緋弾のアリア~影の武偵~   作:ダブルマジック

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Bullet77

 

 どのくらい寝ていただろうか。

 そんなことを冷静に考えられるほどに静かに覚醒したオレは、自分が今、部屋の寝室のベッドに寝かされていることを確認しつつ目を開ける。

 明かりの点いていない寝室にわずかに射し込む陽の光から夜ではないことはわかるが、それ以外はよくわからないな。

 

「起きたかい」

 

 するとベッドのすぐ横から聞き慣れた声がして顔を向ければ、椅子に座って膝にノートパソコンを乗せ何かしていた羽鳥がいつもと変わらない顔でオレを見ていた。

 どうやら、破壊衝動とやらは収まってるらしいな。

 

「状況説明よろしく」

 

「現在時刻は私と戦った翌日の15時34分。半日以上は寝ていたが、体の方はこれといった異常はなく、もう回復に向かっているよ」

 

「ここにはお前が?」

 

「玄関で力尽きたけどね。後のことは小鳥ちゃんと幸帆ちゃんがやってくれた。しかし現場で目覚めた時に私とやり合った君の顔に傷が増えていたんだけど、何かあったのかい?」

 

「ん……ちょっと想定外のアクシデントに遭った、かもな……」

 

 どうやらまだ1日経ってはいないみたいだが、傷の方は大事には至っていないようだ。

 そんなの自分の体だからなんとなくわかるんだが、羽鳥が言うなら間違いはないだろう。

 だが、ロカに会って無抵抗に殴られたことは伏せておく。なんか殴られた理由が恥ずかしい。

 

「お前はどうなんだ?」

 

「今は非常に安定している。ただ単に暴れ疲れてナリを潜めているだけかもしれないがね」

 

「今のお前は素なのか? それはお前が後から付け加えたものだろう」

 

「確かにこの私は付け加えられたオプションと言えるが、これもまた私を構成する1つの要素なんだよ。それとも……あなたはこっちの私の方が良いのかな?」

 

「そうやって使い分けるだけの心の余裕があるならいいが、意図して使うと胡散臭さも増すからな」

 

「それは人格否定だよ。どちらも等しく私なのに……そんなこと言われたら傷ついちゃうよぉ……」

 

 なんか……前より面倒臭いやつになったなこれ……イライラは微減したが、自分から絡みたくない。絡まれたくもないか。

 そんなオレの表情を察したのかクスクス笑う羽鳥だが、その笑顔はどこか自然でオレも悪い気はしなかった。

 そういう笑顔なら歓迎してやるよ。

 

「まぁ、こんな絡み方は今のところ君以外にはできないだろうけどね。君だけは今の私に『動く肉塊』ではなく、ちゃんとした男性として見えているから」

 

「……戦えるのか、これから」

 

「それはわからないよ。君が思うより私はこの血に縛られている。1度受け入れてしまった血の呪いは、ドラッグと同じように簡単には引き離せない。だが、逃げても仕方がないことはちゃんと理解した。それは私にとって大きな前進さ」

 

 次に今の自分のことを話した羽鳥は、これから自分の血の呪いと戦うと宣言し、その顔はどこか吹っ切れたような清々しさを表していて、また無責任に頑張れなどと言いそうになるが、そんな言葉ではなく小さく笑って返すと、意思を汲み取ったのか笑い返してきた。

 

「さて、私達の話はこれくらいにして、サード達のことについて話そうか。君も聞きたいことはあるだろう?」

 

「それについてだが、お前が気を失ってる間にジーサードの仲間と会って話をした。お前、ジーサードとかなめの担当医なんだってな」

 

「ああ、聞いていたのか。担当医と言ってもかかりつけの医者とかそんなのではないけどね。君も知っているだろ、サードとかなめが人工的に作られた天才、人工天才であることは。彼らにはロスアラモスによって『活命制限(ライフ・リミット)』というものがDNAに仕込まれていてね、何らかの化合物を定期的に摂取しないと長期の生命維持ができない仕組みがある。まぁ反逆防止システムの一環だね。私はその化合物を調べて、ロスアラモスを必要とせずにそれを摂取する方法を模索する仕事を請け負っている。先日君をサードから見逃させることができたのは、私が少し前にかなめの活命制限の化合物を判明させ、フラン・ポリマー――キャラメルなどに含まれる重合化合物で代用できることを教えたからさ」

 

 なるほど。だからかなめはよくキャラメルを食べていたのか。

 ロカが言っていた『命の担当医』って表現も、実に的確だったな。

 

「だがお前はかなめとは会ったことがないって言ってなかったか?」

 

「それは本当だよ。私はサードから彼とかなめのDNAデータを貰って、それを元に調査を進めていたからね。だから彼以外とのコンタクトは一切ない。それとその資料として貰ったデータによれば、サードとかなめは父親のDNAが同じで母親が違うことになるんだけど、父親が遠山金叉(とおやまこんざ)のDNAデータと一致したから、まぁ遠山キンジとは腹違いの兄弟であることは間違いないと思うけど。ジーサードのGは『黄金交叉(ゴールデン・クロス)』から取った暗号名だと言うし、遠山キンジは次男(セカンド)。そこからカウントするとサードとフォースは順当な数字だ」

 

 つまりジーサードとは面識はあったが、その仲間にまで通じていないというこいつの言葉は真実だったわけか。

 ジーサードの事情を黙っていたのは、依頼上での守秘義務があるからだろうが、プロ意識が高すぎるだろ。

 そうでもないとSランクにはなれないってことなのかもしれないが。

 それからジーサードとかなめがキンジと繋がりがあるってのは、もうなんとなくわかってた。

 ロスアラモスが非情な組織であることを考えれば、誕生の段階で手を加えられてる可能性も予想していたし、かなめがHSSを持っていることも気にかかっていた。

 その辺はオレが気にしても仕方ないことかもしれないな。

 

「で、そのジーサードはどうなった?」

 

「遠山キンジが倒したようだよ。まぁ彼は『引き分け(ドロー)だ』と言い張っていたけど、撤退したことに変わりはない。今は横須賀の拠点からキューバに飛んで休息に努めるとか言ってたかな。あ、彼の話は昨夜にもう遠山キンジに話してしまったから、師団に言及されても適当に話していいと言われている。そういう了承のもとで君に話しているから安心したまえ」

 

「そうかよ。つまりジーサードの件は解決したってことでいいんだな」

 

「おそらくは、ね」

 

 はぁ……

 要するに遠山家の壮大な兄弟喧嘩に少しスパイスを加えたものに巻き込まれたというのが今回のまとめだ。

 元々師団と無所属だったから、そう思うと余計にアホらしいことしてたと感じて、そんな意味の大きなため息が出てしまうが、あと1つ、羽鳥から聞かなきゃならないことがあったのを思い出して口を開いた。

 

「そういやお前、自分からオレの足止めを買って出たって聞いたが、何でそんなことしたんだよ」

 

「……ああそれか。別に深い意味はないよ。襲撃の朝に定期報告をしていてね。その時に遊びに行くみたいなノリでこっちに来るとか言ってて、サードの元まで君が来たら仲間が拉致して採用試験を始めるって楽しそうに話してたから、アリア達が横槍を入れる可能性もあるんじゃないかって指摘しただけ。だからあの場に監視があったのは承知の上だよ」

 

「ふーん、なら昼の合コンみたいな集まりもオレをあの近くに運んであそこに誘導しやすくするためか」

 

「君も頭の回転が良くなったね。まぁそんな事情があっただけさ。君だって拉致は御免被りたかっただろう?」

 

 ロカもロカで隠してたことがあったってことか。

 確かに拉致は嫌だが、それにしたってもっとやり方が……

 と、そこまで考えてこいつが最初に催眠ガスを使ってきたことを今更ながら思い出して、あそこで寝てればこんな怪我しなかったのかとまたも大きなため息が出てしまい、そんな心情を察したのかクスッと1度笑った羽鳥は、ノートパソコンを閉じて立ち上がり「何か食べるだろ? 小鳥ちゃんが作り置きしてくれてるよ」とここに持ってくるようなことを言うが、すでに歩くくらいは問題ないと判断したオレは体を起こしてベッドから出て、羽鳥と一緒に遅めの昼食を食べ始めた。

 というかお前も食べてなかったのかよ。

 とは思うがツッコむようなことはせずに静かな昼食タイムにしていると、再びノートパソコンでながら作業を始めた羽鳥に何をしているのか尋ねてしまう。

 絶対ツッコミ待ちでちょっと嫌だったけど。

 

「イギリスに戻ろうと思ってね。その手続きとかロンドン武偵局のご機嫌取り、かな」

 

「ずいぶん急だな。というか昨日の今日でオレから離れて大丈夫なのかよ」

 

「別に急じゃないさ。最近だとエルが来た時かな。あまりに日本に戦力を奪われるって。さすがに爆発寸前なのさ。まぁ帰国を決めたのは君が原因だけど。まるで君がいないと私がダメになるみたいな今の発言もそうだけど、昨日の発言も気に食わなかったよ。そうやって君は女を自分に依存させるやり方で生きてきたんだろうけど、私はそこまで君を頼りにしてはいない」

 

「そんなつもりはなかったが、そう言われると腹が立つ。お前に協力してやるって言っただけだろ」

 

「言葉には色々な意味が込められるんだよ。私は君がそばにいろと命令したようにも捉えられた。協力してやる? 無責任な自分にせめてって出た上からの物言いに喜びも感動もないね」

 

 こいつ……やっぱり腹が立つ。人の厚意をなんだと思ってるんだこら……もう祖国にでもどこでも行きやがれバカが。

 そう口に出してやろうと箸を置いて立ち上がろうとしたところで、さっきまでの勢いを急に収めた羽鳥にちょっと驚き黙ってしまう。な、なんだよ。

 

「でもね、君の言った『1人じゃない』って言葉は……本当に嬉しかったんだ。この重荷を一緒に背負ってくれると言った嘘偽りのない君の言葉は、本当に、嬉しかったんだよ」

 

 ……散々オレを貶した後に、こうやって素直になられると本当に調子が狂う。

 あー、出るはずだった言葉が引っ込んじまったよ……

 

「今の私にはそれだけで十分。すぐにってわけにはいかないと思うけど、まずは1人で頑張ってみようと思ったんだ。最初から君に頼ったら、それこそ君の思う壺だしね」

 

「…………お前なりに考えて出した結論に、オレがとやかく言う資格はない。お前の人生だ。お前が歩きたいように歩け」

 

「お前お前って、私には羽鳥フローレンスという名前があるんだけど、いい加減ちゃんと呼んでくれないかな、君」

 

「お前がそれを言うな」

 

 確かにオレのせいだなこれ。

 こいつはこいつなりに自分と向き合うために歩き出したんだ。オレはその背中をそっと押してやれただけで十分。

 こいつは隣を歩いてあげなきゃいけないほど弱くないんだから。

 それで最後に互いにまともに名前を呼んでないことを笑い合って食事を再開。

 その後すぐに部屋を出ていった羽鳥は、夜まで帰ってこないみたいなことを言い残していき、1人になったオレは放置していた携帯の履歴が凄いことになっているのを確認して、そちらの処理を始めたのだった。

 処理はすぐに終わりそうなやつら――アリアや玉藻様やワトソンなど――を先に片付けて、一番面倒臭そうな理子を最後に回したら、案の定うるさいわテンション高いわで疲れるが、見舞いがてらこれから来るとか言うので、それなら何か買ってこいとだけ言って了承――どうせ断っても来る――して、それを待つこと30分ほど。

 午後4時半くらいに理子と一緒に何故かジャンヌやアリア達まで来て一気にうるさくなり、軽い宴会モードへと移行。

 昨日は本当にジーサードと戦ったのかこいつら……

 そんな騒がしい中でも情報はしっかり拾ってみると、キンジは東京の上空にジーサードと一緒に行ってしまい、未だ帰ってないらしいが、アリアが絶対帰ってくると言うのでそうと信じてオレも待つことにして、次にかなめがジーサードに体に穴が開くほどの重症を負わされたことを聞くが、こちらも迅速な処置と治療によって一命を取り留め、今は武偵病院で静かに寝ているとのこと。

 だがそれは散々言っていた非合理的にジーサードへ歯向かったことを指していて、どうやらかなめも呪縛から解けたようだ。

 それが良かったのかそうでないのかはオレには判断できないが、後悔しない選択をしたならそれでいいと思う。

 それらを聞いてからさすがにうるさすぎて――もう理子の1人騒ぎに近いが――首謀者の1人を沈黙させたところで、色んな食材の入った買い物袋を両手に持った幸帆が来て、それら食材を使って勢いで鍋がスタート。

 白雪と幸帆のダブル鍋奉行が指揮を取って始まった鍋パーティーは、1時間後に帰ってきた羽鳥と、何故か放心気味の小鳥も加わってさらにうるさくなって、夜遅くまで続いたのだった。

 翌日からは調子も良かったので普通に登校したのだが、そんな日に限って中間学力テストとかいう面倒なものが入っていて、京都武偵高で同じような授業を受けていたオレは2度目となるそのテストを適当にこなし――というかテスト自体が微妙に流用してるんじゃないかと思うほど問題が被ってる――無事に乗り切るが、オレ達が鍋パーティーをやっていた夜遅くに帰ってきたらしいキンジがとても辛そうに鉛筆を転がしてテストを受けてるのを目にして、兄貴も大変だよなと他人事のように思うのだった。

 テストが全て終わってからようやくキンジと少し話をしたが、まずはジーサードとかなめが本当に兄弟であることは間違いないとかで、アリアの中のイロカネを狙っていた理由は『時間移動を可能にする力で亡きサラ博士を生き返らせる』ことだと聞いた時はさすがに耳を疑った。イロカネってそんなこともできるのか。

 その後キンジはジーサードがかなりの高空から海に落ちて死んだと落ち込み気味に話したのだが、昨日羽鳥が本人から連絡受けてるから生きてることは確実。

 それを教えてやろうかとも思ったが、遠からずわかることかと黙っておくことに。決して意地悪ではない。

 そしてテストが終わってからすぐにイギリスへ発つことになっていた羽鳥は、部屋から自分の荷物を車へと運んで、初めて会った時の黒のスーツとロングコートを着込んですっかりロンドン武偵局の羽鳥フローレンスになっていた。

 寮の前には見送りとしてバスカービルの面々とワトソン、ジャンヌ、小鳥に幸帆といたが、他はもう連日盛大に送別会を開いて別れの挨拶は済ませたとか。

 テスト期間によくやるとは思うが、武偵高だから仕方ない。

 

「アリア、エル。あっちは私が黙らせておくから、君達は君達のやるべきことに専念してくれ」

 

「あんたのことは好きじゃないけど、感謝はしてるわ。でも恩に着せるようなのはやめてちょうだいね。これはあんたが勝手にやったことなんだし」

 

「そこまで私は欲しがりじゃないさ。貰えるものは貰うけどね」

 

「戻ったら『向こうの戦局』もうかがってみてくれ。こちらより旗色は悪そうだし、必要なら力になるように」

 

「私1人でどうこうできたら苦労はないよ。だがまぁ、エルのお願いとあらば努力はしよう」

 

 それで車に荷物を積み終えてから、まずはアリアとワトソンに近付いて話をした羽鳥は、いつもの調子で笑ってそんなやり取りをして話を締めると、次にここ数日で何故か急に距離が縮んだ小鳥と何やらヒソヒソ話。

 最後の最後まで悪巧みでもしてるのかあいつは。

 そんな怪しげな2人の会話は小鳥が顔を赤らめて羽鳥の胸をポコポコ叩いて終了し、幸帆とは2、3言葉を交わして握手だけであっさり終了。

 ジャンヌと理子は寄るなと手で追い払って挨拶もなかったが、キンジとレキと白雪は関わりが薄かったのか一言だけ言葉をかけて握手で終わらせる。

 そして最後にあからさまに嫌そうな顔をしながらオレの前に来た羽鳥は、握手する手も出さずに腕を組んだまま話をしてくる。

 オレだけ態度がおかしいぞオイ。

 

「これで君もようやく部屋で落ち着けるだろうし、清々しただろ?」

 

「そうかもしれないな。お前にはずいぶん引っ掻き回された気がするよ」

 

「ハハッ、それは良かった。私は君への嫌がらせが何より楽しかったからね。その感想は実に愉快だよ」

 

「……お前はあっちをどうにかする前にその性格をどうにかした方がいいんじゃないか」

 

「それも人格否定に分類できるんだけど、まぁ君以外の男にすることもないし、犯罪者の尋問に使うくらいだから安心してくれたまえ。それから私の秘密についてはトップシークレットだ。アリアもエルも、ロンドン武偵局さえ知らないことなんだからね」

 

 別れの挨拶だと言うのに相変わらず人をからかうような言動の羽鳥に、心穏やかに見送ろうと思っていたオレもついつい反発してしまうが、自らの秘密についてはちゃんと口止めしてくるので、そんなの言いふらすつもりもなかったから口止めするまでもないだろと顔に出すと、羽鳥は安心したのか少しだけ笑ってからまた不機嫌そうな顔をする。

 

「それから最後に、ずっと君に言おうとしていたことがあったんだが、いま言ってもいいかい?」

 

「なんだよ改まって。言いたいことをズバズバ言うのはお前の専売特許だろうが。今さらオレの許可がいるほど酷いことなのかよ」

 

「……それもそうか。では遠慮なく。初めて会った時からだけど、私は君のことが大嫌いだ」

 

 …………これは引いた。

 さすがのオレでも引いた。そんなこと分かりきってるのに、改めてハッキリと言ってきたこいつは、本当の本当に性格が悪い。

 だがこうまではっきり言われたのは実は初めてじゃないかと思いつつ、言わせたままは癪だったのでオレも嫌いだと言ってやろうとしたら、急に顔を近付けてきた羽鳥はオレの耳元に口を寄せてみんなに聞こえないようにささやいてくる。

 

「だけど、あなたのことは素敵な人だって思ってる。これは本当だよ」

 

 意外すぎるその言葉に完全に意表を突かれたオレは、離れる際に簡単に頬へのキスを許してしまい、それには周りがざわつくが、それを無視して車へと身を翻した羽鳥は、女の子の顔で振り返り、最後に一言。

 

「じゃあね、『京夜』」

 

 オレを名前で、はっきりと呼んだのだった。

 

「…………ああ。じゃあな、『フローレンス』」

 

 だからオレも、なんだかんだで憎みきれなかった元ルームメイトを名前で呼んでやり、それに満足したのか柔らかい笑顔を浮かべて車へと乗り込み、あっさりと出発していってしまった。

 最後まで人を引っ掻き回すんだな、あいつは。

 

「ちょっとキョーやん……まさかとは思うけど、キョーやんって『これ』だったの?」

 

 そんな羽鳥がいなくなってから、我先にと近寄ってきた理子が、いきなり左手の甲を右頬に当てて『オネエ』のポーズをしてきたので、その頭をアイアンクローしながら他に近寄ってきたジャンヌや白雪も一緒に連れて引っ張っていき、アリアとワトソンの前まで移動。

 こいつらマジでか……

 

「お前らは当然知ってるよな?」

 

「あたしはなんとなくよ。あいつとロンドン武偵局で初めて会った時から違和感は感じてたしね」

 

「ボクは当然。言いふらすことでもないし、デリケートな問題だから見て見ぬふりをしていた」

 

「ってわけだ。オレはこれじゃないし、あいつも違う。あいつはれっきとした女だバカども」

 

 そうやって同僚みたいな2人に確認を取ってから、改めて羽鳥が女であることを明かしてやると、どうやらこの場では小鳥以外のやつらが全員知らなかったらしく、口を揃えて驚きの声を上げ、男子寮の周辺に響き渡ったのだった。


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