の調子を確かめながらのキンジもリサの変身を見るのは初めてだったらしく、曖昧な返事ではあったものの、暴れる心配はなさそうなので安心しつつキンジと一緒に手に持っていたクナイとベレッタを懐にしまってお決まりになりつつある台詞で笑みをこぼすのだった。
「はじめまして猿飛様。リサ・アヴェ・デュ・アンクと申します」
翌日。
キンジの予想通り月が沈んで朝になったらリサは元通りの人間の姿に戻り、アムステルダムのリバティー・メイソンのロッジでの朝食時に武偵高のセーラー服をメイド風アレンジした服装にカチューシャまでつけて改めて対面すると、本職みたいなものがメイドらしいリサはそうした自己紹介と共にロングスカートを摘まんで上げてお辞儀をする。
「キンジの嫁って理解でオーケー?」
「おい」
聞いた話ではこのリサは眷属の代表戦士で、パトラ達がゾロゾロと出かけて迎えに行った行方不明者でもあったらしい。
そのリサはブリュッセルでのあのホテル襲撃をやらされた当人で、逃走したキンジと鉢合わせて眷属から師団に鞍替えしようと投降。
しかし事情があれだったから協力してブリュッセルを抜けて今まで一緒に潜伏生活をしていたというのだ。
これにはさすがのオレも苦笑い。まさか羽鳥の突拍子もない推測が当たってしまっていたのだから。
それでリサもまた元イ・ウーのメンバーだったようで、ジャンヌやワトソンとも面識があり、物凄く温厚で戦闘力は皆無ということもわかった。ジェヴォーダンの獣の状態を除けばだが。
「ご主人様、猿飛様のご理解はあながち間違われていない気がするのですが……」
「いや間違ってるだろ。お前は嫁ではない。これは断言する」
とまぁ、そんなリサもオレのなげやり気味の言葉に真面目に反応して、それにツッコむキンジの図が完成。
さらに降伏して停戦交渉を持ち出してきたパトラ、カツェ、イヴィリタも同席していたのだが、そのカツェがそこに割って入り、ジャンヌやメーヤさんも混ざってで何やらキンジの取り合いみたいな事態が発生。
モテる男は辛いねぇ。
なんて思いながらすっかり平和になった食事の場で、別のテーブルに羽鳥とワトソン、カイザーと一緒に座ってのんびりと食事を再開する。
「猿飛氏」
再開したのはいいのだが、すぐに別のテーブルで食事をしていたイヴィリタに声をかけられて手招きされてしまい、パトラ、ローレッタさんといるテーブルにカツェの席を拝借して座って何か用かと捕まった身で偉そうにするイヴィリタ達を見る。
「今回の戦い、遠山氏の働きが厄介ではあったけど、あなたも大概でした」
「喜べサルトビキョウヤ。お前はサナダユキネの懐刀から昇格ぢゃ」
「……ローレッタさん?」
「私は何も。ただ我々が猿飛さんにお付けした通り名でお呼びしただけですよ」
とか切り出してきたイヴィリタとパトラの意味深な言葉で、なんとなくこれから言われることを察したオレがローレッタさんに疑問をぶつければ、ニコニコとしながら確定情報で返されてガックリ。
「バチカンに倣って、魔女連隊もまた猿飛氏に敬意と畏怖の念を込めて呼ばせてもらうわ」
「良かったのぅ、影の陰」
「…………日本に引きこもろうかな……」
「ほほっ。それならそれでサナダユキネにこき使われるぢゃろうな」
これでまたオレの中二病を患った通り名が広まってしまったので、2度と欧州に来たくない気持ちが芽生え引きこもり宣言したら、それはそれで困ることをパトラにツッコまれてしまいさらにガックリとするのだった。
「んで、結局のところ何がどうなったんだよ」
それから数日。
眷属とは停戦協定が結ばれ、その具体的な交渉内容は羽鳥やジャンヌ、ワトソンがしてくれてるので、基本的に前線のオレやキンジは交渉について聞き及んでない。
だから丁度よく連絡のついた橘夫妻への報酬を支払うために羽鳥と一緒にアムステルダムの空港へとやって来て、その待ち時間中にそちらの方を尋ねてみる。
「まだ色々と調整中といったところだ。何か聞きたいならピンポイントで聞きたまえよ低能」
「……各陣営のその後についてだ。師団と眷属のじゃない、もっと細かいやつ」
「またざっくりとした……まぁいい。我々リバティー・メイソンはひとまず優位に立ったと言っていい。それをどう利用するかは私の領分ではないしどうでもいいんだが。バチカンも面白いくらいに勝ち誇っている。なにせ表向きで師団で、裏では眷属に情報を売って1度は信用を買い、そこから嵌めて師団の勝利に貢献したんだからね」
「そんなもんは見様によって変わる。それでもお前はこうなることで収めたんだろ」
「君の言う『誰も傷つかない最善』の結果だよ。その過程では残念ながら傷つく人や物もあったが、争いにおいて無傷などあり得ないと割り切るしかない」
本当はオレの聞きたいことなどわかってるだろうに、オレに悪口を言いたいだけの羽鳥にはいい加減に慣れたので流しつつで聞きたいことに触れると、やはりバチカンはスパイ行為についてはお咎めなしになっていた。
もちろんリバティー・メイソンやオレ達がバチカンを糾弾すればそれなりの処罰はあるのだろうが、それを受けるのは尻尾切りのローレッタさんになるのはわかってたし、そんな処分をオレ達が望んでるわけではない。
「バチカンも悪い組織ではないんだろうが、根本的に改革しないとダメなところはあるのかもな」
「そこはほら、真実を知ったメーヤやシスター達が何を思うかで少なからず動きはあるさ。シスターローレッタにだってその件でも追加でお願いはしておいた。『バチカンが胸を張れる行いをする組織であるために尽力してくれ』ってね」
「なかなかの宿題を残したな」
「それがスパイ行為への贖罪になるならって快く引き受けてくれたよ」
オレ達が望むのはバチカンが同じことを繰り返さないでくれること。それさえできればリバティー・メイソンや藍幇、その他の組織だってきっと誠実に繋がれるはずだから。
「魔女連隊はその陣地やら拠点やらをこちらにいくつか明け渡すことで縮小した形かな。アリアの殻金も返還される」
「妥当なところか」
「魔女連隊はもっと厳格だからカツェも死罪とかでも不思議はないんだが、君との何気ない会話が上官の情に訴えたとか聞いたよ。どんな会話をしたのやら」
「世間話だよ。ただのな」
バチカンについてはこれ以上のことはないとばかりに次は眷属の方に話が移ると、なんかイヴィリタが温情でカツェ達を助けたみたいだが、それにオレが関わってるとか聞くと実質なにもしてないから実感はない。本当に会話しただけだし。
「パトラは……戦闘行為の大幅な制限と、アリアの母親の件での協力。殻金の返還といったところだ。とはいえ本人も今後は派手にドンパチやる気も暇もないとか言ってたし、小声で『婚約』とか口走ってて、近く日本に発つとか呟いてもいたよ」
「婚約? んー、なーんか心当たりあるようなないような……」
「まぁパトラが誰と結婚しようと構わない。それで厄介な魔女が隠居してくれるなら、こちらとしてはありがたい限りだしね」
「違いない」
パトラもパトラで今後は自粛してくれるようなので、職業上で敵になりやすい相手がそうなってくれるのは非常にありがたいため、羽鳥と同じ笑みがこぼれる。
「あとは停戦に当たって玉藻御前が張っている鬼払結界の解除も要求されていたりとあるが、その辺は決定したらジャンヌやワトソンが改めて話してくれるだろう……っと、来たようだ」
めぼしいことはそれで終わりとばかりにひと笑いのあとに話を締めにかかった羽鳥は、それとほぼ同時に空港へとやって来た橘夫妻の登場で最後まで言い切ることなく終了させ、オレ達を見つけた橘夫妻もこっちに近寄って来てくれる。
「どうやら京夜さん達の案件も無事に済んだようですね。2人とも良い顔をしてます」
「おかげさまで」
「マダム達の助けがなければこの結果は得られなかったでしょう。これは我々からの最大限の感謝の証です。少々下品な形ではありますが、お納めいただければ嬉しく思います」
会って早々でオレ達の表情が明るいことに気付いた英理さんは、そう言って笑顔を向けてくれて、言葉少ななオレに代わって羽鳥があれこれ言ってから報酬である分厚い封筒を英理さんへと渡すと、それを受け取った英理さんは中の札束から10万円ほど抜き取って羽鳥へと返してしまう。
「チップは受け取らないと決めています。こちらが提示した報酬以上のこのお気持ちは、別の何か大事なことに使ってください」
こういうのもセーラのようなプロ意識なのかなと思うが、オレは今回の橘夫妻の活躍は提示された報酬以上のものは確実にあったと確信してるし、羽鳥もそういった気持ちを最初から出しまくった上でオレとの合意の上、報酬を増していた。
それでも受け取ろうとしない橘夫妻の意思を汲み取って、渋々ではあるが返された金を受け取った羽鳥は、オレの方を向いて「やっぱりこうなったか」とアイコンタクトしてから橘夫妻に向き直る。
「お時間もないでしょうから我々はこれで。これからもその手腕で、我々のような人の助けになってあげてください」
「お体には気を付けてください」
「お2人もお元気で。それから仲良く、ね?」
「「それは承服しかねます」」
「あらあら、余計なお世話だったみたいね」
「英理、あの件はいいのか?」
それでわざわざ空港で待ち合わせたのが、これから橘夫妻が航空便でイタリアに飛ぶからだったので、その間の時間を割いてくれた2人を拘束するのはいただけないとオレも羽鳥も撤収の流れにしたら、英理さんの言葉に羽鳥とハモってしまった。
そんなオレ達の反応にひと笑いした英理さんも見送る感じになったのだが、吉鷹さんの言葉で何か思い出したのか、背中を向けかけたオレを呼び止めてくる。
「そうそう。京夜さん、このあとはご予定などありますか?」
「…………いえ、予定としては2日後に日本に帰るくらいですけど……」
「その帰国は急ぎですか?」
「いえ」
「でしたら騙されたと思って行ってほしいところがあるんですけど」
呼び止められて聞かれたのは今後のオレの予定で、帰国が急ぎでないと知った英理さんは不思議なことを言ってオレにどこかに行くようにと勧めてきて、当然どこかと気になるオレが尋ねれば、そこはオランダからは目と鼻の先の意外とオレとは無縁でもない場所。
「イギリスのロンドン。そこのある場所にあなたに会いたいと言っている人がいるんです」
こうして欧州戦線、連鎖的に極東戦役は一旦幕を閉じ、オレはまた何かに導かれるように行く先を示唆されるのだった。