緋弾のアリア~影の武偵~   作:ダブルマジック

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Bullet83

 

 幸姉からの依頼をこなし始めて約1週間。

 手詰まりになりかけたところに舞い込んだ有力情報で進展した状況になったのはいいが、注意不足が原因でマークするはずの鏡高組からマークされてしまい、なんとか難を逃れたものの、菜々美さんのところに戻るのがすっかり遅くなってしまったので1度連絡を入れてみたら、いきなり怒られてしまってたじたじ。

 よほど心配させてしまったのか、怒る中でもオレが連絡してきたことに安堵しているのもわかって悪いことをしたと思う。

 

『とにかく1度帰ってきなさい。話はまたそれからです』

 

 完全にお姉さんみたいな感じになっていた菜々美さんは、通話では長くなるからと一旦説教を終わらせて通話を切っていき、なんだか年上に怒られるってのが久しぶりだったオレは、悪いとは思いつつもちょっとした心地良さみたいなものを感じていた。

 オレを怒ってくれる人が、近くにいなくなっちゃったからな……

 そんな若干不謹慎な思いもある中で急いで菜々美さんのところに戻っていったオレは、もう日付が変わる頃だというのに玄関で仁王立ちして待っていてくれた菜々美さんにまずは全力で頭を下げる。

 夜は必ず帰るとは言ったが、さすがに菜々美さんが寝るまでには戻らないと遅い。

 よく見ればコーヒーで眠気を飛ばしていたようで、台所にインスタントコーヒーの袋が置かれていた。

 それからまずはリビングに入れられて対面で座らされると、どうして遅くなったかを問われるものの、それは答えられないので沈黙。

 それで菜々美さんの頬がちょっと膨らみ、さらに何をしているのかを問われるがそれも沈黙。

 またぷくぅと頬が1段階膨らみ、オレが誰なのかという問いにも沈黙を通すと、最高レベルに頬を膨らませたまま、べちんっ!

 両頬を手で挟み込まれてムニョムニョ引っ張られてしまう。可愛い攻撃だなぁ。

 

「キョウ君は秘密が多すぎるよ。なに聞いても教えられませんじゃこっちもどうしていいかわかんないし、理由がわかんないとちゃんと怒れないよぉ」

 

「すみません」

 

「そうやって謝られても困っちゃうんだよもう……」

 

 説教再開となったはずだったが、肝心なところが謎なので菜々美さんもどう怒ればいいか困っていて、そこへ謝るオレにさらに困り顔をしてしまう。

 

「…………やっぱり私にはお姉さんみたいなことはできないのかな……こういう時にどう怒っていいのかわかんなくなっちゃって、どうでもよくなってきちゃったよ」

 

 困り顔のままうんうん唸っていた菜々美さんは、それでもうお手上げみたいな感じで両手を前について俯いてしまって落ち込んでしまう。

 こういう時、幸姉や眞弓さんなら、オレをどう怒るかな。

 

「……言葉だけがお叱りになるわけではないと思います。オレの知ってる人なら『今後私の言うことを3つ聞くこと』とか勝手なこと言って怒りを楽しみに変えたりすることもありましたから」

 

 そうして幸姉ならどうするかを考えたら、ほぼ確実にそんなことをやってきそうだったからそのまま菜々美さんに言ってみたら、顔を上げてオレを見た菜々美さんは慣れないことをしたからかぐでっとそのまま横になってしまって「じゃあそうしようかな……」という言葉を最後に目を閉じてしまい、静かに寝息を立て始めてしまう。マジでか……

 このままここで寝かせてしまうとオレが寝る場所がないので、仕方なく菜々美さんを抱き上げて寝室のベッドまで運んで寝かせてあげたのだが、離れようとするとオレの肩の辺りの服を掴んだまま放してくれなくて、無理に放そうとして起こしてもあれだから仕方なくベッドのすぐ横で腰かけてそのまま就寝。

 毛布も何もないから若干寒いが、これも自分への罰と思って一夜を過ごすのだった。

 翌朝、起きてみれば菜々美さんからの拘束も解かれていたので、ちょっとめくられた布団をかけ直してから寝室を出て昨夜のお詫びに朝食とお弁当でも作ってあげることにする。

 ここを出る前に何度かどのくらいの材料を使うか見ていたので、食費を圧迫しない程度で調理を開始。

 誰かに料理を作るなんて久々な気がする。

 その調理の音と匂いでか、菜々美さんも少ししてから起床して寝ぼけながらリビングに出てきて台所に立つオレを不思議に思ったのか近寄ってきて調理の様子を観察。

 

「キョウ君ってお料理できるんだ」

 

「簡単なものだけですけどね。先に支度とか済ませてください。その頃には出来ますから」

 

 それで身支度に取りかかっていった菜々美さんを横目にパパッと朝食を作り終えて、お弁当の詰め込みも終わらせたら菜々美さんも準備をだいたい整えてテーブルに着きオレの料理を美味しそうに食べてくれた。機嫌は、良さそうだ。

 

「それでね、昨日の罰のことだけど、今夜は久々に実家に帰ってお夕食にしようと思うの。お父さんにはこれから話すけど、その席にキョウ君も一緒に来ること」

 

 そして朝食を食べ終えてから片付けの最中に、寝ながら考えたのかと疑うような罰をオレに話した菜々美さん。

 それが罰となるのか疑問だが……

 

「それって罰になるんですか?」

 

「えっ? でもキョウ君、一緒にご飯は食べてくれないみたいなこと言ってたから、罰になると思ったんだけど。今もキョウ君、自分の分は作らなかったし」

 

 ここにきて天然が炸裂。

 確かに一緒に食事はしないとは言ったが、それは菜々美さんの生活に負担をかけないように考慮したことであり、十蔵さんのところでは考慮しなくてもいい。

 いや、考慮すべきだがそんな小さなことを気にするなと言われてしまうのが目に見えている。

 

「まぁ、それで菜々美さんが許してくれるならいいですけど、やっぱり菜々美さんはお姉さんキャラじゃないですね」

 

「えー、何でそんなこと言うのー」

 

 本気でキョトンとしてる菜々美さんに対して了承しつつそう返したら、また昨夜のように頬を膨らませた菜々美さんにちょっとだけ笑ってしまい、それでまた頬が膨れてしまうものの、本人も釣られて笑ってしまっていた。

 その後、夜は十蔵さんのところに行くように言われてから初めて菜々美さんと一緒にアパートを出たオレは、夜が楽しみなのかバイクで走っていったオレを手を振って見送ってくれたが、オレもオレで今日が1つの山場だ。気を引き締めていくとするか。

 とりあえず朝から鏡高組の事務所をマークして、今日、内乱を起こすらしい部下を連れた可哀想な組長様がお出かけするまで待機。

 さすがに昨日の今日なので警戒は強まっていて監視の目が厳しい。

 オレでさえ肉眼で監視できる位置取りができないってレベルなので、距離感を間違えると昨日の二の舞だ。

 そんな感じで割と本気にさせられてる鏡高組にはちょっと恨みのゲージを溜めつつ、何事もなく昼を回ってしまい、その間は何かを待ってるような感じだった組長さんは、ようやく来た携帯の通話に応じたかと思うと、すぐに出かける支度をしてお出かけ開始。

 昨夜の部下達の会話を聞くに、キンジを誘い出す手でも打ってきそうなんだが、さてさてどんな手で来るのか。

 という余裕もすぐに打ち砕かれるわけになったのだが、どうも昨夜から悪い流れが続いてしまっていてため息が出てしまう。

 今、組長さんはなんてことはない喫茶店に入って、そこにいた部下が連れてきたのだろう見た目普通の女子高生と席を共にして話をし始める。

 どう考えてもヤクザとは無縁なその女子高生が誰なのかは知らないが、状況は刻一刻と悪い方向へと進んでいく。

 オレは問題ないところから観察していたが、何故か昨夜キンジと揉めていたチンピラ2人と褐色の男が店の前でオレ同様に組長とその女子高生を見張り始めていた。

 よくよく見るとキンジが着ていた知らない学校の制服を着ているので、あの女子高生も同じ学校の生徒なのかもしれない。

 しかしあの3人。下手くそすぎる。あれでバレてないとか思ってるならチンピラの中のチンピラだぞ。

 何の目的であそこにいるのかは知らないが、余計なことだけはしてくれるなよ。

 そう願いつつも組長と女子高生の対談を見ていたら、余裕な表情の組長に対して女子高生は恐れ知らずな様子で怒ってるような感じが見て取れるが、挑発でもしてるのか組長は笑って女子高生に何かを言い、ついに席を立った女子高生は組長に手を上げようとしたところで、横に控えていた部下が取り押さえた。

 それを皮切りに店の外にいた3人が勝ち目もないのに出ていって鏡高組に吹っ掛けていったわけだが案の定返り討ちに遭ってしまい、女子高生も騒ぐので一旦気絶させられて全員が移動を開始。

 やられて動けない3人も車に乗せられてどこかへと運ばれるので、やっぱり面倒事になってしまったことにため息が出てしまうのだった。

 これはもう静観できないだろうが。

 そうして移動していったのは、西池袋にあった大豪邸。

 おそらくは組長の家だろうが、そこの豪勢な門から入っていった車を見送りつつ、適当なところにバイクを停めてどこかから侵入できないかと探りを入れていたら、もう1台、後から門を潜って車が入っていったのでそれもちょっと気にしつつ面倒な監視カメラを潜り抜けて敷地内に侵入。

 門の前では先ほどの3人が数人の部下達にフルボッコされていたが、そちらを助けていたらどこにいるかもわからないあの女子高生の方をどうにもできない。

 彼らは殺されないことを祈りつつまずは邸内を散策。オレだって一辺に全てを助けることはできない。

 すでに陽も落ち始めていた時間帯なので、オレとしては行動しやすい時間に差し掛かっていたため、邸内には入らずに中の様子を窓などから観察していってみたら、目的の女子高生はいた。

 すでに意識は戻っているようだが、拘束されて口にも布を当てられて喋れなくされてしまっているし、監視の目もあって救出は容易じゃない。中への侵入も色々と用意してから、かな。

 それでいざって時のために準備をしようとしたところで、女子高生のいる部屋にもう1人の女性が縛られた状態で放り込まれてきて、冗談だと思いたいがそうもいかなかった……

 その女性はあろうことか菜々美さんだったから。

 昨夜は完全にマークしてきた2人を振り払って戻ったはずだ。

 それなのに鏡高組が菜々美さんにまで辿り着くということは、オレが戻るところを見られていたということ。

 どこにミスがあったのかと考えることも一瞬。菜々美さんに怪我がないかを見ていたら、そばにいた組員が菜々美さんの携帯を奪って操作して、どこかへと連絡をするが、おそらくは……オレだ。

 そうして組員から菜々美さんの番号でかかってきた電話に応じたオレは、知らない風で最初は普通に応答。すぐに知らない男なのを悟ったようにして口調を鋭くする。

 

『お前の女は預かった。無事に返してほしかったら、今から教える場所に1人で来い』

 

「……菜々美さんは無事なんだろうな。それを確認させろ」

 

 一応は無事なことは確認済みだが、切羽詰まってる感じは出しておく必要はあるのでそう言うと、男は持っていた携帯を菜々美さんの口元へと運んで何かを言わせる。

 

『キョウ君、私は大丈夫だからお父さんに……』

 

 と、そこまで言って携帯を離されたので最後まで聞こえなかったが、言いたいことはわかった。

 だがそれはできない。

 

「いいか。その人に何かしてみろ。何かしたらお前を只じゃおかないからな」

 

『おお怖い怖い。だが俺が今この女に何かしてもお前にはわからないわけで、脅しとしてはガキのレベルだわ』

 

 オレが見てるのも知らないで余裕の男は、それで1度菜々美さんの髪を手に取って味わうようにしてその匂いを嗅ぐ。

 これで奴はもう万死に値する。顔は覚えたぞバカが。

 

「……それとどうやってその人とオレが繋がってるのを知った? 昨夜はちゃんと撒いたはずだが」

 

『うちの姐さんは元諜報武偵だったからな。お前をプロと見抜いて早々に手を打ってたんだよ。倒した2人はかませ。お前が油断して帰るところを別の奴が張ってたってわけだ』

 

 二重尾行か。オレ程度にそれだけの手を打ってくるとは思わなかったな。

 しかもオレと同じ諜報系の武偵だったのか、あの組長さん。ならキンジとの繋がりも無きにしもあらずか。

 結果としてオレのミスで菜々美さんを巻き込んでしまった。

 あれだけ迷惑はかけないと言っておきながら、この様。オレは何をやってるんだ……

 

「わかった。すぐに行く。だからその人に乱暴な真似はするなよ」

 

 自分を責めるのは全てを終えてから。

 今はそう言い聞かせて冷静に事に当たることにして、この場所を示す住所を教えられて通話が切れると、本来、ここに来るまでにかけられるギリギリの時間――長くても40分くらいか――で策を練り仕掛けを作っていった。

 鏡高組、後悔しろ。お前達が怒らせた男は、素直に命令に従う優しい男じゃないぞ。

 出来る限りの全ての準備を整えてから、リミットである時間に大豪邸の正面入り口からバイクに改めて乗ってやって来た風のオレは、一応菜々美さんを逃がすための策としてタクシーを1台呼んでおき、門の前で待つように言ってから門を潜って堂々と中へと侵入。

 入ってすぐに先ほどボコボコにされていた3人が壁際に寝かされていたが、死んではいないようだしとりあえず無視。

 こいつらもあそこで出ていったのだから、こうなる覚悟はあったはずだ。

 ヘルメットを被ったままの状態で古風なのに自動のドアを潜って広い和風庭園を歩いて抜けて、その先にあった玄関を入り水槽の埋め込まれた壁の廊下を渡って、たくさんの美術品が飾られた広いリビングへと辿り着く。

 そこにはソファーに足を組んで腰かける組長と、ここに続く全てのドアの脇に立つ組員が5人。ご丁寧にアサルトライフルなんて持って立っていた。

 そしてその組長の座るそばには後ろ手に縛られている菜々美さんが膝をついて床に座らされていた。

 

「失礼な男。顔も見せずにアタシらと交渉しようってのかい?」

 

 なかなかにハスキーな声の組長は、ヘルメットを被ったままのオレが気に障ったのか外すように言ってくるので、ここで機嫌を損ねても仕方ないので言う通りヘルメットを取る。

 

「あら、結構なツラじゃないかい。アタシとそう歳も変わらない感じだ」

 

「その人を解放しろ。そうすればお前達の言う通りにしてやる」

 

「まだ上からものを言えると思ってるのかい。案外バカだった……」

 

 オレの顔を初めて見た組長さんはそんな感想を漏らすも、今はどうでもいいので早速交渉へと移るが、立場が全然対等ではないことはこちらも重々承知の上。

 だから何か言われる前にオレはその手にボタン付きの小さな装置を取り出して見せる。

 

「この豪邸に仕掛けさせてもらった。もしその人を解放しなければ、オレは躊躇なくこれを押してお前らを道連れにする。そうなりたくなければまずは菜々美さんを解放しろ」

 

 それだけで向こうには十分な理解があっただろうことは、一変した表情からもわかる。

 

「バカなことを言うんじゃないよ。そんな時間がアンタにあったとでも?」

 

「……フッ。別に今日こうなることを予期して仕掛けたとは限らないだろ。オレはどこの誰とも知れない男だぜ? アンタらが気付かないうちに色々と好き勝手にやってたってだけさ。まさかこんなことで使う羽目になるとは思わなかったがな」

 

 しかし組長もバカではない。

 今日菜々美さんが拐われてから仕掛けたなら、そんな時間はなかったと指摘してきて、至極全うな意見ではあったが、事前に予想される返しをシミュレーションしてきたオレに抜かりはない。

 不敵な笑いを浮かべるオレに対して、明らかな心の揺らぎを見せた組長さん。こういうのは度胸でやるもんだ。貫かせてもらう。

 

「…………それがブラフである可能性もあるけど、こういうギャンブルは嫌いだしね。放してやりな」

 

 まだオレを疑う様子だった組長さんではあったが、ここでオレを刺激してもメリットはないと判断してくれて、組員の1人に菜々美さんの拘束を解かせて解放すると、菜々美さんはオレの元へと歩いてきて割と強く抱きついてくる。

 

「ごめんねキョウ君。私が捕まったばっかりに……」

 

「……オレが巻き込みました。でも安心してください。菜々美さんはちゃんと十蔵さんの元に帰します。外にタクシーを停めてありますから、それに1人で乗ってご実家に。出発したら連絡してください」

 

「でもキョウ君が……」

 

「オレは大丈夫です。ですから十蔵さんにも何も言わず待っていてください。『夕飯までには戻ります』」

 

「…………約束、だからね。破ったら今度こそ怒るんだから」

 

 抱きつかれながら小声でそんな会話をしたオレと菜々美さんは、昨夜破ってしまった約束をもう1度結ぶようにして会話を終わらせて、菜々美さんはそのまま外へと走っていき、数分後にちゃんと1人でタクシーに乗ったと連絡をしてくれて通話を切る。これで第1関門突破だ。

 

「こういうのは信頼で通すもんだ。安全確認ができたならそれを渡しな」

 

 その様子を黙って見ていた組長さんは、オレの持つ装置を渡すように言ってきたので素直に投げ渡してやるが、あれはただのバイクのキーだ。爆弾すら仕掛けてはいない。

 

「それで、オレをどうするつもりなんだ?」

 

 ここでオレが逃げれば、再び菜々美さんに危害が及ぶため、それ以降はとりあえず無抵抗で通しておくと、2人の組員にいま使ってた携帯電話と隠し持っていたクナイ数本やワイヤーを剥ぎ取られて拘束されたオレは、組長の前で組み伏せられて完全に仰ぎ見る形で床に寝かされる。

 

「ふーん。見たとこただのバイクのキーだね。こんなのでもあれだけの胆力でアタシらと渡り合ったのは誉めてあげる。実力のほどはまだ未知数だけど、良い土産になりそうだ」

 

「…………ああ、そういうことか。オレはどうやら売られるらしいな。お前らと繋がる香港マフィアに」

 

「ずいぶん内部事情に食い込んだ確信だね。だいぶ調べられたみたいだけど」

 

 と、オレが自分のこれからを予期したことを言えば、警備が甘かったんじゃないかと周りにガンを飛ばした組長さんに、全員が申し訳なさそうにするが、その腹はもうタイミングを見計らっているだろうな。クーデターの。

 

「知られちまったもんは仕方ないか。アンタは油断しちゃダメだって本能が警告してるから、しっかりと見張ってな。これからアタシはもう1人の客人を迎えに行くから」

 

 そしてさすがは元諜報系。

 本能的にオレの危険性を察知したらしく、さらに警戒を強めて自分はオレが来た道を戻って、これから来るらしい客人、おそらくはキンジだろうが、それを迎えに出ていき、残った組員達は途端にオレへの警戒だけを残してヘラヘラとし出してこれからのことに愉快になってるようだった。

 さて、これからどうするかね。菜々美さんには必ず戻るって言ったけど、結構しんどい状況なんだよなこれ。

 でも、もう約束を破るわけにはいかないし、戻らないで松方組が乗り込んででもしてきたらそれこそ大惨事だ。どうにかしてここから逆転しないとな。

 オレは緊迫した状況の中で、呑気なのか開き直ってるのかよくわからない、不思議な冷静さの中でその機をうかがい始めるのだった。


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