緋弾のアリア~影の武偵~   作:ダブルマジック

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Bullet98

 藍幇との戦いを終えてオレ達の勝利となり、幸姉や劉蘭、白雪、猛妹も加えてゾロゾロと藍幇城の屋上目指して移動を開始。そこにいるキンジ達との合流を図る。

 その移動中。ふざけあって前を進む元イ・ウー組の後ろを歩いていたオレは、その隣を歩く劉蘭に小声で話しかけておく。内容は、オレの苦手な分野だ。

 

「劉蘭、このタイミングでってのもあれだが、今のうちに言っておく」

 

「……告白のお返事でしょうか。構いませんよ」

 

「ん、やっぱり察しがいいな。そのだな……返事としては、劉蘭とは付き合えない」

 

 周りに変に思われないように視線も前に向けながら話していたが、オレの言葉で少し雰囲気が変わった劉蘭に、思わず視線を向けると、劉蘭もオレを見てその口を開く。

 

「理由を、お聞かせ願えますか?」

 

 当然と言えば当然の疑問に、オレも正直に答えようとしたところで3階にいたレキと狙姐が互いに狙撃銃を担いだ状態で合流して、オレを発見した狙姐が近寄ってきたので一旦話を中断せざるを得なくなる。

 

「ココ達、負けてしまたネ。した約束は守るヨ。私はもう、京夜のこと諦めるネ」

 

「狙姐はそれでいいのか?」

 

「自分で決めたこと守らない、カッコ悪いヨ。それにらしくやった結果ネ。こうなったのは縁がなかた。それだけの話アル」

 

 中国人は潔いことでも知られてるが、そういう日本人が納得しがたい思考があるのもお国柄ってやつなのかね。

 それにそうやって話す狙姐はどこかスッキリした笑顔をしていたので、本人も本当にこれでいいと思っているのだろう。

 ならオレがこれ以上とやかく言うのは余計なお世話というもの。これからの狙姐の幸せを願うくらいが精々か。

 そんな狙姐に劉蘭も柔らかい笑顔を向けて「大人になりましたね」なんて言ってるけど、火に油な気がしなくもない。案の定子供扱いするなって怒ってるし。

 すっかり緊張感のなくなった集まりに気を緩めていたら、屋上へと続く階段をいち早く見つけていたレキがするりと上がっていき、白雪がキンジに会いたい一心でそれ続いて行ってしまったので、劉蘭と話をする間もなくオレ達もそれに続いて屋上へと上がる。

 やっぱり大事な話はこういうタイミングでするべきじゃなかったな。

 と、少しだけ自分の軽率な行動に後悔しつつも、全員が屋上へと上がって無事そうなキンジとアリアに、おそらくはもう孫ではないだろう猴、機嬢と諸葛の姿を確認してから、賑やかになりかけた場でパンパン。

 手を叩いた劉蘭は、趙煬の手を借りて瓦屋根の天辺で全員に聞こえる声で話を始めた。

 

「まずは師団の皆様、此度の戦いでの勝利はお見事でした。ここにある辞令の通り藍幇は今後、師団への移動をいたしまして、その一員として尽力いたします」

 

 話しながらに懐から取り出したのは、この戦いの前に猛妹が破り捨てていた巻物。

 それをわざわざ拾ってきたことに意味はあるようで、キョトンとしてるココ達にあの何かある笑顔を向けて話を続けた。

 

「つきましては香港藍幇を主戦力としてお力添えする形になりますが、今回の強引なやり方はココ達も敗北という結果で立場を危うくしました。が、この辞令にはココ達が敗北した場合による処置も書かれています」

 

 と、本当に知らなかったのかそれをついさっきまで持っていたはずのココ達が口を揃えて「えっ?」と疑問を投げかけて、それに答える形で劉蘭も巻物の物凄い端の方を指差してそれが書かれてる部分を示し、ココ達4人が近寄ってそれに目を凝らす中、劉蘭がそこに書かれてる内容をオレ達に説明してくれる。

 

「この戦いでココ達が負けた場合、今後藍幇での働きは全て私、劉蘭の指揮下で尽力すべし。つまりは私の完全なる部下として働きなさいということですが……私もいちいちココ達を動かす暇はありません。よってこの権利を諸葛静幻に委託する形で香港藍幇の安寧とします。この決定について、アリア様、キンジ様はご納得いただけますでしょうか?」

 

 そんな確認を取られたキンジとアリアは、なんとかついてきた思考で互いに顔を見合って頷きで返すと、劉蘭は丁寧なお辞儀をして話はこれで終わりですと示して、巻物を灰となったココ達に渡して天辺から降りてくる。

 諸葛を部下にするとか言ってたココ達が、逆に前より従順になれと言われたに等しいからな。

 その事実を突きつけた劉蘭は平然とオレの近くまでやって来てオレにも屈託のない笑顔を見せるが、ようやくわかったよ。この戦いが始まる前に言っていた劉蘭の言葉の意味が、な。

 

「いつからだ。こうなることを知っててココ達を泳がせてたのは」

 

「静幻からキンジ様達が香港にいらしていると聞いた頃ですから、京夜様が香港に来られた時にはもう、とだけ。さすがに昨日の独断専行は予知できませんでしたが、上海藍幇に辞令を出させるところまでは読めていましたから、そこであらかじめ口を挟ませていただいてました。静幻には事の成り行きを見守る役目を命じましたが、丸く収められたのは京夜様達のおかげです。ありがとうございました」

 

「だから『今夜はお気をつけください』『皆様を信じていますから』か……まったく恐れ入るよ……」

 

「京夜様にもココ達の動向を知らせるべきだったかも知れませんが、ココ達には動いてもらわねばならなかった手前、黙っていたことは謝ります。趙煬も動かずに終わるのが一番だったのですが、幸音様は私でもその思考が読みにくいお方で焦りました」

 

「あの人を理解するにはもう少し時間をかけなきゃ無理だろうよ。オレも今でも考えがわからないことの方が多いくらいだ」

 

 どうやらオレが思ってたより前から劉蘭の思惑は動いていたようで、割と好き勝手やってたココ達をまとめる策略があったみたいだな。

 そういった凄さを見せた劉蘭さえも焦らせた幸姉を2人で見て笑ってやると、灰になっていたココ達にイタズラしていた本人が視線に気付いて呑気に首を傾げてくるので、2人してさらに笑ってやる。

 キンジ達もいつもの調子になって、どうやら今は可愛い妹とテレビ電話の最中らしい。

 まぁ、これで一件落着ってことでいいよな。

 ばっ! ばばっ!

 このあとは劉蘭にさっきの話の続きと、酒を飲みながら理子と話をしなきゃなとかなんとか考えた矢先に、和やかな雰囲気だった中でまず猴と趙煬が。

 続けて幸姉とココ達とバスカービル連中が同じ方向を向いて顔から笑顔を消すので、オレもすっかり抜いていた気を張り直してみんなが向く方角。

 ヴィクトリア湾の西の方を見れば、その方角から部分的に発生したとしか思えない霧が、ゆっくりと東へと、香港の方へ流れてきていた。

 あれには、見覚えがあるな。

 確かイ・ウーでシャーロックが予習とか言って使ってた超能力に似ている。確信的な感じではないが、感覚的にそう思うのだ。

 その霧も1度洋上で止まる様子を見せたのだが、その霧を掻き分けて中から出てきたのは、超巨大な船舶。

 積載量のほどはその船体の沈み具合でわかるが、目測で全長250メートル、全幅50メートルはある石油タンカーはおそらく満タン。

 こんなものがこんなところに入ってくることなんてない。

 それを証明するように藍幇城を囲む小さな船舶に乗る構成員や城内の人達もざわつき始めていた。

 

「あらあら、呼んでもいない客が来たわね」

 

 そのタンカーを見ながら、近くまで寄ってきた幸姉が口を開いたので、そういった口回しをするということは、この来客に心当たりがあるはず。

 それを示すように幸姉がタンカーの船尾楼の上、通常なら国旗を掲げるその場所を指し示したので、オレ達もそこを見れば、そこには第二次世界大戦当時のドイツ国旗。逆卍形を傾けたナチス党の党章旗が掲げられていた。

 よく見ればその旗の下に控えめに掲げられた赤地に白い盾、その中に獅子のような黒い獣の姿が描かれた旗もあり、それを見た理子が遅れて来客に気付いたようでオレ達に知らせるように口を開いた。

 

「カツェ……! あれは魔女連隊(レギメント・ヘクセ)の旗だッ」

 

 その名を聞いた時、オレは覚えのあるその名を掘り返すように宣戦会議の時のことを思い出す。

 確か我先に眷属入りを宣言したいかにも魔女って感じの、片目に鉤十字(ハーケンクロイツ)の眼帯をした少女だったはず。

 メーヤさんと正面からやり合ってて、戦闘狂の気があったな。本名かわからんがカツェ=グラッセと名乗ってたか。

 それを確認するようにアリアが険しい表情でカツェの名を口にして、理子が自分と同じイ・ウー中退者(ドロップアウト)で、退学になったのではなく魔女連隊に帰隊するために自主退学したことや、魔女連隊が元々、大戦後すぐにイ・ウーに逃亡してきたナチスの残党。アーネンエルベの超能力部隊で、カツェがその9代目隊長で『厄水の魔女』の2つ名を持つことを話す。

 

「飛んで火に入る夏の虫だわ。風穴開けて、捕まえてやる! ママの冤罪96年分は、イ・ウー時代のアイツの罪なのよ!」

 

 だがそんなことはお構いなしのアリアは、いつもの調子で両手にガバメントを抜いて息巻くが、それより一瞬早く研ぎ澄ませ始めたオレの感覚が、日本の城の屋根にあるシャチホコの代わりに飾られた黄金の龍の彫像を捉えると、アリアとキンジもほぼ同時にそちらに銃口を向ける。

 するとその彫像の上に、ブヨブヨしたゼリーのような物体が乗っていた。大きさは150センチほど。

 抱き枕を立てたような形状のほぼ透明な物体は、周りから水蒸気を取り込んでいるようで、素体もどうやら水みたいだな。

 

厄水形(やくすいぎょう)よ。大雑把に言えば魔術のプロジェクター。別のところの映像をこっちに見せるだけ。あれ自体に攻撃は無駄だから、あっちからコンタクトしてくれるってことで話させましょう」

 

 皆がそれに警戒する中であまり緊張感のない幸姉が落ち着いた感じでそう説明するので、それを確認するようにアリアと理子が1発ずつ厄水形を撃つが、説明通り銃弾は当たった瞬間に減速して突き抜けていくだけに留まり、大人しく向こうの動きを待つと、厄水形は色の淡い3D映像みたいな女の姿、カツェへと変わった。

 幸姉が言うには別のところにいるカツェを映した厄水形は、嫌な笑みを浮かべて着ていたローブを跳ね上げ、右前腕をビシッと胸の前で横向きに構えてから、

 

「――勝利万歳(ジーク・ハイル)!」

 

 ピンと指先まで伸ばした手をナナメ上に突き上げる、ナチス式の敬礼をしてくれる。

 ヨーロッパ圏のアリアや理子には目に見えてダメージがあるが、大戦中は仲間だったオレ達日本人にも何かクルものがあるな。

 先人がしたこととはいえ、そういった過去は今もオレ達に何かを残すってことか。

 

「――やあやあ諸君……って、クソ幸音までいやがるじゃねーか!」

 

「あらカツェ。私あなたに何かした覚えはないのだけど、クソ呼ばわりされるのはクソ気に食わないわね」

 

「ケッ。なに考えてんのかわかんねーとことか、毎日コロッコロ性格変わるとこが気持ち悪くてクソだってんだよ」

 

「個性を否定されるのは悲しいわね。タバコはもうやめたの? お姉さんカツェちゃんの体が心配で心配で夜も眠れなくて……」

 

「だぁーもう! 調子狂うんだよお前は!」

 

 カッコ良く挨拶するはずだっただろうカツェは、オレ達を見回してその中に幸姉を発見するや否やそうした会話を始めてしまい、緊張感が一気になくなる。

 どうやら幸姉はイ・ウー主戦派とは本当に仲が良くなかったみたいだな。ヒルダにも嫌な顔されてたし。

 カツェにとって予想外だった幸姉との会話はそこから漫才のように少し続いたが、話の脱線具合とみんなの冷たい視線を受けて冷静になったのか顔を少し赤くして拳銃を抜き現れたタンカーを指し示した。

 

「もう喋んなよクソ幸音。あー、出鼻挫かれたけどよ、鬼払結界の中で震えてた臆病者共――バスカービル! あれは、お前らへの宣戦布告(ごあいさつ)さ。ついでに裏切り者のヒルダもぶっ殺す。香港は対魔性が強くて魔術のノリが悪いからよォ、あのタンカーでこけら落としといこうや!」

 

 冷たい空気を無視して多少無理矢理に話を本筋に戻したカツェの心の強さにちょっと感心しつつ、やはりというか何らかの攻撃に使うつもりらしいタンカーを指すカツェは楽しそうだ。

 

「規模の大小に拘わらず、戦争は多様な力のバランスの取り合いだ。極東戦役でいえば、西に師団のリバティー・メイソン、東に眷属の藍幇。組織力のあるこの2つのバランスは崩したくないところだぜ。というわけで、敗北した藍幇ッ! 裏切り者には制裁を――だ。殲滅してやる! ただまぁ、人数も多いんで町ごと殲滅する事にした」

 

 なんだか完全にはわからないが、あのタンカーで香港ごとオレ達を始末するらしいカツェの物言いにちょっと無理があるような気がするが、それが可能でありそうなことを理子の険しい表情がわからせる。できる、っぽいなこれ……

 

「あたしは爆泡入りのツェッペリン号を造りたかったんだぜ? でも上に怒られてよォ。『優秀なテロリストは、手間も金もかけず敵に一大打撃を与えるものですわ!』とかって。まぁつまり工期も予算もなかったんで、ジャックしたタンカーで安上がりにお前ら皆殺し、ってこった。あーあ(ブウー)

 

 過去に爆泡は理子が使ったのを見たことがあるから、それの船舶規模という方が威力の想像がつくが、安上がりにしてそれに匹敵する威力を出せるとなるとやはり恐ろしいものだとわかる。

 皆がカツェの言葉に険しい表情を見せる中、話は終わりとばかりに厄水形がその形を崩し始めたところで、急にその手に言霊符で作った弓矢を持った幸姉は、自分で無駄と言ってたのにカツェを狙ってその弓を引く。

 

「嫌よね……高みの見物ってされる側は気分が良くないもの」

 

「はっ! クソ幸音、そんなことしても無駄だってーの」

 

「ふふっ、なに言ってるのカツェちゃん?」

 

 弓を引ききったところでそんなことを言った幸姉に対して、カツェも笑いながらに返したのだが、それを笑い返した幸姉は笑顔を消して「なに言ってんだ」みたいな顔をしたカツェに向けて矢を放つ。

 が、その矢は屋上のやや下方向から放たれて厄水形のカツェの横スレスレを素通りしてそのままやや上方向へと抜けると、少し進んだ先で『何か』に当たり発火。

 それは燃えながら落下していき、自分が狙われたと思っていたカツェも後ろを向いてその光景に目を奪われていた。

 

「私はあなたに言ったのよ、土御門陽陰。そうやって世界中で覗き見する趣味、今でも理解できないわ」

 

 燃え落ちる何かを見ながらに口を開いた幸姉に、この場にいるほぼ全員が唖然とする。

 中にはその名に覚えがあるのかアリアや理子辺りが一層の驚きを見せるが、その驚きを上書きするように次の変化が起こり、崩れ始めていた厄水形が突然その形をカツェから超大型――体長で150センチはある――の真っ黒な烏へと変わる。

 よく見ればその足は3本あり、神の使いとか言われてる八咫烏の特徴に類似している。

 

乗っ取り(ジャッカー)戦術は厄水の十八番だが、超能力ジャックは受けたことがなかったようだな。対策がまるでなってない」

 

 その烏はさっきまでのカツェとは違って明らかに声帯を弄った人工音声のような低い男の声で話し始める。

 あれが土御門陽陰、の分身みたいなものか。

 

「他人の操作系超能力に干渉してジャックするなんて普通できないわよ」

 

「俺が普通という枠に収まると思ってるわけではないだろ、魔眼の魔女。だが、今ここで俺に干渉した意味がわからんな。俺は貴様らの下らん争いを傍観しているに過ぎなかったのに」

 

「あ、あんたが土御門陽陰なのね! あんたの実質的な罪状はないけど、存在するってわかったなら逮捕よ!」

 

「緋弾の娘か。まだ緋緋の色が薄いようだが、お前の行き着く先には興味がある。そこの斉天大聖と同じ末路となるか。はたまた……」

 

 どうやら非常に高度な超能力を使ってるらしい陽陰は今まで単なる傍観者を決め込んでいたようだが、幸姉に邪魔されて仕方なく干渉してきたっぽいことがうかがえた。

 そこに割って入ったアリアに対して何やら意味深なことを言う陽陰にキンジ達も顔をしかめるが、その言葉を遮るように厄水形からこぼれ落ちた水が集まって、そこからカツェの怒鳴り声だけが聞こえてきて遮られる。

 

「テメェ、土御門ォ! イ・ウーでお前のことも探ってたが影も形もねーから存在自体デマだと思ってたが、まさかこんなところで見つかるとはな!」

 

「見つかる? 貴様は俺の超能力の一端に触れているに過ぎん。見つけたと言うならば俺をここに引っ張り出してみろ。男も知らん青臭いガキが鼻を高くするな」

 

「んだとォ! テメェその面見せて殴らせ……」

 

 どうやら陽陰の存在はイ・ウー内でも幻であったのか、カツェすら面識がなかったことがわかるが、カツェの声を発していた厄水形は謎の攻撃を受けて四散し言葉も途切れてしまう。

 あのジャックされた厄水形にはそういった攻撃性はなかったので、別のところからの攻撃か。

 

「話を戻すけど陽陰、あなた本当にそのまま傍観する気だったかしら? 私、ちょっとあなたに『イタズラした』んだけど、まさか気付いてないわけじゃないでしょ?」

 

「……貴様に俺の魔力の一端を触れさせたのは早計だったようだな。イイ女だ魔眼の魔女。男の味さえ知っていれば抱いてやったものを。生憎と俺に処女をあやす趣味はないのでな」

 

「優しく抱くこともできない男なんてこっちから願い下げよ。第一、あなた別に女に困ってないでしょ?」

 

「イイ男に女は寄ってくるものだからな。そこの遠山侍のように、女を侍らせるなど日常だ。その中で女を褒めるのは珍しいことなのだが、イタズラしてくれた生意気な女に礼はしてやる」

 

「私も可愛い可愛い京夜が狙われた腹いせしたかったし、返り討ちにしてあげるわ」

 

 カツェの退場で話が本題へと戻ると、そうした不穏な会話をした幸姉と陽陰に誰も割り込めず2人の声だけが屋上に響くが、幸姉が返り討ち宣言したところで小さく嘲笑した陽陰は何も言わずに厄水形を崩して消えてしまった。

 だが、口ぶりからしてこれから戦闘だよなこれ。

 

「さて、金一の弟君。藍幇と協力してあのタンカーとカツェ、とパトラもかな。そっちをお願いね。元々そっちの案件だし。あ、京夜は借りちゃうけど許してね」

 

 そう確信を持ってからどの程度動けるかを調べていたら、幸姉はキンジにそんな指示と了承を取ってからオレの手を握ってどこかへと移動しようとしたが、逆の手を理子と劉蘭に取られて1度立ち止まる。

 2人はオレと幸姉とは対処に当たる案件を分けられたからか、割と明るい顔つきでそれぞれに口を開く。

 

「日付は変わっちゃうけど、お酒の準備はしといてね?」

 

「まだお話が途中ですから、ちゃんと戻ってきてお聞かせください」

 

「……了解。2人も頑張れよ」

 

 交わした言葉はそれだけだったが、不思議とこの先への不安はなくなったオレ達は揃って同じ笑顔で分かれて、時間が惜しいのか、はたまた周りへの配慮があるのか屋上から階段も使わずに器用に降りていき、そのフォローをオレがしつつ藍幇城の正面玄関まで到達すると、そこに停めてあったクルーザーに乗り込んで藍幇城から離れていく。

 その間に「モテる男はツラいねぇ」とかなんとか茶化してきた幸姉にデコピンのツッコミを入れつつ、これから接敵する相手についてを話し始めた。

 やれやれ、もう散々なクリスマスだよホント……


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