緋弾のアリア~影の武偵~   作:ダブルマジック

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Bullet108

 

 スパイ捜索から始まった欧州乗り込み。

 コロコロと状況が変わる中で羽鳥捜索に本腰を入れた矢先で、それとはあまり繋がりがなさそうな無視できない事態が発生。

 パリ市内で発見した眷属のパトラと魔女連隊の手下達が師団へと奇襲を仕掛けたのだろう騒ぎを余所に、どこかへと移動をするためにゾロゾロと1台の大型車へと乗り込んでしまう。

 それを影から見ていたオレは、橘夫妻とのこの後の合流時間を確認した上で時間的にどこまで行けるかはわからないが尾行することを決めて車体番号を記憶し車へと急いで戻ってちょっと早くに出発したパトラ達の車を追ってパリを走り始めた。

 

「英理さん達との合流は3日後。それだけあれば欧州諸国までなら追えるか……」

 

 いまいち欧州での移動時間やら何やらの計算ができないが、ブリュッセルまで4時間くらいなら最大8、9倍くらいの距離までなら往復でも3日でパリには戻って来れるだろう。

 車を走らせながらどこまで行くか不明なパトラ達を不安に思うが、追うと決めた以上、時間の許す限り追う。

 せめて行き着く先までは判明させたいところだが、この辺はメーヤさんの武運にちょっと願っておこう。

 その武運がさっそく仕事してくれたのか、1度は見失ったパトラ達の車をパリ市内を出る前に発見して無事に尾行を開始。

 車は迷うことなく師団勢力の北へと進路を取ってあっという間にパリを抜けると、オレが往復した道を進んでいく。

 おそらくは北へと逃げた師団を追撃するための進軍、のような感じだろうが、こうもズケズケと移動するか。

 これもパトラの性格が出てる気がして憎らしいほどにムカつくが、1人で立ち向かっても返り討ちは目に見えてるので腹に落としつつ尾行を続ける。

 

「というか、まだバチカンがスパイとして機能してるのは間違いないんだよな……ならこの先にいるジャンヌ達の所在もバレてると考えた方が良いだろうな」

 

 長い道中は割と余裕があったので、見失わない距離で追いつつそんな当たり前の前提に考えつき、もしもパトラ達がブリュッセルに停泊などしようものならワトソンにくらいは連絡しておくことを決定。

 途中で休憩の立ち寄りもありつつで割とのんびりと北上を続けたパトラ達の乗った車は、夕方頃に案の定ベルギーの首都ブリュッセルに入って警戒しながらも手頃なホテルに停泊。

 何かを狙っているのは目に見えてるので、一応は決めていた通りにワトソンに注意を促す連絡をしてみるが、繋がらないな。

 この場合の考えられることは、オレとの繋がりがバレるとマズイ人と一緒にいるか、単純に出られる状況じゃないかだが、なんとなく前者な気がする。

 そう思ったので一旦ワトソンとの連絡は保留にしてブリュッセルを散策してみることに。

 パトラ達がその間にブリュッセルを出る可能性もあるが、ホテルに入る直前にパトラ達は眠そうにあくびをしていたところを見ると、少なくとも1泊は確実にするつもりだ。

 それにパリが墜ちた以上、ここブリュッセルがおそらくは師団の勢力の最前線。次の戦地となる可能性は低くないはず。

 その前にパトラ達が他の眷属の連中と合流し準備を万端にするための仮拠点としてホテルに停泊している、とも考えられる。

 ならこれから戦地となるだろうこの街の地形を今のうちに把握して動きに支障が出ないようにしようという腹だ。

 思考がネガティブというか慎重というかだが、いざ何か起こった時にわずかな時間のロスが影響するかもしれない。

 そういったことを防ぐ意味でも割と真剣に散策をしてみたのだが、これも好転。

 いちおう車内生活が続いてるので食料などを買い込みつつでブラブラしていたのだが、夜を更けてきた頃に気になる人物が外を出歩いていたのを発見。

 まぁ気になるといってもおぼろ気な記憶でしかなかったのだが、宣戦会議の時にリバティー・メイソンの使者として空き地島に姿を現した男が神妙な面持ちでオレとすれ違ったのだ。

 オレはワトソンがどこにいるのかを聞かずに別れたので、ブリュッセルの師団の居場所について知らなかったが、あの男を尾行すればそれもわかる。

 それがわかればパトラ達が動いた際にも連絡がつかずとも知らせる手段はあるので、すぐにUターンして男の追跡に切り替えると、男は誰かと連絡を取りながら周囲を見回して移動し、当然だがパトラ達とは違うホテルへと入って早々と消えてしまった。

 しかしあの男が出入りする場所なら確実に師団の息がかかった場所なので、とりあえずそのホテルをマークしておき、パトラ達のいるホテルとの距離と最短ルートも見極めてさすがに今夜はもう就寝。

 1泊するとはいえパトラ達がいつ動くかなどわからないので日が出るよりも早く起きておかないとだからな。

 そんなこんなで翌日。

 日の出よりも早く起きてパトラ達の動向を見張っていたオレは、日も出てようやく早朝と呼べる時間帯になった頃にワトソンにもう1度連絡を試みてみる。

 こちらには基本、電源を落としてる関係で折り返せないのでワトソンも着信には気づいているだろうがどうしようもなかったはず。

 だから寝ているかもしれず、また1人になれる時間も作りやすそうな時間帯を選んだが、どうにもこういうところではメーヤさんの武運は働いてくれないようでまたも繋がらず断念。

 

「次はまた夜になるか……それまで大人しくしてるなんて良い子ちゃんなら欧州戦線も苦労はないよな……」

 

 携帯の電源を落としながら、どうにも上手くいったりいかなかったりの繰り返しの現状に振り回されている自分がしんどく思いつつ、悠長に朝食でも食べてそうなパトラ達のちょっとした不幸を願い、買っていた食料にありつくのだった。

 ここからの動きのなさは酷いものだったが、一応は師団の勢力下のブリュッセルでは慎重になってるとも思えるパトラ達の動向。不自然なところは何もない。むしろ堂々と出てきたりしようものからそれこそ襲撃に行きますと言うようなものだ。

 だからこの状況はまだ良い方だと考えながら、ホテルへの人の出入りも注意して見ておき、顔や特徴も適当に記憶しておく。

 なんかこれくらいしかできない自分が情けないな……

 オレにもまだ他にやれそうなことがあるかもしれないとかなんとか割と真剣に考え始めた夕方頃。

 動きを見せなかったパトラ達がようやくその腰を上げてホテルから出てきたのを確認。したのだが、魔女連隊の手下達は間違いないが、その中にパトラの姿がなく、その代わりになんとジャンヌの姿があってビックリ。

 正直まさかとは思ったが、オレはこのホテルの人の出入りをあらかた見ていたし、バチカンがスパイとわかってる現状でジャンヌまでが裏切るとは思えなかったので、とりあえずまずはその動向を監視しておく。

 ホテルを出てすぐに車に乗って出ていった彼女達は、日も沈みかけてきたブリュッセルを少し走って、昨夜にマークしておいた師団のいるだろうホテルの前で一時停止してそこでジャンヌだけが降りて車はどこかへと行ってしまい、そのジャンヌは少しだけ周囲を見回しながらも堂々とそのホテルへと入っていってしまう。

 

「分岐か……どっちを張るべきか……」

 

 そこでオレはどちらを追うかで迷うが、ジャンヌの不審な行動はやはり気にはなったので見えなくなってしまった魔女連隊の乗った車はスルーしてホテルの張り込みを開始。これが吉と出るか凶と出るか。

 そこから約2時間ほど経過して、完全に日も落ちてしまった頃に、何やらバッグを持ったジャンヌが1人でホテルから出てきて尾行を開始しようとする。

 が、なんか違和感がある。

 それが何かを考えながら歩いていくジャンヌを観察してすぐに気づく。

 服装が違うのだ。ホテルに入っていった時と今の服装が全然違う。

 もちろん着替えた可能性もあるだろうが、この短時間でそんなことをする理由がパッと思いつかなかったため、とりあえず保留にしつつ目的地があるっぽいジャンヌを追っていくと、辿り着いたのはコインランドリー。

 なんか生活感のある場所に来たなぁとかなんとか思いながら中に入っていくジャンヌを見てから周囲にも何気なく目を向けてからビックリする。

 なんとそのコインランドリーの近くに追うのをやめた魔女連隊が乗った車が停車していたのだ。

 ――バンッ! バンッ! バンッ!

 それが意味するところを推理するよりも早く、ジャンヌの入ったコインランドリーからそんな乱暴にランドリーを閉める音が連続して響き、その異変に気づいて中の様子を見れば、頭の上に持っていたバッグを乗せて両手両足でランドリーを押さえるジャンヌと、その中から出ようとする魔女連隊の手下達という光景が飛び込んできて呆気に取られる。

 ランドリーは全部で6つあるようで、その全てにどうやら魔女連隊の手下が入っていたのか、ジャンヌが押さえることのできなかった2つから抜け出た2人がジャンヌに飛びついて拘束。それによって押さえられていた残りの4人も出てきて押し潰すようにジャンヌを捕らえてしまう。

 

「何してんだあれは……」

 

 端から見てるとどこかのコントみたいな攻防で呆然としてしまったが、これでなんとなく謎が解けたオレは気を失ったジャンヌを運ぶ魔女連隊を見ながら車を降りて、せっせと乗ってきた車に乗り込もうとしていたところで不意討ちで顔も見られることなく6人を気絶させる。やっぱ相性って大事だよな。

 路上で寝させるのは忍びなかったので、いちおう全員を車に入れてやってから気絶したジャンヌを担いで車へと戻って少し移動。

 適当なところで一旦停まって、助手席で気持ち良さそうに寝るジャンヌにデコピンして無理矢理起こしにかかると、デコピンを受けたジャンヌは「みゃっ!?」と奇声を上げて起きて反射的にオレに手刀を浴びせに来たので防御しつつ覚醒したジャンヌに声をかける。

 

「ちょっとぶりだな、リーダーさん」

 

「ん……なっ!? 京夜!? お前が何で……いや、それより私は確かコインランドリーで魔女連隊のやつらに……」

 

「拉致されそうになってたから助けてあげたオレに感謝の言葉は?」

 

 頭の回転が早いジャンヌは繰り出した手を戻しつつすぐに記憶を巻き戻して状況を把握しにいくが、それに合わせてその後のことを話したオレにムッとしてから「メルシー」とフランス語で嫌々の感謝を述べて落ち着きを取り戻す。

 

「今までどこで何をやってたか色々と聞きたいところではあるが、まずはどうして私が狙われたかを考えるべきか」

 

「それについてはなんとなくわかってる。この少し前に実は……」

 

 その落ち着きの中で状況を整理に入ったジャンヌの最初の疑問には推測が立っていたので話そうとしたところ、突然近くで不吉な爆発音が響いて2人して驚きつつ、それが自分達に関係することであるのは直感的にわかる。

 

「近いな。行くぞ京夜。話は移動しながらだ」

 

「了解」

 

 話もロクにさせてもらえない展開の早さにもう愚痴すら出てこなかったので、偉そうに命令するリーダーに従って車を走らせたオレは、本当に近かった爆発の現場に着いて思考。

 爆発したのはついさっきまでジャンヌがいたホテル。どうやら外部から何か爆発性の物でもぶつけられたのか火災が発生し壁が一部崩壊していて、消火活動が現在進行形で行われている。

 

「これは……眷属による襲撃と見ていいのか」

 

「そうだろうよ。お前らの居場所はスパイに筒抜けだしな」

 

「お前はそれを知っていて何もしなかったのか」

 

「今は下手に動けないんだよ。下手に動くと羽鳥の命の保証がない」

 

「フローレンスの? いや、それ含めて1度話し合うべきだ。消火する者の中にメーヤとワトソンがいる。まずは私の無事を知らせて……」

 

 車内からその光景を見ながらに会話をしてみるが、いまいちまだ状況を把握できていないジャンヌはすぐに車を出てオレからも見えていたメーヤさんとワトソンと合流しようとしたが、その手を押さえて止める。

 

「今は出ていかない方がいい。状況がますます面倒臭くなるかもしれない」

 

「どういうことだ京夜」

 

「たぶんだが、お前は嵌められてる。眷属の手によってな」

 

 行動を妨害されて不審に思ったはずのジャンヌだが、説明を省いたオレの推測に先ほどの自分への襲撃を思い出したのか車を出るのをやめて話を聞く気になってくれる。

 

「まず確認なんだが、コインランドリーに行く前にホテルを出たのはいつだ?」

 

「ん? 今朝方ブリュッセルに来てからすぐに中空知と島を帰らせてからはホテルを出ていない。時間的に言えば早朝からさっきまでということになる」

 

 話をする前に意図のあるオレの質問に素直に答えてくれたジャンヌの証言に嘘はないだろう。

 ブリュッセルに来たのが早朝というのもおそらくはキンジの捜索に乗り出して移動していたからと予測できる。

 

「それを踏まえて話すと、オレはジャンヌがホテルを出る前に外で魔女連隊と一緒にいるジャンヌを尾行してこのホテルを張り込んでいた。そこにお前がコインランドリーへと足を運んで今に至ってるんだが」

 

「何故いましがた襲撃を受けた私が魔女連隊と一緒に行動しなければならない。見間違いだろう。と言いたいところではあるが、なるほどな。その京夜が尾行してきたという私は誰かの変装。しかもそいつは今もあの騒ぎの中にいるかもしれなく、そこに私が出ていけば事態はややこしくなるというわけか」

 

「そうならないように本物のお前を拘束して拉致しようとしたところでオレが阻止した。つまり眷属はジャンヌになりすますつもりか、スパイとして嫌疑を持たせるつもりでいるわけだ」

 

 天然ではあるがバカではないリーダーも冷静なら素晴らしく頭の回転が早いので皆まで言うことなく状況を理解してくれて助かる。

 その見極めが済むまではオレもジャンヌも出ていくのは得策ではないので、しばらく周囲を観察してみることにして、積んでいた適当なカツラをジャンヌに被せて簡易の変装をさせてうかがっていると、どこかへと行っていたのかキンジが負傷でもしてそうな感じで戻ってきてワトソンとメーヤさんと合流。

 そのまま少し会話をしてから逃げるように移動を開始したキンジ達に合わせてオレ達も移動していった先は高級住宅街の一角で、そこにあった何かの組合の建物の中へと入られてしまいまた待ちぼうけとなる。

 

「ここまで偽物ジャンヌの気配はなしか。ジャンヌはこの隠れ家に覚えは?」

 

「さぁな。おそらくはリバティー・メイソンの息がかかった場所だろうが、私には知らされていない」

 

「そうなると偽物はスパイの嫌疑をかけて消えたか」

 

「私を嵌めてどうしようというのか……」

 

「そうなるとまた困った事態になるんだよなぁ……」

 

 その隠れ家について知らなかったというジャンヌがここにいる可能性は限りなく低いので、偽物はスパイの嫌疑をジャンヌにかけたと断定したのだが、そうなると羽鳥の扱いがまたわからなくなってしまって頭を抱える。

 おそらくは羽鳥にスパイの嫌疑をかけるのが難しいと思ったバチカンがどうにかしようと眷属を動かした結果がこれなんだろうが、こうなるとオレの持つ証拠を出すタイミングがないかもしれない。

 

「おい京夜。話せる時に話すべきだと思うから回りくどいことはしないが、今まで何をしていた? ガルニエ宮でコンタクトしてきた時のメッセージから察するに目的を持って動いているのはわかっていたが」

 

「実は羽鳥と一緒に師団にいるスパイの正体を暴いていた。ついでに魔女連隊の武器庫の捜索もしていたが、そっちはお前らが何とかしただろ」

 

「それはまぁ確かになんとかしたが、そのフローレンスと今は一緒にいないということは、別行動か或いは……」

 

「残念ながら悪い方向だな。どこにいるかもわからん」

 

 どうしたものかと考えを巡らせていると、いきなりの合流でタイミングを逃していた話をするジャンヌに正直に話せば、ふむと少し思考してからまた口を開く。

 

「そうなったということは、お前達はスパイの正体に辿り着いたのだろう。そして口封じのためにフローレンスは拘束されたか殺されたと見ていいな」

 

「あんまり考えたくないが、ジャンヌをスパイの嫌疑にかけたなら、殺された可能性も考慮しないとダメっぽいな」

 

「実は私も師団にいるスパイについては色々と考えていたのだが、面倒だ。先に答えを言ってくれ」

 

「バチカン」

 

 オレと同じ見解に至ったジャンヌが答え合わせを求めてきたので、証拠となるボイスレコーダーを渡しつつスパイの正体を言えば、そのボイスレコーダーを再生して聞き終わってから納得したように背もたれに体重を預ける。

 

「なるほど。これでフローレンスが拘束されていた場合、スパイの冤罪を着せられて師団に差し出される可能性が高かったが、その標的になったのが私になってしまったから問題が深刻化したわけか」

 

「一応はワトソンにこの話はしてあるから、向こうではまだ知らない体でいてくれてるはず。ジャンヌにも話してないところをみるに、まだ情報を開示する人も選んでるところといった感じだろうが、リバティー・メイソンとしてジャンヌを疑ってることはないと楽観視していい。つまり欧州の師団でジャンヌのミスリードに本気で引っ掛かるやつはいない」

 

「だがそれをわかっていてノコノコと出ていけば、まだ生死のわからないフローレンスを助けられる可能性とタイミングを逃すというわけか」

 

「悪いがジャンヌもこれから先は日陰者になるな」

 

 ズバズバとストレートな会話ばかりだったが、全てを知って師団の戦線から外されながらもジャンヌはフフッ、と薄く笑うと、オレを見て不敵な笑みを作る。

 

「別に構わない。何故ならこれからはお前が私のそばにいてくれるのだろう。本音を言えば、お前がそばにいないこの数日は少々、不安と寂しさが拭い切れなかったが、それがなくなってすっかり安心してしまっている。だからこれからは私を守ってくれ、京夜。私もその働きに見合うだけの仕事はする」

 

 その笑顔の理由を恥じらいもなく言ってのけたジャンヌに、オレはちょっと返事に困ってしまった。

 恥ずかしいわ!

 そこまでの信頼をするジャンヌの視線から1度は外れて顔を掻くものの、何か言わないとダメな気がしたのですぐに視線を戻して口を開いた。

 

「わかった。これから何があろうとジャンヌを守……」

 

 と、言い切る直前で突然ジャンヌがその視線を前へと向けてしまったので、不自然な動作にオレも言葉を切って前を向くと、キンジ達が入っていった出入り口からキンジが1人で出てきて走り去っていく姿を確認。

 

「中で何があったと思う?」

 

「あまり良くないことだろうな。この状況で土地勘も何もないキンジが1人で行動するなんて不自然すぎる。オレならそんな状況になるならなりふり構わずに逃げる時の最終手段」

 

「同感だ。追うか?」

 

「それがいいのかもしれないが……ワトソンがいて収まりがつかなかった案件ってのが気になるな」

 

 そのキンジの姿がどうにも逃げるような行動に見えたので揃って同じ見解に辿り着くものの、追うべきと思ってるだろうジャンヌに反してオレはこの場に留まる選択も半々で存在したので、最悪ジャンケンでもして決めようかと提案しかけたが、その前に遅れて出入り口から出てきたワトソン達の中に探していた人がいたので、ジャンケンは中断だ。

 

「ジャンヌ。キンジはとりあえず放置だ」

 

「何? その理由は」

 

「羽鳥と最後にコンタクトした相手があそこにいる。バチカンの祓魔司教とか言ってた、ローレッタさんだ」

 

 思いもしなかったパトラとの遭遇から流されていった状況だったが、道を外れたと思っても意外なところで本来の道筋に戻れるものなのだと人生の深さみたいなものに触れて思わず笑みがこぼれてしまったが、オレの言葉を聞いたジャンヌもほほう、と怪しい笑みを浮かべて反論してこなかったので、納得してくれたようだ。

 

「では案内してもらうとしようか」

 

「ああ。羽鳥のいる場所に、な」


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