緋弾のアリア~影の武偵~   作:ダブルマジック

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Bullet85.5

 

 今年もあと1ヶ月を切った12月。

 先月の末から京夜先輩が依頼を受けて部屋を空けていて、1週間経った今日、7日の月曜日に事件は起こりました。

 いつものように登校を済ませて教室で陽菜ちゃんと他愛ない話をしていたら、朝のホームルームを前にいきなり教務科からの呼び出しを食らって、全速力で向かって辿り着いてみれば、そこには何故か呑気に手を振る私のお母さんと会えたことで感涙するお父さんが。

 いきなりの両親の登場にもう何がなんだかわからないまま、担任と挨拶を済ませたお母さんとお父さんは私の腕をそれぞれガッシリ組んで引きずるようにして乗ってきた車に連行。

 そこで話を聞けば「年末年始に帰れなくなったから今年最後の家族団らんをしに帰ってきた」と言われてしまい、その後1度京夜先輩の部屋に戻って置き手紙をしてから再出発。

 行き先はお父さんの実家。10月に帰ったばっかりなんだけど、美麗と煌牙は元気にしてるかな。

 いきなり過ぎる両親の帰国に戸惑いつつも、サプライズ好きなお母さんのやることにもだいぶ耐性が付いてきたので落ち着いていたら、1件のメールが届いてそれを読めば、相手は意外なことに有澤燐歌さん。

 あの依頼以降、個人的に連絡先は交換してはいたけど、実際にメールが来たのは初めてで、そのメールの内容は本社の方に顔出ししてくれみたいなもの。

ちょうど台場を出たところだったので、実家に帰るついでとお父さんに寄り道をお願いして新宿にある有澤グループの本社の方へと行ってみると、現在は復帰したお母さんの下で次期社長になるための勉強中だという燐歌さんが、1階のフロアを売り場にする作業の中心であれこれやっているのが見えて、私と興味本意でついてきたお母さんを見つけるや走り寄ってきて以前はあまり見せなかった笑顔で応対してきた。

 

「本当にすぐ来たわね。何か別件で動いてたみたいだけど……そちらの方は、小鳥のお姉さん?」

 

「まぁまぁ、お世辞の上手い子ね。私もまだまだ女として輝けるってことかしら」

 

「……私のお母さんです……」

 

「…………ええっ!? 嘘よ!? だってまだこんなにお若くて……ちなみにおいくつですか?」

 

「今年で35になっちゃった。でも女性に歳は聞いちゃダメよ?」

 

 連絡からすぐに駆けつけた私に対して嬉しそうに話す燐歌さんでしたが、やっぱりお母さんが気になったのかそんな質問をしてきたので、なんか若く見られてキャッキャとはしゃぐお母さんを恥ずかしく思いながらも紹介すれば、本当に信じられないといった感じで開いた口が塞がってません。

 まぁ、世の私の歳の子持ちではダントツで若いでしょうし、驚くのは無理ないかな。私を産んだのも19歳だし。

 そうして驚く燐歌さんには悪いけど、こっちも寄り道して来てるので早速用件の方を尋ねてみると、お母さんショックの現実から戻ってきた燐歌さんは、思い出したように社員の1人を呼び寄せると、持ってこさせたアタッシュケースを私へと渡してきてその中身と用件を伝えてくる。

 

「来週からここの売り場が一般開放されるんだけど、広告ってのも色々面倒でね。うちの商品を扱ってくれてる雑誌にも一応掲載はされるけど、そんな大っぴらにやりたいわけでもないから、経費削減とか諸々で武偵高の方に商品の売り込みしてほしいの。サンプルだけどひと通りその中に入ってるから好きにしてくれていいし、ここに来ればニーズに応えるブースもあるからってのを一緒に伝えてくれるとありがたいわ。ほら、武偵高の生徒って色仕掛けとかもお仕事であるでしょ? そういう人とか単純にオシャレな子とかにお得意様ができるとこっちも割と良いでしょ?」

 

 とかなんとか言いながら手でお金の形を作って儲けに繋げようとしてる魂胆が丸見えで苦笑いしてしまうけど、これが燐歌さんのお仕事。

 それにこっちにとっても悪い話じゃないのは確かだし、武偵はタダで貰えるものに弱い生き物。

 サンプルと言えど渡されてしまえば何故かお得に思えてしまって、もう断るに断れない。

 まぁ、お友達のお願いを聞く形でならいいかなとは思う。

 

「それから小鳥のお母様には、お近づきの印としてここの商品を1つプレゼントさせてください。うちの商品でお母様の美貌がより引き立てば幸いですわ」

 

 それで引き受けることにはしたけど、抜け目のない燐歌さんは私の返事も聞かずにルンルン気分でお母さんと一緒にプレゼントの香水選びに行ってしまい、蚊帳の外になった私はそれを呆然と見るしかなかったのでした。

 あんまり強い香水はハヤテもうちの子達も嫌がるから選ばないとは思うけど、お母さんの完全プライベートでのオシャレ度ハンパないからなぁ。

 普段は抑えてる分の反動なのかキラッキラ過ぎてお父さんもおじいちゃんも崇めたことあったし。

 

「じゃあ宣伝の方よろしくね。貴希と幸帆と桜にも元気だって伝えてくれると嬉しいわ。それからついででいいけどあの男にも。ついでのついででいいけど!」

 

「そんな強調しなくても……みんなには燐歌さんがいつも通りだったって伝えておくから。あんまり社員の皆さんを顎で使わないようにね」

 

「心配しなくても信頼関係はちゃんと作ってるわよ。最近は私に使われることを結構喜んでる人もいるし。私に認められた、ってね」

 

 香水選びも終えて帰省を前にテンションが上がったお母さんを先に車に戻してから、燐歌さんとそんな別れの挨拶をして笑い合うと、色々あったあの件から明るくなった燐歌さんを素直に凄いと思いながら車へと乗り込んで、見送られながら改めて諏訪市を目指して出発していき、何故か後部座席のハヤテと助手席とで入れ替わったお母さんと隣り合っての家族会話がスタート。

 ちなみにお父さんの相棒の小町は空から車を追ってきてくれてます。寒空の中を飛んで大変でしょうけど。

 

「小鳥の友達は良い子よねぇ。こんな香水、普段なら買おうとも思わないくらい高価なのに、プレゼントしてくれたりして」

 

「燐歌さん、あの会社の社長令嬢だから、調子に乗って変な要求しないか心配したんだよ?」

 

「あら、知ってるわよそのくらい。有澤グループの燐歌ちゃんって言ったらカリスマ中学生ってことで外国からも取材受けたりして、海外暮らしでも噂は耳にしてたもの。でも小鳥とお友達だったとは思わなかったけど。あれかしらね、少し前にご家族が亡くなった事件で知り合ったとかそんな感じ?」

 

 ふふふっ。

 そんな感じで私と話すお母さんは全部知った上で燐歌さんと接していたようで、私との関わりも鋭い推理で勘繰ってくるけど、なんか隠し事できない親ってやりにくいな……

 お母さんは何でこんなに推理力が高いんだろう……思えばその辺聞いたことなかったなぁ……

 

「それにしても残念ねぇ。京夜さんもいたらお誘いして、一緒に帰ろうかと思ってたのに」

 

 燐歌さんからプレゼントされた香水をしまいながらに話題をコロッと変えてきたお母さんは、本当に残念そうにため息なんかを吐いて落胆の色を浮かべるけど、

 

「京夜先輩ならきっといたとしても来なかった気がするけどね……」

 

「あら、京夜さん優しいから、きっとお母さんが泣いて頼めば来てくれたと思うわよ?」

 

 家族団らんと聞けば京夜先輩ならたぶんついては来ないと予想して口にするものの、そんな返しが来るとなんかそんな気がしないでもないので苦笑い。

 

「けっ。あんな野郎のどこがいいんだか。親父も気に入ったみたいだが、親父も人を見る目が曇ったな」

 

「あらあら吉鷹さんったら、まだ冤罪を着せられたことを根に持ってるのですね。それに本当はお気づきでしょうに。京夜さんが本気になったら戦うのが専門じゃない吉鷹さんなんて片手でぽーいだってこと。先週にはお会いした方に『私の半径5メートル以内に入らないでください』ってバッチリ空気銃を当てられて倒れられたばっかりで、しかもその相手がまだ小鳥よりも幼い少女なんですから、もう笑えませんよね?」

 

「え、英理……小鳥の前でそれを言うな……それにあれは部屋に入った時点で範囲内でどうしようもなかったわけで……」

 

「京夜さんなら絶対に避けられましたよ。それが吉鷹さんと京夜さんの実力の差ですね」

 

「…………」

 

 どうやら京夜先輩の話がお母さんからされるのが気に食わなかったお父さんが、やきもちを妬いて割り込んできましたが、京夜先輩のことを悪く言われたのが気に障ったのか言葉での攻撃を仕掛けたお母さんにより撃沈。

 ちょっと目に涙をにじませながら黙々と運転し始めてしまう。

 こういうお父さんも可愛いんだけど、お母さんもいじけるお父さんがちょっと好きみたいだから、やっぱり親子ですかね。

 それにしてもいきなり空気銃で撃たれるって、どんな仕事してたんだろう……

 何気に両親の仕事について詳しくは聞けてない私では想像もつかないな……

 そんないつまでも仲良しな両親を嬉しく思いながら、車は東京を離れてどんどん長野県諏訪市へと近付いていき、その間はお母さんが若さ溢れるトークで私と変わらない年代の話題を次々に放り込んでは少しだけ返しの時間をくれて、止まることなく話し続けてきて、この辺でもお母さんがまだ全然若いことを再確認させられていた。

 それでも若さだけではどうにもならない移動時間の長さ故に諏訪市に着く少し前に話し疲れて、以降は外の景色をぼんやりと見ながら昴を膝の上に置いて優しく撫でたりしていたけど、私は聞き疲れて座席にだらしなく座って休憩。

 そんな私達を乗せた車も昼頃にいよいよ諏訪市へと突入し、街の中心から離れたところにある実家に向けてまっすぐ移動をしていたわけですが、その途中の赤信号の時に外を見ていたお母さんが急に目の色を変えてお父さんに何やら耳打ち。

 それを聞いた後はお父さんが実家方向の進路から逸れて諏訪湖に沿うような移動を開始。

 何だろうと気になりつつ向かった先へと辿り着いてみて、どうしてここなんだと思わずにはいられなかった。

 警察署です。何事でしょうかお母さん……

 その疑問は当然ながらも直接口にすることはなく、そそくさと車を降りた両親について出入り口の前まで行くと、そこには刑事さんの他におじいちゃんの姿があって、何やら捜査の真っ最中といった感じが見てとれる。

 それで疑問も解けた私はこっちに気付いたおじいちゃんに近付くと、少し前に会ったばかりなのにやたら嬉しそうにするおじいちゃんに抱き付かれて頬擦りまでされる。

 その次には私から離れてお母さんに軽くハグして挨拶し、お父さんには素っ気なく一言だけ。この対応の差は酷い。

 

「お義父さん、何かの捜索のようですが、お手伝いしましょうか?」

 

「せっかく帰ってきて仕事などさせんよ。取るに足らん仕事だから、先に戻ってて構わん。帰ったら英理さんの手料理で酒でも飲みたいの」

 

「ふふっ。昼からお酒は早いですよ。飲むなら晩酌させてもらいますから、その時に」

 

 挨拶を済ませてから早速お母さんがここに寄った理由について触れる。

 実はおじいちゃんは時々、警察の方にその能力を買われて捜索系の捜査に協力を頼まれることがあって、おそらくお母さんは赤信号の時に遣わされたうちの子でも発見したんでしょうね。

 うちの子が散歩以外で外に、ましてや街の方に出ることは珍しいですし。

 おじいちゃんが駆り出される場合は、逃走犯の追跡とか犬や鷹、鷲を動員して解決できることに限りますが、諏訪市ではこれで犯人を逃がさないから『諏訪の鬼』とかで割と恐れられていたりするとかしないとか。

 そんなおじいちゃんの仕事は手助け不要とわかったので、お母さんも杞憂だったかとあっさり引き下がって、晩酌の確約をもらって見るからにデレッとしたおじいちゃんを置いてまた車へと乗り込んで出発。

 おじいちゃんもお母さんには弱いんだよね。うちの家族はお母さん中心なのかもしれない……

 私もなんだかんだで相談とかは自然とお母さんになっちゃうし、お母さんがいなくなった家がちょっと想像できないな。

 まぁ、お父さんとおじいちゃんは冗談抜きで脱け殻になりそうだけど……

 その一家の中心であるお母さんを乗せた車は滞りなく街外れの実家へと到着。

 拉致られた私とは違って事前に連絡はしてあった実家はおばあちゃんが出迎えてくれて、次いで鋭い子達が家の奥からワラワラと出てきて「エリだ!」「お帰りー!」「撫でて撫でてー!」「腹撫でてくれ腹!」「好き好き大好きー!」と言いたいこと言いながら一斉にお母さんに群がって我先にと頭や腹を差し出して、制止するお父さんの声には「あー、ヨシタカだ」「暑苦しいぞヨシタカ」「マッチョ」「うるさいぞヨシタカ」と待遇の差が恐ろしい。

 でもこれでいざって時は言うこと聞くんだから不思議な関係ですね。お父さん泣いてますけど。

 

「はいはい、みんなの言いたいことはわかったから、とりあえずお家に入れてね。言うこと聞いた良い子はたくさんなでなでしちゃうかも」

 

 それで玄関前がごちゃごちゃしてきたところでお母さんの必殺、ご褒美作戦が決行されて、とにかく撫でられたい子達はしゅばっと家の中へと戻っていき、スッキリした玄関前でおばあちゃんとちゃんと挨拶してからみんなで中へと入っていったけど、おじいちゃんとは違った影響力であの子達をコントロールするお母さんは普通に凄い。

 私はなんだかんだで遊ばれちゃうからなぁ……

 

「美麗、煌牙、元気だった?」

 

 家の中はこの前と代わり映えも特にない感じで、もうすっかり家に馴染んでめちゃくちゃくつろいで重なって寝ていた美麗と煌牙が私達の出現によって起きて元気に挨拶。

 目の見えない美麗も耳が聞こえない煌牙もそれぞれ挨拶は伝わったみたいで近寄った私に対して歓迎の頬擦りをしてくる。

 こう家に馴染んでるの見るともう普通のワンちゃんみたいだね。口にしたら怒られそうだけど。

 

「あらあら、本当に家に来たのね。ちょっとおデブちゃんになってる気もするけど、狼と一緒なんて素敵よねぇ」

 

 ちょっとぶりの2匹に挨拶していたら、お茶を淹れてきたお母さんがこたつに入りながらに2匹を見て和んでいたけど、庭ではすでにお利口にお母さんを待つ子達がズラッと並んで待ってて早くしろと目で訴えていて、それをわかっていながらのほほんと寄ってきた猫達を可愛がり始めたお母さんはマイペース。

 しかしここで無駄に吠えれば撫でてもらえないとわかってる子達は黙ってそれを見るしかなく、若干諦めた子達が私に甘えてきたりとあって、30分くらいゆったりしてからようやく縁側に移動したお母さんによって撫でられた子達は一瞬で骨抜きに。

 その光景には長時間飛んできた小町を労ったり在住の子達の様子を見てから来たお父さんも呆れてものも言えなくなっていた。

 それからさらに1時間くらいのんびりしていたら、仕事を終えたおじいちゃんが連れ出していた子達と一緒に帰ってきて、無事に終わったことを知らせてからは全員揃っての家族団らんが少しありつつも、すぐに夕食の支度やらが始まって、女衆は料理。男衆はみんなで大名行列みたいな散歩に出掛けていってしまい、橘家では料理は女がやる決まりみたいなものに従って、おばあちゃん先導で手際よく喧嘩しない立ち回りで適度な会話をしながらパパッと作っていく。

 食べるのは人だけじゃないから、途中からおばあちゃんは他の子達の食事の準備に移って、お父さん達が戻ってきた頃にちょうど完成。

 久々に賑やかな家族での食事にみんな嬉しそうで、自然と笑顔になっていた私はこんな日も今年はもうこの数日しかないんだなと同時に考えて、少しだけ寂しい気持ちも込み上げてしまったけど、悟られないように表情には出さないように努めたのだった。

 この辺でも京夜先輩の指導が活きてる、のかな。

 夕食後は大人達にお酒が入り始めたので、絡まれるとちょっと面倒なお父さんとおじいちゃんから避難するように美麗と煌牙を連れてお風呂やら何やらを済ませてしまって、盛り上がる居間の方はスルーしてこのまま寝ちゃおうかなと寝室に移動し美麗と煌牙も久々に私と一緒とあって嬉しそうに近くに寝てくれる。

 昴も以前の特等席である煌牙の頭の上でご就寝。煌牙も器用に頭を動かさないで寝てくれていて微笑ましいし、あの頃を思い出しちゃう光景についつい笑顔になってしまう。

 そんな昴達の姿を見てたら私もあくびが出てきて、これならすぐに寝られるかなと目を閉じて意識を手放そうとしたら、急に布団に侵入してくる誰かがいて、背中から抱きつくようにしてしてきた誰かは、感触とかもろもろでお母さんだと1発でわかってため息が漏れてしまう。

 これ、修学旅行的なノリだよお母さん……

 酔ってるのかと思えばそんなこともなく、おじいちゃんの晩酌を終えて一緒に寝たかったから侵入してきたと言うお母さんは、改めて隣で大人しく寝ると、まだ寝たくないのか私に話しかけてくる。のだけど、

 

「それで、京夜さんとは何か進展あったの? 吉鷹さんの前だと色々うるさいから聞かなかったけど、お母さん結構気になってたんだけどなぁ」

 

「べ、別に何もないよぉ。京夜先輩とは変わらず先輩後輩だし、そういうのじゃないっていつも言ってるでしょ」

 

 いきなりよくわからない色恋沙汰の話が飛び出してきてちょっと眠気が飛んでしまって、メールとかでもいつも言ってることを反射的に言ってしまう。

 そんな私にお母さん顔になったお母さん――よくわかんないけど、お母さんっぽい雰囲気を纏う――は可愛い笑顔で話を繋げてきた。

 

「それはそうだけどぉ、やっぱり可愛い娘の将来の旦那はお母さんも好きになれる人がいいから、その点で京夜さんは合格点っていうか、むしろ嫁いでほしいっていうか、お母さんが嫁ぎたいっていうか……」

 

「お父さんが聞いたら泣いちゃうよ?」

 

「だってぇ、吉鷹さんより先に出会ってたらお母さん、京夜さんと結婚してたかもしれないわよ? そのくらい素敵な人だから、小鳥はその事にいい加減気付くべきだと思うのよね。小鳥から恋の悩みを聞いたことがないから、その辺で正直かなり心配してるんだから」

 

 どうやらお母さんは京夜先輩との関係が気になってたのではなく、私がこれまで男性との恋愛関係で相談を受けなかったことが心配だったみたいで、そういった経験のなさを憂いているみたいだった。

 確かに初恋って呼べる経験すらまだない気もするけど、それは私が昔から電波扱いを受けたことも関係してて、そういうことに積極的になれなかったというのがある。

 

「……確かに橘の家の能力は世間から敬遠されがちなのは理解してるわ。でもね小鳥。それでも歩み寄ろうとしないとどうにもならないのが恋愛なのよ。吉鷹さんも慣れないことしてお母さんに物凄いアプローチしてくれてね。それがなきゃ吉鷹さんとは結婚してなかったはずだし、小鳥も自分の気持ちに素直になってほしいと思ってる」

 

「私は……本当にそういうのよくわからなくて……友達の恋話を聞いても共感できることもなくて……」

 

 そんな私の気持ちをちゃんと理解してるお母さんは、困ってしまった私をそっと抱き寄せて頭を撫でると、手間のかかる子だと小声で言ってから、ちょっとしたアドバイスを送ってくれる。

 

「自分の気持ちに素直になりなさい。小鳥がその人とずっと一緒にいたいって思える人。そんな人がいるなら、きっとその人が今、小鳥にとっての特別な人だと思うから」

 

「ずっと一緒にいたいと思える人……」

 

 恋愛の好きがわからないなら、そういう人がそうかもしれないと言ってくれたお母さんに、そうなのかなと思いつつも、そういう人がお母さんにとってのお父さんだったんだろうなと考えたら、なんだか嬉しい気持ちが込み上げてきた。

 そんな人が、いつか私にもできるのか。もしかしたらもういるのかもしれないけど、まだピンと来ないや。

 

「というか、お母さんの推理によると、小鳥にはもうそういう人がいるはずなんだよねぇ。すっごい近くに当たり前のようにいて、気付けてないのかもしれないけど。ふふっ」

 

 とかなんとか思ってたら、そんな意味深なことを言ってからお休みと言って背中を向けちゃったお母さんは、それ以降口を開くことなく寝てしまって、なんだかモヤモヤしたものを抱えたまま私はその夜を明かしたのだった。

 自分の気持ちに素直に、かぁ……


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