ALO〈アルヴヘイム・オンライン〉~神々の黄昏~   作:剣の舞姫

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第二話 「10年前の主人公」

ALO《アルヴヘイム・オンライン》

~神々の黄昏~

 

第二話

「10年前の主人公」

 

 オーシャン・タートルⅡ、それは自走式メガフロートであるオーシャン・タートルの技術を用いて作られた人工島であり、現代のVR技術研究・開発の世界最先端の地と呼ばれている。

 人工島の中には様々な研究施設があり、その全てがVR技術の研究と開発の為に存在している為、その技術力は恐らく世界最高峰と言っても過言ではない。

 そんな人工島の一エリアにある、島内最大規模の研究所内部にある研究室、そこでは現在、一人の白衣を着た眼鏡の男性が壮年の男性と、それから随分と高圧的な女性と対面していた。

 

「ですから、何度もお断りしましたよね? 私はもうISには一切関わるつもりは無いから、IS操縦者に復帰する気も、ISの開発をする気も無いと」

「し、しかしですな、あなたは世界最初の男性IS操縦者なのですから、低迷しているIS技術の発展に少しは協力してもよろしいのではないですか?」

「IS技術が低迷するのは最初から分かっていた事です。それに、私はIS学園を卒業した時にハッキリと宣言した筈ですよ、今後二度とISには関わらないし、この先IS業界がどうなろうと知ったことではないと」

 

 この白衣姿に眼鏡の男性こそ10年前、世界初の男性IS操縦者として名を馳せ、現在は日本が誇る二大天才技術者として有名な織斑一夏博士だ。

 現在、一夏は研究室を訪れた二人に再びIS操縦者としてどうしても国連へ来るか、もしくは新型ISの開発をして欲しいと依頼されている。

 10年前までは、確かにISは世界中で栄えていたが、今の時代ではISは発展性が低迷しつつあり、3年前にようやく世界中で第4世代型ISが普及されるようになったものの、第5世代機の開発に全世界が難航しているのだ。

 もう3年、次世代のISが誕生しなくなり、日本がIS業界から完全に国土防衛を除いて手を引いてしまった今となっては、ISという存在の先行きに不安を覚える者が増えても不思議ではないだろう。

 事実、一夏の目の前に居る二人は日本人ではなく、ドイツ軍の軍人とドイツの国家代表IS操縦者、ISが女だけしか動かせない時代が終わった今でもいくつかの国では女性優遇が継続されているが、ドイツはその国のひとつだったという事を一夏は資料で読んだ記憶がある。

 

「申し訳ありませんがお引取りを、まだ研究の続きが残っていますので」

「し、しかし!!」

「お引取りください。何と言われ様と、いくら金を積まれようと、どんな立場を用意されようと、私は二度とISに関わるつもりはありません」

 

 そう言って、立ち上がった一夏は去ろうと二人に背を向けた時、拳銃の銃弾が薬室に給弾される音が聞こえた。

 振り返ってみれば、先ほどから一言も発しなかった女性……ドイツ国家代表が拳銃を構えて、その銃口を一夏に向けている姿が目に映る。

 

「何のおつもりで?」

「初めてISを男の分際で動かしただけでなく、IBなんて汚物を生み出した大罪人の分際で、女の至高たるIS開発を断るなんて身の程を知りなさい。あなたは黙ってこちらに従えば良いのよ、死にたくなければね」

「なるほど、言葉で無理なら脅すか……相変わらずドイツという国は度し難い畜生ばかりの国のようだな」

「口には気をつけたほうが良いわよ? この状況、理解出来ないほど頭が悪いわけじゃないでしょ? ねぇ、織斑博士?」

「そうだな、少なくとも後ろから刃を突きつけられていることに気づかない馬鹿よりは頭が良いよ」

「は……? っ!?」

 

 いつの間にか、ドイツ軍人男性とドイツ国家代表の背後で銀髪が美しい白衣の女性が小太刀二刀の刃をそれぞれの首筋に添えていた。

 

「どうぞお引取りください。博士はあなた方のような塵芥に時間を割いていられる程、お暇な方ではございませんので」

 

 国家代表が引き金を引くより、白衣の女性が刃を引いて首を落とす方が早い。そもそも、恐ろしいまでの殺気によって軍人である男性はともかく、国家代表の方はガタガタ怯えて失禁すらしているのだから、最早何も出来ないだろう。

 

 

 ドイツ人二人が帰った後、一夏が自分のデスクの椅子に腰掛けて一息吐くと、先ほどの女性が一夏の前に淹れ立てのコーヒーを置いた。

 

「ああ、ありがとうクロエ」

「いえ、お兄様がお疲れのご様子でしたので」

「相変わらず気が利くよ……それで? そっちの実験は?」

「はい。全体工程の30%が完了し、今は精査している所です」

 

 この女性こそ、IS開発者である篠ノ乃 束の娘であり、一夏にとってIS学園在学中からの付き合いであり、妹分でもあるクロエ・クロニクルだ。

 

「それにしても、お兄様?」

「ん?」

それ(・・)、お持ちなのにISに関わる気は無いというのも、あまり説得力ありませんでした」

「あはは……」

 

 クロエが指差したのは一夏の左腕に巻かれた蒼い翼をモチーフにした白銀のブレスレットだった。

 

「でもこれ、束さんの許可が無ければ展開出来ないよう封印されてるからなぁ」

「そういえば、そうでした」

「ん、それよりクロエ、もう少しでレポート完成するから出掛ける準備してくれ」

「おや、どちらへ?」

「東大の量子物理学研究室の室長と会食、今回の会食では助手も一緒にって話だから……クロエ、俺の助手だろ」

「かしこまりました。それでは用意してまいりますので、失礼しますね? お兄様……いえ、室長」

 

 IS学園を卒業して7年、これが今の織斑一夏なのである。

 

 

 東京都内にある某国立大学の生体工学部の研究室、そこに白衣を着た一人の青年がパソコンの前に座り、プログラム入力を行っていた。

 

「室長、そろそろお昼……」

「ん? ああ、もうそんな時間か」

 

 そんな青年に声を掛けたのはメガネを掛けた水色の髪の女性だった。

 

「昼休みなら室長じゃなくて良いぜ? 簪」

「ん、それじゃあ和人……今日も明日奈さんのお弁当でしょ?」

「おう、簪は……噂の研究生とだろ?」

「……うぅ」

 

 そう、この二人の男女こそ嘗て世界に二人しかいなかった男性IS操縦者の片割れ、桐ヶ谷和人と、当時の日本代表候補生だった更識 簪だ。

 

「失礼します。桐ヶ谷教授は……」

「お! 結! こっちだ」

「パパ! それに簪さんも、お仕事はひと段落しましたか?」

 

 研究室をノックして入ってきたのは、和人と簪の研究室がある大学に通う学生であり、和人の愛娘である桐ヶ谷 結だった。

 簪は結が来たので軽く頭を下げると弁当を二人分持って研究室を出る。残された親子二人は近くのソファーに腰掛けて、和人だけテーブルに弁当を広げた。

 

「今日のお弁当は半分はママが、もう半分はわたしが作ったんですよ」

「へぇ……凄いな、流石は結だ! 明日奈の料理の味と殆ど変わらない!!」

「えへへ、この身体が出来てからずっとママに教わってましたから」

 

 結の現実世界での身体が出来てから3年が経つ。この3年間、結はずっと明日奈から現実世界での料理を教わっていたので、今では母から免許皆伝を言い渡されるまでに成長しているのだ。

 

「ところで、結……昨日、電話で夏奈子ちゃんの説教を終えた後、俺に話があるって言ってたな」

「あ、そうです。カナちゃんがあまりにイイ声で鳴くかr……コホン、ちょっとお説教が長引いてしまいましたから、今日お話する事にしたんでした」

 

 チラッと垣間見えた愛娘のSな顔に父は頬を引き攣らせる。本当に愛娘は人間らしく成長したと思うが、まさかドSな面を持ってしまうなど誰が予想出来様か。

 とはいえ、両親共にSの気質を持っているからこそ、娘もそれを受け継いでしまっただけなのだが、父も母もそれには気づけないらしい。

 

「実は、昨日カナちゃんを迎えにALOへログインしたのですが……ALOという世界そのものに違和感を感じました」

「違和感?」

「はい、あの男も……オリジナルカーディナルのフルスペックコピーとしての機能を果たそうとしていると」

「……おい、それってエクスキャリバーの時と同じ」

「あるいは、それ以上に、です」

「……ユーミルは何て?」

「現在調査中、特にユーミルの方でそんなクエストを追加した覚えはないとの事です」

「となるとカーディナルの自動クエスト生成機能が働いたのかもしれないな……ギルバートに今夜でも調査を依頼してみるよ」

 

 ALOは他のGGOやIBといったVRMMOゲームとは違い嘗てのSAOのカーディナルシステムのフルスペック版コピーを使用している為、スペックダウン版カーディナルとは違ってクエスト自動生成機能が健在だ。

 もし、和人と結の予想が当たっていたのなら、何とかしなければALOというゲームそのものが崩壊……消滅してしまう。

 

「パパ、そのときは」

「ああ、古参組の俺達が何とかするべきだろ……今の子供達を巻き込む訳にはいかない」

 

 特に、夏奈子はまだ16歳の子供だ。いくら同年代と比べて飛びぬけた実力があろうと、これは自分達大人のやるべき事なのだ。

 

「さて、暗い話はここまでにしよう」

「そうですね。あ、パパ、お茶を入れてきます」

「悪いな」

 

 近くのティーポットへ向かう結の後姿を眺めながら、和人は一口弁当のおかずを口にし、己の手を見つめた。

 10年前は、この手は仮想世界の己と殆ど変わらない大きさだったのに、今では仮想世界の自分の手の方が小さい。

 

「本当に、月日が経つのは早いよな」

 

 大人になったのだ。だからこそ、子供達を守るのも、自分達の役目になった。

 黒の剣士、嘗ての最強の剣士は……今は子供達を守る為に、再び剣を取る。




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