ALO〈アルヴヘイム・オンライン〉~神々の黄昏~   作:剣の舞姫

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お待たせしました。未来編です。


第五話 『異変』の始まり

ALO《アルヴヘイム・オンライン》

~神々の黄昏~

 

第五話

「異変の始まり」

 

 一先ず、カナはリメインライトとなった友人達に声を掛けてからユイに頼んで友人達を強制ログアウトさせた。

 ただ、友人達がログアウトしたのをユイが確認して、間違いなくログアウトしたというのにリメインライトは変わらず残っているという疑問が新たに浮上してしまう。

 

「取りあえず、外に出ましょうか」

「そうだねー」

 

 ユイの提案を受け入れ、彼女を頭の上に乗せたカナはダンジョンの出口を目指し、特に強敵らしい敵も出ないで無事にダンジョンから脱出、イグドラシルシティ目指して飛び出した。

 

「なんだろ……あっちこっちにリメインライトがあるよ」

 

 飛びながら、地上の様子を確認していたカナの視界に映ったのは、中立域のフィールドに多数漂うリメインライトだった。

 恐らくはHPが全損したプレイヤー達なのだろうが、何故それぞれの種族の首都へ死に戻りしないで、そのままフィールドを漂っているのか。

 漂っている数が尋常じゃない事から、それだけの数がまだ死に戻りする時間になっていないとは考えられない。

 

「ねぇユイちゃん、どういう事なんだろうね?」

「……まさか、でも……」

「ユイちゃん?」

「っ! そ、そうですね……まだ確証が得られないので、私からは何とも」

 

 まだ、ユイは今ALOで起きている現象の原因に確証が持てなかった。いや、ほとんど確信していると言っても良いのだが、それはあくまでユイが確信しているだけであり、確固たる証拠が無い。

 

「カナちゃん、もしALOに“風の冬”“剣の冬”“狼の冬”の三つが訪れたなら……パパとナツお兄さんに知らせて下さい」

「はぇ? 風……剣? 狼? 冬……?」

 

 何処かで聞いた事のある名称だが、何処で聞いたのか思い出せないカナは首を傾げるが、ユイはそんな妹分を気に掛ける余裕も無いのか意識の一部をネットの海へ潜らせている。

 

「(……やはり、ユーミルでも異常に気づいたみたいですね)」

 

 ユイはネットからユーミルのホストコンピューターに侵入して状況の把握をしていた。

 ユーミルでもHP全損プレイヤーの蘇生、死に戻りが出来ない不具合に気づいてチェックをしているのだが、バグらしいバグは今も発見出来ず、一度プレイヤーにお知らせを流して全員をログアウトさせてからシステムチェックをしようという話になったのに、そのお知らせすら流せなくなっているらしい。

 

「事が起きるとしたら……明日、ですかね」

 

 ユイが何かを呟いていたが、生憎と飛行速度を上げたカナの耳には届いていない。ただ、漠然とだがカナの中でも言い知れぬ不安が、芽生えたのは間違いなかった。

 

 

 翌日、夏奈子は学校で一緒にログインしていた友人達の話を聞いていた。どうやら彼らはユイが強制ログアウトをしたお陰で無事に現実世界に帰還していたようで、リメインライトになっている間の事を聞くことが出来た。

 

「普通さ、リメインライトになったら死に戻りするまでの時間がカウントされるじゃない? でもあの時はそのカウントが表示されなくて、強制ログアウトまでのカウントが表示されたのよ」

「俺もそうだったぜ」

「ふ~ん……変だねぇ」

 

 携帯端末を使ってネットを見てみれば、同じ現象が多くのALOプレイヤーに起きていたらしく、その話題で掲示板が埋め尽くされている。

 

「何があったんだろうね? ALOでバグでも発生した?」

「もう10年以上のサービスだぜ? そんな長寿VRMMOを配信してる会社が長時間解決出来ないバグなんてあるのかねぇ?」

 

 バグが発生しても、基本的にALOのカーディナルシステムが自動検知プログラムを一定時間になれば奔らせて、自動修復してしまう。

 つまり、ALOでこれほど長時間バグが発生したままの状況自体が、既に異常なのだ。

 

「今日も一応ALOにINして調べて見るつもり。場合によってはパパにも相談してみるよ」

「そっか、織斑博士ならもしかしたら解決出来るかもしれないもんね!」

 

 電子工学の世界的権威、日本において嘗て電子工学の世界で天才と名高かった茅場晶彦と篠ノ之束の跡継ぎと呼ばれる二人、七色・アルシャービン博士と織斑一夏博士、電子工学……特にVR技術において、この二人に解決出来ない問題は無いとまで言われている。

 その片割れであり、夏奈子の父親である一夏ならば、きっと今回のALOで起きた異変を解決出来るだろうと、友人達も期待していた。

 

「後は、和人さんにも相談してみるよ」

「えっと、確か生体工学と物理工学の桐ヶ谷博士だっけ?」

「うん、パパの友達で、和人さんも電子工学は相当に強いから」

「へぇ」

 

 本当は七色博士とも顔見知りなので頼もうと思えば頼めるのだが、アメリカ在住の七色博士に頼むのは流石に迷惑になりかねない。

 夏奈子は友人達の期待の視線を背に、スマートフォンを操作して父にメールを送る。内容は、ALOの異変について……。

 

 

 放課後、夏奈子は寄り道せずに真っ直ぐ自宅に帰ってきた。帰ってきて直ぐにニューロリンカーの電源を入れると、制服を脱いで部屋着に着替え、ベッドに横になる。

 

「ダイレクトリンク……ALO、リンクスタート!」

 

 夏奈子の意識が仮想世界へと飛び、そしてアルヴヘイムの世界へと入る頃にはその姿が織斑夏奈子の姿から風妖精族(シルフ)のカナに変わっていた。

 

「さてと、パパが帰ってきてINするまで暇だ、な……え?」

 

 暇潰しに調査でもしようかと思ったカナだったが、空を見上げた瞬間、その表情は驚愕に染まる。

 何故ならカナの視界の先、本来なら青空が広がる筈のアルヴヘイムの空は暗く染まっていた。時間帯的には昼の空が広がる筈なのに、まるで夜空のように真っ暗になっていて、星が煌いている中に月は存在していない。

 

「え、何が……」

「お? お前さんは今ログインしたばかりか?」

「あ、はい」

 

 丁度隣を歩いていたプレイヤーが声を掛けて来たので、何が起きたのかを聞いてみた。

 

「いやな、ついさっきの事なんだけどよ……突然巨大な狼が二匹現れて太陽と月を食っちまったんだ」

「狼が……っ!?」

 

 狼に食われた太陽と月、そして先日ユイが言っていた四つの冬、これで繋がった。そして、それを裏付けるかのように、カナと、その隣に居たプレイヤー、更に周囲のプレイヤー達全員の前にウインドウが開かれる。

 

「クエストを……受諾しました?」

「おいおい! なんだこれ? 俺、クエストなんて受諾した覚え無いぜ!?」

「クエスト名……『終末を乗り越えろ』?」

 

 この強制クエストで確定だろう。カナの中でアルヴヘイムに何が起きているのか、分かってしまった。

 

「っ! これは、風?」

 

 狼に食われた太陽と月は狼の冬を指し、それから今吹いた凍えるかのような冷たい風は、風の冬を指すのだろう。

 残る冬は、剣の冬のみ。一先ずカナはクエストについて調べる為、クエスト達成条件やクエストの失敗条件、それから達成報酬と失敗した際のデメリットについてウインドウを流し読みした。

 

「クエスト達成条件は、ラグナロクの阻止……失敗条件はラグナロクの発生、失敗した場合は……世界の、崩壊……」

 

 これは、グランドクエストだった。それも全ALOプレイヤー参戦型の、ALOの存亡を賭けたグランドクエスト。

 

「こうしちゃいられない!!」

 

 とにかく動かなければ、その一心でカナはその場から飛び立ってイグドラシルシティを出る。こうしてクエストが発生したという事は、既にALO崩壊に向けて事態は動き出しているということだ。

 ぐずぐずしていれば、神々の黄昏(ラグナロク)が発生して、ALOは……消滅してしまう。

 

「パパ、早く来て……っ!」

 

 こうして、全てのALOプレイヤーが強制参加する事になったALO史上最大のグランドクエストが、始まった。

 失敗すればアルヴヘイム・オンラインというゲームそのものが消滅してしまう最悪のグランドクエスト、今……ALOの存亡を賭けたカナの戦いが始まろうとしている。




次回は剣の冬発生と、それからカナ、ユイに続く第三の主人公の登場です。

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