ALO〈アルヴヘイム・オンライン〉~神々の黄昏~   作:剣の舞姫

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お待たせしました。第八話です。


第八話 「ミーミルの泉へ」

ALO《アルヴヘイム・オンライン》

~神々の黄昏~

 

第八話

「ミーミルの泉へ」

 

 ログハウスから出たカナ、ユイ、シンの三人はまず最初にアルヴヘイムの何処かにあるというミーミルの泉に向かう事となった。

 このグランドクエストがもし本当に神話におけるラグナロクを模しているのだとすれば、順番的に考えてミーミルの泉に行けば北欧神話の最高神オーディンと賢人ミーミルに会える筈だからだ。

 

「ミーミルの泉と言えば、確かユグドラシルの三本の根の内、霜の巨人の国へ伸びる根の根元にある泉だったか」

「へぇ、シン君詳しいねぇ」

「まぁ、ALOやる上で北欧神話は少し勉強したからな」

 

 となれば行く場所は世界樹の根になるのだろう。つまり、中央都市アルンへと行く必要があるという事になるが。

 

「いえ、行くのはアルンではなく、アルヴヘイムの下層にあるヨツンヘイムです」

「ヨツンヘイムって確か……昔、お父さん達がエクスキャリバーを入手したって言うフィールドだよね?」

「ええ、そこから更に下層へ行けるのでしょう……本来ならニブルヘイムも、ムスペルヘイムもALOには実装されていないのですが、グランドクエストをカーディナルが発生させたという事は、間違いなくこの二つのフィールドも生成されている筈です」

 

 ヨツンヘイムへ降りて、そこから更にニブルヘイムへ降りる場所を探して、そこから途中でミーミルの泉へ向かうというのがユイの提示した道順だ。

 

「恐らく、ニブルヘイムへ降りるのは昔のスリュムヘイムの直下……現在のヨツンヘイムの世界樹の根からになるでしょう」

「確か、ヨツンヘイムは飛行禁止エリアだったか」

「うへぇ、じゃあヨツンヘイム入ったら歩くのぉ~?」

「大丈夫ですよ、ちゃんと考えてますから」

 

 ようやくアインクラッドから出てイグドラシルシティに到着した三人は一度装備とアイテムを整えてからアルンへと降りて、アルンからにヨツンヘイムに降りれるという階段を下っていた。

 正規ルートからだと2時間ほど掛かるヨツンヘイムだが、この階段を下りれば5分ほどで到着するという事で、昔からよくカナの父達が利用している。

 

「着いた!」

「ここが、ヨツンヘイム……」

 

 長かった階段を下りて、ようやく辿り着いたのは、緑に溢れる暖かな気候が特徴の世界、ヨツンヘイムだ。

 昔は、氷と雪に覆われた極寒に地となっていたヨツンヘイムだが、10年程前からこの緑に覆われた美しい世界になっている。

 

「さて、トンキーさ~ん!」

 

 何やら名前らしきものを叫んだユイにカナとシンが何事かと目を向けたが、当のユイは何食わぬ顔で空を見上げていた。

 そして、空の向こうから鳴き声らしき声が聞こえ、カナとシンもそちらに目を向けてみれば、象とイカを混ぜ合わせたかのようなモンスターが羽を広げて飛んでくるではないか。

 

「あれは、邪神級モンスター!?」

「え、トンキーってもしかしてあれなの?」

「ええ、そうです。パパとリーファさんが昔助けて以来、ヨツンヘイムに来る時は彼の背中に乗って移動するのが私達の特権です」

 

 別にトンキーはテイムされたモンスターという訳ではない。だけど、何故かトンキーはカナやユイの父達に懐いていて、こうしてユイだけでも呼び出す事が出来るのだ。

 

「お久しぶりですねトンキーさん」

「おっきい……」

「ああ……」

 

 トンキーが長い鼻を伸ばしてきて、それをユイが笑顔で撫でると、トンキーも気持ち良さそうな、嬉しそうな鳴き声を出す。

 随分と人懐っこいモンスターのようで、カナとシンも警戒するのを止めてユイと同じようにトンキーの鼻を撫でた。

 

「トンキーさん、今日はニブルヘイムへ降りる場所へ案内して欲しいんですけど、良いですか?」

 

 勿論だと言わんばかりにトンキーは一鳴きすると、少し高度を下げて背中に乗り易くしてくれた。ユイは早速だがトンキーの背中に飛び乗り、カナとシンもそれに続く。

 

「じゃあ、お願いしますトンキーさん」

 

 ユイ達を乗せたトンキーが飛び立ち、ヨツンヘイムの空を飛んだ。始まるのだ、三人の最初の目的地への冒険と、そして戦いが。

 カナとシンはトンキーの背中から見える世界樹の根を見つめながら、そんな予感を感じ取って無意識に拳を握り、武者震いしそうになるのを堪えるのだった。

 

 

 一方変わってリアルの方では現在ALOの異常事態を察知した和人と明日奈、一夏、百合子がダイシーカフェに集まっていた。

 

「ギル、何か情報はあったか?」

「ああ、一応集められるだけ集めてみたが、ユーミルの方は完全にお手上げ状態らしいぜ。なんせALO崩壊フラグが立ったクエストの自然発生だ、何とかクエスト削除をしようとしてもカーディナルの方からそれを遮断されてるのもあるし、苦情が殺到して対応に四苦八苦してるみたいだ」

 

 最初から分かっていた事だが、ユーミルはやはりこの事態に対して無力だった。ならば解決出来るのは、何とか出来るのはプレイヤーだけ。

 

「夏奈子が既にユイちゃんと一緒にALOで戦っている。俺達も動かないと」

「エギルさん、皆に連絡は?」

「もうしてるぜ。取りあえず里香と珪子、遼太郎と真耶さんは直ぐにでも参加出来るそうだぜ。直葉と詩乃は仕事が終わり次第と言っていた」

「そっか、こっちも箒と鈴とシャル、ラウラが仕事を終えたら直ぐにINするって言っていた。簪とクロエはもうINして楯無さんと合流してる筈だぜ」

「セシリアは流石に忙しいみたいだけど、時間を見つけてINするって言ってた。千冬義姉さんと束さんも同じ」

 

 嘗ての仲間達もそれぞれ大人になり、仕事や家庭といった子供の頃とは違う事情がある。それでもALOを愛した者達ばかりなので、ALOの危機と知れば駆け付けない筈が無い。

 順調に仲間が集結していくのを確信し、和人はギルバートと目を合わせた。

 

「ギル、俺達もそろそろ家に帰ってINする。お前は?」

「嫁さんが買出しに出てるからな、あいつが帰ってきたらINするぜ。それよりお前達、チビ共はどうするんだ?」

「あきちゃんものどちゃんも由夏君と一緒にマドカちゃんの所に預けますから、大丈夫です」

 

 ならば安心だとギルバートも笑って伝票を差し出してきた。

 和人が全員分のコーヒー代を支払うと、ギルバートにALOで会おうと言って店を出た四人は一番近くにある一夏の家へ向かい、そこからINする事に決めている。

 

「ユイちゃん達はヨツンヘイムからミーミルの泉を目指すみたい、北欧神話をヒントに動くみたいだね」

「ああ、ユイらしい思考だ。なら俺達は別の方向から動くか」

「別の? 一夏、わかる?」

「まぁ、だいたいはな……和人さん、夏奈子達が新エッダのラグナロクに準えるなら、俺達は古エッダに準えて動くんですね」

「流石は一夏、わかってるな」

「ねぇ、和人君……もしかしてそれって、巫女の予言の?」

「ああ」

 

 夏奈子達の動きから和人は彼女達が新エッダの「ギュルヴィたぶらかし」をヒントに動いていると予測して、そこから自分達は古エッダの「巫女の予言」をヒントにする事を考えたらしい。

 どちらも神々の黄昏(ラグナロク)を描いた話であるので、グランドクエストにおいてはこの二種類の攻略法が可能だというのが和人の予測だ。

 

「ただなぁ……」

「どうしたの?」

「いや、セブン……七色からメールが来てたんだけど、あいつ妙な事を言っててさ」

 

 そう言って和人が携帯端末でメールを呼び出し、そこに書かれた七色からのメール文を見せた。

 そこに書かれていた内容は「もう、私達の時代は終わったのかもしれないね」という一文のみ。それを見てからというもの、和人の中で一つの考えが浮かんでいるらしい。

 

「俺達の時代は終わった……それってつまり、もう新しい世代の時代だって事だ。ALOも、もうそろそろ俺達が活躍するべき時代を終えているのかもしれないって、そう思ったんだよ」

「それは、そうですね……世代交代か」

 

 今、ALOで戦っている夏奈子を思うと、父親である一夏も思うところがあった。もしかしたら、これから訪れるのは夏奈子達、子供達の時代であり、大人になりALOへINする時間も減った自分達が活躍する時代は、もう終わったのかもしれない。

 

「でも、わたしにとってはいつまでも和人君は頼れる勇者様だよ」

「うん、私にとって一夏はいつまでだって、例えお爺ちゃんになっても、カッコいい騎士様」

 

 妻達の言葉に照れる夫二人、だけど分かっているのだ。明日奈と百合子も、自分達の時代の終わりを、その訪れが来ているのだということを。

 

「さて、そろそろ着くな」

「切り替えよう? ここからは私達は……」

「ええ、剣士だって」

「戦士だって事を……」

 

 到着した一夏と百合子の家、その玄関の前で四人の表情は一般人の表情から、嘗てはアインクラッドで戦い抜き、生き残った戦士達の表情に変わる。

 例え、どれだけの年月が経とうと、自分達の時代が終わりを迎えようと、それでも自分達は……戦士である事に変わりは無い。

 

「「「「リンクスタート!!」」」」

 

 リビングに入り、アミュスフィアを装着した四人はALOへとログインして、再び剣を、槍を握る。今ここに、嘗ての戦士達が……ALOに蘇った。




次回はミーミルの泉にてグランドクエスト最初の戦いです。

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