緋弾のアリア~影の武偵~   作:ダブルマジック

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Bullet106

 ついに師団に潜むスパイの正体を暴いた羽鳥は、証拠能力が不十分なのはわかっていたようでローレッタさんとの会話の一部始終をボイスレコーダーで記録していた。

 抜け目のない羽鳥のやり口に感心半分、呆れ半分で車内から様子をうかがっていたオレだが、堂々と手でボイスレコーダーを見せびらかせる羽鳥にちょっと注意力がないように思えた。

 証拠を掴んだのはいいが、あんまり調子に乗るなよ。

 

『これであとはあなた方バチカンの方針を師団全体に周知させて、スパイの正体を暴かれたとなれば眷属からも尻尾切りをされるでしょうね。そうなればもう、あなた方は勝者にも敗者にもなれない。残るのは孤立無援の後世を生きにくくなる処遇のみ』

 

『…………』

 

 自白に近いことをさせられたローレッタさんは、そうして優位に立たれた羽鳥に対して言葉が出ない。

 それでも羽鳥が圧倒的な優位に立っているかといえばそんなこともない。

 何故なら今、羽鳥は姿見えぬバチカンの使者によって周囲を固められてしまっている。

 その状態から羽鳥は脱出し他の師団のメンバーと合流しないとならないので、これからあるであろう追撃を振り切れるかが重要。

 ――バヂンッ!!

 そうしてぬか喜びもせず冷静に今の状況を把握していたオレの耳に、突然インカムからそんな音が鳴って何事かと羽鳥を見れば、今の今まで手に持っていたボイスレコーダーがバラバラと地面に壊れて落ちていて、手を撃たれたのか防弾性のグローブをしていたとはいえダメージで痛がる様子がリアルだ。

 

『これで証拠はなくなりましたか? 変なところに当たって死なれても困るのですが』

 

『これは手痛い。まさになりふり構わずといったところか』

 

 だから調子に乗るなって思ってたんだよ!

 羽鳥はおそらく周囲の敵にも気付いてはいたのだろうが、なんか自分に酔ってる感じが嫌だった。

 それで見事数十秒の天下から落っことされた明智光秀みたいな羽鳥は、撃たれた手を庇いつつ余裕のない表情をしてローレッタさんに話しかける。

 

『それで、ここからあなた方はどう動きますか?』

 

『致し方ありませんが、フローレンスさんには戦役が終わるまで我々の下で保護させていただきます』

 

『シスターらしく言葉を選ばれてますが、要するに拘束して監禁するということですね』

 

『必要とあればそうなってしまうかもしれませんが、フローレンスさんが抵抗をしなければ我々も事を荒立てることはしません』

 

 要約すると羽鳥を捕まえてスパイの罪を被ってもらい、自分達はスパイを見つけた師団の英雄になって、更なる信頼を得ると。そんなところだろ。

 それがわかってる羽鳥はローレッタさんの言葉に笑いながらまだ余裕を装って言葉を紡ぐ。

 

『ではささやかながら抵抗をしなければなりませんね。私もタダであなた方の罪を背負いたくはない』

 

『そうですか。残念です』

 

 もう逃げの1手しかない羽鳥はそこで懐に隠していたらしいスプレー缶を地面に落として、そのスプレーからは白い煙が勢い良く噴き出してあっという間に羽鳥とローレッタさんの姿が見えなくなってしまう。

 が、そこまで広い範囲が煙で隠せたわけではないので遠くからならまず煙から出てくる羽鳥を見逃すことはない。その目が複数あるなら尚更。

 さすがにこれで1人で逃走は無理だろうと判断し車のエンジンをかけて発進させようとしたところで、不意にインカムから羽鳥のボソリとした声がオレに届く。

 

『オブジェの下を探せ』

 

 それは明らかにオレに対して発した言葉だった。

 向こうはマイクしか持っていないためオレの声は届かないのでもうもうとする煙の方を凝視すると周りの騒ぎに紛れるように羽鳥が人の中に突っ込んであっという間に見えなくなってしまうが、オレは少しの思考と共に逃げる羽鳥を追うのを中断し車のエンジンも止めてしばらく現場を観察しておいた。

 羽鳥の言葉の意味がオレに何かを残すものであるなら、羽鳥に協力者がいることを知られるリスクは負うべきではない。

 もちろんオレと羽鳥の協力関係がバレてる可能性も考慮しなければならないが、今は楽観的であることの方が良い気がする。

 オレの判断がどうなのかわからないが、ここからは羽鳥には頼れないので自分なりに考えて行動しないとな。

 1人になってわかる羽鳥の存在の大きさにはちょっとイラッとするが、その羽鳥もチャンスがあればヘルプに行くことを決めつつ、煙の晴れたバスティーユ広場にはローレッタさんだけが残っていて、後から車が走り寄ってそのままローレッタさんを乗せるとどこかへと行ってしまうが、オレはもう少し周囲の危ない気配が遠ざかるのを待ってから、自然な感じで車を降りてさっきまで羽鳥とローレッタさんのいた広場のオブジェの近くまで歩いていく。

 この行動に何かの視線は、なし。

 どうやらみんな羽鳥の拘束に動いていったみたいだ。これはオレが協力者として警戒されてない可能性が高い。

 それも羽鳥が捕まればわからないが、その猶予くらいはあいつなら作り出してくれる。

 そんな信頼なのかよくわからないもので羽鳥に期待して、先ほど言われたオブジェの付近を見てみると、設けられた柵の影に隠すようにボイスレコーダーと羽鳥がつけていたマイクを発見。

 ボイスレコーダーは壊されたはずなのだが、これは傷ひとつないので一応の確認のために再生してみると、間違いなくさっきのローレッタさんとの会話が録音されていた。

 

「あいつ、凄すぎないか……」

 

 それでオレは羽鳥のちょっとした違和感の正体がわかってつい口に出してしまう。

 羽鳥が自信満々で偉そうなのはいつもの事だが、バカな真似はしないやつだった。

 だから最初に出したボイスレコーダーは証拠隠滅を狙ってる周囲にいる敵に『狙わせた』んだ。

 そうして元々2つのボイスレコーダーで録音していた羽鳥は証拠隠滅をされてからは1人で逃げることで協力者の存在を消した。

 そして消えたと思っていた証拠をオレに託して少しでも時間を稼ごうと今も逃げている。

 

「となるとやれることは少ししかないな」

 

 羽鳥のファインプレーを称賛してからすぐに車へと戻ったオレは、羽鳥の作り出すわずかな時間を使って動き出す。

 もう真実はわかったんだからいいだろ。

 とにかく時間の猶予がどのくらいかわからないので割と急いで事に当たろうと運転席に収まったのだが、その時に尻の辺りに違和感があって何かと探ると、シートの隙間に羽鳥が持っていたはずの携帯の電池が挟まっていて、それでまだ羽鳥の思惑通り動かされてるんだなと感じつつそれを取り自分の携帯にはめ込んで起動。

 すぐに生き返った携帯でまずは一緒に欧州に来ているワトソンに連絡する。

 ジャンヌは最後に見た限りでメーヤさんと一緒にいるから、バチカンに繋がる可能性は今は避けたい。

 それで数秒とかからずに通話に応じたワトソンは、酷く怒っているような雰囲気が言葉と声色でわかったが、謝罪なら後でいくらでもしてやる。

 

「悪いワトソン。お前いまどこにいて誰といる?」

 

『いきなり何だ君は……今はブリュッセルのホテルに停泊中だよ。パリでトオヤマ達と分かれてから、予定通り中空知と島とでブリュッセルの武偵高などを見学してきた。それより君だ。ボク達と一緒の搭乗便に乗らなかったり、来たと思ったらいきなり誘拐まがいの消え方をして』

 

「色々とごたついたんだ。察してくれ。それより今は中空知と島だけなんだな? 他にリバティー・メイソンのメンバーとかバチカンの使者とか」

 

『…………何を警戒してるんだい? もしかしてボクらの中にいるかもしれないスパイのことか?』

 

「ビンゴ」

 

 ワトソンの怒りようにはごもっともなのだが、今はこっちの用件を通すため無理矢理に話を進めるとオレの緊迫感が伝わったのかワトソンも向こうで声を潜めて聞く耳を持ってくれる。

 

「スパイの正体を掴んだ。だが今それを公にすると危険なやつがいる。だからワトソン。今はお前にだけ真実を話す」

 

『ずいぶん慎重だね。そうまでしないといけない事情があるのは察するけど、電話でする話ではないだろう。夜も遅いけど、こっちに来てくれないか?』

 

「…………一応だが、その間に誰か他のやつらにオレのことを話したりは……」

 

『そう疑うのも無理はないけど、ボクは君をスパイとは疑っていない。言葉でのみになるが信じてほしい。ボクは君とは1人で会って話を聞く』

 

 話をしたのはいいが、持ち出してすぐに合流を図ろうとしたワトソンに不信感を拭えないオレが歯切れの悪いことを言えば、ハッキリとそう言ってくれたワトソン。

 それでも完全に信じてはいけないんだ。まだワトソンは敵にも味方にもなり得るカード。リバティー・メイソンの仲間が近くにいる以上、懐にしまうには危険だ。

 

「……わかった。ブリュッセルってベルギーの首都だったか。パリからだとえっと……」

 

『パリからなら列車で約2時間。車なら4時間といったところだ。どのみち深夜を回るだろうし、さして問題はないよ』

 

 さすが欧州住まい。移動時間も割と頭に入ってるのな。

 一応は合流することに了承しておき、いざ会うとなる時にいくつかの警戒はすることにして通話を切り、すぐに携帯でブリュッセルまでの道のりを検索。理子に地図の開き方教えてもらってて良かった。じゃなきゃここで足止め食らってた。

 夜も更けてきたこともあり、ストレスもなくスイスイと進む車は速攻でパリを北に抜けてさらに北上しベルギーとの国境を越える。

 その間に昼間にカツェのケッテンクラートに仕掛けておいた発信器の位置を確認したら、進んでる方向のほぼ真横を示しているので、パリからはフランス国内からは出てしまったかもしれない。

 さすがに受信器の具体的な使い方はよくわからないのでながらではどうしようもないため一旦そちらは放置する。

 向こうは向こうでジャンヌ達がしっかりやってれば問題はないはずだし。

 そうして移動すること4時間とちょっと。

 見知らぬ土地の夜道をひた走り続けるという面白味も何もないドライブをしてきたオレは、完全に深夜を回った首都ブリュッセルの適当な場所で車を停めて1度ワトソンに到着した報告をする。

 報告を聞いたワトソンは自分が今いる場所はリバティー・メイソンの息がかかっているからと合流の場所を少し移動してくれるらしい。

 それに一応は従って近くまで車で行って、そこからは徒歩にしつつワトソンだけがそこにいることを黙視で確認。

 さらに周囲の気配をザッと探ってみるが、これも潜むやつはいない、かもしれない。

 本当に上手い場合もあるが、ここまで来てまた別のことをするには時間的な問題もあったので意を決してワトソンの前に姿を現してみるが、そのワトソンは近付いたオレを見ても首をかしげて誰だといった雰囲気。

 おっと、カツラやら何やらつけっぱなしだったな。

 そう思ってカツラを外して改めて声を発してオレであることを知らせると、ちょっとビックリした様子のワトソンは安堵の息を吐いてオレを笑顔で迎える。

 

「この数日、君への疑いは増すばかりで、リバティー・メイソンでは血眼になって君を探していた。あと絶対に余計なことをしているあのバカ。フローレンスもね」

 

「そりゃ怖い。だがその羽鳥もオレと無関係じゃない」

 

「君が来るまでに色々と推察したが、やはりあれが君を連れ回していたんだろうね。かつての彼女なら男性と一緒に行動しようなどと考えもしなかったから、ボクらも盲点だったよ」

 

「どんだけ男嫌いなんだよあいつ……だが察してくれたなら話は早い。まずはこれを聞いてくれ」

 

 本当に他の誰にも言ってくれてないのか、警戒心というものも全く感じないワトソンに、オレも下手に刺激するわけにもいかず疑いの目をしていない。

 だが不審な動きをしたらいつでも逃げられるようにはしておこう。

 そう決めて懐から羽鳥が録音したボイスレコーダーを取り出してワトソンに渡しつつイヤホンを繋いでそれを聞き始めたワトソンの感想を待つと、信じられないといった雰囲気でイヤホンを外してオレを見る。

 

「なるほど。ボクもスパイは個人で動いているものとばかり思っていたが、組織でグルとはね……フローレンスはこのあと?」

 

「ああ。たぶんだが、逃げ切れずに拘束されちまっただろうな。だから元からあいつはこれをオレに託すために一緒に行動させた」

 

「こちらでも手を焼く人員だが、もう少しボク達を頼って動いてもいいだろうに……」

 

 リバティー・メイソンでも厄介者扱いの羽鳥には同情の余地すらないが、ワトソンも優秀であることは認めてる節があって、言葉には寂しさと悔しさが混ざっているようだ。

 

「それよりもスパイがバチカンである事実をどのタイミングで暴くんだい?」

 

「おそらくバチカンはこの証拠があることを知らずに捕まえた羽鳥をスパイに仕立て上げてリバティー・メイソンに、師団に突き出すはずだ」

 

「なるほど。ならその時にフローレンスを師団に差し出すことになるだろうから、それまではフローレンスも生かされるはず」

 

「ああ。羽鳥の身柄をこっちで押さえたら、即座にこっちが攻撃に出る。仲間内で争ってる場合でもないが、バチカンはもう仲間と呼ぶことも難しい。師団にとっても、眷属にとっても、な」

 

 さすがの理解力で話についてくるワトソンもそれが最善であると悟ったのか、オレの意見に反論はしてこない。

 そして少しの沈黙のあとに考えがまとまったのかその顔を上げてオレをまっすぐに見て口を開く。

 

「実は今日の夜。君から連絡をもらう少し前にジャンヌの方からも連絡を受けてね。明日にでもこっちにジャンヌとメーヤが来る手筈になってる」

 

「あの2人はカツェの追跡をしてたはずだが、キンジの名前が出ないってことは別行動で空路を追わされたのか?」

 

「そういう話を聞いてるよ。カツェ達の魔女連隊は飛行船でどこかへと移動中らしい」

 

 何を考えてその話をしたのか少し逸れてしまう気がするが、そっちもそっちで進めないといけない案件なので話に乗りつつ羽鳥から渡された受信器を持ち出してワトソンに渡すと、オレ達が不自由な行動をしていた割にしっかり仕事をしてくることに空笑いしつつも受信器の示す発信器のある場所を特定。

 今はどうやら動いていないようで、そうなるとそこが魔女連隊の武器庫ということになるのかもしれない。

 

「ここはルクセンブルクのエコールの辺りかな。ここに停泊するとなると拠点みたいなものはあるんだろうね」

 

「そっちについていったはずのキンジから連絡がないなら、問題が起きた可能性が高いな。見つかって拘束されたか。或いはもう……」

 

「君はなかなかネガティブな思考を働かせるんだね。大丈夫さ、殺しても死なない男だよ、トオヤマは」

 

「そりゃ言えてる」

 

 ワトソンの物言いには呆れがちょっと含まれていたが、そう簡単に死なないやつなのは同意なのでとりあえず無事だけは信じてやる。

 しかしジャンヌとメーヤさんが来るのか。どうしたものか。

 

「キンジと武器庫の件は一旦置こう。問題はスパイの話をどこまで師団に周知させておくかだ」

 

「難しいところだね。いざその時になってこちら側にも動揺が生まれるのは避けたいし、かといって広げすぎればタイミングを待たずにどこかで漏れる危険性がある」

 

「とりあえずジャンヌには話しておいて良いとは思う。メーヤさんは望んではいないがスパイの片棒を担がされてるから当然なしで」

 

「ジャンヌにはボクの方から隙を見て話しておくよ。リバティー・メイソンにも信用に足る人物の数人に。あとは……」

 

 問題なのはバチカンがスパイだということをどこまで周知させておくかなのだが、ワトソンの言うように情報というのはその管理が非常に難しい。

 こちらが意図としない思わぬところから情報が漏れる可能性だってある。

 それを防ぐにはやはり信用に足る人物にまで留めておくこと。

 今回はスパイ容疑をかけられた羽鳥をこちらが押さえるまでのそこまで長くはない時間だが、羽鳥の命運は今、オレとワトソンが握ってるに等しいのだ。

 それを理解した上でワトソンも自分の目の届く人物までにしてくれたが、オレもオレで状況的にまだ表へは出られない。

 師団的にはオレはまだスパイ容疑のある行方不明者。そしてバチカンもその動向を探ってはいるだろう。

 そして先ほど同じ容疑で消えていた羽鳥が姿を現して、バチカンは残るオレの動きには注意してるはず。

 少なくとも羽鳥が動いたあとにオレがのこのこ表に出れば、羽鳥との協力関係を疑われるかもしれない。

 だからオレは最低でもバチカンが羽鳥をスパイとして師団に差し出すまでは表舞台から姿を消していなければならない。

 だが自慢じゃないが羽鳥のいない今、オレが海外でボロを出す可能性は割と高い。下手に動いて見つかるよりもワトソンを味方につけて匿ってもらっていた方が安全かもしれないのだ。

 

「君はどうする? ここにはあと半日以内にはメーヤが来てしまう。仮にボクが匿っても、彼女の強化幸運が良からぬ方向に君と彼女達を引き合わせる可能性は低くない」

 

「敵にすると厄介すぎるな、強化幸運ってのは……おそらくジャンヌ達はキンジとの合流を図るために動くだろうから、オレは常にメーヤさんをマークしておく。下手に姿が見えない状態よりも自分の目で見て判断した方が良い気がする」

 

「…………それでも近づかない方が安全かもしれないけど、このボイスレコーダーは来たるべき日まで君が持っておいた方が良い。ボクを完全には信じていないだろうし、大事な証拠品だ。紛失の可能性は前線に立つボクより君の方が低いだろ?」

 

 それでもメーヤさんの強化幸運はどうこちらに影響するかわからないので、ここはあえて自分の目を信じることに決めれば、ボイスレコーダーを返してきたワトソンはその判断に半分くらいは賛成しつつ紛失の可能性の低いオレへ希望を託す。

 

「君の居場所をボクに教えなくていいよ。それを知ってうっかり口を滑らせたりもボクはあるかもしれないしね。君とまた会う時は、フローレンスを助けてスパイを暴くその瞬間になることを願うよ」

 

「……ちょっと前まで眷属の側に傾いていたとは思えないな」

 

「それは昔の話さ。ヒルダだって今やボクと同じようなものだろ?」

 

 ふふっ、ふふふっ。

 なかなかに用心深いワトソンの気の利かせ方は正直オレが言うべきことだったが、先に言うことでオレへの信頼を少しでも得ようとしてくれたのだろう。

 本当は顔を合わせた瞬間からワトソンのことを疑ってはいなかったが、やはり人間、1人になると繋がりに飢えるんだよな。

 それでも羽鳥を助け出すまでは明確な協力を得るわけにはいかない。それはワトソンにも迷惑をかけることになるしな。

 そうした感謝を素直に言えなかったオレは冗談でひねくれたことを言うが、笑い話にしてくれたワトソンはこれ以上の外出は差し支えるかもと言って元いたホテルへと戻っていってしまい、それを見送ったオレは取っていたカツラを被り直して、大事なボイスレコーダーを懐へとしまってから再び1人で動き始めたのだった。

 しんどいな……これ。


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