緋弾のアリア~影の武偵~   作:ダブルマジック

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Bullet89

 

「マジですんません」

 

 12月22日。火曜日。

 成田空港に来ていたオレは、そこでもうすぐ修学旅行Ⅱの行き先としてシンガポールへと旅立つジャンヌに頭を下げていた。

 事前に話はしていたとはいえ、幸姉からのあのふざけてるのか真面目なのかテヘペロッ、な招集を受けたために急遽オレの行き先はシンガポールではなく現在進行形で幸姉がいるらしい香港となっていた。

 

「……正直に言ってやろうか。私は京夜、お前に対しては何も怒っていない。むしろこんなタイミングでお前を借り出してきた真田幸音に腹を立てている。せっかく向こうでお前をこき使……付き人にして優雅な旅行にしようと思っていたのに、あの変人め……」

 

 なんともお優しいジャンヌ様はオレに頭を上げさせてから、やっぱりそんなに優しくはなかった心中を吐露して拳を握るものの、怒りの矛先をどこへ向ければいいやらでわなわなしていたが、スッと切り替えるように冷静になるといつも通りの様子でオレに話をする。

 

「まぁ人生にトラブルは付き物だ。幸い行き先は香港。まだ理子と話せていないお前にとっては直接会えるチャンスかもしれないのだから、隙あらば真田幸音のところから抜け出してそちらを優先しろ。こちらはお前の分まで楽しんでくる」

 

 別にトラブルではないのだが、そこはまぁ放置でいいとしても確かにジャンヌの言うようにチャンスではあるんだ。

 広い香港で1人の人間を見つけるなんて芸当はほぼ不可能ではあるが、可能性があるだけマシだ。

 オレが香港に行くことはバスカービル連中にはまだ伝えてないし、朝早くに乗り込んでいったあいつらに知らせるかは幸姉のところに着いてから考える。

 もしかしたらすぐに終わってシンガポールへ飛ばされるかもしれないしな。

 などなど考えていたオレの肩をポンと叩いたジャンヌは最後にお土産は何がいいかとかこっちの事情を知ってるはずなのに呑気なことを抜かしたので『マーライオンでも持ってきてみろ』と暗に土産なんていらんと言ってやると、真面目な天然さんはゲートに向けて歩いていく時にどうやって持ってくるかとか本気で思考していたので冷や汗が出る。

 まさか本当に持ってこないよな……

 そんないつも通りのジャンヌを見送ってから、オレもフライトの時間が迫っていたので急ぎ足で飛行機へと乗り込むと、実は2度目となる香港へ向けて出発。

 最初の時は京都武偵高の修学旅行Ⅱで愛菜さんと千雨さんと雅さんがフードファイトして大食漢2人ほど食い倒してたっけな。

 腹パンパンになって動けなくなってホテルまで幸姉と早紀さんとでおぶる羽目になったのは懐かしいな。

 香港には片道4時間半ほどで到着し、道中は面倒なことが起きる前に寝ておこうと着陸の直前まで寝ていたから気がついたら着いてたという体感だが、香港国際空港に降り立ってから時間を見れば昼前に出発してもう15時を回っているのでそうなんだなくらいの実感を沸かせてから迎えに来るとか言っていた幸姉を探してみると、おい。

 なんか『向香港觀迎、猴子飛京夜晚(香港へようこそ、猿飛京夜)』といったプラカードを持つ誠夜と誰か知らんが民族衣装風の3つ編みの男が隣にいるんだが。

 日本人のオレに対して中国語のプラカードは意味わからん。嫌がらせか。幸姉に半ば強引に教わった知識だけで読めるが、試されてるのか? そうなのか?

 全く意図の読めないプラカードはとりあえず無視して誠夜に近付いて軽く挨拶したのだが、それが終わるなりいきなり跪いて頭を下げてきた誠夜は、こっちが何でここに呼ばれたのかもまだ知らないのに謝罪を始めてしまう。

 

「申し訳ない、兄者。自分の至らぬばかりに、お忙しい中お呼びすることになったこと、ここに謝罪します」

 

「……いいから行くぞ。お前のせいかどうかもオレは知らんし、そうさせたのは幸姉だろ。謝罪よりもこれからのことを考えろ。幸姉の従者が簡単に頭を下げるな。主の格も下がる」

 

「さ、さすがは兄者……やはり兄者は幸音様の一番の信頼を得られるだけのものを持っておられる」

 

 こいつは本当に絡みづらいな。

 古風なノリが苦手なオレはあまり会話にならないように誠夜を立たせてさっさと移動しようとしたが、何に感動したのか目を輝かせる誠夜はオレを尊敬するようなことを言いつつ言うことを聞いて移動を始めるが、我が弟ながら非常に面倒な育ち方をした。どこで接し方を間違えたのか。

 そうして誠夜と漫才みたいなことをしていたら、一緒についてきた3つ編みの男がズカズカと前を歩いて空港を出ると、停めてあった車の運転席へと乗り込み、誠夜が後部座席のドアを開けてオレに乗るように誘導。

 あー、運転手だったのね。それにしたって何か言ってほしかったが。日本語話せないのか? 外見年齢なら二十歳は越えてそうだが。

 そんな疑問がありつつも車へと乗ったオレと誠夜は、男の運転する車で出発してヴィクトリア湾を挟んで浮かぶ香港島を横目に半島状の九龍(ガウロン)へと入り、東京以上に密集したビル群を縫うように進んでとある中華料理店の前で停まると、誠夜が先に降りてドアを開けてオレを降ろし、車は駐車場にでも停めに行くのかゆっくりと角を曲がって消えていってしまう。

 着いた中華料理店は見た感じでもう本格中華を扱う高級店っぽい雰囲気を周囲に放っていて、歩を進めつつ誠夜に聞けば予約を取るだけでもだいぶあれな感じになるとか。

 幸姉はここにいるのかよ。別の意味で緊張してきたぞ。

 

「やっほー! 遠路はるばるご苦労っ」

 

 緊張してきたが、店の案内でこの店の一番高価な個室を貸し切ってる人物が待ってる部屋の前まで行ったら、オープンスペースに備えられたソファーでビシッとした黒スーツを着て髪もジャンヌのように後ろで結わえ優雅に足を組んでる幸姉が呑気に挨拶してきたから緊張がどっかに吹き飛んだ。

 これが修学旅行Ⅱを放棄して来たオレに対する態度なのだろうか。

 

「今からシンガポールに行きたいんだけど、チケットの手配はしてくれるんだよな」

 

「いま来たばっかりでなに言っちゃってるのよ。京夜は冗談も上手くなっちゃったのね」

 

「国際便を確認しておいて良かった。確か2時間後くらいにちょうど良いフライトがあったはず……」

 

「ちょ、ちょっと待って京夜さん! 余裕かましたけど冗談だからね! もう本当に余裕なくて泣く寸前だったんだから!」

 

 そのふてぶてしい態度には幸姉とはいえイラッとしたので本気でUターンしたら、慌ててソファーから立ち上がって本音をポロリ。

 頼むから最初からそういう態度でいてくれ。ここだけ見たら残念美人だぞホント……

 ただの見栄っ張りを披露していた幸姉が素直になったところで改めて今回オレが呼び出された経緯について説明を求めると、幸姉はなんとも微妙な表情をしながらにどう切り出したものかと迷っていたが、とりあえずの出だしとして質問から飛び出す。それはおかしい。

 

「あのさ、京夜。京夜は自分に許嫁がいるって言われたことある?」

 

「あるわけないだろ。そんなことあったら幸姉に告白とかしてないし、今だって悩んでない」

 

「ん? なんか女性関係で問題でも?」

 

「……それはいいから話を進めてくれ」

 

「んーと、だからその許嫁があの部屋の中にいます」

 

 ………………はぁ?

 いきなり意味わからない質問から思わずポロッと現状が漏れるも適当に流して話を進めれば、やっぱり意味わからないことを個室を指しながら言うのでもう本気の本気でそんな顔をしただろうオレに対して、やっぱりそんな反応になるよねとかなんとか言って笑う幸姉。

 何かのドッキリか。ドッキリ成功の看板は誰が持ってる?

 

「実はお父様達に確認したんだけどね。15年くらい前にあの部屋の子の親と仕事で意気投合して、それで同い年の息子と娘がいるって話題になって、その場の口約束で将来その子達を結婚させてみようかなんて話があったんだって。まぁ当時は酒も入っていたから話半分の冗談で後日、正式に何かあれば進めるみたいなことだったんだけど、結局それもなかったからお流れになったって言ってはいたんだけど。そりゃ京夜もまだ2歳だし、お父様だって本気とは思わないだろうけど、その辺はきっちりしてほしかったわ」

 

「……許嫁の件はつまり、向こうさんはずっとオレとその子の結婚は約束されたものとしていたけど、こっちはそうではなかった。だからオレも知らなかった。そういう話か」

 

「そういうこと。それで今回、仕事の話でこうして会う機会ができて、実際に話もしたんだけど、向こうが許嫁の話を引っ張り出してきてどうしたものかと悩んで、仕方ないから誠夜を影武者に会わせてみたら顔を合わせた瞬間に見破られて、私がバッシングを受けて仕事どころじゃなくなりましたとさ」

 

 ずいぶん軽い感じで今に至る経緯を話した幸姉は、どうやら自分の首を絞めることをしたようで、誠夜も改めてオレに頭を下げるがそういうことか。

 だがそれは単に仕事の会合が修学旅行Ⅱと被っていたから気を利かせてオレを使わずに事なきを得ようとした結果。

 おそらく修学旅行Ⅱさえなければ容赦なく呼び出されていただろうが、その辺で変な気遣いをする幸姉を素直に怒れないオレもオレだな。

 

「それでオレにその向こうさんのご機嫌取りをしてほしいわけだ。こっちに許嫁の話がされてないことは?」

 

「それは一応説明したんだけど、ほら、向こうの子はその約束を純粋に信じてきたわけだし、そこに『この話はなかったことに』とか可哀想とか以前に無責任でしょ」

 

 要するにオレはその子のご機嫌取りをする役目なのだと流れでわかるが、そこから先でオレはその子をどうすればいいのか悩む。

 突然聞かされたことだからと断るのでは幸姉の言うように無責任になるし、その気もないのにのらりくらりとやり過ごせる問題でもない。

 

「……とにかく会って話をする。解決の方法はそれから練ろう」

 

「オッケー。あとその前にこれから会う人は『そっちの案件』に関わってるけど、この席ではその話は基本なしね」

 

 とはいえここでああだこうだ話していても埒が明かないので、待ってるというその子に会おうと言うと、何やら不穏な前置きをしてから部屋の扉に手をかけた幸姉。

 こっちの案件……あれしかないんだが……

 直前になってそんなことを告げてきた幸姉に無理矢理心の準備を強いられたオレは、開けられた扉の先に円卓があるのを確認し、その奥に2人の人物が腰を下ろしているのが見え、その内の1人がもうあれだ。

 キンジ達より先に接触してしまったが、先日も会った諸葛静幻。香港藍幇のおそらくは上役だ。

 オレを見るなりニコニコ笑顔を向けてくるが、何がそんなに面白いんだか。

 しかしそんな諸葛は今回はおまけ。本命はその隣でオレをガッツリ見てくる煌びやかなチャイナ服を着たオレと同い年だというセミロングの茶髪の女。

 柔らかい物腰の諸葛とは違ってどこかビシッとした部分のありそうな美人の部類に入るその女は、見るからにデキる女のイメージがついてくる。

 が、オレに会えたからか感極まって立ち上がりパタパタという足音が似合いそうな女の子走りで近寄ってこようとしたその子は途中でコケッ。

 何もないところでつまずいて転び、受け身も取らずに顔から床に倒れてしまう。

 ど、どんくさいぞこの子……今のだけで中空知級の運動音痴なのがわかった。

 

「お、おい。大丈夫か?」

 

 そういった見てて危なっかしい子は放っておけないのでオレから近寄って目の前でしゃがんで起こそうとすると、鼻を押さえながらに顔を上げたその子は、オレの顔が近かったからか一気にその顔を真っ赤に染め上げてボンッ!

 どこから出たのかそんな音を出して固まってしまい、それには幸姉も諸葛も結構マジな笑いをしていた。これどうすんだよ……

 

打算到什麼時候那樣在(いつまでそうしてるつもりだ)?」

 

 そこに、中国語でこの子に話しかけてきた男がいて、そいつは先ほどオレ達をここまで運んできた男で、オレ達が入ってきた扉とは別のところから現れてスタスタとこの子が座っていた位置の奥に移動して直立不動の構え。

 ボディーガードみたいなやつっぽいが、口ぶりからして敬意みたいなものはあんまり感じない。むしろ無用な気遣いをしていない友人関係に近いものを感じる。

 ともあれ、その男の掛け声で我に返ったこの子は1度目をつむって深呼吸をしてから落ち着いた表情になるが、まだ顔は赤い。

 それでも自分で立ち上がってから日本人っぽいお辞儀から自己紹介をしてくれる。

 

「はじめまして、猿飛京夜様。私は劉蘭(りゅうらん)。上海藍幇で中将の位をいただいております。つたない日本語ですが、ご容赦ください」

 

「上海? それに中将って……どのくらいの位置なんだ?」

 

「はい、私のホームでは幸音様にいらぬプレッシャーを与えるかと思いましたし、丁度あそこにいる静幻にも所用がありましたから、香港での会合とさせていただきました。上海藍幇の人間は私とあの付き人、趙煬(ちょうよう)のみになります。序列では一応、藍幇全体で10本の指に入るくらいでしょうか」

 

 意外なほどに流暢な日本語を話す劉蘭は、どうやら藍幇でも最上位に近い地位にいる人物のようで、この歳ではおそらく異例中の異例だろうことは直感的に悟りつつ、立ち話もなんだからと円卓に着かされるが、その位置関係は正面に劉蘭と趙煬。左に幸姉と後ろに誠夜が控え、右に諸葛と壮観。オレだけ場違いじゃなかろうか。

 

「先日はどうも失礼をしました、猿飛さん」

 

「今日は孫悟空はいないのか? あれだけの抑止力はないだろうに」

 

 席に着いて早々、ようやく話ができるといった感じで口を開いた諸葛に、他に姿の見えない香港藍幇のメンバーを探るものの、こいつの表情はなかなか読めないので薄い笑顔のまま会話に応じられる。

 

「いえいえ、孫を私などが自由に扱うなど。今はココ達に一任しています」

 

「達ってことは、もう釈放されてこっちに戻ってるのか」

 

「はい。狙姐もあなたに会いたがっていましたよ。『キョーヤ、今度こそ婿にするネ』とね」

 

 そんな会話でもわかることはあるが、あえて教えてくれてる感があって面白くない。

 それに狙姐も一途な方なのか、拘置所にぶち込んだオレをまだ狙ってるらしい。

 

閒聊即使到那裡(世間話はそこまでにしろ)

 

 諸葛の狙姐の声真似に苦笑していたら、劉蘭の後ろに控えていた趙煬が威圧するような口調でそう言うと、諸葛もおやおやみたいな感じで口を閉じてしまい、オレもとりあえずは口を閉じるが、お前が何を言ってるかは理解してるからな。

 そんな視線を向けてやってから正面の劉蘭が改めて口を開く。

 

「趙煬がすみません。何を言ったかはわからないでしょうが、悪気があったわけではないことをご理解ください」

 

「劉蘭、京夜なら私が中国語をある程度教えたから、今のも理解してるわよ」

 

「おや、猿飛さんは意外と勉学に勤しむタイプなのですね」

 

「まぁ! まぁまぁ! それは嬉しいです! 私も将来、京夜様がお困りにならないように日本語を覚えましたから、その京夜様が私の国の言葉を学んでいたことはとても感動です!」

 

 文脈の微妙な感じはあるがオレが中国語を理解していることが相当嬉しかったのか花が咲いたような笑顔で喜ぶ劉蘭はパチパチとオレに拍手を送ってから1度落ち着き、ちょうど入れる予定だったのか料理を招いて円卓にずらっと豪勢な料理が並び、中国特有の回転式のテーブルが一気に映える。映画にもよく見る光景になったな。

 

「ここは香港ですが、私の故郷である上海の味付けをメインにした料理を揃えましたので、お口に合えば良いのですが」

 

 こういう席では誰が先に口をつけるべきかはよくわからないが、そうして説明を加えた劉蘭も幸姉も諸葛すらオレを見るので、仕方なくオレが最初に料理に手をつけ口に運び吟味。感想までがセットっぽいので一応空気は読んでおく。

 

「美味しいよ。中華の良さがよくわかる」

 

 当たり障りない感想になったが、実際そんなもんしか出てこないから仕方ない。それでもオレが喜んだからか劉蘭も嬉しそうにしてから幸姉と諸葛にも食べるように勧めると、2人も少しだけ料理に口をつけて場も整ったところで、ようやく話が本題に入る。

 

「さてと、劉蘭。これであなたの願いは叶えたわ。誠夜の件はこれで無しにしてもらえる?」

 

「元々私は怒ってなどいなかったのですが、趙煬や物騒な人達がそれでは藍幇がナメられると。京夜様もすみませんでした。聞けば学業の方で修学旅行があったのに、わざわざこちらまで来てくださって」

 

「いや、それはいいんだが、オレと劉蘭が許嫁って話は……」

 

「そちらも申し訳ありませんでした。親が勝手に取り決めた約束とはいえ、双方に入れ違いがあったようで。ですが身勝手な話ではありますが、私はその約束をずっと信じて今日まで生きてきました故、ただの1度もお会いできぬままこの気持ちを終わらせることができませんでした。京夜様にとっては見ず知らずの女ではありますが、もしもお会いすることで京夜様のお気に召すようなことがあればと、そんな気持ちもありまして、その……」

 

「……そもそも幸姉とはどんな案件で会合を?」

 

「それはあれよ。先日の件も含めてのこれからの外交について。藍幇は中国でも最大規模の組織よ。そこと平和的に外交できれば日本にヤバイもの持ち込もうって組織の抑止にもなるし、全うに稼げればそれで本来は問題ないわけだし」

 

「先日の一件は上海藍幇の意向をココが独断で進めた結果でして、もう引っ込みがつかなくなったので仕方ないからそちらを利用して侵攻してみましたが、痛み分けのような結果になりましたね」

 

 もう色んな話が一気に情報として入ってくるが、順に片付けようか。

 まず諸葛達香港藍幇が鏡高組と繋がったのは第4のココの独断で引っ込みがつかなくなって、ついでに極東戦役で攻め込んですぐに戻ったと。

 それから幸姉と劉蘭の外交関係の会合が組まれてて、そこにオレが来ると期待してた劉蘭と修学旅行Ⅱのあるオレに気を遣った幸姉が余計なことして話がこじれた。

 それで劉蘭の意思は関係なくオレが来なきゃ会合の話し合いも進めないみたいな話になって今に至ると。

 …………面倒臭いなおい。

 しかしだ。上海藍幇の意向でココが動いたなら、先の件は劉蘭側が命じたことになるよな。

 なのに何で平和的な外交とかの話になってる? その辺がなんかしっくり来ない。

 

「とりあえず幸姉が悪いってことはわかった」

 

「うわっ、私が全部悪いみたいな言い方に納得いかないんだけど」

 

「ふふっ、真田の姫君は愛されてますね」

 

「愛されてるのは否定しないけど、こういう愛の形は素直に喜べないのよ」

 

「仲がよろしいのですね。羨ましいですわ」

 

「昔はもっと素直で良い子だったのに、私の元を離れたばっかりに生意気になっちゃって……」

 

「そのおかげで今のオレがあるわけだけどな」

 

 なんか全員ノリが良い。

 こういうノリが最近理子となかったせいか少なからず楽しいとか思ってしまったが、オレがこの場に来て劉蘭と話をした時点でお役御免っぽいのは察しない方がいいのか。

 そうして勢いに任せてオレの昔話でもしそうな幸姉に、興味津々の劉蘭と諸葛という図を見ながら、オレは早くもこの場から消えたい気分になりかけていた。

 もうシンガポール行くか……


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