ALO〈アルヴヘイム・オンライン〉~神々の黄昏~   作:剣の舞姫

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お待たせしました。未来編独立後の最新話です。


第四話 「前兆」

ALO《アルヴヘイム・オンライン》

~神々の黄昏~

 

第四話

「前兆」

 

 世間では所謂、夏休みシーズンに突入していた。学生達は心待ちにしていた長期休みを迎えた事でひと夏の思い出作りに勤しんでいるのだろう。

 そして、それはこのアルヴヘイムの世界でも同じ事だ。夏休み期間限定のクエストなど、学生達が思いっきり打ち込めるイベントを多数用意したVRMMO業界は正に賑わっていると言える。

 

「せいやぁ!!」

 

 アルヴヘイム・オンラインのとある中級ダンジョン、そこに正に今現在、夏休みを利用して友人達とログインし、クエストを進行しているプレイヤーがいる。

 

「いや~、カナってば相変わらず激強だわ」

「だな、俺達も頻繁にって言うほどじゃないけど、それなりにプレイしてるのに、桁違いだぜ」

 

 そう、そのパーティーの中で最も活躍しているプレイヤーこそが織斑夏奈子ことカナだ。

 カナは学園が夏休みに入り、夏休み限定イベントの情報を入手するや否や、ALOをやっている友人に声を掛けてログインし、こうしてパーティーを組んでクエストに挑戦している。

 ただ、カナと友人達とでは実力に差があり過ぎた。友人達はALOプレイヤーとしてはビギナーでこそないが、一般的なプレイヤーと大差無い程度の実力しか無く、中級ダンジョンでもそれなりに苦戦するのだが、カナに限っては上級ダンジョンすら単独クリア出来るだけの実力と経験もあり、スキル熟練度だけでも片手剣スキルがMAXという他の友人達とは桁違いのプレイヤーなのだ。

 

「いや~準備運動になって良いなぁ」

「いや、このダンジョンでそんな事を言えるのは私達のパーティーでもアンタだけよ」

「う~ん、まぁ私はALO歴が長いから仕方ないよ。お父さんやお母さんと一緒に小学生の頃からやっていたんだし」

 

 それは確かに、中学高校に入ってからALOを始めた友人達とは実力差が出ても仕方が無い。

 

「でもさ、カナってそんなに強いのに何でナビゲーションピクシー連れてるの? 確か10年くらい前のALO発売当初の初回限定じゃなかったっけ?」

「あ~……」

 

 友人達の視線の先に居るのは、先ほどから大人しくカナの頭の上に座って何故かダンジョンの天井を見つめているユイだった。

 

「? ユイちゃん、どうかしたの?」

「……あ、いえ。ちょっとだけ気になる事があったものですから」

 

 友人達にどう説明したものかと考えていたカナだが、ユイを掌に乗せて下ろしてみれば、何やら真剣な表情で、そしていつもはクリッとした瞳を細めて変わらず天上を見つめていた幼馴染の様子を怪訝に思ったのか、尋ねてみた。

 しかし、返って来た返答は釈然としないというか、何を気にしているのかを答えてくれない。

 

「あ、もうこんな時間じゃねぇか! そろそろログアウトしないと晩飯だってお袋が煩いな」

「そうね、じゃあカナ、今日はもう」

「あ、うん! 今日はありがとう! また明日もお願いね~」

 

 解散後、ダンジョンを出て各自がログアウトする流れとなった。パーティー解散をして、それぞれダンジョンの出口へ向かおうとしたのだが、その次の瞬間、ユイの悲鳴の如き声が一向の耳に入る。

 

「いけない!! みんな避けて!!!」

「っ!?」

 

 その声に反応出来たのは、カナだけだった。一向に突如背後から襲い掛かった炎を、カナだけがギリギリで回避出来たのだが、友人達は炎に飲み込まれHPを全損、その姿をリメインライトへと変えてしまった。

 

「ウソッ!? クエストは完了したのに何で!? しかもコイツは!!」

 

 後ろから炎のブレスを吐いたモンスターの姿を見たカナが驚愕する。そこに居たのはカナの身長の4倍はありそうな巨体のドラゴンが一匹、しかもそのドラゴンは本来ならこの中級ダンジョンには出て来ない筈の……玄人向けダンジョンの一つの中ボスモンスターなのだ。

 

「っ! 不味いです!」

 

 カナ一人だけの状況で、このドラゴンに勝つのは不可能だ。ユイは直ぐにカナの掌から降りると、その姿をピクシーから20歳程の女性の姿……ユイ本来の姿に戻り、純白ベースに青のラインが入った法衣を纏って両手をドラゴンに向ける。

 

「カナちゃん! 前衛をお願いします!!」

「りょ、了解!!」

 

 片手剣ファントムフォースを構え、カナがドラゴンに突撃する後ろでユイは魔法による援護をしながら思考していた。

 何故、本来なら玄人向けダンジョンの中ボスとして登場する筈のモンスターが、こんな中級ダンジョンの、それもボスの間でも何でもない普通の通路に出現するのか。

 ダンジョンのレベル変更があるなどという情報は運営から出ていないのは確認済み、最近のアップデートでエラーが起きたという話も聞いた事が無い。

 となると、これは何かしらのイベントフラグなのかもしれないが、フラグにしては登場させるモンスターのレベルが凶悪だ。

 

「っ! カナちゃん!!」

「え? きゃあ!?」

 

 善戦していたカナだったが、ドラゴンの尾が背後から襲いかかろうとしていたのに気付かなかったらしい。

 ユイがそれに気付いて警告した時には既に遅く、ドラゴンの尾がカナに叩き付けられ、カナは壁際まで吹き飛ばされてしまう。

 

「ぐっ……くぅ~! いったぁ」

 

 衝撃でファントムフォースを手放してしまったカナは起き上がろうとしたのだが、どうやら先ほどの一撃にはスタン効果があったらしく、一時的にカナの身体が痺れて身動き不可能になる。

 当然、そんな獲物を、タゲを取っているドラゴンが見逃す筈も無く、トドメを刺そうとブレス発射体制に入った。

 

「ああもう! これ以上は危険ですけど、仕方ないですね!」

 

 魔法を中断して走り出したユイは途中でファントムフォースを拾い上げて右手に構えると、ドラゴンの背後で飛び上がり、逆鱗を見つけるとファントムフォースの刀身をライトエフェクトで輝かせた。

 

「セイッ! ヤァッ! ハッ! ええいっ!!」

 

 ユイがカーディナルシステムを誤魔化しつつ発動させたのは片手剣ソードスキル、垂直四連撃のバーチカルスクエアだ。

 

「カナちゃん!」

 

 ユイのバーチカルスクエアで弱点の逆鱗を傷付けられたドラゴンが悶えている間に、スタンが切れたカナへ向かってユイはファントムフォースを投擲する。

 飛来するファントムフォースの柄を上手くキャッチしたカナは、キャッチと同時にスキルのモーションへ流れるように入り、その刀身をライトエフェクトによって輝かせた。

 

「はぁああああああああ!!!」

 

 それは、カナの父が最も得意とし、そして父の代名詞とまで言われた片手剣上位ソードスキル、ジェットエンジンの如き爆音と共に赤い光芒を輝かせ、刀身に炎を纏わせたそのスキルの名は……。

 

「ヴォーパル……ストライク!!!」

 

 強力な突進突刺がドラゴンの胴体に突き刺さり、背中を炎が貫通した。

 ユイとカナによる連続上級ソードスキルによって大幅にHPを減らしたドラゴンは足掻くように炎のブレスを吐き散らし、尾を振り回しながら暴れるも、足元に現れた魔法陣が最後のトドメとなる。

 

「これで終わりですよ……悪い子は凍てつく牢獄で頭を冷やしなさい」

 

 一瞬だった。一瞬でドラゴンは氷塊の中に閉じ込められ、一瞬の間の後に粉々に砕け散ってポリゴンの粒子となって消えた。

 

「ふぅ……ちょっと、不味いですね」

 

 戦闘を終えると、ユイは直ぐに姿をナビゲーションピクシーに変えてカナの肩に座る。どうやらピクシーの姿になればカーディナルのエラー検知プログラムを誤魔化しやすいらしい。

 

「さて、カナちゃんのお友達を蘇生させなければいけませんね。そろそろ死に戻りしてしまいますよ」

「あ、そうだった!」

 

 直ぐにカナは蘇生アイテムをオブジェクト化して近くに漂っていたリメインライトへ使用する。これで死んだ友人は蘇生される筈だったのだが……。

 

「あれ?」

 

 蘇生、しない。使用アイテムを間違えたのかと思って確かめたが、オブジェクト化したのは間違いなく蘇生アイテムだったので、アイテムの間違いではないようだ。

 ならば何故、蘇生しないのか。効果はリメインライトに液体状の蘇生アイテムを注ぐ事で発揮される筈なのに、一向に蘇生する様子を見せない。

 

「ユイちゃん、蘇生魔法使えるよね?」

「もう、風妖精族(シルフ)でも使えるんですからカナちゃんも魔法くらいちゃんと覚えましょうね?」

「あ、あはは……」

 

 魔法使うより剣で戦う方が好きだと言って魔法スキルを上げるのをサボっていた妹分に呆れつつ、ユイはピクシー姿のまま蘇生魔法を使用してカナの友人を蘇生させようとしたのだが、先ほどと同じで魔法でも蘇生が出来なかった。

 

「おかしいですね……蘇生アイテムや魔法で蘇生出来ないなんて」

 

 調べたが、別にダンジョンに蘇生不可能な効果が発生している訳ではないようなので、蘇生出来ない筈が無いのに、何故か何度魔法を使っても蘇生出来ない。

 

「ど、どうなってるの?」

「わかりません……でも、もしかして」

 

 一体何が起きているのか、理解出来なくて首を傾げるカナの肩の上で、ユイは今再びダンジョンの天井を見上げ、険しい表情を浮かべるのだった。




次回、ALOに起きた異変についてです。

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