唐突に決まったジャンヌとのデート。
目的は理子との仲を修復することだったはずだが、そんなことを忘れるようなことをしてくるジャンヌに冷静な思考が働きづらくなっていた。
そんなところに巨大ラーメンを完食し少しの間横になって意識を手放していたら、目覚めた時にはジャンヌの膝枕。
あまりに予想外すぎて飛び起き、顔を覗いていたジャンヌのおでことゴッツンしてしまった。
「いった……何してんだよお前……」
「っ……まずは謝罪からではないのか」
「お前がビックリすることしてるからだろ」
「いや……実はその、こういうことに少しだけ憧れがだな。わ、私が女の子らしいことをしてはいけないか?」
ジャンヌの膝の上に戻されてそんな言い合いをしてしまったものの、なんか顔を少し赤くしながらにそう言われてしまうと、夢を叶えた女の子そのものなので怒る気も萎えてしまい、全身の力が抜けてジャンヌに完全に体を預ける。膝枕とか幸姉以来だぞ……
「んで、これも計画の内なわけか」
「憧れてたのは本当だ。だがまぁ、意図があってあえてやってみたという部分はある。さて、動けるなら起きろ。支払いも済ませていないし客足も増え始めている」
今日のジャンヌはちょっとオレの想定を越えた行動をしてくるのだが、ジャンヌ本人も本来の目的は忘れてない上でやりたいことをしているとわかり、この後まだ何か仕掛けてきそうなことにちょっとドキドキしつつも、こんな光景を武偵高の生徒にでも見られたら明日にでも掲示板にデカデカ写真付きで記事にされる。
それは遠慮したいのでちょっとだけ惜しみながら膝枕から起きて、何も知らぬ存ぜぬを脅迫に近い感じで会計に出てきた風魔に釘を刺して店を出ると、そのままアクアシティお台場を出て電車に乗り浅草へ。
外も完全に陽が沈んで夜となっていたが、今の有り金でやれることなどたかが知れてるのでもう移動は帰るだけに留める。
それでやってきたのはバッティングセンター。おそらく食後は軽く死ぬだろうと予測して腹ごなしも兼ねてで来たが、初めて来た場所に興味津々らしいジャンヌはキョロキョロと周りを見ながらオレの袖を引っ張って説明を求めてくる。
「ヨーロッパには野球文化が根付いてないからな。やったことないかなと思ったが、当たりか」
「存在くらいは知っているぞ。ああやってボールを打って場外に飛ばせば勝ちなのだろう?」
なんか間違ってるような間違ってないような知識を身に付けてるジャンヌは、現在進行形でバッティングをしている客を指差しながら自慢気にバカにするなと胸を張るが、そういえばこいつ、前にサッカーやった時も知らないから調べたって言ってたか。
文化とか以前にスポーツというものに対して疎いのかもしれん。フランスはサッカー大国でもあるし。ジダンが泣くぞ。
知識が若干おかしなジャンヌを少しだけ笑いつつも、それを悟られないようにして腕を引きボックスの前に移動。
お手本としてまずオレが実際にやってみせると、ほうほう言いながら後ろで観察していたジャンヌは、一旦打ち終わってから交代。
意気揚々とバットを持ってボックスに立ってそれらしい構えはするが、右打席に立ってるのに左手が上に来る持ち方してて思わず笑ってしまう。
初めてだから違和感ってのもないんだな。
とりあえずまずはお手並み拝見ということで口を挟まずにいると、なんか……上手い。
当たりこそライナー性のものだが、空振りがないぞこいつ。やっぱり剣を振ってるやつは同じように振るものは得意ってことか。逆手なのにこれは凄い。
とかなんとか感心してたら終わったようで、球が出てこなくなってからボックスから出ずにオレを招き寄せたジャンヌは、何やら納得のいってない険しい表情でバットを前で突く。
「飛ばないのだが」
「飛んでたろ。前に」
「ノン。前に飛ばすなど簡単だった。だが球が上に飛ばない。バッティングというのはあそこに飛ばさないとダメなのだろう?」
どうやらジャンヌはまだ間違った知識でホームランゾーンに打球を飛ばさないと満足いかないらしく、すんごい真面目な表情でオレにアドバイスを貰おうとしていた。
そりゃ逆手じゃスイングが上に向きにくいし、ミートポイントも結構前の方だし、力が球にうまく伝わってないからな。
と、捲し立てるように言ってやると何を言ってるんだお前はみたいな顔をされてしまって、そうなるかと思いつつバットを借りて実際にやって教えると、やればできる子ジャンヌさんは今度は順手でバットを持って、誰に教わったわけでもないのに踏み込む左足を振り子のように使ってバットを振る振り子打法で球を捉える。
やべぇ、全国の振り子打法を使う野球人よ。女子が物凄いスイングを習得なされました。
しかし打球は思ったように飛ばずに弾丸ライナーで正面のネットにぶち当たるが、何か掴んだのか機嫌の良さそうなジャンヌはウキウキしながら次の球が来るのを待ち、今度は見事に上方向へと飛んでホームランゾーンの少し下まで飛距離を伸ばした。もう少し試行錯誤してほしかったんだがな……
と思いながら打球からジャンヌに視線を戻せば、オレを見てビックリするくらい可愛い笑顔で喜ぶジャンヌにかなりドキッとしてしまう。
卑怯だ。あの笑顔は卑怯すぎる。
そのジャンヌは今ので完全にコツを掴んだようで、次から次にホームラン性の打球を飛ばしまくり、それには他の客が唖然としてしまう。
だがまぁ、その代償としてスイングする毎にオレのところからだと良い具合にスカートが舞い上がってこんにちはしてくるものがあるが、退くと他の誰かに見えてしまうのでそのままでいた。
こうやってジャンヌを守っているんだ。そう言い聞かせつつも見えるものはしっかり見てたら、最後の1球をホームランゾーンに叩き込んだジャンヌは、満足顔でボックスから出てきて意気揚々と話をしてくる。
「このボックスはクリアだ。次はあそこの豪速球とかいうところで打つぞ。この際だから全部のボックスを制覇する。
「それはいいが、ボックスの後ろはオレにガードさせとけよ」
「ん? どういう意味だそれは?」
「お前、その格好であんなスイングしてたらどうなるか考えてみたか?」
テンションが高いジャンヌは、何か色々と忘れてそうな頭でオレの言葉を吟味し少し黙ると、気付いたのか顔を赤らめてオレを見て意味もなくスカートを押さえる。いま押さえても見えないっての。
「お、お前だけだな。見えていたのは」
「たぶんな」
「…………ならいい」
いや、良くはないだろ。
てっきり殴られるかと思ったが、自分の不注意で起こった事だからなのかあっさりその話を終えたジャンヌは、その後の打席は振り子打法を封印してスイングも豪快さをなくしていたが、しっかり飛ばしてる辺りはやっぱり凄いやつだった。
バッティングセンターでとにかく打ちまくったジャンヌは、最後の砦の3種類の変化球が混ざったボックスでだけホームランが打てずに残念がっていたが、そこが打てたら恐ろしいですから。
バッティングマシーンだけに30打席は使ってくれたジャンヌ。
超壺麺を完食できてなきゃマジで無理な回数だったが、あれのおかげで今日のズルいくらい可愛いジャンヌを見れたと思えば儲け物だろう。頑張って良かった。
その後はジャンヌも汗を少しかいたからか別のところに行きたいといった要求もなく、まっすぐに学園島へと戻ってきたが、新鮮なジャンヌのおかげでだいぶ調子が狂わされた。
そんなことを今更ながらに思い返して本来の目的を冷静に考えられなかったのは、全てジャンヌの思惑だったのだろう。
それを女子寮までの道のりを歩いてる最中に考え至って、周りに誰もいないことを確認してから1度立ち止まって、振り返ったジャンヌに話をする。
「今日のデートはお気に召しましたか?」
「60点だな。デートの最中に金銭面で余裕がないことを悟られては減点だろう。男はもっと余裕を持って女性をエスコートするようにな。ただまぁ、未体験のことを楽しませてくれたことは評価しよう。私が勝手にやったこと含めて、な」
交際経験があるわけでもなさそうなジャンヌにデートの評価をされることに微妙な違和感はあるものの、楽しんでくれてはいたようなので指摘は真摯に受け止めておきつつ、表情に真剣さを含めて切り替えると、ジャンヌも察してオレに発言権を渡してくる。
「今日のデート。オレに冷静な思考を持たせないようにしていたみたいだが、オレが周りに気を張ったらいけない理由でもあったか?」
「ふむ、そこまで気がついたか。さすがと言うべきではあるが、事はもう済んでしまっているし、目的も果たした。結果は私の予想通りになったが、やはり解決すべきはお前自身の手でだ。私はそのためのアドバイスに留めよう」
「……理子が尾行してたのか」
「その通りだ。私は昨日、わざわざ理子のいる前でお前とのデートの約束を取り付けた。それは理子を誘き出す餌。まんまと誘い出された理子は、今日の私達のデートを終始監視していた。ちょっと途中から気配が漏れすぎていて焦ったが、私の機転でお前に最後まで気付かれることはなかった。この結果だけで勘が良ければわかるものだが、さて、お前はどうかな猿飛」
終始オレがジャンヌを見ていた今日のデートは、冷静になって考えれば明らかにオレの周囲への警戒心を奪うための策略であると気付くが、それに気付かせなかった今日のジャンヌは破壊力がありすぎた。
そこから何故そうする必要があったのかと、デートの必要性を考えた結果、誰かに見せるための行動であったことに気付けば、すぐに理子に辿り着く。
たとえ尾行してこなくても、学園島から腕を組んでいた関係上、噂としてジャンヌとオレの関係が一時的にではあってもスクープされるのは武偵高ではあり得るし、それを理子が耳にすればそれはそれで良かったのだろう。
ではどうしてそんなことをしたかだが、それは理子の反応を見るため。
ジャンヌがどんな反応を見ていたかはわからないが、結果が語っていると話すジャンヌに従うならばオレにもわかるのだ。
「…………そもそも何で理子は尾行したんだ? オレなんてどうでもいいって言ってたんだぞ」
「なるほど。これは想像以上のバカだったか。1度女心というものを学ぶためにCVRにでも監禁してやろうか」
「やめろ。また京奈になるのはごめんだ」
「私はお人好しではないが、今日のデートの報酬として教えてやる。どうでもいいと思ってる人間が、尾行などするわけがないだろう。つまり理子は猿飛、お前のことを嫌ってるわけではない。むしろまだ全然好きなのだ。私がお前にあれこれしてた時に殺気すら感じてヒヤリとしたほどにな」
と、察しが悪いオレに対して怒り半分、呆れ半分といった声色で事実を伝えたジャンヌの言葉にちょっとビックリするが、同時に納得もしてしまう。
確かにどうでもいいなら尾行などという神経を使うことをわざわざしてまでオレとジャンヌのデートの様子を覗き見たりしない。
つまりオレはまだ理子に好かれているという証明がされたことになる。
「だったら何でオレは理子に素っ気なくされてる?」
「では逆に聞くが、何故お前は『理子に好かれていることを普通みたいに思っている』?」
「それは理子が好きだっていつも大っぴらに言ってるからで……」
「その気持ちをお前は『当たり前だ』と言うつもりか?」
だったらどうして、なんて根本的なところに戻ってしまったオレだが、ジャンヌがオレの考え方について問うようなことを言ってきて、ハッとする。
いつもいつも隙あらば何かしてこようとする理子に、好きだと日常的に言ってくる理子に、オレは慣れてしまっていたのだ。
あいつの好きはいつも本気の好きだったのに、オレはその気持ちをいつものらりくらりと無意識レベルで躱してしまっていた。
だから幸帆の件で幸帆と真剣に向き合うと言ったオレに対して、自分に向けられない真剣な気持ちに怒ったのだ。
それがわかった途端、オレはその場で膝を折ってしゃがみこみ唸りながら頭を抱えてしまうが、近くに寄って同じようにしゃがんできたジャンヌは、俯くオレに対して口を開く。
「どうやら気付けたようだな。私は理子との付き合いはお前よりも長いが、お前といる時の理子はとても幸せそうな顔をしていた。イ・ウーにいた頃にそんな顔など見たことなかった私にとって、自分のことのように嬉しかったよ。ブラドとヒルダに支配されていた時には、そんな顔は絶対にできないだろうと思っていたしな」
「……ちゃんと話さないとな。理子と真っ正面から、本気で」
「良い顔だ。私はそういう顔をする男の方が好みだぞ。仮にも私のチームの懐刀なのだから、しっかりしてもらわねば私も中空知も、島も京極も困ってしまうからな」
自分の愚かさに頭を抱えていたオレに、ジャンヌは優しい口調でそんな理子の話をし、反省を終えたオレが顔を上げれば口調から予想した通り優しい笑顔をしていたジャンヌは恥ずかしいことも言いつつシャキッとしろと励ましてくれた。
良いチームリーダーだよホント。天然なところもあるが、それも個性。愛嬌のうちってことで納得してやるよ。
やるべきことはわかった。気持ちも前を向いた。
そんな意味も込めて立ち上がったオレに合わせてジャンヌも立ち上がるが、話すこと自体はもう終わったはずなのに尚もオレと向き合う体勢で何か言いたげにするため、今日あんなに恥ずかしいことしておいて今さら何を言いあぐねてるんだこいつは。
「今、言うまいと迷ってることは今日のデート以上に恥ずかしいことなのか?」
「くっ……そうくるか。迷った時点で失敗だった。ここはサラッとさりげなく言って終わる場面なのに……」
「反省会はいいから話せよ。お願いなら今日の件もあるし出来る限りは聞いてやるから」
「いや、何かを要求したいわけではない。ただ、今日のデートは目的があったとはいえ、私とお前の間でその……信頼関係というか友好関係というか……チームワーク的なものを育んだことにはなるだろう?」
「まぁそれは一理あるが、それが何だ?」
「だから、これからはお前のことを名前で呼んでもいいか? 深い意味はないぞ? チームとして特別な男だからという意味で、理子のようなあれではない!」
何を言うかと思えば、オレのことを名前で呼ぶ許可をもらいたかっただけみたいで、そこに大した意味はないとあれこれ言うジャンヌの必死さにちょっと笑いつつ、そういうことを言ってくれるまでに信頼されたんだなと感慨に浸る。
始めは鼻で笑って利用してやるみたいなこと言われたしな。
「そんな色々言わなくてもわかったから。名前で呼ぶのは好きにしろ。オレは蔑称とかじゃなきゃ基本的に呼び方に拘りはない」
「ん、そうか。ならば名前で呼ばせてもらう。あと、今日のデートの件はお前から理子に話す時に説明してくれ。私からではおそらく信じてはもらえないし、話のきっかけにもなるはずだしな。拡散してしまってる情報に関しては私の方で処理しておく」
若干テンパり気味だったジャンヌも、オレからの許可をもらってからは努めて冷静になり、どうやら見送りもここまででいいような流れから誤解を解くのをオレに一任してくる。
確かにデートをしていた本人から説明されても信用はないだろうが、ヤバい案件を預けられた。
下手するとジャンヌと理子の仲を引き裂きかねないから、ちゃんと説明しよう。
「それから最後に、今後またデートする機会があったなら、今度は100点を取ってくれ。少しくらいは期待している。それではまた明日な、京夜」
「お、おう……」
重大案件を任されて微妙な表情になっていたオレに、その気があるのかないのかよくわからない言葉で締めたジャンヌは、今日一番の期待の笑みを浮かべて後ろに向き直って、女子寮の方向へと歩き始めるが、その足取りはちょっとだけ上機嫌の乗ったリズムを刻んでいた。
こ、今度は資金面で余裕を持たないとな。
それからジャンヌに名前で呼ばれるのはなんか、恥ずかしかった。何れは慣れるだろうが、しばらくは痒くなりそうだ。
そんな最後まで調子を狂わせてきたジャンヌの背中を見送ってから、オレもそのあと身を翻して男子寮へと戻ってその日は床に就いたのだった。
翌日。
とにかく話をする。強引にでも直接面と向かって話すと、そう決めて登校していって教室に入るが、いつも誰かしらとバカみたいにベラベラ話してる理子の姿がなく、珍しいこともあるもんだと思って席に座って待っていたら、別に頼んでもいないのにニコニコ笑顔で近寄ってきた不知火と武藤に嫌な印象を受け帰りたくなる。
こいつらが2人で近付いてくると大抵変な話題が来るからな。
「よう猿飛。昨日お前、ジャンヌとラブラブデートしてたって?」
「猿飛君もなんだかんだですることはしてるってことだよね。同じチームだし仲が良いのはいいけど、他の男子も女子も頭を悩ませるカップリングだから闇討ちには気を付けなよ」
……火消しできてねーじゃねーかジャンヌのバカ野郎が!
オレの前と隣の席を陣取ってニコニコしてる2人が真偽のほどを尋ねる待ちの表情なのを察しつつも、下手に話すと面倒臭いことになると思ったので適当に合わせてあしらうことにした。
「オレが誰と何しようが文句言う権利は誰にもないだろ。それに闇討ちとかされるようならオレは今ここにいない」
「ちげーねー。でもよ、理子のやつはいいのか?」
「だね。僕から見てもだいぶ猿飛君に入れ込んでたみたいだし、先週末くらいからほとんど絡んでないよね。喧嘩でもしたのかなと思ったけど、ジャンヌさんとそういうことになってたなら納得かも」
「お前らは人の事情に首を突っ込みすぎだ。こっちもこっちで考えてんだから横から口を挟むな。はい、この話終わり。散れ」
まぁ話に乗ればなんとなく理子のことに触れてくる気がしてたので、そう来たら終わりにすると決めて付き合ったら速攻で終わったな。
オレが少し黒いものを出してることを敏感に察した2人もそれなりの付き合いから退散が早く、それぞれ違うやつと絡んでいってしまった。
そうして耳が早い2人をあしらったのとほぼ入れ替わりで今度は教室に入ってきたアリアが挨拶も適当に絡んできて、こっちは不知火と武藤よりも興味なさげな感じで同じ話題を振ってくる。
他人事だからアリアも平静だな。キンジが絡むと途端に慌てるけど。
「ジャンヌとどこに行こうとアリアには関係ないだろ」
「そうね。でも理子が面倒臭いのよね。先週からあんたの話をすると急にテンション下がったり怒り出したり。昨日だって夜中に急に『
「あいつ、学校に来ないのかよ……」
「たぶん修学旅行Ⅱまでには戻ってくるだろうけど、メールでも電話でも手段はあるんだから頼むわよ」
それだけ言って用事があったのか教室を出ていったアリア。
だがその言葉によれば理子はいつ帰ってくるかわからない。
特秘任務なんてのも本当かどうか怪しいが、ジャンヌさんや。これは話をするどころじゃなくなってませんかね。
どうやらジャンヌとのデートは理子にとって破壊力がありすぎたようで、それから全く姿を見せなかった理子に一応メールで話がしたいと送り、電話もコールはしてみたが全然反応なしのままその週が終わってしまう。
その間にジャンヌとの関係は情報操作によってなんとかなったが、いよいよ修学旅行Ⅱの期間が明日に迫って、理子のことは本当にどうしようかと頭を悩ませていたら、急に幸姉から連絡が入ってそれに応じると、開口一番にテヘペロッとか声に出してきた幸姉にアホ臭さと同時に嫌な予感がしてしまう。
『ごめーん。ダメだったから招集させてください』
「…………どこに行くことになるんだよ」
『そりゃもう、すぐにでも飛んで来れるところよ。そこは……』
案の定、ちょっと忘れかけてたが事前に言われてた案件がうまくいかなかったらしく、オレが駆り出されることになったのだが、行き先を尋ねればこれがまた何の因果かオレがいま
一番行きたかったかもしれない場所だった。
『香港でーっす!』