モルガナさんとの亜空間生活   作:最下

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「世界を観察する存在に興味はおありですか?」「は?」

 

期末テストも満足出来る点数を取り夏休みも間近、必然的にベストプレイスで食べるパンも美味く感じる。外は暑さを感じるものの吹き抜ける風が心地良く、不快感を感じない。

皆大好きぼっちも大好きMAXコーヒーと超甘いと好評のあんぱんに舌鼓を鳴らしていると1人の少女が歩いてきた。

 

 

『ああ、見つけました』

『……どうも』

 

 

声をかけてきた女子生徒は小学生でも通じる身長だが、首に付けているリボンが3年生のものだ。先輩なのか? 中学生でも怪しいサイズだ、全体的に、何処とは言わない。

 

 

『世界を観察する存在に興味はおありですか?』

『は?』

 

 

……痛い子か。ざい、ざい、剣豪将軍くんみたいに。

ふわふわした癖ッ毛に親近感を煽るアホ毛、髪を伸ばして色を変えれば小町に似ているかもしれない。ただ落ち着いた声と容姿のミスマッチ感が凄い。

 

 

『もう一度聞きます、世界を観察する存在に興味はおありですか?』

『あー、そういうのは間に合っていますんで。他を当たって……』

『ほう……』

 

 

っ!? 首筋に刃物を添えられた様な恐怖が身体を走る、なにこれ、夏の暑さを超える寒気がする。目の前のロリが……? いやラノベの読み過ぎか?

 

 

『……それはその存在に? 立場に?』

『立場です』

 

 

……真面目に答えた方が賢そうだな。もしこれがクラスの連中のドッキリだったら新しいトラウマを刻んでしまうが、まあ、仕方ないとしよう。苦労するのは未来の自分だ、ファイト!

 

 

『別に。明確な目的も無いのにその椅子に座っても退屈ですし』

『ほう』

『それに観察対象が世界とか時間がいくらあっても足りないでしょ』

 

 

結構適当だが大丈夫かこれ、どういう意図の質問かは理解できないが諦めてくれると助かる。痛い子の相手は体育の授業だけでも多すぎる、……もしかして俺が痛い子だから痛い子が集まっちゃうの?

 

 

『ふむ……、私はあなたが欲しているモノに興味があります』

『どういう意味だ……?』

 

 

は? 欲しているモノ? 何故それがさっきまでの質問から繋がった? というか誰なんだお前は? まさかお前が世界を観察する存在とか言うのか? それともやっぱり痛い子?

 

 

『言葉で説明するより見てもらった方が楽ですね、来なさい』

 

 

  *  *  *

 

 

「……ん」

 

 

次元と次元の間、亜空間、とりあえずで付けられた名称を持つ空間で目を覚ます。空間と言うのも恐らくは正しくはないだろう、だが今はそう言うしかない。

 

 

「眠っていたようですね、この世界でも」

「……寝顔を見ていたとしか思えない距離なんですが、モルガナさん……」

 

 

鼻から20cm程の距離に思わず顔をしかめる。

彼女はモルガナ。肩甲骨より少し下程の緑髪とアホ毛、……ぶっちゃけ髪色は灰色のほうが近いと思う。に、胡散臭く微笑んで見える糸目。金の装飾で飾られたローブを身に付けている。

 

 

「ふふっ、それで夢でも見れましたか?」

「別に、ここに来る時を思い出しただけです」

 

 

流された。……あれから元の次元感覚で何ヶ月経ったのやら。寝る必要も食事も排出も無い世界では時間感覚なんて必要ないのか、永遠に近い時間と漠然とした目的だけあると適当になるものだ。

 

 

「ああ、懐かしいですね。確か2年前でしたか」

「そんなになりますか」

 

 

月日が流れるのは早い。2年前のあの時はかなり電波な少女に絡まれたと思ったものだ、実際はかなり理解し難いおねーサンだった訳だが。

当時は一見小学生位の子が俺を訪ねて「世界を観察する存在に興味はおありですか?」とか聞いてきたから心配になったがこうなるとはなぁ……。

 

 

「世の中怖いですから、あまりあの姿で出歩かないでくださいよ」

「あら、心配してくれるのですか?」

「もちろん、加害者になるであろう人を」

 

 

ロリコンだったらよだれを垂らして声をかける程見事なロリだった、もし俺に小町がいなかったら是非とも「お兄ちゃん」または「お兄さん」と呼んでもらいたいと思っただろう。

 

 

「呼んでみましょうか?」

「いや結構です」

 

 

年齢を考えてくださいよ、少なくとも俺より年上でしょあんた。それでも呼ぶってんならドン引きだよドン引き。というか年上にお兄ちゃんと呼ばせてるみたいで俺がドン引きされるよ、世間体なんてここに無いけど。

 

 

「はぁ……、次はどちらへ?」

「また『猫』と『小娘』の次元か、1つ奥の次元か」

「エテルノ、または三次元ですか」

 

 

どちらにせよ俺が反対しようが賛成しようがモルガナさんは好きにするだろう。まあ、叡智や真理を知る、その目的を達成するなら妥協なんてして欲しくもない。

 

 

「あなたの目的はどうです?」

「居眠りする程度には順調です」

「なるほど」

 

 

俺の目的なんて名称すらわかっていないのは知ってんだろ。だいたい深層心理とか欲求とか言われても俺個人で理解できる気がしない、それでもここから見る様々な次元が退屈しないお蔭で続けられている。

 

 

「少しヒントをお出ししましょう」

「へぇ、ありがたいですね」

「それは、繋がり、関係、または在り方。以上です」

 

 

繋がり、関係、在り方。どれも対人関係によく使われる言葉だな……、じゃあ俺が欲しているのは人との繋がりなのか? 今更それを求めているのか俺は?

 

 

「もし、俺の予想通りなら、俺を殺してやりたいですね」

「理想と現実の齟齬、世界と次元のズレ、恥じる必要はありません」

「人間の本能、学習を無視するのは愚行でしょ」

「愚者も、1つの在り方なのですよ」

「愚者は本能に生きよ、でしょうが」

「それだけでは只の獣と変わりません」

「……覚えておきます」

 

 

…………この人との会話はテンポこそ良いが内容が疲れる、卓球でラリーを続ける感じに近い。想像したらシュールだなー、モルガナさんと俺が卓球してる風景は。

 

 

「そろそろ観察に戻ります、観たいものが出来ましたので」

「ふふ、お役に立てたようで何よりです」

 

 

立ち去る素振りは見せないが最早気にしない、瞼を閉じてチャンネルを選択接続しその次元を観察する、この2年間ずっと続けてきたこと。今でも中二病みたいと思うが実際に出来るのは果たして中二病と言えるのだろうか。

 

一介の学生だった俺が今では世界の観察者だ。モルガナさんを恨むべきか感謝するべきか、後悔はしていない、彼女を尊敬すらしている、なら感謝するべきだろう。

 

……ああ、今日はこの時間軸、この世界にしよう。 観察対象は、愛。

 

 


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